境界線上の死神   作:オウル

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前編後編にするつもりがまさかの中編
何もかも忍者が(ry


六話 中編

これからの事

 

今までの事

 

重要なのは・・・

 

配点(方針)

 

――――――――――

 

夜の砂浜で、久しぶりの砂浜の感触を確かめながら正純は対英に向けた会議を始めた

 

「英国住民もいるが、聞いてもらった方が相互理解も深まるだろうし、このまま進める。オーゲザヴァラー、英国の各国との関係は商業的に見てどうだ?」

「英国はM.H.R.R.の改派領邦や阿蘭陀との貿易が主ね、P.A.Odaから派遣された羽柴はどちらかというと旧派寄りだから、英国と織田の本陣は率先して付き合っては無いみたい」

 

M.H.R.R.旧派は現在三十年戦争を利用して改派の抑制にかかっている

つまり、英国はM.H.R.R.改派よりも阿蘭陀との貿易が主流になっているはず

阿蘭陀は三征西班牙と八十年戦争の最中で、規模もあまり大きくないことから

 

「英国にとって貿易相手としての武蔵の価値が上がる訳か・・・」

「jud.明後日からの十二日間、肉を含めた貿易も頑張らないとね」

 

英国にとっての武蔵の重要性を確認したところで、正純は今回の会議の本筋に入る

 

「次が肝心な所だが、今後の武蔵の方針について、世界にどうして行くのかを改めて話し合う必要があると思う。葵、お前の考えを聞きたい」

 

皆が馬鹿を見た

 

*****

 

馬鹿が全裸でスクワットしてるのを皆無視しながら、全裸の答えを待つ

しかし、声を発したのは全裸ではなく康景だった

 

「・・・俺も一応、その話についてお前の考えを聞いておきたかった」

 

康景は袖をまくって、傍らには頭上に大きなたんこぶを作って頭を押さえて泣いているナルゼがいた

殴られたんですね・・・

自業自得だから何とも言えないが

浅間はナルゼがナイトに泣きつくのを見た

 

「ふぇえ、マルゴットぉ・・・私もうお嫁に行けないよぉ、汚されちゃったよぉ・・・」

「誤解を招くような言い方すんな、張り倒すぞ」

「う~ん、たんこぶについてはナイちゃん自業自得だと思うから何とも言えないけど、ガっちゃんはナイちゃんがお嫁にするから大丈夫だよ~」

 

そういう問題なのか、と皆思った

ナイトの胸に顔を埋めてニヤニヤしている魔女は平常運転だと思って皆がスルーする

康景は腕を組み顔を伏せながら

 

「俺たちは大罪武装の回収を目的に末世の解決を望んだ。各国は武蔵に対して末世の解決をさせることは了承するかもしれない・・・だが、末世解決後の武蔵の疲弊を前提にしたものだ。世界は平和を望むだろう、自国の利益を大前提にしてな」

 

全員が息を飲む

 

「各国の思惑が渦巻く中、英国への対応は今後に影響が出る。そんな中、武蔵のトップであるお前の考えが重要になる・・・お前はどうしたいんだ?」

 

康景の声が冷たく、冷徹に聞こえる

康景が誰かに試すような問いを投げかける時、彼は声のトーンを落とす

悪い癖だが、同時にわかりやすい癖だと浅間は思う

今の問いかけは、本来なら正純の役割だ

重大な案件である以上、総長兼生徒会長のトーリに聞くことは当然の事である

しかし同時に

・・・世界征服宣言はトーリ君が最初に発したことですよね

それゆえに、少し聞きづらいことかもしれない

だからこそ康景が聞きたかったのだろう

その問に対しトーリは

 

「・・・そうだなぁ」

 

珍しく悩んだ様子のトーリに

 

「なんだ、珍しく悩んでるじゃないか」

「うっせぇな!珍しくは余計だよ!」

「・・・考えがまとまらないのか?」

 

トーリがクネクネしながら康景に話し始める

 

「・・・俺、頭悪いからさ、何が悪いかとか何が正しいとか、ハッキリ口に出して言えねえんだわ」

「・・・お前の頭の悪さは皆知ってるぞ?」

「馬鹿さ加減ならお前ぇも同レベルだろうが!・・・でも、俺にとって何が間違って、何が正しいのか、そこはずらさないで行きたいんだよ」

「そっか・・・」

 

康景が小さく、そして薄くだが、確かに笑った

・・・康景君が笑ったの久しぶりに見ましたね

昔から声を上げて笑ったのは見たことは無いが、昔は確かに小さかろうが笑うときは笑っていた

ホライゾンとお師匠さんが亡くなってから笑う事なんて絶対なかったですしね・・・

三河での一件で、康景なりに折り合いをつけたのか態度が幾分か緩和したように感じられたが、それでも未だに大声で笑ったのを見たことは無い

今笑ったのは、トーリの想いを察したからなのだろう

すぐに答えにできなくとも、ちゃんと考えてると、そう理解した康景は

 

「英国との会議までには、ハッキリ答えを出さなくとも。方向性は決めておけよ」

「大丈夫大丈夫!それまでには何とかすっからさ」

「本当か?」

「ほ、本当だって!・・・ちなみに俺がそれまでに決められなかったらどうすんの?」

 

それに答えたのは正純だった

 

「・・・その時は、副会長として私が全責任を持って決める」

 

全責任という言葉の重みに、皆が固くなる

 

「だが、出来るだけそれは避けたい・・・だからある程度決めてもらえると有難い」

「・・・うーん」

 

トーリは考え込んだ

トーリ君も色々思うところがあるんですね・・・

浅間は事態を見守った

 

*******

 

トーリは考えて悩み、だが不意に手をたたき

 

「だったら、学園祭で俺とデートしようぜ!ホライゾン!」

 

そう言った

皆が首を傾げる中、喜美は康景に五穀チャーハンをよそいながら

 

「愚弟、計画はちゃんと練ってるんでしょうね?マニュアルに頼らず押さえるべきところは押さえるのがデートの基本よ!間違っても空気悪くなりそうな失地王体験ツアーとか行っちゃ駄目よ?行くなら私は絶対行かないロンドン処刑ツアー・・・ってホライゾン恐怖感じないんだったかしら?くぁ~、賢姉ナイスミス!」

「それ結局答え出てなくね?あとそれトーリに言ってるんだよな?俺の方見て言うからなんか俺に向かって言ってるように聞こえっ肩パン痛い!お前の肩パン地味に痛い!」

 

鈍感は無視してミトツダイラは聞いた

 

「どうして今さら、ホライゾンとデートですの?」

「よくわかんない事が多いからだよ」

 

一息ついてホライゾンに向き直り

 

「俺さ、いろんな過程をすっ飛ばしていきなり告白しちまっただろ?だから学園祭を通して色々話してみてぇんだよ」

「話というと、何を?」

 

ホライゾンが首を傾げる

それに対し長考して

 

「俺は・・・俺が元で失わせちまったもんを取り返そうって思ってんだけどさ、ホライゾンはどう思ってんのかなって」

「率直に申しまして、現状、ホライゾンには感情は不要だと感じています」

 

その言葉に、康景が少し眉をひそめるのを、ミトツダイラは見逃さなかった

その言葉はトーリがしてきたことや、康景の覚悟が無駄になってしまうかもしれない

どうすればいいか解らないが、思わず身構えてしまう

だが視界の中、ホライゾンに対するトーリは、生きている

皆が安堵した

 

「まぁ普通そうだろうなぁ・・・感情とか、そういうの面倒だもんな・・・」

 

ホライゾンが感情を欲しないことは、予想は付いていた

何しろ互いに平行線なのだから

ホライゾンの判断の前提には、自動人形としての無駄のない最適な判断が伴う

その判断に対し、疑問の言葉を掛けたのは康景だった

 

「・・・その理由を聞いても?」

「jud.単純に申しまして、ホライゾンは一年間、それ無しで過ごしました。不都合は無かったと判断できます」

 

その言葉に、トーリは顔を上げ空を見上げながら

 

「だよなぁ・・・でもさ、俺はホライゾンが居なくても、昔から取り戻すって決めててな・・・俺がやっちまったんだから、俺がやんねえと駄目だろ?現物弁償みたいなもんでさ」

 

この男は妙に責任感が強いと、ミトツダイラは思った

皆も同じことを思ったのか、似たようなリアクションをしている

 

「俺は元々、大罪武装集める計画立ててさ、それを全部集めて、オメエに見立てて供養しようってそういう計画立ててたんだわ」

「・・・」

 

康景はその事を知らなかったらしく、驚いた様子だった

しかし、それはそれで受け入れたようで、特段騒ぎ立てることもしなかった

だが

 

「では、元々トーリ様が為されることに対し、ホライゾンは不要だったわけですね?・・・その場所に、ホライゾンを呼び込んで感情奪還の理由づけにするのはやめてください」

 

ホライゾンが俯き、言葉を生む

 

「なぜなら、皆様が傷ついたり争うのが、"ホライゾンが居たから"になります」

「そんなことねえよ」

「別にホライゾンなどいなくてもよいではありませんか・・・別に皆様と共にいなくとも・・・」

 

そう言ったホライゾンの頬に、涙が伝う

ホライゾンは『悲嘆の怠惰』を得たことで、悲しみを知った

悲しみの感情が、あるのだ

 

「ホライゾンは―――いらないのは、いらないです」

 

皆が、ホライゾンの言葉と涙を見た

自動人形が下す最善の判断が、本人の意思と同一とは限らない

自分はいらない方が最善だと判断しても、自分がいなくなった事にされ、いらないとされるのは誰だって哀しい

ホライゾンが泣きながら俯いているのを皆が心配する中、最初にアクションを起こしたのは全裸でも他の皆でもなかった

 

「・・・ホライゾン」

 

康景だった

康景はホライゾンを後ろからそっと抱きしめる

 

「お前は・・・ホライゾンは・・・いらない存在なんかじゃないよ」

「・・・康景、様」

 

背後から抱きしめる康景に、ホライゾンは少し驚いた顔をする

その様子を見ていた一同も、思わぬ出来事に目を見開く

 

「お前の代替なんて、この世界のどこにもあるわけないだろ」

「ですが・・・」

「トーリが言いたかったのは、そういう事じゃないんだよ」

 

康景はホライゾンを抱きしめる力を少し強めた

 

「お前はもう、皆にとってそこに"いる"存在なんだ。俺にとっても、トーリにとってもな・・・もしお前が感情に興味を持って取り戻したいって思えるなら、俺はそれを全力でサポートするし、興味が持てないんだったら、そこの馬鹿全裸と乳繰り合ってりゃいいさ」

「・・・」

「もし、お前が感情に興味を持ったら、そん時はそん時で、俺たちで元信公の・・・いや、クソ親父の思惑通り、世界の一つや二つ、末世から救ってやろうぜ」

 

ホライゾンを宥めるように言う康景は

 

「大体、お前は俺に残された唯一の家族だ。そのお前の代わりがあるなんて言う奴は俺が切り捨ててやんよ」

「・・・康景様が言うと、洒落になりませんね」

 

この男が言うと、本当に洒落では済まされないので怖い

そしてホライゾンと向かい合うように態勢を直し

 

「だから、俺が言いたいことは・・・今ここで感情はいらないって決めつけるより、そこの全裸とデートしてから決めたって遅くはないんじゃないかってことだ」

 

康景が、今までに見たことのないような優しい微笑みで、ホライゾンに言った

そして、小さく頷くホライゾン

それに対しトーリがホライゾンに近寄り、指でホライゾンの涙を拭う

 

「なんかヤスに良いとこ持ってかれちまったけど、俺が言いたいのは、そんな感じでデートしてお前が感情持てるか試そうぜってこと。世界征服とか、そういうのは俺が考える事なんだから、お前は平行線上で別の楽しい事考えろよ」

「・・・人形を外に持ち出すつもりですか?」

「違うさ・・・手を取って、外に連れて行くんだよ、ホライゾン」

 

馬鹿全裸が、ホライゾンの手を取った

 

*******

 

馬鹿二人がホライゾンを説得する様子を見て、皆が安堵の吐息を内心に生んだ

 

「デートと言っても、具体的にはどうしますの?服とか、コースとか」

「服はネイトが見繕ってくれるとして・・・」

「さり気なく私も巻き込まれてるんですのね・・・」

「デートコースはヤスに・・・いや、ヤスはダメだ論外、そこは姉ちゃんとか浅間に」

「お前さぁ、これでも俺デート経験あるんだぞ」

「だってお前姉ちゃんと別れてからホントそういうの疎くなったじゃん。加えて武蔵でも一、二を争う鈍感なお前に繊細な女の子が喜びそうなデートコース考えろなんて・・・ねぇ(笑)」

「なんだその嘲るような笑いは・・・」

 

実際鈍感なので、誰も否定できないし、しない

そして正純が話し合いが一段落したのを見て

 

「jud・・・武蔵の動静を逢い引きで決めるのもどうかと思うが、極東継承者も同意してるんだから、試すのもありだろう。では今後の方針はデートに預けるとして、この会議終了する」

 

しかし不意に輸送艦の方から走ってきた人影があった

アデーレがその対応に走り、内容を聞く

そして一通り話終えたアデーレが気まずそうな顔で皆に向き直る

 

「どうしたアデーレ」

「それが・・・なんか悲嘆の怠惰がどっかいったらしいですよ」

「「はい?」」

「ああ、そういえば、昼に起きた時もベッドの下にありませんでしたね」

「そういう事はもっと早く言おうな、ホライゾン」

「jud.そうですね。ホライゾン、うっかりしてました」

「全くこのうっかり姉は」

「「ハハハハハ」」

「おーい、姉弟揃って現実逃避するなー」

 

ホライゾンと康景が笑みのない作り笑いするのを注意し、正純はそれぞれに確認する

 

「それじゃ各自、片づけの後交代で入浴、着替えを取りに戻った際に艦内をくまなく探せよー」

「「jud.」」

 

片づけと風呂に入る用意とで、それぞれが行動を起こす中、康景は一人酒瓶を抱いて眠りこけている担任に近寄った

 

「先生?こんなとこで寝てたら風邪ひきますよ?寝るならせめて輸送艦の方でお願いします」

「えー、めんどくさいなぁ、おぶって」

「自分で歩いてください」

「おぶってくんなきゃヤダ」

 

康景は青筋を立てながらイラついていた

それでもちゃんと自分の師の面倒は見ようとする

その様子を見ていた正純は

・・・アイツってホント面倒見いいよな

先程のホライゾンへの対応や、先生への対応、ミトツダイラへの肉等を見て、正純は康景の面倒見の良さを実感し、心底そう思った

 

「ほら、行きますよ」

「うぇい」

「酒臭ぇです」

「おんなのこにくさいとは、しつれいなでしめ」

「女の子?・・・痛い先生殴んないでください、なんで泥酔してるくせに年齢ネタに敏感なんですか」

 

師をおぶって輸送艦に歩いていく康景

なんだか微笑ましく見えてしまうその姿に、正純は思わず少し笑ってしまった

 

*******

 

"傷有り"は、湯船の中で、内装の不備が無いか確認しながら先程の天野康景が呟いた言葉を思い出していた

彼はこちらが"花園"と口にした時、確かに反応し、そして「エリザベス」と「メアリ」の名を口にした

あの呟きによって"傷有り"の疑念は確信へと変わりつつある

だが同時に

・・・あの様子だと武蔵以前の事は完璧に覚えていないようですね

いったい彼に何があったのか

そして今日の朝方、英国と武蔵の商談において、ジョンソンを通して妖精女王が彼に何か伝えたようだが

・・・自分はもう、あまり上層部とは関わりが薄いですからね

妹が彼に対してどう思っているのか、今では解らない

ただ、自分よりも彼女の方が彼への思い入れは強かったはずだ

もしかしたら、彼との接触を求めてすでに・・・

そう思った時、脱衣場の方が騒がしくなった

 

「あれ、点蔵君、まだ入ってなかったんですか?」

「あ、いや、自分は外の方の確認をして来たばかりで・・・」

「なら、なんでそこで正座してるんですか?」

「それは、そのぉ・・・」

「浅間、察しなさいよ・・・こいつは他国の人と一緒に風呂入るのにビビって一人でエロい妄想してるようなチキンよ?」

「「・・・」」

「な、何で御座るかその沈黙!違うで御座るよ!」

 

自分が浴場の中を、そして点蔵が外の確認をして、点蔵の方が早く終わったため点蔵が気を遣って脱衣場から指示してくれていたのだが

・・・このままでは疑われてしまいますね

女性である身を隠している自分に気を遣っている点蔵のためにも、"傷有り"は

 

「点蔵様、こちら大丈夫です・・・お入りください」

 

意を決して、あらぬ疑いを掛けられている点蔵を救うべく、風呂に誘った

 

*******

 

点蔵は浴場で緊張していた

理由は簡単だ

自分の隣に裸の"傷有り"がいるからだ

点蔵は自分の腰に巻いたタオルの下がすごい事になってしまっているため、バレないようにするので精一杯だった

なるべく"傷有り"を見ないように、されど傷つけないように極力虚空を見る

元々は"傷有り"に内部の確認をさせ、点蔵は外部の確認を行っていたが自分の方が早く終わってしまったため脱衣場で待機していたのだが、女衆に見つかり早く入れと急かされ、今に至る

点蔵は内心経文を唱えて自分の自分(意味深)を落ち着かせようとする

 

「点蔵様はお風呂でも帽子とスカーフを取らないのですね」

「に、忍者で御座る故・・・」

 

単調な答えになってしまった

こちらが"傷有り"を見ない事を察したのか、"傷有り"は茶化さず、ただ自嘲するように

 

「ありがとうございます、点蔵様・・・しかし、傷ばかりのこの身、見ても面白いものでもありませんよ?」

「そんなことは・・・無いで御座る」

 

"傷有り"の傷を見て、点蔵が推察できることは

 

「"傷有り"殿の傷は、身体の前面にしかついておられないで御座る・・・それは、ただの一度も背を向けず、逃げずに相手と相対して付けた傷だとお見受けするで御座る」

「―――」

「・・・その傷を卑下するのは、貴女と相対した者たちと、貴女自身を貶めるもので御座るよ」

 

点蔵は、"傷有り"の傷を見て、康景の身体にある『傷』を思い出した

あの『傷』をただの傷というのは憚られるほどにひどい傷だが、本人はその傷が何時付けたものか記憶にないらしい

記憶にないせいか、その傷への関心は薄いように感じられる

しかし、今の康景にとっては身体の傷よりも、心の傷の方が大きいはずだと、点蔵は思う

家族を、師を、そして自ら多くの命を奪った事に対する心への負担

本人は否定するだろうが、それでもあの男はそれを抱えて生きていくだろう

 

改めて点蔵はこの"傷有り"という人物を見て、真面目な御仁だと思う

それでいて康景とはやはり似ている部分もあり、似ていない部分も多いとも思う

康景は自分の傷を必要悪だと思う一方で、"傷有り"は自分の傷を誇りに思っている

 

点蔵の言葉に"傷有り"はいったん息を整えてから苦笑いして

 

「・・・ですが、この傷は私が望んで付けたようなものですよ?死んでも良いと思って・・・」

「ならば、その傷を自らに付けている貴女は・・・」

「まだ、生きて何かを為せと?」

「いや、御自分が満足されるようにするのが良いかと・・・ただ」

「?」

「自分が思うに、もう充分であると見え申す」

 

点蔵はここまで言って、"傷有り"が息を飲むのを感じた

自分が、知った様な口を利いてはいけない

そう思いながらも、言わずにはいられなかった

"傷有り"には、康景のように苦しんで欲しくないと、そう願って

 

「なぜなら、これ以上、貴女に傷は不要で御座るよ・・・身の正面に付けた傷を誇りとするならば、そこに新たな傷をつけるのは、皆の誇りを傷つけるだけかと」

 

だから

 

「僭越ながら、もはや充分であると、自分は思うで御座るよ」

 

点蔵が"傷有り"の素性を推察するに、その字名などから恐らく指導者的な立場に身を置いていた人間だろう

何故、第四階層の守護者をしているのかはわからないが

・・・いい人で御座るな

こういう御仁にこそ、誰でもいい、味方がてくれればいいで御座るな

そう思った時、横の"傷有り"が不意に涙を零した

その涙に、思わず狼狽えてしまう

 

「あ、いや、自分何かよくないことを・・・」

 

点蔵の言葉に、ただ顔を手で覆い、首を横に振る

そして点蔵の視界には顔を抑えるための両腕が"傷有り"の巨乳を挟み、首を横に振るのと同時に揺れるのが見えた(不可抗力)

これ以上はマズい

そう思い、点蔵は

 

「・・・自分先に出るで御座る。自分が外の連中の足止めをするで御座るから、その内に着替えを」

「な、何だか随分と厳重なんですね」

「あの連中も少しは・・・」

 

貴女のようで御座ったら

そう言おうとして、口を噤んだ

こうして連中と比較してしまうのはこの御仁を意識してしまってるからなんだろうなと、点蔵は自覚した

 

*******

 

点蔵が湯船から上がろうとしたとき、"傷有り"は湯に浮かぶ木材を見た

ゴミか何かかと思ったが、こちらに流れてきたそれを手に取る

・・・輸送艦の外壁材?

恐らく、地殻に落ちて湯と一緒に上がってきたのだろう

この様なものが落ちていては、自分たちの不始末という事になってしまう

そう思いながら指が外壁材の表面に触れた

だが

 

「!?」

 

表面に触れた指に、鋭い痛みが走った

何故、痛みが?

 

「どうしたで御座るか?」

 

声を掛けられるが、こちらに気を遣ってか振り向くことはしない

木材が浮いていたことを伝えようとして、"傷有り"は気づいた

これはまさか・・・!

不可解に思っていた事が、ようやくわかった

この外壁に使われていたのは、反発型の対術式加工だ

自分の持つ流体制御の能力に反発するという事は、輸送艦が落下した時に自分が船に術式を放っていた場合、反発した術式が子供達にも及んでいただろう

"傷有り"は湯の中にいるのに、寒気を感じた

 

「・・・」

 

点蔵がこちらに飛び込んで術式を阻止した理由にも納得がいく

無知な自分が早計に走って子供たちを気づ付ける恥をかく前に止めてくれた

そして未だに自分が不注意だったと嘘をつき、こちらの無知を咎めずにいるのだ

 

「あの・・・!」

 

"傷有り"が点蔵に声を掛けようとしたとき、点蔵の右肩甲骨あたりに、深く抉られたような傷があるのを見た

その傷の意味する事、それは

・・・こちらを庇った時に作ったもの・・・!

彼は、"傷有り"を精神的にも、肉体的にも守ってくれたのだ

"傷有り"は反射的に点蔵に近寄り

 

「点蔵様・・・」

 

彼の背中に身を寄せた

 

******

 

点蔵は、不意に背中に当たった感触に

 

オパァァアアアアアアアアアアアアアイ!!!!????

 

混乱した

そしてその混乱した頭の中では、今までやってきた金髪巨乳系のエロゲが走馬燈のように駆け巡った

だが

 

「点蔵様?」

 

不意に名前を呼ばれた

ここは冷静に、クールに行くで御座るよ・・・!

 

「にゃんで御座るか?」

 

噛んだ

普段からラッキースケベを前にして冷静でいられる康景を参考に、クールに行こうと思ったが、失敗

死にたいほど恥ずかしい思いをしたが、"傷有り"は

 

「背中の傷・・・これは?」

 

事実を言えば、恐縮されてしまう

そう思った点蔵はとっさに

 

「喋る犬に襲われたで御座るよ?」

 

嘘を言った

流石に嘘過ぎる気もしたが、"傷有り"はただ小さく笑って

 

「治療してもよろしいでしょうか?」

 

その申し出に、点蔵は"傷有り"の術式能力を思った

彼女ほどの使い手であれば、自分の怪我などすぐに消えてしまうだろう

しかし、同時に

・・・"傷有り"殿を守った証も消えてしまうので御座るな

自分にとっては名誉の負傷でも、彼女にとっては負担でしかない

そう思った点蔵は

 

「お、お願い出来るで御座るか?」

「jud・・・」

 

彼女の手が、自分の脇を周り、完全に密着状態になった

 

「動かないでくださいね?術が逸れてしまいますので・・・」

 

言われた言葉よりも早く、点蔵は既に己の中で高速経文を唱えていた

 

 




後編は短くなる可能性が・・・

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