境界線上の死神   作:オウル

40 / 76
貧乳回避は境界線上のホライゾンでも屈指の名シーンだと、私は思います


八話 伍

相対戦と言う余興は

 

それぞれが決着を迎えつつある

 

それがどのような形であれ

 

配点(貧乳)

―――――――

 

通りに激震が走った

その理由はニコラス・ベーコンが振り下ろした英国認印である

ニコラスの攻撃を避けたウルキアガはその打撃力の意味を考える

 

「え~!どうして避けちゃうのぉ~!」

 

子供みたいに文句を並べるニコラスを無視し、今の打撃力をウルキアガは警戒した

今の打撃力は、ニコラスの様な体格の者に出せるとは思えない

ならその原因はあのハンマーだ

ただの打撃系武器ではない

 

「国璽か・・・」

「そうそう!僕国璽尚書だからさぁ、決定事項とかもこれでガツンと決めちゃうんだよね!だからこの打撃は英国そのものって事」

 

なら今の一撃の重さの意味は

英国のそのものを打ち込んでいるのか・・・!

地面付近を打撃すれば瞬間的に英国の重量をそこに打ち込むことが出来る

そして空中辺りに放てば、英国中の大気を一気に展開することが出来る

顔面狙いで来た打撃をバックステップで避ける

術式系の知識があってよかった

迂闊にあの攻撃を食らってはひとたまりもない

 

事象変化系の神格武装・・・か?

 

恐らく攻撃対象によって展開する内容も変わるのだろう

英国にとって異質な者である自分が殴られる

つまり、英国にとっての余所者が攻撃の重さになる

ざっと跳んで数えただけでも武蔵住人の内、英国に来ている者は千を軽く超える

それらの力が一転に集中されて放たれるのだ

 

ニコラス・ベーコンは資料によれば精霊系の種族だ

ならば対精霊用の武装を出すだけ

後は

 

「ニコラス・ベーコン!」

「何ー!?」

「姉はいるか・・・?」

 

これは(ウルキアガにとっては)大事な問いである

だがその問にニコラスは頬を膨らませ

 

「いっないよぉー!戦闘中にちょーしつれーじゃない!?」

「jud・・・そうか、なら貴様には二つの罪がある」

「異端?」

「違う!!・・・一つは貴様に"姉がいない事"、重ねて一つは貴様が"姉のいる弟ではない事"だ!!」

 

これは万死に値する重罪だ

 

姉は正義、これ万物の理なり

 

それに対し、通りに立つニコラスが青筋を立ててハンマーを振り落とした

 

*******

 

ウルキアガは咄嗟の判断で跳んだ

空中からの攻撃である

 

あの攻撃の後では跳べまい・・・!

 

そう判断したのだ

だが

 

「直撃コースいっきまぁーす!」

 

ハンマーを振り下ろした衝撃を利用して跳んだのだ

 

「相対権限獲得一番乗りもーらい!」

 

さらに空中でハンマーを振るうニコラス

だがそれに対し、ウルキアガは敵からこちらに突っ込んできたことを好都合だと思った

相手のハンマーより先に対精霊用捕縛道具を投げつける

狙った箇所は両手両足の首だ

 

「あれっ!?」

 

両手両足が固定され、両足が広がっているところにウルキアガは足を突き出し

 

「食らうがいい!!股裂き拷問十七式改!電気按摩!!!!!!」

 

股間に直撃した

だが

 

あれ・・・?

 

違和感を感じた

 

「感触がない・・・?」

「ひっどーい!!僕が精霊だって知ってるでしょ!」

 

顔を真っ赤にしながら怒るニコラス

だからと言って女と言う訳でもあるまい

性別が皆無なら、それはもう希少な精霊である

精霊というのは自分の存在が分裂しない様に性別を固定するもののはずだが

 

「ニコラス・ベーコン・・・貴様まさか!」

「今頃気付いたっておっそいんだあ!」

 

拘束具で動けないはずのニコラスが目の前から消えた

そして落下を始めたハンマーの上部からはがれるように人の影が現れた

 

「僕は英国認印の守護精霊だよ!」

 

国璽を預けられた精霊ではない

国璽そのものがこのニコラスという精霊なのだ

 

「人工精霊か!」

 

ウルキアガが驚いている間に、拘束具から自由になったニコラスがハンマーを掴みなおし、ウルキアガに振りかぶった

 

******

 

ウルキアガとニコラスの戦闘がヒートアップしていく中、その戦闘を見ていたノリキは不思議に思った

何が不思議か

横にいる御広敷がウルキアガを応援していることだ

御広敷は武蔵でも有数のロリコンである

本来であれば自分の弟や妹を御広敷の隣に立たせるのは嫌なほどにロリコンなのだ

そんな奴が、自分の信仰に近しいニコラスではなくウルキアガを応援するのはおかしい

 

「ウッキィイイイイイ!!!ウキウキウッキィィイイイイ!!!ウキィイイイイイイイイイイイイイイイ!」

 

もはやアイドルでも追いかけるストーカーの如く、その目は血走っている

正直な話気持ちが悪い

こんな状態の御広敷を皆が見たらどんな反応をするかは想像に難くない

つまり何が言いたいのかというと

 

応援はしているが、その対象がおかしい

 

異常とまでは言わないが明らかに正常ではない

・・・いや異常だな

元が狂ったロリコンなので、ある意味こっちの方が正常かもしれないが、気持ち悪いので本来の狂い方に戻そう

何らかの術式ならそれを自分の創作術式で殴ればいいだけの話だが、生憎何の術式かわからない

殴る対象が解らなければ意味がない

ならば何を殴るか

 

「創作術式、睦月展開―――三発殴って御広敷を正常に戻せ」

 

ノリキのパンチが全弾御広敷の顔面にクリーンヒットした

 

******

 

ウルキアガはニコラスのハンマーを受けた

だが不思議な事にそのダメージは皆無だ

正確に言えばハンマーの威力分の衝撃はあったのだが、その程度なら半竜の装甲なら耐えうる

 

何が起こったのか

ハンマーを振り下ろしたニコラスも起こった事態が何なのか解っていないらしい

辺りを見渡すと

 

「あ!何ですかウッキー君!小生の信仰と戦おうとするとは!天罰が下りますよ!さぁ天罰が嫌なら今すぐ小生に土下座を!」

「黙れロリコン」

 

御広敷が正常に戻ったようだ

あれで正常なのもどうかしてると思うが

 

「どうやら拙僧の仲間?・・・知り合いが術式から逃れたようだな」

「ちぇー、客が一人冷めたくらいで壊れない術式にしてほしかったよ」

 

御広敷が術式から逃れたことで、演劇空間が段々とほころびを見せ始める

 

「貴様のその鉄槌、演劇空間だからこそ自由に使えたのだろう?空間が不安定になっている今、それを使うのは英国の人々にも危険が及ぶのではないか?」

「うーん、確かにこれ以上やると僕自身の力で危なくなるかー」

 

ニコラスは通りで一礼し

 

「じゃあ、ここではこれにて、以後は他の舞台にてお楽しみを」

 

あっさりと去った

 

******

 

点蔵は"傷有り"の案内で倫敦塔の内部を歩いた

実際に歩いてみた感想としては

 

"塔"というよりは"城塞"で御座るな

 

古来から人工の高台に建てられた物見である

その辺の知識は予め知っていたが、やはり地元の人に聞くのは趣が違う

点蔵は"傷有り"の話を注意深く聞いた

 

「・・・あちら南西塔、"重双血塗れ"メアリが収監されています」

 

階段を上る"傷有り"が左手、窓から見える南西塔を示した

"傷有り"がメアリの話をする際、声のトーンが下がるのに点蔵は気づいた

彼女なりに思うところがあるのだろう

ここの内情に詳しいし、もしかしたらメアリと知り合いなのかもしれないと、点蔵は思った

 

「あと、この辺ではたまに出るそうですよ」

「何がで御座るか?」

「アン王妃の霊です・・・首の無い貴婦人の霊として出るそうですよ」

 

喜美殿が聞いたら失神しそうな話で御座るなぁ

そう言えば康景が女性陣について行ったらしいが、今どうしてるだろうか

相変わらず鈍感やって周囲をイラつかせてるだろうか

ヤス殿、いずれ背中から刺されで御座るな・・・

そんな気がしてならないが、あの御仁ならなんとかするだろう

点蔵はそれよりも"傷有り"の話に集中する

アン王妃、その名前はつい最近"勉強"したばかりだ

 

「・・・アン王妃というと妖精女王エリザベスの母親でヘンリー八世総長の妻、元は前妻キャサリン様の侍女で御座ったとか」

「jud・・・よくご存じですね」

 

え、エロゲで学んだとは言えぬで御座るぅ・・・

準備期間中、ウルキアガに筐体ごと持ってきてもらったエロゲ、"とっかえひっかえヘンリー八世HDリマスター"で学んだことだ

康景がその事実を知った時

 

「お前・・・英国に来てまでエロゲで勉強とは・・・流石だな」

 

と流し目で自分を見ていたのを思い出した

しょうがないじゃない、男だもの

というか康景も同じ男なのにどうしてああも我慢できるのだろうか

 

まぁそれはともかく

 

「―――きょ、極東の者の嗜みで御座る故・・・」

 

誤魔化した(誤魔化せたかは知らないが)

 

「では知ってますか?後の"血塗れ"メアリを産むはずの前妻キャサリン王妃は子供を産めなかったという事を・・・」

「・・・え?」

 

その事実は初耳だ

 

「キャサリン王妃は病弱で子供を産めず・・・だから聖連に対してある言い訳をしたのです。メアリは妖精に隠されたと」

 

エリザベスの異母姉であるメアリ、スコットランド女王のメアリは二重襲名である

もしそれが本当ならメアリは何時、誰から生まれたのか

こちらが不可解な反応をしていると

 

「それは後でも話せることですので、まずその前提としてお見せしたいものがあります」

「そちらは・・・?」

「南東塔です・・・こちらは監獄ではなく、ちょっとした書斎です」

「書斎?」

「はい、ヘンリー八世の部屋になります」

 

重要人物の名前がさらっと出てきたことに、驚くタイミングを見失った

"傷有り"の後に続き、階段を上る

点蔵が後に続く形になるので、丁度目線が"傷有り"の尻のあたりにあるので、自然とそれを目に焼き付けてしまう

 

・・・どうして尻は丸いのか

 

点蔵は金髪巨乳を己が信条にしている

だから尻派を名乗る康景がいまいちよくわからなかった

尻派と胸派、相容れぬ道だと思っていたが

 

"傷有り"殿なら、自分尻派になってもいいで御座るな・・・

 

己が信仰が揺らいでしまう

それほどにまで自分は・・・

そこまで考えて点蔵は頭を振った

 

「どうかなさいましたか?」

「え、あ、いや!き、"傷有り"殿のそういう格好も良いで御座るな!」

「フフ、ありがとうございます」

 

その反応は見ていてもいいという事で御座るか!?

"傷有り"の言葉を深読みした点蔵は思わず前のめりになった(意味深)

その動作が何なのか解らなかった"傷有り"は

 

「どうしたんですか?」

「い、いや、なんでもないで御座るよ?」

「・・・?ここです」

 

先行していた"傷有り"が部屋の前に立つ

 

「部屋で御座るか?」

「jud.八畳ほどの書斎です」

 

懐から鍵を取り出す

鍵が必要な場所なら、一般の見学コースではない

扉に鍵を刺し、そこを開けようとした"傷有り"が何かに気付く

 

「・・・?」

「どうしたで御座るか?」

「あ、いえ・・・なんでもありません・・・どうぞご覧ください、ここが点蔵様に対して最も報いる事の出来る示しだと思います」

 

開けられた部屋は、半円形で天上の高い部屋だ

部屋の中は思ったより片づけられており、窓は開けられていた

誰か先に来ていたのだろうか

 

「あれ・・・」

「どうしたで御座るか?」

「普段ここは人が立ち寄らない場所なので・・・」

「・・・?」

 

驚いている"傷有り"の様子から、それが嘘ではないことが解る

ここは一般の見学コースではない

ならここに立ち寄れるのは"傷有り"のように鍵を持っている人間だけだ

 

「他に鍵を持ってる御仁はいるで御座るか?」

「え、ええ・・・妹が」

「妹がいるで御座るか?」

「・・・あ、え、ええ」

 

整頓された部屋に驚いて唖然とした様子の"傷有り"は、周囲を見た

 

******

 

"傷有り"は、この部屋の古い窓が開けられ、散らかっていた書類等も整頓されていたことに驚いた

他にここに自由に出入りできる人間は、妹しかいない

彼女もここに寄ったのですね・・・

でも何のためにここに寄ったのか

 

「(もしかしてあの二人の資料を・・・?)」

 

多分妹の事だから彼らが英国に来た時点でここには入っていたはずだ

必要な書類もとっくに漁っただろう

なら

 

「(追加で調べる事でもあったのでしょうか・・・?)」

 

そして机に目をやると、気になる資料が置いてあった

それはヘンリー八世があの二人を買おうとしていた書類だ

 

「この資料は・・・」

 

これがここに置いてあるということは

私にも一応、報告してくれたんでしょうかね・・・

自分達がかつて世話になった人だという事を、彼女は証明したのだ

こんなことならちゃんと話しておけばよかったと後悔する

 

「"傷有り"殿・・・?」

 

不意に呼ばれた声に、少々驚きながらも

 

「すいません・・・少し昔を思い出してしまって」

 

眼の端を拭い点蔵に振り返り、そして苦笑いして点蔵の背後を指さした

点蔵もその指先の方を見る

そこには

 

「"万能王"ヘンリー八世総長が公主隠しで消えた証拠です」

 

『Long time my friend』

 

そう書かれた血文字と共に、二境紋が、そこにはあった

 

******

 

ドレイクは新たな敵が厄介だという事を悟った

誾の攻撃は失敗する

一度目の攻撃は失敗するのでその動作の失敗最中に攻撃を仕掛ける

つまり二回で一回分の攻撃だ

"巨きなる正義"は行程化を促す

だから剣を振るおうとすると、相手を転ばせたりして攻撃が来ない様になっていたのだが

 

「(今じゃ一回に一回の攻撃になってやがる!)」

 

バックハンドやサイドスナップ、角度変更パターン等、様々なバリエーションからの攻撃を放ってくる

 

「お前!いくつ技持ってやがる!!」

「・・・まだまだ!」

 

義腕の駆動を変え、本来人では打てない角度から攻撃を仕掛けてくる

 

「これくらいできなければ、あの男を斃すことが出来ません」

「あの男・・・?」

「あの男を斃して、私は必ず・・・!」

 

言葉を続けようとして、動きが止まった

呼吸が行程化されたのだ

それを機に一気にドレイクが畳みかける

 

「チアノーゼの挽肉は美味しくねぇんだがなぁ!」

 

爪を振り下ろす

 

*****

 

「やれ、やれです」

 

呼吸もままならない状態で誾は迫りくる敵を見た

誾が動きを止めたのは、わざとだ

攻撃が失敗してしまう状況で、二回に一回のペースでは効率が悪い

攻撃が当たらないなら、向こうから当たりに来てもらえばいい

誾は呼吸法を『変え』た

 

「おや?こんなところにバナナの皮が」

 

誾がバナナの皮を踏んで背後に滑った

背後への転倒が、ドレイクの爪を躱す動作になったのだ

そして義腕をはね上げるように振り上げ

 

「私はあの男を斃すまで負けられない・・・だからそこを退いてください、ドレイク閣下」

 

ドレイクの両腕を切り落とした

鮮血が飛び散る

ナルゼから食らった術式強化による負荷の出血もあり、ドレイクには大ダメージだ

そして止めを刺すべく背後に跳んで"十字砲火"を構える

だが相手も

 

「―――っ!」

 

息を吸って狼砲をする準備に入った

筋肉を緊張状態にすることで止血と攻撃を同時に行おうというのだ

「撃て」と"十字砲火"を放とうとしたが

その勝負に水を差す動きがあった

 

「やめとけ」

「お前もだ馬鹿」

 

誾の頭にチョップを、ドレイクの股間に蹴りをくらわすベラスケスとグレイスの姿があった

互いに攻撃のタイミングを潰され、誾は頭を押さえ、ドレイクは股間を押さえる手がないためただその場にうずくまった

誾はベラスケスの不意な登場に疑問を感じた

 

「何故止めたのですか?」

「もう戦う理由がねぇ」

 

ベラスケスが指さした方向を見る

そちらは魔女が自分の術式で眠っているはずだが

 

「・・・いない」

 

先程までナルゼが横たわっていた場所に一本の白塗りの矢が刺さっていた

 

「多分例の武蔵の射殺巫女辺りの仕業だろう・・・戦闘理由が消えちまった以上、これ以上は私闘だぜ?」

 

納得がいかないが、戦闘理由がない以上はどうしようもない

しかし、ドレイクも同じ気持ちだったのか

 

「お前・・・」

「動くな馬鹿、そのままじゃ失血死するぞ」

 

グレイスの樹木にも似たオールから蔦が伸び、ドレイクの腕をくっつけた

 

「・・・状況が変わった」

「・・・?・・・まさか女王が・・・!?」

「いや、エリザベスは無事だ」

 

英国陣営の会話に異変を感じる

何かあったのだろうか

 

「女王"は"無事・・・って事は」

「ああ、例の男が負傷して、オクスフォードの医務室に運んだ」

 

『例の男』が誰を指すのか、誾はその時解らなかった

 

*****

 

爆煙たなびくウェストミンスター寺院の正面では、ハットンが祈る様に

 

「エロの罪極刑になったミス本多の魂に、合唱、デェース!」

 

煙が晴れていく

槍が突き刺さっている爆心地には

 

「おや?」

 

正純がいなかった

何処へ行ったと周囲を見渡したが、自分がいる方とは逆に走っていく影がある

その姿を見たハットンは

 

「エロ死刑囚の脱走、デェース!!!!!!」

 

******

 

だ、男子用の制服が無ければ即死だった・・・!!!

 

自身のコンプレックスに自身の命を救われるとは、何たる皮肉か

心許ない女子の制服に未だなれていなかったので男子の少し大きめの制服を着ておいて正解だった

喜美や浅間なら大きめの男子制服を着ていてもすぐには脱げなかったろう

死因は巨乳だ

つまるところ貧乳の方が巨乳より有用なのではないだろうか

 

・・・今度宴会の席で言ったらウケるかな?

 

流石にブラックだし自虐が過ぎるのでやめておこう

今自分が集中すべきなのは、逃げ切る事だ

運動は苦手だが、そんなことは言ってられない

戦闘系ですらないが故に、どう逃げていいかもわからない

ただ追ってくる大量の動白骨達から逃げた

 

連絡が取れないのは痛い

動白骨や結界関係なら、浅間に連絡が取れればよかったのだが

恐らくは走狗も使えないんだろう

そう思って首元のハードポイントを触る

そこには何故か感触があり、濡れていた

何だと思って触れた手を確かめると

 

血・・・!

 

自身の走狗であるアリクイが出血していたのだ

原因は多分先程投げられた槍だろう

先程の回避の際にここに当たっていたのだろう

走狗がいることを失念していた自分の責任

自分のせいだ

 

「(どうしよう・・・!)」

 

自分がしでかしてしまった走狗の怪我に、混乱してしまう正純

ただがむしゃらに走っていると背後から

 

「六十六年六組!!!!!きりーつ!!!」

 

ハットンは号令をかけたのと同時、自分の正面に槍を持った動白骨が何体も出現した

挟み撃ちだ

どうしようもないのか、と憤る

動白骨達は既に槍を突き出して自分の前にまで迫っている

こういう危機的な状況になって久しぶりに『生きたい』と思ってしまうのは皮肉なんだろうか

 

******

 

ハットンは六十六年六組の動白骨達が正純に槍を突き出したのを見た

だがいきなり

 

「・・・!?」

 

本多正純が消えたのだ

その場には正純の代わりに白塗りの矢が刺さっていた

噂に聞く射殺巫女の矢だろう

自分は相手を仕留め損ねたのだ

 

先程の彼女は自身の走狗が負傷したことに、随分とショックを受けていたようだ

戦闘系ではそのような戦闘は甘いが、一人の人間としてその反応はどう評価すべきか

ハットンは考えた

 

「走狗への態度を鑑みて、エロの罪は帳消しぃいい、デェース!」

 

ハットンは動白骨である自分も随分甘くなったと、内心自嘲した

 

******

 

正純は自分が生きていることを自覚した

あのままあそこにいれば自分は串刺しだったはずだが

 

・・・なんで生きてるんだ?

 

生きていることは自覚しても、なんで助かったかが解らない

周囲を見渡す

もう動白骨や動死体がいる雰囲気はない

周囲に危険がないなら後は上か下かだが

その時、正純は自分の手が何か柔らかいものに触れていることに気付く

 

なんだこれ・・・?

 

自分の手を見る

そこには

 

「胸・・・?」

 

自分にはない巨乳が、そこにはあった

そして、手に収まり切れない程の巨乳の持ち主は限られる

 

オパーイカーストの上位から言うと、浅間、喜美、直政、ナイト・・・

 

そこまで思って正純は考えを止めた

酷い現実が待ってるからとか、そういうわけでは、断じてない

そう、自分が最下位にいることが解っているとか、そんなことは決して思っていない

結界に囚われていた自分を救い出せるほど術式に詳しく、なおかつ巨乳の者は

 

・・・浅間か!

 

自分が今どうなって助かったかを理解した

そしてゆっくりと自分がどんな態勢になっているかも理解する

 

自分が浅間の上になっていたのか・・・!

 

急いで飛び起きる

すると浅間も意識を取り戻し

 

「いたたたた、正純、無事ですか?」

「あ、ああ、お前も大丈夫か?」

「ええ、救い出すときに少し前に出すぎたみたいで・・・」

 

ゆっくりと身を起こす浅間

それに対し手を貸す正純だったが

 

「あ、それより走狗です!」

「え、あ」

 

自分の走狗が怪我をしている事を思い出す

度重なる出来事の連続で頭が回らなかった

 

私は飼い主失格だな・・・

 

自分の事で手いっぱいで、走狗の事を失念するなんて

正純が落ち込んでいると浅間は気遣うように

 

「走狗が傷を負った際に出した救難信号のおかげで正純の正確な位置をとらえることが出来たんです」

「感謝しないとな・・・」

「・・・ハードポイント内から出ていないなら手当てできます。ハードポイントの外に出ていたら危ないところでしたよ?・・・外に落ちないようにずっとカバーしてたんですから、飼い主としては充分かと」

 

そう言って走狗の治療を始める

自分が何も出来ないことに、正純はただ内心ですまないと呟き続けた

 

「・・・これからどうする?」

「喜美がナルゼの方に行ってます。アデーレと鈴さん、二代は結界には囚われていないようですし、『副長』である二代がいるなら大丈夫でしょう」

「今回は役職者が狙われたのか?」

「はい、おそらくトーリ君との相対権限を得るために英国がやった事だと思います。囚われていたメンバーの内、ウルキアガ君とナイトは空間から脱したようですので、私たちはミトの方に行きます」

「ミトツダイラの方?」

 

正純が問いかけたとほぼ同時に、走狗の治療を終えた

そしてゆっくり立ち上がり

 

「ミトは騎士として、王としてのトーリ君とホライゾンを護るために二人の方へ行きました」

 

そうか、やはり皆も巻き込まれていたんだな

あのタイミングで救い出されたのは幸いだった

だが

・・・康景はどうしたんだろう

正純は気になって聞いてみた

 

「・・・康景は?」

 

こういう時、あの男は一番動きそうなものだ

浅間たちと一緒に居たんじゃなかったっけ?

しかし、浅間はその問いにはすぐ答えなかった

 

「康景君からの連絡は・・・ありません」

「?」

 

それはどういうことなのだろうか

意図的に連絡をよこさないのか

連絡をよこせない様な状況に陥っているのか

浅間は一瞬だけ心配そうな顔をして

 

「康景君なら大丈夫ですよ・・・私が知る限り先生以外にまともに殴られてるのは、見た事ないです」

 

そう言って立ち上がった

その一瞬の表情の違いに少し違和感を感じる程度だったが

 

・・・何だろう

 

康景の強さなら知っている

武蔵住民ならほとんどの奴が常識として知ってるレベルだ

三河での騒乱や、日々の授業を見てれば、付き合いが短く戦闘スキルの無い正純でも解る

だけど何故だろうか

今まで何回も聞いてきた「康景なら大丈夫」という台詞が、この時ほど不安に感じたことは無かった

 

******

 

ミトツダイラは噴水を中心にウオルシンガムと戦っていた

銀鎖を使って周囲の屋台や噴水の石組を壊し、敵に投げつける

下がりながら投げつけるのに対し、ウオルシンガムは百二十本以上のブレードで粉砕しつつ、家屋を粉々にできるレベルの砲塔を打ち込んでくる

その追いかけっこの様な状況を三周ほどした後、ミトツダイラは動いた

周囲にあった十八ある屋台の内、最後の屋台も投げつけた

ちまちま投げつけていたのには理由がある

敵にこちらの攻撃手段がこの程度だと思わせるためだ

思った通り、最後の屋台を投げつけた直後、敵はこちらに突っ込んできた

だからミトツダイラは石組を砕いて投げつけるのではなく

 

「くらいなさい!」

 

噴水の円形の石組を、そのまま取り外して頭上から叩きつけた

 

******

 

ウオルシンガムは頭上から落ちてくる直径十二メートルの石組を見た

何時の間にそんなことをしていたのか

あれに当たればひとたまりもないが、当たらなければどうという事もない

だから、砲塔を撃った

だが

 

「・・・」

 

一撃では砕けなかった

だから今度は

 

「Go!」

 

砲塔を投擲した

勢いよく投げられた砲塔によって石組が砕け散る

 

******

 

ミトツダイラは敵が砲塔を投げつけたのを見た

ここまでは想定内

ミトツダイラの狙いは、水中に潜ませた銀鎖だ

銀鎖の先端に木片を装備させ、背後からウオルシンガムを突いた

はずだった

 

「!?」

 

ウオルシンガムが、背後の銀鎖を振り向くことも無く掴んだのだ

先程まで相手は頭上を確認していたはずなのだが、どうやって背後からの攻撃を察知したのか

急いで銀鎖を引き戻そうとすると

 

動かない!?

 

銀鎖が何かに引っかかり動かなくなっていた

ウオルシンガムが鎖の部分をブレードで固定していたのだ

力任せに引き抜こうとするが、突如その動きを止めた

その理由は頭上にあった

 

「先程潰した屋台の檸檬!?」

 

嗅覚の鋭い狼は、柑橘類の刺激臭が苦手だ

人狼であるミトツダイラも例外ではなく、普通の人よりかなり優れた嗅覚を持っている

宙から落ちてくる檸檬が、ウオルシンガムのブレードによってその果肉や汁を散らし、降りかかる

普通の人でも嫌いな人は嫌いな刺激臭が、普通の人の万倍はある人狼が一気に嗅いだらどうなるか

 

「ぁぁああああ!」

 

嗅覚が麻痺するよりも拒絶反応によって全身が硬直する

そして果肉や汁と共にブレードが何本も身体に突き刺さる

激痛が全身を襲うのに、身体を思うように動かすことが出来ない

何とか二本の銀鎖を動かそうとする

しかし

 

「銀鎖っ!?」

 

ウオルシンガムが持つすべてのブレードが降り注ぎ、四本中二本の銀鎖を"砕い"た

動けないこちらの手首をウオルシンガムの手が掴む

そして十字剣がこちらめがけて飛んできた

このままでは磔にされる

ミトツダイラはある決断を下した

 

「二本解除!」

 

潰された二本を解除して、新たに二本、高速で追加する

そしてそれを自分の両手に巻き付け、拘束から逃れる

 

「っ!」

 

こちらが拘束から脱したことでウオルシンガムが二本の十字剣を合わせようとする

ならばこちらはその間を通って抜けるだけだ

銀鎖を両腕から自身の身体に巻き付けた

 

見ておくがいいですわ、猟犬!

 

持たざる者(貧乳)のみが出来る、持たざる者(貧乳)にのみ許された、持たざる者(貧乳)の妙技

喜美や浅間には絶対に出来ない回避

ミトツダイラが、未凸平(察して)だからこそ出来る

 

「貧乳回避!」

「flat?」

 

無表情なのにウオルシンガムが憐れみの視線を向けている様に見えた

無視ですわ無視

康景は胸より尻派なのだ

ならば貧乳などは気にしない

 

いや・・・貧乳と言われるのはそれはそれで嫌ですわね

 

そんなことを考えながらミトツダイラは十字剣の間を抜けた

敵の背後に回ったミトツダイラは、勢いをそのままにウオルシンガムに突っ込む

そして地面に押さえつけるようにぶつかったミトツダイラは銀鎖に

 

「銀鎖!私ごとこの人形を抱きしめなさい!」

 

ウオルシンガムごと銀鎖にまかれたミトツダイラは、丁度噴水の深い部分に沈んでいく

酸欠によって意識が遠のいていく中、ミトツダイラは思う

 

・・・これでちゃんとデートしてなかったら怒りますわよ

 

トーリとホライゾンはちゃんとデートをしてるか

皆も勝っているだろうか

自分は騎士としての役目を果たせているだろうか

そんな事が頭を過ぎる

そして

 

騎士として王であるトーリを護るという康景との約束は、反故になっていないだろうか

 

康景との約束を自分の中で繰り返す

多分あの男は、『引き分け』や『負け』で護るのではなく、『勝って』なおかつ『生き延びて』護れという意味で言ったのだろう

今回の勝負は負けてはいない、が

 

勝ったとは言い難いですわね・・・

 

悔しさを感じながらも、ミトツダイラは意識を失った

 

******

 

侍女に引き続きオクスフォード教導院に連れられている康景の意識は、もはやハッキリしていなかった

何か話をされても、相打ちするのが精いっぱいである

康景の右目からの出血が思ったよりひどかったからだ

康景は右目瞼の切創だと思っていたのだが、実際は少し違った

右の頬骨、蝶形骨が一部破損しているのと眼球自体を損傷したのもあったために出血がひどいのだ

よろよろとただ歩くだけになった康景は、失血で虚ろになりつつある意識の中、思った

 

・・・智に殴られるかなぁ

 

いや、ズドンだろう

浅間に「皆を頼む、こっちは気にするな」と通神文を送ってしまった手前、無事じゃ無かったら怒られそうだ

浅間だけではない

事態を察知したら喜美も何をしてくるか解ったものではない

喜美は怖い

結構な重症の筈なのだが康景は怪我よりも、友人たちに怒られないにはどうすればいいか

混濁してはっきりしない思考回路でそんなことを考えていた

 




某型月ゲーム風(オリ)キャラ紹介 ※無視しても可

塚原卜伝(康景師事後)
性別 女性
真名 ???
身長・体重 170㎝ ??kg
属性 中立・善
筋力 A++ 耐久 C+ 敏捷 EX 武装 ? 幸運 D 術式 ?
保有スキル
アル中:EX
アルコールで強くなる。度数が高い程攻撃力・防御力・回避力が上がる
天賦の才:EX
この世全ての武器を自分の手足のように扱うことができ、あらゆる戦闘知識を有する
脳筋:A
物事を何でも力づくで解決したがる。五割くらいの確率で上手くいくのだが、残りの五割で失敗した場合は力づくで黙らせる
干物女:B
武術以外では面倒臭がりで、本人にその気がないのも合わさって家ではほぼ家事は康景任せ。酷い時は康景に身体を洗わせるくらい残念な人
大食い:EX
人より食費が三倍かかる。康景が食事関係で苦労したのはこれのせい

術式:??
康景が師事した後は、康景の前では使用しなかった為詳細不明

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。