境界線上の死神   作:オウル

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人って大事な場面の時ほど噛みますよね

え?噛まない?

点蔵君は噛みますよ?


十五話 前編

噛んだって

 

いいじゃない

 

人間だもの

 

By点蔵・クロスユナイト

 

配点(あの忍者part3)

――――――――――

 

ダッドリーは高速で相手と自分の間を行き来する十本の矢を打ち返し続ける

 

ままままま負けない!

 

負けてはいけないのだ

 

「だっどりー!」

「かかかかか勝つわよ!―――わわわわわ私たちは・・・」

 

女王陛下の側近なのだから

 

側近の役割は色々あるが、まず負けが意味することは、女王への謁見を無条件で許してしまう事になる

自分のミスで女王陛下に迷惑をかけるのは避けたい

 

「っほほほほほ本気で行くわよ!」

 

この相手は優秀だ。そんなことは解っている

そんな相手のリベンジなのだから、こちらも本気でやらなければならない

対する相手も

 

「徹夜Mode!!!」

 

右袖をまくりペンの持ち方を変えた

描く絵が先程よりも力強いものになっている

 

これが本来の画風・・・

 

そして相手はというと

 

「―――」

 

笑っていた

何がそんなに楽しいのか

そう言えば文系の役職者はよくそういう顔する

シェイクスピアやジョンソンが創作活動をする際、目が笑っている事が多い

 

こっちを見なさい!

 

戦闘に集中しろと言いたくなるが、同時に思うのはやはり

 

ままままま負けられない理由ならっこここここっちにだってあるのよ!

 

自分にだって集中できることはある

女王陛下と一緒に居る事だ

妖精女王は正直言うと面倒臭い人である

 

書類に不備?当たり前

失言?日常茶飯事

仕事ミスった?開き直るよ

 

そんな御人だが、自分には大事な人なのだ

何故なら

 

あの人に救われたのだから

 

***********

 

セシルは半裸の女に荷重を掛けつつダッドリーを見た

 

だっどりーはつよい・・・

 

セシルはそのことを知っている

ロバート・ダッドリーは、エリザベスの愛人とも言われた男であるが、彼女の寵愛を得るために自分の妻を暗殺したと嫌疑も掛けられた

 

その襲名のために身内から投獄され、歴史再現における不名誉を"解釈"によって最短で済まそうと考えられた

出口のない生き地獄の中、彼女は自害まで考えたがそれも叶わずに生かされ続ける

どれほどの地獄だったかは計り知れないが、その生き地獄から救ったのも

 

じょうおうへいかだったのー・・・

 

ダッドリーが自慢するかのように毎日話してくるのでその武勇伝を嫌でも知っている

だからダッドリーが付けているあの鉄球は、聖連に文句を言われないために『囚われた』ままにしておきたいのだ

 

自分も同じである

 

彼女と一緒に居たい

自分に何が出来るかは自分ではわからない

多分その辺が自分の不出来な点なんだろう

 

それでも、他人が自分の良さを解ってくれているならそれでいい

女王陛下が笑ってくれているならそれでいい

 

だから負けない

 

「セシル!」

「まけないのー!」

 

だが、セシルはありえないモノを見た

 

「素晴らしい!」

 

半裸が荷重を全く無視して進んでくるのだ

 

********

 

ふふふ、たまにはいいわね・・・こういうのも

 

喜美は少しだけ汗を掻きながらゆっくり、一歩ずつ進行した

 

「素晴らしい!」

 

ここ最近の世の中の流れでは、歴史再現で"負けなければならない"とかいう辛気臭い風潮がある

そんな風潮がある中でこうやって負けない様に立ち向かってくるのは本当に素晴らしいと思う

 

「私は、負けない女も負けない男も好きよ」

 

康景が『歴史再現』に否定的なのは知っている

昔、康景が

 

「あらかじめ決まっている人生を歩むことに、なんの意味がある?」

 

とか中二病染みた事を言っていたのを思い出した

康景自身が別に勝ち負けに拘っているわけではないが、身内のためにならアイツは基本負けない

多分それも影響してるんだと思う

 

「花はね?基本潰れないのよ。どんなに押しつぶされても春にはまた茎を伸ばして咲くし、枯れたってまた春には咲くの」

 

停滞せずに、喜美は進む

 

「だから花って言うのは重圧にも耐えうるのよ。その姿を見て人は花をこう評するの―――"咲き誇る"ってね」

 

アイツが今回、どんな思いで戦っているかは知らない(本人じゃないし)

 

・・・それでもあの馬鹿が私を待たせている自覚があるのなら、私はそれを待たなくちゃね

 

待ってあげてないと、一人でどこかに行ってしまいそうで

一人にすると、なんだかその背中が酷く寂しく見えて

 

アイツが一人で悲しむのは、もう見たくない

一人で悲しんでいるなら、隣で支えたい

一人で悩んでいるなら、一緒に悩みたい

アイツが自分を否定するなら、私はそれを肯定してあげたい

そんな事を最近よく考える

昔付き合っていた時よりもその思いは鮮明で、確たるものだ

 

だから喜美は、康景に「待たせるのは終わりにする」と言われた時は嬉しかった

だからこそ、天野康景という男を待っている葵喜美という女は、堂々としていなければならない

だから喜美は進んだ

 

馬鹿の居場所になるために

 

********

 

セシルは半裸が一歩一歩進むごとに自分が落ちているのを感じた

 

・・・どうして?

 

自分の術式が解かれているのだ

荷重を掛ければその重さで踊れなくなる

しかし、それでもなお半裸は進む

だがどうしてだと思う反面、一つの答えに思い至った

 

「あしおと・・・!」

「あら?貴女やるじゃない・・・そうよ、腕を振ったり足音を鳴らしたりするのは太古の昔からあったの。そして母の胎内で聞き覚える波音の様な音が根源で、舞が生じていったの―――歌も踊りも、豊穣を喜ぶもの・・・生命の営み、つまりセクースね!?」

 

てんしょんたかいのー・・・

 

ちょっとだけ引いた

 

「貴女にだって踊りはあるの、誰にでもね」

 

そういう事か

何となくだが解った

 

こどう・・・

 

自分の心臓の音である

先程の半裸の話が確かななら、自分も踊ってる事になる

 

だが相手の術式のハッキリとした答えを導き出す前に、半裸の笑顔はもう水平の位置にまで来ていた

 

「だっどりー・・・」

 

********

 

「なにこれ!?何このピンチ!?康景を主人公にしたBLハーレム同人を描いてるの本人にバレて鈍器片手に追っかけられてる感じ!?それともアイツの寝顔描いてミトツダイラに高値で売りつけてやったのがバレて一週間くらい口を利いてもらえなかった時の感じ!?」

 

あああああアンタの危機は常に身内なのっ!?

 

そうツッコみそうになったが、ダッドリーもこの戦いに集中した

アーバレストによる追加射撃をして、今ラリーをしている矢は五十本にも及ぶ

打ち返すこちらに対して、向こうは絵で対抗してくるのでスナップなどで打ち返せる打ち返せるわけではない

ならばこの辺りが敵の限界だろう

だからダッドリーも勝負に出た

 

右利きの魔女には打ち返しづらい位置にアーバレストの連射を叩き込む

 

だが

 

「・・・?」

 

数字だ

今まで幾度となく書かれていたが、その最後の数字の単位は

 

まままま魔術式のためのAtell!?

 

今までの相手が書いていた絵が、防壁術式として展開した

マズいと思うよりも先に、五十本の矢が打ち払いの防壁術式によって返ってくる

 

「入稿!」

 

魔女がそう叫んで背後に倒れた

止めとして放った五十本が、自分に返ってくる

 

「くっ・・・!」

 

返しきれるだろうか

いや、返さなければならない

負けてはならないのだ

 

しかし一瞬走馬燈の様に女王陛下との思い出が頭を過ぎった

駄目だ、縁起でもない

ダッドリーは打ち払いの聖術にてその矢群を打ち返そうとしたが

 

「なっ!?」

 

空を切った

空振りしたのだ

 

当たる

 

そう確信した

 

「・・・陛下」

 

だが、その矢群がダッドリーに当たることは無かった

何故なら

 

「だっどりー!」

「セシル!?」

 

セシルの荷重によって矢が全て叩き落されたからだ

ありがたいと思うより、その結果は一つの動きを示していた

 

セシルが落ちる!

 

荷重対象が無くなれば、後はセシルが落下してしまう

案の定セシルが落下を始めた

 

マズい

ダッドリーは駆けた

普通の人間の落下ならともかく、セシルほどの体重が落下するとなると、話が違う

自重による落下と、身動きを取る事が難しい彼女が落ちれば、肉体へのダメージが大きい

だからダッドリーは走った

 

今ダッドリーの傍に居るのは、半裸の変な女だけ

あの女の術式も、どちらかというと弾くための術式だ

受け止めることには不向き

自分の術式もまた弾くもの

 

・・・何も出来ない

 

そう思った時だ

 

「「根性!!!!!!!!!」」

 

背後に控えていたはずの戦士団が、セシルを受け止めるために真下に走ったのだ

受け止める

しかし

 

「「ギャアアアアア!!!」」

 

潰れた

だがセシルの下から手を出した戦士団は

 

「―――!」

 

親指を立てた

転ぶような動きに唖然としつつも安心を得た

辺りには敵も味方もいる

呆けている場合ではない

 

自分はどうすべきか考えた

 

「なななな為すべきことを為し、かかかか介入があったために引き分けと言ったところかしらね」

「フフ、そういう言い訳で逃げる気?」

 

何とでも言うがいい

必要なのは負けない事なのだから

 

*******

 

ミトツダイラは前に出た

勝つために

 

対するウオルシンガムは、前面に刃群を配してこれを迎え撃った

ウオルシンガムの背後に回ろうとするこちらの動きに対し、ウオルシンガムは前に出る

 

的確な判断だ

流石は自動人形というべきか

 

ミトツダイラは丸太を括りつけた銀鎖の内三本を前に出した

ウオルシンガムがこちらを見ないのは、やはりOSによって全方位を知覚し、銀鎖を弾ける自信があるのだろう

 

ならば

 

ミトツダイラは懐からあるものを取り出した

 

*******

 

ウオルシンガムは敵がこちらの頭上を飛び越えたのを確認した

こちらの背後に回って攻撃するつもりだろうが、こちらに死角はない

敵が着地したところで千本薔薇十字を食らわせればいいだけだ

 

だが、不意に狼が懐から何かを取り出すのが見えた

あれは

 

「?」

「檸檬の御返しですわ」

 

筒の様なものを背後から投げられた

それは自分の傍まで来ると

 

「!?」

 

光った

閃光手榴弾だ

 

目くらましのつもりか

 

この後の展開はわかりきっている

四本の銀鎖の内、足場にしていた一本をこちらに放ってくる気だ

これは丸太を付けてないので簡単に弾けるはず

 

視界が元に戻る

たった一瞬の事なら、戦闘用の自動人形なら普通に対処できる

案の定来たのはその鎖だった

 

行けると思い、ウオルシンガムはその銀鎖を弾こうとするも

 

「!?」

 

逆にこちらの千本薔薇十字が弾かれた

 

*******

 

今何が起こったのか、敵は解っていないだろう

自分がやったことは単純な事だ

 

銀鎖の穴を刃で穿たれる前に捩り、嵌めてから投げ飛ばした

 

それだけだ

 

どうやってこれを思いついたかというと、康景の焼き肉捌きである

あの日以来どうしても康景と焼き肉が食べたかったので、御広敷系列の焼き肉屋の肉を買い占めて康景の家に持って行った

焼き肉屋でお金を浪費する事には渋る康景だったが、こちらが持って行った肉ならば喜んで焼き肉に応じてくれた

 

その際の康景の肉を焼く際の手際の良さと、その手の動きで思いついたのだ

 

焼き肉で戦法を思いつくのは自分くらいなものだろう

そのままの勢いで、銀鎖でウオルシンガムを噴水に叩きつけた

水しぶきを上げて叩き落された敵を追撃する

 

ミトツダイラは視線の先で、敵の動きを見た

こちらを見ることもなく、正確に十字砲を向けきたのだ

背後を把握している背面射撃

それでもミトツダイラは進んだ

 

撃たれる前に討つ

 

その砲塔から威力が放たれる前に

 

「せいっ!」

 

砲塔の発射口を潰す

途端威力は逃げ場を失い、砲塔の先で膨張し、爆発した

その爆発によってウオルシンガムも吹き飛ぶが、ミトツダイラはこれを逃さなかった

 

吹き飛んでいくウオルシンガムの後頭部に手を突っ込み、あるものを引き抜く

 

「そこですの!」

 

ウオルシンガムを叩きつけながら引き抜いた物は

 

走狗・・・?

 

その姿は小さなウオルシンガムという容姿で、大きさで言えば二頭身サイズ

御広敷が歓喜しそうなサイズだ

尻尾の様な後ろ髪がぴょんぴょん撥ねているが、その顔は既に泣き顔で

 

『Noh~・・・』

 

首を振っていた

それは既に戦意は無いように見える

 

「貴女がこの自動人形のOSですのね?」

 

ゆっくりと首を振るその姿に、ミトツダイラは思わず可愛いと思ってしまった

 

いけませんわ、これでは御広敷ではございませんか・・・

 

心の中で御広敷を否定して、ウオルシンガムのOSを噴水の石組みに下す

 

「御免あそばせ・・・そろそろ行かねばならぬので」

 

ミトツダイラは勝った

負けなければ、約束は反故にならない

その事を康景に報告できるのが、ミトツダイラは嬉しかった

 

*******

 

倫敦、テムズ川付近の町で、リア王と道真の戦いが起こっていた

しかし、その二人を操っている作家二人はその場から動いてはいない

 

ネシンバラは思う

 

"言葉"は曖昧ではあるが、想像の面白さがある

その"言葉"を持ってして自分は何を伝えたいのか

道真に対してリア王が剣を振り下ろす

 

<受けろ、受けて耐えろ>

 

敵はこれで最後だ

ずっと昔、武蔵に流れ着く前の事

自分と一緒に居た彼女は、どっちだっただろうか

 

暇つぶしに始めた創作に夢中になり、互いに功を競い合った

いや、向こうが二人だったなら『互い』にではないのかもしれないが

あの時はよく自分が作ったものをボロクソに言われたものだ

それに引き換え自分が彼女の作品を見る時は特に批判も出来ず苦汁を飲まされたのを覚えている

今も多分、彼女の作品には否定できる要素は少ないのだろう

 

<慢心を殺せ>

 

したら負ける

 

<彼女のところに行こう>

 

だから進め

 

<だから勝て、踏み込め!鋭く進め!>

 

彼女に会うために

 

<君の所に行こう!>

 

「ねぇ?」

 

不意に彼女が問う

 

「"僕"はどっちなの?」

「それを今から確かめに行く」

「昔の、君といた時の"僕"が"私"なら・・・それなら"私"は、どこへ消えたの?」

 

彼女の、ネシンバラに問いかけるような、自分自身に問いかかけるような物言いに、ネシンバラは口を噤んだ

これは選択肢を間違えてはいけない

 

<力は王の下へ向かう>

 

「しかし若き王に刃が届く」

「王の刃は愛しき者を穿った」

「王は自身の正しさ故に絶望した。自身が信じる正しさによって、王は孤独を得た。その正しさと虚しさを知った王は、自信を恨みながら―――」

 

駄目だ

これ以上言わせてはいけない

『マクベス』は終わる

しかし、その選択肢によるエンドはハッピーエンドではない

ただの悲劇だ

 

それは多分、彼が言った『終わらせろ』の真意ではない

それは解っている

なら自分はどうすべきか

 

<マクベスよ、王を救え!>

 

自分はかつて、彼女を一人にした

生き残るために、皆が散り散りになって、逃げた

だけど、その選択は間違いだったのかもしれない

彼女と一緒に居るべきだったのかもしれない

 

だけどそれは"イフ"の、仮定の話でしかない

 

過去を悔いて生きてきたのは、僕だけじゃない

僕たちの馬鹿な王も、僕たちの阿保な友人も、自分の行った行為を悔いて生きてきた

でも彼らは前に進もうとしている

 

なら僕も進まなければ

 

だからネシンバラは終わらせる

自分の悲劇を、終わらせて見せる

彼の真意は、多分そういう事なのだろう

 

でもこういうことを彼に言ったら、多分否定するんだろうな

 

ネシンバラは内心自嘲気味に笑った

 

「王の簒奪を完全とするマクベスなんて、マクベスじゃないよ!」

「あっても良いじゃないか!」

 

止めて見せる

シェイクスピアの術式を術式的に分解し、再構築する

 

たまに思う

人生に悲劇は付き物だ

悲しいことくらい、いくらでもあると思う

だからせめて、悲劇を否定する二次創作があったっていいじゃないか

皆が笑って追われる最後があったっていいじゃないか

 

<王を救え>

 

彼女を救え

 

<自身の正しさ故に孤独になる王を救え>

 

今度こそ僕は、君に会いに行く

 

<簒奪者は王と共にある>

 

そんな簒奪者が居ても良いじゃないか

 

<その意思は、緩やかに、確かに、君と共にある>

 

マクベスが、王と共にある道を選んで、終わった

 

*******

 

全てが終わった

否、アルマダや英国における戦争が終わったわけではないが、少なくとも自分とシェイクスピアの因縁には、一つの区切りがついたと思う

 

「私は・・・どっちなんだろう、終わっても結局解らないや」

「・・・僕を好きな方でいいじゃない?」

「な、ななななに言ってるの君、頭おかしいの///」

 

照れながら言うその姿に、思わずドキッとしてしまったのは、皆には内緒だよ?

 

それが自分を嫌いだという否定じゃない事を確認して、ネシンバラは力なく座るシェイクスピアに近寄る

 

「僕は今ここにいる・・・君もまた、ここにいるよ」

「・・・うん」

 

頷きながら紙袋から取り出したのは

 

・・・大罪武装

 

"拒絶の強欲"だ

彼女はそれをおもむろにこちらに差し出した

 

「いいのかい?これが無くなったら、襲名解除だって・・・」

「いいんだ、今後僕より、君達に必要だろうし・・・それに、今以上の体験をする作家なんてそうそう居ないよ」

 

苦笑いで渡してくる"拒絶の強欲"を、ネシンバラは受け取った

 

「マクベスが王になれる物語があるなら・・・」

「・・・?」

「マクベスと一緒に居たい王の物語があってもいいよね」

 

先程の苦笑いでもなく、可愛らしい笑顔で告げたシェイクスピアを反射的に

 

「!?」

 

抱き寄せた

 

「なななななな何を!?///」

「僕は絶対にまた書くよ」

「・・・うん、待ってる・・・その作品の第一読者は、私だよね?」

 

その言葉に、ネシンバラは苦笑いした

これは下手な作品は書けないかな

 

この時、ネシンバラは気づいていなかった

倫敦市民の大半がその一部始終を見ていたことに

 

そしてその倫敦市民の殆ど(特に独身男連中)が

 

『武蔵書記爆発しろ!』

 

とスレに書き込んだのは言うまでもない

しかし、これを超えるスレがすぐに誕生することに、この時は誰も気づいていなかった

 

*******

 

康景は敵を見た

向こうも康景の狙いに気付いたのか、また構え直す

 

流石、歴戦の経験者は違う

やはり年長者は敬うべきなんだろう

でも、それでも康景は進まなければならないのだ

 

謝らなければならない相手がいる

十数年待たせた、妹みたいな二人が

一人は点蔵が何とかするとしても、もう一人はやはり自分が何とかしなければならない

 

その後で三征西班牙に後輩のお礼参りしたり、そして

 

喜美に、俺は・・・

 

ああ、やる事盛りだくさんだな

やる事が多すぎて康景は内心、笑った

 

構えを取る

腰を落とし、長剣を逆手に持つ

上手くいくかはわからない

それでも、決められるならやって見せる

 

これくらい出来なきゃ、先生に笑われるしなぁ

 

********

 

ウォルターは、敵の空気が変わったのを感じた

 

・・・来る!

 

その確信があった

この雰囲気は、一度経験したことがある

 

自分がまだ若かった頃、武芸の達人に出会った

その女は傲岸不遜に笑い、若いのか老けているのかよくわからない捉えどころのない女だった

この男もまた、それに似ている

 

何をしてくるか解らない

次に何が飛び出すか解らない

その実一つ一つの行動が重い

捉えどころがない、流水のような技量

そう言った一種の緊張が生まれた

 

こういう相手は、久しぶりだ

 

だからウォルターも、その動きに全力で応えるため、身構えた

その瞬間、敵が来た

 

だが来たのは、天野康景ではない

彼が持っていた長剣が先に飛んできたのだ

 

「!?」

 

回転しながら飛んでいく剣を、ウォルターは紙一重で躱した

その時だ

 

「!!」

「!?」

 

敵が自分の背後で、自分で投げたはずの剣を掴んでこちらに振りかざしてきたのだ

速い、と思うよりも先に、ウォルターの中では一つ確信を得た

 

この男は、自分が投げた剣と"同じ速度"で走ってきたのだ

 

長剣に驚き、一瞬そちらに目が行った隙を突いてきた

自分が投げた物と同じ速度で走ってくるなど、離れ業の様に思う

 

しかしその一方で、これくらい対処できなければならないという対抗心も自分の中に生まれた

 

最小限のターンで、背後に振り返りつつ重力刀を振った

こちらの方が早く当たる

その自信があった

向こうは自身が投げた剣の遠心力ですぐには剣を振り抜けないはず

そのため短い動きで重力刀を振り抜くことが出来るこちらが有利

 

そのはずだった

 

横一線に振り抜いた重力刀は、敵に当たることなく空を切ったのだ

 

何が起こった?

 

答えは簡単だった

敵が剣を無理やりに地面に突き刺し、柄を足場に空中に飛んで避けた

それだけだ

 

なっ・・・!?

 

驚異的な身体能力

 

成程、これが"死神"と称された男の技量か

 

背後に回った敵を打ち倒そうとして背後に振り向いたら更に背後に回られる

ウォルターは己の中に納得を得た

 

そして宙に舞った"死神"が、懐から取り出した数本のナイフを投げてきて足に当たる

足に鈍い痛みが走る

 

機動力を奪われた

そして綺麗に着地した康景が、少し大きめのナイフを両手に構え

 

「!?」

「―――」

 

脇腹、右腕を斬ったのだ

 

くっ・・・!?

 

利き手と足をやられ、片膝をつく

ゆっくりと長剣を引き抜いた彼は、こちらに振り向き、言った

 

「・・・俺の勝ちだ」

 

そう告げた彼は、倫敦塔に走っていく

こちらに止めをささないのは

 

女王陛下を頼むと、そういう意味合いだろうか?

 

我らが女王も難儀な御人だが、この男もまた、大変難儀な男だと、ウォルターは内心笑った

 

********

 

点蔵は走った

戦士団の追撃も迎撃も躱し、ひたすら進む

 

「おおおおお!!!!」

 

これで失敗したりしたら康景に殺されてしまう

彼はそんなことはしないが、社会的に抹殺されそうで怖かった

 

倫敦塔の濠の上、水上を走る

水上走りは忍者の嗜みだ

倫敦塔の壁の上に、メアリがいる

 

もう少し、もう少しで御座る・・・!

 

だがそこでふと思い出す

 

じ、自分、Noプランで御座ったぁああああああ!?

 

告白しようにも台詞を考えていなかった

loveしちゃったとか宣いておきながらそんな調子では、外道連中に何を言われるか解ったものではない

しかしここまで来た以上、行かねばならない

 

『失敗しちゃいました』で済ませられる問題ではないのだから

 

北西塔、"刑場"がある場所に、点蔵は辿り着いた

 

そこに居た金髪の女性に、点蔵は声を掛ける

 

「メアr・・・」

「・・・私を誰だと思った?極東の忍びよ・・・」

 

その女性には、傷が無かった

 

********

 

点蔵は今目の前にいる女性と、中庭にいる女性を見た

中庭に居る女性は、戦士団に囲まれ、傷がある

そして

 

「お帰り下さい!この状況を切り抜けるなんて無理です!」

 

中庭にいる方が、懇願するようにそう叫んだ

それに対し点蔵は深く息を吸い

 

「・・・嘘は・・・無しで御座るよ、メアリ殿」

 

中庭にいる方ではなく、目の前にいる傷の無い方をメアリと呼んだ

目の前にいる方は目をぱちくりさせて驚いているが、中庭にいる方が

 

「な、なにを言っているんですか!?メアリは私です!ここは私に任せて早くお帰りくだ」

「黙るで御座る!」

 

叫んだ

点蔵にはある一つの確信があった

 

「メアリ殿の方がわずかに巨乳で御座る!金髪巨乳を己が信条にしている自分にこの程度の嘘、通用しないで御座るよ!」

 

********

 

その時の皆の反応

 

約全員『審議中(´・ω)(´・ω・)(・ω・`)(ω・`)』

弟子男『お前らの連帯感ってホント不思議だよな・・・俺も今のはどうかと思うが』

あさま『ま、まだこれからなんですよ!?点蔵君の人生のピークくらい応援してあげましょうよ!』

約全員『お前が一番ひどいよ!?』

弟子男『俺が着く前にリザに殺されなきゃいいけど・・・』

あさま『そうやってフラグ立てるの止めましょうよ・・・』

俺 『ヤス今どこ?』

弟子男『今倫敦塔に向かってる最中だお』

俺 『点蔵が自爆して死ぬのが先か、ヤスが妖女の足止めをするのが先か・・・』

 

********

 

中庭にいる方の女性が、笑いながら顔の傷を拭う

 

「成程、そう言った見分け方もある訳か・・・あの人以外で見分けられる人がいたとはなぁ。いいだろう、今回の賭けはお前の勝ちだ、メアリ。五分間待ってやる」

 

やはり向こうがエリザベスだ

そして今目の前にいるのは

 

「・・・」

 

傷の隠しを拭い去ったその女性は、思った通りメアリだった

 

五分間の猶予

告白が成功しようがしまいが潰しに掛かれる時間だ

現状、詰み一歩手前あたりだが、告白して連れ去ってしまえば問題ない

 

そんなプランで大丈夫か?

 

と聞かれれば

 

大丈夫で御座る、問題ないで御座る

 

と答えるしかないだろう

 

やってやる、やってやるで御座る!

 

「めめめめめめめめあっ、めアリどのの!」

「じゃ、jud!」

「じじじじっぶぶぶっぶうぶん・・・ゴッホン」

 

お、落ちつくで御座る

深呼吸で御座る

 

ここでしくじれば一生連中のネタにされること間違いなしだ

 

息を整え、構え直してもう一度

 

「じ、自分、メアリ殿の事が・・・すいれっ!」

 

噛んだ

 




という訳で点蔵の告白の行方は次に持ち越しです

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