境界線上の死神   作:オウル

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「ナルゼ」回です



十一話 後編

大事なことは

 

ちゃんと話しておかなければ

 

後々面倒になる

 

配点(悔恨)

―――――――

 

私は、今日も誰もいない病室で目を覚ました

身体のあちこちが痛い

身体が鉛のように重い

骨が軋む、筋肉が張る、翼が思うように開けない

 

どうして私は、ここにいるのだろうか

明かりが差す、窓の外に目を向ける

聞こえてくる祭りや、戦闘訓練の声が、やけに耳障りに感じた

 

そしてゆっくりと鮮明になる記憶を噛みしめながら思い出す

 

そうだ、私は負けたのだと

 

ダッドリーに負け、ドレイクに負け連戦連敗

他人の足を引っ張って負けたのだ

それが悔しくて、虚しくて、辛くて、それを毎朝自覚するのが苦痛だった

 

マルゴットの役に立てなかった

足を引っ張った

一人でもやれることを証明して、負担を減らしてあげたかった

 

なのに

 

結果は負けである

そしてあろうことか敵に救われた

三征西班牙の立花誾に

薄れゆく意識の中で、私が思い浮かべたのは、大好きなマルゴットではなく恩人の康景だった

無意識に口走った名前が、康景だった

その事を指摘された時、私は悔しさを感じるよりも、悲しかった

 

どれだけ康景に甘えていたんだろう、と

 

困った時は康景に助けを乞えば手伝ってくれる、教えてくれる、助けてくれる

そんな考えが、己の中にあったのだ

それに気が付いた時私は、どんな顔でこれからアイツに会えばいいのだろうと考えるようになってしまい、マルゴットにも申し訳ない気持ちでいっぱいになった

 

私にとって彼は何なのだろうか

 

最近そればかりを考えてしまう

彼は大事な友人だ

それは自分だけでなく、ほとんどの仲間がそう思っている事だ

自分もその例に漏れない

だが、『ただの友達』と言われると、何故か引っかかる感覚がした

 

私が大好きなのはマルゴット

 

でも、康景は?

 

そう聞かれると、多分私はすぐに答える事が出来ないだろう

 

・・・そう言えば、何かある度に相談しに行ったり、自慢しに行ったりするのは康景だったな

 

そんな事を今さらながらに思い出した

そして夕暮れになると、決まってこの病室を訪れる人がいる

 

「ナルゼ・・・入るぞ?」

 

康景だ

こうして未だ病室から出ようとしない自分を見舞いに来てくれる

 

有難いし、嬉しい

でも、他の誰が見舞いに来てくれても、私はただ背を背けて寝たふりをする

 

どう反応していいか解らなかったから

 

「今日も寝てるか・・・病室って眠たくなるから無理も無いけどな」

 

アンタは重傷なのに何で他人の心配ばかりしてるの?

 

ちらっと見る康景は、顔面に包帯を巻いている

恐らく目をやったのだろう

普段から鈍感で、女性陣からフラグクラッシャーとか言われている男なのに、どうしてこういう時に限って無駄に優しいのだろうか

その優しさが、今のナルゼには責め苦の様に感じられた

 

「明日も来るけど、無理はするなよ」

 

この様子だと起きていることに気付いている

ただ、やはり気を遣ってかこちらを起こさずに、今日も立ち去る

 

「話しておきたい事があるんだ。皆に聞いてもらいたいことが・・・あるんだ」

 

そう言い残して、去っていく

ナルゼはただごめんなさいと心の中で繰り返し、嗚咽を噛み殺し、布団の中で泣いた

そんな日々を繰り返し、アルマダまでの日々は過ぎていく

 

******

 

アルマダ海戦の準備は、着々と進んだ

"武蔵"は、三征西班牙の"超祝福艦隊"の解析と、航行システムの見直しを行い、各艦の担当者と連携を取れるように準備をし、アデーレ、ミトツダイラが作戦立案、対人戦闘に備えて先生たちのみならず二代などの戦闘に秀でた者も指導を行っていた

 

康景も教員科の要請で戦闘訓練の指導を行った

怪我人だから勘弁してくださいと言っては見たが、結局は狩り出される始末

てっきり対人訓練を実技で指導しろと言われるのかと思ったが、案の定思った通りに言われた

怪我人に何させてんのアンタらと思わず言ってしまったが、無視された。解せぬ

 

腹立ちまぎれに本気で指導したところ、何故か評判が良く、挙句の果てには"先生"とまで呼ばれてしまい、調子に乗って残りの祭り期間を皆の指導に費やしてしまった

一応確認するが、怪我人である

流石に祭りの最終日は戦争に向け、体力を温存させるため訓練は行わなかった

康景はとりあえず家で武装の確認、メアリ救出班のメンバーを確認した

 

点蔵→メアリ救出

ネシンバラ→シェイクスピアと相対、大罪武装奪取

ミトツダイラ→ウオルシンガムと相対

 

現時点で総勢四名

想定される敵勢力は、"女王の盾符"全員

だが"女王の盾符"の内、多くの武蔵一般人をIZUMOに運ぶためにIZUMOに向かった船舶部の三人と、それに同行するジョンソン、戦闘力は無いハワードは除いても問題ない

それでも残り八人

大将であるエリザベスは動かないし、最終的に用事があるのは自分なので、エリザベスは担当

そして"女王の盾符"で一番面倒臭そうなウォルターは自分がやろう

 

そうなると

 

シェイクスピア→ネシンバラ

ウオルシンガム→ミトツダイラ

ウォルター→康景

エリザベス→康景

 

残り四人をどうするか

 

残りの"女王の盾符"は

 

ダッドリー

セシル

ニコラス

ハットン

 

メアリ救出班を増やし過ぎると今度はアルマダに割く戦力が減る

それは避けたいところである

だが可能性として有り得そうなのはウルキアガだ

彼は旧派なので同じく旧派たる三征西班牙とやるのは避けたいはずだ

 

それでも残り三人

 

どうする・・・?

 

最悪自分がなんとかするが、多くの実力者を相手にするという事はそれだけ余力もなくなる

アルマダに途中参戦することも考えればなるべく余裕を持った状態で挑みたいのも確か

 

この辺も要相談だ

 

康景はこの後の最終的な作戦の話し合いで言うと決断した

ナルゼとも、一度話しておきたかったが、あの様子では仕方あるまい

だがその前に、康景にはやるべき事がある

 

先生との『話し合い』だ

 

ここの所忙しかったので、戦争前に聞いておきたかった

 

・・・数正先生の事を

 

*******

 

康景はこの時間帯にあらかじめ先生にウチに御足労いただくように伝えてある

酔いつぶれてその辺で寝てなければ定刻通りに来るはずだが

 

「おじゃま~・・・」

 

酔ってはいない

定刻よりも十分くらい早い

 

酔っていない方が逆に何かありそうで怖い

 

「いらっしゃい先生、わざわざご足労いただいて、申し訳ありません」

「暫くアンタの飯食えなかったから、アンタが恋しかったわー」

「『料理の味が』が抜けてますよ、その言い方だと誤解されそうなのでやめてください」

 

細かいなーなどと言ってむくれるオリオトライ

 

「御飯なら作り置きが冷蔵庫にあるので、今日はそれを食って我慢してください」

「えー出来立てがい~い~!」

「文句言わんといてくださいよ、温めて食べてください」

「ぶ~!」

 

なんだこのアラサー可愛いな

 

・・・ってそうじゃない

 

「この時間帯に先生を呼んだのは、先生に聞きたい事があったのでお呼びしました」

「スリーサイズ?」

「いや、それは既に把握済みです」

「・・・」

「・・・」

 

沈黙

 

「聞かなかった事にしましょう、うん。で、本題は?」

「報告と、聞きたいことが」

「何?」

 

先生が居間でくつろぐ

独身女性がここまでダラッとしてたらいつまでも結婚できませんよ

と言いたくなったが命が惜しいので言い留まる

 

「俺は今日、アルマダ海戦には遅れて参加します」

「・・・そう、アンタが決めたことなら、私は構わないわ」

「・・・ご迷惑おかけします」

 

なんで、とか、どうして、とかを先生は聞いてこなかった

まるで自分がメアリを救いに行く事が解っていたかのように

 

「聞きたい事って言うのは?」

「数正先生の事です」

「・・・」

 

今度は固まった

一瞬の硬直の後、申し訳なさそうに笑って

 

「ついにその質問が出てしまったか・・・」

「先日の会議の場に来たM.H.R.R.の馬鹿・・・知り合いに『石川先生は織田にいる。その件に関してはそちらの担任が詳しい』と言われました。その様子だと、何か関わりがあるんですね?」

「あー・・・うー・・・」

「珍しく悩みますね・・・」

「珍しくって何よ!?」

 

紅茶にブランデーじゃなくてブランデーに紅茶を入れてる普段の生活を見ればそう思いますよ

オリオトライは暫く悩んだ後

 

「怒らない?」

「怒るような事なんですか?」

「いや・・・そういう訳でもないのだけど・・・」

「・・・?」

 

話し始めた

 

「私がね?教員になるために武蔵に来た時、既に教員枠はいっぱいだったの」

「・・・」

「・・・それでちょっとあの人と揉めて・・・」

 

オチが読めた

要するに

 

「・・・数正先生と戦って勝った方が教員枠に入るとかになって。先生が勝ち、数正先生が去ったと・・・?」

「うん、大体そんな感じ」

「・・・」

 

・・・それで俺に言いづらかったという事か

珍しく悩んでると思ったら、自分に気を遣って言い出せなかったらしい

 

「・・・確かに、あの人には色々教えていただきました。俺が襲名するきっかけも、あの人との約束があったからです」

「・・・」

「あの人と一緒に居た期間は、一番短かったですけど、大事な人でした」

「怒ってる?」

「いなくなった時はそりゃあ悲しかったです・・・けど」

「けど・・・?」

「あの人も元気でやっているようなので、それが分かっただけでも良しとします」

 

本当は良くない

あの人がM.H.R.R.で、羽柴直属の部下を指導しているのなら、いずれ武蔵の敵として立ちはだかる

 

厄介な壁だ

 

面倒臭い壁だ

 

あの人は、俺に黙って出て行ったのだ

あの人にだって非はある

居なくなるなら、せめて一言、何か言ってもらいたかった

 

そうすれば敵対する道以外に、何か別の方法があったかもしれない

でも、それは『イフ』の話だ

 

「それに、先生にだって大変お世話になってるんですから、責められるわけないでしょう」

「康景・・・」

「・・・先生?一つだけ約束してください」

「何?」

「俺は先生に対して怒ったりはしません。でも、黙っていなくなったりはしないでください。その時は本気で怒ります」

 

もう師匠を失うのは嫌だ

 

「・・・わかった」

「約束ですよ?」

「うん、約束」

「・・・大事な人に黙って去られるのは、悲しいですから」

「・・・うん」

 

抱きしめられた

何でだろう、最近よく抱きしめられる気がする

 

******

 

武蔵アリアダスト教導院橋上、祭り最終日にて

それぞれのアルマダにおける持ち場について確認するために、三年梅組が集合した

この場に点蔵、ネシンバラ、康景がいないが、時間も無いためいるメンバーだけで話が始まったのだが

 

「どういう事!?なんで私だけ魔女隊から除外されてるの!?」

 

ナルゼだ

彼女はマルゴットに縋る様に、懇願するように叫んだ

 

「なんで私だけ外されてるの!?傷ならこの通りに治ってるのに!?」

 

出撃が自分だけ不可になっている

それが今のナルゼにとって、かなり重たい事だ

自分は要らない存在だと言われてるような気がして

 

「嫌よ!あの馬鹿に背負われたままだなんて!」

 

あの馬鹿に背負われて、与えられてばかりで、守られてばかりで

 

「わ、私が弱いから!?」

 

マルゴットの足を引っ張るから

 

「白嬢が無くて役に立たないから!?」

 

マルゴットの負担になるから

 

「それとも私のお父さんが・・・!」

「――――――っ!」

 

今の台詞に、マルゴットの目つきが変わる

眉を浅く立ていつもの笑顔が消えたマルゴットの顔に一瞬怯えながらも

 

「・・・私はもう、要らないの?私は、あの馬鹿に何も返せないの?」

「違うよガっちゃん・・・そうじゃなくて」

「そういう事じゃない!」

 

叫ぶナルゼは肩を震わせ半歩下がり、その様子を見て皆が眉尻を下げた

 

やめて・・・そんな顔しないで・・・私は・・・

 

ここで皆に諫められたら、皆に置いて行かれそうで怖かった

 

マルゴットに置いて行かれそうで

 

康景に何も返せないまま情けない思いを抱えたままで

 

マルゴットに見捨てられるのも、康景に何も返せないままなのも、嫌だ

そんなのは嫌だ

 

「私は・・・死んだっていい・・・マルゴットの役に立てるなら、あの馬鹿に恩を返せるのなら!」

 

そこまでの覚悟だ

 

「何だって出来るわ・・・マルゴットと、あの馬鹿を思えば!」

 

その時だ

不意に右肩に手を置かれた

いきなりの事で驚きながらもそちらに振り向くと

 

「こぉぉぉのぉぉぉ意気地なしがァアアアアア!!!!!」

 

気が付けば私は、喜美のトルネード平手打ちで空に舞っていました

 

*******

 

浅間は喜美の平手打ちの威力を見た

 

人って平手打ちであそこまで吹き飛ぶんですねー・・・

 

吹き飛ぶというか、打ち上げられたのだが

喜美が打ち上げたナルゼを強引に引き戻し、立たせる

そして無言でナルゼの両頬を引っ張る

 

「あい、あああああああ」

 

"痛い"が頬を引っ張られていることで上手く言えなかったのだろう

 

「あにさぁ・・・?」

 

ナルゼの問いに答えず、喜美が顔を近づけ、ナルゼの上唇を噛み切る

肉を断つ音が、妙に生々しく聞こえた

放心して倒れ込むナルゼに、喜美は明らかに怒った口調で、見下ろしたまま告げる

 

「あの馬鹿に背負われっぱなしなのが気に食わないのはわかるわ、私だって張っ倒したくなる事多いもの」

「喜美!康景君を張っ倒したくなる気持ちもわからなくもないですが今はもっと別の事を!」

「「お前も大概だよ・・・」」

 

でも皆後ろの方で「確かに・・・」とか呟いているので同罪でしょう、うん

 

「戦場はアンタの汚名を雪ぐ場じゃないのよ?」

「・・・」

「それにさっきアンタ言ったわね?『康景とマルゴット』の為なら死ねるって・・・馬鹿じゃないの」

「・・・!」

 

馬鹿じゃないの

そう言われ、ナルゼの顔が怒りで赤くなる

しかし喜美は反撃の隙を与えず

 

「アンタが言った事を要約するとね、『私は康景とマルゴットの為に、ボロボロになって死にました』。でもそれってこうも言えるわよね?『私が死んだのはあの馬鹿とマルゴットが居たせい』って」

 

ナルゼが絶句した

 

*****

 

ナルゼは、その先を聞きたくなかった

自分が取り乱して言った事とはいえ、恩を返したいのは本音である

 

「あの馬鹿に恩を返すのも、それは勝手よ。それだけなら別に構わないわ、恩を返すだけですもの」

 

だったら何をしたっていいだろう

でも、この女が言わんとしてることは、何となくわかる

だから、聞きたくはなかった

 

「でも、あの馬鹿に恩を返すのに、アンタが死んでちゃ、アイツは多分アンタを許さないわよ」

「・・・ぁ、ああ・・・」

 

その通り過ぎて、何も言えなかった

 

そんな事をすれば、あの馬鹿は悲しむ

 

そんな当たり前な事に、何故思い至らなかったのか

 

否、思い至ってはいたのだ

 

ただ悔しくて、ただ自分の気持ちを通したい一心で、見ない様にしていたのだ

 

自分はなんて愚かな事を言ってしまったのだろう

気が付けば、ナルゼの目尻には涙が浮かんでいた

 

「ガっちゃん・・・」

「マル・・・ゴット・・・」

 

マルゴットが、動けなくなった私の隣に座る

 

「わ、わた、し、は・・・」

「いいよガっちゃん、解ってるから」

 

その言葉に、涙腺が壊れた

 

「ひ、ぁ」

「確かにやっすんに背負われてばかりって言うのも、癪だもんね」

 

泣きじゃくる私の頭を撫でながら、マルゴットが続ける

 

「ナイちゃんもやっすんにはお世話になってるし、やっすんの助けになりたい気持ちもわかるよ?でも・・・」

「・・・」

「無理して死んじゃったりしたら、それこそやっすん、気負っちゃう・・・」

「うん・・・」

「やっすんに恩義とか色々感じてるのは、ナイちゃんだって、他の皆だって一緒だよ」

 

皆があの馬鹿に世話になった

でも、その恩を返すのに、死んでいてはダメなのだ

それは彼への裏切りに等しい

 

「ナイちゃんも、あの人ならこうしてくれるだろうなとか、甘えそうになっちゃう」

「・・・」

「でもやっぱり、それじゃダメなんだよ、ガっちゃん」

 

マルゴットが言おうとしていることが、解った気がする

 

「やっすんに恩を返したいなら、死ぬなんて考えちゃ駄目」

「うん・・・」

「やっすんの力になれるように、少しずつでいいから、強くなっていこう?」

 

あんな暴言を吐いた自分を見捨てないでいてくれるマルゴットに、ナルゼは感謝の気持ちでいっぱいだった

 

「"双嬢"は並び合うって意味だから、助け合いでも慣れ合いでもなく、対等」

「・・・そうだったわね」

「二人で対等に、やっすんを助けられるくらいに、強くなろう」

「・・・うん」

 

対等な関係

マルゴットや康景の役に立つために死ぬなんて、それこそ対等ではない上から目線だ

自分の過ちに気付いたナルゼは、もはやあの焦燥感は消えていた

 

「随分私、上から物を言ってたみたいね・・・」

 

冷静になって考えれば、大分恥ずかしい駄々をこねたものだ

こんな状態の自分が、魔女隊でマルゴットと対等にやれるわけがない

今度は先程までの駄々とは違う

諦めるために、聞いた

 

「マルゴット?一応聞くけど、今の私の手伝いは・・・いる?」

 

マルゴットはその問に苦笑いして

 

「・・・今のガっちゃんの手伝いは・・・いらないかな」

 

********

 

浅間は、事態がひとまず解決したのを見た

先程の喜美のスーパー平手打ちもそうだが、ナルゼの康景への気持ちにも驚いた

確かに康景とナルゼが一緒に居るのはたまに見かける

しかし、そう言うときは大抵ナルゼが馬鹿を言って康景がツッコミを入れるというボケとツッコミの関係の様に思えていたのだが

 

・・・康景君の事をあそこまで思っているとは思いませんでした

 

そこが意外だった

ナイト以外であそこまで固執するのも、初めて見たかもしれない

 

だが同時に、康景から預かった例の"ブツ"の重みを思うと、下手にその事に突っ込んでいいのか判断に迷った

 

・・・アレ、預かったままですけど、いつまで持ってたらいいんでしょうか

 

何だか急に預かった物が重く感じた

皆がそれぞれ一息つく流れの中、階段の方から人の気配を感じた

 

「いやいや、先生?確かに点蔵を煽ったりはしましたけど、一人で行けとは言ってませんよ?」

「煽ってるじゃないw」

「さっきも言いましたけど、俺だって行くって言いましたからね?流石に英国に一人で乗り込むなんて馬鹿な事選ぶとは思えないんですが・・・」

「でも結果としてこれがアンタの家に届いんたんだから、馬鹿なんじゃないの?」

「ですよね~」

 

康景と先生だ

二人は何やら手紙の様なものを見ながら何かを話している

そしてようやくこの状況に気付き

 

「「・・・」」←(康景&オリオトライ)

「「・・・」」←(それ以外)

 

沈黙

 

「「・・・」」←(全員)

 

康景とオリオトライが互いに顔を見合わせ

 

「「・・・失礼しました」」

「「帰るな!?」」

 

回れ右して昇ってきた階段を再び降りようとしたので、皆が止めた

 

********

 

康景は皆に呼び止められ、踏みとどまった

 

「ちょっと康景君!?なんで戻ろうとするんですか!?」

「・・・反射的に?」

 

反射的にというか、お取込み中邪魔しちゃ悪いと思ったからだ

だが冷静にこの状況を見れば、何があったのかは察しが付いた

康景はナルゼの前に跪いて

 

「・・・もう大丈夫なのか?」

 

そう言って手を差し伸べた

 

「ええ、アンタの元カノにぶん殴られて目が覚めたわ」

 

こちらが伸ばした手を取り、立ち上がるナルゼ

康景はちらっと喜美を見て

 

「(お前怪我人相手に無理すんなよ)」

「(どっかの馬鹿の尻拭ってやったんだからこの賢姉に感謝しなさい!)」

 

視線で会話した

確かに、ナルゼとちゃんと話をしなかった自分の責任でもある

その点では感謝せざるを得ない

 

「やっぱちゃんと話しておくべきだったな・・・ごめんな」

 

ナルゼの頭にポンっと手を置いて

 

「こ、こらっ!?わしゃわしゃす~る~なぁ~・・・ゴホンっ!・・・アンタちゃんと療養中の私に会いに来てくれたじゃない。アンタが来ても拒んで寝たふりしてたのは私なんだから、悪いのは私よ」

 

ナルゼは康景の手を取り、その手を握って

 

「だから、アンタが謝る必要はないの・・・いい?」

「解った・・・」

 

何があったか詳しいやり取りはわからない

しかし、この様子だと、何か思う事があったらしい

康景は自分の至らなさを反省した

 

「で?アンタ毎日病室にまで来て『話したい事が、話したことがぁ~』とか言ってたけど、話したい事って何よ?」

「ああ、うん、その事なんだけど」

 

周囲を見渡す

どう見ても点蔵はいない

 

・・・あの野郎、一人で行きやがったな?

 

全く何考えてるんだあの馬鹿は

内心深くため息をついた

ネシンバラは呪いがかかっている以上、今いないのはしょうがないが

まず

 

「俺の怪我の事に関して、少し皆に報告がある」

「「・・・」」

 

皆が顔を見合わせる

 

まだ浅間にしか言っていないので、少し反応が怖い

 

*********

 

トーリは康景がメアリを止めるという話を黙って聞いた

 

「ちょっと長い話になるけど、聞いてくれ。皆も知ってる通り、俺には拾われる以前の記憶はない。でも、今回英国に来て幾つか思い出せたこともある」

 

今まであんまり触れてこなかった友人の過去

"幾つか"という事は、すべてではないのだろう

 

「俺には、"妹"がいた」

「・・・ヤスに妹とか、想像できねぇな」

 

ゴリゴリマッチョな男勝りな女性を想像してしまった

だが、その内容はトーリが思うよりも重かった

 

「俺自身も驚いたよ、だって顔が師匠にそっくりだったから」

「・・・ヤス」

 

康景にとっての師がどれほどの存在かは、皆が痛いほど知っている

だからこそ皆は理解した

康景の怪我は、それによって生じた"隙"が原因だったんだと

 

「俺に用があって、話をしたんだけど、ちょっと揉めてな。結果がこれだ」

 

自分の右目を指して自嘲した

トーリは思う

自分の手で師を殺してしまったのに、その師に似ている人物と戦うのは、酷な事だろう

でも康景の反応は違った

 

「俺は・・・闘っているとき、思ってしまったんだ・・・"楽しかった"って」

 

それは

 

「命のやり取りを、楽しいなんて思ってしまったんだよ俺は」

 

今までの康景が

 

「怖かった、今まで培った自分のすべてを否定するみたいで、怖かった」

 

なかった事になるみたいで

 

「ただの化け物に成り下がったみたいで、獣に成り果てた俺が、お前らと一緒に居ていいか、疑問だった」

 

嫌だったのだろう

 

「でも、智に説教されて、喜美に受け入れられて、この数日、考えて、お前らに聞く決心が出来た」

 

トーリには、康景が言わんとしていることが何となくわかった

 

・・・そんなの、言われなくても皆答えは一緒だよ、義伊

 

もちろん、トーリの答えも決まっている

皆を見渡す

ホライゾンも、喜美も、浅間も、ミトツダイラも、皆も、解り切った様子だ

 

「俺はお前らと、一緒に居ていいのかな?俺は、お前らに背負われても良いのかな?」

 

やっぱりそういう話だった

トーリは想像通りの問いに、噴出した

トーリは笑いながら

 

「お前頭良いのに馬鹿だよな!ホントによ・・・散々お前が俺達背負ってきたのに、お前だけ背負われないなんて馬鹿な話がある訳ないだろ」

 

その言葉に、全員が同意した

そして先程まで康景の事に関して揉めていたナルゼも

 

「さっきまでマルゴットと康景の為ならって漠然と思ってたけど、たった今、私も考えが明確になったわ」

 

ナルゼが康景の隣に立ち、康景の顔を覗き込むように

 

「アンタに背負われっぱなしなのも、悔しいし・・・私は、アンタを背負いきって見せるわ」

「なんか・・・男らしいなお前」

「やかましいわ!」

 

ナルゼも多分もう大丈夫だろう

皆が一安心した

だが不意にナイトが

 

「一件落着で何よりだけど・・・やっすん、ガっちゃんはナイちゃんの嫁だからね?わかってるその辺」

「いや解ってるよ?」

 

ナイトの一言と康景の反応の差に周囲は一気に苦笑いした

 

*******

 

そして康景の報告は続く

喜美はそれを聞きながら安心した

 

・・・アンタを一人にするような馬鹿はここにはいないのよ、大馬鹿め

 

「まぁ他にもあるんだが、俺はリザ・・・エリザベスとメアリとは古い友人だった」

「ま、まさか記憶の外側で既に攻略を開始していたとは・・・流石です康景さん!」

「ぶん殴るぞアデーレ」

「あひぃ!?」

 

超高速移動で鈴の背後に隠れたアデーレを皆が半目で睨んだが、話が進まなくなるので無視した

 

「それでまぁ俺は友人を失うなんて事考えたくなくてな・・・それでちょっとメアリ救ってくる」

 

康景は馬鹿で、鈍感で、容赦のない超人だが、優しい

喜美は好きになった人が、自分が信じた人が友人を大事にする人で良かったと、そう思った

 

「な、なんかすごい簡単に言ってますけど・・・作戦とかは?」

「今回はメアリに恋しちゃったであろう点蔵と、女と和解するために呪いを解きに行くネシンバラ、後は・・・」

「私も同行します」

 

ミトツダイラが名乗り出た

 

「だ、第五特務も行くんですか!?」

「騎士は傭兵に身を落とせませんから・・・」

「おい、待てよネイト、その理論だとアデーレはどうなるんだよ?」

「・・・」

「・・・」

「だ、誰か何か言ってくださいよ!?」

 

皆がアデーレは機動殻使うと動けなくなるからなぁと感じたが、本人の名誉のために黙っておく

 

「俺と、女目当ての忍者と中二病、そして負けず嫌いのネイトさんは確定している」

「四人でどうにかなるんですか?」

「割り当ては決めてある。点蔵はメアリ救出、ネシンバラはシェイクスピアと相対、大罪武装を奪取する。後はネイトが番犬倒して、俺がウォルターを相手し、最後にリザと相対する」

「待てよヤス、なんであの妖女と相対すんの?」

「告白されたからなぁ・・・返事はしないと」

 

何でこの大馬鹿は変にモテるのだろうか

 

「そっか、返事はしないとなぁ・・・」

「「いやいやいやいや!そうじゃないだろう!?」」

 

何人かが『何で!?』とか『嘘だ!?』とか騒いでるが、康景は無視した

たまに康景の精神力が半端ないと思うのは私だけだろうか

 

「だがぶっちゃけまだ人数は不足だから、まだまだ募集中でなァ・・・」

 

ウルキアガを見ながらわざとらしく言う康景

ウルキアガは呆れたように

 

「貴様、拙僧が同じ旧派の三征西班牙とやれないのを解ってて言ってるな?」

「パーフェクトだ、ウッキー。お前には"姉物エロゲ"を詰め合わせで進呈しよう」

「ふん、解ってるではないか・・・よかろう、その話乗ってやる」

「決まりだな」

 

ウ ル キ ア ガ が仲間になった

 

ウルキアガは信仰上、同じ旧派とはやりづらいのだ

康景はそれを理解したうえで発言した

他にも誰かが名乗り出るのか、康景は周囲を見渡した

その時だ

 

「ならあの瘦せ女は私ね・・・今ならあの狼男もいないし」

 

ナルゼだ

 

「ガっちゃん・・・」

「大丈夫よマルゴット、もう死ぬなんて選択肢は選ばないから・・・今回の目的はメアリの救出であって、戦闘はそのための時間稼ぎ、でしょ康景?」

「・・・ああ、解ってるならいい。馬鹿な選択肢だけは選ぶな」

「解ってるわ、『馬鹿二人』を完結させるまで死なないもの」

「おい馬鹿ヤメロ」

 

頭を殴った

 

「痛い・・・(´・ω・`)」

 

ナ ル ゼ が仲間になった

 

何だかとんとん拍子で康景と愉快な仲間たちが増えていく

だが

 

「・・・でもさ、その肝心の忍者はどうしたんだYO!」

「ああそれなんだけど・・・」

 

康景が懐から取り出したものは

 

『拝啓

人生五十年、外道の皆々様方、如何お過ごしでしょうか

ちょっと人を救ってくるで御座るので退学許可を頂きたいで御座りまする

自分一人で行ってくるので、皆様はアルマダに集中していただきたく思うで御座る

 

敬具

 

点蔵・クロスユナイト』

 

という御座る口調がやけにムカつく手紙だった

そして康景はその手紙をクシャクシャに丸め

 

「アイツ、俺達の事舐めてるよな?」

 

さっきまで人を救いに行くと言ってた奴とは思えない邪悪な顔つきで言った

 

「あれ?ヤス怒ってる?」

「当たり前だろう、全部終わったらアイツのパンツ引き摺り下ろして武蔵引き回しの刑だ」

 

*******

 

康景はひとまず対英国戦用の人員が揃ってきた事を確認した

正直まだ足りないが、何とかするしかないだろう

 

今日は忙しいなぁ

 

英国でドンパチ(メアリ救出)→アルマダでドンパチ(後半戦)

 

最初っから武蔵に乗り込んで攻撃はしてこないだろう

それを考えると、自分のアルマダでの出番はまだ先だ

 

点蔵がさっと告白してさっと戻れればすぐに参加は出来るだろうが、何せあの点蔵だから、噛みまくるんだろうなぁ・・・

 

そんな事を思った

だが同時に少し嬉しくもある

自分が一人でない事を、皆に認めてもらった事だ

皆の心の広さに浮かれつつ、感謝した

 

だが同時に、頭の中で声が響く

責め立てるような、憎しみの籠った怨嗟の呟き

自分の声のようにも聞こえ、別人とも取れる声が

 

・・・何浮かれてるんだよ・・・化け物の癖に

 

やめろ

 

・・・今の内だけだ、幸せなのは・・・

 

黙れ

 

・・・お前は所詮、根っからの『人殺し』なんだよ、あの妹と一緒で

 

康景は頭を少しだけ押さえ、聞こえてくる幻聴を振り払った

 

「っ・・・」

「・・・?」

 

康景の様子が少しおかしい事に、先日も違和感を感じていたミトツダイラだけが気づいていた

 

 

 




ナルゼは主人公とナイトへの気持ちで揺れ、ナイトは主人公にジェラシー状態だと思っていただければいいと思います

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