境界線上の死神   作:オウル

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正直点蔵の下りを前回に回した方が文字数的にすっきりしたと思って反省してます


五話

商談の勝敗は

 

如何に土下座が上手くできるかが

 

鍵になる

 

配点(土下座)

 

―――――――

 

点蔵は眼下、金髪巨乳を見た

泣きそうにも見える頬を朱に染めた顔には傷がある

そして着ている服は

・・・英国の女性用制服?

長衣の懐が邪魔になるためかスカーフなどは付けていない

 

「あ、あの・・・ありがとうございます」

 

両腕を脇で畳んで肘から先を肩のあたりに力なく伸ばす彼女の小さな声に点蔵はどうしたらいいか解らず

 

「"傷有り"・・・殿?」

「jud・・・」

 

とりあえず問いかけたが彼女からも肯定の返事が返ってきただけだった

ず、随分先程とキャラが違うで御座るな

ともあれ女人に覆いかぶさるのも失礼だと思った点蔵は"傷有り"から離れようとすると

 

「あの」

 

袖を掴まれた

そのせいでバランスを崩してしまい、先程より顔が"傷有り"に近づく

・・・キター!!!

軽い興奮状態になってしまったが、まだ理性はある

大丈夫で御座る!落ち着くで御座るよ、自分!

 

「あの・・・ほ、本落ちてないですか?」

「本?」

 

言われた点蔵は目的物を探した

抜いていない剣と剣の間に一冊の本があり、手に取ると

・・・極東スラング辞典?

 

「良かった・・・あの、ミルトンが"女性だとバレるナメられるので"って、これを参考にしろと・・・」

「な、ナメるとかそんなことないで御座るよ!・・・極東の者たちは、貴殿の様な御仁を侮ったりはせんで御座る」

 

恐らく彼女はこの第四階層の代表

輸送艦墜落に伴うこの第四階層の緊張は計り知れないものがあっただろう

長衣を着ていた時の態度も、緊張から来るものであっただろうし、それを踏まえた上で点蔵は

 

「・・・大変で御座ったな。自分と喋るのも苦労したで御座ろう・・・それでも言葉を交わしてくださったこと、この点蔵、ありがたく思うで御座る」

 

言った直後、淡く開いた"傷有り"の目から涙がこぼれた

え、あ、しまったー!泣かせてしまったぁああああああ!

点蔵は反射的にやってしまったと後悔した

 

「す、すまんで御座る!じ、自分何か傷つくような事を・・・」

「あ、いえ、すいません。こちらこそ」

 

目尻の涙を拭う"傷有り"は身体を起こしながら

 

「あの」

「?」

「自分が女だという事は、黙っていてもらえませんでしょうか・・・」

「・・・jud.よう御座る―――忍者は秘匿義務を守る仕事ゆえ」

「・・・良かったです」

 

この御仁もまた、色々と大変なんだろう

点蔵はそう思う

"傷有り"はその肯定に安堵した笑みで

 

「ええと・・・点蔵様でよろしいのですよね?」

 

様付けキタぁああああああ!

だがそれと同時、輸送艦の方から

 

「おーい、テンゾ―!ちょっと頼まれてくんねー!」

 

トーリだ

それに驚いた点蔵はすぐさま長衣を"傷有り"に持たせトーリから"傷有り"を隠すように

 

「ななななななんで御座るか!?」

「なんか姉ちゃんが風呂欲しいとか天才染みた事言い出してさぁ、ここ女用の風呂一人分くらいしかスペース無いじゃん?だから温泉ねぇかな?」

 

また無茶ぶりを・・・

トーリの要求に対し、"傷有り"は

 

「温泉ならもっと上層に行かないとないです」

「第四階層には無いで御座るか?」

「基部の方は温水等がこぼれ落ちているのですが、流石にあそこは危険かと」

 

点蔵は少し考えて

 

「何とかなりそうで御座る」

「どうするのですか?」

「・・・これだけ大量の犬鬼達がいるで御座るし、半日程度で何とかなりそうで御座るよ」

 

そして"傷有り"に向かって

 

「手伝っていただけるで御座るか?」

 

******

 

「どうだった愚弟?」

 

喜美が康景をヘッドロックした状態でトーリに確認した

 

「作ってみるってさ・・・ってか姉ちゃん、いい加減ヤスが窒息で死にかけてんだけど」

「(ヘルプ!)」

「まぁいいじゃないこのくらい」

「うーん・・・まぁいっか、二週間ぶりだもんな!」

「(えー)」

 

ヘッドロックは継続される模様

その様子を見ていた正純も、何事も無かった様に手元の輸送品チェックリストを見ながら

 

「じゃあ今日は午前中は会議なー」

「あ、今ネシンバラがいないけどどうする?議事録の方は私が付けよっか?」

「jud.頼む」

「あ、私の表示枠使用します?」

「ああ、すまない」

 

ミトツダイラが作業を一段落してこちらにやってきた

ミトツダイラの申し出に、自分は他人に負担掛けてるなぁと思ってしまう

 

「・・・喜美はまだやってますの?(妬ましいですわ)」

「(羨ましいのか・・・)」

「(羨ましいのね・・・)」

「何だよネイト?ひょっとしてあのスキンシップが羨ましいの?w」

「べ、別に何とも思ってませんわ・・・別に」

「「(嫉妬全開wwww)」」

 

半目で喜美と康景を見るミトツダイラ

だがそこでヘッドロックで死にかけている康景が不意に海に面したマストの方を指さす

それに気づいたミトツダイラが何かに気付いたように

 

「何者ですか!?」

 

******

 

銀鎖を飛ばすミトツダイラは、康景が指さした方に気配を感じた

ミトツダイラは武蔵側に持ち込まれていない香料に気付いたのだ

だが、銀鎖は不意に虚空にぶつかり、弾かれる

・・・光学系の移動術式ですの!?

 

「いやすまない、people・・・驚かすつもりは無かったんだ、信じてくれ」

「・・・"女王の盾符"、『9』のベン・ジョンソン!」

 

マストの影から現れたのは、つい先日武蔵を襲撃した男だった

だが影はそれだけではなかった

 

「憶えていて貰えて光栄だよlady・・・そしてこちらは」

 

ジョンソンが背後の自動人形の女を見て

 

「"女王の盾符"『2』のF・ウオルシンガムだ。今日は私の護衛として来てもらっている・・・」

 

そして最後に左の背後にいる短躯の男をみて

 

「"女王の盾符"『7』のチャールズ・ハワードだ。英国艦隊の所有者であり、会計だ」

 

言われた男、ハワードはマストから勢いよく飛び降りてくる

こちらに寄ってくるハワードに一同は警戒の色を見せる

だがハワードの取った行動は

 

「英国を・・・救ってもらえませんでしょうか!」

 

土下座だった

 

******

 

一同は、英国人の土下座を見た

肘の曲げ方、揃ったつま先など、不必要なほど完璧な土下座だ

ハイディがその土下座を撮影してるのは無視して、ヘッドロックを何とか自力で解いた康景は

 

「・・・これは国交会議の前の通商会議という事でよろしいのかな?」

 

ハワードに問いかける

しかしその問に答えたのはハワードではなく背後のジョンソンで

 

「Tes・・・そう取ってもらって構わない・・・だが他にも用事あってね」

「他の用?」

「・・・you、天野康景という個人に女王陛下から言付けを預かっている。しかしこの件は陛下の個人的な用でね、最後に君に伝えよう」

 

・・・妖精女王が俺に何を?

 

康景は全く心当たりが無かった

そして背後、喜美とか、ミトツダイラとか、正純が半目でこちらを睨んでいるのを感じるが、無視した

 

******

 

昼前の陽射しの下、外交艦の白い甲板の上では通商会議が行われていた

武蔵側の人員は副会長としての正純、会計のシロジロ、そしてその補佐であるハイディ、背後には護衛として康景が立っている

英国側の布陣は会計のハワードに、書記のジョンソン、背後のウオルシンガムは護衛として立っている

通商会議の布陣としては十分なメンツだな・・・

今回の向こうからの申し出は、通商会議であるために自分の出番は少ないとは思う

 

そして艦の厨房では御広敷とハッサンが作ったコース料理が運ばれてくる

初めのオードブル料理が並べられるとシロジロが手を差し出し

 

「さぁどうぞ、武蔵名産、とれたて刺身のカレー掛けです・・・ああ、私どもは後で食べるので、御来賓の方々はどうぞ、遠慮なく召し上がってください」

 

嫌がらせか何かなのかコレ

正純はそう思った

ハワードは一瞬絶望したような顔をしてから恐る恐る料理を口に運び

 

「・・・生の魚とカレーの香味が見事に分離して生温かく・・・」

 

素直にマズいって言えばいいのに

しかし、交渉の場でマイナスになるようなことはなるべく避けるべきなのか、ハワードは口元を抑えながら食べた

商人ってすごいな・・・

無駄に感激した

 

そしてシロジロはジョンソンにも容赦なく

 

「さぁさぁどうぞ、遠慮なさらずに」

「わ、私アスリートなので摂食調整していてねぇ・・・!」

 

逃げた

ハワードがジョンソンを蔑んだ目で見たがジョンソンはそれを無視した

こんな会議で良いのかと、正純は少し不安になった

だがそこで、正純の足元に白狐の走狗であるエリマキがいた

ハイディに目を向けると彼女は表示枠を展開して平然としているが

 

「いい?」

 

エリマキがこちらに見える様に表示枠を展開した

 

「じゃあこれから皆に状況を理解してもらうために実況するから」

 

『接続:共有設定表示枠:神社間共通通神・浅間神社代行により限定領域許可:確認』

 

〇べ屋「あ、アサマチありがとう、じゃあ皆も初期設定で入ってると思うからどうぞ」

あさま「軽くするためにも名前は最大三文字でお願いします」

俺「オッパイオッパイオッパイオ」

 

『"俺"様が強制退出されました』

『"俺"様が再入場されました』

 

あさま「注意事項ですが穢れの強い事を書き込むと退出処理くらいますよ?」

俺「容赦無ぇな!」

 

何だと思って視線を周りに向けると、遠くに待機してる者や、背後の康景の前にも表示枠が展開されている

実況通神システムか・・・

一神教がベースになっている教譜で開発された文章会議システムで、多神教である極東では利権争いなどで問題が生じて使えなかった物だが、三河以降IZUMOが主体となって取りまとめ、使えるようになった

携帯社務でしか表示枠の展開が出来ない契約しかしていない正純にとっては初めて見るものだ

 

〇べ屋「じゃあシロ君が時間稼いでる間に、今回の商談の要点をまとめよっか」

 

「ささ、お次は生魚のスモークとサラダのカレードレッシングです」

 

シロジロは容赦なく料理を使って時間を稼いでいた

 

*******

 

○べ屋「今回の商談を大まかに言うなら

    ・「品目」:食料

    ・「条件」:品質=値段

    ・「いつから」:食料の賞味期限 を見て逆算して決めるって感じかな」

煙草女「品目は戦争も近いし、燃料や鉱物資源じゃないのさね?」

弟子男「英国には森林資源や炭田があるからな。自給率は恐らく百に近い。だから鉱物資源関係の取引ならこっちが赤字になってしまう可能性が高いんだ」

○べ屋「お、ヤス君話が速くて助かるよ。まぁ大体そんな感じかな。アルマダ海戦は一週間近くかけてやるから、解釈無しでまともにやるとやはり食料が問題になるの」

銀狼「英国の食糧備蓄はどのくらいですの?」

○べ屋「持って二週間分くらいじゃないかな」

弟子男「英国を一周して行う海戦に対して、陸上の部隊も動かすからその分の食糧も必要になる」

 

「お次は我が校のシェフが腕を奮って作った生魚のフォアグラ、カレー掛けです」

 

料理は続く

 

銀狼「正純は大丈夫ですの?見ているだけですわよね」

弟子男「正純?どう反応していいか解らないときは左手で頭を掻いてくれ」

あさま「搔きましたねー、他にもアデーレとか書き込み大変そうなので共通設定を"隠れ"有りにしときますね。他に書き込めない人居ますか?」

弟子男「・・・書き込めない人はどうやって書き込めばいいのか解らない件について」

あさま「あ、今の無し!無しでお願いします!」

賢姉様「ハイじゃあ忘れた人書き込んで!」

あさま「追い打ち来ましたよ!」

 

『貧従士様が入場しました』

『金マル様が入場されました』

『○画様が入場されました』

 

○べ屋「大体揃って来たねー、じゃあ話を続けるね?」

 

*******

 

まさか対英態度を明確にする前にまさか向こうから乗り込んでくるとはな・・・

正純は実況通神の内容を見ながら状況を整理する

会議が出来ないタイミングで乗り込んできたという事は、向こうに有利な状況だ

そのためこうやって情報を共有するのは重要である

 

〇べ屋「と、いう訳で今回の主要品目は食糧ね」

〇画「売り物は?」

弟子男「肉だな。ジャガイモとかは選択肢から除外しても良いだろう」

銀狼「聖譜記述によると女王エリザベスはジャガイモの葉をサラダで食べてソラニン中毒を起こしますのね」

弟子男「しかも欧州の多くの国では食肉加工方法に問題がある」

貧従士「屠殺とかですねー」

弟子男「欧州の人々は同時代の極東より肉を食べるからな。前にヨシナオ教頭に聞いたら年間自分の体重分は食べるそうだ。まぁ自分の体重以上に肉を食べる知り合いが何人かいるけどな」

約全員「確かに・・・」

銀狼「わ、私の事じゃありませんわよね?」

俺「自分の胸に聞いてみろってネイト・・・あ、ごめん」

銀狼「なんでそこで謝るんですの!?」

 

各国が問題にしている食肉問題を武蔵を媒介してスケープゴートにして共有するのだろう

自分も貿易知識としての肉の重要性は知ってはいたが、それに付随する知識は知らなかった

 

○べ屋「そんな訳で、武蔵には三河に入る前から英国の"肉おいてけ"発注が来ててね、とりあえず英国の肉可食人口四十万人分の肉だったんだけど、そしたら三河で思ったより安く仕入れられたからその分は確保済みかな」

煙草女「でも三河での一件以来、寄港地に寄れなかったから一ヵ月近く氷室を空けてないさね」

〇べ屋「それでここからが本題、この意味が解る人居る?」

弟子男「賞味期限が近いんだな?そういや先生は腐りかけの肉が一番好きと言ってたけどやはり今日は肉なんだろうか今から怖くてしょうがないんだが」

あずま「今先生が余の隣でこれ見てるけど大丈夫?」

弟子男「待てまだ慌てるような時間じゃななななななな」

約全員「落ち着け!」

○べ屋「・・・まぁそういう事、一ヵ月の肉の賞味期限が二週間、つまり通常の半分という事は単純計算でも価値が半分になっちゃうの」

 

先程ハイディが英国の一か月分の肉を確保しているという話で頭の中で計算する正純

武蔵では英国人の平均体重が60㎏だと考えているので、総人口四十万×約六十×十二分の一で約二千トン

その半額になってしまうという事は、どう考えても赤字になるが、そんな事したら後の生徒会に恨まれかねない

いったいこの商人コンビはどう動くのか、正純は気になった

 

○べ屋「でも今回シロ君、色々と手を打ってるし、かなり無茶苦茶汚いから大丈夫よ。それじゃシロ君、始めよっか」

 

*****

 

「ではカレーシャーベットの生魚アイスも食べ終えられましたし、本題に入りましょう」

 

正純は商人が動き出すのを見た

 

「この商談における私どもの案件だが・・・」

「Tes!何でしょう?」

「今回の貿易は無しにしよう、うん」

 

次の瞬間、ハワードがビームの様に鼻血を噴出した

自分の持っていたハンカチでそれを拭きとるハワードだったが、血の量が多くてハンカチが雑巾になった

 

「今のリアクション、こちらの意見に同意するとみていいのだな」

 

あさま「今のどう見たら同意と捉えられるんでしょうか・・・」

俺「流石武蔵きっての外道商人!俺たちにできないことを平然とやってのける!そこに痺れる憧れるゥ!」

 

商人の交渉ってこれが普通なのか?

そう思う正純だったが、シロジロは

 

「貿易停止の理由は一つだ・・・我々は聖連に睨まれているからな」

 

シロジロがテーブルの上に手を乗せて

 

「貴国との貿易を行えば、貴国は聖連に逆らったとみなされるのでは?我々は英国の利益と、武蔵の安全を望んでいる。聖連との衝突が不可避なら、貿易をすべきではないと思うのだが・・・」

「Tes.―――利益を出す事には協力いたしましょう」

「jud.それはありがたい」

「ですが・・・我々も対西戦を間近に控えております」

「・・・差し支えなければ開始がいつか聞いてもよろしいだろうか?」

 

ハワードは首を横に振る。しかし

 

「機密故に明言は出来ませんが、対西戦までに武蔵の物資を消費、加工しきれるかどうかですね」

 

正純はその真意を悟った

・・・英国は二週間以内にアルマダを開始するという事か!

 

弟子男「英国が二週間後にアルマダ海戦を行う事について何かメリットは?」

銀狼「満月ですわ。この時期の夜は異族たちが活性化できる夜ですの。異族が多い英国にとってはメリットですわ」

〇べ屋「この情報は高値で売れる」

 

ハイディたちが情報の意味を計算しているところで正純は思った

この商談は、英国と三征西班牙の栄光と衰退の分岐点であるアルマダ海戦の前哨

歴史に触れた手ごたえを感じた正純は軽く身震いする

 

弟子男「対西戦まで二週間。二週間で2000トンの加工は可能か?」

〇べ屋「一週間くらい昼夜問わずの国家レベルの操業になると思うけどね。でも実際そんな事したら家庭とかから不満も出るから、保管加工した肉を加工者と国で売買すればいい」

 

そうすることによって戦争直前のこの時期に家庭にお金を流すことが出来る

物資は絞られるが、士気には影響が出る

 

弟子男「つまり英国の戦略は?」

〇べ屋「英国の戦略はこの一週間が勝負ね。武蔵の肉が二週間なのに対し、一週間遅らせることで四倍の肉が流れることで、価値も四分の一まで下落するから英国としては安く買えるの」

弟子男「こちらの策は?」

○べ屋「大丈夫、シロ君にもアイデアがあるから」

 

アイデア?

正純が疑問に思う隣、シロジロは口を開く

 

「武蔵としても、英国の危機を救いたいとは思う・・・だがそうなると聖連に睨まれないようにする必要があるな」

「そうの様な方法があるのですか!?」

「jud.聖連に何の文句も言われず貿易をする方法・・・それは武蔵と英国が合同で行う春期学園祭だ」

 

春期学園祭は、風習としての歴史再現で用いられることが多い

 

「武蔵はここ二週間で英国と合同春期学園祭を行おうと考えている。故に英国にも祭りを執り行ってもらいたい」

 

ハワードを見て

 

「そうすれば、武蔵生徒会の屋台では多種の貿易品目を取り扱う事にしよう」

 

成程、祭りとなると食料の消費量も増え、副次的な経済効果も望める

 

○べ屋「祭りの期間中は何処も景気づいて宴会状態できるし、準備で人も多く動くし、準備を含めた期間中にある程度肉を捌いてしまいたいの」

弟子男「供給量が二倍になって価値が半減するのを消費量を二倍にして相殺するのか?」

○べ屋「そうなれば理想だけどね、まぁこっからが商人の腕の見せ所かな」

弟子男「おお、なんかハイディとシロジロがかっこよく見える」

○べ屋「お、なんかヤス君に褒められるの新鮮だねw」

弟子男「そこ笑うとこ?」

 

「Tes・・・前倒し証書が得られれば」

「では祭りの期間を決めようか」

 

*******

 

「二週間だ」

 

○べ屋「大体三日くらいまでなら、利益出るから、譲れるのは十一日までね」

 

「・・・三日」

 

相手が首を横に振る

 

礼賛者「肉の加工日を考えないで有利に進められる日数で来ましたね」

 

向こうも肉の加工に一週間かかるが、先にそれを持ち出すことでそれ以上になることは無い

・・・相手も無茶するなぁ

 

「一週間と、準備に七日」

「三日と、準備に一日」

 

弟子男「ブラフか」

 

康景の言う通り、三日はありえない

英国は物資を必要にしているが、利益は譲らない構えだ

英国が利益を出すとするなら合計八日か九日の筈

するとシロジロが突然

 

「一週間と、準備に五日」

 

日数を一気に二日引き下げた

 

******

 

ハワードは向こうが一気に二日も譲歩してきたことに驚いた

・・・何かの罠か?

武蔵の何らかの方策だと思ったが、何の確証も無いまま疑心暗鬼になるのは却って危ないと判断したハワードは、英国の初期方針を通した

 

「祭りに三日、準備に二日」

 

互いに二日分譲ったことになり、このままいけば互いに八日か九日で決着がつくはず

しかし相手は今度は日数ではなく

 

「スコットランド等他ブロックへの輸送はこちらで執り行おう」

 

日数を金とは別の所で買おうとしている

武蔵は確かに航空船に置いて他国より群を抜いている

英国より操艦技術に優れる武蔵の申し出に、ハワードは判断した

 

「解りました・・・輸送費はこちらで持ちましょう。祭りに余裕が持てそうなので、祭りに三日、準備に三日でどうでしょう」

 

こちらも譲歩することで八日に届くよう調整する

向こうの出方を見る

 

「祭りに七日、準備に二日、合計九日でどうだろう」

 

更に三日譲歩してきた

祭りの副次的収入で巻き返すつもりか?

相手の譲歩を相殺するために、こちらも条件を付けたす

 

「武蔵の英国への上陸範囲を拡大して、さらに一日分譲歩いたしまして、祭りに三日、準備に四日、合計七日でどうでしょう」

 

そして最後にとどめの意味で

 

「そちらの準備にも時間がかかるかもしれません。さらに一日準備期間を増やして合計八日で合意を頂きたいのですが」

 

言った

 

*******

 

ホラ子「状況的に申しまして、こちらのピンチでは?」

 

いつの間にか起きてきたホライゾンが、実況通神に参加してきた

確かにこの状況はマズいかもしれない

だがホライゾンの疑問に対し、康景は

 

弟子男「大丈夫だ、問題ない」

 

逆に心配になりそうなセリフを言った

 

ホラ子「その根拠は?」

弟子男「こっちにはまだ"切り札"がある」

ホラ子「切り札?」

俺「まさか・・・アレか!?」

弟子男「そう、アレだ」

 

正純は何のことか意味を図り損ねた

この状況をひっくり返せるだけの切り札が存在するのか?

 

弟子男「そう、商談において、危機的状況をひっくり返せる妙技。しかしその危険性故にリスクの高い『諸刃の剣』でもある」

俺「なんかヤスがネシンバラみたいな事言い出したぞ」

〇べ屋「あ、でも実際そんな感じだから否定できないのよね」

弟子男「そう、それは・・・」

 

康景が実況するのに合わせてシロジロが動く

ゆらゆらとハワードに近づいていく

それに対しウオルシンガムが身構えるが

 

「商談は終わってない・・・じっとしてろ」

 

背中の剣に手を掛けて動きを制す康景

そしてハワードの前に立ったシロジロが

 

跳んだ

 

そして空中でトリプルアクセルして、宙で姿勢を整え、着地のままに土下座した

 

「その日数では無理故、ご譲歩を!」

 

*******

 

えええええ!?

 

正純は今目の前で起きた光景に叫びを上げそうになったが我慢した

 

弟子男「土下座・・・しかもトリプルアクセル土下座なんて、中等部以来だな」

 

康景が真面目に土下座の解説を始めたので、これはふざけてるのかと軽く思ったが

 

弟子男「俺でさえダブルが限度なのに・・・やるな」

〇べ屋「いやダブルでも結構すごいと思うけど」

俺「マジでヤス?今度教えてくれよ」

 

え?これ常識なの?

 

弟子男「いや、俺の場合だと裾やつま先が乱れて思うようにいかない。ただ出来るだけだ。あそこまで見事な土下座は出来ない。それに俺の場合はするよりもされる方が多いからな、あまり教えるのは苦手なんだ」

ウキ―「土下座される方が多いというのも考え物の様な気がするが」

貧従士「ちなみにどんな状況で土下座されるんですか?」

弟子男「シロジロに借金してる奴から金を回収するバイトの時に」

約全員「やってることほぼやーさんじゃないっすかやだー」

〇画「そうなると逆に康景がする相手も相当よね」

弟子男「・・・そんなの先生しかいないだろ」

約全員「oh・・・」

 

・・・何だこれ

 

********

 

ハワードは相手の土下座を見て感嘆した

・・・見事です!

着地の際に長い裾も乱れず、完璧な姿勢を取るシロジロに、自分の土下座など児戯にも等しいと恐怖すらした

しかもトリプルアクセルの際に地面を軽く削ることで頭を地面より下に置き、さらに菓子折りを用意することで、こちらもこの土下座に対しそれなりの誠意を見せる必要が出来た

これが本場の土下座・・・!

 

「準備に時間が必要ですか?」

 

見事な土下座を前に悔しさに奥歯を噛みながら

 

「なら祭りに三日、準備に六日・・・・計九日で如何か」

 

*******

 

正純はこの土下座の威力を改めて理解した

相手が先に土下座を仕掛けてきたので、こちらも土下座をすることで相手に譲歩せざるを得ない状況を作り出す

九日・・・だがそれでは・・・

不安を顔に出さないようにしてエリマキの表示枠を見る

だがこの状況になっても康景は

 

弟子男「この勝負、勝ったな」

 

・・・え?

勝利を確信していた

 

******

 

ハワードは相手が席に戻って一息つくのを見た

 

「有難う御座います。準備期間に日を譲歩していただくとは・・・」

「Tes・・・こちらも対西戦を控えている手前、あまり時間を掛けられないのです」

 

最初の土下座は、極東への理解を示すための行為だが、今相手はそれを逆に利用したのだ

あれは失策だった。あれが無ければ八日という日数で確定していた

内心の憤りを噛みしめながら

 

「なら、九日という事で合意を・・・」

「九日ですか・・・ふむ」

 

・・・?

 

相手は考える素振りをしてから、笑った

 

*****

 

正純は商人が笑みを作ったのを見た

 

「いや見事な交渉でした、完敗です・・・故に!私どもは追加譲歩したい」

「お断りする!」

 

シロジロは相手の制止を無視して話を続ける

 

「色々とこの交渉で、賢しらな事を言いました。ハワード様には多様なご負担をおかけしたと思います。なのでその反省として、貿易期間ですが―――」

 

何をする気だ?

正純はシロジロの言葉を見守った

そしてシロジロが告げた言葉は

 

「最初にそちらが提示した三日にしましょう、そうしましょう」

 

三日、それは最初に相手が提示したブラフ

三日では英国は肉を加工しきれない

 

その言葉を聞いたハワードの顔が見る見る青くなりブチブチと繊維がちぎれる音がして

 

「・・・!」

 

ハワードは急いで鼻をつまんだ

しかし

 

「あ」

 

耳から勢いよく吹き出した

それを自分で塞いでなんとかするハワードだったが

 

「三日!?」

「最初にそちらが提示された日数ですが、何か不都合でも?」

 

ブラフの逆用とは・・・

この商人コンビのやり口に、正純は正直感心した

金にうるさいだけじゃなかったんだな・・・

 

これでハワードは三日を基盤に話を進めなるか、交渉をやり直さなくていけなくなった

そして正純は、この男は大商人であるが故に、英国に多大なゴミを生むような選択はしないだろう、そう思う

町や人民に被害が及ぶようなことは、商人や会計としての立場に傷をつける

だから向こうは

 

「ありがとうございます・・・ですが様々な負担を受けている武蔵にこれ以上負担を掛けさせるのは、温情ある妖精女王を始め、その配下たる我々"女王の盾符"も望んではいません。余裕を持って作業するという意味で、祭りを五日、準備を四日では?」

「こちらとしては三日で十分だと思うのだが?」

「・・・祭りに六日、準備に四日で武蔵に負担なく作業できませんか?」

 

声のトーンを落としてきたハワードに対し、シロジロはまだ続ける

 

「休日を挟んでいないな・・・英国協では必要以上の労働は悪だろう?祭りに六日、休日を一日、準備に四日の計十一日でどうだろう」

「・・・」

 

ハワードは数秒沈黙した後

 

「Te――」

「もう一声!・・・向井、聞いているか?」

 

シロジロは不意に鈴の名を呼んだ

その意味をまだ理解していなかったが

 

それを遮るように康景が

 

「シロジロ・・・"そっち"はお前の領分じゃない」

「・・・そうだな」

 

背後からシロジロを止め、二人で正純を見る

そしてようやくその意味に気付いた正純はエリマキの表示枠を通して鈴に進言する

 

「向井、いきなりだが聞いてほしい」

「?」

「君を臨時の外交官として英国に派遣したい」

 

*****

 

鈴は、正純に言われた意味をできなかった

 

「え?」

「表示枠による通信の自由と、アデーレ、君を護衛につける」

「な、んで、わた、し、が?」

「それは・・・」

 

正純が答えられないでいると正純ではなくトーリの声がして

 

「そりゃあベルさんが一番俺たちの中でハッキリもの言えて、頑固で、一番自分の事大事にしてっからだよ」

「そ、そん、なこと、ない、よ」

 

いきなりそう言われても、どうしたらいいか解らず、困惑する

 

「大丈夫大丈夫、何かあったらそこの貧乳政治家が何とかしてくれっ!いってーな」セージュン!湯飲みはボールじゃねーぞ!」

「だめ、ま、さ、ずみ、つっ、こみは、ほら、いぞんの、仕事」

「あれ?鈴、俺はツッコミ役じゃないの?」

「義、伊くん、は、ど、っちかってい、うと、ぼ、け?」

 

*****

 

浅間は鈴がちゃんとダメというのを聞いた

そして康景が膝をついて落ち込んでいるのを見てスルーした

駄目と即座に言えてしまう上、ホライゾンの事も言えてしまう

それでいて皆が気を遣って呼ばなかった康景の旧名も、作文の時以降から普通に呼べてしまうのは

・・・あの二人との関係を昔のまま大事にしているんですね

 

「まぁそんな感じでちょっと外交官やってくれればいいから!大丈夫だって、もしベルさんに手を出そうなんて不届き物がいたらこのターミネーターがボコりに行くから」

「誰がターミネーターだ、誰が・・・」

「ターミネーター君が、あ、康景君がボコりに行ったらそれはそれで洒落にならないと思うんですが」

「浅間さーん?お前今普通にターミネーターって言ったよな?ターミネーターに君付けしたよな?」

「康景君、今ボケとツッコミやってる場合じゃないんですよ?空気読んでください」

「え?俺が悪い感じになってんの?」

「まぁ駄目だと思ったら"ダメ"、それで良いと思ったらただ頷けばいいんだよ」

「そ、れだ、けでい、いの?」

「いやさ、俺がベルさんに頼んでるってことは、ベルさんのそれがいいって事だぜ?」

「そう、なん、だ」

 

暫く沈黙した後

 

「じゃ、あ、や、るね」

 

同意した

 

*******

 

正純は鈴の同意を聞いた

先程アデーレが、鈴が英国の方から音がすると言っていたと話していたのを思い出した

自分達には普通の音にしか聞こえないが、音関係に詳しい彼女が行くなら、その音の正体にも気付けるかもしれない

そして

 

「葵、向井の護衛に二代を出せるか?」

「え?あ、ああ余裕余裕」

「jud.拙者で御座るか?」

「ああ、何しろ明日からの準備で生徒会、総長連合は大きく出払う事になる。六護式仏蘭西出身のミトツダイラと、M.H.R.R.出身で魔女の二人を乗り込ませるわけにもいかない、そして直政は地摺朱雀がまだ直っていないのもあるし、異端審問官のウルキアガも除外だ。クロスユナイトはホモで今大忙し(意味深)だから、この場合の適任は二代なんだ」

 

現状武蔵学生で一個師団並の戦力である康景を除外し、武蔵の副長という戦力としての象徴と、盾としての象徴であるアデーレを選んだのにはわけがある

先程、商談が始まる前にジョンソンが言っていた言葉だ

 

英国女王からの康景に対する個人的な用

 

ジョンソンはこれを最後に伝えると言っていたが、なるべく康景を行かせたくなかった

杞憂であればいいが、何故か悪い予感がする正純

だから康景は護衛の役目から除外した

正純の表情を見て何かを察したのか、二代は

 

「解ったで御座る。向井様は武蔵の代理人、ひいては姫ホライゾン様の代理で御座るな」

「ああ」

 

二代の了承を聞いたシロジロは

 

「武蔵の最高クラスの攻撃と防御を引き離せるのだ・・・人質としては見事な成果だろう?」

 

だがそれに対しハワードはジョンソンと顔を見合わせる

ジョンソンはハワードの「どうする?」といった視線に首を横に振る

それが何を意味するのか解らないが、ハワードはこちらの申し出に同意した

 

「Tes・・・わかりました、では祭りを七日、休日を一日、準備を・・・ここまで来たら五日の計十三日で決定合意しましょう」

「jud.ではそのように」

 

そして互いに握手し、承認用の表示枠が飛び散る

交渉が、現時点を持って終了したのだ

 

*******

 

会議終了後、康景はジョンソンに呼び止められた

 

「you―――先程の件で話がある」

「妖精女王の用事か・・・」

「Tes.できれば他の方々には一度席を外してもらいたい」

 

その言葉に正純は

 

「私たちが聞いていては不都合な内容なのか?」

「いや、そうじゃない・・・ただ陛下も女王である前に一人の人間なのだ。これは完全にプライベートな事でね、おいそれと他人に聞かせるような事じゃない」

 

康景はジョンソンの態度からするとこれは本気だと判断した

正純と目を合わせる

無言で大丈夫だと伝える視線に正純は頷き、皆を先程までいたテーブルから人払いをした

そして完全に会話が聞こえない位置にまで下がった一同を確認した

 

「これで完全に女王のプライベートな件を聞く奴はいなくなったぞ」

「ありがとう・・・これで心置きなく仕事を一つ終えられる」

「アンタも苦労人だな・・・で?用件ってのは?」

 

ジョンソンが姿勢を直して

 

「実は、我らが女王は、君個人に直接会って話をしたいそうだ」

「俺に?」

「Tes.」

「だったらなんでさっき外交官の件の時その話をしなかった?外交官の護衛として行けば会う可能性も高まっただろう?」

 

康景の疑問にジョンソンは肩を落としながら

 

「いやまぁ、本当にその通りなんだが・・・」

「何かあるのか?」

「我らが女王が初めに私に仰せつかった言葉は"私個人が天野康景に会いたい"という事を伝えろという話だった」

「つまり、外交官や護衛、会議の場で顔を合わせるのではなく、プライベートで会いたいと?」

 

康景はジョンソンの無言を肯定と捉えた

英国統治者が武蔵の下っ端相手に個人的な話があるなど、確かに変に問題になりそうな案件だ

先程の交渉で話をしなかったのも頷ける

しかしそこで言葉の違和感に気付く

 

「・・・初め?」

「・・・実は今朝、交渉に向かう直前に陛下のこの書状を託されてね」

 

懐から取り出した一通の手紙をジョンソンから受け取る

 

「・・・できれば他の誰にも見られないようにしてくれ」

「アンタは内容を?」

「いや、知らない・・・普段公務でしか手紙を書かない陛下が突然書かれたんだ。よほど大事な用なんだろう」

「・・・わかった」

 

言われて、便箋をコートの内側にしまう

 

「・・・手紙以外にも何かあるのか?」

「手紙を預かった時、女王陛下はこう言われた・・・『貴方の"妹"に気を付けろ』と伝えてくれ、と」

 

 

 




補足 実況通神の主人公の呼び名『弟子男』について
   "弟子はオリオトライの弟子"で"弟はホライゾンの弟"の二つから取った意味での『弟子男』です
   
  

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