境界線上の死神   作:オウル

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不定期になるとか言っておいて、投稿できました
すいません
ですが次は何時投稿できるか・・・


八話 壱

武蔵と英国が余興を始める裏で

 

少年は己の"過去"と相対する

 

配点(再会)

 

――――――――――

 

倉庫でのイベントの中、ネシンバラは隣に座るシェイクスピアに警戒しつつ相手の言葉を待った

だが相手は相変わらず文庫本に目を通している

マイペースだなぁ・・・

自分から話をしようと言い出したくせに、だんまりだ

その時、不意に右手に違和感がした

呪いを掛けられた右手が疼く

血管の中を何かが這い回るようなむず痒さに耐えつつシェイクスピアの言葉を考える

僕はこのままでいい・・・

それはどういう意味か

自分をここに留めおくこと

自分の動きを封じること

・・・足止めか!

となると、自分とは別に呪いをかけた可能性もある

 

「今度は何の劇を始めたんだ?」

「僕たちの相対用の劇さ、喜劇"空騒ぎ"」

 

ネシンバラの問いに、「やっとか」とため息をつく

シェイクスピアは本を閉じながら話し始めた

 

「町の人々を傷つけず、されど君たちを逃がさないようにする試作段階の結界術式・・・一応、今、殆どの"女王の盾符"が動いている」

「何故こんな事を?」

「解らないかい?"女王の盾符"は"武蔵を英国に留めおき、各国に対する最大のカード"とする。それが君たちが英国に来た時に決められた全体会議での決定」

「・・・この祭り自体が罠なのか?」

「交流だよ・・・相対というなのね。それも相対者を倒したらより上位者と相対する権限を得る、というものさ」

 

上位相対者、それはつまり下位の者を倒せば上級の役職者に相対できる権限を得る

 

「・・・誰かを倒してうちの総長との相対権限を得る気か?」

「そちらの総長は生徒会長も兼任している事実上の最高権威者だ。だから相対で上位者に挑む実力があると示さなくてはならない。これから誰かが勝利したら、今英国で遊んでいる武蔵総長を僕の演劇空間に引き込んで相対してもらう事になる」

「・・・そんな事が出来ると思っているのか?」

「どうだろうね」

 

シェイクスピアの反応は、ネシンバラの思っていたものとは違った

 

「僕はそもそも作る方が好きだし、それが結果的に戦闘になれば皆にとって有益になんだろうけど、そのために何かを作るのは僕の流儀じゃない」

「・・・じゃあ、なんで僕に呪いをかけた?」

「君に・・・批評好きの君に批評の味を知ってほしかったんだよ」

 

その言葉に、ネシンバラは反応できなかった

そんなネシンバラを尻目に、シェイクスピアは「さあ」と言って改めて正面を向く

 

「あとは皆次第だ・・・もし武蔵総長にこの事を知らせたら容赦なく演劇空間に引き込むから」

「僕が動かなくても、武蔵にはヤバいのが一人居るけど、そっちはどうするんだい?」

「・・・今回の相対戦で一番の障害はやっぱり彼だよね、だから今回、僕たちは彼をスルーすることにした」

「スルー?」

 

武蔵でも最強戦力に違わない天野康景と本気で相対するとなると、それなりの被害は前提条件で戦わなければならない

対西戦を間近に控える英国からすると、それは避けたいところだろう

だが、あの男相手をフリーな状態にすると、それこそ彼は無理矢理にでも介入する

 

「スルーなんてしたら、彼なら無理矢理にでも相対に介入して掻き回すと思うよ」

「勘違いしないでほしいけど、別に彼を野放しにするって事じゃ無いよ」

「?」

「彼の強さは知ってる。こっちもウォルターが行って無事に済むか解らないしね、そもそも彼、役職者じゃないから・・・演劇空間『には』引き込まない」

 

それはつまり

 

「彼とは演劇空間で相対をしない。だけど邪魔はしないように足止めはする」

「天野君を足止め出来るような人間なんて・・・」

「いるさ」

 

言い切るシェイクスピア

ウォルター・ローリーをもってしても止められない可能性があると解っているなら、武力による足止めではない

何を持って足止めするのか

考えられるのは対話くらいだが、その対話に応じるような相手はいるのか

康景がないがしろにできない相手

応じる可能性があるのは

 

「まさか・・・」

「よくわからないけど、何故だか彼に御執心みたいだからね・・・それにこの祭りの準備期間中、毎日会っていたみたいだし、女王が相手なら死神くんも無下にできないんじゃないかな」

 

******

 

それは突然に訪れた

浅間の身震いにも見える初動に、ミトツダイラは何かが起きたことを悟り、すぐにでも戦闘に入れる態勢を取る

そして浅間が、結界用の玉串を足元に突き刺し

 

「奏上―――!」

 

言葉と共に、円紋下にあった文字列が消えた

この文字列には見覚えがある

シェイクスピアの文字列だ

つまりこれは彼女の何かしらの術式という事になる

浅間の術式が完成されたのなら、そこが安全地帯という事だ

だからそこに足を踏み入れようとして

 

「智、一体何が・・・!」

 

起きているんですの

そう言おうとして、浅間と喜美がミトツダイラの目の前から消えた

 

「!?」

 

二人の消失に、わずかな戸惑いを得る

これはイリュージョンの類ではない

それに消すなら、質量的に負担の小さい私を消した方が楽なは・・・ず

自分でそう思って落ち込んだ

だが実際その方が手間がかからなくていい筈なのだが

不思議に思いナルゼとナイトの方を見る

だが、そこに彼女たちはいなかった

これはどういうことか

個別に消えたという事は、何らかの結界術式で、学生同士の相対用としてそれぞれの舞台に上げられた可能性がある

英国の代表たちと、自分達との相対が始まったのだ

今自分達は危険な状況に置かれている

外交官である鈴ももしかしたら巻き込まれている可能性が高いが、向こうにはアデーレと二代がいる

なら自分が今心配すべきなのはトーリとホライゾンだ

このデートで自分達の方針を決めようとしているのに、相対如何ではそれに邪魔が入る

それに先程康景は

 

「くれぐれも気を付けろよ、不審者がいないとも限らない」

 

そう言っていた

こうなる事を予期していたのだろうか

だがこうなることが解っていたのなら、どうして進んで一人になったのだろうか

疑問は尽きない

しかしこうした事態に康景は気づいているはずだ

彼なら彼で対処するはず

なら自分が今できること

騎士として、王と姫の祭りを大事に過ごさせるためにも

・・・康景との約束を違えないためにも

中等部の頃に康景と交わした約束を思い出し、ミトツダイラは疾走した

 

********

 

四角い石を積んだ廊下を、ぶかぶかの極東制服を着込んだアデーレが歩く

 

「オクスフォード教導院は城そのものですねぇ、こりゃ」

 

武蔵とはまた違った作りを見て、感心というか興味を引いた

だが同時に何かあったのか『諸事情により城塞からの外出を禁じる』と言われ、第一階層から外への通信が切られている

完全に孤立した状態なのだ

この事態に陥ったのは三十分前で、二代が警戒のために中庭に向かった

英国が何か仕掛けてくる可能性があるということだ

しかし、こちらは実はこういった事態をあらかじめ警戒していた

既に鈴の部屋に、アデーレの機動殻を準備してある

非常事態用モードにして、だ

何故この事態に対処できたのか

理由は簡単

 

「(康景さんの忠告のおかげですねー)」

 

何か起こる可能性がある

そう忠告したのは康景だった

康景に会ったのは、準備期間の最終日だ

外交官としての自分たち以外は第一階層にいないはずなのに、康景はそこにいた

何やら"個人的な用"があるとかでオクスフォード教導院に来ていたようだが、詳細を語ってくれなかった

だが短い挨拶を交わした後、自分の手に小さなメモ書きを手渡してきたのだ

内容は

 

「これを読んでいることを、英国の学生に感づかれるな。祭りの期間中、もしかしたら英国側がお前たちに何かしてくる可能性がある。有事に備えていつ戦闘になってもいいように準備はしておけ。必要であれば脱出しろ」

 

と書かれていた

そうして悟られないように準備をしていた矢先、まさか祭りの初日に向こうが動くとは思わなかった

不審に思われないよう、普通の足取りで歩く

自分達にあてがわれた倫敦を望める三階の一角の部屋に辿り着いた

両開きの大扉をノックする

 

「鈴さーん」

「あ、え、と、ちょっ、と待、って」

 

これは符号である

なにか不審を感じた時に外を調査した際、変に突っ立てたりすると周囲に怪しまれるので、部屋に戻る際は鈴の準備待ちという事にしておいた

そしていったん周囲を確認し

・・・あの辺怪しいですね

廊下の曲がり角辺りに、人の気配を感じる

恐らくこのフロアには廊下と、あと屋上にもいる

向こうの戦略としては、廊下側から突入して隙を突いて鈴を確保する

そういう流れだろう

要人を守る役目を担う従士である自分は、そういった課外授業を受けているので対処法は心得ている

そして二度目の確認で

 

「いいですかー」

「う、うん、だ、大丈夫」

 

その合図とともに、アデーレは内部の配置を思い出しながら部屋に入った

南向きの十五畳ほど部屋

東側に寝所、真ん中にテーブルセット、西側に机と自分たちの装備品がある

鈴は英国制服に着替えている

この部屋に盗聴器が仕掛けられている以上、変に警戒して何もしてないと逆に怪しまれるからだ

向こうの対応からするに、こっちが盗聴器に気付いていることに気付いてないない

このまま気付かないでほしいと思う視界の中、鈴は一人で着替えを済ませた

一人でも大丈夫なんですねー・・・

鈴の自分より膨らんでる胸元に嫉妬しつつ、姿見の方に鈴を寄せた

 

「鈴さん、姿見の方来れます?」

「あの、こ、れ」

 

鈴が、腰の対物吊柵型センサー"音鳴りさん"の棒状センサーを一本引き抜いて掲げる

センサーが感知した外界の音を表示枠に展開し、文字化する

内容は隣室に控える英国の突入部隊のものだ

 

『従士、室内入りました』

『Tes.突入準備。隠密進行で扉前で待機、対象を引き付けてから確保だ』

『・・・標的確保は誰が?』

『俺に決まっているだろう』

『隊長・・・男らしいですけど、中年過ぎでそれは犯罪だと思います。しかもアンタ妻子持ちでしょう』

『最近、娘が構ってくれなくてなぁ』

『ここの所訓練続きで家に帰れませんでしたからねぇ・・・』

 

何か興味深い気もするので思わず聞いてしまったが、黙っていると怪しまれるため、話を進める

 

「あ、こっちです。着替え直ししましょうか」

『脱衣ktkr!』

『これが最後の実況になるとは・・・!』

 

これ後で康景さんに見せてこの人たちフルボッコにしましょう、そうしましょう・・・

素でそう思った

 

「じゃあ脱がせますね~」

 

と言いつつも、やっていることは機動殻の準備と、ジャケットを脱がせただけだ

設定を長期閉鎖用にして、環境を水中適用にし外気に影響されないようにする

 

『だ・つ・い!だ・つ・い!』

 

やかましい

そう思いながら、自分の胸横のハードポイントに接続

 

『・・・!?脱衣なのに武装関係の音がします!』

『まさか!?・・・突入!』

 

遅い

英国の突入部隊が部屋に入ってくる頃には、既に機動殻に二人とも入っていた

そしてこちらを見た突入部隊は

 

「着替えてない!?」

「俺たちの純情を返せ!」

 

残念そうな顔をする英国の学生たちに、アデーレは満面の笑みで機動殻を閉めた

 

*******

 

中庭では、二代が極東人と対峙していた

髪を高く結っているのは同じだが、英国の制服を着流している男だ

右肩に大きな、鍔はあるが刃のない刀柄を担っており、それを小さくした本来のサイズの物がいくつも衣服に装備されている

互いの距離は七メートルほどで、今二人が立っている中庭には他に人はいない

 

「極東、武蔵アリアダスト教導院所属副長、本多二代で御座る」

「――――」

 

二代が告げる相手は、無言だった

ただ彼は己の存在を示すように腕章を二代に見えるように掲げる

二代は目を細め

 

「オクスフォード教導院所属"女王の盾符"、『1』、ウォルター・ローリー殿で御座るな」

 

二代はその名前を、知識として知っていた

英国在住の極東人の大半は、六護式仏蘭西に滅ぼされた尼子家の残党という話がある

 

「尼子家には、尼子十勇士というものが存在していたで御座るな?貴殿はその生き残りか?」

「――――」

 

男は答えない

その無言を肯定と捉えた二代は浅く構えた

軸足の右足を軽く踏み、踵を落とし

 

「多くを語らないので御座るな・・・では」

 

その二代の言葉にウォルターは身構えた

 

「―――!」

 

軽く初速を踏んだ二代と、それを迎撃するウォルターが互いの得意な間合いで交叉した

 

******

 

正純はソーホーの自然公園に面した広場で催されている古本市にいた

既に色々周り、袋いっぱいの紙袋を小脇に挟んでいる

今月分の予算はオーバーしているが、英語の勉強になるという言い訳を自分にしつつ、店を回る

かつて康景に聞いたところ、術式や加護無しで普通に英語を話せるらしく、羨ましい限りだ

他に独逸、仏蘭西語は話せるという話だったが、いつそんな勉強をしているのか

・・・多才にも程があるだろう

あれで『鈍感』と『天然』が無ければ完璧じゃないか

そう思った正純だが、同時に

康景から『鈍感』と『天然』を抜いたら別なものになりそうだから、あれはあれでバランスが良いのかもしれない

そこまで思い、少しだけ笑った

正純は買った本に目を通す

葵とホライゾンはちゃんと今後の方針を考えてくれているだろうか・・・

英国とは友好な関係を結んでおきたい

今後の武蔵の方針が決まらなければ、最悪貿易の話だけで英国滞在が終わってしまう

それだけは避けたいところだ

十年越しのデートと言うのも、私的には重要な案件だと思う

正純は付き合いがまだ短いため、公的な立場から物が言えるが、他の連中は少し違う

浅間や喜美、ミトツダイラ達は葵たちのコースを付けていく算段だったらしい

保護者か!

そう言いたくなったが、それだけあの二人が心配なんだろうと思い、口を噤んだ

康景もあちらについていったが、どうやら目的は別にあるらしく途中別行動を取るとのことだ

こういう事ならちゃんと誘っておけばよかったと、内心後悔する

ここ最近康景との絡みが薄いので、心配になった正純はここらでポイントを稼ごうと思っていたのだが、冷静に考えると

・・・何だか私、ミトツダイラみたいになってないか?

武蔵色に染まってきたのか

馴染めてきて嬉しいような、自分が残念になったような、複雑気分になった

その時、不意に

 

「ハイハイ!次はレア中のレア商品!"浅間様が射てる"で有名な作者が描いた"武蔵の死神"の同人誌だよ~!」

「・・・」

 

聞こえてきた言葉に、思わず反応してしまった正純

一瞬買いに行こうか迷ったが、誰か見られたら恥ずかしい

欲と羞恥がせめぎあい、動けなかった

だが迷った挙句、商品だけでも見に行こうと思った時、鐘の音が聞こえた

その大きな鐘の音に、ハードポイント内にいる走狗を気遣う

・・・慣れないなぁ

そう思って歩く速度を落とした時、周囲の異変に気付いた

 

「・・・?」

 

周囲を見渡す

 

あれ・・・?

 

ウェストミンスター寺院には、先程まで多くの人々が列をなしていたのだが、今は何処にもいない

それどこらか、寺院や倉庫の内部からも、声や物音が聞こえない

そして周囲の視線もおかしい事に気付いた正純は携帯社務を出す

こういった事態に詳しそうな浅間や康景と連絡が取れればと思ったのだが

 

「・・・不通?」

 

連絡手段が断たれたのだ

マズい、何かは解らないが、とにかくマズい

どうする・・・!?

そう思った時だ

 

「レッディース!エーン!ジェントルメーン!」

 

テンションの高い声で大扉を開け放って出てきたのは

動白骨!?

長衣の英国制服を着込んだ

 

「"女王の盾符"!ナンバー『3』!大法官、クリストファー!ハットン君デェース!」

 

骨だった

 

******

 

「はて・・・」

 

ウルキアガは今自分が置かれてる状況を考えた

何故か群衆が自分を避けるように囲んで、ただこちらを見ているのだ

その様子にウルキアガは

 

「おい!」

 

そう声を掛けるが群衆は

 

「――――!」

 

歓声を上げるだけだった

その中には見知った顔もある

ノリキ、御広敷、ハッサンだ

彼らも同じ様にこちらに手を振るなり、歓声を上げる

ノリキは無表情のままだが御広敷が

 

「ウッキー!ウキ―!小生の方向いてぇー!」

 

笑顔で飛び跳ねながらウルキアガの名前を呼んでいた

正直気持ち悪いので半殺しで勘弁してやろう、そう思った

これは何かの洗脳か?

それとも何かの術式か?

考えていると不意に横から

 

「うわー!僕の相手は怪獣かあ!きゃあ怖ーい!」

 

その言葉に何事かと振り向くと

印鑑!?

"英国"と漢字で反転彫りされた巨大な印鑑だった

そしてそれを抱える者が

 

「"女王の盾符"ニコラス・ベーコン行きまーす!!」

 

印鑑を振り下ろした

 

******

 

やっすんが言ってた不審者に気を付けろって、この事かな・・・?

ナイトは一人残された通路で、康景の言葉を思い出す

言うならもっとはっきり言って欲しかったものだ

ナイトは通りから聞こえる剣の音や地響きを感じる

恐らく別の場所で相対が行われているんだろう

今自分達がいる場所は重奏しているので直接的なつながりは無い筈

しかし、聞こえてくる戦闘音からして、この術式的な結界は完璧なものじゃない

考えられるのは試作段階の術式だ

そして戦闘音が聞こえてくる理由の一つとして、それぞれが隣接して行われているのだろう

皆大丈夫かなぁ・・・

心の中で呟いた

肩に担っていた長物ケースを開け、箒を出す

ナイトはこうして"黒嬢"を展開できるが、ナルゼは三河戦で"白嬢"を壊してしまったため、現在は魔女服などへの換装は出来ない

それゆえに心配だった

・・・ガッちゃん強がるからなぁ

彼女は、自分がやっていることを足りないと思い込んでしまう節がある

それがプラスに働く時もあれば、マイナスに働く時もある

マイナスに働いているときは他人にきつくなったり、空回りすることが多い

最近のナルゼはどちらかというとマイナスに働いている

その原因は自分にもある

そう思い、ナルゼは肩を落として空を飛んだ

皆無事だといいけど・・・

そう思いながら、ナイトは術式の結界に何か攻撃が出来ないか思案する

しかし

 

「!?」

 

いきなり何かにぶつかった

しかしナイトは落下することは無かった

何故ならぶつかったものは

 

水面・・・!?

 

水面にぶつかり、水の中にいる

重くはないがちゃんとした水圧も感じる

油断した

敵は術式結界の中で戦うとばかり思っていたが

・・・まさか仮想海を持ち込んでくるなんてね

これほどまでに分厚い仮想海を準備する必要があるのは

泳ぐためかな・・・

そう思い、ナルゼは箒を手に取る

するとナイトの声に応えるように

 

「わかりますか!オクスフォード教導院船舶部の訓練用大型即席プールです!」

 

三又の槍を構え、バサロ泳法泳法の男が、こちらに突っ込んでくる

彼は表示枠に人魚の女を映し

 

「船舶部水泳班班長、"女王の盾符"『5-2』ホーキンス!」

「船舶部補佐、『5-3』キャベンディッシュです!」

 

ナイトは身構えた

ガっちゃん・・・!

この様子なら、ナルゼも誰かと戦っているだろう

相性の悪い相手でなければいいが

 

******

 

ナルゼは、通りで二足歩行型の、英国の制服を纏った半狼と向き合う

 

「船舶部、『5-1』、ドレイクだ・・・まぁ、少しよろしくしといてくれや、俺と」

 

それに対してナルゼは不機嫌も隠さず

 

「武蔵第四特務、マルガ・ナルゼよ・・・英国の海の英雄様が一体何の用?」

「あんまりカッカしないでくれ、この状況は正直、双方にとってよくねぇんだ・・・俺の方は特に」

「・・・?・・・変な時間稼ぎはやめてもらえる?こっちはマルゴットを探すために忙s」

 

ナルゼが歩き出そうとすると、ドレイクは、あ、という様な顔をして額に手を置き、ナルゼの右足が不意に滑り、半回転する

地面に転んだが、頭は打っていない

しかし何が起こったのか解らず、ナルゼは呆然とした

 

「今のは・・・!?」

「これだよ、俺の右手」

 

ドレイクが右手を掲げる

銀色の巨大な手甲、それには見覚えがあった

 

「聖譜顕装!?」

「Tes・・・ダッドリーのは左手、俺のは右手、"巨きなる正義・旧代"。その効果は『英国の正義を乱そうとする者は必ず失敗する』だ」

 

面倒な事だ

相手を攻撃しようとすると失敗する

簡潔に言えばそんな感じだろう

こっちの警戒を感じて、ドレイクはため息をつき、歩き出す

 

「どこに?」

「適当に話の出来る場所だよ」

「なんでそんな・・・」

「お宅んとこの"死神"について聞いておきたいことがあってな。まぁ・・・すぐ済むさ」

 

******

 

「どうやら演劇結界に囚われたのは、ミト、正純、ナイト、ナルゼ、ウルキアガ君の五人みたいです。ただ、鈴さん達との通神は途絶されてるみたいです」

 

浅間は表示枠によって自分が張った御祓結界の外の動きを確認していた

二代、ハイディ、シロジロ、トーリ、ホライゾンは結界の外にいる

 

「どうやらミトが自然区画の方に向かったみたいです。恐らくトーリ君たちの方に向かったんだと思います―――私たちも行きましょう、喜美」

 

祓い用の玉串を複製し、喜美に手渡す

喜美はそれを自分の胸の谷間に刺した

・・・どこにしまってるんですか

突っ込むのも面倒だったのでスルー

 

「役職者の多くが舞台に上げられています。トーリ君とホライゾンも狙われるでしょう」

「・・・康景は?」

「それが・・・康景君との連絡が全く取れないんです」

「・・・そう」

 

喜美が心配そうに俯いた

 

「康景君たちが心配なのもわかります。ですが今は皆を信じましょう」

「・・・そうね」

「皆のフォローをしましょう、代表戦で無事に済むとは思えません・・・すべての心配を祓う準備は、私たちで行いましょう、喜美」

 

皆の元に走り出す浅間と喜美

だが浅間は、喜美に黙っていることがあった

実は先程康景から通神文で連絡が来たのだ

内容は

 

『皆と、喜美を頼む、こっちは気にするな』

 

と、短く書かれた文だった

・・・絶対何かありましたね、これ

こういう時は基本何かあるのだ

さっきから通神に応じないのはそういう事である

喜美に言おうかと迷ったが、それは恐らく康景の望むところではない

喜美に心配を掛けたらどんな目に遭うか解っているからだ

そういうところホント狡いですよね、康景君・・・

康景は人に強要されたりしない限り、誰かに悩み事を相談したりはしない

だが実は、特例というか、『二回』だけ康景に相談されたことがある

そのいずれの相談も、相談の前に"皆には話すな、特にあの二人には絶対にだ"というお願いもされた

康景が言う"二人"とは、喜美とトーリだ

あの二人をどれだけ大事に思ってるかが伺える

 

「ホント、狡いです・・・」

 

それをわざわざ浅間に相談するのは、内容が内容なだけに他に相談しようがないから仕方がないとはいえ、浅間は少し複雑だった

それだけ私を信頼してくれてるんでしょうか・・・

自分なら皆に話さないと、解っていて康景は相談してきたのだ

今回の件も、喜美に心配を掛けたくなくて自分にあの通信文を送ってきた

その意味を考え、浅間は唇を噛んだ

 

・・・これで無事じゃなかったら、後でズドンしますからね・・・!

 

浅間は皆の元に走った

 

******

 

始まったか・・・

康景は、町の変化を悟った

雰囲気が今までと違うものになっている

これは恐らくシェイクスピアの術式や何かだろう

だが、結界云々なら、その辺は浅間が優秀だ

だから彼女に任せれば万事上手くいくだろう

そう思い、康景は事前に彼女に通神文を送ったのだ

『皆と、喜美を頼む、こっちは気にするな』と

だが正直な話で言うと、康景が武蔵で怖い物を上げるならオリオトライ・喜美・浅間だ

あとで何をされるか分かったものではないが、浅間なら皆に話さない、その確信があった

故に、康景は今、相対戦をしている

だが、その相手は康景が想定した相手ではなかった

 

「いやはや、まったく久しぶりだねぇ!お兄ちゃん!十三年ぶりかな?相変わらずイケメンだけど不愛想だねぇえ♪」

「全く、本来ならエリザベス辺りが最初に来ると思ってたんだがな・・・!」

 

想定していた相手はエリザベスだった

何故なら、康景が英国相手で斬れない相手はエリザベスか、メアリしかいないからだ

それは個人的な件と、武蔵の今後を含んだ二つの意味でどうしても斬れない

それを理解しているからこそ、康景は相対戦の相手にエリザベスが来ると思い込んでいた

だが、結果は違った

 

「まさかここで妹の登場とは・・・想定外だったよ」

「お兄ちゃんに予想外の事なんてあるの?なんかその反応、嘘っぽいよ?ホントは気づいてたんでしょ?私が会いに来るの・・・」

 

康景が今現在相手をしているのは

欠落した記憶

無意識の中の心残り

エリザベスとの数日間の対話の中で思い出した記憶の断片

そしてかつての相棒であり、妹である"アヴァリス"その人だった

 




相対戦とアルマダ海戦でいったいどれだけ話数を使う事やら・・・
それでも『構わん、続けろ』、という方はお付き合いください

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