境界線上の死神   作:オウル

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?「鈍感なのはいけない事だと思います!」


十三話

それぞれの想いを胸に

 

戦争は進む

 

配点(適材適所?)

――――――――――

 

「■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

漁船乗り達は恐怖した

たった一人でこちらを沈める男に

 

「なんだよあれ・・・!?」

「注意すべきなのは"死神"だけじゃなかったのかよ!?」

「マズいぞ!このままだと車輪陣が崩されちまう!大将に報告だ!」

 

*********

 

セグンドは表示枠で報告を受け、敵の対応の速さを不思議に思った

いくらなんでも対応が速すぎる

 

「敵に知恵者がいるな・・・」

 

不意打ちを狙ったつもりだったが、予めこちらの手の内を読んでいたかのような動きをする

特に相手左舷側は、『何らかの戦力X』によって攻撃が思うようにいっていない

 

車輪陣を組ませて、左右から絶え間ない攻撃で反撃の隙を与えないつもりだった

だが武蔵は、左舷戦力に『敵戦力X』を置くことで、右舷側に防御隊を集中

 

右舷側に至っては防御隊が充実してるお陰で思ったより敵損壊は軽微

左舷側に関しては『敵戦力X』がいることで防御は薄くても、反面攻撃力は高いため却ってこちらの損壊の方が大きい

 

損壊覚悟だが、向こうに痛手を与えられないようでは意味がない

 

三河での映像を分析した際、特に厄介そうな相手として

 

副長 本多二代

第五特務 ネイト・ミトツダイラ

第六特務 直政(地摺朱雀)

 

そして死神、天野康景である

 

この四人の内、天野康景、ネイト・ミトツダイラは英国に残ったとの報告は受けた為、現在武蔵には乗っていないと判断

武神持ちの第六特務も、房栄の道征白虎の攻撃で武神修復中のハズ

なので注意すべきは本多二代だが、今出てこないという事は、自分達が武蔵へ乗り込んで攻撃する事を警戒しているのだと思う

 

だが、乗り込む前に武蔵を落としておきたい

武蔵の個人戦力という面では、各国でも群を抜いている

とりわけ今現在こちらの漁船を落としている謎の戦力Xがいるのだから、何が出てくるか解らないので油断は出来ない

 

それに

 

「あれが成功すれば・・・」

 

準バハムート級の化け物艦群である武蔵にも大打撃を与えることが出来る

 

だがその時だ

 

セグンドは表示枠越しに戦況を見た

 

「攻撃パターンをもう解析したのか!?」

 

*********

 

敵の車輪陣による不規則且つ連続した攻撃を、武蔵の通常航行用の海を出力強化し、分厚い水壁を立てることで防いだ

 

「ペルソナ君!お疲れさまでした!!パターンの解析終了です!!」

 

表示枠の向こう、ペルソナ君が疲れきった様子で頷いた

 

流石に数日の訓練で戦闘に参加するのは無理がありましたか・・・

 

負担減衰の符や後輩たちのバックアップを用意はしていたが、やはりここ辺りが限界なのだろう

 

「もともとインドアですしね~・・・」

 

しょうがない事だが、ペルソナ君の活躍によってパターンの解析には思ったより時間をかけずに済んだ

右舷側に防御を集中することで、右舷の敵には攻撃をさせて、攻撃を解析することが出来た

車輪陣の攻撃は、高速になればなるほど解析がしやすい

いくら不規則な攻撃でも、攻撃が速くなればパターンの隙は無くなる

 

左舷側にペルソナ君を配することで出来た解析の高速化と最適化

右舷よりも左舷の方が被害は大きいが、その分ペルソナ君の投擲によって向こうにも損害を与える事が出来た

 

「これより上昇して反撃に出ます!」

 

水壁による安定した防御が出来るので、逆に今度は攻撃に専念することが出来る

疲弊しきったペルソナ君を下がらせ、予定していた攻撃隊を配置する

 

この後、敵がどう出るか

康景メモ通りなら、どう対処すればいいかはもうハッキリしてる

だが、康景メモ通りに開戦したとは言え、何が起こるか解らないのが戦争である

最終的に判断するのは現場の自分なのだ

 

アデーレは緊張を持って戦況を見た

 

*******

 

セグンドは、武蔵が加速してこちらに迫ってきたのを見た

 

まさかあの不意打ちを乗り越えられるとは・・・

 

房栄たちはこんな連中を相手にしてたのか

今さらながらに味方を凄いと思った

だけど何故そんなことが出来たのかも、今ならわかる

 

為すべきことを為すために

 

三征西班牙の立場を明確にするために、彼らは自分たちの為さねばならない事をしたのだ

ならば自分も、怖いなどと言ってはいられない

二十五年来の戦友たちも、武蔵に打撃を与えるために頑張っているのだから

 

いや、正直言うと少し怖いが・・・

 

「駄目だな・・・僕は」

 

いつも、ここぞというときに足がすくむ

そう思うと、三河で大暴れし、他人からの憎しみを一身に背負おうとした彼は、本当にすごいと感じた

その上で守るべき家族を守れたのだから、心から凄いと言わざるを得ない

 

だが自分も、たくさんの人から勇気をもらったのだ

自分は臆病だ、でも

 

「貰った勇気を、無駄にしない人間だと・・・そう信じても良いよね」

 

三征西班牙を、守って見せる

だから

 

「総員!次の戦闘に移行してくれ!!・・・まだ、手はある」

 

*******

 

南の空で、アデーレ達が善戦する中、ミトツダイラはソーホーの自然区画、狩猟地を持つ区画にいた

そして南の空の戦闘音を聞きつつ、思った

 

まさかペルソナ君を戦士に仕立てるなんて・・・

 

随分思い切った事をする

康景が後輩たちを訓練していたのは知ってる

毎日毎日「俺怪我人だぜ?狂ってるよ・・・」とか文句を言っていたので嫌でも知っている

それでも律儀に指導をしてたのを見て、面倒見の良いお人好しだなとも安心した

 

だがペルソナ君と訓練していたのは知らなかった

ペルソナ君は見た目に反したゲーマーである

鈴を肩に乗せたりして走ったりできるので、身体能力は低くは無いのだろう

 

しかし、ああいったパワープレーが出来るのには素直に驚いた

 

あれ・・・?もしかして私の立場が危うい?

 

『武蔵のパワープレーと言えばネイト』みたいな風潮があったのに、このままでは"要らない子"になってしまいそうだ

 

いけませんね・・・

 

馬鹿な事を考えてしまうのは、先程の喜美の行動に動揺しているのだろう

喜美が公然の場でキスしたのもあるが、康景もそれを受けて嬉しそうに笑ったのだ

あんな顔は見た事がない

ホライゾンに向ける時の様な顔でも、トーリに向ける顔でも、ましてや自分に向ける時の顔でもない

 

本当に嬉しそうな、幸せそうな顔だった

 

それに本人が気づいているかは解らないが、本当に嬉しそうに、ミトツダイラは見えた

 

妬ましいと思ってしまうのは、我侭だろうか

羨ましいと思ってしまうのは、強欲だろうか

 

それを見て苦しく感じるのは、やはり彼が好きなんだろう

 

いや

 

「駄目ですわね・・・」

 

自分はただ、あの人の隣に立っていたいと、好きになってもらえなくとも、傍に居たいと、そう願ったのは自分だ

あの人と交わした約束を、勝利で守りたいと、そう誓ったのは自分だ

 

だからミトツダイラは割り切った

 

戦闘と私事は混同してはいけない

 

「さぁ・・・猟犬、戦争をしましょう」

 

そう告げた時だった

不意に木々の間から無数の刃が飛んで来た

 

『千本薔薇十字』だ

 

それをミトツダイラは単純な回避行動で避ける

反射的に繰り出すのは、銀鎖による薙ぎ払いだ

 

木々が、一斉になぎ倒される

そして木々があった場所から出てきたウオルシンガムを見た

 

・・・私は、彼との約束を、違えたくありません

 

だから、ミトツダイラは構えた

約束を違えないために

 

第二ラウンドの始まりだ

 

******

 

倫敦の街並みは、あらゆる戦闘の音で満ちていた

 

南の空では三征西班牙と武蔵による代理戦争が

英国では各所で戦闘音が鳴り響く

 

そしてテムズ川に架かる橋の辺りの一本の通りで、今まさに一つの戦闘が行われようとしていた

相対者は

 

「シェイクスピア・・・僕のマクベスを終えろ。僕は皆の所に行かなくちゃいけないんだ」

「行きたいなら勝手に行けばいいじゃないか、なんで僕が君を縛り付けてるみたいに言うんだい?気持ち悪い」

「じゃあマクベス終えてくれよ」

「やだよ」

 

は、話が進まない・・・!

イラッと来るが、ここでカッとなってはいけない

ネシンバラは我慢した

 

冷静に考える

康景は自分に「呪いを解いてもらえ」と簡単に言ったが、話の通じない相手にはどうすればいいのか

だがその時不意に、ある言葉が漏れた

 

「君は・・・どっちなんだい?」

「  」

 

ここ数日で思い出した疑問に、シェイクスピアが一瞬固まる

 

「・・・どっちとは?どういう意味?」

「・・・そのままの意味だよ」

 

あの時、自分に言った「どちらだかわからない」という話

だが自分の記憶では、シェイクスピアの言葉では矛盾があるのだ

 

「君はあの子と君がどちらだか解らないと言ったね?でも、僕だって解らないんだ」

「・・・」

「だって君は、あの時僕といた君は、一人だったから・・・№14」

 

よく聞く話だ

 

"自分の中にもう一人自分を作ってしまう"という話

 

ストレスに晒された天才には、たまにあると聞く

自分は凡人だからよくわからない

でも、記憶が確かなら、彼女は一人だった

だから

 

「今の君が、君の創った君か、僕と一緒にいた君かはわからない。でも、僕が一緒に居たいと思った君は、君じゃないんだ」

「・・・」

「だからシェイクスピア、決着をつけよう」

 

橋の向こう側にいる彼女に、ネシンバラは言った

 

「決着をつけて、僕は、"君達"の場所まで行く」

「・・・今日はえらく饒舌だね」

「饒舌になったって良いじゃないか、君との、"君達"との約束を果たしに行くんだから」

「あ・・・」

 

その言葉に、シェイクスピアは頷いて見せた

その反応が肯定を示すのか、否定を示すのかはわからない

でも、彼女との約束を果たすには、勝って、また書く

それがネシンバラの決意だ

 

「・・・君の目的は、大罪武装を奪取することなの?」

「ああ、情けない事に、軍師としての役割を果たせていなかったからね。それぐらいやらないと名誉挽回出来ないだろ?」

 

これ以上復帰できないと「ネシンバラ不要論」が出そうでまずい

 

「そう・・・」

 

シェイクスピアは本を閉じ、紙袋から"拒絶の強欲"を取り出した

 

「じゃあ、僕の方からも要求しないと、不公平だよね」

「うん・・・?まぁ、確かに」

 

言われてみればそうだ

 

「じゃあ、僕が勝ったら・・・」

 

何を言われるのかと警戒した

 

「僕がどっちなのか、確かめてよ・・・ここに残って」

「うん、わかっ・・・た?」

 

え?ちょまっ、へ?は?・・・へぁっ!?

 

「それってつまり・・・?」

「///」

 

少し頬を赤らめて言うシェイクスピアの真意は、よくわからない

ただネシンバラは少しだけ俯いた彼女を見て、"可愛い"と思ったのは確かだった

 

******

 

月明かりしかない町並みを、康景は一人歩いた

 

・・・戦闘音が無ければ、もっと良い町並みに見えるんだろうな

 

戦闘音を雑音だと思いつつ、エリザベスの治める国を"良い国"だと感じた

 

自分がかつてここに来た事があるからか、それとも単にエリザベスが知り合いだからかはわからない

でも、自分がもし武蔵以外で住みたいと思うなら、英国が良いと、そう思った

 

だが、同時にそんな国でも、歴史再現で処刑される者がいる

それは康景にとってはとても嫌な事だ

特にそれが自分の知り合いならば

 

歴史再現を遵守しなければならないエリザベスを護るために、メアリは処刑されることを選んだ

エリザベスはそれを、英国を守るために行わなければならない

 

それはとても悲しい事だ

 

だからこそ、メアリは自分たちが救う

それが康景の考えた筋書きだ

武蔵にとっての世界と対等になれるための足掛かりが英国なら、英国とは友好国でありたい

 

アルマダを、英国の代理戦力として戦うのは、英国としてもありがたいハズだ

そしてメアリを救う事は、エリザベスにとって救いになるハズだ

 

康景はそう信じた

 

それがエゴでも、勘違いでも、構わない

大事な人を救えるのなら

 

こんな事を考えてしまうのは何故だろう

やはり、さっきの喜美の行為が影響してるんだと思う

 

馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、やっぱり馬鹿だった

でもそれと同時に

 

やっぱお前は良い女だなぁ・・・

 

もうあの馬鹿を待たせるのは、終わりにしたい

 

そう自分に誓った

 

だから

 

「やあウォルター卿、友人が惚れた女を救いに行くまでアンタの相手は俺だ」

「・・・」

 

人気のない大通りに、一人立つ男に声を掛けた

 

ウォルターだ

 

無言で刃の無い柄を構えるウォルターに、康景もまた、長剣を構えた

 

******

 

ウォルターは、自分の相対すべき相手を見た

 

・・・これが死神か

 

会議の場での雰囲気とは違う

闘う者の雰囲気だ

 

武蔵副長とも相対したが、それとはまた別物だ

 

底知れない何か

 

得体の知れない何か

 

そんなモノを相手にしてる気分だ

 

「横道さんに聞いたよ、アンタら、尼子家の残党でメアリに救われたんだろう?」

「・・・」

 

横道め・・・余計な事を

 

だが、奴の立場は明確になった

意地でもメアリ様を救うつもりか

 

「アンタが仕えるべき主君をリザに見たなのなら、それはそれで良いと思う」

「・・・!」

「リザもメアリも、どっちも友達だから、俺にはどちらかを見捨てるなんて事は出来ない」

「・・・」

「山中幸盛、アンタほどの手練れがリザについてくれるなら、俺は安心してメアリを救いに行ける」

 

ああ、そうか・・・この男は

 

ウォルターは思った

エリザベスがこの男に執着するのが、何となくわかったかもしれない

 

この男は、馬鹿だ

 

救いたいもののために命を張る馬鹿

しかし、ただの馬鹿ではない

 

三河ではあらゆるものを寄せ付けない武技を見せつけた

そしておそらく、メアリ様奪還を指揮計画したのはこの男だろう

忍者をメアリ様に向かわせるために障害になりそうな自分の相手を引き受けた

 

腕も立ち、頭もキレる

 

相手にすると面倒臭い手合いだ

だが同時に思うのは

 

自分はこの手の馬鹿が嫌いではなかった

 

そして

 

「アンタはアンタでリザに忠を尽くせばいい。メアリは、俺たちで助けるから・・・」

「・・・」

 

ウォルターは少しだけ口の端を上げた

 

「だから、安心して職務を果たせ」

 

ウォルターと康景は開戦した

 

******

 

点蔵は走った、彼女の下に

点蔵は対術式盾を持った戦士団の攻撃を躱しつつ、先に進んだ

 

倫敦塔に向かうにつれ、弾幕が濃くなる

 

「くっ・・・!」

 

前に進むのが、次第に困難になる

だがその時だ

 

目の前で爆発が生じたのだ

何事だと思って身構えるが、その爆発を作ったのは

 

「ナルゼ殿・・・!」

「立ち止まらないで速く行く!」

「jud!」

 

ナルゼがその低空滑空を持って自分に並走してきた

今の爆発は、ナルゼが水瓶を投げつけてやったものだ

 

「アンタカッコつけて飛び出して行ったんならどっかの馬鹿みたいに無双して進めないの?」

「随分無茶な要求で御座るよそれ!」

 

結論は単純、無理

だが確かに自分が先走ったのが悪いが、康景と同じことをやれと言われるとそれは無理な話だ

 

今回、戦闘力が高く面倒臭そうな相手なウォルター、ウオルシンガムを、康景とミトツダイラが担当し、大罪武装を持つシェイクスピアをネシンバラが相手をし、他は倫敦塔に走り、その途中で出てきた相対者を叩き、自分をメアリの元まで通すという作戦だった

 

だが、早まった点蔵が突出してしまい、今に至る

先程康景に言われたばかりなのに、学習していないと自嘲した

 

「他の皆は?」

「ウルキアガが大通りでニコラス・ベーコンと相対してるわ」

「喜美殿と正純殿は?」

「多分大丈夫よ」

 

た、多分・・・

あの二人は非戦闘系の筈なのであまり無理は出来ないはずだが

 

「あの二人も解っててついてきたんだから、覚悟の上でしょう」

「・・・」

 

その時だ

 

「「!?」」

 

敵の銃弾を避けるために脇道に逸れたアーケードの屋根が、いきなり崩れてきたのだ

いきなりの事で驚いたが、加速によってそれを躱す

 

「今のは・・・?」

「あの女ね・・・!」

 

ナルゼが見る視線の先に、二人の女性がいた

酷く痩せ型の女と、酷く恰幅の良い女

ダッドリーとセシルだ

 

「副会長セシルによる荷重ね、多分次は本気で私たちに掛けてくるわよ」

 

ナルゼは走りながら

 

「だからここはアンタに貸しを作ってあげる」

 

小さく笑った

 

「ここを出たら向こうのアーケードまで全速力で駆けなさい、荷重は引き受けた」

「・・・大丈夫で御座るか?」

「私の役割はアンタを目的地にエスコ―トする事、でもこれは私自身が皆に褒められたいからよ?勘違いしないでね」

「ナルゼ殿・・・」

 

点蔵はナルゼとのエピソードを思い出した

 

「自分、昔ナルゼ殿の隣の席になった時『何だかイカ臭いわね』って言われて皆から『イカ忍者』と笑いものにされ、"この女は生涯の敵"だと思ったで御座る」

「だってアンタ基本イカ臭いじゃない」

「最悪で御座るな!?」

 

言ってる間に、荷重が来た

 

来る

 

そう覚悟した

だが、いっこうに荷重は来なかった

何故なら

 

「ナルゼ殿!」

「いいから行きなさい!五分でね!」

「・・・jud!」

 

ナルゼが己の翼で荷重を引き受けたからだ

 

******

 

ナルゼは踏ん張った

 

お、重い・・・!

 

荷重は上から下に落とされるもので、そこに遮るものがあればそれから下には荷重はいかない

 

「なななななんて強引なやり方!?」

 

うるさい解ってるわそんな事

 

ナルゼは自らの翼を点蔵の屋根代わりにすることで防護としたのだ

格好悪い

みっともない

こんな姿をマルゴットや康景に見られたくない

だが自分で自分に課した事だ

 

この馬鹿を安全な場所まで連れて行くと

 

一歩一歩が重い

向こうのアーケードまであと三十歩ほど

 

帰ったらマルゴットの胸でエロいことしよう

 

あとニ十五歩

 

帰ったらマルゴットのアレをアレして・・・でへへ

 

あとニ十歩

 

帰ったら『浅間様が射てる』と『馬鹿二人』の続編を描き上げよう

 

あと十五歩

 

帰ったら・・・あの馬鹿の手料理が食べたいな

 

あと十歩

 

帰ったら、あの馬鹿は褒めてくれるかな?

 

あと五歩

 

帰ったら・・・帰ったら、頭撫でてくれるかな?

 

なんだか自分がミトツダイラっぽい事を考えてておかしく思った

 

地面が見えてきた

倒れ込んでる

だが最後の踏ん張りで翼を伸ばした

 

「点蔵!」

 

点蔵が、広間を駆けて行った

ナルゼは、自分に課した役割の一つを果たしたのだ

 

*********

 

ダッドリーは忍者が広間を走ったのを見た

 

「うううう撃て!」

 

魔女は荷重によって低い体勢から転んだが、忍者はアーバレストの射撃を回避し、向こうのアーケードに走った

そして通りを疾走し、こちらの手が届かない範囲に行ってしまった

 

「だっどりー!?」

 

セシルの叫びに、ダッドリーは忍者を追撃すればいいか迷った

だが、ここで自分が逃がした相手を下手に追撃すれば、仲間や陛下を信頼していない事を示してしまう

ダッドリーは少し迷ったが

 

「いいいいいいいえ!こここここで仕留めるべき相手を仕留めるわよ!!!!」

 

転がって倒れ込む魔女を見る

 

「つつつつ潰してから、かかかかかかか確保するの!」

「・・・ハッ、何よ、負け惜しみ?」

「たたたた倒されたのに随分大きい口がたたたたたた叩けるのね!?」

「倒された?違うわ、"倒れたのよ"?。勘違いしないでよね」

 

ゆっくりと身を起こす魔女が、荷重を受けながら立とうとして座り込む

しかし、その目には力が籠っている

 

「私たちの勝ちね!他は皆が押さえてるし、もうあのイカ臭い忍者を止める奴はいないわ!」

 

******

 

ナルゼはドヤ顔で言ってやった

 

仕返し的な意味ではこの二人に何も出来ていないが、この二人の『忍者を止める』という役割は阻止できたため、いいかなとも思う

 

・・・この荷重ではどの道動けないし

 

だが、その時不意に身体が軽くなるのを感じた

 

「あれ?」

「あらどうしたの馬鹿?不思議そうな顔して」

 

喜美が自分の上に跨るようにして立っていた

というか、なんで荷重の中を平気そうにしていられるのだろうか

 

「フフフフフフ何驚いてるの鉄球女に風船女、何驚いた顔してるの?そんな顔したって敵に種明かしするわけないじゃない!でもどうしてもって言うなら教えてあげなくもないわ!!なんてったって今の私は最高にハイだから!!でも答えていいのは一秒だけね!はい、いーち!はい駄目ねしゅーりょー!!」

 

む、無駄にテンション高い・・・!?

 

喜美の変に高いテンションに軽く引きつつも、ナルゼは考えた

何故なんだろうか

 

「ちょちょちょちょちょちょちょちょっと待ちなさい!」

「何よ時間は有限なんだから、私はそんなに待てないわよ」

 

康景だったらいくらでも待つくせに・・・

心の中で思ったが、言ったら言ったで何か言い返されそうなので口を噤んだ

 

「あら?何よナルゼ、アンタも解らないの?」

「うん」

「しょうがないわね!だったら教えてあげる!私が契約している神は、代演として化粧やファッションでも認められるのよ!つまり、私が私としているだけで大抵の術式の影響は全く持って影響ナッッッッッッッシング!私ったら無敵!」

 

敵味方問わずネタバレしてる・・・!

 

大声であっさりとネタバレしてるので敵にも味方にも筒抜けである

だがなんでここまで上機嫌なのか、ナルゼには何となく解っていた

 

「・・・アンタ康景絡みだとホントにテンション上がるわね」

「フフフ当たり前じゃない、愚弟とホライゾンがここで自分の目標明確にして、何考えてるか知らないけど、あの常に後ろ向きの大馬鹿が少しでも前に進めたのなら、こんなに嬉しいことは無いわ」

「・・・」

 

何というか、"自分が一番康景を解ってる"風に言われたのが、少しだけ悔しかった

 

「ほら立ちなさいよナルゼ、アンタはあの鉄球女ね、私はこっちの風船女やるから」

「・・・あれ?ちょっと待って喜美、正純は?」

「・・・?アンタらと一緒だったんじゃないの?」

「・・・」

「・・・」

 

やっべ

 

*******

 

正純は、町中を走っていた

 

恐らくここまで全力疾走したのは久しぶりかもしれない

別に体育の授業を本気でやっていないわけではないが、精神的に今が一番頑張って走ってると思う

その理由は

 

「グッッッッッッイッッッッッッッブニィイイイイイィィイィイイイイイイン!!!!!!ミス本ッ多ァアアアアア!」

「なんでだぁあああああ!?」

 

ハットンである

彼一人でも戦闘力が皆無な自分としては戦闘を避けたいところなのに、無数の動白骨達を引きつれて来られれば尚更だ

 

なぜこうなったのか

事はメアリ救出班が倫敦地区に入った時に始まった

 

・康景がウォルターを、ミトツダイラがウオルシンガムを、ネシンバラがシェイクスピアに向けて行動を開始

   ↓

・他は点蔵を進ませるために盾になったり防御したり

   ↓

・ウルキアガが出てきたニコラス・ベーコンと対峙、他四人で進む

   ↓

・他の三人が速すぎて追いつけなかった(非戦闘系の葵姉にすら追いつけない自分は何なのだろう)

   ↓

・一人だけはぐれてしまった

   ↓

・路頭に迷っていたらハットンに見つかる 

   ↓

・現在進行形全速力で逃げてる

 

と言った具合である

 

「フォーリン地獄!フォーリン六道!!」

「ホントに英国協か!?自由過ぎる!?」

 

とんだ大法官も居たものである

何か手段がないかと自分の懐を探したりするが

 

あれ?

 

携帯社務がない

まさかと思って後ろを振り返れば

 

「Oh・・・これはなんて寂しいアドレス帳・・・デスw」

「わ、笑うな!というか見るな!!!」

「おやおやぁ?wこの携帯社務のメモ機能はどうやらポエム作成専用になってるみたいデスw!!!!」

「やぁーめぇーろぉー!」

 

何で私の恥ずかしいネタを暴露されなければならないんだァアアアアア!

 

正純は激怒した

 

*********

 

メアリ様救出班の皆さんは上手くやってるでしょうか・・・

 

アデーレは英国に残った面々を思った

しかし向こうには康景もいるし、大丈夫だろう

今心配しなければならないのは自分達の方だ

 

今現在、アルマダ海戦は

 

2「ポートランド沖での二回戦」

3「補給time」

 

の過程を経て四つ目の

 

4「南東沖での三回戦目」

 

に移りつつある

「南東沖での三回戦」は、英国艦隊が火船を突っ込ませて三征西班牙を撹乱することで始まる

しかし、1を乗り越え、2、3の過程を無事に済ませることが出来たとはいえ、レパント経験者が何もしてこないとは考えづらい

 

康景も、絶対何かしてくる前提であのメモを書いてよこしたのだから、警戒すべきだろう

 

「三征西班牙、加速を始めました!―――以上」

「・・・火船の用意を御願いします。こちらも前方に注意しつつ加速してください」

 

アデーレは各所に指示を出した

 

さて、どう出ますか・・・?

 

その時だ

 

「前方より大艦六隻突っ込んできます!―――以上」

「総員艦内退避!!!急いで回避行動を!!」

 

アデーレは即座に判断を下した

だが、次の瞬間には前方の六隻が炎上して武蔵に激突した

 

「―――!!??」

 

そして武蔵を巻き込んで大爆発を起こしたのだ

 

********

 

武蔵に自分たちが放った六隻の船が爆発したのをセグンドは見た

 

「中身を爆砕術式で満たした航空艦・・・堪能していただけたかな」

 

文字通りの大型爆砕艦と化した六隻を、武蔵に向けて放った

爆発によるダメージもそうだが、本当の狙いは"それ"ではない

 

「これで僕たちは『火船』にて損害を負い、航空艦六隻を失った・・・どう出る武蔵」

 

 




何だかネイトがヤンデレになりそうな勢いですが、ヤンデレ枠はもう決めてあるのでネイトをヤンデレにする予定はないです

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