境界線上の死神   作:オウル

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今回、おふざけ過多です



六話 前編

焼き肉で大事な事

 

皆騒いで忘れがちだけど

 

マナーは大事

 

配点(肉肉肉野菜肉野菜肉酒)

 

――――――

 

夜、遠浅の海を持つ砂浜と、低い丘の集落に面した浜辺は、明かりに照らされていた

砂を掘った竈の上に鉄板を乗せ、それを囲むように集まった極東と第四階層の地元住民たち

その目的は地元住民との交流会という名目の『焼き肉会』である

 

「では武蔵アリアダスト教導院生徒会会計、シロジロ・べルトーニが明後日からの春期学園祭の成功と、武蔵と英国の今後の友好と(建前)、私の『金』と『私腹』の繁栄のために(本音)、乾杯!」

「「全然有難みねぇよ!」」

 

そして一番端の方では

 

「他人の金で焼き肉開始ぃいいいい!」

「先生、お願いですから自重してくださいお願いしまままままま」

 

皆が無言でジョッキをぶつけて焼き肉を開始する中、既に顔を赤くしたオリオトライだけが、左手にジョッキ、右手で弟子にアイアンクローしながらハイテンションだった

 

*******

 

正純は一番端の方でアイアンクローくらって死にかけてる康景と、絡み酒のオリオトライを見ながら

あっちに座らなくて正解だったなぁ・・・

つくづくそう思う

最初は先程のジョンソンとの会話について聞こうと思い、康景たちの席に座ろうとしたのだがミトツダイラはおろか喜美もそちらに座ろうとしなかったので警戒して別の席に座った

そしたら案の定、康景が酔ったオリオトライに絡まれて地獄を見ている

状況をより正確に言うなら、酔っ払いの介護である

 

「ほれほれ~、大事な大事なお師匠様の尻よ?アンタ尻好きっしょ?興奮する?」

「否定はしませんし、しますけど・・・それ以上に先生酒臭いです」

「あ、牛カルビとって」

「この態勢だと先生が自分で取った方が早い気もしますが」

「え~・・・そんなに食べさせてもらいたいの?」

「言ってねーよ」

「ほら、あーん」

「先生?今先生が肉を押し付けてるのは口じゃないです。それ眼鏡です」

「え?もう一口?しょうがない弟子だなぁ・・・」

「耳鼻科行けや」

 

康景の胡坐の上に座るオリオトライを見る

もはや康景の眼鏡が油でギトギトになってしまっているが、先生は高笑いを続けながら肉と酒を頬張る

見ようによっては羨ましく見えなくもないが康景が虐げられている様にしかしか見えないので同情の念しか感じ得なかった

 

「あっちに座らなくてよかったな・・・」

「全くですわ・・・酔っ払いの介護というのも大変ですわね」

 

今正純が座っている席には丘側に正純、ミトツダイラ、浜側にナイトとナルゼがいる

何気なく座った様に見えるこの布陣も、今にして思えば意味があるものだ

正純は政治系の役職者だ

もしもの諜報や攻撃を警戒してのものだ

自分もそういった立場の人間なんだと自覚を得る

 

だが正純は思う

どうしたもんかなぁ・・・

正純はあまり肉は食べない

家庭料理中心で、肉を食べる時は大体鶏肉だ

故にタレと、皿、箸、そして米の入った茶碗だけという状況にどうも慣れなかった

向こうの席で、二代が鉄板の三分のニを『拙者の陣地』と言い張り搾取している

二週間ぶりの肉だというのに、二代にほぼすべてを搾取されて泣く男衆

それとは対照的に野菜を盛っていくミトツダイラ

・・・うん、やはり野菜も大事だよな

そう思って自分も野菜を食べよう、そう思って箸を鉄板に伸ばすが

 

「あれ?」

「さぁ、野菜は全部食べてしまったので後はお肉だけですのよ」

 

正に狼・・・!

 

「おま・・・私まだ食ってないんだが」

「あら、明日の朝とか大丈夫ですの?」

 

誰のせいだ・・・!

 

「あ、セージュンこの卓結構食うから気を付けた方が良いよ?ガっちゃんもナイちゃんも有翼系は消費カロリー二倍だから、食べるし、ミトっつぁんなんか・・・」

「おーいこれ、ネイト用だって、ヤスから」

「康景が?」

 

全裸がホライゾンと共に山盛りになった肉を持ってきた

あれが個人用?

盛られた量を見て、個人用には到底思えなかった

 

「二週間お疲れ様だってさ」

「ま、まさかあの男がそんな気を回せるようになるなんて・・・!」

「明日はきっと台風だよガっちゃん!」

「そこまで言わなくても」

 

皆で康景を見る

康景はまだ先生に絡まれてた

酔っ払いがエスカレートして先生の呂律も回っていない様だ

 

「わたしはねぇ・・・けっこんできないんじゃないのよ・・・しないのよ」

「はいはいjud.jud.」

「だいたい、ここにすいじ・せんたく・すいじ・すいじ・すいじがかんぺきなおとこがいるから、ほかにおとこなんていらねっての」

「そっすねー」

「いっそのこと、あんたがもらってくれたらくなんだけどなー」

「jud.jud.そっすねー・・・あ、ご飯粒ついてますよ」

「ひっく・・・あんがと」

 

もはや酔っ払いの愚痴を聞き流すだけになった康景

なんか担任がすごい事を言った気がするが、酔っ払いの戯言だと思って皆も聞き流す

 

「でもどうして康景が・・・?」

「なんか『愚痴聞いてもらったお礼』とか言ってたけど」

「・・・律儀な男ですわね」

「お、やっすんがフラグを立てた・・・悪い予感が」

「・・・不吉な事言わないでくださいます?」

 

愚痴を聞いてもらったお礼

そう聞いたミトツダイラの頬が緩む

ナルゼがその顔を速筆で描きながら

「いいねぇ!その表情!"馬鹿二人"の番外で使える!」

等と言いながらニヤニヤしていたが、コイツは同人誌の件で康景に文句を言われたのを忘れたのだろうか

 

「ミトツダイラはそんなに肉好きなのか?」

「獣人の性質ですの」

「ほほう、ミトツダイラ様は肉食系ですか」

「ホライゾン?その言い方だと別の意味に聞こえてしまうんですが・・・」

「そうだぜホライゾン、ネイトは肉食は肉食でもな・・・一番の獲物は狙い切れてないんだぜw」

「「wwwwww」」

「や、やかましいですのよ!?」

「否定はしないんだね、ミトっつぁんw」

 

顔を真っ赤にして俯くミトツダイラ

 

「ちょっと解説するなら、狼は基本肉食べて栄養取るけど、ここ二週間肉とは無縁の生活だったから・・・」

 

ナイトの解説に、正純は納得した

つまり二週間、肉とは関係のない生活だったから消耗も大きかったはずだ

康景もちゃんと周囲の事見てるんだなぁ(鈍感だけど)・・・

ホライゾンが不意に何かを思いついたように手を打って

 

「・・・ならホライゾン、ミトツダイラ様の慰労としてアイデアを思いつきました。少々お待ちを」

 

トーリを連れて康景と酔っ払い(担任)の卓に向かった

何かを話し合う様子のトーリと康景

先生が何かごねっている様だが、何とか対処できたようだ

そして今度は三人で戻ってくる

ホライゾンが考えついた慰労とは

 

「ミトツダイラ様、お待たせしました・・・慰労役として適任を連れてまいりました」

「「適任過ぎるwwww」」

 

康景だった

康景はどうやらあの酔っ払いの介護から解放されればなんでもよかったようで、事態をあまり理解していない

 

「俺は何したらいいの?」

「康景様、これを」

 

ホライゾンが康景に皿と箸を渡す

 

「ささ、やっちゃってください」

「・・・?」

「ああ、そういう事か、先生の次はこっちね・・・」

 

呟く康景は鉄板で肉を焼き始め

 

「ほら、ネイト」

「へ?」

「肉が冷めるだろ、早くしろよ」

「え?・・・え?」

 

これは・・・まさか!

正純は戦慄した

康景が行おうとしている行為は、『あーん』だ

ちょっとそれはされてみたい気もするが、公衆の面前でやるのは気が引ける

というより恥ずかしいから嫌だ

そしてミトツダイラも同じことを同じことを思っていたのか

 

「いや、え、でも・・・///」

「なんだよ、いらないなら俺が食べるぞ?酔っ払いの相手で何も食ってないんだよ」

「あ、ほ、欲しいです・・・けど///」

「ミトツダイラ様?ここまで来たらも『あーん』してもらった方が楽になりますよ?(煽り)」

「そうだぜネイト!ヤスの『あーん』なんて一生に一度あるか無いかなんだぞ!?(適当)」

「ミトっつぁん・・・いい加減にしないとやっすんも焼き肉構えて待機するの大変なんだろうからさ(煽り)」

「ミトツダイラ・・・アンタと康景の同人を描くことを確約してあげるからはよ(期待)」

 

諸所から煽りや期待に満ちた声が上がり

それに困ったミトツダイラがプルプルしながら顔を真っ赤にして半泣き状態になった

 

「ミトツダイラ!」

「ミトツダイラ!」

「ミトツダイラ!」

「未凸平!」

「ミトツダイラ!」

「・・・・・・・///」

 

・・・イジメじゃないだろうか

 

そして諦めて『あーん』してもらったミトツダイラを見て正純は

自分が標的じゃなくてよかったなぁ・・・

残念のような、惜しいような、複雑な気分だった

 

******

 

極東の皆様は仲が良いですね・・・

点蔵の隣、極東勢のやり取りを見ていた"傷有り"は思った

そして視線の中央、天野康景を見て

・・・彼はもしかしたら・・・

"傷有り"の中にあった康景への疑問が、段々と確信に近づいていく

しかし、どうしても彼女の中にあった一つの矛盾が、彼への接触を妨げる

自分の記憶にある彼と、今の彼との情報が一致しない

不確定要素があるなら、下手に介入しない方が良いかもしれない

"傷有り"はそう判断して、今回の接触は見送った

 

「点蔵、ビール!」

「jud!」

 

康景の事についてどうすべきか思案していた自分の脇で、点蔵が周囲の要求などに答えるのを見た

・・・よく働かれる方ですね

"傷有り"は、点蔵の心遣いや問題解決力に脱帽する

温泉についての知識や、泉の睡蓮の世話など、色々と驚かされることが多い

 

そして一通り周囲の雑用を終えて、ようやく隣に座った

 

「ようやく食事にありつけるで御座るなぁ」

 

********

 

点蔵は"傷有り"に対して皆から隠すように座った

なるべく自分がフォローしようと思っていたが、危険な連中がそれぞれ徘徊を始めたので、ひとまずは安心だ

そして点蔵を気遣ってか、"傷有り"が焼いた肉や野菜を順次勧めてくれる

それに甘えつつ、点蔵は"傷有り"の箸が進んでいないのを見た

 

「・・・どうしたで御座るか?箸が進んでいないでようで御座るが・・・」

「いえ、その・・・そのスカーフでいったいどうやって食べているのですか?」

「・・・忍術で御座るよ?」

 

点蔵は、そのような事考えたことも無かった

逆にスカーフ無しでどうやって食べるのか?と聞きたくなるぐらい子供の頃からやっている

しかし、それが相手にとって疑問なら、ちゃんと答えを返すのが礼儀だろう

点蔵は再び答えを考えてから

 

「忍術に御座る」

 

正純の様な滑りキャラになってしまったな、と後悔したが、"傷有り"は何も疑問思うことなく頷いてくれた

その"傷有り"を見て点蔵は

真面目な方なので御座る・・・

先程の温泉づくりでも、基盤となる土いじりでも率先して行ったりできる人で、最初の頃の険しい感じも、警戒と真面目さがあったからだろう

そう思う

しかし

 

「・・・真面目な方なのですね」

「?」

 

相手に対して思った事を、自分に対して言われた

 

「でも大変ではありませんか?色々な人の話を聞いて動いて・・・」

「・・・自分はそういうのが性に合ってるので御座るよ」

 

確かに、周囲の外道連中は度し難い時もある

しかし

 

「自分がこうして使いッ走りの様な事をしているのは、いわば皆の隙間を埋めているわけで御座るが、逆に考えれば自分が一番色々な事に関わっていられるで御座る」

「・・・」

「皆がやっていない事、皆がやろうとしない事、皆が出来ないことを助けるだけで、色々美味しいところだけ摘まんで楽しめるで御座る」

「でも、損ではありませんか?」

「・・・歴史再現の僅かな文字の中に、自分は関われていたのだと、そういう誇りが得られれば充分に満足で御座るよ」

「――――有難う御座います」

 

・・・え?

 

そう言って小さく笑う"傷有り"の真意を、点蔵は図り損ねた

 

******

 

"傷有り"は点蔵と会話していて、安心を感じていた

行き違いはあったが、こうして普通に話してもらえるのは少なくとも嫌われてはいないのだろう

武蔵の人々は一年周期で極東を一周する

だから英国に来るのはまた一年後という事になるが、また来てくれるだろうか

 

・・・あれ?

 

そこまで思って、自分が考えていることの意味を考える

何を考えているのか、自分がどう思ってるのか、解らなくなって混乱した

 

私は何を・・・?

 

この人は、自分とは違う

自ら損をすることに、誇りを得ていく一方で、自分は誇りに縋っていく者だ

この人みたいに、自分も生きられたら自分も楽に生きられるのではないだろうか

 

そして不意に、遠い過去、自分がまだ本当に幼かった時の事を思い出した

自分と妹が、かつて憧憬を抱いた『あの人』も、自ら茨道を選んで進む人だったが、彼は自分の生き方に誇りをもって生きていただろうか

 

もし、天野康景という人物が『あの人』と同一人物なら・・・

 

そこまで考えた時、不意に"傷有り"と点蔵の間に

 

「"傷有り"様!そんな見知らぬ相手に近づいたら、めー!」

 

ミルトンが飛んできた

 

*******

 

点蔵はいきなり自分と"傷有り"の間に飛び込んできた三本足の黒い烏を見た

 

「全く、親善だと思っていたら何ですかこの男は!馴れ馴れしいにもほどがありますぞ!」

「・・・デカい九官鳥で御座るなぁ」

「違うであります!男ミルトン、これでも立派な烏であります!」

 

先程"傷有り"殿が言っていた御仁とはこの九官鳥のことであったか・・・

点蔵は、ならばこの御仁も第四階層の代表的存在なのだろうと思い

 

「ほうれキューちゃん殿?親善の焼き肉で御座るよー?」

「敵の手から焼き肉など!この男ミルトン、そこまで安くは・・・美味でありますな!どこの肉で?」

「三河コーチンで御座る」

「それ近親食であります!ども美味ー!」

 

高速で鶏肉をつつくミルトン

ミルトン殿は"傷有り"殿の保護者的な立場なので御座ろうか・・・

それならばミルトンが"傷有り"と自分の間に割って入ってきたのも頷ける

しかし、こちらが何かを言う前にミルトンに気付いた浅間が

 

「あ!ヤタガラス!なんで英国に・・・!」

「ち、違います!ヤタガラスではありません!きゅ、九官鳥のキューちゃんでありますぞ!」

「や、た、がらす?」

「そうです、熊野神社所属の霊獣走狗で、保護される代わりに労働奉仕されてるはずなんですが・・・」

 

鈴と話している間にもこっそり逃げ出そうとするミルトン

それに対し浅間は

 

「こら!脱走狗!」

「秘儀!闇夜の烏!」

 

逃げ去り、闇夜に消える

それに対し浅間は半目で弓を構え、撃った

遠くで烏がぎゃあと言いながら落下していく

 

「安定した定期保護が必要なのに、よくもまぁ単独で生きていけたものです」

「英国は地脈は通ってはいるが制御されている・・・それ故に極東程怪異が多発していない」

 

成程と頷き、"傷有り"もまた食事に戻った

だが不意に全裸が

 

「長衣の旦那、地脈関係に詳しいなら、あれ知らねぇかな?―――ニ境紋」

「ニキョーモン?」

「こういう物で御座る」

 

点蔵は指で図形を描く

一本の横一線が通った図形

 

「"公主隠し"という、神隠しと共に発生するで御座る」

 

その図形を見て、"傷有り"は息を飲む

 

「それは・・・英国でも調べている事ですね」

 

******

 

正純は"傷有り"が微かな声で呟いたのを聞き取って疑問に思った

英国でも調べているとなると・・・

 

「英国でも調べている?・・・いったいどこで?」

「あ、いや、私はもう部外者なのでな・・・現状がどうなっているかはわからないが、もし上層部と友好関係が結べたなら"花園"という場所について聞いてみると良い」

 

"花園"が何なのか聞こうと思った時、その言葉にまず反応したのは康景だった

彼は俯き、何かを思い出すように呟く

 

「"花園"・・・?」

「知ってるのか?康景・・・?」

「・・・いや、何か聞いたことがあるような気がしただけだ。多分気のせいだろう」

 

自分に言い聞かせるように呟く康景

そして自分の中で何かを確かめる様に

 

「・・・"花園"・・・エリザベス・・・・・・メアリ?」

「・・・!」

 

その呟きに"傷有り"が驚くようなリアクションをした

そのリアクションも、康景の呟きの意味も正純達は何だったか理解できなかった

だがその時、犬鬼達が入り江の方から三頭身の小鬼が出てきた

 

「できたど?」

 

犬鬼だ

身長十五センチくらいの三頭身が、康景に声を掛けようとした正純の台詞を遮るように出てきたため、タイミングを逃してしまった

点蔵は契約の対価としての五円玉を財布から取り出し、犬鬼に渡すが

 

「もらっといてやるど」

 

一度受け取った五円玉を投げ捨ててからそれを持って去っていった

点蔵は握り拳を震わせながら

 

「お、怒っては負けに御座る・・・」

「「だから駄目なんじゃないか?」」

 

皆が呟く中、温泉が完成したとの報告を受け、全裸でクネクネしていたトーリが

 

「じゃあ点蔵と長衣の旦那、一番風呂やるから入って来いよ。他の連中入る前に不具合とか確かめた方が良いんじゃね?」

「じ、自分と"傷有り"殿がで御座るか!?」

「なんか不都合でもあんのかよ?」

「い、いや・・・」

 

男同士だから何も問題ないだろうがなぁ・・・

そう思う正純だったが、自分も公衆浴場は使わないので人の事は言えないが

 

「あ、そうだ、だったら二人とも早く入っちゃってください」

「な、なんでで御座るか?」

 

はい、と返事をした後こちらに向き直り

 

「正純、二人の後に一緒に入りましょう」

 

はい?

正純は言われてることをすぐに頭の中で理解できなかった

困惑してる正純よりも、目の前でナルゼが

「アサマサ!?それともマサアサ!?」

等よくわからない事を言って興奮しているが、あれはもう手遅れだ

ナルゼがよくわからない反応をしているが、その反応を見た浅間が

 

「ち、違いますよ!そういう意味じゃありませんよ!・・・走狗です」

「走狗?」

「ええ、三征西班牙の襲撃の時もそうでしたが、先程の交渉の時も、ハイディの表示枠を借りてましたよね?今後の事も考えると、走狗の契約は行っていた方が良いと思いまして」

「走狗かぁ・・・」

 

自律するのと追加機能を多々仕込めるので便利だが、非稼働状態でも内燃排気を喰うし、ほっとくと消滅もする

しかし、ハイディのエリマキ等見ていると、ああいう小動物も飼ってみたい気はする

だが問題は

 

「私、金ないぞ?」

「あ、だったら生徒会通信費で何とかできるんじゃない?出来る?シロ君?」

「可能だが、卒業と同時に金が確保できなくなるから、走狗を得るなら問題があると思うが」

「その場合だったら契約凍結して、一時的に浅間神社で保護して、まとまったお金が用意できるようになったら引き取るというのはどうでしょう?」

 

なんか手慣れてるなぁ

浅間の取引の仕方に、思わず感心した

以前康景が

「アイツの神社は解約率二%を誇る怪物神社だ」

と言っていたが、商売上手というか、そういう意味だったのか

そんな事を思っていると、何やら考え込んでいる様子でミトツダイラに与える箸が止まった康景に代わり、ホライゾンが軟骨を与えながら

 

「ともあれ点蔵様、"傷有り"様も、そろそろ入られた方が良いのでは?このままだとキャンプファイヤーの周りを高速でフォークダンスしながら康景様が遅れた人から順にキャンプファイヤーに叩き込む奉納の餌食になりますよ」

「ホライゾン?お前の中で俺はどんなイメージなの?」

「あらゆるジャンルの女性に手を出してフラグを立てながらも放置する『放置魔』だと思ってます(キリッ」

「放火魔みたいに言うな、あとキャンプファイヤー関係ないじゃん」

「あーなんかナイちゃん解るなその例え」

「「jud」」

「お前ら・・・」

 

実際そんな感じだから否定できない

しかし、なかなか行こうとしない点蔵に対し、何か意を決した"傷有り"が点蔵の手を引っ張っていった

そして引っ張られながら

 

「覗きは無しで御座るぞ!」

「誰がお前の風呂を覗くんさね」

 

二人が影に消えていくのを眺めていたアデーレはニヤニヤしながら

 

「あの二人、なんだか怪しいですね」

 

その一言に、皆が黙った

 

******

 

「小生、あんまり考えたくないことをアデーレ君はズバリと・・・」

「他人の恋路に口出すなよお前ら、点蔵にとってはモテキの到来かもしれないんだから」

 

いつの間にか喜美の隣で肉にありついている康景が言った

喜美が焼いた肉を康景に渡しつつ

 

「アンタ絶対楽しんで言ってるでしょ」

「何を言う、友達が幸せになるんだったら何だって良いじゃないか・・・例えそれがホモでも、アイツがそれで満足するなら、友人として祝いの言葉くらい送るさ」

「祝いじゃなくて呪いの言葉になりそうだけどね」

「ナイちゃん達の地元のM.H.R.R.だと男の人同士でも子供出来ちゃう技術開発されてるし、英国とM.H.R.R.は貿易関係でもあるし、何より英国は改派だからいいんじゃないかな」

 

そういう問題なのかな

そう思いながらも、誰も何も言わなかった

だが不意に焼きそばをつついていた東が

 

「そう言えばナルゼ君、ちょっと聞きたいんだけど」

「何よ突然」

「セックスについてもうちょっとよく教えてくれない?」

 

皆の動きが止まった

普段物事にあまり動じない康景でさえ、肉を掴む箸を止めたのだ

そしてナイトがうなだれながら

 

「まさかここでNTRとはナイちゃん思わなかったよ・・・」

「違うのよマルゴット、これは誤解で・・・」

「仲良くなるための行為で、康景君もよくやってる手法だって教えてもらったから、ミリアムにもそれを言ったら怒られてさ・・・余の解釈が間違ってたのかなって」

 

背後、喜美の隣でむせる康景

皆がジト目で康景を見る

ナルゼは露骨に「ヤバい」という様な焦った顔を始めた

 

「だから、ミリアムの誤解を解くためにも教えてほしんだけど・・・」

「えっと・・・わた」

「悪いが東、コイツには今からOSHIOKIが必要だから、別の奴に聞いてくれ・・・」

「ひっぁ」

 

康景が明らかに作り物だとわかる『笑顔』でナルゼの頭を掴んだ

額には青筋を立てて、子供が見たら泣き叫びそうな笑顔で立っている

背後に立つ康景に恐る恐る振り向く

 

「いや、なんというか、そのぉ・・・(汗)」

「まぁとりあえずお話しよっか・・・二人で(怒)」

「いやぁああああああ」

「まぁとりあえずセックスについては正純にでも聞いてくれ、保健体育のテスト確か点数良かったはずだから」

 

何で私だ!?

思わぬところからの狙撃(笑)に困惑する正純

康景に足を引きずられていくナルゼに対し皆はそれに合掌しつつ正純から視線を逸らす

皆、我関せずと言った様子だ

だが、まだ活路はある

こういう時こそ先生の出番だ

酔ってるから今ならいける

そう思ったが

 

「うう、康景がかまってくれない・・・」

 

かまってちゃんだった

いじけて酒瓶を抱いて横になっている

つまり簡潔に言うと、使えない

だがそこに追い打ちをかけるように

 

「―――ホライゾンも教えていただきたいものです」

 

この姉弟はホントは私の事嫌いなんじゃないだろうか・・・

そう思えるくらいの追い打ちだった

だが追い打ちは続く

 

「拙者も知らぬ言葉故、教えてほしいところで御座る」

 

お前もかぁあああああ!

そして二人以外の女性陣は無言で頷いてそれぞれの卓に座った

 

嵌められた!

 

どうすべきかと迷っているとミトツダイラが助け舟を出してきた

髪を陰にして見せてくる表示枠の内容は

 

「滑って有耶無耶にするしかありませんわ・・・!」

 

狙ってできるもの何だろうか・・・

いや、ある

思いついたとっておきのギャグが

 

「俺、セージュンが『よっこらせっ・・・くす』とか言うの期待するなぁ」

 

言われたぁ!思ってたこと言われたぁ!

なんかすごい恥ずかしかった

しかし、東、ホライゾンと二代の視線は真剣なもので、これは何か答えなければ、と思った正純は

 

「えーっと・・・男と、女がだな・・・」

「えー!セージュン声ちっせぇんだけど!」

 

ブチ殺してやろうかこいつ・・・!

そう思ったが、高速でこちらの拳の射程範囲外に逃げる全裸

とりあえず一息ついて顔を真っ赤にしながら

 

「た、互いが正しい意味で仲を深めるという事だ!それ以外のなんでもない・・・!」

 

三人は成程、と頷いたが他の連中はそれぞれ自分のいた卓に戻り

「「よっこらせっ」」

と、こちらが言うはずだったギャグを言い始めた

 

こいつ等皆敵か・・・!

 

正純はあふれ出る屈辱と恥ずかしさを誤魔化すように

 

「じゃ、じゃあ風呂前に対英会議だ・・・!」

 

 




酔っ払いって大変ですよね・・・

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