境界線上の死神   作:オウル

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言葉の誤用は誰だってすると思うんだ・・・(震え)


十六話

天然は

 

どこまで許されるのか

 

言葉の覚え間違いは

 

一体誰が悪いのか

 

配点(誤用)

――――――――

 

セグンドは、狭い艦橋で状況を見ていた

 

歴史は変わらないのか・・・

 

光煙を上げて何本か攻城用杭も当てることは出来た

だが中破とは言い難い

小破以上なのは確かなのだが、中破までは行っていない

 

極東の学生年齢の上限は十八歳までという制限がある

 

自分達の子供と同世代の子供たちが、この戦場で戦っているわけなんだよな・・・

 

そう考えると、少し思うところがあった

 

「・・・子供か」

 

自分の子供も生きていれば、彼らの二世代くらい上の先輩に当たっただろうか

そんな事を思ってしまう

 

「大将!」

「・・・副艦長・・・Tes.総員に退艦準備を、そして全艦に通達―――」

 

聖譜記述では英国南東沖の後、防御陣形を取って撤退に移行する

だったら

 

「―――事前に通達していたルートで各自本国に帰還・・・アルマダ海戦は、終了する」

 

**********

 

「くそっ!」

 

漁船に乗る中年達は、武蔵を沈めきれなかった事に対し悔しさをあらわにした

既に自分達の大将からは撤退命令が出ているので撤退するしかないのだが

 

「俺たちだけじゃ足りなかったっていうのか・・・!」

「チクショウ・・・!」

 

口々に悔しさの声が聞きとれる

悔しさを滲ませながらも指示通り帰国ルートへつこうとしたところで、一人の初老の男が異変に気付く

 

「おいっ!大将はどうした!?」

 

初老の男の問いかけに、中年は慌てた様子で

 

「『この船で降りるから、皆は先に』と・・・」

 

その言葉に、一同は自分たちの大将が乗る船を見た

初老の、セグンドと同世代の男たちには、それが何を意味するかなんとなく解っていた

しかし、解っていても、叫ばずにはいられなかった

聞かずにはいられなかった

 

「盤上で自沈して投了なんて・・・なんでそんな選択をした!?」

 

瞬間、セグンドの船が爆発炎上した

 

**********

 

セグンドは自沈していく船の艦上で胡坐をかいて座っていた

 

「すまないね・・・でも僕みたいな馬鹿な王が消えれば、次代は刷新せざるを得ない。歴史再現に生じる相違を僕が行う事で、次代の王は"正しい"あり方を行える王を迎えることが出来る・・・」

 

三征西班牙は変わっていける

古い王の為すべきことは、新しい次代に繋げる事だ

 

二十五年前

レパントで、自分達はオスマンと戦った

しかし、自分は敵の配置に違和感を覚え、出遅れた

 

オスマンが古い艦隊を使って艦隊の"入れ替え"を行っていたのだ

その結果、敵に突っ込んだ味方は、本来護衛艦としての敵艦隊に攻撃を受け、ほぼほぼ敵味方ともに壊滅

しかし敵は背後に新艦隊を配備していたために被害が大きかったのは主に自分達だ

 

出遅れた自分は、生き残ったのではなく、戦えもしなかったただの臆病者だ

 

「戦いが終わったら家族で火祭に行こうって言ってたのに・・・」

 

だけど、自分の家族はもういない

 

「御免よ皆・・・」

 

自分一人生き残って

 

「もう終わりにするから・・・」

 

次代を引っ張っていけるリーダー的な存在なら、既にいる

 

「フアナ君・・・」

 

後は任せた

 

そう言おうとして、不意に背後に人の気配がした

 

「呼びましたか総長・・・」

「・・・?」

 

変だな・・・フアナ君の声がする

 

幻聴か、うん、幻聴だな

今ここにいるわけがない

だったらこれは死ぬ前の走馬燈とか、その辺の類だろう

背後に振り返る

 

「―――」

「・・・?」

「―――」

 

そこにはいつもの副会長としての彼女がいた

セグンドはいったん

 

ああ、よかった無事だ

 

と思ってから

 

「・・・!?」

 

二度見した

 

アイエエエ!?フアナ君!?ナンデ!?

 

混乱するセグンドに、フアナは告げる

 

「サン・マルティンで回収しに来ました―――総長、帰りましょう?皆が待っています」

 

*******

 

フアナは、無理を通して自分達の王を向けに来たものの、肝心の王を前にどうすべきか判断に迷った

この人が何故この様な自暴自棄とも言える行為に走ったかを、フアナ自身深く理解している

それが最善でもあり、この人なりの覚悟と決意だったからだ

 

その判断が、フアナには悔しくて、虚しくて、どうしようもなかった

 

「ふ、フアナ君!?」

「Tes.フアナです・・・総長、皆が迎えに来てますよ?戻りましょう」

「ぼ、僕が戻っても三征西班牙には良い事なんてないよ?」

 

その台詞が、フアナをより一層苛立たせた

そんなことは、解っている

何しろ彼が戻ることは、敗戦国家三征西班牙が誕生してしまう事を意味する

でも、それが本当であるが故に、悔しかった

拳を握る手が震える

 

「・・・・て」

「?」

「どうして、貴方が救った命より、貴方が救えなかった命の方ばかりを見るんですか!」

 

あの時自分が救われなければ、この人の大事な人になれたのだろうか

でもそんなのは、そうでなければ大事な存在になれないなんて

 

ただ、虚しいだけ・・・

 

気が付けば、目から涙があふれ出た

 

「私は、ただ、貴方の傍で、貴方の役に立ちたいと、そう思い続けて、いざその時になれば捨てられるなんて・・・こんなのってないです!!!」

 

まるで子供の喧嘩のようだと、内心笑った

だが、その時に不意に背中から圧が来た

艦首側が爆発したのだ

 

**********

 

セグンドは、いきなりの爆発に対し反射的にフアナを庇った

戦闘系でこそない自分だが、これくらいの事は出来る

 

だが、気が付けば

 

「・・・」

「///」

 

自分が覆い被さる形になっていた

 

あ、これヤバいな・・・

 

広報委員とか、誾とか、あの辺に見られたらマズい事になっていたと思う

ウチの広報委員は口が軽いというか手回しが早いというか、スクープを見つけたらその日の内に新聞にして広めるような連中だ

更に誾に関しては、こちらが何か失敗して危ない雰囲気を作ってしまうと何故かタイミングよく現れては「そういう事にしておきます」と弁解も聞かずに高速で立ち去るから質が悪い

 

いや、こうしてる間にも退けてしまえばいいだけなのだ

そう結論して納得し、退こうとすると

 

あれ?

 

背中からがっちりロックされて動けないでいた

 

「あ、あの・・・?フアナ君?」

「総長は私の事、嫌いですか?」

 

き、急に何を・・・

 

「え、は?・・・いや、総長兼生徒会長の僕がこんな男だから、頼りにしてるよ?」

「書記から、貴方の女性の好みとか聞いて、私なりに頑張ったので、見てくれだけなら総長の希望にかなっていると思うのですが・・・」

 

よし、あの男は生徒会長権限で減給だ

セグンドは己にそう誓った

だが今はそれよりもまず

 

「ちょっ、ちょっと、落ち着こうかフアナ君、今ものすごい事口走ってるからね?」

「命を救っていただいた、その代償として、今ここで"色々"してもかまいませんよ?」

 

だ、駄目だ・・・!話を聞いてくれそうにない!?

 

どうしようか迷っていると、艦橋横から影が来た

 

「副会長、そろそろこの船も限界です。早く総長を連れてサン・マルティンに退艦を・・・」

 

目が合った

フアナに覆いかぶさっている自分

自分を下からしがみつくようにしているフアナ

そしてその様子を見てしまった第三者、立花誾

その異様な雰囲気で、しかし誾は物の数秒で答えを下した

 

「Tes.言わなくても解っております。大人の事情という奴ですね?解っております・・・ええ、解っておりますとも・・・そういう事にしておきましょう」

「結論早っ!?まだ何も言ってないよ僕!?」

 

ともあれ、セグンドの回収に成功したという事は、アルマダは続行継続するという事の意思表示であり、サン・マルティンを用いた総力戦になる事を意味していた

 

********

 

武蔵野艦橋では、状況確認兼補給が行われていた

 

「待つで御座る!それは拙者の松坂牛弁当で御座るぞ!」

「あ、小生が用意した弁当が・・・!」

「あれ?先生は食べないんですか?」

「先生は康景が作り置きした御飯があるからねぇ(ドヤァ)」

「「せ、先生汚ねぇ!」」

 

混沌とした状況の中、表示枠から声が響く

 

『いや、お前ら状況確認しろや・・・』

 

康景が若干呆れた声で呟いた

輸送艦と武蔵間での通神経由での会議だ

 

『"武蔵"さん、各艦の艦長の様子は?』

「はい、天野様の御指摘通り、一喝入れた所それぞれ立て直したので運航自体に問題はありません。ただ、短時間の重力加速を行うための燃料は残り少ないのが現状です。仮にこの状況で行うとしたらIZUMOに向かう前に数時間で追いつかれてしまう可能性の方が大です―――以上」

『輸送艦からはそっちの状況が俯瞰的に見えるけど、三征西班牙はどうやらサン・マルティンを出してきたみたいだ・・・やはりアルマダは継続と見るべきかな・・・』

『バルエフェット君、そっち指揮系統任せっぱなしでも大丈夫かい?こっちはまだ距離的に間に合いそうにないんだ』

「え!?・・・うーん」

 

アデーレは少し悩んだ後

 

「解りました、やります」

『英国では忍者と中二がリア充にはなったけれどもまだ三征西班牙との決着はついていないからな・・・皆、気を引き締めて行こう』

「「jud!」」

『ちょ、ちょっと待とうか天野君、僕がリア充になった話って何だよ!?』

『お前たまに思うけど白々しいよな・・・この画像を見てもまだ言い逃れする気か?』

 

康景が表示枠の向こうでネシンバラに何かしらの写真を見せる

それに対してネシンバラは慌てふためきながら

 

『な、なななななななんでこんな画像が出回ってるんだよ!?』

『お前さぁ・・・抱き合うなら人気のないところでやれよ、だからこんな画像が出回るんだよ。あ、この画像は多分"武蔵書記爆発しろ"で検索すれば出るよ』

 

その言葉に、艦橋組はほとんどが速攻で検索を掛けたのは言うまでもない

 

「うわぁ・・・べたべたなシュチュエーションですね」

「というか公衆の面前でよくやるさね」

「多分やってる本人は気分が乗っちゃってて気付かなかったんだと思いますよ」

『や、やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』

 

苦悶の声を上げてもだえ苦しむネシンバラを尻目に、康景は続ける

 

『まぁリア充はさておき、とりあえず全体の目標確認だ。俺たちは三征西班牙の撤退戦、つまり武蔵の追撃戦を成功させて勝利する。小目標としては1武神団沈黙、2敵砲撃対処、3揚陸部隊の撃退、最後にサン・マルティン撃沈だ』

『白魔術的に見てもかなり攻撃的な行軍だと思うけど、ここまでしないと駄目なの?』

『ああ、武蔵の今後の選択しとして、現時点で最高の航空戦力を誇る三征西班牙とやり合って勝った方が都合がいい。勝ったら勝ったで色々な問題も出るけど、負けた時の問題に比べれば勝った方がずっとマシだ・・・それに大久保が敵の攻撃で負傷したからな・・・お礼参りも込めて』

「大久保?大久保って誰だっけ?」

「ほら、アレですよ、康景君が後輩で一番可愛がってる・・・」

「ああ、あの代表委員で二年の!」

『そこ、うるさいぞ・・・誤解を生みそうな言い方はヤメロ』

 

わざとらしく康景が咳払いして

 

『戦闘の流れに関しては、ネシンバラ?』

『ああ、まず流れとして、砲撃、武神、それからの揚陸部隊の突撃があるはずだ。サン・マルティンは補足できるまで無闇に攻撃を仕掛けない方がいい。勝負は敵を補足してからだ』

「「jud・・・!」」

『アデーレ、あと留意事項として覚えておいてくれ』

「何ですか?」

『もし敵が突撃してきた場合は、二代やシロ、ノリキがいるから大丈夫だとしても、サン・マルティンには注意しろ』

「もちろんそのつもりですけど、不安事項が?」

『向こうにとってはこれが衰退に向かう別れ道だからな。何があるか解らん』

 

そして最後、絵に描いたような作り笑顔で

 

『でもまぁ、もしもの場合、武蔵には最終兵器ズドンがあるから、サン・マルティンに関しては大丈夫だろう』

「ちょっと!康景君は私に喧嘩売らないと気が済まないんですか!?」

 

当然のように無視して通神を切った

誰も浅間がズドンとは一言も言っていないのだが、それでも反応するということは多分本人も自覚してるのだろう

その直後浅間が反射的に輸送艦の方角に矢を放ったのは言うまでもない

(後日Y氏に聞いたところ『まさかとは思っていたが矢が本当に飛んでくるとは思わなかった』と語る・・・)

 

********

 

そして、双方の距離が十五キロほどを切ったところで、砲撃が始まった

 

第二次アルマダ海戦の幕開けである

 

********

 

アデーレは艦橋で砲撃が本格化してきたのを悟った

そして武神団の攻撃も本格化してきたのを確認する

 

来ましたね・・・

 

三機で一隊の編成が五隊分、計十五機

さっきよりも増えてる気がするが、錯覚か何かだと信じたい

武神団が二番艦である"多摩"に降下しているしているのは、二番艦という存在が一番防壁が薄い場所だからである

 

・・・何しろ外交艦とかの発着場があるのは二番ですしね

 

そのため二番艦は町としての機能が強く、構造的に侵入が難しい反面、防備も薄い

自分はネシンバラの様な指揮官として軍師でも、康景の様な高水準のオールラウンダーな人間でもない

しかし、今現在指揮を執っているのは自分なのだ

康景たちと連絡が取れる安心感があるとはいえ、その責任感を捨てたわけではない

 

「第三特務、お願いします!」

 

腹から声を出して指示した

 

*********

 

「jud!」

 

その指示に応じたのは、計二十一人の黒魔女隊だ

彼女たちは甲板で横一線の棒金弾千円分を、真正面に放った

何故敵ではなく、真正面に放ったかというと

 

『・・・!?』

 

完全に敵の軌道を読んだ上での砲撃である

予想外の不意打ちともいえる攻撃に、武神団は一瞬怯み

 

『!』

 

数機に命中した

その攻撃に足を止めた武神を、ナイトは見逃さなかった

 

「herrlich!!!」

 

不意による混乱を誘った狙撃だ

三河の時と同様に下から穿つような軌道での一発が、武神の足に、命中した

だが戦況は忙しく、黒魔女隊が歓声を上げるのを遮るように"浅草"の声が響く

 

『左舷上空、北西十字方向からステルス艦砲撃来ます!―――以上!』

 

*********

 

"武蔵"は艦橋に居ながら、浅草に居る"浅草"と共に防御壁を展開した

砲弾は加護も術式もない一発だと判断

共通記憶による意思疎通は出来なくとも、行動パターンなどを統計して連携は取れる

 

「払います!―――以上」

 

重力障壁が何枚も折り重なり、敵の砲弾はそれに当たって失速、最後の数枚に達する時には砕けて散った

払い切った

次弾が来ない事に少し違和感を感じたが、その機会を逃さずつかさず左舷側から砲撃を行う

しかし

 

「砲弾、通過します!」

 

こちらの砲弾が当たることは無かった

 

・・・速い

 

応射が間に合わないのは、敵艦が高速艦以上の性能を持つ事を示す

未だに敵艦位置を把握できていないのは辛い

次も上手く砲弾を防げるかはそこにかかっている

 

先程の敵砲撃座標の位置は割り出した

後は敵艦の移動スピードがどの程度なのかによるが

 

「アデーレ様、敵艦はこの方面に移動中だと推測できます」

「これ、意表をついて後ろからみたいな展開になりませんかね」

『ステルスは姿が見えなくなっても消えるわけじゃないからね』

『・・・』

「康景さんどうしました?」

『いや、注意しておくことに越したことはないとは思うが・・・』

 

その時だ

 

「右舷後方より低空弾飛来!!!以上!!!」

 

"多摩"の報告に、一同は驚きながらも対処する

だがそれが事実だとすると、逆舷側に何の痕跡もなく移動したことになる

 

"武蔵"が重力障壁を展開するのに合わせて"多摩"も重力障壁を展開した

しかし完璧に敵の攻撃を凌ぎきることが出来ず、砲弾は多摩底部に当たり、大きな揺れを作る

 

その揺れが収まると同時に、艦橋は異変に気付く

 

「敵艦に接舷されました!―――敵上陸部隊来ます!」

 

サン・マルティンのステルスに紛れて艦群が多摩に接舷したのだ

 

*********

 

まず多摩に上陸したのは、三征西班牙陸上部

それを背後から援護するのは三征西班牙野球部

 

そしてその先頭に立つのは、聖譜顕装と長尺バットを担いだ霊体

 

「お前ぇら!艦橋さえ奪っちまえば俺たちの勝ちだ!!」

 

三征西班牙副長、弘中隆包が、背後に続く戦士団を鼓舞する

彼は長尺バットを掲げて

 

「日の沈まない国は、まだ終わってねえ!!」

「「Tes!」」

「俺たちはただ負けて衰退していくだけの存在じゃねぇ!」

「「Tes!」」

「勝つぞ!」

 

勝つ

その叫びに、戦士団が呼応する

 

『我ら三征西班牙に!』

『栄光あれ!』

『勝利あれ!』

『未来あれ!』

 

声を重ねて

 

『エーナァァアアアレス!』

『栄光あれ!アルカラ・デ・エナレス!』

『勝利あれ!アルカラ・デ・エナレス!』

 

そして

 

「行くぞお前ら!!!!!!!!」

 

隆包の号令と共に、武器を持った戦士団が突撃を始めた

 

**********

 

康景は、輸送艦から表示枠で戦況を見ていた

陸上部隊が武蔵に上陸してきたことも大変な事態ではあるが、それに関してはシロやノリキ、副長としての二代がいるから問題はない

むしろおかしいのはサン・マルティンの動きだ

 

おかしいな・・・

 

いくら最新鋭のステルス艦だろうと、"武蔵"達自動人形を欺けるほどのステルス性能を用いているとは思えない

いや、可能性的には否定は出来ないが、低いと考えるべきだ

ならば何らかのトリックがそこに存在している

 

「"武蔵"さん、敵艦の運航について気付いたことは?」

『通常航行に目立った違いがあるとは考えにくいです。こちらが予測した・・・訂正、"武蔵野"が予測した敵艦の攻撃パターンが悉く外れて左右二番艦底部へのダメージが大きいです―――以上』

 

自動人形の共通記憶が使えないという事態ではあるが、彼女たちの思考能力は健在

自動人形を欺くトリックとは何だろうか

 

『天野様、"武蔵野"です。"武蔵"様の発言を少し訂正させていただくと、私が予測した位置から攻撃"は"来ます。ただ、左舷側からと予想すれば右舷側から、右舷側からの攻撃を想定すれば逆側に、と言った状況が続いて、砲撃を受けています。位置自体は合っています、位置は合ってるんです・・・重要な事なので二回言いました―――以上』

『"品川"です。"武蔵野"、見苦しいですよ?―――以上』

『"高尾"です。"武蔵野"、そろそろ位置を見定めてくれないと右舷側の艦全体に被害が及ぶのでいい加減にしてもらえないでしょうか―――以上』

「"武蔵野"さんは苛められてるんですか?なんか可哀想に見えてきたんですが・・・」

『私を心配してくださるなんて・・・これは脈ありと判断しても?―――以上』

「いや、俺、艦長さん達で言ったら"青梅"さん派なんでごめんなさい」

『くっ・・・私に味方はいないのでありますか・・・!―――以上』

「だって"青梅"さんに関しては普通にお世話になってますしおすし」

 

なんだか"武蔵野"さんがやけに落ち込んだ表情をしたように見えたのは、多分自分だけではないはず

皆が"武蔵野"の態度に新鮮さを感じつつ、康景の容赦ない本音に苦笑いした

この時、自動人形達の共通記憶が使えない為、この話を聞いていた"青梅"が人知れずガッツポーズで短く「っしゃあああああキタァアアア!」と叫んでいたことは、あまり知られていない

 

「移動しているのに何の痕跡も反応もないと?」

『jud―――以上』

 

短くそう答えた"武蔵野"の言葉を、少し整理する

 

かなりの速度で高速移動が可能なのにその痕跡が一切ない

そして予測した位置にはいる

結果"武蔵野"さんが苛められてるという現状が生じている

 

康景は打開策を提案してみた

 

「今攻撃が来たのは右舷側なら、左舷側には防御障壁を展開・・・あとは・・・」

 

短く息を吸い

 

「智?結界払いの術式を右舷側の予測ポイントに撃て・・・あ、いや、撃ってくださいお願いします」

 

*********

 

浅間は文句を言いつつも所定の位置に着いた

 

康景君も人使いが荒いですね!

 

ぷりぷりと怒りながら矢を番えて構える

本来巫女は戦闘介入はしない

あくまで武蔵を護るため、今参加してるのは例外である(ここ重要)

それをあたかも武蔵の戦力として最初からカウントされているのが少し納得できなかった

 

まったく!撃ちますけど!撃ちますけどね!

 

結局は撃つのだが、それまでの過程が大事だと思う

 

俺『つ、ついに浅間が・・・動く!』

賢姉様『覚悟するのね獲物共!射殺巫女が火を噴くわ!』

弟子男『敵逃げてぇ!超逃げてぇ!』

 

外道どもの実況通神は無視

 

「内燃排気を使用して禊ぎによる結界払いを行います!」

 

浅間の矢が、一直線にサン・マルティンがいると思われる空間に飛んだ

 

********

 

次の瞬間、二つの事が起きた

一つは左舷側の重力障壁が敵砲弾を防いだこと

もう一つは、サン・マルティンを包んでいる結界が浅間のズドンで消滅したこと

 

サン・マルティンが煙を上げてその姿を現す

 

「二艦いたんですか!?」

 

サン・マルティン高速移動の正体

それは一艦目が砲撃して下がり、位置が特定されそうになったら二艦目が逆側から砲撃する

それを繰り返すことでこちらを撹乱していたのだ

 

敵のトリックの仕掛けを解いた康景だったが、今一つ腑に落ちない

 

本当に二艦だけか?

 

すると、表示枠の向こうで、アデーレと一緒にいた鈴が

 

『さ、さい、しょの、くる、よ!』

「最初?」

 

最初

それが何時の段階を指すのか、すぐには解らなかった

 

最初?

今いる艦の補足は出来た

ならば二艦の内どちらの攻撃でも問題はない

しかし鈴の最初が何を指すのか

 

「最初・・・」

 

敵がサン・マルティンを最初に使ったのは何時だ?

鈴の聴力は、常人よりも多くのものを聞き取ることが出来る

鈴の「音が聞こえる」は、御広敷の「ロリコンじゃありません」の数億倍の信頼度がある

(いや、本来ならこの二人を比べることも本来不適格で鈴に失礼なのだが)

 

思えば、武蔵上陸のために左右から不意を狙うのはわかるが、何故最初から艦橋を狙わなかったのか

上陸部隊に艦橋攻めを一任しているのか

いや、それでは武蔵の総長連合や生徒会に当たった場合は確率が減る

負け戦で衰退が掛かっている敵が、そんな確率が低い事を選ぶとは思えない

そして敵がステルス艦を使用したのは

 

英国に来る前の襲撃の時!

 

ならば

 

「正面か!?」

 

全ては艦橋を落とすための布石だろう

康景が正面と叫んだのと同時、意味を察した"武蔵"が重力障壁を展開する

しかしそれよりも速く動いた影があった

 

「英国艦・・・?」

 

*********

 

一隻の高速艦が、敵の砲撃から艦橋を護るように盾になった

 

『恩は返したよ!武蔵!!』

 

その船から聞こえた低い女性の声は

 

「グレイス・オマリ!?」

『武蔵が英国に来る際、ステルス艦の砲撃を食らってくれたおかげで英国に跳弾もしなかったし、その後に続いた気流も緩衝制御やってくれたおかげでウチの一般漁船の連中に被害が出ずに済んだ・・・』

 

だから

 

『その"一回"の恩は、"海賊女王"である私が返す!食らいやがれ!』

 

真正面の砲弾を食らった勢いをそのままに、オマリの操縦テクニックで武蔵左舷後方のサン・マルティンに突っ込んだ

英国艦隊に突撃を食らったサン・マルティンが互いに凹み、黒煙を上げた

その様子を見ていた武蔵学生はグレイス・オマリの活躍を見て

 

「「グレイスさんマジカッケぇえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」

 

グレイス・オマリ・ファン・クラブ、通称"G・O・F・C"が出来たのは言うまでもない

 

********

 

「ちっ!失敗したか・・・!?」

 

隆包はサン・マルティンの砲撃が英国の高速艦で防がれたのを見た

自分達が突撃したのは、あくまで保険

本命はサン・マルティン三番艦による艦橋の破壊

自分達はその失敗した場合に備えての突撃なのだが

 

「まさか保険が本命になるとはな・・・」

 

追撃戦が成立してしまえば、自分達は負けになる

だがその前に艦橋を制圧してしまえば、勝ちだ

 

隆包は野球部の野手陣を率いて艦橋への道を進む

この道を進めば、艦橋へ一番近い場所に出る

しかし、自分たちの進路に、椅子に座ってこちらを見据える男が一人

 

「さて・・・ここが武蔵の勝負所・・・いや、金の使い所か」

「武蔵会計・・・シロジロ・べルトーニか!?」

「jud・・・」

 

彼はゆっくりと椅子から立ち上がり

 

「そのバットより、今度ウチで生産販売している○べ屋木製バットを使ってみるといい。何しろ"武蔵の死神"が一試合で五本塁打を達成したバットだからな、信頼できる木製バットだ」

 

すげぇ嘘臭ぇ!

 

********

 

武蔵二番艦、多摩にて、野球部投手陣は陸上部の上陸の援護をしていた

今、多摩表層部では陸上部と武蔵の戦士団が激突している

戦闘が激化していく中、バルデス妹とよく略されるフローレスはある事実に気付いた

しかし、それを隣にいる兄に告げる前に半歩下がってから

 

「兄貴、危ないよ?」

「ん?妹よ?戦場において危険など当然の事だろう、何をいまさrへぶしッ!?」

 

兄の顔面に、丁度八重歯当たりに鉄球がぶち当たり

 

「ふごぉおおぉぉぉっぉぉぉぉおあおああ!!!!」

 

うずくまって悶絶していた

なんかいい音したけど、折れたかな?

 

「危ないって、一応忠告したよ?」

「くっ・・・妹よ、今確実に私に当たるように計算しただろう?」

 

フローレスは無視した

そしてその鉄球が投げられた方を見る

そこには作業用ベストに手甲を付けた少年が一人

 

「襲撃の時の忘れ物だ」

 

襲撃の時、自分たちが"消える魔球"で使った鉄球だ

この男には見覚えがある

確か三河でガリレオと相対した男だ

 

「お前らに襲撃された際に壊れた町は、俺達が直した。だが」

「?」

「いらん仕事を増やすな」

 

背後の多摩の町並みを指さしながら言った

 

***********

 

それぞれが相対戦を始める中、多摩の居住区でも相対する影があった

 

「三征西班牙アルカラ・デ・エナレス所属、第三特務、全方位義体師・・・立花誾」

 

それに対するは

 

「武蔵アリアダスト教導院、副長、近接武術師・・・本多二代」

 

青の装甲を付けた極東制服の女

神格武装、蜻蛉切を持ったこの本多二代も、宗茂が失権した要因の一人

だから相手にとって不足はない

 

この女を倒して、あの男も倒す

 

あの男はこの場にはいない様だが、関係ない

 

倒して、復権を・・・宗茂様の復権を・・・

 

最早今の誾に、アルマダはほぼ関係なかった

頭にあったのは二代と康景を倒して宗茂の名を取り戻す

それだけだった

 

「何用で御座るか?」

 

その問に、少しイラッとしつつも

 

「夫の復権です」

「・・・夫?」

「・・・立花宗茂様です」

 

その名前を出してようやく気付いたのか

大きく頷いて見せた

 

「未熟な拙者は、あの御仁には多くを教えていただいたもので御座るな・・・」

 

二代の言い方に、誾は少しだけ鼻を高くした

 

「そうなのですか?」

「jud.戦闘における相互理解で御座るな・・・」

 

戦闘で相手にそう思わせるとは、やはり宗茂様は凄い

そう思った誾だったが、次の一言でその表情を一変させた

 

「そう、確か・・・英弁風に言えば『セックス』した仲で御座るな」

「・・・」

 

ぎんはめのまえがまっくらになった

 

しかし、その誾の様子にも気づかず、二代は続ける

 

「最初は拙者と宗茂殿と二人でやっていた御座るが・・・」

「(ヤった!?)」 

「情けない事に拙者の体力が尽きてしまって少し意識が飛んでいたで御座る」

「(意識が飛ぶまで!?)」

「でもその間に康景殿が援護に来て宗茂殿とやっていたらしいで御座るな」

「(男同士で!?)」

「拙者が目覚めた時には宗茂殿が腹部を押さえて御座ったな」

「(ま、まさかの宗茂様受け!?)」

「その後は康景殿に代わって拙者が宗茂殿とすることになり、結果最後は拙者の方が刺し貫く形になったで御座るなぁ・・・」

「(ふ、ふふ、ふふふふふ)」

 

誾は肩を震わせ、青ざめて引きつったよくわからない表情で二代を見た

 

「夫の恥辱を・・・雪ぎます!」

 

目の前にいる相手も、"死神"も、両方ぶっ倒してなかったことにする

誾は自身に固く誓って突撃した

 




実際旦那をボコボコにした方の片割れが「セックス」したとか言ったら嫁さんは発狂すると思いますね・・・

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