境界線上の死神   作:オウル

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怪我をしたら無理せずおとなしくしてましょう


十・五話

末世の話より

 

個人的な話の方が

 

印象に残った

 

配点(モテ期?)

―――――――――

 

会場の外に連れ出された康景は嫌な予感を拭えなかった

厄介とかそういう話以前に面倒臭そうな事が起こる

そんな予感があった

そして英国の生徒達がいないあたりで利家が振り向きざまに言う

 

「いやいや、さっきの会議には驚かされたよ」

「うちの副会長舐めんなこの野郎」

 

自慢するように話す康景に利家は小さく笑った

 

「それでまぁ本題なんだけど、君、自分の事どこまで知ってる?」

「・・・どういう意味だ」

「そのままの意味でありますよ、義伊」

 

そのままの意味

それは自分自身の素性をどの程度まで知っているという事だろうか

 

・・・何か知ってるのかこいつら

 

「知らない・・・何も、知らない・・・それがどうした?」

 

自分の反応に互いに顔を見合わせる利家と茶々

 

「もし可能であれば、M.H.R.R.に来ませんか?義伊」

「なんでそうなる」

「M.H.R.R.でなら、貴方の出生に関する資料を提供する事が出来ますよ」

 

俺の知らない俺を知っているというのか?

何故M.H.R.R.なんだ

俺は誰だ?

俺は何だ?

様々な疑問が、康景の中に生まれる

更に追い打ちをかけるように

 

「あと義伊にメリットがある事と言えば、あの人に会えますよ?」

「・・・あの人って言われても解らねぇよ」

「石川先生にもう一度会いたくはありませんか?」

「・・・」

 

開いた口が塞がらなかった

人に何も言わずに武蔵を去っていったと思ったら、M.H.R.R.で敵方になってるとか、出来すぎじゃないだろうか

石川数正先生

塚原卜伝師匠が亡くなってからの二人目の師匠

一年も一緒に居なかったが、師弟関係と言う意味では多分一番まともだった気がする

放任主義だったけど、食費は一番かからなかったし

まとも度で言えば一番まともだった

 

・・・まぁあくまであの『三人の中』でだけど

 

「何個か質問があるんだが?」

「何でしょう?」

「どうしてM.H.R.R.に行かないと駄目なんだ?」

「それは・・・ちょっと話の性質上、しょうがないんです」

「・・・?」

 

どういうことだろう

ここでは駄目なのだろうか

 

「じゃあなんで数正先生がM.H.R.R.がいるんだよ。つか何やってんのあの人」

「正確に言えばP.A.Odaの教員ですけどね・・・今は羽柴様直属の部下の指導を行っています」

 

あの人が教えてるなら強いんだろうなぁ・・・

まともに教えてるかは疑問だけど

 

「なんで織田に行った?」

「うーん、それに関してはそちらの担任さんの方が詳しいと思いますよ?」

「真喜子先生が・・・?」

 

何隠してるんだあの人・・・

 

あの人は謎が多い

未だにわからない事もあるが、悪い人ではない

くっそ手間のかかる人ではあるけれども

 

M.H.R.R.に行けば、数正先生に会える

自分の正体も解る

しかし、その代償も大きい

 

「お前らについて行ったら、武蔵とは敵対か・・・」

「武蔵と敵対と言うデメリットより私と一緒になれるっていうメリットの方が大きいですよ!義伊!(*´▽`*)」

「いやそれデメリットじゃね?」

「Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン」

 

膝を抱えて茶々が落ち込んでいるが、構ったら調子乗るので放置

 

「ま、まぁ茶々様がメリットかデメリットかは置いといて、確かに君が来れば、ウチで喜ぶ人は多いかな」

「例えば?」

「あの先生もそうだけど、あとは・・・ウチの御館様かな」

「はぁ?」

 

会ったことないぞ

御館様って織田信長?そんな大物中の大物あったことはない

 

「会った事ないんだが」

「うーん・・・その辺の事情は話せないけど、君の顔を見たら安心するんじゃないかな」

「?」

 

どういうことだ

 

「来るも来ないも君次第だよ」

「わ、私的には・・・き、ききききききき来ていただけると嬉ししししししいのですが///」

 

急にヘタレた茶々は置いといて、康景は考えた

 

俺は・・・

 

確かに数正先生に会えるのは嬉しい

忌まわしい自分の正体が分かるのも清々しいだろう

 

でも駄目だ

 

それでは駄目だ

 

その方法では駄目なのだ

 

だから

 

「だ が 断 る」

「えΣ(゚д゚lll)」

「俺一人会いたい人に会えるからって、『はいそうですか』なんて言えるわけないだろうjk」

「・・・そう、解った」

「;つД`)」

 

『御館様が云々』言ってる割にはあっさりと引いた利家

あと顔の表現が鬱陶しい茶々は無視

 

「何だよ、拍子抜けするくらいあっさりだな」

「御館様曰く『アレは面倒見いいから友達見捨てるようなことはしないだろうけど』だって」

「マジ何者だよ御館様・・・会った事ねぇのになんでそこまでわかるの?怖ぇよ」

「あぁ・・・まぁ・・・うん、いずれわかるよ」

 

何その含み笑い

 

本当に何者だよ信長ェ・・・

 

と言うか会った事があるのか?

謎が深まるばかりだ

 

「ほ、本当に来る気は無いのですか?今なら超高級住宅にわ、私も付いてきますよ?」

「いらね」

「( ノД`)シクシク…」

「はぁ・・・茶々様?いい加減諦めなよ、帰るよ?」

「帰りませぬ!勝つまでは!」

「帰れ」

「何故ですか!?見てくれだけなら結構いい線言ってると思うのですが!?」

「常時そのテンションがうざい」

「こ、こんなにも貴方様をお、おおおおお想ってるというのに・・・///」

「さっきの会議の場での大人しさなら良かったのに」

「本当ですか!?」

「嘘、帰れ」

「ひ、酷い・・・だがそれがいい!」

 

演技臭く打ちひしがれて倒れ込んだと思ったら今度は飛び跳ねる

だから嫌なんだこのテンション

八方美人で、傍から見ると『面倒見の良いおねーさん』を演じる彼女であるが、いざ蓋を開けるとこのテンションだ

康景はとりあえず無視して呆れてる利家に言った

 

「帰る前に、数正先生に聞いておいてもらいたい事があるんだ」

「ん?」

「『アンタから貰ったコート、未だに着てるけどコレ女物だよね?アンタ俺にプレゼントとか言ってくれたけどただ単に着なくなったから俺に渡しただけだよね?ジャンク品の処理させただけだよね?』」

「・・・わかった」

 

そして今度こそ本当に帰ろうとした利家だったが、茶々は

 

「フフ、フフフフ・・・」

「ついに頭のネジが飛んだぞ?」

「義伊がそこまで強情ならこちらにも考えがあります!」

 

聞きたくなかった

どうせろくでもない事しか言わないから

 

「とっしー!私はこれより武蔵に移住します!」

「「は?」」

「義伊がこちらに来てくれないのであればそれで結構!私が武蔵に出向くまで!」

「来るなよーお願いだからやめておねげーで御座います」

「それは流石にダメでしょう茶々様・・・」

「二人して何なのですか!?そこまでして乙女の恋路を邪魔したいのですか!?」

「邪魔するも何も」

「お前が邪魔」

「扱いヒドっ!?」

「これで懲りたでしょう?帰るよ」

「いやぁあああああ」

 

ズルズルズルズルと襟を掴まれて引き摺られていく茶々

康景はそれを手を振って見送る

茶々はと言うと

 

「義伊!私は諦めませんからねぇええええええぇぇぇぇぇぇ・・・・・・・・!」

「諦めろよぉ~・・・お願いだから諦めてぇ~・・・」

 

・・・なんかどっと疲れた

 

康景はこの時気づいていなかった

 

茶々がやるときは(悪い意味で)やる女だという事に

英国での騒動後に大変な思いをすることになるのだが、この時はまだ知らなかった

 

********

 

喜美は会議の場に戻ってきた康景を見た

 

・・・フラグ製造機め

 

少しの苛立ちを感じた

茶々という女は先程の様子から、康景とは普通以上の知り合いなのだろう

義伊の名を知っているという事、そして彼の師が生きていた頃の知り合いなら、中等部以前の知り合い

しかもちゃんとフラグは建設済み・・・

これは後でじっくりしっとりねっとり話し合う必要がありそうだ

 

頭を押さえながら戻ってくる姿が、酷く草臥れて見えた

正純はとりあえず代表で

 

「何を聞かれたんだ?」

「ああ、うん・・・」

 

どうも元気がない

相当にショッキングな話を聞いたのか

それともただ単に疲れただけなのか

 

「ええーっと、M.H.R.R.に勧誘された」

「え?おま、は?ちょ・・・は?」

「断ったけど・・・」

「ほ・・・なんだ、よかった。でもそれだけなのか?」

「・・・どういう意味だ?」

「何だかひどく疲れて見えるぞ?」

 

その指摘に康景は愚痴を言うように

 

「お前、今日一日の内容がどれだけ濃かったと思ってるんだ、疲れたよ・・・精神的に」

「「精神的に・・・?」」

 

一体何があったの今日のアンタに・・・

 

康景が日々色んな事を思って武蔵のために、皆のために動いているのは知ってる

三河の時もそうだったからよくわかる

しかし、今回はあろうことか負傷もしている

疲労も大きいのだろう

 

「"妹"が出てきては記憶が無いのを責めらた挙句、師匠関連で目抉られるし、浅間にはドヤ顔で説教されるし、喜美には蹴られるし、終いには超面倒臭い知り合いに絡まれるしで・・・僕はもう疲れたよパトラッシュ」

「お前大丈夫か!?パトラッシュなんていないぞここには!」

 

そのままの勢いで倒れ込んだ康景は、正純にかぶさるように寄りかかる

 

「zzz・・・」

「お、おおおおおお!?///」

 

いきなりの事で慌てふためく正純

そして反射的にトーリが

 

「おいパトラッシュ(ネイト)、出番だぞ」

「え!?行っていいんですの!?」

「「正直だなw」」

 

武蔵陣が騒ぎ始めた所でエリザベスが

 

「・・・やはり無理をしていたな・・・困った御人だ・・・」

 

小さく笑って、部下に康景の医務室への収容を命じたが

 

「い、いえ、女王陛下、これ以上英国の厄介になる訳には・・・」

「む?・・・別に英国としては構わないが・・・?」

 

正純がやんわりと断ったのにも関わらず、なおも康景の面倒を見ようとするエリザベス

十分ほどの談義の末、結局康景は武蔵に連れて帰る事になる

"誰が康景を連れて帰るか"で揉めたのは言うまでもなかった

 

そして会議後の後日談

 

未凸平が運ぼうとした結果寝息にやられて鼻血を大量に噴出し除外

喜美も眠っている人を運べるほどの体力がある訳もなく除外

直政はその義腕で上手く運べず、除外

 

最終的にはウルキアガが運ぶ結果になり、女性陣がヤキモキした結果になったのは、ある意味お約束である

 

********

 

翌日

会議終了後の武蔵では機関部総動員で武蔵の補修を行っていた

祭りは並行して続いているが、祭りに行くのは大抵リア充

特に何の予定も交際相手もいない非リア充要員たちは汗水流して必死に補修と点検を行っていた

 

「リア充は死ね」

「リア充は死ね」

「リア充は死ね」

「「リア充は死ねぇえええええええええ」」

 

・・・機関部は今日も平和さね

直政はそんな事を思いつつ点検作業を行っている

非モテ共(男女問わず)がもはや呪いの言葉とも取れる呪詛をまき散らす中、一人目立つ生徒がいた

 

点蔵である

 

忍者であるのが、その機動力が役立ち、廃品などの運搬を行っていた

怪我から復帰したばかりの忍者が一体どうして機関部に来たのか

始めはパシリで知られる忍者が機関部に来た事に様々な憶測が立ったが、喜美曰く

 

「女にフラれて追いすがろうとしたら護衛の人に阻まれて撃沈して落ち込んでるから」

 

らしい

自分は当事者じゃないのでよくわからないが、現場を見た人間のいう事なので間違いではないだろう

始めは戸惑っていた機関部も、その話を聞いてから

 

「お前も俺たちの仲間だ」

「遠慮するなよ、同志!」

「ここは何時だって非モテには優しい場所だからよ!」

 

等と言って歓迎する始末

最早点蔵と機関部男共はマブダチである

そして縦横無尽に荷物を運ぶ点蔵を見て直政は

 

「忍者も使いようだなぁ・・・作業効率を上げられる・・・」

 

そんな事を呟いた

そしてそれを同じく見ていた後輩たちが

 

「マサ先輩は祭り、行かなくていいんですか?」

「ん?ああ・・・」

「こら!その辺察しなさいよ!」

「・・・あ、すいません」

 

とりあえず殴った

 

「イテテテ・・・な、なにも殴る事ないじゃないですか・・・」

「やかましい、無駄口叩いてる暇があるなら仕事しろ」

「そんな、天野先輩いないからって当たらないでくださいよ」

「あぁん?」

「「ひぃ!」」

 

蜘蛛の子が逃げるようにわらわらと持ち場に戻る後輩たち

確かに今の直政は若干不機嫌だ

だがそれは決して

 

康景を祭りに誘おうとしたけど恥ずかしくて言い出せなかったからでも

康景も怪我してるから今日ぐらい休ませようと考えたわけでも

そして気が付いたら正純と一緒にオクスフォード教導院に行ったからとか

 

そんな理由では、断じてない

直政は思い出し、苛立ちを紛らわせるように作業に戻った

 

*********

 

オクスフォード教導院にて

正純はエリザベスに連れられて広間の奥にあった通路を歩いていた

 

康景付きで

 

"花園"に案内してくれるという話で来たわけだが、何故か『康景も連れてきてくれ』という要望があり今に至る

 

なんでそこまで妖精女王が康景に拘るのか、薄々感づいてはいるがはっきりしない

昨日に至っては康景本人が爆睡だったので聞けなかった

 

気になるな・・・

 

「しかし"花園"ねぇ・・・」

「憶えているのか?」

「いや、ここでお前たちと遊んだなぁくらいの事しか思い出せない」

「・・・そうか」

 

この会話から察するに、康景はここに来た事があるのだろう

多分、話に聞いた康景の記憶の無い部分だと思うが

なんだろう、自分が知らない康景の話を第三者と本人が話しているのは何というか

 

・・・妬ましいなぁ!

 

単に羨ましいだけなのかもしれない

自分の単純思考に呆れた

 

「おい正純?どうした?」

「え、あ、いや、なんでもないぞ?」

「そうか?顔真っ赤だけど・・・」

「いやぁ気のせいじゃないかな、お前、今眼鏡してないのになんでわかる?」

「あの眼鏡そもそも伊達だし」

「え?」

「え?」

「・・・」

「知らなかったのか?」

 

初耳だよ!

わざわざ相手の眼鏡取って度数とか確かめるわけでもないのに

しかし、なんでわざわざ眼鏡かけてたのだろうか

 

「なんでわざわざ眼鏡掛けてたんだ?」

「目元が嫌いだったんだ・・・」

「目?」

「鏡見る度に愛想の悪い自分の顔を見るのが嫌でなぁ・・・喜美に相談したら『眼鏡でもしたら?』って言われてな、そのまま採用してしまった」

 

そんな理由で眼鏡してたのかこの男は

 

「でも今回目をやられてしまったわけだから、もうしなくてもいいかもな」

 

包帯の巻いてある右目を触りながら言う

・・・お前

なんて言ったらいいか、判断に迷った

すると突然、目の前に光が現れる

正純がその光に戸惑う中、エリザベスと康景は躊躇いなく入っていった

おいていかれる形になった正純も急いでその中に入る

ずっと暗い廊下を歩いていたので、急な光に目が痛むが、徐々に目を慣らしていくと

 

「お、おお・・・?」

 

花が咲き乱れる草原、その中を流れる小川、昼なのか夜なのかわからない明るさ

正に"花園"と言った雰囲気だ

 

「康景、覚えているか?この景色を・・・」

「ああ、俺は知っている・・・この景色を、この場所を・・・」

 

康景の目は、何とも虚ろに見えた

 

********

 

康景はその光景を覚えていた

正確に言えば思い出したというべきだが

とにかく、その光景に目を奪われた

 

かつてここで"妹"と、メアリと、リザと、一緒に遊んだ事がある

遊んだというか面倒を見てただけの気もするが

 

・・・

 

「かつてここで貴方と広家は、私とメアリの面倒を見ていたな」

「ああ、そうだな」

「(広家?)」

「記憶が曖昧で、"懐かしい"と言うよりは"知っている"っていう感覚だが」

「そうか・・・」

 

辺りを見渡す

そこには、自分たち以外にも人がいた

小さな子供

容姿が似ている二人の少女だ

その正体を、康景は知っている

 

「お前とメアリの過去の残滓か」

「そうだ、私たち流体系の種族は、こうした流体を圧縮した空間に残ってしまうのだろう・・・幽霊みたいなものか」

「しかし、こうして見るとどちらが妖精女王なのか解らないな・・・」

 

本を読んで泣いている少女を、宥めようとしている双子の構図

正純の問いに、エリザベスは苦笑いしながら

 

「さぁな、私にもわからない」

「え?」

「昔はもっと感覚共有が強かったのだが、歳を重ねるほどにそれは薄れてしまった・・・今ではその感覚共有も"信じる"という行為にすり替わってしまっているが・・・」

「・・・いや、解るよ」

 

康景は確信もなく、ただ己の中に生まれた直感で答えた

 

「宥めているのがメアリで、泣いているのがリザだった気がする」

「解るのか?」

「・・・直感だけどな」

 

その言葉に、エリザベスは笑った

 

「貴方が言うのであれば、そうなのかもな・・・」

 

そしてその光景を懐かしむ様に、過去の己を見る

その顔は自嘲してるようにも見える

 

「姉は歴史再現を遵守しなければならない私を護ろうとしているのに、肝心の私がその姉を地脈に返すことでしか護れないなど、滑稽な話だな」

 

康景は思う

歴史再現で家族を失って無事でいられる人などいるわけがない

エリザベスもまた、同様だ

 

時々混乱する

 

こんな考えを持つ自分が狂っているのか

こんな自分を生み出す世界がおかしいのか

 

少なくとも、康景は、自分が社会不適合者なのは自覚した

 

******

 

エリザベスは、康景と正純を案内しながら思った

やはり康景と一緒に居ると気が落ちつく

その安心感の理由を、自身でも理解している

 

「これが、末世の正体だ」

 

白樺の木に囲まれた"それ"を、エリザべスは見せた

黒い泉の様に歪んだその場所を

 

「これが・・・末世?」

 

武蔵副会長の問いに答えたのは、自分ではなく康景だった

彼は顎に手を当て、思い出すように、疑問するように

 

「英国は土地柄的に地脈を制御できる。だから地脈の乱れによる怪異発生をこの場に留めているのか」

「・・・そうだ」

 

やはりこの人は物分かりが良くて助かる

 

「でもこれがそうだと何故言える?」

「では何か投げ入れてみろ、すぐにわかる」

 

そう言うと武蔵副会長は、己の手に付けていた手袋を投げた

投げられた手袋の周りに菊の花が咲いて、手袋が消失する

 

「解るか?」

「物体が流体に還元されたようにも見えるが・・・」

「Tes.・・・だが、一つ付け加えるなら、今の手袋が流体に還元されたからと言って、泉の"流体総質量は流動していない"」

 

その言葉に、康景が反応する

 

「・・・つまり、世界に『無』が生じるのか?」

 

*******

 

『無』が生じる

それはつまり、今目の前にある『無』の泉が、流体の循環不全によって生じたものであり、その『無』がいずれ世界を覆うと、そういう話なのだろうか

 

「この情報は元信も知ってたんだな・・・だからこそ"創世計画"何だろうな」

 

詳細は知らない

しかし、大罪武装が鍵を握るというのなら、それは集めるべき事なのだろう

 

「そしてヘンリー八世がM.H.R.R.のカール五世と交流があった。それは即ち、M.H.R.R.も同時統治していた三征西班牙も知っているという事だ」

 

知らなかったのは自分達だけなのだ

 

「世界が知っていて俺たちだけが蚊帳の外だった訳だ」

 

それは寂しいというか、腹立たしかった

そして創世計画に関しては元信も織田も知っている

なら本当に自分たち武蔵だけが関係ないように扱われていたのだろう

 

これが利家が言っていた事の意味なのか?

 

なら、俺がこれを見た事があるのは何故だ?

 

俺は何故ここに来た?

 

俺は・・・俺は・・・?

 

頭が混乱してきた

頭痛がするのはきっと、"妹"に殴られたせいだけではないのだろう

頭を押さえて膝から崩れ落ちる

 

「ど、どうした!?」

 

正純が駆け寄る

慌てる正純を他所に、気分が悪くなる康景

どうして過去に関する事になると嫌な気分になるのだろうか

 

心の奥底では知ることを望んでいないのか

それとも過去が相当嫌なものだったのだろうか

それでも知らなくてはいけないのだ

 

そんな葛藤が頭の中でぐるぐると渦巻く

 

すると突然

 

むぎゅっと、抱きしめられた

どうした正純と言いたくなったが、胸があるのでこいつはエリザベスだろう

なんで、とか、何やってんの、とか言いたくなったが、その前に

 

「落ち着け・・・落ち着いてくれ」

「・・・」

 

変な感じだ

落ち着いてしまった

おかしい

 

喜美の膝枕以外で落ち着けるものがこの世にあったとは・・・

 

意外な発見を見つけた

そんな馬鹿な事を考えてしまうくらいにはテンパっている

顔はそのままなので解りづらいと思うが

というか顔が胸に埋まって周囲が見えないのだけれども、とりあえず正純がどんな顔してるのかは何となくわかる(多分こんな→( ゚Д゚)ハァ?)

 

「落ち着いたか?」

「ああ・・・うん」

 

なんだこれすごい恥ずかしい

 

「昔私たちが泣いたりしてた時に、貴方にこれをされると、安心したのを思い出してな」

「(・・・やったっけ?)」

「意外に恥ずかしいなこれは」

 

その割には当たり前みたいに平然としたすまし顔をしてるので、コイツ凄いなと素直におもいました

 

「やはり昔の事は思い出すのは・・・辛いのか?」

「辛いというか、いろんな奴が俺の知らない俺を知っているって、なんか嫌じゃん」

「ははっ・・・そうか」

 

何だろうこの微妙な雰囲気

正純に至ってはさっきから顔をがすごく忙しそうに七変化中だ

 

なんかごめん

 

妙に悪い事をした気分になってとりあえず心の中で謝った

 

「・・・なぁ康景」

「なんだよ」

「・・・ここに留まっては貰えないだろうか?」

「へ?」

「はい!?」

「ん?」

 

それぞれが三者三様のリアクションをする中、康景はマヌケな顔をして

 

「それは・・・」

「ここにいて、私と一緒に英国を支えてほしい。そういう意味だ」

「それは・・・失われるメアリの代わりになれと、そういう意味か?」

「違うっ!」

 

声を荒げて否定するエリザベス

 

「違う、違う・・・私は、違う、そうじゃない」

「・・・」

 

これは多分、真面目な話だ

いや、今までが真面目じゃないと言えばそうではないのだが、これはそういう類の話でなくて、ああいう類の話なのだろう

こういった雰囲気は前にも体験している

そう、喜美の時と似てる感じ

 

これは・・・

 

「私はメアリの代わりにここにいてほしいと思ったわけでは・・・ない」

 

この雰囲気は

 

「私は、私の意思で、私が貴方にいてほしくて、私が貴方が好きで、ここにいてほしい、今しか言う機会もないだろうと、そう思って言った」

 

顔を若干赤らめながら言うその台詞は

 

「そうだ。私は、貴方が好きだ。だから、私を、英国を、支えてほしい」

 

これは告白と言う事でいいのだろうか

正純の顔を横目で見る

 

(´д`)←※正純

 

まぁそうなるよな・・・

 

一人だけ部外者みたいな雰囲気に追いやられた正純に再度心の中で謝りつつ、この事態を考えた

武蔵は祭りの後にはいなくなる

同盟国的な関係になったので会いに来ようと思えば会えるだろう

だが、次に確実に会える保証もなければ確信もない

恐らく互いに繁忙になる

そしてエリザベスには昔、自分に「また会える」と言われて十数年待たされたことも関連してるのだろうな

 

「俺は・・・」

 

答えようとする康景

しかしその場の雰囲気を壊すように

 

「じょじょじょじょじょ女王陛下!ばばばば馬鹿が王賜剣二型に!」

 

エリザベスの表示枠にダッドリーが映った

今のだけで何が起こったのか把握した康景と正純は互いに頭を抱えて深いため息をついた

 

「な、なにが起こっているというのだ!?」

「うちの全裸馬鹿が王賜剣二型で一発芸でもする気なんだろうさ」

 

******

 

「Yeahhhhhhhhhh!」

 

トーリが全裸で王賜剣二型の前に入場してきた

とりあえず色々引き連れてきたものの、特にどんな芸をやるかは決めずに来たので何をしたらいいか、予定は真っ白

下の階にはとりあえず二代とかいるけど、相手の人数の方が多い

しかも今目の前には"女王の盾符"の半分が座っている

 

康景から聞いた話では、この王賜剣二型は色んな奴が抜こうとして抜けなかったと聞く

ならば

 

「Oh!Yeah!」

「「・・・」」

 

抜こうとして抜けなかった

場が白ける

 

「・・・」

「「・・・」」

「WRYYYYYYYYYYY!」

 

自棄になってとりあえず力いっぱい引っ張る

だがそれでも抜けなかった

 

・・・うーん

 

場が盛り上がらないのでシフトチェンジ

 

「ぬ、抜けない!?く、悔しい!でも、ちょっといいかもぉ・・・」

 

刃を股間に挟み、股間をポールダンスの用量で上下させる

刃の部分に触れれば股間もただでは済まない

そんなスリリング(笑)な状況に、観客(監視)も息を飲む

だがネタも尽きてきたので、困った時の対処法

 

「という事で練習はここまで!本番は明日以降で!」

「「本番はねぇよ!!!」」

 

いや、本番は多分やるの俺じゃないしなぁ・・・

これをやるのは、おそらく点蔵か康景、その予感はあった

康景に関しては詳しい話を聞かなければわからないが、点蔵の方はやりそうな気がする

だからトーリは叫んだ

 

「おい!アンタ聞こえってっかぁ!」

 

メアリがいると思われる塔に向かって、大声で

 

「俺の字名は"不可能男"ってんだ!だから王賜剣二型抜けなくて当たり前!」

 

でも

 

「俺以外の仲間はすんげー優秀だから!俺以外の誰かが、特に顔隠してパシリ属性持った忍者とかが必ずこの剣抜いてやる!」

 

だから

 

「期待して待ってな!」

 

今回、自分がここに来たのも、単にこれが言いたかっただけ

点蔵が今傷心中で、康景が正純と一緒に妖精女王の方に向かったので、自分が代わりにこれを伝えたかった

聞こえているかはわからない

だが、トーリには思うところがあった

 

ホライゾンと似た境遇

康景曰く、境遇は似ているが、詳細は違うという

しかし、本当にそうなら、メアリという存在がいなくなって後悔する人もいるだろう

だから、この剣は必ず、自分以外の誰かが抜く

 

その事だけは、言っておきたかった

 

トーリが一通り喋り終わると、自分の表示枠に康景の顔が映し出された

 

「どったの?」

「どうしたもこうしたも、お前何やってんの?」

「今度やる一発芸の余興だよ」

「はぁ・・・」

 

頭を押さえて溜息をつく親友

 

・・・やっぱこれ相当マズかった感じ?

 

「今憲兵さん連れて正純とリザがそっちに向かった。逃げるなら今だぞ」

「止めてくれたっていいじゃん!?」

「国際問題になるような事すんなよ・・・」

 

すると、浅間が駆け寄ってきて

 

「トーリ君!あれ!」

「あ、やっべ」

 

思ったより多くの憲兵さんが来た

え?多くね?

 

だからトーリは、逃げた

 

*******

 

メアリは一連の出来事を見て、小さく笑った

処刑が間近だというのに、楽しいと、思ってしまった

 

メアリの脳裏には、エリザベスの事、久しぶりに再会できた康景の事、そして点蔵の事が浮かぶ

 

できれば、歴史再現も何も関係もなしに、彼と出会いたかった

でも、それは叶わない事なのだ

 

「王賜剣二型が抜かれるのを見ることは、ないでしょうね・・・」

 

点蔵の事を思い、視界が涙で歪んだ

 




例の"妹"についての概要
とりあえず
・(色んな意味で)病んでる
・(色んな意味で)ブラコン
・話し合いよりも殴り合い
・立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、だけど中身は脳筋ゴリラ
くらいの可愛い女の子だと思っていただければいいと思います

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