境界線上の死神   作:オウル

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寝る間も惜しんで何やってるんでしょうか私は・・・


十話 後編

本当に邪魔な者

 

この会議における外様は

 

一体誰だ

 

配点(戦争・・・あれ?)

――――――――――

 

誾は会場にいる康景を見て、その驚きを隠せなかった

 

・・・あの男が負傷?

 

あり得ない

西国無双・立花宗茂でさえ傷一つつけられなかった化け物が、こんなところで負傷するなんて

信じられないと言うよりは、ふざけるなという怒りの方が強かった

 

この男を倒すのは自分だ

天野康景という、三征西班牙の怨敵を打ち倒し、立花宗茂の西国無双を取り返さなければならない

なのに、こんなところで負傷するとはどういった了見なのだろう

誾は康景の負傷を許せなかった

 

恨みがましい眼で康景を見る

しかし、肝心の天野康景はこちらを見ない

 

見ようともしない

 

それが誾の怒りを助長する

思わず前に出そうになるが、ベラスケスがそれを諫める

 

「・・・」

 

ただ無言で顔を横に振るベラスケス

そうだ

今は武蔵に戦争を吹っ掛けにきた訳でもない

目の前にはらわたが煮えくり返るほど憎い仇がいても、下手に動いてはいけない

誾は我慢した

 

誾が我慢したのを見て、ベラスケスは安堵した様子で話を始めた

 

「その話、確かに面白ぇ話かもしんねぇけどよ、そんなことされちまったらアンタらみたいに商業と生徒会会計が一体になってる国なら余裕だろうさ。だがな、うちみたいに会計が委員会レベルの所やM.H.R.R.みたいに領邦分立国家なんかには大打撃だろうぜ?うちがやってる新大陸貿易も、お宅ら武蔵が介入してきたら衰退してくんだよ・・・だから、三征西班牙はそんな同盟には賛成しねぇ」

「"三征"西班牙なのに"賛成"してくれないのか?」

 

武蔵副会長の一言に、会場全体が凍った

 

**********

 

広間が微妙な空気になった事に、正純は狼狽えた

 

あさま『副会長:なんだよ!なんだよこの空気!?面白かったろ今の!?』

約全員『・・・』

あさま『副会長:くそ!お前ら今に見てろ!どこかにウケてる奴が・・・!』

弟子男『審議』

 

正純は広間を見渡した

 

自陣を見る

笑ってる奴は・・・誰もいない

康景に至ってはとんでもない微妙な表情をしている

お前そんな顔も出来たんだな・・・

 

三征西班牙の二人を見る

どちらも笑っていない

 

英国陣を見る

"女王の盾符"は笑っていない

 

クソっ!誰も笑ってない!

 

恥ずかしさを感じ始めた正純だが、ふとエリザベスを見た時

 

「・・・」

 

顔を背けて肩が震えている

 

約全員『え・・・?』

あさま『副会長:ほら見ろ!世の中にはいるんだよ笑ってくれる人が!』

弟子男『正純さぁ・・・俺が言うのもなんだけど、お前それでいいのか?お前のギャグセンスそれでいいのか?リザがいい人じゃなかったらこの後の会議"誰にもウケない事しか言えない政治家"として全国に放映されることになってたんだぞ?お前今のって言わば"すべり芸"だぞ?もうちょっとネタ増やしていこうぜ?な?』

あさま『副会長:お、お前!そこまで言う事ないだろ!泣くぞ!?』

 

くそ!お前私に対して厳しくないか!?

正純は目尻に浮かんだ涙を拭った

 

*****

 

なんか奇怪な言葉が聞こえた気がするが、無視

ベラスケスは冷静にこの状況を考えた

 

面倒臭ぇ事この上ねぇよなあ・・・外交官って

 

面倒事や憎まれ役を担うから面倒臭い

誾もそれを丸投げしているので面倒臭さ二倍である

それでもうちの大将やフアナも頑張ってるんだから、俺もやるしかあるめぇ

 

「武蔵に聞きてぇんだけどさ、お前ぇらよ、どうして英国と戦争しねぇんだよ」

 

********

 

貧従士『英国と戦争する理由?』

あさま『理由・・・?』

 

皆が一斉に康景を見る

 

弟子男『・・・何だよ』

あさま『康景君・・・正直に言いましょう?怒りませんから』

弟子男『何で俺がやった事前提何だよ、まだ何もやってねぇよ英国では・・・やる予定だけども』

約全員『やる予定なのかよ!』

あさま『副会長:お前、国際問題になることはヤメロよ』

金マル『でもやっすんの事だから、妖精女王相手に一発・・・』

約全員『うわぁ・・・』

弟子男『お前ら俺を何だと思ってるの?ねぇ?そんな風に見えてるの?ねぇ?』

 

正純は実況通神を無視して思った

 

英国と戦争しなければならない理由・・・?

 

思い当たる節が無いわけでもないが、それはただの難癖に相当する

まさかそれは無いだろうと思いつつ相手の言葉を待つ

だがベラスケスが見ているのは他の誰でもない

 

「・・・?・・・ホライゾンですか?」

 

まさか!?

 

「Tes.武蔵の姫助けるのに俺らと戦争しただろ、そっちの兄ちゃんには三征西班牙もK.P.A.Italiaも手酷くやられちまったもんなぁ」

 

康景を見ながら言うベラスケスだが、節目で構え何も反応しない

その様子に立花誾が青筋を立てて今にも怒りだしそうな顔をしたが、ベラスケスがそれを諫めた

 

「英国は歴史再現のためにメアリ処刑しようとしてんだぜ?なんで俺たちとやった時みたいにそれを持ちださない?武蔵は味方になる国には目をつぶるのかよ」

 

難癖にも程がある

ホライゾンの場合は、主権やその他多くの利権や大義名分が付随していた

しかし、メアリの場合は違う

その存在は英国の王族という立場であり、それに下手に干渉すれば内政干渉問題にも発展しかねない

損得だけで言うなら、政治的な観点から言うなら、得な事は現状無い

 

だがそこで、正純は不意に先程の実況通神の内容を思い出した

康景は英国で"何か"をやる、そう言った

 

・・・お前まさか・・・

 

いや、本人が直接そうすると言ったわけではないので、何とも言えないため、正純は康景の言葉については一度度外視した

相手の言葉に対し反応しようとするがそれよりも先に

 

「なにやら面白そうな話をしているね」

 

この場にいる者の声ではない

新しい声だ

この会場に新たに入ってくる新しい赤い影

 

「M.H.R.R.の羽柴と協働している、P.A.Oda内P.A.O.M.所属の生徒会会計、五大頂六天魔軍が一人、前田利家だよ」

 

足元が霞んでいるその姿は、霊体である

肩には三頭身の少女が浮いている

そしてその背後にもう一人、女性が立っていた

着飾ってはいないが、遠目から見ても美人だと解るほどに美人だ

 

「M.H.R.R.所属、羽柴様の側室になる茶々を襲名した者です」

「僕は今回、傭兵王ヴァレンシュタインの方の用事で来たんだ。茶々様に関しては・・・そっちの彼に用があるらしいんだけどね」

 

利家が康景を見た

対する康景は、ものすごい面倒臭そうなものを見る顔で嫌そうにしていた

 

******

 

酒井は夜の中で煙管をふかしながら表示枠の向こう、新たに登場した人物二人を見た

 

「M.H.R.R.の大物が出てきたね」

「M.H.R.R.最大戦力を持つと言われた傭兵王ヴァレンシュタインを二重襲名した前田利家様と、羽柴様の側室となるお市様の娘、茶々様でございますね―――以上」

「しかも、あの美人さんの方は康景に用があるみたいだしね」

 

妖精女王とも知り合いみたいだし、今さら誰と知り合いでも不思議が無くなってきた

だが、康景を知っている存在が世界各国にいるのであれば、殿はいったい何を隠してたんだろうか

 

「殿も大罪武装以外に厄介な問題残していったねぇ・・・」

 

康景の行く末を酒井は心配した

 

*********

 

康景の知り合いなのか?

康景の方を見る

だが彼は顔を逸らして見ないようにしている

 

○べ屋『凄い美人・・・あれ、ヤス君の知り合い?』

弟子男『知りません』

○べ屋『・・・でもものすごいヤス君見てるよ?穴が開きそうな勢いでガン見してるけど?』

弟子男『知りません』

賢姉様『・・・』

弟子男『その半目でこっち見るの止めてくれない?お前の半目怖いんだけど』

約全員『・・・』

弟子男『何だよ!何なんだよ!お前らほんとムカつくな!何だよ!俺そんなに信用無いの!?お前ら俺を何だと思ってんだよ!』

賢姉様『鈍感』

銀狼『フラッガー』

煙草女『フラグクラッシャー』

〇べ屋『女の敵』

金マル『NTRの代名詞』

弟子男『お前ら正直だな・・・というかマルゴットは俺が嫌いなのか?』

ウキー『貴様が正直に喋ってしまえば話が早く終わると思うのだが』

弟子男『・・・師匠がまだ生きてた時の知り合い』

賢姉様『なんで知らないって言ったの?』

弟子男『俺アイツ苦手なんだよ。面倒臭いし面倒臭いし、挙句の果てには面倒臭いからな』

あさま『どれだけ苦手なんですか・・・』

賢姉様『アンタ、交友関係の幅広すぎでしょ、この分だと愛人の一人や二人いてもおかしくないわね(怒り)』

弟子男『(怒)ってなにお前、怒ってんの!?』

賢姉様『(#^ω^)』

弟子男『激おこじゃないっすかやだー』

金マル『でもやっすんの事だから"別にワザとじゃないし、俺関係ないし、俺は悪くねー"とか言いそうな気が』

弟子男『俺未だかつてそんな無責任な事言いました?ねぇ?』

 

でも康景が苦手ってどんな相手なのだろうか

身構えるが、妖精女王も前田利家も何の気もなしに応じ

 

「お久し振り女王陛下」

「今は会議中だぞ?表の見張りはどうした?」

「この腕章見せたら通してくれたよ」

 

自分の腕に巻いてある腕章"P.A.O.M.所属会計 前田利家"を見せる

 

「話に参加せてもらうけどさぁ、M.H.R.R.の会計も兼任してるから言わせてもらうけど、M.H.R.R.もこの同盟、賛成できないかな」

「旧派と改派が入り混じるM.H.R.R.に置いて、実権を握っている羽柴の所属は旧派だからか?」

「まぁそれもあるけど、この同盟、無理が多いの解ってる武蔵?」

 

英国は改派である為、M.H.R.R.の改派と交易がある

なので英国との交易が盛んになれば改派も自然と力を伸ばし、旧派の羽柴を押さえられると踏んだのだが

 

「三征西班牙が同盟に参加しないなら、英国が味方になっても、M.H.R.R.が拒絶したら六護式仏蘭西は孤立しちゃうよ?多分K.P.A.Italiaも三征西班牙が必死になって止めるから、六護式仏蘭西も当然それに乗っかって同盟拒否るよね。そしたら欧州航路はボッチで地獄だよ?」

 

だから

 

「英国が武蔵の味方になっちゃうとさ、他国も英国を潰そうと動き出すと思うんだよね。それじゃあ英国も困るよねぇ?だから妖精女王、出来る事なら武蔵はここで潰してほしいんだ」

 

コインを一枚、床に投げた

そして背後の大扉が開かれ、そこから見える英国の景色の中、いくつもの光が見える

 

「僕たちP.A.Odaはムラサイだから、大罪武装が与えられなかったよね。だから御館様が僕たち五大頂六天魔軍に武装を与えてくれたんだ」

 

そう言って背後の青白い光の群れを指さしながら

 

「"癒使"、治癒の力を逆利用した霊魂の保持と展開・・・霊魂展開術を強化したもので、必要であれば何万の霊魂でも黄泉から起こせる。M.H.R.R.的に言えばこうだ・・・『加賀百万G』」

 

弟子男『"加賀百万G"・・・何だろう、ネシンバラ思い出した。そういえばアイツ元気?』

約全員『いやお前状況考えろよ!』

 

「アンタのその肩の上で浮いてる嫁、ただの霊体じゃないな」

「解る?まっちゃんは僕の手伝いをするために"癒使"への改造を受けたんだよ」

「・・・大した夫婦愛だな・・・それだけの事をしてまで武蔵を潰したいのか?」

「馬鹿だな、いずれ関ヶ原合戦で敵対するんだから、今やっても未来でやっても変わらないじゃないか」

「アンタが武蔵に手を出す前に、俺がアンタの後ろの荷物を片づける方が早い」

 

康景が利家の背後、茶々を見ながら言った

だが康景に『動いたら殺すぞ』(要約)宣言された茶々であるが、肝心の彼女は

 

「ま、まぁ、義伊・・・康景になら・・・///」

 

何故か照れていた

その様子に全員が「なんでだっ!?」と困惑する中、康景は

 

弟子男『あの女基本頭のネジ緩んでるというか飛んでるというか構ってちゃんというか頭の中が春の人なんだ。だから苦手なんだよ』

約全員『えええええ(;´Д`)』

 

まさに(一人を除いて)一触即発の雰囲気になったが、その雰囲気を壊す者がいた

 

「ちょーっと待ったぁああああああ!!!!!!」

 

トーリだ

勢いよく転がって入ってきたと思ったら

 

「お前!それ私のじゃないか!」

 

正純の男子用制服の"上着"だけ着た、下半身全裸の馬鹿が出てきた

 

********

 

「へ、へ」

「まっちゃん!大丈夫?」

「変態・・・!」

「まっちゃん!正しいけど言い方!相手は一応総長兼生徒会長なんだし・・・」

「いや、いいよコイツ変態だし」

「いいんだ!?」

 

康景の肯定に驚く利家

トーリは直前までの雰囲気を気にせず

 

「何だよこの空気!?」

「お前がそんな恰好してるからだろ!」

「いや、だってさぁ。女子控室で着替えてたら男子制服置いてあるじゃん?・・・俺のだと思うじゃん?」

「思うな!そもそもなんで女子控室にお前のがあるって思うんだ!?」

「え、ちょっとトーリ君!女子控室って・・・」

「浅間!オメーのってホントすげぇよな!胸の辺りぶかぶか過ぎてありゃメロンくらいじゃ足りないn」

 

浅間が光の速さでトーリを射抜いた

トーリが吹っ飛ぶ中、今度はエリザベスが

 

「会議の場に武器を持ち込んだのか・・・」

「え、あ、いや、これは・・・」

 

浅間がつい習慣で持ち歩いてる弓矢を、つい習慣で撃ってしまった事に動揺するも、康景が

 

「ちょっと待とうか、これはアレだ・・・うん、こいつはアレなんだ」

「アレとは・・・?」

「この巫女は射殺巫女と言われていることから解る様に、常に弓矢を携帯していなければ精神が不安定になってしまうんだ」

「はぁ!?」

「それは難儀だな・・・同情する」

「ちょっ!?」

 

康景君それフォローしてるようで全然フォローしてないですよ・・・!

浅間は頭痛がした

エリザベスもノリがいいのかそれで話を聞いてくれるようだ

 

「しかも定期的に人を撃たないと禁断症状でああして怒りで撃ってしまうんだ・・・」

 

いやそれただの危ない人です!

 

「だがこいつも自分の性癖と向き合ってるんだ。だから撃つのは基本この馬鹿だけで、平時には撃たない様に心がけてる("平時"には撃たないだけだけど)」

 

性癖って何ですか!?

 

「この全裸も、また、巫女の性癖を慮ってツッコミで矢を受ける際は傷つかない様に術式を組んでいる。この通り全裸は無傷だろう」

「た、確かに・・・」

 

な、納得しちゃった!?しちゃいましたよこの人!?

 

金マル『ドンマイw』

〇べ屋『wwwwwww』

 

皆を見ると、肩を震わせて顔を逸らしている

皆が薄情な連中だという事は再認識した

 

「武器を持ちこんでいたという点を黙っていたのは、こちらの不手際だ。だがそこには一人の少女の忌まわしい業が絡んでるんだ・・・ここは何とか見逃してくれないだろうか」

「ふむ・・・そんな辛い性癖を持つものがいたとは・・・よかろう」

「(ええええええええええ!?)」

 

これ世界的に私はどういう評価を受けるんでしょうか

フォローしてくれたつもりなんだろうが、これはただの追い打ちである

浅間は頭を押さえた

だが不意に

 

がたっ

 

自分の正面、ホライゾンの背後から何かが落ちた

目の前に落ちた"それ"は

 

「(大罪武装―――――――!!!!!)」

 

一難去ってまた一難

自分の弓の件から、今度は大罪武装だった

しかも位置的に自分が一番近いので、正純も康景も"自分に何とかしてくれ"と言う視線を向けてくる

 

気が付けば"女王の盾符"も三征西班牙もM.H.R.R.も疑問の視線を投げかける

どうすべきか

 

「こ、こここここれは!た、たた大罪武装に見えて・・・そうじゃないんです!」

「ほう・・・ではそれはなんだ?」

「そ、そう、これは・・・抱き枕何です!この辺りなんか頭を乗せるのに最適・・・ってブレードありますよ!?あぶなっ!」

 

いっ、いった~、沈黙マジ痛ぁあああああ!

沈黙が会場を、いや、浅間を包んだ

 

弟子男『あいたたたたた・・・』

金マル『全国放送でこれは・・・w』

銀狼『心底同情しますわ・・・w』

弟子男『いや、俺のモノマネレパートリーは増えた。今度宴会芸でやる。ありがとう』

○べ屋『鬼wでもヤス君のモノマネ声帯まで模写するから激似なんだよねw最近学長先生のモノマネしか見てないな~(煽り)』

あさま『副会長:お前さっき私に散々言ったんだから面白いんだろうな?』

弟子男『お前俺のモノマネレパートリー舐めるなよ?真喜子先生から善鬼さんまで色々な人を完璧にこなせるぞ、智のモノマネなら108つある』

〇べ屋『煩悩www』

弟子男『いやそれは智が意外と煩悩に塗れてる気が・・・』

約全員『納得w』

あさま『康景君は私に何か恨みでもあるんですか!?』

 

ヒドイ流れだ

 

「盛り上がってねぇでさ、こっちの質問に答えてくんねぇかなぁ!」

 

馬鹿な流れで忘れかけてたが、武蔵にとって大事な問いが来る

 

「姫ホライゾン救った時みたいによぉ、メアリ救うみたいに戦争しねぇのか?」

 

*******

 

「は?なんで俺たちと英国と戦争しなきゃいけないんだよ?」

 

トーリの言葉にベラスケスは唖然として

 

「いや、だから、なんで姫ホライゾンと似た境遇のメアリは救わねぇんだよ」

「・・・メアリ?」

「「そこから!?」」

 

皆が頭を抱えながらトーリを見た

その中で康景が溜息をついて

 

「点蔵が英国来てからよく一緒に居た長衣の奴だ。あの長衣の正体はメアリって言って、リザと双子なんだ。だから美人で巨乳だ」

「あーだから点蔵の奴毎日ハァハァ言いながら金髪巨乳モノのエロゲやってたのか~」

「そのメアリが処刑されることで、英国と三征西班牙が戦争するんだけど、三征西班牙の外交官サマ曰く、ホライゾンの時同様『歴史再現悪用』何だと」

「ほうほう、それで?」

「だから三征西班牙はこう言いたいんだ。『なんでホライゾン救うために俺たちと戦争したのに、英国とはやんねーの』って」

「おk、把握!」

 

ようやく事態を把握したトーリが納得する

その様子を見ていたベラスケスは

 

「・・・はぁ、要はそういうこった。武蔵は姫を救うのに俺たちと戦争やったのに、英国とはやんねーのっておかしくねぇかって言ってんだよ」

 

ふんふんと頷くトーリは

 

「ホライゾン?」

「なんですか?」

「お前救われた側としてどう思うよ」

 

ホライゾンに聞いた

 

「jud・・・そうですねぇ」

 

考えるホライゾン

そして康景を一瞬だけ見て、すぐ視線をベラスケスに向ける

 

「一つだけ解らない事があります・・・」

「何だよ?」

「歴史再現の悪用だと言いましたが、自ら望んで死を覚悟された方の死を、悪用だと判断してもよろしいのでしょうか」

 

その言葉を、康景は聞いた

確かに、死を自ら望む者が死ぬことは、一概に悪とは言い切れない

歴史再現が重要視される世の中で、歴史再現に準じて死ぬのは世界存続のために必要な事である

 

それが世界のルールだ

 

だが康景にはそれが理解できなかった

歴史再現に殉じてただ死ぬなど、康景の心の中には可能性として想定すらされない忌避すべきことだ

歴史を再現して人類の損失を防ぐのが目的であるのなら、何故関係ない人が死ぬ

過去の生き方をそのまま辿るだけの人生に、何の意味がある

 

自分が『天野康景』という存在を襲名したのも、なるべく長生きした平穏な人物を選んだだけだ

その生き様も、領民のために自らの地位を捨て出奔し改易させられ、人知れず死ぬ

本来なら襲名など、考えもしなかった

しかし、この名は、この襲名は、数正先生との約束を果たしたに過ぎない

 

康景にとっては襲名も歴史再現も、それだけの価値しかない

世界にとっての『ルール』など、『師との約束』より安い

 

だから康景にとっては歴史再現に殉じて死ぬことは、路傍の石ころの様に価値もない

だから康景は知り合いが、友人が、大事な人がそんな『ルール』で死ぬことが許せない

 

浅はかで愚かな己が師を殺した時から持ち続けていた己の信条

 

故に康景はメアリを救う気でいた

 

「死の歴史再現を担当する方が自らも死を望まれるのなら、それを悪用だとする必要があるのでしょうか」

 

ホライゾンが、そう言った

康景はこの話を黙って聞いた

 

「だよなぁ・・・お前、感情無いんだもんな」

「jud・・・残念ながら、しかし、歴史再現を重要視されるあなた方が、歴史再現で望むものを止めようとなさるのですか」

「それは・・・」

「お答えください」

 

窺うようにして問いかけるホライゾンに、ベラスケスは答えられなかった

 

「お答えください。相手が望む事を止める善悪の基準に、善悪を付ける基準があるのなら、お教えください」

 

康景はこれを聞いて思った

 

ホライゾンが感情に興味を持っていると

 

******

 

浅間は康景が嬉しそうにしているのを見た

いや、嬉しそうな顔をしているという訳ではない

ただ単にそう見えただけだ

 

ホライゾンが感情に興味を持つという事は、康景にとっては一番の朗報かもしれない

 

自分達がホライゾンの望む死を止めたのは

 

ホライゾンを想う人がいた

そのホライゾンという家族を失いたくない人がいた

 

相手が望もうとも、周囲が望もうとも、大事な人を失いたくない

その一心で救ったのだ

皆がそれを正しいと信じて

 

「メアリ様が死を覚悟で処刑されるのに対し、それを止めようとなさる分岐点の意味が、ホライゾンには理解できません」

 

だが

 

「その一方で、ホライゾンが分岐点の意味を知り、理解することが出来たのなら―――武蔵一同、誠心誠意メアリ様をお救いするために戦争を始めようと思っています」

 

感情を理解できた時、全身全霊を持ってメアリを救う

そういう事だ

トーリはそれを見て、頷き、笑った

ホライゾンの事を思いながらも大事な事には自分で気づいてほしいのだろう

康景もまた、トーリと同じ気持ちの筈だ

 

「聞いたか三征西班牙!そういう事だ!」

「・・・歴史再現の重要性に関しては理解していないとも取れる発言ですが、解釈に関しての重要性には理解しているとも取れる発言ですね」

「じゃあ・・・」

「メアリ様の処刑は不可避ですね・・・我々は本国に戻って戦争の準備、宣戦布告の準備をいたします」

「やっぱそうなるよね~・・・」

 

だけどよ、とトーリが続ける

 

「オッサン!他人がどう思ってるか強制して勝手に決めつけてんじゃねーよ!・・・まぁもし誰かがメアリってのに惚れてたり大事に思ってたりすんなら、俺たちは絶対にメアリってのを救いに行く!」

 

トーリが意気揚々と語るのに対し、康景は

 

「まぁそういう事だリザ、期待して待っててくれよ」

「うむ///」

「どうした?」

「いや、その、なんだ・・・こういった場で堂々と面と向かって"リザ"と言われると・・・何と言うか照れるな///」

 

珍しくしおらしく乙女みたいな反応を示すエリザベス

その様子を見たダッドリーは

 

「ぐはっ!!!!」

 

鼻血を盛大に噴出して後ろに倒れた

 

「ダッドリーが死んだ!」

「この人でなし!」

 

どっかで似た流れがさっきあった気がする

いや、ありましたね・・・ミトの時に

今回の場合は康景"に"やられたわけではなく、康景に照れたエリザベスにやられたわけなのだが

 

「くっ・・・ここここここれが、むむむむ武蔵の死神の、ちち力・・・だというの!?」

「何もしてなくね?可愛い奴を可愛いって言って何が悪い」

「だ、だから、こういった場でか、可愛いとか言うな///」

「ぶはっ・・・血を吐いた敵に追い打ちなんてなななななんて卑劣な!」

「もうコイツ嫌なんだけど、凄い面倒臭いんだけど」

 

やり取り的には何処も変わらないんですね~

何だか知らないが気が抜けた(武蔵の女性陣の数名を除いてだが)

だがその様子を見ていた利家が

 

「そのために戦争を引き起こして世界を混乱に陥れるのは致し方ない事だと?」

 

そう告げた

 

「三征西班牙は退いても、こっちはどうするんだい?」

 

******

 

面倒だよねぇ・・・

 

何が面倒と言うと、今織田を取り巻く情勢もそうだが、協働の羽柴を取り巻く情勢も面倒だ

毛利の制圧が終わってしまえば、御館様が死ぬ本能寺の変の再現も行わなければならない

だから毛利牽制のために英国との関係を密にしておきたかったのだが

 

・・・ここで英国に武蔵側に立たれると色々と予定が崩れてしまうところだ

 

妖精女王は見た感じ、天野康景には心を許しているような節が見られる

 

・・・というか堕ちてるのあれ?

 

武力面での評判がいいのは聞き及んでいるが、まさか人心まで掌握する術でも得ているのだろうか

だが利家の康景の第一印象は

 

『好きな人は好き、嫌いな人は嫌い』

 

そういう印象だった

自分の康景に関する評価は未だ『油断ならぬ』程度だ

好意的でも、嫌悪的でもない

しかし、今回何故か一緒についてきた茶々の評価はかなり高い

だから正直、この場に連れてきたくは無かった

余計な事を喋られて織田の不利になるような事を武蔵に教えられては困るのだ

 

利家が今回来た理由には、英国との関係を保つこと以外に、もう一つあった

 

・・・御館様が気にかけてるからねぇ

 

創世計画と、例の『アレ』に関係してるからだろう

M.H.R.R.及びP.A.Odaでも例の『アレ』に関して知ってる人は少ない

彼は知らないだろうが、御館様と彼の間には深い関係がある

故に彼を引き込むつもりらしいのだが、どこから聞きつけたのか茶々がその役目を買って出たのだ

そして今に至る

 

・・・これ会計の仕事じゃないよね?

 

辟易した

 

「・・・この場で武蔵を攻撃する命令をくれれば、代わりに僕が攻め落としても構わないよ?妖精女王」

 

だがその問に答えたのは妖精女王ではなく

 

「気が早いぞ、前田利家」

 

武蔵副会長だった

彼女は鋭い声で

 

「今は武蔵と英国の会議の場である・・・外様は相応の扱いを受けよ」

「・・・君達だって僕たちの歴史の外様だろう?」

「だからどうした」

 

そう言った

そしてこちらに向き直り

 

「前田利家、貴方をこの場より完全に除外する」

 

******

 

「馬鹿な・・・そのような事が」

 

馬鹿でも何でも構わない

通してしまえばこちらの勝ちだ

会議の場に全裸で来る馬鹿もいるし、人の気持ちも知らないで色々なところでフラグを立てまくる節操無しで鈍感で鈍感で鈍感で、さらには鈍感な馬鹿もいるのだ

これくらいなら別に問題もあるまい

 

「妖精女王、各国の情勢の変動によって此度の貿易協定が困難になってしまいました。なので貿易協定に関しては取り下げたいので御座いますが、よろしいだろうか」

「そのようだな。構わんぞ・・・私には"女王の盾符"がいる。今までのは夢の様な小話に過ぎないのだろう?・・・私は夢よりもそこにある現実を選ぶ。だから言ってみるがいい、現実にそれが可能であるならば、応えよう」

「・・・傭兵王ヴァレンシュタインとの雇用契約を解除していただきたい」

「なっ!?」

 

驚きの声を上げる利家

 

「僕の霊魂展開術を用いた傭兵団だからこそ英国は自国の損失を賄えるというのに、どうやってそれを補填する気だい?」

「武蔵副会長、本多正純が妖精女王に提言します。武蔵をアルマダ海戦の英国艦隊として提供しましょう」

 

*******

 

康景は正純の提言を聞いた

 

傭兵として雇われる

それは今回のアルマダ海戦の様に歴史再現に利用されるなら、他の利己的な事に巻き込まれることは無い

実質上他国の庇護に入り、武蔵の商売に必要な資材を手に入れることも可能

傭兵契約国とは互いに腹の探り合いをするような事にはなるだろうが、現状は打開できる

 

「前田利家、私たち以上の商品を提供できるか?」

 

その言葉を聞いた利家は深く、深く深くため息をつき

 

「はぁ・・・手ぶらで帰ったら帰ったで丹羽さんのウソ泣きによる"利家虐め"が始まるんだろうな・・・」

「しょ、商売に割り込んだ分の礼はしよう」

「じゃあ一つ、"花園"に行ったことは?」

「え?」

 

その言葉に、エリザベスも、"女王の盾符"も身構える

"花園"は、焼き肉の時にメアリが言っていた事だ

正純達は聞いた事がある程度の反応だったが、康景はその意味を考えた

 

「成程、聞いたことはあっても見たことは無いと・・・そういう事だね」

「どういうことだ?」

「成程成程・・・君達はなーんにも知らないんだ。毎年毎年極東の上をぐるぐるぐるただ回っていただけ・・・ヴェストファーレンはさぞ遠くにあるだろう。でも、そっちの彼は何か知ってるっぽいんじゃない?」

「「え?」」

「あん?」

 

知ってる云々言われても憶えていないのだが

"花園"の存在は知っている

見たこともある

だが

 

「君たちがまだその程度の話しかしらないなら、それはそれで土産話になるからそれでいいや、あぁでもあと一つ」

「なんだ・・・?」

「そっちの彼、ちょっと貸してくれない?すぐ済むから」

「「は?」」

「え?俺?」

 

悪い予感がした

 




※補足
今回新たに一人オリキャラを足しましたが、このキャラは以前出した例の"妹"と同様、今後のためのフラグです
"妹"同様、今後の予定のネタバレになるので、次話以降詳細を『段々』に書いて行こうと思います
※捕捉2
主人公の特技(宴会芸):物真似
ひとまず誰の物真似をしても似てる


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