境界線上の死神   作:オウル

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目が痛いです

※修正・加筆しました



四話

何年たっても どんなに忙しくしてても

 

思い出してしまうものは何か

 

配点(過去)

 

――――――――――

 

山道、貨車によって固められた道上を三つの影が歩いていた。

 

一人は武蔵の武蔵の学長である酒井忠次、一人はその護衛のためについてきた副会長本多正純、そしてもう一人は・・・、

 

「なぁ康景?お前なんでこっちに?」

「ん?ああ、ちょっと酒井学長の知り合いに用というか・・・」

 

正純としては今回の護衛に随伴してきた康景がいる理由を聞いただけなのだが、珍しく康景が返答に困っている。

 

何かまずかっただろうか・・・?

 

大抵の質問には答えてくれるので、正純は聞いてはいけない事なのか不安になった。

とりあえず、話題を変えようと頭をフル回転させる正純だったが先に話題を変えたのは康景だった。

 

「そう言えば今日の夜、トーリ達が教導院で告白前夜祭で幽霊払いやるけど、正純は来るか?」

「い、いや、一応副会長だしなぁ、そんなこと聖連に知れたら・・・」

「いや、大丈夫だよ連中と同類に見られるだけさ」

 

前を歩く酒井が生徒の会話に混ざってきた。

軽く言うが、正純にとって副会長としての立場や父親の立場などを考えると、素直にハイと言えなかった。

 

「ダメじゃないですか・・・大体先日も多摩のレストランでミトツダイラの取引相手の局部に激辛カレーを投げつけたとかでちょっとした騒ぎになったじゃないですか」

「あぁアレね・・・あれ実はミトツダイラ家が欲しくてネイトに言い寄ってきたハナシ・・・知ってる?」

「・・・ハイ?」

「なんか襲名関係狙ってミトツダイラ家に近寄って、ネイトも家の事とか色々あって断り切れなくて悩んでたんだよね。そのことで俺、相談もされたし」

 

初耳だった。

正純は事件があったことは知っていたが、詳細は知らなかった。

酒井があの時の騒ぎの詳細を話すと、康景もその話について知ってることを話した。

 

「あぁあの時ですか・・・あの取引相手は酷かったですねぇ、俺も如何に事故に見せかけて局部にハッサン直伝の激辛カレーを当てるか、思案しましたよ」

「ん?お前が主犯か!?康景?!」

「主犯じゃないぞ、実行犯ってだけで・・・事件の計画主導は大体トーリだ」

 

開いた口が塞がらなかった。

 

というか実行犯も計画主導も大差ないだろう・・・!

 

ひょっとしたら襲名解除なんて事にもなりかねないのに。

相手が悪かったらそんな事になる可能性もあるというのに康景はそれについては特に言及しなかった。

 

「まぁ過程はどうであれ、精神的には感謝してるんじゃないの?」

「だと良いですけどねぇ」

 

酒井と康景が事件の事を話すのを正純は遠くで聞いていた。

取引相手とのいざこざがあったとはいえ、結果的にミトツダイラは救われた。

 

そうか・・・あの事件にはそんな事情があったんだな。

 

正純は己の未熟さを恥じた。

その時、巨大な影が空を渡っていく。

 

「あれは・・・K.P.A.Italiaの船・・・」

 

三人は上空の船を見上げた。

山並みの上を重低音を響かせていくいときわ大きな白い艦、その周りをいくつかの船で護衛している。

 

「K.P.A.Italia所属、教皇総長インノケンティウスの所有するヨルムンガンド級ガレー”栄光丸”、護衛は三征西班牙の警護隊かな・・・たしか教皇総長、大罪武装開発の交渉に来たんだっけ?」

「大罪武装・・・この世に八つしかない都市破壊級個人武装、七大罪の原版とされる、八想念をモチーフとした大罪武装、使用者は暗に八大竜王とか言われてましたね」

 

大罪武装、暴食・淫蕩・強欲・悲嘆・憤怒・嫌気・虚栄・驕りの八つの想念をモチーフにした武装。

一つ一つが強力な武装で、都市を破壊できるくらいにはすごい武装だといわれる。

 

実際、三征西班牙が新大陸にそれを持ち込んで野生化した機獣を壊滅状態にまで追い込んだとか・・・。

 

「教皇総長も八大竜王の一人のハズなのに、その上まだ力がいるとは・・・強欲だな。歴史再現がどうこう言ってても、結局は力頼りとは」

 

吐き捨てるように、康景が言った。

常日頃から表情が読み取れないため、どんな感情で発言したのか解らなかった。

ただ語気は普段より荒っぽく感じられた。

 

「・・・なぁ康景?前々から思ってたんだけど、その・・・お前って歴史再現で嫌な事でもあったのか?」

 

その問いかけに、康景は一人歩みを止めた。

無表情なのにその顔はどこか悲し気だったのを感じ、正純は襲名に失敗した自分自身を思い出し、失敗した、とそう感じた

 

「別に・・・」

 

康景は気まずそうに学長を追い抜き、一人先に行ってしまった。

 

「・・・」

「まぁなんだ・・・あいつ昔の話とか基本好きじゃないから」

 

酒井が、落ち込む正純をフォローするように、「少し俺が知ってる範囲で、あいつのこと教えといてあげる」と昔の事を少しだけ語り始めた。

 

「アイツが昔・・・十年前かな?その時武蔵に『塚原卜伝』っていうめっぽう強い襲名者がいてね、それに弟子入りしたんだよ。弟子とか絶対取らないことで有名な奴だったから、当時は結構武蔵内では話題になったんだけどね」

「聞いたことがあります。『塚原卜伝』、二十代の若さで剣豪の襲名者になった天才がいたとか・・・」

 

聞いたのはまだ自分が三河の中等部にいた頃だ。

友人である二代がそんな話をしていたのを、正純は思い出した。

 

「まぁ実際はそんなすごい奴でもなかったんだけどね・・・アル中でぐーたらしてありゃダメ人間だったね・・・」

「なんか聞くだけだととんでもない人ですね」

「まぁ康景も当時は凄い大変そうにしてたけど、あの時のあいつはそれなりに楽しそうだったかな。四年くらいかな・・・住み込みで修行してたのよ」

 

四年・・・剣豪の下で修業して今の強さに至ったのか・・・。

 

康景の強さに納得したのと、疑問が湧く正純。

それが歴史再現に否定的になったのと、どう関係してくるのか、まだ見えなかった。

 

「そんな生活を四年くらい続けたある日、ある事故が起きちゃってね」

「事故?」

「真剣での打ち合い中、康景に首をやられてね・・・そのまま」

 

なにかあるだろうなと思ってはいたが、まさかそんなことになったとは考えてもみなかった正純は、思わず黙り込んだ。

 

「康景は急いで人を呼んで手当てしようと頑張ったらしいんだけど、結局ダメだったらしい」

「なんで真剣で・・・」

「そうそこが謎なんだよ・・・なんで練習の模擬戦でわざわざ真剣で打ち合ったのか、無茶苦茶なやつだったからどんな練習やってても不思議じゃあなかったんだけど」

「・・・」

「で問題なのはその後だったんだよね」

 

それだけでも結構な内容だと思うが、まだ続きがあった。

 

「当時周りの人間が塚原の襲名関係で揉めてね、その襲名を誰かに引き継がせるかで」

 

先行く康景を遠い目で見ながら語る酒井。

正純が見る酒井の顔は、とても悲しそうだった。

 

「まぁこっから先は想像でしかないけど、十年前に大事な人を失った康景が過去を乗り越えようと足掻いてた矢先にまた失ったんだ、相当ショックだと思うよ、その上でその大事な人が死んだのに、誰かに引き継がせるとかそんなこと言われたら気分が良い訳でもないよね」

 

大事な人を失ったばかりなのに、『塚原卜伝』の代役を立てる。

誰でも代わりが利くのか?康景はそう思ったんじゃないかな?

酒井が語り終える。

 

それを黙って聞くしかできなかった正純は驚きと、何か言おうとして言えない自分がいることが悔しかった。

しかし正純は一つ疑念が浮かんだ。

 

「十年前に失って、また失った」

 

それはつまり・・・。

 

正純はそのことを聞こうとしたが、一行は既に各務原の関所にまで来てしまった。

 

「送ってくれた証書を受け取ったら、後は戻って遊んでいいよ」

 

関所に到着し、正純の護衛終了を受けていよいよ聞き出せなくなってしまった正純。

康景もどうやら更に酒井ついていくようで、本人に聞くことも出来なかった。

 

「・・・実はこれから調べたいことがあるので、それに専念しようかと」

「ほうほう、何をだい?」

「"後悔通り"について、調べることが皆の事がわかる、そういわれたので」

「いいねぇ、後悔通りを知ることが正純君にとって新しい動きになるといいね」

 

酒井は正純に笑顔で会釈し、護衛終了を告げた。

正純は、康景に先に趣味の事について聞かなかったことを後悔して、来た道を戻った。

 

********

 

関所の先を進む康景は先程の正純への対応に対し、後悔していた。

 

あの態度はないよな・・・。

 

友人への態度としては最低点だな、そう自嘲する康景の背中を後ろから酒井が叩いた。

 

「正純君、さっきの気にしてたぞ、後でフォローしてやれよ」

「はい・・・」

 

落ち込む康景と酒井は、関所を超え林道を進む。

 

「・・・そういやぁお前、トーリの告白の件、どう思ってんの?」

「・・・良いことなんじゃないですか、俺としても親友が過去を乗り越えようとしているのは嬉しいと思いますよ。ただまぁ・・・」

 

問題なのはむしろ自分の方だ。

 

そう言おうとした矢先二人の前方に三人の影があった

 

あの三人は・・・。

 

康景は三人を視認した。

 

一人は大柄で初老の男

一人は同い年位の眼鏡の男

そして一人は二人の背後に控える少女

 

「学長、あれは・・・」

「ああ・・・松平四天王のうち、本多忠勝と榊原康政がお出迎えとは・・・井伊はどうした?」

 

その問いに、眼鏡の男が答えようとする。

 

「それがねぇ酒井くん・・・井伊くんは」

「他言無用だぞ榊原・・・忘れたか?」

 

しかしそれを大柄な男が諌めた。

眼鏡の男は何か言いたげだったが口をつぐんだ。

大柄な男は身を乗り出して言った。

 

「見せろ」

「はぁ?ダっちゃんが言う見せろって大抵ろくなことじゃ・・・」

 

酒井が言い終わる前に、二つの影が動いた。

一つは少女の影、酒井の右胴を背後から横一線で狙おうとする動きだ。

もう一つは白いコートの影、康景が酒井と少女の間を割って入り、少女の刃を防ごうと二本あるうちの短い方の剣を半分だけ抜いた。

 

少女の刃が康景の刃に当たる寸前、少女は姿を消した。

 

速い・・・!

 

康景がそう思うのと同時、少女は康景の右足を踏み、背中で押すようにしてバランスを崩させた。

回転しながら切りかかる。

 

上手くて、早くて、正確・・・ラーメン屋なら文句ないだろうな・・・。

 

関係ないことを考えながらも、康景は左手でもう一本の剣を抜こうとした。

しかし、少女が更に体重を乗せてきたのがいけなかった。

康景がバランスを崩したせいで左手が剣をつかめずにすっぽ抜けた。

更に悪いことに、その左手がつかんだのは剣ではなく・・・、

 

「あ」

「「あ」」

「」

 

康景がつかんだのは、少女の胸だった。男性陣が全員、「あ」と声を上げる中、少女だけが無言で動きを止め

 

「」

 

赤面でプルプルと肩を震わせる。

康景はこういう時、大抵どうなるか解っていた。今朝のトーリがいい例だ。

次の瞬間驚きを含んだ悲鳴と共に、康景の顔にグーパンチが飛んだ。

 

********

 

右舷二番艦・多摩の表層部商店街、多くの食材の入った袋を抱える少女たちがいた。

 

「これで大体揃いましたね」

 

荷物を抱えた集団の先頭に居る浅間は背後の三人に確認した。

直政は艦内整備用大型レンチを右の義腕で弄びながら、

 

「これ買いすぎじゃないか?明日をどんだけ祭りにするんさね・・・」

 

四人いる中でも、ひときわ多くの荷物を持つ直政、腰のハードポイントにまで懸架している。

その男前っぷりから後輩は愚か一部同級生の男子にまで「姉御」と言わしめる彼女の姿はまさに姉御だった。

 

「が、がっちゃんや・・・ごっちゃんと、かいてくれれば、よかったけど」

 

その隣を比較的少なめの荷物を抱える鈴が荷物を抱え直して言った。

すると、上の方が騒がしくなったのに気付き一同が上を向く

 

「三征西班牙が監視止めたから、配送業者や飛行種族の方々がレースの模擬戦し始めましたね」

 

アデーレが上空を見て言った。

浅間がその集団の中に、ナイトとナルゼを見かけた。

 

「あ、今ナイトとナルゼが飛んでいきましたよ」

「まぁあの二人も夜には教導院の方に来るんだろ?ホント、物好きな連中さね」

「マサ・・・鏡見て言ってください、人のこと言えないでしょう・・・」

 

そのやり取りに、アデーレは小さく笑い、

 

「三河の花火云々の話もありましたけど、やっぱり皆さん総長の方に行くんですね」

「わ、わたしも行きます」

「なんだかんだで皆、トーリ君のこと気になってるんですね」

「・・・康景さん、来ますかね」

 

アデーレが伏し目がちに康景の事を気にし始めた。

その名前に、一同は全員気を落とした。

 

「馬鹿がこのご時世、末世だの織田だので揺れてる中で一人決意したってのに・・・もう一人の馬鹿はこの場にすらいない」

 

直政が見るからに不機嫌そうな顔で話す。

その様子を、三人は黙って聞いた。

 

「・・・皆ホントは気づいてんだろ?康景の馬鹿野郎は毎日寝坊なんかしちゃいない、実際もっと早い時間に起きてる、遅刻の理由は別にあるって・・・」

「それは・・・」

 

浅間も本当は知っていた。

康景はとても早起きで、寝坊なんて一度もしたことがないことを。

 

浅間が中等部の頃だ。

朝の六時に神社前の掃除をしている時だった。

康景が朝の武蔵を、一人全力疾走しているのを見た。何かの間違いだと思った浅間はその日は何も言わなかった。

しかし、その次の日も、その次の日も、浅間は康景を見た。

不思議に思った浅間はその日、康景に聞いたが彼の返答は、

 

「見間違いじゃないか?」だった。

 

康景は嘘をついてまで自分の鍛錬を人に隠している。

 

「康景のヤツはあんなことがあってから十年間、一人で悩みを抱え込んできた。皆そんな事とっくに気づいてんのに、アイツはそれでも誰かに相談しようとしない。私はそれがムカつくんさね・・・私たちを仲間だと思ってないみたいで・・・」

「マサ・・・」

「トーリが今、ホライゾンのことで"後悔通り"を克服しようとしてんのにアイツは今、武蔵にすらいない・・・ホント、誰が一番乗り越えなきゃなんないのか、わかったもんじゃないね」

 

重苦しい雰囲気が、一同を包む。

 

マサは・・・ひょっとしたら・・・。

 

そんな事を考えたが、浅間は言うのを止めた。

重苦しい雰囲気の中、それを動かそうと言葉を発したのは鈴だった。

 

「ホライ、ゾン・・・や、優しい人だったの・・・・・・トーリ君、私を呼、ぶとき『おーい』、とか、『あのさ』、とかはじ、めに、絶対言うの・・・手を差し、伸べたり、触れた、りするとき、必、ず手をこ、うやって」

 

自分の腰あたりを拭うように触れた。

 

「わ、わたし、目、み、見えないから、い、きなり名前呼ばれ、たり、触れら、れたりしたとき、びっくりし、しないようにって」

「・・・あぁ、そういや私たちもそれやりはじめたっけね、初等部の時はてっきりトーリの方の馬鹿が点数稼ぎに始めたと思ってたけど」

「ホライゾン、がこれ、始めたの・・・トーリ君、も康景、君も、ホ、ホライゾンがいなく、なっても忘れなかった。よ」

 

直政は、ばつが悪そうに「そっか・・・悪かった」と呟いた。

 

トーリ君も、康景君もただ漫然とこの十年間を過ごしていたわけではい

 

康景君の方も、いずれちゃんと話してくれる、時間はかかるかもしれないが。

 

そう思った時、前方から声がした。

 

「あれ?君たちもこっちで買い物?」

 

ネシンバラだった。

後ろにはウルキアガやシロジロ、ハイディらがこちらと同じくらいの量の食材を抱えていた。

直政が「まじで教導院総出の祭りにする気か・・・」などと呟いたが、実際そうなりそうで怖かった。

 

「なんだいなんだい今日は教導院の客が多いねぇ」

 

青雷亭の店主が出てきた。

それに対し反応を示したのはハイディだった。

 

「あ、すいません」

「宴会でもやる気かい?だったらP01-sにも出張ってもらうかねぇ」

「・・・そうですね皆楽しい宴になる事を祈ってます」

 

一同は後悔通りの方を見た。

 

 

 




今さらですが、主人公の容姿について
見た目的にはイケメンにしたの〇太くらいに思ってくれれば幸いです
の〇太様は元々イケメンだろ、一緒にすんな馬鹿が!っていう方は黒髪でメガネくらいに考えておいてください

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