境界線上の死神   作:オウル

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あの忍者・・・!


四話

忍者がフラグを立てた時

 

物語が動き出す(笑)

 

配点(あの忍者part1)

――――――――

 

夜中のアルカラ・デ・エナレスの廊下を、セグンドとベラスケスは歩いている

 

「さっきまで明かりついてたけど、フアナ君、居るよな・・・」

 

気が重いなぁ

そう思う言いつつ足音を消してベラスケスと周囲に人影がないか確認する

 

「こういう風にするクセが抜けねぇな大将」

「フアナ君と一緒に居る時にやると『コソコソしないでください』って言われるけどね」

「危険から守ってやってんのにな」

「気付かれないのが一番幸いだよ・・・失うのが一番辛いから、それ以外なら別にいいさ」

 

セグンドが呟くのに対しベラスケスは

 

「・・・そういや大将、"死神"の情報なんだけどよ」

「何か解ったのかい?」

「大まかな情報としては襲名者、"あの"塚原卜伝の弟子って事、後はめっぽう強いってことくらいか」

「・・・そうか」

「だが不可解な点もある」

「?」

「アイツの出自に関してだ」

「・・・」

 

今、"武蔵の死神"に関してわかっている情報は、ベラスケスが述べた通りだ

塚原卜伝

二十代で剣豪である塚原卜伝を襲名した希代の天才

その出自も経歴も一切が不明であるが、十代より前から数々の聖譜記述に関与し、傭兵稼業の様な事をしていたとの噂もある

最後は武蔵に居を構え、武蔵で息を引き取った

死因は弟子との稽古中の事故死

彼女を殺してしまった弟子こそが"死神"の天野康景

 

彼女の弟子だから、という一言で片づけてしまう事も可能であるが、それにしてもあの強さは少し異様である

三征西班牙の副長、特務をいっぺんに相手取りながら無傷

そして聖譜顕装を受けても通常通り戦える等、その身体能力に関しては、ただ"強い"というだけでは説明がつかない点も多い

 

「情報によると、五つくらいの歳に元信公の内縁の妻に拾われ、事実上の養子として育ったっていうんだけどよ」

「不明な点が?」

「・・・アイツのそれ以前の情報が無い・・・つまり生みの親や出身に関する情報が全く入ってこないんだ」

「・・・意図的に"隠されている"と?」

「戦争孤児だった可能性も捨てきれないが、『どこで拾われた』のかすら情報が無いんだぜ?」

「うーん・・・」

 

三河消失を成し遂げた元信公の事だから、自分の子に関する情報等を秘匿した可能性もある

何か知られてマズい事でもあったのか、そもそも『天野康景』自身に何かあるのか

ベラスケスに調べさせてそこまでしか情報が入ってこないとなると、自国での情報収集は厳しいだろう

 

そしてベラスケスが気まずそうに

 

「大将、第十三無津乞令教導院、覚えてっか?」

「もちろん・・・」

 

第十三無津乞令教導院

三征西班牙を空ける事が多かったカルロス一世がその補填のために創ったとされる教導院

襲名者を養成するために創られたそこでは死者が出たりもしたらしく、最終的にはそこの子供たちの反乱で自壊した

そして自分の代になり、ベラスケスと連携してそういった教導院は全て廃止されたはずだが・・・

 

「あれがどうかしたのかい?」

「・・・噂を聞いたことないか?あれと同じようなことやってたっていう民間の組織の話」

「Tes・・・聞いたことはあるよ。ただそこは第十三無津乞令教導院と違って国に関係なく襲名者を排出して金銭を得ていたらしいけど」

「どうやらアレ、噂じゃないみたいだぜ?」

「!!」

 

六護式仏蘭西とM.H.R.R.国境沿いにあったとされるが、両国ともその関連を公式に否定し、聖連関係者も調査したが廃墟の様な建物がいくつかあっただけで、周辺住民もその件を全く知らず、その民間組織の存在は否定された

実際に存在していたとなるとかなりの大事だ

何せ民間組織が襲名者を排出するのだ

それにはやはり莫大な金がかかり、その資金源ともなるとやはり国しかありえない

 

「それは確かな話なのかい?」

「Tes・・・うちの調査チームを何人か派遣して周辺住民に聞いて回ったり結果、ある老夫婦から面白い話が聞けたらしい」

「・・・」

「十三年前、国境付近で大量の子供と、何人かの大人の死体、そしてリストが見つかったらしいんだ」

「リスト?」

「大量の子供の死体の名前が載ったリストだ」

「・・・」

「リストによると子供の年齢は最高が十二歳で、最低でも八歳くらいだったらしい・・・子供の死体にはいくつもの深い切り傷があり、大人の死体の方には独逸語で"彼らの死を忘れない"って刻まれてたって話だ」

 

セグンドの背筋が凍る

気分の悪い話だ

だが、そうなると、聖連関係者の調べと矛盾している

 

「どうやらウチの連中の話によると、聖連の調査団はロクに調べもせず軽く聞いただけで帰ったらしい」

「・・・」

「そしておかしな事に、調査団が二回来たらしい」

「・・・二回?」

「ああ、一回目は少数で調べられるだけ調べて、リストや証拠を持って行ったらしいんだが、二回目は証拠も何もなく手ぶらで帰ったってな」

「一回目が調査団じゃないってオチじゃないだろうね?」

「断定は出来ねぇが、二回目が本当の調査団で、何の証拠も得られなかったから口止め料を置いて帰った可能性がある」

「聖連は自分たちの失敗を隠すために・・・」

「多分な・・・それでその死体を見つけた老夫婦の話だと、リストにあった名前の数は四十二、そして見つかった死体の数は四十体」

「まさか・・・」

「一回目に来た調査団に、死体の数の不釣り合い・・・きな臭いと思わねぇか?」

 

セグンドにちょっとした緊張が走る

天野康景の話をしてわざわざきな臭い民間組織の話を切り出すベラスケス

 

「つまり君は・・・そのリストにあった名前の内、死体が見つからなかった二名のどちらかが彼だと?」

「俺の推測だけどな・・・もし襲名者を生み出すための組織に"教育"されたのが、『天野康景』だとすれば、あの身体能力の強さにも説明が付きそうじゃないか」

「・・・薬物や術式によるもの?」

「可能性は捨てきれねぇ」

 

だがそうなると

 

「十三年前のリストによると最低でも八歳・・・そうなると今の彼の年齢に合わない」

「それなんだけどよ・・・もしアイツの出自云々に隠された秘密が"そこ"だったとしたら?」

「「・・・」」

 

互いに顔を見合わせる

これは思ったより大問題かもしれない

 

「この話、他の皆には?」

「言ってない・・・不確定要素もまだ多いしな」

「Tes・・・これはここだけの話にしておこう・・・皆の混乱を招きたくない」

「りょーかい・・・」

 

気まずい雰囲気が流れるが、ベラスケスは天野康景に関して別方向で話を切り出す

 

「大将は武蔵の"死神"についてどう思ってんだ?」

「・・・三河での一件があるまで、武蔵にあんな戦力がいるなんて思わなかったよ」

「いや、そういう事じゃなくて・・・」

「Tes・・・わかってる」

 

溜息をつき、周囲に人がいないか見渡してから

 

「僕個人としてはね・・・あまり彼の事、責める気になれないんだ」

「・・・」

「確かに、彼は三征西班牙の学生を何人も殺した。僕は失う事が一番辛いと思ってるし、殺された学生たちの遺族の事を思うと心が痛むよ」

「大将・・・」

「でもね」

 

ベラスケスを見ず、壁に背を預けながら

 

「彼にだって大切な人がいたんだ」

「武蔵の姫か・・・」

「・・・僕たちも奪う側だったんだ・・・だからあんまり僕たちだけ被害者面して彼を非難することはあまりしたくない」

「・・・」

 

黙り込む二人

レパントの海戦で家族を失ったセグンドだから思えることでもある

ベラスケスはなるべくセグンドの意見を尊重した

 

「さっきの話もあるけどよぉ・・・あんまりそれは誾と娘っ子には言ってやるなよ?」

「Tes・・・わかってる、フアナ君はあまり"死神"の話に関してはあまりいい顔しないし、誾君に至っては宗茂君の事もあるしね」

 

ベラスケスは帽子を深く被りなおす

 

「そう言うベラスケス君はどうなんだい?」

「かく言う俺も、どっちかって言うと憎めなくてな・・・なんかアンタに似てて」

「僕に?」

「汚れ役を一人で担おうとする馬鹿なとこ」

「・・・」

 

セグンドは何も言えなかった

僕は別にそんな大層なものでもないんだけどな・・・

自分の場合は"無くす"タイプの人間だ

そういう人間が国を預かるという事は、国を無くせと、そう言われているのと同じだ

沈まぬ帝国を全責任を持って沈ませる

それが僕の役割だ

 

だが、天野康景に関してはどうなのだろう

彼が何を思って何を選択したのかを語るには、あまりにも彼の事を知らなすぎるのだ

先程のベラスケスの話が本当かどうかも不明だ

 

ただセグンドが思う彼との相違点に関しては

彼は自分と違ってちゃんと守るべき家族を守った事かな・・・

 

「・・・」

 

どうも最近、思考がネガティブになってしょうがない

話を切り替えるためにもセグンドは

 

「そう言えばあの娘からの手紙を預かってるんだって?」

「俺じゃないよ、娘っ子だろ?愛人からの手紙だとでも思ってんじゃないか?」

「ああ、最近叱られる回数が増えたのもそのせい・・・」

 

だが入口の方から出てくる人影があった

 

「誾君か・・・」

「Tes.総長、フアナ様が手紙を持って待っておられますよ?書類関係の仕事を手伝わせてもらっていたのですが、途中自分の義腕では向いていないと解ったので私室の方で義腕の整備を行っていました」

「すまないね」

「フアナ様が預かっておられるあの手紙は、愛人からですか?」

 

容赦無いな・・・!

 

「ち、違うよ!・・・あれは、長寿族の孤児からでね」

「長寿族?」

「Tes・・・レパント海戦での僕の唯一の戦果だよ」

「おい大将・・・俺たち救われたのは戦果じゃねーの?」

「僕が救った連中を一人残らずエロゲ制作チームに引き入れたのは誰だったか・・・」

 

セグンドと誾が半目でベラスケスを見るが、当の本人は知らんぷりだ

 

「あの海戦の時、僕の部隊は長寿族の多く住む島を解放してね・・・大部分をやられてしまっていたけど、あの女の子だけは、唯一救える事が出来た」

「ではその子が・・・その子は総長の事を知ってるんですか?」

「いや、伝えてないよ・・・一応僕が保護者だけど、保護者が自国の衰退を担う借金王だなんて知らない方が良いだろうしね」

 

力無く笑って見せた

 

*******

 

 

英国第四階層の海に突き刺さる輸送艦に、武蔵の外交艦が空気を押す音を立てながら接近していく

そして外交艦の舳先に一人の男が立っている

トーリだ

トーリは甲板の縁を走りながら

 

「今行くぜ!ホライゾーン!」

 

跳んだ

両の手に空中浮遊用の符をかざしているため、対空時間が長い

その様子を見ていた正純と二代が何かを話し合った後

 

「結べ!蜻蛉切!」

「ほへ?」

 

符が断たれて落下した

それを見た後、輸送艦に居たメンバーは何事も無かった様に

 

「作業続行!」

 

作業に戻った

輸送艦の上で康景と正純は接艦作業を見ている

 

「まさか九十度捻じれた相対なのに普通に物資輸送とかできるんだな・・・」

「輸送艦と外交艦の重力制御を連動すれば二艦の軸差も解消できるからな・・・」

 

正純が感心して見てる隣、康景の顔は優れていなかった

というより青ざめていた

 

「大丈夫か?」

「・・・今日外交艦に先生も乗ってるんだよな?」

「そのはずだが」

「という事は焼き肉か・・・」

「肉嫌いなのか?」

「違う・・・そうじゃない」

 

青ざめた顔で外交艦を見る

恐る恐る口を開く康景は

 

「『先生』『焼肉』そして『俺(給仕役)』が揃う事で生まれる化学反応がどんなものかお前は知らないからそんな呑気にしていられるんだ・・・」

「何だそのリアクション」

 

ここまで怯えている康景も珍しいな・・・

新鮮な反応に思わず微笑んでしまう正純だった

 

「あ、正純!康景君!無事でしたか!?」

 

浅間が、外交艦から走ってきた

 

「浅間・・・」

「大丈夫ですか?なんか疲れ切った感じですけど」

「そうか?自分ではよくわからんが」

 

閉鎖空間に居た者たち同士でも見ても、その違いには気づき辛いのだろう

他者から見れば疲れて見えるのか・・・

 

「・・・あの、康景君、皆よりも顔色が悪いんですが、大丈夫ですか?」

 

周囲より一層顔色が悪い康景に浅間が声を掛ける

 

「お、お前だけか?・・・先生とか、喜美は?」

「先生なら多分まだ輸送艦ですよ?喜美なら・・・」

 

背後に、と浅間が告げた瞬間だった

 

「あーら康景、アンタ思ったより元気そうね?」

「・・・お、お久し振りですね・・・そ、そちらもお元気そうで、な、何よりです?」

 

背中から飛び乗るように抱き着かれた

喜美の手と足が康景の胴体をホールドする

 

「あ、あのぅ、喜美さん?首の締め付けが強いと思うんですが・・・」

「問題ある?」

「・・・ありません」

「当然よねぇ?この賢姉に心配させたんだから、このくらいはされて然るべきよ」

「・・・心配させて悪かった」

「何よ、今日は随分と殊勝ね」

「三河の時も言われたし、流石に申し訳ないって思うよ」

「解ってるならよろしい」

「・・・お前の膝枕もいいけど、この状態だとオッパイが背中に押し付けられていい具合に・・・痛い痛い痛い!喜美さん!?ほんのジョークじゃないですか!首!首がぁあああ!」

 

・・・あれは絞められてもしょうがないな

鈍感男は死ね

そう思った正純だった

同じ事を思っているのか浅間も

 

「まあしょうがないですねー」

「浅間?なんか適当になってないか?まぁ同意見だが」

「あ、そう言えばトーリ君先に来ませんでしたか?」

「さっき下の方に落ちていったが・・・」

 

首を絞められている康景を正純達は愚か他の学生たちも見て見ぬふりをし始めた

 

「だ、誰か!」

「「・・・」」

「どいつもこいつも狂ってやがる!危険に陥っている仲間がいても助けないのか!?」

 

・・・自業自得だし、いいか、ほっといても

正純はそう判断した

 

「作業続行!」

「「jud.」」

「喜美、喜美!ギブ!ギブアップ!」

「~っ♪」

「ノォォオオオ!」

 

今日はコイツの意外な一面をよく見るなぁ・・・

だがその時、艦内に女生徒の声が響く

 

「きゃあああ!総長が!総長が海から!しかも股間にワカメを乗せて!!!」

 

******

 

艦内ではトーリが一度股間の上に乗せたワカメを無辜の人々に投げつけるという暴挙に出たため

 

「に、逃げろ!よ、妖怪ワカメ投げ機が来るぞ!」

「うわっ」

「おい!早く立て!ここで諦めたらワカメ(股間に乗せられた物)を食らうぞ!」

「お、俺はもう駄目だ・・・俺はいいから、早く逃げ・・・」

「乙、じゃあな」

「オイイイイイイイ!」

 

地獄絵図だった

そしてその悲鳴を駆け付けた正純たちは急ぎトーリを追いかける

 

「葵の狙いは何だ!?」

「長い間嫁と離れてたから嫁の胸揉みたくて発狂してるんじゃね?(適当)」

「・・・っていうかお前そのままで行くのか?」

 

康景が背負っている喜美を指さす

 

「最高にハイってやつよ♪」

 

喜美は喜美で楽しそうだった

康景は諦めた口調で

 

「・・・じゃあ何とかしてくれよ」

「・・・無理だなぁ」

 

正直羨ましいが、どうしようも出来ないものは出来ない

正純達はワカメによって被害が大きくなりつつある輸送艦内を走る

だがそうしている間にもトーリはいち早く"ホライゾン様の御寝所"と書かれた部屋に到達する

ゲス顔で指をクネクネさせながら

 

「へっへっへっへっへっへ・・・さぁホライゾン、目覚めのオパーイの時間だぜ!」

 

某泥棒の様にジャンプしてホライゾンに襲い掛かる

だが不意にホライゾンが身体を起こし

 

「破ッ!」

「何だその格闘家みたいな掛け声!」

 

トーリの股間を強打した

だが

 

「ふっふっふ・・・このミネラルたっぷりよく増えるワカメアーマーのおかげで無傷だ!」

「・・・」

 

どや顔で股間のワカメを見せつけるトーリに対しホライゾンは半目でワカメを取り去り

 

「破ッ!」

「ごふっ!」

 

今度こそクリティカルヒットした

膝から崩れ落ちるトーリ

 

「たまに康景様に教えていただく痴漢撃退術を役立てられる日が来ましたね」

「くそ・・・あの野郎、この事態まで想定済みだったとは・・・」

 

鈍い音が響くのと同時、正純達が部屋にたどり着く

 

「あれ?ホライゾン・・・大丈夫か?」

「ああ、康景様・・・この通り康景様に教えていただいた痴漢撃退術で何とか変態を撃退いたしました」

「よくやったホライゾン」

「jud!」

 

互いに親指を立てて満足そうにする

 

「よくやったじゃねーよ!ヤスお前ホライゾンに何て危ない技教えてるんだ!これじゃ迂闊にオッパイ揉めねえだろ!」

「まず揉むなよ」

「うるせー!ラッキースケベを地で行くお前に俺の気持ちがわかるか!」

「ラッキースケベじゃないし」

 

そこは自覚無いんだな康景・・・

正純はトーリに思わず同意しそうになった

 

「・・・まぁトーリは基本股間に一撃与えればおとなしくなるから、これからは他の女子にも撃退方法を教えていく事にするよ」

「オメーは俺の股間に何か恨みでもあんのか!?」

「その方が面白いじゃないっすかやだー」

「さ、最悪だ!ここに本物の外道がいる!憲兵さん!ここに外道が!」

「仮にここに憲兵が来たとして、まず捕まるのは全裸のお前だろうけどな」

 

なんかいつもの日常に戻った気がするなぁ・・・

いつものやりとりの後、ホライゾンは

 

「申し訳ありません、ホライゾン、諸所のリファイン中ですのでまたスリープに入ります。それでは皆様、グッナイ」

「ああ、グッナイ」

 

また眠った

 

******

 

丘の上を歩く姿がある

長衣の"傷有り"だ

輸送艦の墜落によってある墓所の地脈が乱れていないかを確認しに行くところだった

必要に応じて墓所の移設も検討している

 

丘を抜けた先、右側に大きく切れ込む道は入り江になっており、墓所はその右側にある

そのため見通しが悪くなっている

そのため墓所の方に目を向けようとした時

 

「あ」

 

忍者が向こう側から歩いてきた

互いに気まずい感じのリアクションをしつつ

 

「どうして・・・」

「あ、いや、向こうの剣が刺さってる墓所の様な所の地盤がおかしくなっているようで・・・それで状況を確認したのでそちらに報告に行こうかと」

 

忍者が簡易的なメモを見せてきた

・・・どうして?

 

「何故あの時、私を止めたのだ?」

 

忍者の介入を挟まないように早口で

 

「貴公は武蔵の第一特務だと聞いた・・・それほどの者であるならば、私の術式を理解していたはずだ・・・それを何故止めた?」

「自分、術式等には疎くて貴殿の術には気づかなかったで御座るよ」

 

何故己のしたことを否定する?

こちらがしたことを咎めず、ただ自分の不注意であったする

 

「何故損をしようとする?」

「・・・まぁ、自分の不注意で御座る」

 

忍者がこちらの横を通り過ぎるような一歩を踏む

これでいいのか?

自分の中に罪悪感の様なものを感じてしまう

しかしこの忍者の中ではこの話は終わっているのだろう

引き留めたいが、何を言えばいいのか迷ってしまう

 

―――自分が犠牲になればいいなどと、それではまるで・・・

 

そこまで思った時

 

「点蔵、墓所の方、もし可能なら地元住民と直して来たらどうだ?」

 

表示枠を通して輸送艦の方から声がした

 

*****

 

あれは・・・

"傷有り"は輸送艦の方から忍者の表示枠に連絡してきた者を見る

白いコートを着込んだその男は

 

「ヤス殿・・・」

「移設が必要かもしれないと言っていたが、実際に見てきたお前も手伝った方が効率よく進むだろう」

「それはそうかもしれないで御座るが・・・」

 

自分は、その男に見覚えがあった

武蔵が極東の姫を救った時、その活躍ぶりから教皇総長から"死神"と字名を付けられた男だ

その活躍は全国に知れ渡っているため、知っている者は知っているだろう

しかし、それだけではなく、まるで古い友人に会ったような、そんな懐かしい気分だ

だがどこで会ったのか、"傷有り"にはそれが思い出せなかった

 

「・・・」

「えっと・・・長衣の・・・"傷有り"さん?」

「え・・・自分か?」

「jud.貴方のご予定を聞いても?」

「墓所の確認と、補修又は移設の決定とその作業を行おうと思っている」

「ならそこの童て・・・忍者を連れて行ってください。貴方に先んじて墓所を確認した筈ですので役に立つと思いますよ」

「ヤス殿!?今なんて言おうとしたで御座るか!」

「てs・・・jud.」

 

Tesと言おうとして、judと言い直し、表示枠の向こうの男に同意する

はっとする様子の忍者

こちらから逃げようとした報いだと、"傷有り"はそう思った

忍者は抗議しようとするが

 

「自分も艦の方の手伝いを・・・」

「いや、こっちは人手が足りてるし、お前には墓所とは別の仕事も頼みたい」

「何で御座るか?」

「英国の近況とか、地元住民からの視点で情報を探ってくれ」

「・・・」

 

白コートの男の言い分も、それはそれで筋は通っている

しかし自分から言えることは限られているがな・・・

 

「馬鹿全裸も地元レベルの国家間交流は重要とか何とか言ってたから、総長命令だぞ」

「・・・本当にトーリ殿で御座るか?」

「・・・うん」

「絶対ヤス殿で御座るよ!」

「たまにはアイツも総長だってところアピールしなきゃと思って」

「ヤス殿の今までの言い方だと馬鹿にしてるようにしか聞こえんで御座るよ!」

 

そして一方的に話を終えられた忍者が項垂れる

その忍者の肩をたたき、行こう、そう合図する

 

*******

 

入り江に面した墓所

剣を墓標代わりに突き刺した墓所で、剣一本につき石が一つある

そしてそれぞれの合計は

 

「三百で御座るか・・・」

 

犬鬼達と共に剣の引き抜き作業を手伝っていた点蔵は、その数を確認した

点蔵が剣を引き抜き、犬鬼達が運搬、"傷有り"がそれを集める役目を担っている

犬鬼達は半使役精霊のため、使役するときは"価値ある物"を与える契約をしなければならない

共有認識がない彼らには一体一体指示を与えなければならないのだが、"傷有り"の元を行き過ぎたりしてしまう者もいる

・・・指示の仕方が悪いので御座るかな

契約数は大体三十、なのでそれぞれに"価値ある物"を渡さなければならないのだが、犬鬼達は鉱床を流れる地脈に多く存在するためなるべく小銭類が望ましい

しかし手元の財布を見ると

 

全然無いで御座る・・・あとはペンくらいしかないで御座るな・・・

 

試しに聞いてみた

 

「あのう・・・このコークスペンとか代価になるで御座るか?」

「犬鬼なめるなど」

 

直後、犬鬼二体がこちらの股間に拳大の石を投げ込んだ

 

******

 

"傷有り"は忍者が膝をつくのを見た

 

「どうした?」

「な、なんでもないで御座るよ?」

 

上ずった声で平気だと主張する忍者だったが何故かおもむろに立ち上がり、何度か飛び跳ねる

・・・あの行為に何か意味があるのだろうか?

ひょっとすると極東のしきたりか何かかもしれない、そう思った

沈黙が重かったので、いい機会だと思って聞いてみた

 

「先程の白コートの男だが・・・」

「ん?ヤス殿・・・康景殿で御座るか?」

「彼の事について一つ聞きたい」

「・・・まぁ自分が解る範囲であれば・・・」

「彼は、英国に縁がある人間か?もしくは英国に関係者がいたりは?」

「・・・それは多分無いで御座る」

 

言い切る忍者に、"傷有り"はさらに踏み込んで聞いてみる

 

「どうしてだ?」

「十数年前からの付き合いで御座るが、あの御仁は身寄りが無いで御座る」

「・・・天涯孤独なのか?」

「養子になる前の・・・自分の出生に関する記憶が無いで御座るよ」

「・・・」

「だから今の彼にとって本当の意味で家族と言えるのは幼少期を共に過ごしたホライゾン殿くらいで御座ろう・・・」

「・・・そうか」

 

"傷有り"はその話を聞いて

・・・なら別人か?

彼には見覚えがある、それは確かだ

しかしそれがいつ、どのようなタイミングで会ったのかは定かではなかった

こちらの素性を明かせば彼の方からコンタクトを貰えると期待もしたが、記憶が無いなら期待は出来ない

"傷有り"は彼個人から話を聞くという選択肢を諦めた

・・・でも妹なら、何か知っている?

そこまで思い、忍者を見る

忍者はこちらと話している間も剣を引き抜いている

 

「しかしよくそうも簡単に剣を引き抜けるものだな」

「これで御座るか?これにはちょっとしたコツがあるで御座るよ」

 

忍者が実演して見せる

 

「ここは墓所になる前に一度整地されたで御座るよな?」

「ああ、その通りだ」

「整地された地面というのは、表面は固くとも中は緩い状態で御座る。それが風雨等で固まり、地面に刺さった剣を嚙んでしまい、抜きづらくなるで御座る・・・なのでこうして一度剣を刺してから引き抜くと・・・」

 

あら不思議と言わんばかりに剣が軽く抜ける

それを見て感心した"傷有り"が

 

「貴殿ならあの王賜剣二型も抜けるかもしれないな」

「それは無理で御座ろう、聞くところによると術式やらで補強されてるとも聞くで御座るし、王族であるメアリ様とやらでも抜けなかったので御座ろう?」

「・・・"重双血塗れメアリ"は不出来な女であったからな」

 

******

 

点蔵は、『不出来』の言葉の真意を測り損ねた

 

「不出来とは?」

「メアリは一度、女王エリザベス暗殺未遂事件の際、その裁判で王賜剣二型を抜く機会が一度だけ与えられたが結局抜けなかった」

「・・・王の器ではなかったと?」

「メアリ・スチュアートとメアリ・テューダーの二重襲名ともなれば王賜剣ももしかして期待されたのだが、結局は抜けなかったのだ・・・更には二人の歴史再現を果たすために四重婚するような女だぞ?」

 

そこまで話を聞いて、素直な感想は

 

「大変で御座るな・・・」

 

それしか言いようが無かった

 

「何故だ?その生き様は、英国には必要な物なのだぞ?その行い、処刑は歴史再現上、必要な物であり欠かせないものであるのだ、それを大変とは―――」

「だからこそ大変で御座ろうよ」

 

良い表現が見つからない

だがそれに似た生き方を選んだ馬鹿を、点蔵は一人知っている

 

「歴史再現に守られているとしても、それは損なわれる生き様で御座る。歴史再現でいくつも婚姻や大量の粛清、政治的混乱を招くと解っていてそれを選ぶなど、よほどの覚悟があったで御座ろう・・・あらゆる損を自ら引き受けるのは、やはり大変で御座ろう」

 

もっとも、自分が知る馬鹿は、『損なわれる』のではなく、『損なわせる』生き方であり、『奪う』生き方だが

しかしこの人物が言う"二重血塗れメアリ"と我らが馬鹿代表には違いがある

馬鹿が必要に迫られて止むを得ず選んだ事に対し、"二重血塗れメアリ"は自ら損を受けるとわかった上で選んだ道だ

点蔵はその生き方に、大変だとしか、言いようが無かった

 

「・・・なら、そんな馬鹿な道を選んだのは何故だと思う?」

「自分が引き受けねば、誰かが損をするからで御座ろう」

 

自分の言っていることは綺麗ごとだ

そう思いながら

 

「自分が損をする事によって、他人が損を得ず、得られるものがあるのなら、大変で御座ろうとも自分の中にだけ認められる誇りとして、満足できる・・・ただ、そうと解っていても、辛くなる時は御座ろう。だからそういう時、味方になってくれる御仁がいればよう御座るな」

 

ウチの馬鹿には、トーリや喜美を始めとした味方が多くいる

だから"二重血塗れメアリ"にも、辛い時、傷ついた時に味方になって傍に居てくれる人間がいれば、多少は救われるのではないだろうかと、点蔵は思う

 

だが、"傷有り"が黙ったのを見て

 

「いや・・・過ぎた言葉で御座った」

 

自分が解った様な口ぶりで説いて良い事ではない

点蔵はそう思って反省した

反省したのだが不意に

 

「はんせいするど」

 

犬鬼が自分の股間にもう一撃を叩き込んだ

不意の攻撃にまた膝から崩れ落ちる

 

「ふぐっ」

「大丈夫か?」

「な、何でもないで御座るよ?」

 

疑問形になってしまうのはこちらが嘘をついてしまったからなのだが、その様子を心配したのか"傷有り"が近寄ってきた

早く復帰しないと"傷有り"に情けない姿を見せることになってしまう

だが、"傷有り"は

 

「!」

「危ないで御座る!」

 

剣を抜き、窪みになったところに足を引っかけたのだ

前に倒れ込む"傷有り"に対し、点蔵は腰を浮かせ、足から滑り込むようにして地面と"傷有り"の間に入る

そして"傷有り"の身を抱いたまま剣の置き場と反対側に倒れ込む

要人を庇う姿勢を取るのは点蔵にとっては容易い事だ

向こうにもダメージは無いだろう

だがよく見ると、"傷有り"の長衣が剣の柄に引っかかっているのが見える

・・・庇うのが遅かったで御座るか!?

怪我をしてないか眼下の"傷有り"を確認する

そこには

 

―――――金髪巨乳!?

 

点蔵のストライクゾーンど真ん中の女性が、目の前に倒れていたのだ

 




某型月ゲーム風主人公紹介※本編無関係(のはず)につき読まなくても良いです

天野康景
性別 男性
真名 ???
身長・体重 177㎝ 65kg
属性 混沌・悪
筋力 B 耐久 C 敏捷 A+ 武装 C 幸運 E 術式 ?
保有スキル
鈍感:A
文字通りの意味。周囲の女性陣を苛立たせる代わりに女性陣の攻撃力を(イライラで)上げる
尻派:B
胸より尻が好き。同ランクまでのオッパイからの誘惑を無効化する。ただしB以上のオッパイの誘惑は半減するに留まる
器用貧乏:EX
修練によって得た戦闘技術。様々な武器を使いこなし、ナイフとフォークですら武器として扱える(食事中に襲われても何とかなる)
料理:A
飯が美味い

術式
???
ランク:? 種別:? レンジ:0 最大補足:1人
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