Q.天野康景さんについてどう思われますか?(第一弾)
トーリ「痩せ型筋肉モリモリマッチョマンの変態だ・・・!」
喜美「ケダモノ(意味深)」
浅間「女性の敵ですね、被害者がこれ以上でないことを祈っています」
ナルゼ「同人誌のネタ提供ありがとうございます!」
ミトツダイラ「ムラムラしま(本人の名誉のため割愛)」
点蔵「優秀な御仁で御座るな・・・鈍感で御座るが」
ウルキアガ「姉系と教師系エロゲは共通点が多いからな、割と話は合う」
前に進めた
周りを見る事が出来た
あとは過去を知る
はずなのに・・・
配点(謎増えてね?)
―――――――――
IZUMОの民家で、康景は普段とは違う雰囲気で初老の女性と向かい合っていた。
「お初にお目にかかります。この度喜美さんと婚約させていただきました、天野康景です。この度はお日柄もよく・・・」
「あー・・・いや、アンタのことは"私は知っている"。だからそんな堅苦しくする必要はないよ」
笑って言うミツに、康景は面食らい思わず唖然とした。
この人とは初対面だ。
自分はろくに寄港地に降りたためしはない。
師匠に会うまでも、会ってからもそれは変わらなかった。
皆が降りてワイワイやってた時も一人黙々と鍛錬していたのだから、虚しいと言えば虚しいが、あの頃の自分にはそうすること以外あまりやることがなかったし、誘われても武蔵内で済ませることが多かった。
唯一例外的に三河にはちょくちょく降りて師匠の知り合いとか色んな人に会ってはいたが、目の前の女性にはあったことがない。
ないはずだ。
だが、この人は"知っている"とそう言った。
ならば何を知っているのか、康景は頭の中であらゆる"可能性"を逡巡させた。
その時だ。
「康景様、眉間に皺が寄っております。いつもの悪い癖が出ていますが、ここでは控えた方がいいかと」
「え?あぁ・・・すまん」
ホライゾンにこういう悪癖を指摘されるとは思っても見なかった康景は面食らったが、すぐにその指摘を受け入れ、改まった。
そうだ、今はこちらが"教えを乞う立場"なのだ。
それを間違えてはいけない。
「申し訳ありませんでした。こちらが教えを受ける立場なのに、無礼を・・・」
康景が深々と頭を下げるのに対し、ミツは笑った。
「なんだいなんだい、随分姉弟らしいじゃないか」
笑われたのに対し康景は少し気恥ずかしさを感じたが、不思議と居心地は悪くなかった。
ミツは茶を飲み、一息。
庭でジャガイモを掘って騒いでいる喜美を尻目に、康景を見た。
「義伊、アンタいったいどっちで来たんだい?」
どっちで来たか。
その"どっち"は、おそらく喜美の旦那としてか、ホライゾンの家族としてかという事だろう。
試されているのか・・・それとも・・・?
なんにせよ、これは重要なことだ。重要な事であり、その答えは明確だった。
"天野康景と葵喜美"にとっては大事な『報告』だけれども、"ホライゾン・アリアダストとその弟"にとっては『母親』という過去を調べる事でもある。
どちらとして来たか、という問いには応えられない。
何故ならどちらも自分であるし、これは天秤に掛ける事ではないからだ。
故に、
「俺は俺です。御義祖母様、"天野康景を襲名した義伊・アリアダスト"であり、義伊という名を頂いた"誰か"。俺にとっては喜美との婚約も家族の昔話も秤に掛けることができない事です。故に俺はそのどちらでもあります」
康景は言い切った。
その言葉にミツは満足そうに頷き、笑って、
「よかったねぇ喜美。アンタの旦那にとっては『婚約』の話は"ついで"じゃなかったみたいだねぇ・・・」
庭でジャガイモを掘っていた喜美を見た。
喜美はいつもの半裸状態にも関わらず、
「いやぁあっついわね今日!御祖母さん!?ちょっとこの辺暑すぎないかしら!?いやあ暑すぎて顔から火が出そうだわ!あ、私別に今ので嬉しくて顔から火が出そうとか、そういうんじゃないから!?いい?ドゥユーアンダスタン!?」
喜美が手で顔を扇ぎながら座敷の中に入っていった。
その様子を見てミツは、
「あの子は全く・・・普段からああなのかい?」
「・・・?」
康景は聞かれたことの意味を考え、
「ええ、あんな調子ですね。彼女が『私のことを褒め称えなさい!』とかいきなり言うので、それに答えて彼女のいいところを余すところなく答えたら何故か顔を真っ赤にして飛び跳ねたり、水浴びし始めたり、舞ったりしますね」
「・・・ホライゾン、この二人はいつもこうなのかい?」
「jud.英国以降はこのイチャラブが武蔵で主流になりつつあります。ホライゾンが調べたところ、このイチャラブには賛否両論ありますが、武蔵には優秀なツッコミ(巫女)がいますのでなんとか収まりがつく感じです」
「はぁ・・・」
ミツが深くため息を吐いた。
ホライゾンも康景を見るなり、
「それを誰にでもなさるのは今後控えた方がいいかと思われます。身内が背中から刺されたなんて笑い話にもならないので」
とため息。
康景はこの女性二人の対応がいまいちわからなかった。
ミツがため息をついた理由。
それは、康景達が来る前に喜美が"報告"は『ついで』であり本命は"過去の話"だと思っていたことに対して、康景が『報告』も『過去の話』も本命で大事なことだと言ってくれたことに喜美が嬉しがってることを康景が気づいていないことへのため息なのだが、それを康景が知ることはなかった。
ホライゾンがため息をついた理由。
それは康景が女性を褒める際、相手の良い点を包み隠さず虚飾なく的確かつ端的に語るため、女性を勘違いさせることが多々あるから注意した方がいいのではないかという忠告を、康景自身が理解していないためである。もっとも、康景が喜美と二人きりの時に褒める際はこれ以上ないほど(R‐18スレスレ)のレベルなのだが、それは今は置いておこう。
鈍感を治すことを己に科した康景ではあるが、やはり道のりは遠い(ry
************
「母親のことを聞きにきたのはいいが、義伊。アンタはホライゾンと違って事故にあった訳じゃない。アンタは何も覚えていないのかい?」
「覚えていないわけではないんです。ただ、パーソナリティは解っていても、何をしていたのかとか経歴を語るには一緒に居た時間が短すぎまして・・・」
一緒に居た時間は、三年梅組の連中が一番長い。
親を語れないという点では、自分もホライゾンも一緒である。
この事については何故か善鬼さんは話したがらなかったのもあるのでよくわかっていない。
ミツは納得した表示で康景とホライゾンを見た。
そして、
「アンタらの母親は多くを語らなかった」
語り始める。
「アンタらの母親は優秀な学生だった。中等部の頃にIZUMОで高等部の教員しながら神奏術とか研究してた私の所にやってきてね・・・『地脈の研究をしているのですが、極東式の知識が欲しいです』ってさ」
「ミツ様は教員だったのですか?」
「あぁ、五十年前に前倒しでやった島原の乱に出兵した学生でねぇ。激戦が終わって一段落したら聖連から推薦通知が来て、そのまま居着いちゃってね。そうやって教員やってるうちに白髪が増え始めて、その頃にアンタらの母親が来たんだよ」
「いつ頃の事でしょうか?」
「三十五、六年くらい前のことさ。うちの馬鹿娘と同い年でね。中等部の頃は意気投合してわいわいやってたね」
善鬼さんとわいわい・・・?想像できんな・・・。
何故だろうか、親の学生時代ほど想像できないものはないだろう。
実の親ではないけれど、世話になったのは確かだし、大事な人だった。
善鬼さんも善鬼さんで親みたいなものだ。
この二人の学生時代は、康景にはやはり想像できなかった。
「ここで学生をやっていたということは、高等部もここで?」
康景はミツに聞いた。
だが、その返答は思っていたものではなかった。
「それがね、解らないんだ・・・あの子がどこの教導院にいたのか」
************
「解らない・・・?」
それはあり得ない。
ホライゾンはそう思った。
何故なら教導院は政治の要であり、軍事の要である。
施設である以上、在籍していた記録があるはず。
隣、自分と同じく話を聞いていた康景は眉を一瞬顰めるも、すぐに表情を戻し、
「解らない、というのは・・・既存の教導院には属していなかったと?」
「出来る事なら私の方が教えて欲しいね。うちの娘もその辺凄く憤っていたからね。―――不意に消えて、ある時不意に、ある一人の従者を連れて戻ってきたのさ」
従者という単語に康景が反応する。
「従者・・・?もしかして・・・」
「察しがいいねぇ、アンタは・・・その従者は『塚原卜伝』、当時どこにも属さないで色んな戦場を渡り歩いていた脳筋馬鹿さ」
ミツが息を吸い、
「戻ってきたのが、十八、九年前か・・・武蔵の居住許可証を持って、こう言った。『お腹に元信公の子が居ます。塚原さんを護衛に武蔵に住めと・・・ですが、その前に極東各地を旅します。塚原さんと一緒に守ってください』ってね」
「・・・」
康景は黙った。
おそらく、母親のことを聞きに来たのにかつての師の名前が出てきたことに驚いているのだろう。
康景が沈黙したので、ホライゾンが口を開く。
「随分勝手だと判断できます」
「そうだね、その辺うちの娘も散々文句言ってたよ。だけど三日も吠えりゃあ飽きておとなしくなったさ。塚原とうちの娘連れて三か月で極東を回る強行軍でねぇ・・・」
この口ぶりだと、この人は塚原卜伝を知っているようだ。
それに対し反応したのはいつの間にか戻ってきていた喜美だった。
彼女は黙った康景の頭に顎を乗せる形で背後から康景に抱きつく。
「御祖母さんは塚原卜伝のこと知ってるの?」
多分彼女なりの康景への気遣いというか心配なのだろう。
強張った康景の表情も比較的落ち着きを取り戻す。
ミツもため息交じりに話を続ける。
「知ってるも何も、あの馬鹿も私と一緒で五十年前に島原の乱に出兵した同期さ」
「・・・はい?」
康景が信じられないものを見るような目でミツの顔を見た。
***********
なんだって・・・?
康景は思いがけない言葉を聞いて冷静になりつつある頭がまた混乱し始めた。
後ろ、こちらに抱きついている喜美が抱きしめる強さを強める。
こういう時、支えてくれる人がいるのは有難く、実に心強かった。
「いや、でも、しかし・・・師匠は・・・あの人は、少なくとも二十代後半くらいにしか見えませんでしたよ」
年齢不詳なところはあったが、あの人は自分が見た限りそれくらいの年齢にしか見えなかった。
五十年前にあった島原の乱に出兵していたなら、最低でも今の御義祖母様と同じくらいの年齢である。
「あの馬鹿、アンタに何も話さなかったんだね・・・あの阿保はいつも肝心なことは話忘れるから」
「肝心なこと?」
「あれは異族だったんだよ。人狼・・・なんだけど、ちょっと"特異体質"でね」
「・・・」
康景が眉間を押さえて声にならない声で唸った。
「大丈夫、康景?」
「あ、ああ、なんか眩暈が・・・」
人狼。
詳しいことは解らないが、どうやら噂によるとほとんどが狩られたというのが定説らしく、自分が知っているのはミトツダイラが半狼であるからその親が人狼であることくらいだ。
師匠とは短い間だったが、ネイトの様に人狼としての性質は見られなかった。
"特異体質"という言葉が引っかかるが、
「知り合いに半狼がいますけど、そいつはとても頑丈です。もし師匠が人狼だったのなら、俺程度の攻撃で傷ついたりなんてするはずが・・・!」
そう、あの人が人狼であったのなら、自分程度の人間の一撃で傷ついたり、ましてや死ぬなんてことはなかったはずだ。
傷ついたとしても半狼であるミトツダイラの傷の治りの速さを考えれば、死ななかったのではないだろうか。
康景は憤りを感じ、語気を強める。
それを見越してかミツは少し申し訳なさそうに、
「だから言っただろう、"特異体質"だって。あの馬鹿みたいな強さを除けば、あれはほとんど人間だったんだよ」
そう言った。
何を思えばいいのか、何を言えばいいのか、判断するに迷う。
どいつもこいつもなんで大事なことは黙ったまま消えるのだろうか。
・・・ふざけやがって。
康景は自分の周りの大切な人が何も言わずに去っていくのを寂しく感じた。
「まぁとにかく、連中が旅行で何を見てきたのかは私には解らない。ただうちの娘が言わないのなら、私がとやかく言うことでもないだろうからね」
ただ、とミツが話を続ける。
「消えていた十数年の間に何をしていたのかは、本当にわからなくてね。多分酒井も本多も知らないだろう。おそらくすべての答えを知ってるのは元信公くらいだろう」
「・・・」
「己の親を理解しようってのは悪くない。私くらいの年齢になるまでは、答えが出ないからって諦めちゃいけない。特に、失うことは哀しいって早々に諦めた答えを出しちゃだめだ」
それに反応したのはホライゾンだった。
「・・・会ったことのない人々や、まだ見ぬものを、理解できるようになるでしょうか?」
「そうやってすぐ答えを出すもんじゃないよ。ただ、諦めるな。それしか言いようがないが、でもまぁ、アンタらはちゃんと母親のことを調べた方がいいかもしれない」
「それは何故ですか?」
「あの子が研究していたテーマがね、『地脈を通して行う、大罪の運命の解決』なんだよ」
*********
一同は思わず息を飲んだ。
母親の話を聞きに来たら、スケールのでかい話が付いてきたのだから。
「元信公は末世を解決するためにホライゾンを大罪武装にした。そしてアンタらの母親は人の逃れる事の出来ない業である大罪を研究していた。―――これは理解の価値が大いにあるだろう?」
大いにどころか価値がありすぎる。
父親が末世を左右するための武装を、母親が地脈に関する大罪を調べていた。
それだけでなく師である塚原卜伝も何か関係しているのかもしれない。
自分の家族や恩師が世界の命運を左右することに関わっていたことに、康景は驚きを隠せなかった。
「御義祖母様、最後に一つだけいいでしょうか?」
「なんだい・・・?」
「俺が母親に拾われたことについて、何か聞いていませんでしょうか?」
母親が何をしていたのか大筋は解った。
なら、後は自分がどのように拾われたのか、あとはそれを知れれば万々歳なのだが、
「・・・?」
ミツは不思議そうな顔をして答えた。
「アンタ、それも覚えてないのかい?・・・ってかアンタを拾ったのはアンタらの母親じゃあない、拾ったのは塚原だよ」
「・・・( ゚д゚)」
はぁ?
「マジですか・・・?」
「あの馬鹿はほんとに何も説明しなかったんだね・・・まぁ私もあの馬鹿を語れるほど知ってるわけじゃないんだけどさ」
「なんで師匠じゃなくホライゾンの母親に?」
「意識不明状態だったアンタを背負った塚原が、なんでも『今の私にはこの子を見る資格がないから、お願い』って言って任せたらしい」
そんな話は初耳だった。
「私がアンタを知ってるのはうちの娘を通して知ったんだ」
「そう・・・だったんですか」
どういうことだ?
どういうことなんだろうか。
康景はそのあたりのことを全く覚えていなかった。
もし、自分を拾ったのは母親でなく、塚原卜伝なのだとしたら広家の言っていたことも信憑性が増してくる。
師が自分を殺そうとしたかもしれないということに(背中に嫁のおっぱいが当たってるけど)背筋が凍るような感覚を覚えた。
その時、不意に家屋の裏手から声がした。
「なんか初耳な話が色々ありますね、先生」
聞き慣れたその声の持ち主は、
「真喜子先生・・・」
荷物の入った袋を抱えた自分たちの担任、今の自分の師だった。
「真喜子先生は、御義祖母様と面識が?」
康景の問いに答えたのは、何やら上機嫌に笑うミツだった。
「真喜子の教職課程で、神術、歴史を教えたのが私でね。一時期ここで寝泊まりしていったんだが・・・よく食う子でねぇ」
「い、いや、そんな感嘆込めて言うようなことじゃ・・・」
「やっぱり真喜子先生はその頃から大食いだったんですね!流石飲み食いに掛けて右に出る者はいないとまで言わしめる真喜子先生!大食いクイーン!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい康景。アンタここぞとばかりに私が大食い主張するのやめなさい・・・大体、大食いならミトツダイラとか二代が居るし、飲むことに関しては浅間が居るでしょうが」
「・・・言われたくないなら、酔って人に迷惑かける癖を治してください。お酒〇べ屋に持っていって換金しますよ?」
先生の先生というのがなんだか新鮮な感じだった。
***********
聞きたい話以上に話を聞けた喜美たちは、オリオトライとミツが話を始めたので帰ることにした。
そして武蔵への帰路の途中、康景は、
「今日は思ったよりいい話が聞けたな」
「フフフ、そうね。ホライゾンはどうだった?」
喜美がホライゾンに問いかける。
「色々と大事なお話を伺えたと思います。ホライゾンはホライゾンで別アングルから母の事を調べてみようと思います」
「・・・俺も俺で、もっと色々な人から話を聞こうと思う」
旦那と弟の嫁が満足そうでなによりだ。
その満足気な様子を見れただけで喜美は今回祖母の家に足を運んだ甲斐があったというもの。
すると康景が今度は、
「喜美も、今日はありがとうな」
「ん?」
「いや、だから、ありがとうって」
こちらの頭に手を伸ばし、そのまま撫でる。
された行為の意図が解らず、思考が一瞬停止する。
「お前が率先して『昔の話を聞きに行こう』って誘ってくれなかったら、今日こうして来ることもなかっただろうしなぁ。だからありがとう」
ナデナデナデナデナデナデ。
思ったよりナデナデの威力が強く、しかも撫でる時間も長い。
チョロインで有名なミトツダイラならともかく、自分なら多少は平気だと思っていたが甘かった。
なにこれやばい。
「ぐぬぬ・・・///」
「ど、どうしました喜美さんや?」
「べ、別にぃ?」
顔が熱いが、まぁ鈍感で有名な旦那のことだ。気づくことはあるまい。
「・・・ひょっとして照れてまs」
「シャアアラァアアッッップ!?」
変な時に鋭くなる康景に黄金の左フックを食らわせて黙らせる。
なんでこういう時は鋭いのに普段はあんな鈍感なんだろう。
旦那がどうなっているのかたまに解らなくなる嫁であった。
***********
康景は嫁と姉の後ろを、左フックで殴られた頬を押さえながら歩き一人思った。
母親は何かを隠したまま消え、師は自分自身のことを何も話してくれなかった。
それには何か事情があるからこそなのだろう。
それを解っていても、納得しえない気分だった。
結果として謎が増えたが、自分たちは着実に前に進んでいるのは確かだ。
創生計画にしろ、自分の過去にしろ、もっと情報がいる。
未だに過去のことを知ろうとすると怯えている自分がいる。
だがそれ以上に、全部拾って皆と共に歩もうとしている自分がいる。
自分一人ではここまでは来れなかった。至れなかった。
「ありがとう」
誰に言うのでもなく、されど誰かに伝えるように、自分にしか聞こえない声でそう呟く。
余談だが、聞こえないような小声でつぶやいたはずなのに、前で喜美がニヤニヤしながら恥ずかしそうに聞いていたのは、ホライゾンしか知らない事実である。
***********
ミトツダイラは自宅のベッドで天井を見ていた。
否、見ていたわけではなく、考え事をしていてたまたま視界に天井が入ったに過ぎないのだが。
・・・康景たちは今頃どうしているでしょうか。
喜美やホライゾンと一緒だし、有意義に過ごしているのは間違いないだろう。
他の皆だってそうだ。
立花夫妻は武蔵で再起を願い、メアリは点蔵と新生活を充実させるために浅間神社でバイトして頑張っているし、直政や正純たちも自分たちが成すべきことを成すために行動しているというのに、自分は何をやっているのだろう。
こうやって自室のベッドに倒れ込んで悩むことしかしていない。
三河での騒乱の際、康景の助けになりたくて、康景の「助けてくれ」という声に応え、騎士連合の決定に背いて彼を取った。
その結果、騎士連合から半ば干される形となり、会合の連絡も何もない。
彼らと共に歩む、彼と一緒に歩みたいと願ったのに、いざ自分の思い通りにいかないと凹む。
康景に好きになってもらえなくとも、自分は彼と並んで王を護っていけたらいいとそう思っていた。
それがいざ一緒になれないと分かればこの様だ。
情けないにもほどがある。
嫌なことがあればこうやっていつまでも悩み人を遠ざけ、一人で落ち込む。
これでは中等部の頃となん変わっていないではないか。
三十分ほど寝て、一度スッキリしよう。
気分一新のためにそう思ったが、それができるかは怪しかった。
なんとなく目を閉じる前に、ふと窓の外を見る。
「・・・!?」
そこにはエロゲを抱えながら垣根を越えて敷地内に入ってきた馬鹿がいた。
*********
「人の屋敷の庭で何やってますの!?」
ミトツダイラは窓から勢いよく飛び出し、エロゲを抱えた馬鹿(総長兼生徒会長の方)に近づく。
馬鹿は驚いて固まりながらこちらを見た。
「え?あ、いや、そりゃぁオメエ、裏庭倉庫に用があるんだよ」
「うちに裏には倉庫なんてありませんのよー!?」
馬鹿が指さした方を見る。
そこには地面が改造されて地下金庫の様になっているのに気付いた。
「い、いつの間にこんな改造を・・・!?」
「ほらさ、オメェん家アルマダでちょっと燃えたじゃん?だからここ改修するとき棟梁に御広敷のロリ系エロゲ握らせて改造してもらったんだよ。ここはヤスも知らねぇセーフポイントだからな、出し抜いてやったZE☆」
ミトツダイラは青筋を浮かべつつ、笑顔で表示枠を開いて、
『智?おそらく智が探している不審者がうちの庭に居ますのよ。来ます?』
『あ、わかりましたぁ!ほらアデーレ!早く犬たちを先行させて逃げられないように!』
『はい?え?あ、わかりました、なんだかわかりませんけど、Boss、これが総長の匂いですよ~・・・最悪股間に噛みつけばおとなしくなるんで、ガツンといっちゃってください』
なんだか最後不穏な言葉が聞こえたが、それで総長の総長が使い物にならなくなっても自業自得だろう。
「さて総長、"詰み"の状態ですが、なにか言うべきことはありますか?」
「え、えーっと・・・こ、これで赦してくんね?」
馬鹿は頭を低くしながら、エロゲを十箱ほど差し出した。
ミトツダイラはそれに対し笑顔でアッパーを食らわして、村山から武蔵野まで吹き飛ばした。
***********
IZUMОの市街地を歩いていた正純は、馬鹿がまた吹っ飛ばされたかと、そんな気を得ていた。
だがそんなことは日常茶飯事なので、正純は気を得たが気にしないことにした。
「悪かったなナイト、仕事中に呼び止めてしまって」
「大丈夫大丈夫、ナイちゃんいない間はガっちゃん頑張って穴埋めてくれてるし、今武蔵にお邪魔虫・・・やっすんいないからガっちゃんにラッキースケベしてフラグ立てることもないだろうからねー」
「お邪魔虫・・・」
やはりナルゼが最近康景に対し変に積極的なのが気に食わないのだろうか?
「あ、いや、別にやっすんが嫌いってわけじゃないし、ガっちゃんの気持ちもわからないでもないからさぁ・・・複雑なんだよねぇ」
「そういうもんなのか?」
「ナイちゃん的にはガっちゃんの中でナイちゃんが一番なら愛人程度までは許せるんだけどね・・・やっすんってほら、喜美ちゃん一筋だから」
ナイト的にはそこまでは許せるのか・・・。
問題なのは多分、康景が愛人を作る気がないということ。
人の関係は複雑だなと思う。
もし康景が愛人作るならワンチャンあるかな?とかは考えてない。
考えてないヨ?
「そういえば、ナイちゃん連れてこられた目的聞いてないんだけど」
ああ、と正純が応じる。
「極秘会談だ。ネシンバラ経由で話が来てな?ナイトを連れて来たのは、万が一の場合の離脱がすぐに可能だからだ。それに、どうもM.H.R.R.絡みらしくて」
「ナイちゃん、語れるほど詳しいわけじゃないんだけどな・・・他の皆は?」
「ネシンバラと二代には後でIZUMОで買い物しといてくれと伝えてあるし、さっき康景に連絡したらまだIZUMОに居るらしかったから、葵姉たちと買い物して連絡待ちだ」
康景と買い物・・・ああ、羨ましい・・・!
「康景と買い物・・・ああ、羨ましい・・・!」
「セージュン?本音出てるよ本音」
などというやり取りを行っていると、目的地が見えてきた。
石の大鳥居に、手持ち無沙汰で誰かを待っている人々が多くいる。
おそらくここが待ち合わせのスポットなのだろう。
その多くの人々の中に、こちらに気づいて手を振る者がいる。
「ああ、居た居た・・・今回の会談相手が」
極東服に身を包んだ人物は、
「久しぶりだなMate!!―――一服どうかな?」
「金がないからなぁ・・・奢られるつもりで来た。集合場所はどこだ、"女王の盾符"の9、ベン・ジョンソン」
英国の"女王の盾符"のベン・ジョンソンがいた。
**************
土間に木製テーブルや椅子がある軽食屋に、正純とナイトは連れてこられた。
「ここは英国系企業が出資してる店でね、女王の威信と名誉にかけて、ここでは公平かつ安全あること、正直であることを誓おう」
「そう願いたいものだ」
手前、通路を挟んだカウンター近くの席に座る。
英国とは友好的になれたとは思うが、万が一が起きないとは限らない。
身構えながら座る正純とナイトに、ジョンソンは苦笑して、
「その心構えは正しいさMate、ただ本当に敵意はない」
ジョンソンがそういうと、茶が手だけで運ばれてきた。
どんなイリュージョンか怪奇現象だと驚きかけたが、よく見たら和式侍女服を着たF・ウオルシンガムの手だった。
差し出された湯呑みの中は茶かと思えば、中身は赤色で、
「食前酒か?」
「さぁまずは一献」
飲むことを勧められたので湯呑みに手を伸ばすが、正純は動きを止め、
「いや、まずM.H.R.R.ついて重要な話があるらしいな、聞かせてくれ」
「何故かねMate?」
「情報には鮮度がある、鮮度が高いうちに情報を知りたい。そちらが先に話してくれれば、こちらも見返りにネタを提供しよう」
情報の等価交換だ。
ジョンソンの出方を伺う。
彼は少し考えてから、
「まぁいいだろう、そちらもネタを提供してくれるなら、こちらとしてもここに来た甲斐があるからね」
どうやら承諾してくれたらしい。
「M.H.R.R.が、なんだって?」
それが、とジョンソンは、
「―――M.H.R.R.が、"武蔵の航行をM.H.R.R.上空全域にわたって禁止する"、と」
その言葉に、正純とナイトは顔を見合わせて
「「(^O^)」」
・・・マジか!?
補足
序盤、喜美が屋内に退場したことについて
喜美としては自分のことよりホライゾンと康景の事の方を優先させるつもりだった
↓
康景が喜美の事と昔の話の両方を大事にしてくれてたことに照れ
↓
恥ずかしかったので屋敷に避難する
みたいなノリです。
解りづらいかもしれませんがご容赦ください(トリプルアクセル土下座)