境界線上の死神   作:オウル

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今回、一人キャラ崩壊してますがこれをキャラ崩壊と捉えるかは、あなた次第です・・・

※修正・加筆しました


五話 前編

向き合う者と、目を逸らす者

 

両者の違いは何か

 

配点(覚悟)

 

――――――――

 

ナイトは正業である配達関係で村山の輸送横丁を歩いていたのだが・・・、

 

「お、重い・・・」

 

ナイトは配送品をカートで押しているのだが、量が多すぎたのだ。

順次配達して数を減らしていったが、最後の最後に残った二つの荷物のうち、生徒会宛のエロゲはサイズ的にまだしも、もう一つの康景個人に送られてきた荷物が厄介だった。

 

「マルゴット、そっちだいじょ・・・何その荷物」

「ふぇ~ん・・・ガっちゃん・・・へるぷ~」

 

魔術陣を展開してきたナルゼが枠の向こうで引くくらいには大きなものだった。

ナイトの半泣き状態の顔を「いいねぇ!いいわよ!」などと叫びながら激写していたがすぐに賢者タイ・・・冷静に戻りその大きな荷物について言及した。

 

「何その荷物、やけに大きいけど、誰宛?」

「それがねガっちゃんこれ、やっすん宛なんだけど・・・送り主が不明なんだよね」

「なにそれ怖い・・・」

 

その荷物はカートには収まり切らず、結果的にバランスを取るため一部を自分の肩に乗せていた。

おかげで片方の肩が疲れてしょうがないのだ。

 

「まったく・・・康景が学長についていかなければこんな手間は取らされずに済んだのにね」

「・・・やっすん、今回の件、どんな気持ちで聞いてたんだろうね」

「アイツ、誰かの悩み聞いたりするときは喜んで手助けする癖に、自分の話とか全くしないものね・・・わからないわ」

「喜美ちゃんは・・・?」

「jud.よく見えるわ、さっきから動いていないから」

「ソーチョーの方も後悔通りの前から動いてないってことだよね」

 

喜美ちゃんとソーチョー、そしてやっすんかぁ・・・やっぱりそう簡単にはいかないのかなぁ・・・。

 

「あっちの二人に、何かコメントある?」

「あるある、一個生徒会宛に荷物があって、配送表に思いっきり『絶頂ヴァージンクィーンエリザベス 初回限定版特典付き』って書いてあるんだけど・・・」

「絶対トーリね・・・今朝もエロゲ買ってたのに、一体いくつ今夜中にプレイする気なのかしら」

「教育番組の包みでカバーしてあるけど、配送表でミスったよねぇ」

 

ソーチョーが実はまだエロゲを方々から買いあさっており、徹夜でプレイする可能性も考慮すると結構とんでもないような気もするが、深く考えると後悔しそうなのでやめた。

そこでふと、顔を道に向けると、目の前に正純がいるのに気付いた。

 

******

 

正純はいきなり名前を言われたので、反射的にビクンっ、と身体を震わせる。

振り向けば、ナイトが荷物入りのカートを押してこちらに向かってきていた。

 

「バイト?」

「ううん、一応正業ね。三河からの帰り?」

「ああ」

「あれ?やっすんは?」

「なんかまだ三河の方に用事があるとかで、学長と残ったぞ」

 

そっかぁ残念だなぁ、とナイトが溜息をつく。

 

「やっすん居ればついでにこの荷物渡しておきたかったんだけど、いないならしょうがないか・・・やっすんのうち青梅だから遠いなぁ」

「その荷物康景宛なのか?」

 

大きな荷物が目立つナイトのカートを見る。

 

康景かぁ、それを渡しに行くついでにさっきの事誤っておこうかなぁ。

 

そんな事を思いつき、言ってしまった。

 

「何なら私があいつに渡しておこうか?」

「えっ?良いの?」

 

正業なら仕事を取っちゃ悪いかな、とも考えたが、ナイトは思ったより乗り気でこちらに大きな荷物を手渡した。

 

お、お?思ったより重いなコレ?!

 

軽はずみに言ってしまったのを後悔したが、やると自分から言い出した手前、断りづらい。

 

「あ、でもセージュンこの後予定とかは?」

「あ、ああ・・・とりあえず"後悔通り"の探索しようかな」

「そっかぁ、じゃあだったらこれも」

 

手渡されたのは、エロゲだった。

しかも生徒会宛で、

 

「なんでこんなものが生徒会に・・・!?・・・あー、アイツか」

 

生徒会名義でこんなものを買う奴は、正純は一人しか知らなかった。

 

「後悔通りを探索するなら、今ならソーチョーもいるだろうから、会っておくと良いと思うよ?」

「?、何故だ?」

「明日の話題についてこれるからね・・・」

 

伏し目がちに言うナイトは、こちらに大きな荷物と、エロゲを手渡すと上空のレース集団に交じり去り際に「じゃあ、その荷物、二人によろしくねぇ!」と言い残し、その場を去った。

残された正純は「明日の話題」の事がいまいちピンとこず、手渡された「大きな荷物」を背負い、「エロゲ」を片手にただ立ちすくんだ。

 

******

 

三河郊外、木造の軽食屋で野太い男たちの声がする。

本多二代は改めてこの座敷に居るメンツを確認する。

松平四天王で父である本多忠勝と、同じく四天王である榊原康政、そして後の二人は、一人は過去に会ったことが多分ある酒井忠次と、一人は知らない顔だった。先程こちらが仕掛けた事とは言え、自分の胸を触られたので思わずグーパンしてしまったが、大丈夫だろうか

 

こちらの動きに対応できるあたり、それなりの実力者だと思われるが・・・。

 

「酒井、お前んとこの学生は何なんだ!昔のお前と同じだな!戦闘中に相手にセクハラするとか!wwww」

 

酔っていて怒っているのか笑っているのかよくわからない事を、忠勝は言った。これで三回目である。

 

「いやいや、まずね、お前十年ぶりに再会した偉いご友人様にフツーは娘つっかけさせねぇよ」

「やかましい!昔っからそんなだからお前は武蔵の学長に回されたりするんだぞ!だいたいなぁ・・・」

「いやダっちゃん、このやり取り三回目だから・・・てか学長ってのも結構悪くないよ、若い女の子か、女教師とかとも話し放題だし、なぁ榊原!」

「なんで私に回すんですか」

「「お前ホントノリ悪いよなぁ!」」

 

さっきの発言から榊原が虐げられる流れもこれで三回目である。

 

「父上、さっきからこのペースで榊原様が虐げられるのも三回目で御座る。できれば改めてご紹介を」

「ん?俺?酒井忠次ね、君のお父さんよりマジ偉いから」

 

二代はさっきの忠勝の台詞で、戦闘中にセクハラをするというフレーズを思い出してしまい、どうしても偉い人物には見えなかった。

 

・・・しかしこれでも松平四天王の実質的なリーダーで御座るからなぁ。

 

昔に多分会ったこともあるので、名前は憶えていたが、十年以上前の事で上手く思い出せない二代。

その時の二代の印象は「猫背のオッサン」くらいにしか考えていなかった。

 

「んで、さっき君に殴られたのがw」

「いや学長?一応学長を守るために俺が犠牲になったわけですから、そんなに笑わなくても・・・」

 

何か言いたげな様子だったが、あきらめてこちらに向き直り自己紹介を始めた。

 

「お初にお目にかかります忠勝様、榊原様。名を天野康景と言います。先程は二代さんに無礼を働き、大変申し訳ない事をしてしまったと・・・」

 

思ったより丁寧な挨拶で、深く頭を下げる康景に、二代も思わず頭を下げた。

 

何で御座るか、この雰囲気・・・!

 

気まずかった。先日テレビドラマで下着を偶然見られてしまった女生徒とそれを見た男子生徒が偶然同じクラスになった時の気まずさと同等のモノを感じるくらいには。

 

「お前が噂に聞く天野康景か、聞いたとこだと、現武蔵の学生で一番強ぇらしいじゃねえか・・・そんな奴が一体こんなとこになんの用があるってんだ」

 

忠勝が威厳ある態度で康景に問いただす。

康景はそれに臆することなく、淡々とした様子頭を下げたままで話す。

 

「東国無双であらせられる忠勝様にそう言っていただけるとは、光栄の至りでございます・・・ですが僭越ながら、私は未だ若輩の身、覚えることもまだまだ多いこの身が武蔵学生で一番強いと評価を受けるには未熟すぎると思われます。実際、二代様には先程顔に一発もらってますし・・・」

 

その発言が気に喰わなかったのか忠勝はただ鼻を鳴らしてそっぽを向く。

二代は父親がこの手の堅苦しい挨拶が嫌いなのを思い出した。

 

「で、用はなんだ?」

「はい・・・実は二代様にご相談があり、今回参った次第です」

 

康景は二代の正面に座り直し改めて話し出した

 

「二代さん、良かったら武蔵に来ませんか?」

 

は?

 

勧誘された。

 

*******

 

康景は、目の前に座る二代に話を続けた。

 

「私は以前から、ここにいる酒井学長に忠勝様の武勇は以前から耳にしていました。そしてその忠勝様が選んだ逸材であられる二代さんには、ぜひ武蔵の副長になっていただきたく、今回この場に同席させていただきました」

 

康景は以前シロジロが、商売のコツは「如何に相手を立て、如何にこちらの手の内を明かさず、自分の望む結果を引き出すかが重要だ」と、語っていたのを思い出し、とりあえず思ったことを丁寧にして言ってみた。

 

駆け引きって難しいなぁ。

 

康景は己の弁論の未熟っぷりを恥じた。

 

「そ、そう言っていただけるのは、拙者としても大変光栄な話で御座るが・・・先程貴殿と相対した時、貴殿も並々ならぬ技量をお持ちだと判断した。何故ご自分でなさらないので御座るか?」

「先程も忠勝様に申し上げましたが、私は未だ若輩の身・・・私は私自身の心残りで、自らの刃を貶めてしまう事があります・・・ですが私が、二代さんの太刀筋を拝見させていただいた時、私は貴女の剣に迷いは全く感じませんでした。そして私は思いました。この人は武蔵の副長を務められる、と」

 

これはホントである。この人の剣筋には迷いなど無い真っ直ぐな剣だと、あの時はそう思った。

少なくとも、未だ過去を払拭できず過去に向き合えない自分よりは、よっぽど副長に向いている。

 

「それに現武蔵生徒会副会長は本多正純です。二代さんが武蔵の副長になって下されれば、武蔵の政治と軍事の実質的トップは歴史上にあった通り「二人の本多」が務めることになります。内政系の本多正信の子である正純、武闘系の本多忠勝殿の子である二代さんが武蔵のツートップになっていただければ、マイナーな襲名者である私がなるより、他国への影響度にも差が出てきます・・・政治的な観点を抜いても、貴女の様に才色兼備な方がなった方が武蔵の男連中も喜ぶでしょうしね」

 

康景は気が付けば、二代の手を握り思わず熱く語ってしまった自分がいることに気づき慌てて手を放す。

 

「すいません、思わず熱くなってしまって・・・」

「あっ・・・いえ・・・拙者こそ///」

 

この空気ェ・・・

 

残された三人は同じような事を思った。

気まずい二人を見かねて忠勝が発言する。

 

「待て・・・中途半端な理由で勧誘するならまだしも、そこまで武蔵と二代の事を考えての勧誘であれば、我は文句は言うまい・・・だが二代には今現在、三河警護隊長の任がある。安芸まで行って戻る際には、戻るも降りるもそこからは自由にしろと言ってある。だからそれまで待て・・・これから先、世が動くからな・・・娘くらいは自由にさせてやりてえしな」

 

どの道今は三河は他国との交流は出来んしな。

 

嘆息交じりにそう語る忠勝の顔は、どこか哀愁が漂っていた。

 

「いいねぇ、東国無双、本多忠勝が認めた逸材がいよいよ旅立つのか・・・・・・結局のところ井伊の奴来ないけど、何かあったのか?」

「井伊君は・・・」

「井伊は所用で出ていてな・・・」

 

酒井の問いに答えようとする榊原の発言を遮るように忠勝が言った。

酒井はそのただならぬ様子に、「井伊は極秘か何かの任務で出ている」とそう判断した。

その時、座敷の上り口の方で足音がするのに気付いた二代は、

 

「鹿角様・・・」

 

上り口の方に振り向いた。

鹿角、三河本多家の自動人形。康景は面識はなかったが、酒井は彼女を見て、

 

「げぇ!鹿角・・・!」

「学長・・・女性に対して『げぇ!』は失礼だと思いますよ」

「いやお前はこの女知らないからそんなことが言えるんだって、コイツすげぇんだぞ・・・!」

「誰かと思えば酒井様ですか・・・左遷されたのにわざわざ三河にまで顔を出して女性への対応を生徒に諭されるあり方、相変わらずだと判断できます」

 

鹿角は辛辣な口調だった。

この言い方に、康景は"武蔵"を思い出し、自動人形って基本こうなのかな?それとも二人が独特なのかな?と疑問に感じた。

 

「ダッちゃん、この女、相変わらずダッちゃんのとこ?」

「しょうがねぇだろ、コイツが一番女房の味再現できるし、礼儀作法に関しては教えるだけなら我よりできるしなぁ・・・」

「jud.忠勝様は、二代様が年頃の女性なのにも関わらず、一緒に風呂に入ろうとかダメな点が目立つので、基本的な事は武術指導を含めまして私が行っております」

「ダッちゃん・・・ダッちゃんのダは昔からダメ人間のダだったからn」

 

酒井が言い終えようとしたとき、鹿角の重力制御によって団子の竹櫛が酒井の目に刺さる寸前にまで持ってかれた。

 

「忠勝様への愚弄はおやめください・・・忠勝様はこう見えて当家の主なのです」

「ダッちゃん、この女、相変わらず『自分は良い、他人はダメ』の鬼ルールかよ!ちょっと歪んでんぞ!」

「しゃあねぇーだろ、我口喧嘩弱いし・・・」

 

そういう問題なんですか・・・。

 

康景はツッコミを入れたくなる気持ちを抑え、この場は黙った。

決して鹿角が怖かったからとか、そういうわけではない。

 

「忠勝様、そろそろ二代様の船の準備が・・・」

「では、我はここまでだ・・・この先しっかりやれよ」

 

そして本多家の三人は軽食屋を後にし、その後姿を残された三人が見送った。

 

********

 

酒井は本多家の三人を見送る康景を見た。

 

「康景・・・お前、さっきの二代を誘った時の台詞・・・どこまで本気だった?」

「・・・?、大体全部本気でしたよ?まぁ流石に手を握ったのは自分でも「あ、これキモイわ」って思いましたけど」

「じゃあ彼女に言った賛辞ってアレ全部マジ?」

「流石に、襲名者云々の下りは説明が破綻してるしてるなぁとは思いましたけど、やっぱり思ったことを包み隠さず言った方が相手にも伝わると思ったので」

 

酒井はため息をついた

 

こいつは・・・。

 

酒井は康景の女性関係について心配になった。

 

「もうお前あれだ・・・お前あんまり話し合いとか、そういう面では前に出るな」

「?・・・わかりました?」

「じゃあ、あとお前用事すんだろ。あと帰っていいよ」

「はい、それでは学長、榊原様・・・自分はこれにて」

 

何事も無かったように武蔵へ帰る康景。

言いたかったのは政治における交渉とかではなく、日常会話とか、その辺で気を付けろ、という意味で言ったのだが、

 

伝わっただろうか・・・?

 

となり、榊原が憐れみの視線でこちらを見てきた。

 

「武蔵も大変ですね、酒井君」

「ほっとけ・・・なぁ榊原、二つ聞きたいことがある。井伊の事についてやたらダッちゃん隠そうとしてたけど、何かアイツにあったのか・・・もう一つは武蔵にP01-sっていう自動人形が去年三河から来たけどあの自動人形は何だ?」

 

問われた榊原は遠い目をして言った。

 

「少し歩きましょうか・・・歩いた方が、話しやすいこともありますし・・・」

 

*******

 

康景は武蔵への帰路を歩いた。

今回、康景が酒井に同行したのには理由がある。

武蔵の副長に相応しい人間がどのような人物か見定めるためだ。

何度か、副長への打診があったが、だが康景はそれに応じる気など全くなかった。

 

「・・・やる気が無い俺より相応しい奴なんていくらでもいる」

 

自嘲気味に呟く。

康景は事前に本多二代という存在を酒井から聞いていた。

詳細ではなく、ただ娘がいるという話を聞いていただけだったので、今回こうして会いに来たわけだ。

実際、あの速さに技量は凄まじいものだ。

彼女なら自分がなるよりは相応しい筈だ。

 

康景が副長になりたくないのには色々と理由がある。

師匠とホライゾンの事で未だに悩み続けてる自分が副長には向いていないというのもあるし、なにより、

 

・・・短気だからなぁ。

 

人の上に立つなら、激情に身を任せてはいけない。

トーリがああいう人だから、副長は冷静な方がいい。

副会長が正純だから大丈夫だとしても、副長が自分と言うのも何だか体裁が悪い。

本多二代なら"東国無双"である本多忠勝の娘であるし、実力も相当だ。

マイナーな襲名者の自分より、あっちの方が説得力がある。

そう思ったからだ。

 

後は彼女が選ぶことだから、康景にはどうしようもない。

でも出来る事なら彼女に来てほしいとも思った(実力的な意味で)。

 

武蔵の方を見る。

今日は教導院でトーリが祭りをやる。

自分と向き合えているトーリと違って、色々な事を考えて考えきれてない、そんな男が、トーリの方に行ってもいいのだろうか・・?・

 

足取りは重かった。

歩きながら考え、出した結論は、

 

「行くかぁ・・・」

 

トーリが十年越しに新たな一歩を踏み出したのに、自分が何も決められてないのは、アイツに悪い。

そう思った康景は行く事にした。

 




二代のキャラって多分こんなじゃあないですよね・・・(汗)
あと初対面の女の子の手を握るとか、書いてて自分でも「ないな」って思いました(笑)
何卒、何卒ご容赦を・・・!

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