境界線上の死神   作:オウル

46 / 76
ト―リ「前回までのあらすじィィィイイイイ!」

康景「リザに告白されますた」
喜美「モテる男は辛いわね~・・・」
康景「・・・凄い怖いんだけど、いったん落ち着こうか?な?」
喜美「・・・」
康景「なんで浮気した亭主みたいになってるの?ねぇ?」


十一話 前編

アルマダの準備が

 

着々と進みつつある

 

しかしその合間に

 

別の事を企てる者がいる

 

配点(やるかやらないか)

――――――――――

 

朝からぶっ通しで作業をしていた点蔵は、ついに機関部から休憩しろと追い出され、甲板でパンを片手に休憩していた

 

ぶっちゃけ、何か仕事をしていた方が気が紛れて楽だったので御座るが・・・

 

パンを毟りながら倫敦塔の方を見る

彼女は自ら去っていったのだ

歴史再現に必要な事を、成しに行ったのだ

自分で覚悟していったのなら、自分が出る幕はない

 

自分にそう言い聞かせて、必死に諦めを得ようとした

 

先程トーリが何か悪さをしたとかで機関部に逃げてきて、それを匿っていたのだがあの騒ぎ様では見つけてくれと言っている様なものだ

元気で御座るなと内心感心する

 

そう言えば、ヤス殿も負傷したとかいう話で御座ったなぁ・・・

 

信じがたい話である

たまに手合わせを御願いするときもあるが、そういう時は大抵こちらがコテンパンに叩きのめされて終わるのがお決まりのパターンである

そんな人外魔境に攻撃を与えるなど、一体どんな相手だったのだろうか

 

今日は康景を見ていない

正純についてオクスフォードに行ったとの事だが、彼はどう思っているのだろうか

メアリを死なせることを、彼は肯定するか否定するか

康景の歴史再現への嫌悪は点蔵でも知ってる

だが、同時に、武蔵のために動く彼なら、非情にもなれる

 

どうなんで御座ろうか・・・

 

機関部の喧騒を他所に、一人佇む

一人佇む様子を、通り過ぎる後輩や女子たちが

 

「点蔵先輩、女にフラれて現実逃避するために機関部に来たらしいぜ」

「点蔵先輩って気は利くのになんでモテないんでしょうか」

「やっぱりアレじゃない?金髪巨乳信仰が悪いんじゃない?w」

 

煩いで御座るよ!

金髪巨乳の何が悪いで御座るか!

 

金髪巨乳こそ至高、金髪巨乳こそ真理、金髪巨乳こそ正義

それが世の理なのだ

よくわからない金髪巨乳のゲシュタルト崩壊を起こす点蔵

だが

 

「点蔵」

 

不意に声を掛けられた

その声の主の方に振り返ると

 

「ヤス殿・・・」

「よう」

 

康景だった

右目に巻かれた包帯が、とても痛々しく見える

彼は自分の隣に座り、多分途中で買ったであろうフィッシュアンドチップスを頬張る

 

「脂っこいなこれ・・・味も微妙だ。俺が作った方が美味い」

「・・・どうしたで御座るか?」

 

オクスフォード教導院に正純と行ったはずだが

 

「さっきどっかの馬鹿が王賜剣二型で一発芸やってな。その馬鹿を狩り出してお仕置きするのが新しい任務なので御座るよ」

「真似止めて下さらぬか!?腹立つで御座るよ!・・・トーリ殿なら機関部で御座る」

「ども」

 

まぁどの道ヤス殿の索敵能力スキル半端じゃないで御座るからなぁ・・・

自分が密告しなくともいずれは見つかっていただろう

だが康景は立ち去らず、おもむろに

 

「なぁ点蔵、お前、メアリの事好きか?」

「ごっふっぁああ!」

 

むせた

 

「な、なんで御座るかっ!?いきなり!?」

「YesかNoかで聞いてるんだ」

「え、ええーっとそれはぁ・・・そのぉ・・・」

 

なんでこの御仁はそういう事をストレートに聞けるのだろうか

YesかNoかで言われれば、確かにYesではあるが

 

「た、確かにその問いにはYesと答えざるを得ないで御座るが・・・」

「そうか・・・」

「・・・」

「・・・」

 

な、なんで御座るかこの雰囲気・・・!?

何で自分好きな人暴露する流れになってるで御座るか!?

 

康景の独特の圧力に負け、思わずメアリへの好意を認めてしまった点蔵

しかし他の外道衆と違ってそれを茶化したりしてこない

 

「でも好きな男性の好みを聞いたら、『傷を残せるような人』と言っていたので、浴場で傷を治された自分は対象外なんで御座ろうなぁ」

「『傷を残せるような人』?・・・アイツがそう言ったのか?」

「そうで御座るが・・・」

 

風呂場にて傷を治療されたという事は、メアリの言う『一生傷痕を残せるような人』から除外される

 

「点蔵、お前はその選択で、後悔はしないのか?」

「え・・・?」

「惚れた女が処刑されそうなのに、傍観者でいられるのか?」

「それは・・・」

 

彼女が望んだ事だ

それに、歴史再現に必要な事を、一介の忍者に過ぎない自分がそれを邪魔するのは彼女の決意を踏みにじるものではないだろうか

 

「・・・点蔵が何を選ぼうと、点蔵の選択だからな・・・何だって良い」

「・・・自分は・・・」

「でも俺はお前の事、友達だと思ってる。だから友達には後悔の無い選択をしてほしい。俺はそう願うよ」

「・・・」

 

自分の左側に座る康景の顔は、右目を包帯で巻いているのでよくわからないが、こういった話を康景とするのは珍しいかもしれない

 

「まだ皆に言ってない事なんだが・・・俺は、メアリとリザ・・・エリザベスとは昔の馴染みなんだ」

「・・・!」

「だから俺にとってもメアリは、大事な友人になる」

「大事な・・・友人」

「お前も知っての通り、俺は歴史再現なんて大っ嫌いだ、だから俺は、メアリを死なせない」

 

それはつまり、メアリを救うという事

歴史再現を無視してまで一人の命を救う気なのか

だが、康景がいくら歴史再現嫌いだと言っても、ただ単にカチコミに行くとは考えづらいが

康景は立ち上がり、いつものコートについた埃を払い、機関部に向かう

 

「まぁなんだ・・・俺が言いたかったのは、お前がどんな選択をしようと、俺はアイツを助ける。それだけは伝えておきたかった」

 

変わらないで御座るなぁ・・・

その後姿を見て、点蔵はそのあり方を羨ましいと思った

 

それに自分は何をやってるのだろうか

そんな自嘲心を感じながら、ただその背中を見送った

だが不意に康景がこちらに振り返り

 

「お前の背中の傷、それ、メアリに治療してもらったって言ってたな?」

「jud・・・」

「俺の気のせいかもしれないが、一つだけ真新しい傷が残ったままだぞ」

「え?」

 

言われたことの意味を、すぐに理解できなかった

すぐにその背中の部分を触る

その触った感触は、確かに傷が残っている

 

「・・・」

 

自分の傷は残されていた

 

それはつまり・・・

 

点蔵の迷いは晴れた

 

一人決意を固めた裏で、点蔵の密告によりトーリが康景に捕まって正純にお説教を食らったのは、あまり知られていない

 

********

 

直政は全裸で正座して表示枠の正純に説教されているトーリを腕を組んで見下ろしている康景を見た

 

・・・アイツ戻ってきてたのか

 

怪我したてなのに忙しい奴だと内心呆れた

作業に戻ろうとして

 

「うっす直政姐さん」

「なんだその呼び方・・・」

 

康景に変な呼ばれ方をされて振り向いた

いや『姐さん』とはたまに言われるが、コイツに言われたことは無い

あったかもしれないがなんだかぞわっとした

 

「なんさね?」

「地摺朱雀の修理ってどうなったのか気になって」

 

一応こっちも気にかけてはくれてたのか

なんだか嬉しいような気恥ずかしいようなふわふわした感覚になる

 

「IZUMO本社に修理技師派遣を頼んだ。もうすぐ来ると思うんだが・・・」

「修理の他にも確かに、これからの武蔵の運航を考えていく上で、IZUMOの技術は必要だよな」

 

なんだかんだで武蔵の全体を把握しようと努めるその姿勢は認めるが、どこまで把握しているのかたまに疑問に思う

 

「IZUMO本社から来るって事は、相当なベテランが来るのか?」

「さぁ、私も誰が来るかは知らんが・・・」

 

その言葉と同時に、背後に人の気配がした

 

「「・・・」」

 

二人で後ろを見る

 

そこには背の小さいポニテが立っていた

清武田、覚羅教導院の制服を着たその少女は

 

「やっと気づいたか・・・マサ先輩、なんですぐに気づいてくれないかなー」

「ああ悪い、いたのかお前」

「ひっどい先輩だなぁ!」

「直政、こちらは?」

「え、ああ、康景は会った事なかったなそう言えば・・・泰造爺さんの孫の三科大」

 

泰造爺さんは機関部でも古参なので、康景はもちろん泰造爺さんを知っている

 

「へぇ・・・泰造の爺さんの孫かぁ!え?可愛くね?ホントに孫?」

「・・・ちょっとマサ先輩、この人誰?」

「こっちは天野康景、たまにお前に通神文で送る・・・」

「ああ、この人が噂の・・・」

「噂?」

「マサ先輩とは通神文でよくやり取りするんだけど、康景先輩の話が大半で・・・」

「おい!嘘言うなよ」

 

なんかマズい展開になってないか?

 

「何が嘘なのさ!つい昨日だって"馬鹿が怪我して心配で眠れない"とか言ってしつこく通神文を」

「馬鹿!何言ってるんさねお前!」

 

慌てて大の口を塞ぐ

 

「直政が俺の話を・・・ねぇ」

「な、なんさね」

「なんか意外だなと思って」

 

意外ってなんだ意外って!?

私だって人の心配くらいするぞ!

 

「直政と一緒に居るのは楽しいからいいんだけど、直政はいつもツンツンだからてっきり嫌われてるのかと思ってたよ」

「( ゚Д゚)ハァ!?」

「プークスクスwwwwwww」

 

やっぱコイツ鈍感だな!

言いようのない無力感を感じつつ、隣で隠すことなく笑っている大を殴った

 

*********

 

三征西班牙の生徒会と総長連合の合同居室で、セグンドは手紙を読んでいた

 

『最近、孤児院ではアルマダ海戦の話でもちきりです。なんでもこの海戦の後、三征西班牙は貧乏になって孤児院が大変になるとか』

 

最近の子供はシビアだなぁ・・・

アルマダの敗戦は、三征西班牙の人間ならほとんどの人間が知っている

何せ自国の衰退に関わることだから

 

アルマダ海戦の当初の予定としては

 

乱戦に持ち込んで敵を攪乱、撤退戦持ち込みつつ散発的本土上陸攻撃

"超祝福艦隊"による英国艦隊牽制による撤退戦の遂行で、歴史再現を完遂しつつ三征西班牙を売り込んでいくはずだった

 

だが予想外の方向性として、武蔵がアルマダ海戦に介入してきてしまった

先日、"超祝福艦隊"によって武蔵に砲撃を与えることが出来たものの、一部損傷に過ぎない

武蔵が英国艦隊の代わりをするのであれば、もし武蔵を沈めたとしても英国は無傷で残る

英国は繁栄の一途だが、三征西班牙は衰退の一途である

 

しかも、武蔵は『もし』で片づけられるほど生易しい相手ではない

何が厄介かと言えば、準バハムート級という巨大艦群

規模で言うなら三征西班牙最大の"超祝福艦隊"より大きいのだ

 

更に個人戦力の側面では、天野康景という戦力がある

彼の戦闘力という面で、ウチの主力連中に彼の印象を聞いたところ

 

隆包の話では『底の見えない野郎だ。ありゃあまだ何か隠してるぜ』

誾の話では『大変遺憾ではありますが、おそらくあれが本当の戦い方ではないと思います』

 

との事だった

その事を踏まえ、新たにアルマダ海戦の構想を練り直さなければならない

やらなければならないことは多いが、出来る範囲で何とかしなければならないのも事実

それが指揮官の役割だ

 

『おじさんは戦争をする人ですよね?』

 

今は昔と違って全体を仕切る側だけど

文章は続く

 

『少し前に、三征西班牙の人が多く亡くなった戦争があったと聞きました』

 

三河での戦争の事だろうか

 

『私は戦争が嫌いです。戦う事が嫌いです。争い事が嫌いです。ですが、その戦争が避けられないのであるならば、どうか多くの人を、救ってあげてください。私が救われた時の様に、救ってあげてください。そしてどうか、おじさんも死なないでください。それが私のお願いです。いつまでこの手紙のやり取りが続くか解りませんが、こうして書いた手紙をおじさんに読んでもらえるのが良いなと思います。そして―――いつまでもおじさんと一緒にいれればいいなと思っています』

 

セグンドはそっと手紙を閉じた

 

「大丈夫だよ・・・何も救えなかった僕だけど、今度は、今度こそは、三征西班牙を救ってみせるから・・・」

 

*********

 

誾は、夕暮れの医務室で、宗茂に英国での出来事を報告していた

 

「宗茂様、英国土産の"呪い人形"です。なんでもいつまでも眠りこけてる悪い子に、同性同士の淫夢を見せ続けるとかなんとか」

 

ジョークグッズのはずなのでそんな呪いは無い筈だが、一応いつまでも待たせてる罰として置いてみた

 

「・・・もうすぐアルマダ海戦です。敗北必須のアルマダで、事もあろうにまた武蔵と戦う事になりました」

 

またあの忌まわしい"死神"と、再戦する時がやってきたのだ

 

三征西班牙の多くの命を奪った怨敵

西国無双の名を失う事になった要因

 

あの男がいる限り、"西国無双"を取り戻すことは出来ないのだ

 

だが、本当にあの男を倒せるのか、誾は少し不安だった

三河の時は、攻撃が当たりもしなかった

襲撃の際は、隆包と二人掛かりで、更に聖譜顕装を使っても攻めきれなかった

そんな相手を、本当に倒せるのだろうか

 

英国であの男を見た時は、どうやら目を負傷していたようだが、そんな事が出来る相手が本当に存在するのだろうか

あの男に深手を追わせることが出来る相手こそ、本当に化け物ではないだろうか

 

・・・いけません

 

どうもあの男を相手にすると、弱気になってしまう

だが、勝たなくてはならない

 

だから

 

「待っててください宗茂様・・・必ず、必ずあの男を・・・」

 

倒して見せる

 

そう心に誓った誾であった

 

そして医療用の符の張り替えのために、窓辺に置いておいた符に手を伸ばした

その時、窓の外のベンチに座るフアナが視界に入った

 

「あれは・・・」

 

特段目がいい訳でもないが、筆跡から何を書いているかはわかる

誾は宗茂に一礼し、外にいるフアナの方に向かった

 

・・・どうして総長に届く手紙を、フアナ様が書いているのでしょうか?

 

*********

 

フアナは、目の前に立つ誾の登場に少し焦りを感じた

まさか見られたのだろうか

一応手紙は隠したが、誾の言葉を待つ

だが

 

「隠しても無駄です。これでも一応、郵政に携わっている者の妻ですので、筆跡で解りますよ」

 

な、なんて厄介な・・・

 

「どうして総長に届く手紙を、フアナ様が書いていらっしゃるのですか?」

 

なんと答えたらいいか判断に迷う

下手に嘘を言っても後でバレるだろうし、本当の事を言ってしまった方がいいのだろうか

 

「私が考え出した答えは

1総長への嫌がらせ

2かなりあり得ない可能性ですが代筆

という答えが導き出されました」

 

わ、私に対してのイメージがひどすぎる!?

 

「・・・どちらも違います」

「では、何故?」

 

これは、普通に答えた方が無難ですね・・・

 

「私が・・・この手紙の主、総長にあの時救われた少女なのですよ」

 

******

 

誾は、言われたことの意味を考えた

 

「そのお身体で少女と言われても・・・説得力が・・・」

 

フアナの凶悪な胸を見ながら聞いた

 

「そ、そういう話ではありませんっ!」

「・・・では、どういったカラクリが・・・?」

 

フアナは諦めたように、その秘密を話し始めた

 

「あの人は・・・ある戦争で、ある村の、ある長寿族の少女を救いました。しかし、純血主義国である三征西班牙において、半寿族は差別されています・・・何が言いたいか、もうわかりますね?」

「それは・・・」

 

その救われた少女がフアナで、自身を長寿族だと偽ったということなのだろうか

 

「その迫害を恐れ自分の正体を偽り、恩人を信じられず、偽りでしか恩人を救えないと思い込み、その立場に甘んじつつ、その立場に後悔していたのならば・・・私は、どうすればよかったのでしょうね」

 

自嘲して真相を語るフアナに、誾は何を答えればいいか解らなかった

 

*******

 

ネシンバラは、村山の全部デッキで小等部の運動会の終わりを見ていた

御広敷が主体になって大興奮しているが、なんで捕まらないのだろうかあの人

ため息交じりにそれを眺めた

 

「アイツ、ホントなんで捕まらないのか不思議だよなぁ」

 

よかった。同じことを考える人がいたようだ

僕の反応はどうやら正しいらしい

というか

 

「天野君、何しに来たんだい?」

「お見舞いだよ、中二病作家」

 

康景が顔に包帯を巻いていた

あの超人デタラメマンが負傷する日が来ようとは、英国は魔物か何かなのだろうか

不法入国者にやられたとか言う話など、信じられなかったが、まさかホントに負傷しているとは

 

「・・・見舞いって、君の方が重傷に見えるけど?」

「顔面抉られただけだから、気にすんな」

「いやそれって重傷じゃないかなぁ?」

 

康景の重傷の基準は多分人と違うのだろう

 

「お前いつまで負傷離脱してるんだよ、武蔵生徒会にはニートを養ってる余裕は無いんだぞ?」

「ニート言うな・・・!」

「ウチの作戦指揮系統はお前の担当だって、解ってるだろう?」

 

それを言われると痛い

 

「僕にシェイクスピアを倒せって?」

「倒せとは言ってない・・・解いてもらえ」

 

だから、それが至難だからこうして燻ってるんじゃないか

 

「そう簡単に事が済めばいいけど・・・」

「まさか、自信が無いとか言うんじゃないだろうな」

「・・・」

「おいおい、こんな最高な話を書ける奴が弱気になってるんじゃねーよ」

 

そう言って康景が懐から出したのは、一冊の本だった

本というよりは、同人誌だが、それには見覚えがある

 

「それ、僕が初めて出した同人誌じゃないか!?」

 

『ノルマンコンクエスト3』という、初めて文章化したものを冊子にまとめたものだ

それを取り上げようとするが、躱される

右に手を伸ばせば左に、左に手を伸ばせば右に、自分が手の届かないところに持っていかれる

 

「や、止めてくれ!僕の黒歴史をほじくり返して何が嬉しいんだ君は!?」

「黒歴史って自覚はあったんだな・・・」

 

やかましい!

 

「お前は自分が過去にどれだけの傑作を生んだか忘れているようだな」

「嫌味か!?嫌味なのか!?」

「隠された血筋とか、怒りで発動する潜在能力とか、敵は生き別れた兄妹とかさ」

「やめてくれぇええええええええ!」

 

恥ずかしさで身悶える

何が焚きつけに来ただ!完璧に僕の戦意を削ぎに来てるじゃないか!?

 

「何を身悶えているのかは知らんが、俺はこの話好きだぞ?」

「いいよ!そんな慰め!」

「慰めじゃねぇよ馬鹿」

 

康景が、こちらの襟をつかんで強引に立たせる

 

「シェイクスピアがどれだけ凄いのかは、まぁ俺も本は読むの好きだし、知ってるよ」

「だったら・・・」

「だけど、お前が凄いのも俺は知ってる」

「・・・」

「この作品を『最高な話』って言ったのは、別に嫌味でも何でもない・・・本音だよ」

 

なんか嘘っぽいなぁ・・・ホントなの?

 

「君がこの作品を読んでるなんて、ちょっと意外だったよ」

「いいじゃないかこの作品、これの主人公、結局誰も殺さないで平和解決してるじゃないか」

「・・・」

「俺は、ハッピーエンドが好きだ。人を幸せに出来る話が好きだ」

「・・・」

「中二病っぽい話は、どっちかって言うなら、嫌いじゃない」

 

普段中二病扱いしてくるこの人がそんな事を言うのは、意外だった

この話は、授業中などを利用して、子供の頃に書いたものだ

確か話が出来るにつれて、トーリがタイトルの三文字目から五文字目の色を変えてR18系同人に間違われたのを覚えてる

 

「それ見せて言ってやれよ・・・『僕の方が中二病度は上だ』って」

「君やっぱり馬鹿にしに来ただろう?そうなんだろう?」

 

今の君の方が中二病っぽいけどね・・・!

でもこれを言ったら殴られるんだろうな

だから言わないでおいた

 

「・・・俺と点蔵は既にメアリの歴史再現を止める気でいる」

「・・・!」

「お前はどうする?その中二病状態のままでいいのか」

「シェイクスピアには毛嫌いされてるみたいなんだけど・・・」

「昔の事忘れてるからって目を抉ったりしてこないだろ?なら大丈夫だよ」

 

『大丈夫』の基準が絶対におかしい

 

「まぁ、そろそろ書記として復活しないと、葵君辺りに何されるかわからないからね」

 

小さく笑って

 

「やるよ」

 

そう告げた

 

*******

 

夜になり、康景は自宅に戻ってきた

何だか久々に帰ってきた気がする・・・

輸送艦暮らしで、ここしばらく帰れなかったから、埃でも溜まっていると思っていたが

 

「・・・綺麗に整頓されている」

 

数週間以上、ほったらかしだったのに綺麗だ

台所もピカピカになっている

廊下も窓も綺麗に磨かれている

 

・・・もしかして誰かが掃除してくれてたのかな?

 

そんな殊勝な事してくれる人なんていたかな?

 

"武蔵"さん・・・いや超忙しい人だし、有り得ないな(その割に学長の面倒を見てたのは何故だろう)

真喜子先生・・・論外、有り得ない(そんな事してくれるなら苦労はない)

艦長達・・・同じく忙しくて有り得ない("青梅"さんなら可能性的に有り得るが、"武蔵"さん同様忙しい)

 

他の皆も、それぞれ忙しかったはず

じゃあ誰だろう

 

「うーん・・・」

 

考えても答えが出ない

着替えようとしてとりあえず洗面所に向かい、上を脱いで、鏡で包帯の巻いてある顔を見た

流石現代医療、完治は言えないが、顔が抉れるほどの傷なら、まだ医務室で寝ていなければならないはずだが

 

「いい様じゃあないか、えぇ?天野康景?」

 

包帯の巻いてある無様な自分の顔を見て自嘲する

 

こんなので俺は皆を護れるのか?

自信が無いなんて言ってはいけない

 

護れなければ失うだけだ

失うのは嫌だ

 

ホライゾンも、先生も、喜美も、トーリも、ネイトも、智も、直政も、正純も、点蔵も、ウッキーも、ネシンバラも、マルゴットも、ナルゼも、二代も、シロジロも、ハイディも、アデーレも、ノリキも、鈴も、御広敷も、東も、ミリアムも、ハッサンも、イトケンも、ネンジも、ペルソナ君も、メアリも、エリザベスも

 

誰も失いたくない

 

怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い

 

失うのは怖い

 

だがそれが奪っていい理由にはならない

 

でも

 

「躊躇ったら失うだけだ・・・そう教わったじゃないか・・・あそこで」

 

あそこで?

 

「何のためにあの人が・・・僕たちを殺してまで・・・」

 

僕・・・?・・・何の話だ?

 

「・・・何だ?俺は何を言ってるんだ?」

 

ナ ニ カ ガ オ カ シ イ

 

自分が何を言っているのか、解らなくなった

鏡に映る自分が、自分ではない様に見える

 

「・・・」

 

その鏡に映る自分が他人に見えた途端、とても気持ちが悪くなる

変な緊張が、康景を襲った

 

その時

 

ピンポーンと、間延びしたインターホンが鳴った

 

「誰だ?」

 

夜に尋ねてくる人物は限られている

基本は喜美か先生かの二択なのだが、他に考えられる来客は

 

智かトーリかな?

 

「まぁ誰でもいいか・・・」

 

誰が来ても『おもてなし』するのに変わりは無いのだから

玄関に向かう

玄関を開けた先に居たのは

 

「あれ?どうしたネイト?」

 

銀髪の貧乳が立っていた

 

*******

 

ミトツダイラは出迎えた友人を見た

 

ど、どうして上半身裸何ですの!?

 

傷だらけの上半身が露わになっている

この時点でミトツダイラのテンションが上がったが我慢

 

「ぐぐぐぐぐぐぐ偶然ちちちち近くをととととと通りかかかかったものでしてててて」

 

か、噛みましたわ・・・!

 

何という事でしょう

穴があったら入りたい気分だ

康景も

 

「ふーん・・・立ち話も何だし、入れよ」

 

招き入れられた

完全に怪しまれている

ミトツダイラがここに来た理由は、単に顔が見たかったからなのだが、恥ずかしくて言えるわけもなく、今の様な嘘をついた

 

「お、お邪魔します・・・」

 

消え入りそうな声でお邪魔した

康景の家

何度か来たことはあるが、一人で来るのは初めてだ

 

き、緊張してきましたわ・・・!

 

康景の家という事は、康景の匂いがするという事である

せ、正常な判断が・・・!

まさか今が一番危機的状況だとは

居間に通される

 

「お前夕飯は?喰った?」

「あ、いえ、まだです・・・」

 

先程までアデーレ達とアルマダ海戦の作戦立案をしていたので、実を言うと何も食べていない

ミトツダイラの計画としては

 

一、偶然を装い康景の家に行く

二、ご飯を食べていないので一緒にどうですか?

三、どこかのお店で良い雰囲気になる

四、作戦成功、グッドエンド

という流れだった

 

「ま、まだ食べていないのでよかったら、どこかに食べに行きませんか?」

「馬鹿野郎ゥ!」

 

お、怒られました!?

 

「そんな不経済な事が出来るか!そこで待っているがいい!俺が店より美味い物作ってやるから!!!」

「ええ~・・・」

 

だがこれはこれで計画通りなのだろうか

それから数十分後

目の前に並べられた料理の数々は、料亭で出される物と遜色なく

というよりそれより豪華で

 

「・・・これ却って食費かかってないですの?」

「何を言う、このステーキなんてお隣のジョニーさんのお裾分けだ。こっちの野菜類はウチの裏庭でやっている家庭菜園で作っている物だから実質食材費ゼロ円なんだよ!」

「これで食材費ゼロ!?」

 

ま、魔術師・・・魔術師ですの・・・!

日々の御近所付き合いや自家菜園で食事を工夫して食費を減らすために尽力

そして食費をケチっているのにこのクオリティ

流石だ、流石すぎる

 

「さぁ食ってみるがいい!」

「い、いただきます・・・」

 

康景のテンションに若干引きつつも料理を食べる

 

こ、これは・・・!?

 

身体に電撃が走った

ステーキの焼き具合が絶妙で、ライスとの相性も良く、そして野菜類にかかったソースがまた絶品

箸が進む

先生が康景に食事を作らせるのもわかる気がする

 

「そんなにがっついて食べなくても、おかわりならいくらでも・・・」

「おかわりお願いします!」

「え?」

「お、おかわりお願いします///」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「おかわりお願い・・・します」

「速いわ!」

 

美味しかったので、全部食べてしまった

美味しいのが悪い

 

********

 

康景はせっかく作った料理を見事に全部平らげたミトツダイラにショックを受けつつ、おかわりを作った

食べてくれるのは嬉しいのだが、この喰いっぷりだとウチの食材が無くなりそうだ

先生の場合は酒を飲みながらダラダラ食べるので一回豪華に見える物を出せばそれで終わる

 

しかし今回はどうだろう

ミトツダイラはあまり酒を嗜まない

つまり食事に集中するという事

食べるスピードも速い

食事を作る量も増える

結果、食材の消費が増える=料亭とさほど変わらない出費

 

なんていう落とし穴だ

先生みたいに面倒臭い食べ方はしないと思っていたが、このペースだと永遠と料理を作る羽目になる

何という事だ

これなら料亭でも焼き肉屋にでも行って割り勘にした方が経済的だった

 

しょうがないから今度は別なものを作ることにしよう

今度は焼き魚だ

焼き魚ならば骨を取ったりする手間があることで一瞬で平らげるなど不可能

本来なら骨など取ってから提供するのが康景のポリシーなのだが、食材の為だ。止むを得ない

 

「ほら、今度は骨があるから、気を付けて食べろよ」

「じゅるり」

「(大丈夫かな)」

 

味わって食えばすぐに食べてしまう心配も・・・

 

「す、すみません・・・おかわりを・・・」

 

なん・・・だと・・・!?

 

い、今起こったことをありのまま話すぜ!

『俺は客人のために焼き魚を提供して、自分の分も食べようと思って御飯に目を向けたと思ったら、既に相手は魚を食い終えていた』

な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺自身何が起こっているのか解らなかった

『大食い』とか『早食い』とかそんなちゃちなもんじゃ断じてねー

もっと恐ろしい人狼の片鱗を味わったぜ・・・

 

「あ、あのおかわりを・・・」

 

この調子では天野家の食材が無くなってしまう

だから康景は出来る限りの作った笑顔で言った

 

「あの・・・勘弁してもらえませんか・・・?」

 

********

 

康景が土下座してきたので、ミトツダイラは渋々食べるのを止めた

 

そ、そこまでしますの・・・?

 

多分一般人なら腹が満たされる量なのだろうが、自分は半人狼なのでちょっと物足りない

しかし、土下座までされてはいささか気まずい

味も良かっただけにものすごく名残惜しい

 

「わ、解りました・・・そこまでされては・・・」

「すまない。ここで食材を使い切ってしまえばどうやって先生のご機嫌を取ればいいか解らなくてな・・・」

「先生のご機嫌取りにどこまで必死ですの!?」

 

康景の先生への対応はマジだ

必死過ぎるのでミトツダイラは引き下がった

とりあえず話題を替えて

 

「その傷、不法入国者にやられたという話ですが、本当に不法入国者なんですの?」

「・・・どういう意味だ?」

「何だか、妖精女王の言い方だと何かを隠してるようでしたので」

「そう感じたのか?」

「・・・はい」

 

多分、ほとんどの人が疑問してる事だと思う

不審者ならば、警戒心の強い康景が不意打ちを受けることは考えにくい

ならば考えられる相手は知己

ミトツダイラはそう帰結した

 

「貴方を襲った犯人は、貴方と妖精女王共通の知人だったのではないでしょうか」

「・・・そうか、中々鋭い指摘だが、その答えは半分当たりで半分ハズレだ」

「・・・半分?」

「いや、八割方当たっているとも言えるが、何分僕自身がよくわかっていないのでな・・・その件は後で皆が揃ってからでもいいかな?」

「ええ・・・?(僕?)」

 

今の台詞に、どことなく違和感を感じた

康景の一人称は"俺"であるはずなのだが、今の会話において康景は"僕"と言った

多分言い間違いか何かだろうが、妙な感覚がした

だが康景は気にも留めず

 

「・・・そう言えばネイト、お前アデーレとアルマダの作戦立案してるんだよな」

「ええ、何故か私が立てる作戦が防御寄りで、アデーレが攻撃寄りになってしまうのですが・・・」

「アデーレはあの機動殻がある限りどうしても防御寄りになってしまうし、お前は攻撃過多だからな・・・自分に足りないものを無意識に補おうとしてるんじゃないか?」

「そんな理由で作戦を立ててる気は無いのですが・・・」

「"足りない本部"・・・あ、いやごめんなんでもない」

 

"足りない本部"、何故か妙にイラッと来るネーミングだ

 

しかしこれが実際アルマダにおける作戦本部の通称になるとは、この時は予想していなかったのである・・・

 

「何か心配事でも?」

「三征西班牙は、俺の予想だとフェリペ二世辺りも出てくるだろうから、順調に事が運ぶか少し不安でな」

「三征西班牙の総長兼生徒会長ですの?」

 

確か情報によるとレパントで活躍した人物らしいが

 

「戦争経験者と俺達素人の采配じゃ、動きに差が出ると思うんだ」

「貴方が居ても?」

「・・・買いかぶりすぎだ。戦闘に関しては大丈夫だけど、でも戦争の指揮になると話は別だ」

 

確かに、戦争経験者という点では厄介だ

自分達はついこないだホライゾンを救いたくて戦争をしたばかりなのだから

 

「それに・・・俺ちょっと戦争序盤は参加できそうにない」

「え?・・・それはどういう・・・?」

「英国でやることがあってな・・・遅れるかもしれない」

 

英国でやる事・・・まさか

 

「処刑を・・・止める気ですの?」

「・・・」

 

康景は肯定も否定もしなかったが、ミトツダイラには確信があった

この人はやる、と

自分も、ウオルシンガムとは不完全な形で戦闘を消化したので、燻ってはいるが

 

・・・どうなんでしょう

 

中等部の時、康景と約束した

 

あの馬鹿を護ると

 

だが、あの戦闘では勝っていない

結果的に総長とホライゾンは護られたが、勝ちによって守られたものではない

 

「・・・中等部の時の約束、覚えていますか?」

「ああ、『トーリを護る事』だろう?覚えてるよ」

「私は今回、英国との相対で、ウオルシンガムと戦い、引き分けの様な形で終わりました」

「・・・」

「・・・私は、あの約束を、勝って守りたいのです」

 

それが何を意味するか康景もわかったのだろう

驚いた顔をしている

 

「・・・無理するなよ?」

「一番無理してきた貴方が言っても説得力ありませんわよ?」

 

これ以上、あまり無理はさせたくない

でも彼は無理をするだろう

皆を護るために

それが彼という人間なのだ

 

だからせめて、私は、私なりのやり方で、貴方の隣に立っていたいのです

 

第五特務という武蔵の戦力として、勝って、貴方との約束も守って、隣にいたい

 

例え康景が、自分を好きにならなくとも

 

ミトツダイラは、そう願った

 




茶々様に関して
美人で優等生、優雅で可憐でそれでいて大胆な人
優しく、後輩からも慕われて面倒見の良い人
対主人公の事になると途端残念になる人
だと思ってくださると良いと思います

例の"妹"と茶々様の詳しい設定については、今後登場してから書いて行こう思います

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。