境界線上の死神   作:オウル

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花粉が辛い今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか
私はかなり鼻詰まりが酷いです
目も痛いです
とにかく寝づらいです


七話

二か国間の学園祭

 

誰も彼もがお祭り騒ぎ

 

祭りに浮かれて

 

誰も彼もが足元を見ない

 

配点(余興の始まり)

 

―――――――――

 

康景は、エリザベスの後について行き、オクスフォード教導院に入った

通された部屋で女王と向かい合う

今この部屋には、自分と妖精女王しかいない

いくらなんでもこの状況は異常ではないだろうか

そう思う康景

女王が招いた客とはいえ、流石に護衛や侍女も付けないのは国のトップとしては如何なものか

相手の無警戒に警戒する

しかし相手はというと

 

「この度は貴方とこうして話が出来る事をとても嬉しく思う」

 

屈託のない笑みで、そう告げた

何か裏があるのか、それとも本心か

 

「妖精女王、今回こうしてお招きいただいた事に、深く感謝申し上げますg」

「敬語はよしてくれ、今さら私たちとの関係にそんなものは不要だろう?」

「・・・」

 

一体どんな仲だったんだ・・・

 

相手が「どうした?」みたいな顔をしてこちらを見てくるので開き直り

 

「・・・ならば率直に言うが、俺はアンタと会った記憶が無い」

「・・・っ」

 

エリザベスが顔を歪め、一瞬だけ悲しそうな表情で俯く

しかしすぐに視線をこちらに戻し

 

「そうか・・・やはり記憶を・・・」

「・・・アンタは俺の何を知っている?」

「解った・・・ではまず主観的な・・・私の記憶にある貴方の話をしようか・・・」

 

*******

 

私と貴方が初めて出会ったのは十三年前の事だ

まだ私と姉が五歳の頃、貴方と、彼女に出会った

丁度今頃の時期だったと思う。貴方と彼女は、学者の様な男に連れられて、英国にまでやってきた

父であるヘンリー八世が、その男とどんな会話をしたのかまでは知らないが、その後でその男は帰り、貴方と彼女だけが残された

それから一ヵ月の間、貴方と彼女は、私たち姉妹の側役として仕える事になった

立場や出自上、友達と言える存在がいなかった我々姉妹にとって、貴方たちは数少ない本当の意味での友人であったよ

あの一か月間は本当に楽しかった

私たち姉妹にとっては貴方達二人は兄と姉の様な存在だったさ

 

*******

 

そこまでエリザベスが話した所で、康景は疑問を投げかける

 

「待ってくれ・・・貴方と"彼女"?」

「そこまで忘れているのか・・・"彼女"とは、貴方の妹の事だ」

「妹・・・」

「その当時は貴方は『ツォルン』、彼女は『アヴァリス』と名乗っていたな」

 

・・・『ツォルン』に『アヴァリス』?

それは名前なのだろうか

その単語に、康景は個人を示すための名というより、暗号名か何かを連想した

『ツォルン』は確か独逸弁で"憤怒"

『アヴァリス』なら仏蘭西弁で"強欲"

・・・ん?

何か頭に引っかかるものがある

かつてこれの意味を、誰かに教えてもらった気がする

憤怒に強欲という単語に、何故か大罪武装が浮かんだ

・・・いや、まさか・・・偶然だろう

何か思い出せそうで思い出せないもどかしさが、心の中を這い回る

だが脳裏に、三人の女の子の姿が浮かんだ

しかし、そこまでしか思い出せない

康景は頭を振って

 

「・・・すまない、続けてくれ」

「・・・解った」

 

エリザベスは話を続ける

 

*******

 

貴方達は、私たちの世話や護衛以外にも、父の護衛やオクスフォード教導院の警備等も担っていたようだ

一度だけ血塗れで貴方が立っているのを見かけて、怖くて大泣きしたことがあった

その後になって必死になった貴方があやしてくれたのはいい思い出・・・何?話が脱線してる?・・・しょうがない、話を戻そう

どのような刺客であっても、貴方と彼女はまさしく無双だった

向かうところ敵無しといったところかな

どうやら貴方達二人の優秀さは群を抜いていたようでな

父がよく貴方達を褒めていたよ

あの一か月間は本当に楽しかった

アヴァリスは良く笑う、優しい人だった

貴方の方は不愛想だったが、面倒見の良い人だった

・・・不愛想なのは今も同じの様だなw

あ、いや、冗談だ、そんな顔をしないでくれ

・・・ごっほん

だが、そんな日常もすぐ終わりを迎えたよ

一ヵ月程経った頃、貴方達は最初に貴方達を連れてきた学者風の男に呼び戻されたとかで、急に英国を去ってしまったのだ

寂しかったが、貴方達は去り際に

 

「きっとすぐ会えるさ」

 

そう言って去っていった

私たち姉妹はその言葉を信じて待ったが、結局は十三年後の今日まで会う事は無かったな・・・

ここまでが、私が語れる、貴方との記憶を簡潔にしたものだ

 

*******

 

そこまでを聞いて、康景は頭を悩ませた

まさか、英国でそんな事をしていたとはな・・・

ここまでのエリザベスの話でも未だに思い出せない事もある

"妹"とその学者風の男の事だ

なんで思い出せない?

心に焦りが生まれる

その様子を察してか、エリザベスが話を進める

 

「・・・まだ話の続きがある」

「・・・」

「これから話すのは、私の記憶ではない、資料や当時の状況に基づいた私の推測だ」

 

*******

 

三河での戦争の後、貴方の名は世界に知れ渡った

私はその映像を見て貴方ではないかという予感がしてな

父の残した資料を漁ったよ

思ったより資料が少なくて困ったものだったが、幾つか見つかった

まず、貴方達二人が何故英国に来たのか

資料によれば・・・父は、貴方達二人を高い値で買う予定だったらしい

この様な事はあまり言いたくないが・・・

貴方達が一ヵ月の間この国に居たのは、試用期間だったようだ

私もこれを見た時はショックだった

そして一ヵ月が経った頃、貴方達の試用期間が終わった後、貴方達は一度あの学者風の男の元に戻り、本格的な商談に入るはずだった

だが、何かあったのか、不自然にも貴方達との連絡が取れなくなり、商談も自然解消することになった

それが貴方達と会う事が無かったことの理由の一つだと考えられる

それからこれから話すことは同時期に起こったとされる出来事でな

恐らく自分達より上の世代の人間は知ってる者も多いだろうが、一応話しておく

六護式仏蘭西とM.H.R.R.国境付近にあったとされる、襲名者となり得る人材を育て、売買する組織

当時の聖連が調べたが、その様な痕跡も何も無かったと発表した

だが、気になる点がある

恐らく貴方も察してると思うが、この話と件の学者風の男が英国に現れたのは同時期だ

貴方達を売ろうとしていた男と、人身売買をする組織

これらは本当に無関係か?

 

*******

 

エリザベスの言わんとしてることを、康景は理解した

 

「つまり・・・俺はその世間を賑わせた組織に関係していると?」

「・・・」

 

エリザベスは答えない

しかし康景はそれを"エリザベスの回答"として受け取った

・・・まさか自分がそんなものに関係してる可能性があるとはな

何だか自分が思っていたものより規模が大きく、釈然としない気持ちだった

また、自分たちの名前が大罪に関した名前だというのも気にかかかる

なんか今年は忙しいなぁ・・・

考えることが多すぎる

向こうの話も一区切りついたようなので、こちらも質疑に入る事にした

 

「・・・さっきから年上を相手にするような態度だが、理由はあるのか?」

「・・・?・・・貴方は年上だろう?」

「・・・何?」

 

・・・俺が年上?

理解が追いつかない

冷や汗が止まらず、気分も悪くなってきた

松平元信・・・アンタ一体何を隠していた?

 

「・・・年上、というと具体的にはどのくらい離れている?」

「貴方の反応がおかしいとは思ったが、まさかそこも忘れているとは・・・年齢は、資料によると四つは離れている」

「つまり、俺の実年齢は二十二歳・・・という事か」

 

ここに来て衝撃の事実だな・・・

極東の軍事や政治の年齢の限界は十八

つまりこれが露見すれば自分はもう政治や軍事に関われなくなる可能性が出てくる

 

「この事を知っているのは?」

「私と・・・後は"アヴァリス"くらいだろう」

「この事を、武蔵との交渉に利用しようとは考えなかったのか?」

「・・・私は、貴方をダシに武蔵より優位に立とうだなんて思わんよ」

「・・・」

 

有難いが、そこまで信頼してくれるのは何故なのか

エリザベスとって自分たちと過ごした日々が、俺にとって師匠たちと過ごした日々と同じくらい大事なものなんだろう

そう思った

・・・俺たちと過ごした日々?

不意に、脳裏に幼少のエリザベスの姿が浮かんだ

エリザベスだけではない

同じ容姿の金髪の幼女が二人

恐らくメアリだ

全てではないが、断片的に記憶がよみがえる

 

・・・なんで忘れてたんだろうか?

 

軽く頭痛がする

血の気が引いていく感覚に椅子から落ちそうになる

 

「・・・大丈夫か?」

「ああ・・・」

 

メアリとエリザベス

王妃キャサリンが子供を産めず、アン・ブーリンが産んだ双子

それがこの二人だ

だがそこである事実に気付く

 

待てよ・・・メアリ?

 

メアリは今、重要な局面に立っている

アルマダ海戦の理由は、三征西班牙と英国の戦争の火種である

・・・フェリペ二世の妻、メアリ・ステュアートの処刑!

彼女は今どこに?

 

「エリザベス・・・」

「・・・何だ?」

「メアリを・・・どうするんだ?」

 

エリザベスはその問に黙った

こちらもその反応の意味を考える

考えたくなかった、最悪の選択

 

「メアリは・・・姉は・・・選んだよ」

「まさか・・・」

「ああ、英国のために"処刑"される道を・・・だ」

 

そう告げられた言葉に、思わず立ち上がる

何か言おうとして、言葉を噤んだ

今一番辛いのは、エリザベスのはず

思い出してきた断片的な記憶からすれば、エリザベスは若干シスコン気味だった

そんな女が、進んで姉を歴史再現のために犠牲にすることは望まないはずだ

エリザベスの反応から察するに、解釈では済まないのだろう

ならばそんな事を選んだのはメアリか・・・

それに対し、言葉が出ないでいると不意に扉の方から声がした

 

「女王陛下・・・そろそろ・・・」

 

この声は聞き覚えがある

ダッドリーの声だ

どうやら急ぎで公務があるらしい

エリザベスが「解った」と、ただ一言だけ言って席を立つ

 

「すまない・・・まだ話す事があったのだが・・・私はこれで失礼する」

「・・・待て、エリザベス」

 

康景の言葉に、エリザベスは立ち止まる

 

「どうした?」

「・・・明日も、ここに来ていいか?昔の話を、詳しく聞きたい」

「も、もちろんいいとも」

 

思わぬ申し出にエリザベスの顔が緩む

だがそれに対して康景は真面目な顔を崩さず

 

「それと、メアリの事も話し合っておきたい」

 

*******

 

それから数日の準備期間を通し、祭りは本格的に始まりを迎えた

祭りの音が煉瓦の町並みに反響して、人々が盛り上がりを見せる

多くの人が行き交う中、その人々の視線の先に居たのは武蔵の総長連合と、その中に一人混じる白いコートを着た男だった

彼女たちの行く先は、人々が自然と人の波が割れていく

だがそれは避けられているのではなく、興味や驚きを含んだものだ

そして英国の人々が、彼らの姿を視界に捉えるために一歩引いて

 

「・・・武蔵の総長連合や生徒会・・・そして"死神"か・・・」

「三河戦で見た時より迫力あるな」

「Tes・・・そうだな」

「俺、あの先頭の露出度高い女の子好みだけど、お前は?」

「俺は・・・あの銀髪の貧乳かな・・・ってそうじゃないだろ」

「じゃあなんの話だよ」

「"死神"の方だよ・・・」

 

前の方で極東の連中を見ていた男二人が、相手になるかもしれない相手の体格などを見ていた

着飾った女性陣はもとより、その背後に控える男にも注意を払った

もし英国が武蔵と相対した時、やはり一番注意しないとならないのはこの男だ

 

「三河戦では西国無双の立花宗茂やその嫁の立花誾を相手にして無傷らしいな」

「しかも頭もキレるって話だろ?・・・本当に人間かよ」

 

そんなのはなるべく相手にしたくない

一般学生からすれば尚更だ

だが片方の男が不意に

 

「・・・なんか祭りの準備期間中、ウチの女王陛下と毎日会ってたっていう噂があるけど・・・ホントかな?」

「ああ、俺も聞いたぜ、その噂・・・」

「英国に勧誘でもしてるのかな?」

「さぁな・・・ただ聞くところによると、どうやら"女王の盾符"にすらあんまり死神の話はしないらしい」

「・・・もしかして女王の愛人だったりして」

「・・・」

「・・・」

 

二人が顔を見合わせた

連日オクスフォード教導院に通っていた康景に関する噂は、英国にも広がっていた

その密会の内容がどうであったかは別として、あることないことが英国の市民や学生たちの間には広まっているのである

 

*******

 

武蔵の女性陣達を誘おうとする者が、時折人の群れの中から出てくる

多くは英国高等部の学生だがそれ以上の中年程の男性もいる

だが彼らは女性陣を誘おうとして近づきはするが、誘えなかった

理由は

 

「・・・」

 

康景だ

無言で腕を組んで女性陣の背後に立っている康景の威圧感に負け、誘えずに去っていく

それを見た浅間が苦笑して

 

「なんだか康景君、ボディガードみたいですね」

「別にそんなのやってるつもりはないんだが」

 

伏し目がちに呟く康景は

 

「ちょっと行きたい店の方向にお前らが行くから、偶然一緒になっただけだ」

「康景アンタなんかツンデレっぽいわよ・・・同人誌n」

「同人誌にしたら拳骨二発な」

「・・・」

 

ナルゼが残念そうな表情で俯く

それを無視して康景は

 

「俺がいるくらいで誘うの止めるなら最初からしてんじゃねえって話だよ、全く」

「い、いや、康景君を気にしないでナンパできるような男の人もそうそういないと思いますけど・・・」

「ハッ・・・そんな軟な男共にウチの娘たちはやれんな・・・」

「・・・やっすんはナイちゃん達の父親ポジなの?」

 

康景が無い髭をいじくる演技をする

そんな康景を尻目に、浅間は聞いてみた

 

「そう言えば康景君、準備期間の昼間は姿が見えませんでしたけど、何かやってたんですか?」

「ん?えーっと、まぁ、妖精女王のとこに・・・」

「え?」

 

何か、ものすごい事を聞いたような?

自分達の預かり知らないところでとんでもない国際交流が進んでいたことに開いた口が塞がらなかった

 

「やっすんって知らないうちにとんでもないことしてる時あるよね?」

「まさか妖精女王の攻略も開始してたなんて、流石ね。アンタ絶対前世はエロゲの主人公よ、もしくはエロ同人の主人公」

「やかましい」

「痛っ!な、殴ったわね!?」

「お前は俺をエロに絡めないと気が済まないのか?」

「Exactry!」

「・・・嫁に行けない身体にしてやんぞコラ」

「ひィ!康景に犯されるゥ!」

「大声で変な事を叫ぶんじゃあない!」

 

馬鹿な話を続けている最中、先頭を行く喜美に、また一人男が近寄ってきた

だがそれは今までの同年代や年上ではなく、子供だ

少年は一瞬康景を見て怯えた様な表情を見せたが

康景はそれを見ても特にリアクションもせず、ただ欠伸をして明後日の方向を向いた

 

「やっすんって子供には優しいよね」

「子供相手に睨みつけるなんて大人げない事しねぇよ・・・ただ単に子供が苦手なだけだ」

「そうなの?」

「前に正純の代理で初等部の授業しに行ったら大泣きされてな・・・それ以来ちょっとしたトラウマで」

「やっすんェ・・・」

 

康景が自分を見逃したことに、少年はそれに少しだけ安堵し、しかし顔を真っ赤にして

 

「・・・」

 

何かを言おうとしても唇が震えるだけで、何も言えなかった

だが、彼は言葉の代わりに、右肘を突き出す

それは傍から見ると、『この腕をとってくれ』と言っている様に見える

言葉よりも行動で示した少年に、周囲は軽く笑いを生んだ

その周囲の反応にますます顔を真っ赤にする少年だったが、それに対して喜美は

 

「―――っと」

 

自分の髪を結っていたリボンを外し、腕に結び付けた

そして肘を軽くたたく。それは皆の所に戻れという意味でもあるが少年は喜美の顔を見た

それに対し喜美も頷き、少年はその手を上げ、群衆の中に帰っていく

それを眺める喜美はため息をつき

 

「・・・私も安く見られたものね、誘いに来る前に康景を見て退散するような軽い気持ちでしか寄ってこないんですもの」

「だったらあの子は?」

「腕を無言で突き出して、一緒に来いって感じよね。他の男共とは違う、冗談抜きで"俺でいいか応えてくれ"だものね」

「あのリボンを与えたのは何故です?」

「あの子の態度はよし、だけどあの子にはまだまだ足りてないものが多いでしょう?そんな子を満足させる気は無いの、なにせあの子は将来別の花を摘む可能性だってあるんだから」

 

これも喜美なりの気遣いなんだろうと、浅間はそう思った

そして康景が背後から呆れるように呟く

 

「"高嶺の花"を相手に、軽い気持ちでナンパなんて、英国紳士もたかが知れてるな」

「・・・じゃあ康景君だったらどんな風にナンパするんですか?」

「え?俺?・・・そうだなぁ・・・俺なら」

 

康景が何かを考え込む

それを見た浅間は

・・・何かマズい気がする

そう思わずにはいられなかった

浅間に言われた康景は喜美の横に立ち

 

「なによ?」

「喜美・・・」

 

喜美の手を取り、跪いて

 

「愛しています」

「はひ?」

「結婚してください」

 

思わず喜美が素っ頓狂な声を上げた

周囲の空気が、いったん固まる

どんな風にナンパするのか、そう聞いたはずなのだが、これではただのプロポーズだ

しかも無駄にイケボ(笑)・・・

聞いた自分も、それを興味津々に聞いていたミトツダイラも、同人誌のネタにしようとしていたナルゼも、面白半分に聞いていたナイトも、顔を引きつらせた

ミトツダイラに至っては顔が真っ青だ

 

「俺なら、これくらいやるぞ?やっぱりナンパって言っても本気でやらなきゃ相手に失礼だろ」

「康景君、聞いておいて何ですけど、それただのプロポーズです」

「え、プロポーズ?ナンパじゃないのかこれ・・・」

 

天然を通り越してただの馬鹿ですね・・・

浅間は目頭を押さえて呆れた

 

「・・・私思うんですけど、康景君は絶対にナンパはしない方がいいですよ、というかやっちゃダメです」

「んー・・・了解」

 

何か納得していない様子だが、浅間の忠告を受け入れた康景は再び歩き始めた

その後姿を見ながら浅間は

・・・康景君は絶対ナンパの言葉の意味を間違えてますね

これ以上被害者が出ないように、康景には色々注意していく方がいい

浅間が知ってる範囲だと、被害者は喜美(本人確認済み)、ミトツダイラ(確認するまでもない)、直政(多分)、正純、二代(微妙なライン、未確認)先生(可能性あり)

ハーレム系主人公ではないはずなので、これ以上増えるとは思わないが、念には念を入れて注意した方がいいだろう

鈍感で天然とは始末が悪い

浅間は内心大きなため息をついた

ああいう幼馴染を持つと苦労しますね・・・

喜美を見る

喜美は顔を真っ赤にして乙女みたいな反応をしている

 

「///」

 

そしてミトツダイラはというと

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

顔を真っ青にして壊れた人形みたいによくわからないことを呟いている

康景の天然は、色んな意味で破壊力抜群だ

 

「ナイちゃんやっすんの事好きだけど、ああいうのは治した方がいいと思うなぁ」

「そうねマルゴット、私も嫌いではないけれど、あれは治した方がいいと思うわ」

「あの鈍感さえなければまともな・・・あれ、そうでもないような・・・?」

「「・・・」」

 

"康景はヤバい奴"という認識を改めた一同だった

そんな女性陣の会話も知らず、康景はいつもの不愛想で

 

「・・・俺ここで別れるけど、くれぐれも気を付けろよ?不審者がいないとも限らないんだから」

「あれ、康景君どこか行くんですか?」

「さっきも言ったけど、買いたいものがあるから、そっちの店に買いに行くだけだ」

 

そう言って振り向きもせず、ただ手を上げて町並みに消えていった

その後姿を見送った浅間は

 

「なんかここ数日、康景君一人で考え込んでる事多かったですよね」

「アンタ何気に康景の事よく見てるわね」

「まぁ初等部以前から一緒でしたからね・・・家族みたいなものですし」

 

ここ数日、康景は"悩む"というより何かを"考え"ているようだった

聞いてみても「ちょっと考え事を・・・」や「ちょっと考えをまとめたいから一人にしてくれ」などとはぐらかされるだけだった

ただ、前みたいに何かに重く悩んで苦しんでるという雰囲気は無かった

 

「男には一人で考えたいときもあるんでしょ?だったらほっといてあげなさいよ」

 

喜美が先程の康景の言葉でニヤニヤしながら、それを隠すこともなく歩き出す

不意に歩き出した喜美について行くように、皆も歩き出す

 

「喜美は何か知ってるんですか?」

「何も・・・ただ、答えが出ないなら私はそれを待つだけよ」

 

相変わらずニヤニヤしながら先頭を行く喜美

これ絶対何か知ってますね・・・

喜美と康景の間に何か通じ合ってる共通認識があるのは確かだ

だがそれが何なのかは、浅間には解らなかった

その時

 

「・・・!?」

 

不意に頭上に影が来た

朱色の航空艦

それが外交艦であることを示すように所属国のロゴマークがある

 

「三征西班牙、アルカラデナンタラの船じゃないですか!」

「アルカラ・デ・エナレスですわ・・・戦争を控えてるとはいえ、完全に国交を断ったわけではありません。恐らくこの祭りの最中か、終わりごろに、大使を通して宣戦布告をするつもりなんでしょう」

 

それはつまり

 

「この祭りの最中、もしくは最後に、メアリ・スチュアートの処刑が最終決定されるという事です」

 

******

 

康景は人の行き交う道を、上空を飛ぶ三征西班牙の船を見ながら歩いた

 

「(やっぱり来たか・・・)」

 

つまり、アルマダがすぐそこまで迫っていることを示している

その船を見て康景はここ数日でエリザベスに話した自分の考えを思い出す

・・・メアリを救う方法は考えてある

あとはそれを、あの空気忍者が自発的にやるかが問題だ

自分が見た所、点蔵はアレに惚れている

惚れてないにしろ、気にはなっているはずだ

そしてアレの方も、まんざらではないはず

何しろ一緒に風呂まで入ったらしいからな・・・

彼女も、助けられるなら惚れた男の方がいいだろう

仮に、点蔵がやらないとしても、最終的には自分がやる

しかし

・・・今まであの姉妹を忘れていた俺が、今になってあの二人を救うなんて、虫が良すぎるだろうか

エリザベスとの数日間の対話で思い出したこともあれば、思い出せないこともある

それでも、歴史再現でメアリが死ぬことが、康景には許せなかった

エリザベスがメアリの死を望んでいるわけではない

だがエリザベスはその立ち場ゆえに、国民の事を考えなければならない

つまり、聖連との付き合いだ

そしてメアリは、エリザベスと容姿が似ている。似ているというよりは"ほぼ"一緒だ

故にメアリは表には出ず、顔を隠してその歴史再現を全うする

メアリの正体に皆が気づくのは、処刑の時だろう

・・・それはあまりにも報われない

それが康景にとって歴史再現の嫌いなところだ

反吐が出そうなほどに、この世界の歴史再現への絶対性が疑わしく思える時がある

誰かの死まで忠実に再現する理由がどこにある・・・

師匠の事もあるが、それ以前から歴史再現は嫌いだった

前の師匠との約束が無ければ、『天野康景』の襲名なんてそもそも考えなかったほどに

一体なぜ歴史再現にそこまで自分たちの運命を強制されなければならないのか

歴史再現を絶対とする聖連の考えは、いつから根付いていたのか

末世と歴史再現はもしかしたら何かつながりがあるのか

康景は頭を悩ませ、顔を険しくしながら目的の店まで歩いた

 

*******

 

倫敦の方で鐘が鳴るのを、試作中の麦畑の中で"傷有り"は聞いた

人の目には見えない精霊たちの動きが、"傷有り"には解る

精霊達が気にするのは地脈の流れ

そして精霊達が見ているのは町の方

つまり

・・・術式や武装の使い手が町に出ているという事ですね

それが何を意味するのか

・・・解っています

"傷有り"は目を細め、点蔵を見た

 

「随分贅沢な時を過ごせましたね・・・」

「は?」

「あ、いえ、なんでもありません」

 

話を逸らすように"傷有り"は

 

「・・・第二階層の方、気になりますか?」

「―――何か妙に感じるで御座るよ」

「何がです?」

「町のざわめきに喜びだけでなく、驚きや戸惑いの色も感じるで御座る」

 

そう言って町の方を気にする点蔵に、"傷有り"は聞いてみた

 

「なら点蔵様、上層に行ってみませんか?」

 

********

 

第二階層

ソーホーに設けられた祭りの広場、そこにある倉庫を利用して行われている同人誌即売会に、ネシンバラはいた

買う方ではなく、売る側である

しかし、ネシンバラの出展者用のスペースには列が無い

大漁旗も立てて待っているが、客はこちらをスルーして隣の列に並ぶ

初めの頃は憤りもしたがもはやこの状況にも慣れてしまい、半目で行き交う人々を眺める

時折知り合いも通るが、こちらに挨拶するだけで行ってしまう

 

「はぁ」

 

思わず溜息をついてしまう

客も来ない状況が暇でしょうがないネシンバラは、目を閉じて周囲の声に耳を傾けた

だがどの会話も

 

・巨乳と貧乳、どちらの需要が大きいか

・尻派は少数派なのか

・オパーイカーストの最上位と最下位の大きさはどれほど違うのか

・鈍感な男を落とすにはどうすべきか

 

等と、武蔵も英国も会話内容に大差ないと思った

ただ時間が過ぎるのを待った

だが、不意に自分の前に人の気配があることに気付く

・・・やっと客か

そう思ったが、目の前に立っていたのは

 

「やあ」

「トマス・シェイクスピア・・・!」

 

思わぬ人物の登場に、軽く驚く

英国の有名人の登場に、周囲の列の人々も驚いているようだ

相手の出方を伺うネシンバラに

 

「隣、空いてる?」

「え、ちょっ」

「空いてるよね」

 

自分の隣、誰も座っていない椅子に座る

何しに来た、そう問おうとするも彼女は文庫本を読み始めた

・・・ホント何しに来たんだ!

新手の嫌がらせにネシンバラは辟易した

話しかけようとして

 

「こっち向かないでくれる?」

「(。-`ω-)」

 

向こうもこちらを向いていないので、余計に腹立たしい

 

「そう、それでいい、どうせ君は僕の"第二悲劇"で動けないんだから」

 

その言葉に、妙な引っかかりを得た

 

「それでいい、というのはどういうことだ?」

「これから色々な事が起きるけど、君は動かなくていい・・・そういう事」

 

そして文庫から目を離さずに言った

 

「―――話をしようか」

 

 




今後の投稿ですが、諸事情というかリアルの方の事情と言いますか、色々あって投稿は不定期になると思います
あと特別篇ですが、話が手詰まりで完成しておらず、多分かなり先になるかと・・・
申し訳ございません

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