境界線上の死神   作:オウル

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二巻で一番かっこいいのは点蔵ではなくおじさんだと、私は思います


十二話

譲れないものがあるから

 

武蔵も英国も三征西班牙も

 

戦争をする

 

配点(開戦)

――――――――――

 

夜の空、麦畑のある丘陵で点蔵は倫敦塔を見据えていた

 

「しかしテンゾ―とやら、本当に貴様一人で行くのか?」

 

自身の肩に乗った烏、ミルトンが言った

点蔵はそれに対し、苦笑いして

 

「ヤス殿とか、アルマダにいた方が皆の安心度も多分違ってくるで御座ろうからな、自分なりの最善で御座るよ」

 

康景にも思惑はあるだろうが、この方がいいと思ったのだ

もし仮に失敗しても、馬鹿な忍者一人の馬鹿な行動だと言い張れば、英国との関係も大丈夫だろうという、浅はかな己の策である

 

こういう選択をしたら、多分ウチの外道どもは怒るで御座ろうなぁ・・・

 

メアリを救いに行く事よりも、武蔵連中の反応が怖かった

 

「さてどうする小僧、あの警備を全て突破するのは限りなく不可能に近いぞ?」

「大丈夫で御座るよ、こう見えて自分、影が薄い事には自信があるで御座るよ」

「ず、随分後ろ向きな自信だな・・・」

「なのでこの影の薄さを利用して忍びよれば、誰にも気づかれずに・・・」

 

何でだろうか、ネガティブな発想になってしまう

 

「過程はどうであれ、必ずメアリ殿を救って見せrぶべらっぁ!?!?」

 

突然の事だった

頭にものすごい衝撃が走り、「痛い」と思うよりも先に前方にふっ飛ばされていた

何事かと思って先程まで自分がいた所を見れば

 

「や、ヤス殿・・・!」

 

康景の足が、丁度自分の頭があった位置にあった

 

「何が『や、ヤス殿・・・!』だ。馬鹿が!」

「ど、どうして全員居るで御座るか・・・!?」

 

気が付けば、三年梅組全員集合だった

せっかく書いた文がパーになってしまったではないか

 

「お前さ、馬鹿じゃないの?」

「そんなストレートに申さなくても・・・」

「いいや、馬鹿だね。俺も馬鹿だが、お前も馬鹿だ」

 

胸ぐらを掴まれ

 

「お前何か勘違いしとりゃあせんか?」

「く、口調が可笑しいで御座るよ・・・?」

「やかましい!・・・俺があいつを助けに行くって言ったのはな?別にお前の為だけじゃない」

 

それは

 

「俺がメアリを救うのは俺の意思だ。俺がやりたいからやるんだ。お前にとやかく言われる筋合いはない」

「し、しかし!」

「お前一人で行くより、俺達複数で行った方が確率も上がる・・・大罪武装の件もあるしな。事はお前一人がどうにかなって済む話じゃないんだよ」

「・・・」

 

正論だ、正論過ぎる

メアリの事を助けたい一心で、冷静さを欠いていた

 

「・・・申し訳なかったで御座る」

 

点蔵は一度項垂れて、再び顔を上げた

それに対し、トーリは代表して

 

「点蔵、大体の話はヤスから聞いたからわかる。でもよ、お前の意思ってのを、お前の口から俺は聞いてねぇ・・・なんでメアリ救いに行くんだよ?」

「それは・・・」

 

皆が期待に満ちた顔で答えを待っている

 

・・・絶対楽しんでるで御座るよ、この外道連中

 

「じ、じじじじじ自分が、め、メアリ殿を・・・好いて・・・ごにょごにょ」

「あぁ~ん?聞こえんなぁ?皆今の聞こえなかったよな!?」

「「jud!」」

「な、なんでそこだけ無駄にチームワーク良いで御座るか!?」

「お前その調子だと絶対大事なところで噛むぞ?」

 

解ってるで御座るよ・・・!

 

「じ、自分が・・・メアリ殿にloveしちゃってるからで御座るよ!!!!」

 

言ってやった

だが連中の反応と言えば

 

「『loveしちゃったからで御座るよ!!!!』w」

 

随分と馬鹿にした拍手喝采だ

 

ど、どこまでも馬鹿にしてるで御座るな・・・

 

「・・・お前、それ本人の前で言うとき噛むなよ?」

「くっ・・・!解ってるで御座るよ・・・」

「・・・少しよろしいでしょうか皆様」

 

皆が点蔵のヘタレ具合を見て楽しんでいる中、一人が疑問を投げかける

ホライゾンだ

彼女は康景と点蔵を交互に見ながら

 

「先程の康景様の話を聞いた時も考えたのですが、本人が望む死を、どうして止めようとなさるのですか?」

 

その問に、点蔵と康景は顔を見合わせる

康景の顔は

『聞くまでもないだろう?』

と、そう言っているようで、自分もほぼ同じなので、そのまま答えた

 

「メアリ殿が失われるのは、それは悲しいで御座る」

 

後悔はしたくない

 

「ここでメアリ殿を失えば、自分は必ず後悔するで御座る。後悔で得る哀しみは、嫌で御座るから・・・」

「・・・では、ホライゾンの時も、ホライゾンが失われたら誰かが悲しまれたのですか?」

 

その問に、点蔵も、康景も、もちろんトーリも、皆が

 

「「jud!」」

 

そう言った

 

「なら・・・メアリ様が失われれば、ホライゾンもまた、悲しくなるのでしょうか」

 

その問は、明らかにこちらに向いている

康景もトーリもこちらを見た

 

え?自分で御座るか!?

 

「jud.・・・今は知らなくとも、あの方の人となりを知れば、『あの時話していれば』と後悔し悲しくなる時が来るで御座るよ」

「・・・」

 

ホライゾンは腕を組んで顎に手を当てて、何かを考える

なんかその動作が康景に似てると思った

そんな気がした

 

「・・・正純様、ちょっとホライゾン、いい感じに考えがまとまりましたので、英国に報告お願いします」

 

*******

 

正純は、皆の背後方でホライゾンが自分の名前を呼んだのを聞いた

 

「トーリ様が末世解決の為にヒャッハーしてホライゾンに負の感情を戻してハッピーになるのであれば、ホライゾンは平行線から、末世から世界をヒャッハーして、それで得た負の感情を待ちいない様にしてハッピーを得ようと思います」

 

要約、ヒャッハーしてハッピー

真面目に言うなら、戦争状態になれば正当化も出来るということ

 

それだけで意味が解ってしまう自分は、多分もう武蔵に染まってるんだろうなぁ

嬉しいような、残念な様な、複雑な気分だった

いや、皆に馴染めてきたので嬉しいと言えば嬉しいのだが

 

「傭兵になる事を拒んだ一部生徒が、メアリ・ステュアートを救いに行きますと、そう宣言してください」

 

それはつまり開戦宣言であり、その役目を担えるのは副会長である自分だ

ならばそれは自分の役目だ

そう思い、携帯社務を出そうとすると、康景が先に表示枠を開き、正純に向けた

それは何故かと思ったが、先程こいつは『告白された』とか言っていたので、自分から連絡を掛けたかったのだろう

正純は表示枠に向き合う

 

「あ、妖精女王、少しいいだろうか?」

「・・・どうした?」

「結局メアリ救いに英国と戦争することになったので、三十分後くらいには戦争できるように準備をしておいてほしい」

「は?え?・・・は?それはどういう・・・?」

 

そして今度は康景が表示枠に向かって

 

「ようリザ、元気か?」

「!?・・・康景!今のはどういう意味での発言なのだ!?」

「そのままの意味だよ、リザ。メアリの処刑に納得いってない連中でそっち乗り込むから、準備しとけよ」

「な、ななななな・・・」

「ウチの副会長が言った事だし、あれ公式な開戦宣言だから」

「何だと・・・!?」

 

妖精女王はいきなりの事態ですぐに事態を呑み込めていない様子だった

だが、次の康景の一言で驚きつつも納得する

 

「お前に告白されたから、返事しに、お前の所まで行く」

「・・・!?・・・そうか、あまりに待たせるから、てっきり答えを言わずに去るものだと思っていた」

「悪かった・・・でもまぁ十数年、お前を待たせたんだ。たった数日くらい、何ともないだろう?」

「そうだったな、そういえば貴方にはかなりの期間待たされたんだったなぁ・・・なら今度は期待していいのか?」

「答えを先に聞いたらつまらないだろ?・・・だから、まぁ、なんだ、とりあえず待ってろ」

「ハハハっ・・・そうか、解った・・・待ってる」

 

そう言って表示枠を切った

何だか未だかつてない開戦宣言だった気がする

 

「・・・康景様は相変わらず常識を超えてくる方ですね」

「うん、褒められてないのはわかる」

「確かに、開戦宣言のついでに告白の返事しに行きますよ宣言は凄い気がするぞ?」

「うーん・・・ヘタレ忍者さんよりはマシな気がするけど・・・」

「ヤス殿?そのヘタレ忍者って自分の事で御座るか・・・?」

「・・・」

 

康景は無視した

代わりに答えたのは

 

「解っている事なら聞かない方がいいぞ点蔵」

 

ノリキだった

フォローにも何にもなっていないが、皆同意したので何も言わなかった

 

**********

 

点蔵は、自分の立ち位置は変わらんので御座るなぁと内心諦めた

 

「ヤス殿?先程『俺たち複数』と言って御座ったが、メアリ殿救出のメンバーには他に誰が?」

「俺とウッキー、ネシンバラとネイト、ナルゼは確定してる」

「・・・結構いるで御座るな」

 

というか康景がいる時点で心強いが、頼ってばかりもいられない

何せメアリを救いに行くのは自分なのだから

 

「まぁクロスユナイトの告白の行方はともかく」

「ともかく!?」

「終戦宣言出来る者がいた方がいいだろうから、私も残ろう」

「「え?」」

「え?なんだその反応?」

 

皆が顔を見合わせる

それに対して康景が

 

「確かに終戦宣言出来る奴は居た方がいい。でも、多分、お前も相対戦になるぞ?」

「・・・あ」

「なるべく俺たちから離れるなよ?」

「お、おおおおおおおう、了解した」

 

急に青ざめた正純に皆が苦笑いしつつ

 

「智、正純の走狗、治療は?」

「大体完治してるとは思いますけど・・・」

「なら爆砕術式なり破邪顕正のお札なりつけて送ってやれ。何があるか解らないし」

「そうですね、至急ウチに帰って符の確認してきます」

「なんかすまない・・・」

「とりあえず俺もカバーはするけど、今回余裕あるかわからないから、マジで気を付けろよ?」

 

康景の余裕が無いという事は、やはり目をやってしまっているのがネックなのだろう

 

「・・・後はネシンバラ!大罪武装は頼んだぞ!」

 

自分達がいる更に奥の方に立っている男に向かって叫んだ

 

「|д゚)チラッ」

「何その行動」

「・・・いや、なんというか出づらくて」

「・・・そんなんで大丈夫で御座るか・・・?」

 

さっきから後ろの方で手を振ったりしてアピールしてたのに気付かれなくて除け者扱いされていると勘違いしたネシンバラがローテンションで出てきた

大丈夫で御座ろうか・・・?

先程とは違う意味で不安になってきた

 

********

 

康景はあらかたメンツが揃ったのを見て、行く準備をした

 

「じゃあ、行くか」

 

康景の声と共に、救出隊のメンバーとアルマダのメンバーとが分離した

小数人のメンツには、他にもう一人付いてくるものがいた

 

「あれ?何やってるのお前?」

「私も行くわ」

「・・・お前が来るなら、安心して進めるな」

「フフ、この賢姉に任せなさい」

「でもなんでだ?」

「フフフ、アンタを待ってるのがあの女だけだと思わない事ね」

「あ」

 

そう言えばそうだった

待たせっぱなしなのを思い出した

 

例の"アレ"も買って、浅間に預けたままだ

康景は喜美に申し訳ない気持ちになりつつも

 

「なぁ」

「何よ?」

「全部終わったら、お前に渡したい物があるんだ」

「渡したい物?今じゃ駄目なの?」

「智に預けたままだから、今手元にないんだ。それに、モノがモノだけになぁ」

「え、そんなに大層な代物なのかしら?エロいもの?」

「エロくはねーよ馬鹿・・・ただ、ちょっと重たいというか」

「重い?」

 

重いというか、想いというか

アレを渡すのならば、周囲が多分沸くと思う

善鬼さんはともかく、忠明さんいないしなぁ・・・挨拶とかが大変そうだな

それだけのものを、自分は買ったのだ

 

それをいつまでも友人に預けたままなのは、駄目だ

浅間にも迷惑がかかるし、ズルズルと引きずったままでは渡す機会も失われる

面倒事を全部終わらせてから、渡しておきたい

だから康景は、もうこの時点で渡す事を明確にした

 

「・・・ま、何かは聞かないでおいてあげる」

「多分サプライズ的な意味だと思えば、その方がいいんじゃいかな」

「そこまで言うなら期待していい物なのね?」

 

期待されるとそれはそれで気恥ずかしいな

だが

 

「ああ、お前を待たせるのは・・・今日で終わりにする。だから、期待してもらって構わない」

 

そう言うと、喜美は静かに微笑んだ

そして

 

「じゃあ、期待してるわ」

 

キスされた

 

唇に

 

その行為に、全員が驚いた

誰が一番驚いているかと言えば、もちろん自分である

 

「・・・」

 

予想外の行動に、言葉も出なかった

それがどういう意味を指すのか、流石の康景でも理解できた

 

お前・・・わかりやすいよな、三河の時もそうだったけど

 

皆も、今の行動に対して、騒ぐものもいれば、微笑ましく見ている者もいた

その行為をした当の本人はと言えば

 

「///」

 

耳まで真っ赤である

 

・・・恥ずかしいならやらなければいいのに

 

馬鹿だなぁと思いつつ、康景は笑った

 

外道どもが発狂したり歓喜したりする中、ミトツダイラだけが複雑そうな表情をしたことに、誰も気が付かなかった

 

「・・・」

 

******

 

武蔵が対英国と対三征西班牙の二方向に展開する

 

『処刑を止める者たち』と『アルマダで相手を打ち払う者たち』に

 

そして大気を震わす鐘が鳴り響く

メアリを処刑するための予告の鐘、アルマダの開始を告げる鐘、そして武蔵の面々を駆り立てる鐘の音が鳴った

 

今、三カ国を巻き込んだ大きな"アルマダ海戦"が幕を開けた

 

******

 

アデーレは統合艦橋部にて、中央の机に、自分を中心として座っていた

 

・・・こうしてると総司令みたいですね・・・!

 

普段作戦指揮をするネシンバラや、同じく作戦立案をしていたミトツダイラ

そして武力、知略に長けた康景もいないために、自分が代表としてこの場に座っているのだ

正直場違い感が半端ないのだが、いないのでしょうがない

決してこうやって碇〇ンド〇みたいに座っているのがかっこいいとかは、思ってない

 

「では、アルマダ海戦が始まる前に、大まかな流れに関しておさらいしておきましょう」

 

目の前の、流体光で出来た模型を展開して説明を始めた

 

「まず概略だけ説明すると、三征西班牙はこの海戦で英国を周回しつつ撤退をします」

 

ノリキ『撤退するだけなのに英国を周回するのか?』

貧従士『あー・・・それに関してはお手元のしおりをご覧ください』

 

予め配布していた資料を開く

 

1、プリマス沖で交戦開始

2、ポートランド沖での二回戦

3、補給time

4、南東沖で三回戦

5、グラベリン沖で四回戦

6、南西沖で終了

 

貧従士『これが大まかな概略です。この合間合間にドーンしたりヒャッハーしたりするんですが、詳細は自己責任で確認してください』

約全員『おい!それでいいのか!?』

 

細かい内容はちゃんと資料に残してある

 

詳しくはそっち見てくださいまる

 

歴史上では数日掛けて行われるが

 

貧従士『実際は、艦の速度や向こうの金銭状態とかも考えれば、損害を減らすために数時間での戦争になるはずです』

〇べ屋『英国に損害を与えられない三征西班牙は、砲弾や銃弾にかかるとか被害を受けるだけ損するわけだからね。ソッコで終わるんじゃないかな』

礼賛者『小生思うに、それなら互いになぁなぁの関係でやった方が被害も少なく済んでいいんじゃないかと』

貧従士『ですよね、でも、歴史再現という名目がある以上、聖連の監視も付きますし、何より武蔵は今回、英国の傭兵という立場で参戦してるわけですから、手を抜いたりすると他国にマイナスイメージしか付きません』

 

面倒でも、武蔵がこの末世を生き抜くには、やるしかないのだ

 

貧従士『先程、康景さんに今回のアルマダに関して御意見を伺ったところ、『敵の総大将はやり手だから、ただで終わるわけがない』と言ってました』

あさま『・・・康景君ってどこまで想定してるんでしょうか』

○べ屋『ヤス君"若干チート"入ってるから』

約全員『ああ、わかるわかる』

貧従士『・・・"若干のチート"で済ませられる康景さんっていったい・・・」

 

まぁその辺は自分も思うので深くは言及しない様にしよう

実は先程、それぞれがそれぞレの戦争に向かう際、康景にある紙を手渡された

今回の戦争に関して、もし"予期せぬ事態"が生じた際の対処法である

外交官の時といい、意外に心配性である

 

本当に予期せぬ事態が起きたら、それこそ康景の戦略眼には驚かされる

アデーレはその紙を"武蔵"に見せた

彼女はその手紙に書かれた事を読み、短く

 

「解りました―――以上」

 

そう告げて各自動人形たちに告げた

今回の戦闘は、なあなあでやることは無いにしろ、損壊は向こうも避けるだろう

それが大方の見解であるが、康景はそれとは別の意見だった

長期間の戦争にはならないが、損害は大きいかもしれないと

どうなるか解らないが、油断は禁物である

 

『再加速―――当艦はこれより"超祝福艦隊"の下を通過した後、背後に回りこみ状況を開始いたします―――以上』

 

そして術式受像器上の艦群が自分達と重なったのを見てアデーレは指示した

 

「総員、状況を開始してください!」

 

だが、おかしな光景を目にした

艦群が、自分達の前方と後方に分かれたのだ

 

「艦隊を二つに!?」

 

******

 

フアナは、船の中で此度の戦争の作戦や相手の戦力の情報などを書類で確認していた

そうしていなければ、落ち着かないからだ

 

船の中は、レパントの時に自分が救われて初めて安心した場所

それゆえにこうして書類に目を通して船の中にいるだけで落ち着くのだ

 

三征西班牙の孤児院で、自分が付いてしまった嘘

ベラスケスが自分の嘘を支持してくれなければ、今ここに自分はいない

その嘘のおかげで、自分は三征西班牙の実情に詳しくなり

 

・・・こうして副会長としてここにいるのですね

 

偽りの身分で得た地位で、恩人を救う

半寿族としての自分は、あと十数年もすれば身体に変化が訪れるので、それがバレる前にあの人に衰退からの復興の兆しを見せてあげなければ

それが自分が出来る最後の恩返しになるだろう

 

そんな事を考えた

そろそろ開戦だ

武蔵の上空を超え、撤退する艦隊運動に入る

 

「・・・そろそろ覚悟を決めなければなりませんね」

 

だが、自分のいる艦は、いつまでたってもそのままだった

静かすぎるくらいに、自分のいる艦は静寂を保っている

何かが変だ

急ぎ他の艦と連絡を取ろうとするが

 

・・・連絡が通じない?

 

嫌な予感がした

急いで状況を把握するために外に出る

 

後部甲板に出る

そこで自分が見た光景は

 

「な・・・!?どうしてあの人の艦隊以外三征西班牙に戻る進路を取っているのですか!?」

 

あの人の艦隊が、自分達を置いていくように、去っていく

どうしてこんなことを!?

そう叫ぶよりも先に、通神帯経由で声が響いた

 

『やあ、三征西班牙生徒会長兼総長のフェリペ・セグンドだよ』

 

********

 

アデーレは現状、何が起こっているのか把握すべく画面に映る男に問いかけた

 

「"超祝福艦隊"を下げるなんて、一体何を!?」

『下げる?いったい何の話だい?見てごらん、"超祝福艦隊"は既に展開済みさ』

「!?」

 

術式受像器に映る艦群が、一つ、また一つと増えていく

その数は百を超え、一つの生き物のように術式受像器を埋めていく

まさか

 

「大型の漁船群だと判断できます!―――以上」

 

やられた

"超祝福艦隊"の代理を立てることによって、三征西班牙の戦力を残したままこのアルマダを終えることが出来る

英国が武蔵を使うのと同じ解釈だ

しかもアレは恐らくレパントで使用した船なのだろう

 

『僕たち三征西班牙は、"超祝福艦隊"を失う事で衰退する。それが歴史再現だからね。でも、皆に憶えていて欲しいのは、ここで"超祝福艦隊"が無くなっても、サン・マルティンを含む戦力は残るんだ』

 

*******

 

フアナ君は怒るかな?

でも、彼女さえいれば三征西班牙は復興の道を辿ることが出来る

 

『レパントで何も守れなかった僕だけど・・・』

 

妻も子供も死なせてしまった僕だけど

 

『だからこそ何かを、皆を、三征西班牙を、僕は護って見せる・・・!』

 

だから

 

『レパントの亡霊は、この海戦で消える。だから三征西班牙は、新しく生まれ変わることが出来る・・・』

 

だがその時だ

声が聞こえた

 

「総長!私は・・・!私の意思はどうなるのですか!?」

 

フアナの声だ

彼女の泣き縋る様な声が、心に突き刺さる

 

「・・・置いて行っちゃイヤ・・・!おじさん!!!!」

 

今、彼女はなんて言った?

随分懐かしい呼び名だ

髪も乱れ、ただ泣き縋る子供のように

 

「おじさん・・・!嘘を、嘘ついてごめんなさい!私が、私があの時の子供なんです・・・!」

 

ああ、そうか・・・君が・・・

 

「私が・・・!あの時嘘をつかなければ・・・こんな!・・・おじさん!」

 

こちらが制止するよりも早く

 

「半寿族なのを偽って、貴方の傍に居たんです・・・!私じゃ、おじさんが残るべきなんです!行っちゃヤダ、おじさん!」

 

もう多分本人も混乱しているんだろう

こんな僕みたいな人間を引き留めるために、自分の築き上げてきたものを捨てようとしている

 

この人は、僕が守らなくちゃいけない

 

だから

 

『フアナ君・・・』

 

震える声を、隠すように、フアナの嘘を、本当にするために

泣きじゃくる彼女に、優しく告げた

 

『あの手紙を、読んでしまったんだろう?・・・大丈夫だよ、あの子の振りをしなくても、僕がいなくても、君は・・・大丈夫だから』

「・・・え?」

『帰艦隊司令官・・・フアナ君は、僕みたいなのを引き留めるために嘘までついてくれたんだ・・・』

『Tes.解ってます。フーさんは長寿族ですよっと。皆解ってますよっと』

 

*******

 

フアナは自分の無力さを噛みしめた

このままだとおじさんが行ってしまう

自分を置いて行ってしまう

 

私はただ、おじさんと一緒に居たかっただけなのに

 

「フアナ君・・・」

「・・・?」

「立派になったな・・・」

 

その言葉に、どうしようもなく涙があふれ出た

その言葉を、叶う事ならもっと別の形で聞きたかった

 

フアナは、もはやどうしようもない事を悟って、その場に泣き崩れた

 

「ぁあ、あああ、ああああああ・・・」

 

そして聞こえるのは

帰艦隊総司令である房栄の

 

『"超祝福艦隊"の勝利を願って!礼砲構え!・・・撃ぇー!』

 

開戦の狼煙だ

 

********

 

アデーレは現状がヤバい事を悟った

後方からの砲撃、左右からの小艦群

左右に展開することで乱戦を狙い、損壊上等の覚悟ときた

 

康景さんの読み通りですね・・・!

 

大半の予想を裏切って康景の読みが当たったのだ

仲間ながらに恐ろしく思う

 

なら、この後の展開は、左右からの投擲や符術なども含めた砲撃

こちらの動きとしては攻撃パターンを解析し、被害を最小限に抑えるべき

だからアデーレは

 

「皆さん!敵の攻撃を速攻で解析します!それまで死守を!」

 

そして先程の康景が残した手紙の通りなら

既に彼がスタンバイしてるはずだ

 

*****

 

英国・第二階層まで到達した武蔵救出班は南の空に生まれた戦闘音を確認した

 

「まさかレパントの海戦で使った船を"超祝福艦隊"の代理にするなんて・・・」

「予想は出来てたよ、何せ大金を掛けて作り上げた"超祝福艦隊"を、俺達の噛ませ犬にするわけないからな」

 

多分もっと別の思いがその"代理"の選択にはあったのだろうが、自分達には計り知れない

 

・・・俺達は三征西班牙の生徒ではないのだからな

 

だから自分達は、自分たちが噛ませ犬にならない様にするしかないのだ

 

「アデーレ達は大丈夫でしょうか?」

「そのために散々作戦立案してたんだろう?大丈夫だよきっと・・・それに今回、武蔵には切り札がある」

「切り札?そんなものがありましたの?」

「ちょっと無理やりだったけど、彼には頑張ってもらったからな」

「彼?」

 

********

 

「じゃあお願いします!」

 

アデーレの指示と共に、男は漁業用の銛を数本担ぎ、出てきた

 

男は体格に似合わずゲーマーで、武蔵でも指折りの実力者だ

なので、どちらかというとインドア派である

争いは好きではない

だからいつも友人が担任と超人対決(体育)をしているのを遠巻きに見て心の中で"うわぁ"とか思ってたりする

 

ここ数日の準備期間は、ほとんど友人にこき使われていた

もちろん戦闘訓練である

何で?と疑問する前に彼は

 

「今回、俺すぐに戦闘に参加できないから、お前だけが頼りなんだ」

 

との事だった

普段お世話になってるし、不足の事態が生じた時だけでいいという条件付きだったので"それならいいか"と思い訓練していたのだが、案の定予期せぬ事態に陥った

よって今回、戦闘に、しかも最前線に参加した次第である

 

やる事と言えば至ってシンプル

敵漁船に向かって英国から大量に仕入れた銛を、相手に『投げる』だけ

陸上部でも何でもないので、投げ方すら正しいかもわからない

 

ただ彼に教えてもらった様に、肩を痛めない様に投げるだけだ

 

それと彼曰く、『威圧感与えるために叫んだりした方が効果的』らしいのだが、戦闘初心者の自分にはよくわからない

 

「じゃあ、ペルソナ君、相手の攻撃パターンを全解析するまで、お願いします!」

 

ペルソナ君は無言で頷いた

そして背後、下級生に予備の銛を用意させておいて、構える

 

「■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!」

 

自分でもなんて言ったか解らないが、とりあえず叫びながら放ってみた

正直真っ直ぐ飛ぶかも怪しいものだったが

 

「ギャアアアアア!?」

 

よかった、当たったらしい

黒煙を上げて沈みゆく船を見ながら、ペルソナ君は当たった感触に驚いていた

 

いけない

一発で終わりではない

まだたくさん船がある

 

だからまた構え直して

 

投げた

 

「■■■■■■■■■!!!!!!!!」

 

あ、よかった、また当たった

 

後に三征西班牙で語り継がれる『投擲の巨人』とは、彼である

 




ちょっと『アレ・・・?一人おかしくなかったか?』と思う方もいると思いますが
多分気のせいですハイ・・・(汗)

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