境界線上の死神   作:オウル

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点・・・蔵・・・?


十五話 後編

いくら噛もうが

 

いくらヘタレ呼ばわりされようが

 

最終的には

 

勝てばよかろうなのだッァアアアアア!!!

 

配点(あの忍者part end)

――――――

 

や、やってしまったで御座る!?

 

周囲の同情の様な、憐れみの様な、生暖かい視線が妙に突き刺さる

噛んだ理由は

 

メアリ殿の事が好きで御座った or メアリ殿の事が好いて御座った

 

の二択で迷い、結果後者で行こうとして噛んだ

やはり事前に考えておくことは大事である

その事を実感した一瞬だった

 

ぶっつけ本番、ダメ、絶対

 

これ絶対外道どものネタにされるで御座ろうな・・・

 

康景なんて絶対宴会芸でネタにする

絶対する

あの男は絶対やる

 

くそぅで御座る・・・!

 

だがまだ諦めてはいけない

ここでフォローして巻き返せばまだいける

 

「す、す・・・睡蓮の花の様に美しい方だと思って御座った!」

 

********

 

●画『あれ?イカ忍者まだやってるの?』

礼賛者『そっち現場なんですから見ましょうよ!』

 

副会長が入場しました

 

副会長『自力で初参加、何か間違ってたら注意してくれ』

約全員『乙』

あさま『・・・一応見ててあげないと可哀想ですよ?』

 

*******

 

い、今のは無理があったで御座るか・・・

 

相手の反応を見ると、若干頬を赤らめ頬に手を当てていた

 

「あ、赤か白かで言うならどちらでしょうか?」

 

頬を赤らめる姿に一瞬赤と答えたくなったが、そもそも赤が引き立つのは元々色白だからであり

 

・・・メアリ殿は確か白の睡蓮も育てていたで御座ったな

 

ならば

 

「し、白で」

 

********

 

ノリキ『ワインか何かか?』

貧従士『い、息抜きに参加したら結構すごい展開になってますねそっち』

あさま『でもなんで色に関して聞くんでしょうか』

弟子男『睡蓮自体の花言葉には"信仰"とか"信頼"の意味があるけど、確か赤なら"純情"、"優しさ"で白なら"純粋"と"潔白"だったかな・・・よく覚えてない』

貧従士『なんでそんな詳しいんですか?』

弟子男『師匠が花好きでな、その影響で』

約全員『なるほど~』

俺『それでお前ん家色んな花育ててるのか』

弟子男『極東中を周る武蔵だと気候的に難しかったりするけどな』

ホラ子『なるほどギャップ萌えですね解ります』

弟子男『ギャップ?どうしたホライゾン?』

あさま『何か途中から康景君の意外な一面話になってますけど、点蔵君の告白は多分まだ続いてますよ?』

約全員『あ、忘れてた』

 

********

 

点蔵はメアリが頬に手を当て、更に顔を真っ赤にしたのを見た

しかし、彼女はハッとした様子で首を横に振り

 

「だ、ダメです!」

「ここで御免なさい御座るか!?やはり!?」

 

*******

 

銀狼『"やはり"ってフラれる事前提で挑んだんですの?』

煙草女『いや、やっぱ最初に噛んだりした時点で駄目だろうさね』

●画『いや、そもそも顔隠して告白とか不審者そのものじゃない?』

弟子男『お前ら辛辣過ぎないか?でも確かに、まどろっこしい真似しないでストレートに「愛してます結婚してください」で済むと思うんだ』

俺『点蔵がそんなストレートかつスタイリッシュに決められるわけないだろw』

約全員『↑同意w』

 

**********

 

「歴史再現があるんです!この処刑のために色々な人が尽力して、私が再現で殺した人々だっているんです!だから、私は犠牲にならないと・・・!」

「そんな必要は無いで御座る!!!」

 

反射的に叫んだ

内政干渉とも言われかねないが、今の自分には関係ない

 

「極東では理不尽な死に抱かれかけた者がいるなら、絶対に救いたいと思うで御座る!」

 

言う

 

「死が救いだ、などと宣えるほど極東の者は前ばかり見ているわけでは御座らぬ!」

 

それに対して反応したのは、中庭にいるエリザベスだった

彼女はただ悲しそうな声で

 

「それが・・・それが今の世だ。人の生き死にも・・・政治も戦争ももはや一種の『交渉カード』に過ぎんのだぞ?」

「ならばこの世界を征服して世界の在り方そのものを変えて見せるで御座る!」

 

言い切った

最早勢いである

 

「メアリ殿!貴女のために誰が傷つき死のうとも、貴女が死ぬ責任など皆無で御座る!」

「・・・なっ!?」

「選ばれよメアリ殿!貴女に勝手に期待した連中に罵られる道か!―――それとも、自分と共に誰からの干渉を受けずに生きるか!」

「そ、それって・・・?」

 

あれ?今自分何を言ったで御座るか?

興奮しすぎて自分でもよくわかっていないが、メアリの顔が先程よりも赤い気がする

 

*******

 

俺『俺の気のせいかな?・・・なんかあの忍者カッコ良くなってね?』

ウキ―『奇遇だな・・・拙僧もそう見える』

●画『・・・変ね、私もそう見える』

あさま『み、皆さん落ち着きましょう!"あの"点蔵君ですよ!?絶対最後には期待に応えてくれるはずです!!!!』

弟子男『お前それ失敗することを期待してるようにしか聞こえないんだが・・・』

 

*******

 

「で、でも私、こんな傷だらけで・・・」

「むしろそれが良いで御座る!」

「れ、歴史再現で何回も書類婚するような女ですよ?」

「今現在最もメアリ殿を想っているのは自分で御座る!問題ないで御座る!!!」

「英国全土が敵に回るかもしれないんですよ!?」

「構わぬ!すでに全世界を敵に回した馬鹿も、その馬鹿のために命を張る馬鹿もいるで御座るから!」

 

********

 

弟子男『その馬鹿のために命張る馬鹿って俺の事か?』

あさま『妖精女王の前に一番怒らせてはいけない身内に火を点けた感じですね・・・』

約全員『点蔵\(^o^)/オワタ』

 

********

 

「・・・どうしてそんな事を言うのですか?」

「貴女が自分の傍らで笑っていてくれるのなら、例えそれが地獄だろうと自分は乗り越えられるで御座るよ!」

 

だから

 

「貴女が拒んでも、自分は貴女を連れ去る覚悟で御座る!」

「で、でも・・・だったら」

 

彼女が少し困り顔で

 

「だったらどうしてあの時ちゅーしてくれなかったんですか!」

 

  あ

 

********

 

俺『テンゾ―のターン終了のお知らせ』

あさま『・・・よかった、いつもの点蔵君ですね』

賢姉様『あのDT忍者、なに柄にもなくカッコつけ・・・いや、いつものDTね』

●画『あのイカ臭珍しくキメてるじゃな・・・いや、いつものイカ臭DT忍者ね』

煙草女『そういや昔ナルゼがあの忍者にそんな渾名つけて皆で笑ってたな、いつくらいだっけ?』

貧従士『中等部くらいじゃありませんでしたか?あの時からたまに第一特務の周りが妙な匂いする時ありますよね?』

銀狼『・・・たまに近寄りたくない匂いがすると思ったらそういう事でしたのね、これからは少し距離を置きましょう』

女性陣『judgement』

俺『やめたげてよぉ!』

ウキ―『・・・いずれにせよ、キスしなかった理由が何であれ、"キスしない"="本気じゃない"と返されてお終いだろう』

あさま『点蔵君残念会の会場予約しておきますか?』

約全員『お前は気が早えよ!』 

 

********

 

「あ、あの時ちゅーしてくれなかったから私、ふ、フラれたんだと思って諦めて・・・それなのに今さら!だったらあの時どうしてちゅーしてくれなかったんですか!?」

 

お、おおう・・・こ、これは・・・

 

しくじった

まさかあの時点で負けフラグが立っていたなんて

これはどうするべきか

 

あの時は単にビビッt・・・ゲフンゲフン、あの時はこのような展開になるとは思っていなかったで御座るからな

 

自分の忍びとしての本分を守ったが故の展開(決してチキンとか、ヘタレとか、そういう事では断じてない)

どうする

どうすべきか

 

何を言っても「じゃあ、好きじゃなかったんですね」の台詞が目に見えている

 

その時だ

 

『テンゾ―!辻褄なんていらねぇだろ!嘘だろうが何だろうが相手は説得されたがってるんだよ!』

 

表示枠から全裸の声がした

説得すると言っても、どういった切り口で行くべきか

そこでふと、点蔵はあることを思い出した

 

そう言えば昔、誰かが言って御座ったなぁ

 

白の睡蓮の花言葉は"潔白"や"純粋"を意味するとか何とか

あれはいつ誰に言われたのだろうか

確かあの時は、肥料を買いに行かされて、長々と手伝わされた記憶がある

そのおかげで大分農作業の知識には詳しくはなったし、英国第四階層の麦畑の整備にも一役買うことが出来た

どうしてそんな知識があったのか

 

・・・ああ、そうで御座った・・・ヤス殿の影響で御座ったわ

 

変なところで変な事を思い出した

 

そうだ

先程自分は目の前の女性を白の睡蓮と言った

その事をよく考えろ

 

"純白"・・・"潔白"・・・

 

ん?白・・・

 

点蔵は一つ賭けに出た

 

「あ、あ、あの時は・・・」

「・・・」

「く、口吸いというのは・・・そ、そう、婚儀の証で御座る!」

 

********

 

え!?

 

本当だろうか

慌てて中庭にいる妹を見たが、視線を逸らされた

 

え、極東って本当にそうなのですか?

 

だとしたら随分はしたない事を要求してしまったものだが

 

「え、あ、でも、そしたら私とは結婚したくなかったって事じゃないですか!」

 

言ってて悲しくなった

少し涙目になったメアリに対し、点蔵は少し焦りながら

 

「じ、自分はメアリ殿めっちゃ欲してるで御座るが、あ、ああの時は自分の『金髪巨乳』信仰に値しているか解らなかったで御座るよ・・・!」

「そ、それって・・・厳しい諮問とかに合格しないといけないような事なのでしょうか?」

 

以前ミルトンが、極東は学力社会で大変ですぞ、と言っていたので、もしかしたらそういうのもあるかもしれない

メアリは少し身構えた

 

「べ、別にそう言った資格云々があるわけでは御座らぬが・・・そうで御座るな、まずは大きく息を吸ってもらえるで御座るか?」

「?」

 

言われ、大きく息を吸った

すると

 

「ごうかぁあああああああああああああっっっっっっっっっく!!!!!」

 

胸を触られた

 

**********

 

俺『あれ?告白時に胸触る・・・どっかで見た展開のような気が・・・』

ホラ子『奇遇ですねトーリ様、ホライゾンも近似の体験をした覚えがあります』

俺『だよな』

ホラ子『・・・』

俺『ごめんホライゾン、無言で肩パンするの止めてくださいませんか(懇願)』

弟子男『お前ら近くにいるなら直接言えよ・・・』

 

***********

 

「これにより自分の信仰は果たされ申した!!!」

「そ、それでは・・・」

 

ゆっくりと息を吸い、点蔵は言う

今度こそ言わねば、これ以上は本当にただのヘタレになってしまう

 

「じ、じじぶっ、自分はメアリ殿の事が・・・」

「・・・」

「す、すぅう・・・すきべぼうあぐ」

 

「「お前いい加減にしろ!」」

 

表示枠で身内から総スカンを食らった他、中庭にいる英国戦士団からもブーイングを食らう

 

え、英国にも自分の味方はいないで御座るか・・・!?

 

「う、うるさいで御座るよ!ちょっと黙るで御座る!」

 

半ばやけくそ気味(逆切れ気味ともいう)に怒鳴る

そしてもう一度、メアリに向かって

 

「―――メアリ殿の事が、すりれるッ!」

 

やっぱり噛んだ

 

*******

 

英国も、武蔵も、そして何故か三征西班牙までもが、その動きを止めた

 

「か、噛んだ・・・この期に及んで最後の最後で噛んだぞあの忍者」

「まじかよ・・・」

「これは流石に・・・」

 

戦場に同情的な雰囲気が漂う

武蔵でも、英国でも、三征西班牙でも、先程までの喧騒は消えていた

余談だが、今が戦時であるのは言うまでもない

 

皆が、メアリの一挙手一投足に、その告白の反応に注目した

 

「―――jud・・・私もです!」

「「(マジでェエエええええ!?今のでぇええええええ!?)」」

 

告白成功である

 

*******

 

その告白の応答に、点蔵は内心裸踊りでもしそうな勢いで歓喜した

だがそれを表に出さない様に必死で耐える

すると、ある変化が起きた

それは自分にではなく、メアリの周りに起きた

 

流体の花

 

流体で出来た白の睡蓮が、彼女の周りに咲き乱れる

 

「あ、え、ぁぅ・・・///」

 

流体の花の白さに反比例して、メアリの顔が赤くなっていく

困った表情であたりを見渡した彼女はこちらを見て

 

「あ、あの・・・」

 

そう言っておもむろに懐から取り出したのは

 

「あ」

 

自分のしているものと同じ色のスカーフだ

まさか、自分のために編んでくれていたのだろうか

気が付けば己が今使用しているのは所々がボロボロで、擦り切れそうだ

 

彼女は腕を広げて

 

「こちらへ」

 

*******

 

点蔵とメアリは、互いに王賜剣二型を挟んだまま向き合う

 

「点蔵様っ!」

 

メアリは点蔵を引き寄せるように、身を預けるように己の身を預けた

点蔵もややあってからメアリの背から手を回して、完全にメアリを抱き寄せる

 

「点蔵様・・・私の負けですね」

 

ゆっくりと目を閉じ、顎を上げ、喉を伸ばす

それに対し点蔵も

 

「いや、自分も負けに御座る・・・口吸いをスカーフ越しにするような訓練は受けて御座らぬ故」

 

そう言って彼は今しているスカーフをずらし、唇と唇が重なった

歯が当たってしまっているが、気にしなかった

 

不思議だ

誰かの体温を感じる事に、言いようのない安心を感じる

小さい頃は、実父よりも"あの二人"に頭を撫でてもらった事に安らぎを覚えた

そして今、自分が大好きな、大切な人の腕の中にいることに、懐かしさや安心を感じる

 

これから先、誰に非難されようとも、世界征服を成し遂げる手伝いをするこの人の隣にいられるのなら、そのまま咲き続けたいと思う

 

「点蔵様・・・?」

「jud・・・何で御座るか?」

「私を―――傷つけてくださいますか?」

「jud―――その傷を誇りに思っていただけるのなら」

 

思わず目の端から涙がこぼれた

だが不意に、彼の抱きしめる力が強くなる

その理由は

 

「・・・もう五分だぞ、メアリ。もう舞台は終わりだ」

 

妖精女王が"刑場"に上がってきたのだ

だがそれとは別に、もう一人、"刑場"に上がってきた者がいた

 

「いいや、リザ・・・俺とお前の因縁は、まだ終わってはいないだろう?」

 

白のコートを着た男性

自分にとっても、エリザベスにとっても、ある意味今の在り方に影響を受けた人物

康景が、王賜剣を挟んだ自分と点蔵を挟み、エリザベスと対峙した

 

*********

 

エリザベスは内心複雑だった

このニンジャがメアリを連れ去ってしまうのなら、それはそれでいい

 

・・・メアリを殺さなくても済むからな

 

それでも、それはつまりメアリがこの英国からいなくなってしまう事を意味する

それに多分ではあるが、エリザベスには一つ確信があった

 

この人はここには残らない

 

そうなったら、私は・・・

 

「やっと来たな、待ちわびたよ・・・十数年、短いようで恐ろしく長かったな」

「悪かった・・・」

「聞かせてくれるのであろう?・・・告白の返事」

「そのつもりで来たよ・・・でも、まず俺達両国家間にある諸問題を解決しておこうか」

「?」

 

そう言ってニンジャとメアリを見た

 

「そうだな・・・」

 

確かに、告白が成功してメアリがそれを受け入れたとしても、それだけの事だ

ここで内政干渉や歴史再現の妨害を証明すればこのニンジャの目論見も露と消える

 

「メアリ」

「はい」

「お前は今回負うはずだった責任の全てを、どうするつもりだ?」

「償えるのであればこの命尽きるまで償います。ですがもう、死を望むことは考えません」

「報償など莫大な金額を請求されたら?」

「点蔵様と頑張って払います」

「え?ちょっまっグフゥ!!?」

「(お前空気読めや)」

「(す、すまんで御座る・・・膨大な借金と外道商人に頭を下げる構図が浮かんだで御座る)」

 

何か言おうとしたニンジャが康景に腹パンされた

丁度鳩尾の辺りを

 

そうか・・・

 

「だそうだ・・・どうする?リザ」

「・・・」

 

するとメアリが

 

「ごめんね・・・護ってあげられなくて・・・ごめんね・・・約束したのに」

 

その言葉に、エリザベスは胸が熱くなった

そして反射的に思わず叫んだ

 

「・・・!愚弄するな!私を誰だと思っている!妖精女王だぞ!」

「あぁ、皆知っているさ、落ち着け」

「わ、私は落ち着いている!」

「わかったわかった、どうどうどう・・・」

「うにゅ!?///」

 

そして幼い子供を宥めるように、康景が自分を抱きしめた

 

くっ・・・、公衆の面前でこのような辱めを・・・いっその事殺せ///

 

何故かくっ殺女王になってしまった

チョロイン認定だけはされたくないが、なんでかこの人の腕の中はとても落ち着く

 

もうちょっと、もうちょっとだけ・・・

 

「今の言葉に説得力を持たせるなら・・・そうだな・・・」

 

そう言うとゆっくりこちらを放した

 

「・・・ぁ」

「ん?どうした?」

「あ、いや!なんでもない・・・」

「・・・?」

 

こ、この人は・・・!

 

なんでこうも鈍感なのだろうか

 

「処刑の反故に対する補填を提案しよう」

「なっ・・・」

 

いきなりの事で絶句した

 

そのような補填が・・・

 

「正純」

「ああ」

 

康景の表示枠に、一人の女性徒の姿が映る

康景の問い掛けた相手はこの場にいない者

しかし武蔵の対英国戦に置いて現状一番の権力を持つ者

 

・・・武蔵副会長か!

 

「妖精女王!武蔵副会長、本多正純がここに休戦を提言する!」

「休戦だと・・!?」

「そうだ!休戦だ!こちらにはそれを提言できる理由がある!」

「何を馬鹿な!英国の歴史再現を極東・武蔵が補填出来るカードなどある訳が・・・」

 

いや、待て・・・

 

武蔵に英国の歴史再現のカードになるような切り札は持っていないと何故断言できる

それこそこの康景の事だ

何かしらの手を打っていると考えても不思議はない

 

ならその切り札とは何だ?

 

メアリの処刑に関する補填

 

「まさか・・・!」

 

康景に問いかける

 

「私の後継者となる人物を、この二人に任せると!?」

「そうだ、歴史再現を遵守するならば、英国次期国王はメアリの子、つまりお前の甥にあたる人物がそれに当たる訳だ」

 

困惑する自分に対し、康景は更に続ける

 

「もしメアリの王としての資格を疑っているのなら、それはここで証明できる」

「何だと!?」

「今から全世界にお見せしようか、誰にも成し得なかった王賜剣の引き抜きを」

 

康景はニンジャを見た

 

**********

 

ええええ!?このタイミングで御座るか!?

 

何という無茶ぶりだ

この男は鬼か何かなのだろうか

 

いや正確に言えば"抜けない"ことは無い

これは事前の情報と自分の業でなんとかなる算段は付いているのだが、こちらに振るときの煽り文句が酷い

「今から全世界にお見せしよう、誰にも成し得なかった王賜剣の引き抜きを」

なんて言ったら皆がこぞってこちらを見るに決まっている

 

ぷ、ぷれっしゃーでお腹が・・・

 

鬼、悪魔、康景!

もちろん今現状で本人に言ったら"ヤッスヤスにしてやんよ"されかねないので心の中で叫んだ

 

「え、ちょ、わ、私以前この剣抜けなかったんですけど・・・!」

「大丈夫だメアリ、点蔵が何とかしてくれる」

「ほ、本当ですか?」

「・・・う」

 

メアリが期待に満ちた目でこちらを見る

点蔵は先程とはまた違う緊張を持って覚悟した

 

「も、もちろんで御座る・・・今回自分は、周囲に認めてもらうという意味も込めてこの剣を抜くつもりで御座った」

「「!」」

 

その言葉に、妖精女王は驚きを隠せなかった

 

「馬鹿なっ!そのような事が・・・」

「出来るで御座る!」

「ふざけるなっ!!!」

 

次の瞬間、妖精女王が王賜剣二型を抜こうと動く

 

今だ・・・!

 

「英国を守護する剣よ!」

 

思いついたというか、疑問に思っていた事

 

どうして今までこの剣を誰も抜けなかったのか

どうして先代ヘンリー八世は王賜剣を抜かなかったのか

 

色々な疑問を考えて、思い至った結論が

 

「英国を護る者の為に、地脈の鞘よりその姿を現せ!」

 

メアリの手を引き、二型の上に手を乗せる

瞬間、王賜剣二型の光が、塔の上で爆発した

 

********

 

エリザベスはニンジャと姉を見た

今己の手の中には王賜剣二型が、1メートル強の直剣として存在している

 

だが、剣を持っているのは自分だけではなかった

メアリが、二本の剣を手に戸惑ってる

 

「なんだ・・・その剣は!?」

「これが・・・王賜剣一型で御座る・・・!」

 

な・・・

 

言葉がすぐに出なかった

 

「元来精霊の物である折れた王賜剣を修復するのであれば、それはやはり精霊界、つまり地脈で御座る」

「王賜剣二型そのものが一型を抜くための鍵だったのか・・・?」

 

でもそれでは選定のための剣を自分に向けて抜くことになるではないか

矛盾である

 

だがこちらが疑問に思った見透かすように答えたのは康景だった

 

「王に対して剣を抜く・・・所謂"奉剣の儀式"だ」

「私の行動が引き金になった訳か・・・」

「おかしいと思わないか?地脈に関して研究していたお前らの父親が地脈に関するこの剣を引き抜けない道理があるのか?」

「・・・」

 

それは、何度か考えた

父は剣を"抜けなかった"のではなく"抜かなかった"のだと

だがそうだとすると、何故抜かなかったのだろうか

それが解らなかった

 

「俺にはヘンリー八世の事は解らない・・・だから俺の言葉はただの希望的観測に過ぎないが、お前らに残していったんじゃないか?」

「・・・本当にそうなんだろうか」

「さぁな・・・よく皆から"鈍感"とか言われる俺の考えだから、聞き流してくれていい。でも、その方がずっと良いじゃないか」

「・・・」

 

この人が英国を去って以来、父とは疎遠だった

いや疎遠というよりは父の方が距離を置いていた

そしてそのまま関係が修復することもなく父は消えた

 

何の和解も、何の説明もなかった

そして例の資料を読んだ際、父をただの肉親程度にしか思えなくなった

 

だが、もしすべてを見越した上での行動だったのなら・・・

 

「・・・人というものは全く持って解らぬな」

「ああそうだな、難解で複雑で、どうしようもなくわからないよ・・・本当に」

 

康景とメアリを見る

 

「これで・・・メアリが王に相応しい事が証明されたわけだな・・・」

 

ならばもう、否定要素がない

自嘲気味にそう呟いた

 

「貴方も・・・行ってしまうのだろう?」

「・・・すまない」

「いや、何となく解っていたよ・・・貴方が、彼らを見捨てるわけがないと」

 

自分の告白は、可能性がない事を解っていて告げた事だ

それでも、ゼロでないなら、そこに賭けてみたかった

 

「・・・ああ、俺は行くよ。俺をダチだと言ってくれる馬鹿共がいるし、それに・・・」

 

彼が言いよどむ

 

「惚れた女がいてな、そいつとの決着も、今夜つけなければならないんだ」

「・・・!・・・そうか」

 

ああ、フラれてしまったわけだな・・・

 

不意に胸の奥が苦しくなった

顔にも熱を感じる

目尻に涙が浮かぶ

 

「あ、あれ・・・」

「・・・」

 

涙がとめどなく溢れ出る

 

情けないなぁ・・・こんな、こんな

 

この人のように強くなりたくて

この人のように誰かを護れるようになりたくて

この人のように誰かを導けるようになりたくて

 

王に相応しくない者と謗られない様に

 

勉強をした

剣技も憶えた

家臣として相応しい者が集まってくれた

 

自分なりの努力はして来たつもりだ

それでもこの人の前に立つと

 

・・・幼かった頃の自分に戻ってしまったみたいだな

 

自分を護ってくれていた姉を、自分の立場が故に処刑することを強いられ

そしてそれを変えることの出来ない自分に絶望して

そんな絶望的な世界の中で、またこの人が現れて

そして今メアリを救おうとしている

 

私は護られてばかりだな・・・

 

「情けない女王だな・・・私は」

「・・・馬鹿」

「痛っ!?!?」

 

不意に頭を殴られた

思ったより痛かったので頭を押さえてうずくまる

 

「ッ~~~!?!?!?」

 

こ、この人の拳骨は痛すぎるぞ・・・!

 

悶絶して動けなくなっているところに、康景はゆっくりとこちらに寄り

 

「そうやって自分の行為を否定するなよリザ」

「・・・」

 

うずくまっているこちらに目線を合わせるため、屈んで

 

「俺は英国に来て、この国を、倫敦の街並みを、良い場所だと思ったよ」

「・・・」

「料理に関しては俺の方が美味かったけど、お前の国の人々は、こぞってお前の事を信頼していた。お前のそれは、お前が統治してきた国を、人々を否定することになるんだぞ」

「・・・!」

 

何も言い返せなかった

感情が昂ると失言が多くなっていけない

 

「・・・俺はお前に"また会える"なんてほざいて、十数年待たせてきた屑だ。でも、お前は違うだろリザ、国のために動いて家族を想って苦しんだ・・・切り捨てられないのは、お前が優しいからだ・・・家族を切り捨てないと悩んで苦しんだ優しさを持つお前を、俺は誇りに思うよ」

「私は・・・」

「お前が歴史再現を遵守しなければならない立場で苦しいのなら、俺達が歴史再現の外側から救う・・・これはお前の為だけじゃない、俺自身が嫌だから、俺自身が歴史再現で大事な人を失いたくないから救うんだ」

「そうやって誰かを救うために誰かから憎しみを背負って生きるのか?」

「その事で散々仲間から文句言われたからな、その辺は悩みをため込まない程度に皆に相談していくさ」

「貴方と姉に去られるのは・・・哀しいな」

「メアリは俺とそこの忍者で護るし、多分メアリの世話になることもあるから、メアリの事は心配しなくていい・・・それにお前も一人じゃないだろ」

「・・・そうだな私にもこの英国に、信頼できる仲間も、友人もいる・・・一人じゃ、ないんだな」

 

エリザベスがそう言うと、康景はゆっくり立ち上がる

そして本当に名残惜しそうそうに、記憶に焼き付けるように英国を見渡して

 

「名残惜しいけれど・・・行かないとな」

「待ってくれ」

 

彼を引き留めた私は、彼の唇に、そっと口づけをした

 

*******

 

康景は、エリザベスの不意の接吻に心底驚いた

 

一国の女王がそう簡単に・・・

 

そう思い、すぐにその思いを消した

簡単に、ではない

そんな言葉で片づけて良い事じゃない

 

「これで、さようならだな・・・康景」

 

"さようなら"

 

その言葉はこの場には相応しくない

少なくとも今の康景はそう思った

だから

 

「馬鹿・・・違うだろ?・・・こういうときは"また会おう"だ」

 

"また会える"と言ってこの少女を縛ってきた罪が自分にはある

"会える"なんて不確定な言葉ではなく、"会おう"と約束してしまった方が良い

不確定な言葉じゃなく、絶対にまた会うと約束しなければ、この少女をまた苦しめてしまう

エリザベスはその言葉に嬉しそうに、されど威厳ある風格で

 

「・・・ああ、そうだな・・・"また会おう"、康景・・・姉を・・・"姉さん"を、頼む」

 

こちらに対し、深々と頭を下げた

そしてメアリを見て

 

「姉さん・・・」 

「ありがとう、エリザベス・・・私は、人を望んだ端女は、人の街で貴女の夢を護れるように生きていきます・・・ありがとう、私の半身、愛しい妹、また会う日まで、しばしのお別れです」

 

メアリが潤んだ声で告げると、不意に風が来た

輸送艦だ

輸送艦にはすでに英国に残った武蔵の面々が残っている

そして縄梯子が吊るされ、康景はそれを掴んだ

康景は英国を見て、エリザベスを見て、呟いた

 

「俺は、またこの国に来るよ・・・それまでの間は暫くお別れだ」

 

*******

 

輸送艦に乗った康景は、小さくなっていく英国を見た

 

「・・・大丈夫?」

 

そう気にかけたのは喜美だった

康景はそれに対して

 

「ああ、全部の謎は解明していないけど・・・俺にとっての"英国"は、一区切りついた」

 

苦笑い気味に答えた

 

「・・・そう」

「それに、まだアルマダは終わってないんだ・・・だから、終わらせに行かないと」

「・・・無理しないでよ?」

「無理して崩れそうになったらお前の膝枕で泣くから大丈夫だよ」

 

冗談とも本気とも言い方に、喜美は笑った

 

*******

 

余談ではあるが、英国、武蔵の通神内検索ワードで『噛んだのに告白が成功したあの忍者』、通称"あの忍者"が検索トップに出たのは、言うまでもない

 

 




???「やったね点蔵、家族が増えるよ!」

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