境界線上の死神   作:オウル

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※修正・加筆しました


三話 前編

気が付けば大体世話になっていて

 

気が付けば大きな存在になっていた

 

配点(よくわからない人)

 

――――――――

 

本多正純は焦っていた。

 

理由、寝坊。

 

「がぁあああああ!」

 

正純は連日の疲れが祟り、初等部の講師のバイトがあるのにも関わらずその日寝坊した。

ほぼ半裸で寝ていた正純は急いで飛び上がりバイトの準備をし朝飯も食べずに家を出る。

寝ぐせも直さずに急いで出てきたので正純が初等部のクラスに着いた時には結構な爆笑が生まれた。

 

「せんせぇーねぐせー」

「えっ!あー!」

 

急いで寝ぐせを直す講師の授業は、なんだか締まりが悪かった。

 

午前の講師のバイトを終えた正純は、正直ギリギリなラインに立っていた。

 

御飯、水、学費、御飯・・・。

 

朦朧とする意識の中、正純は御飯と、いつも世話になる康景の事を考えた。

 

康景・・・死ぬ前に一度・・・会い・・・た・・・か・・・った。

 

昨晩から何も食べられなかった正純は急いで養分を補給すべく、行きつけの店にまで足を延ばしていたが、ついに意識を失い、路傍で倒れた。

 

******

 

「おや、あの方は」

 

一人の自動人形が、その様子を見た。

彼女は黒藻の獣に水をやっていたが、後ろの方で物音がして振り向けば常連客の本多正純が、拾った棒を杖にして歩いていたようで倒れた正純の脇には棒が落ちていた。

 

それを自動人形であるP-01sは無駄のない合理的な思考でこの様子を判断した。

 

正純様がいつも通り飢餓状態で店の前で倒れましたか・・・。

 

故に、今できる最善の判断は、

 

「店主、正純様がまた飢餓状態でご来店しました」

 

こういう時は、迷わず店主に言う。

これがここ一年でP-01sが学んだことだった

 

******

 

「正純さん、アンタもうちょっといいバイト探した方がいいよ、男装女子が行き倒れてたらファンも付かないよ」

 

ものすごい勢いでパンを平らげる正純を、若干引き気味に青雷亭店主は注意した。

正純は顔を赤くして恥じ入るように言う。

 

「いや、ファンも何も私の性別に気づいている人なんて、教導院の同級と店主、後は父の知り合いくらいしか・・・」

 

店主にだって夏に行き倒れて脱がされるまで気づかれなかったくらいだしなぁ・・・。

 

自分で言ってて悲しくなったので、正純は性別の話から別の話題に切り替えた。

 

「まぁ確かにもっと割の良いバイトなら安定して食費も生活費も稼げるんでしょうけど・・・生憎私にはこれくらいしか取り柄がないので・・・」

 

父親との関係性が微妙なのでこの辺は何ともしがたいものがあり、なかなか変えられなかった。

 

「正純さん、もうちょっと周り頼った方がいいよ」

「あ、いえ、その・・・康景辺りには結構、世話になっているんですが、逆に世話になりすぎたと言いますか・・・」

 

気まずそうに正純は己が同級生に世話になっていることを告げた。

要するに、毎度毎度世話になっているのでこれ以上はあんまり迷惑を掛けたくない、というのが本音である。

その考えを見透かしたように、店主は康景の事を話す。

 

「康景なんかは、そんな事気にしないと思うけどねぇ」

「そう・・・なんですか?」

「あいつも食事関係で苦労してるからねぇ。あいつが師事してる人、今で三人目なんだけどね、皆私生活はズボラでその上酒豪で大食いだから食費がかかるって嘆いてたよ。だから食事で苦労している人を見るとほっとけないのさ、あいつは」

「へ、へぇ、そうなんですか・・・」

 

知らなかった。

結構康景とは一緒に居る気がしてたが、今までで三人に師事してきたという話も、その関係で食費に苦労している事も話してもらったことは無かった。

自分は恩人の事でさえあまりよく知らないという事実を改めて痛感する。

 

見るからに落ち込む正純を、フォローするように店主が続ける。

 

「まぁアレはあんまり自分の事話すような人間じゃあないからねぇ、正純さんが知らないのも無理はないさ。私はただ単に付き合いが長いってだけで」

「その、店主?できればあの、今度あいつにお礼をと考えているのですが、あいつが好きそうなものって何ですかね?」

「うーん・・・あいつが好きそうなものか・・・そういうのは私よりトーリとかの方が詳しいと思うけど、アレは基本人からの贈り物って後生大事にしておくからなんでも良いと思うよ」

 

なんでもといわれても・・・。

 

というか自分でお礼云々言ったがそもそも元手になる資金が無くて困っているという話をいましたばかりだった。

 

あぁまいったなぁ金がないなぁ(゚д゚lll)

 

「そう言えば正純さん、これから生徒会の仕事かい?」

「ええ、副会長として学長を三河まで護衛する予定です。私が護衛というのも頼りない話ですが、やっぱりそれでも学長を一人歩かせるよりは恰好がつくかと」

「真面目だねぇ、どこかの馬鹿とは大違いだ。どうして副会長じゃなくて生徒会長に立候補しなかったんだい?」

 

理由は簡単、総長の葵が立候補したからだ。

自分より武蔵を熟知しているし、なにより人脈の幅が広い。

一方で自分の場合だと、まず女だと理解してくれている人がまず少ない、というのもある。

 

「総長である葵が立候補しましたし、彼の方が人となりがわかっているでしょうしね」

 

一年も経って未だにクラスに馴染めていないような自分がなるより、アイツがなったほうが教導院の生徒会と総長連合の分裂も起きないし、色々都合が良いのも事実だ。

 

自分が襲名争いに失敗した過去や三河の事、父や母の事を考え、自分の不甲斐なさに嫌気が指し、正純は少しだけ寂しい顔をした。

 

「・・・正純さん、康景やクラスの皆と仲良くなってみたいかい」

 

店主に、康景と仲良くなってみたい?と問われ顔が熱くなる正純だったが、冷静に今聞いたことを整理すると「康景と」、ではなく「康景や皆と」だ。

 

早とちりして自爆してはいけない・・・素数を数えて落ち着くんだ・・・。

 

「べ、べつに親しくないわけでは・・・」

「じゃあもっと親しくなってみたいかい?だったら"後悔通り"を調べてみな」

「"後悔通り"?」

 

聞いたことはあった。

教導院の正面、自然区画の一角を通る街道。なんでそんな呼び方をされているのか、具体的には知らなかったが誰かがそんな言い方をしたのを覚えている。

 

「あそこには正純さんが知らない事実がある」

「あそこには確か石碑があったハズ・・・」

 

ホライゾン・A、この名前が何を指すのか、正純は解らなかった。

 

「何だ、そこまで知っていたらあと一歩だよ、正純さん」

・・・

・・

正純は店から出るとき店主からパンと飲料水を貰い、店主にいつか必ず返す、と誓って店を出た。

 

ホント、迷惑かけっぱなしだな・・・私は・・・。

 

申し訳ない気持ちで押しつぶされそうになる。

遠くで町の時報が鳴る。

 

「・・・もう昼か」

 

そういえば今日は東が聖連から戻ってくるんだっけ・・・。

 

*******

 

教導院、三年梅組の教室前で二つの影が立っていた。

一人は白タイツで教頭兼武蔵王のヨシナオと、一人は小柄で帝の息子である東。

二人は教室に入ろうとした所でここの担任から、

 

ちょっと待って、と言われ、それからすでに十分以上が経った

 

一体何をしているのか?

 

東君が久しぶりに武蔵へ戻ってきたというのに、出迎えもなくあまつさえ教室の前で待機させるとは・・・全く冷たい連中である。

 

しかし東に言わせれば、

 

「聖連からあまり騒がれてはいけないと言われていますから・・・それに余自身もどっちかていうと静かな方が気楽でいいですし」

 

全くここの外道連中も少しは東君を見習ってほしいものである。

ヨシナオは外道連中への怒りを東の優しさで緩和し、ただひたすら待った。

しかし、中から聞こえてくるのは、

 

「ばっか、ヤス!おめぇそこでそんなの入れたら拡がっちまうだろうが!(壁の穴が)」

「いやトーリ、ここで入れないと後味悪いだろ(見た目的に)」

「ら、らめぇー!」

 

という奇妙な台詞だった。

 

し、神聖な教室でいったい何をしているんだぁー!

 

さっさと開けろと心の中で願っていたヨシナオだったが、今では逆に開けないでくれと心の中で何かに懇願していた。

ヨシナオは聖連から派遣されてきた王であるが、仮にも教頭という立場。

この戸を開ければ後悔する、しかし、開けて中の状況を確認し場合によっては注意しなければ教育者たるもの失格である。

 

選択肢は二つに一つ、開けて地獄を見るか、スルーして教育者としての志を捨てるか

 

答えは決まっている。

 

麻呂は王でありこの教導院における教頭なのだ、過ちは正さねばならぬ!

 

意を決して戸を開けると、教室の真ん中で馬鹿が全裸で立ち、数人が壁に空いた穴をどこからか持ってきた板で塞ごうとしていた。

 

「・・・( ゚д゚)」

 

やっぱり後悔した。

 

*******

 

時は数十分前に遡る。

二人が来る少し前、教室では普通に授業が行われていた。

 

『普通』の定義は人によって変わるけれども・・・

 

オリオトライの授業の特色は必罰主義と御高説にある。

前者は、授業に答えられなかった者は自己申告した厳罰内容をしなければならなず、答えられれば内容の厳しさに応じて授業点数も高くなる。

 

後者は言ってしまえば先生の代わりに授業をする。

 

指された鈴は御高説で先生の代わりに授業をしたのだが、エロゲの会員特典欲しさにアンケートまで書き込んだトーリが、

 

「心配すんなベルさん、危なくなったら俺が代わりに殴られてやるからさ。ダイジョーブダイジョーブ少なくとも俺ぁエロゲの主人公の名前を点蔵にして金髪『貧乳』キャラ攻略の最初の分岐点でバッドエンドに叩き落すまで死ねねーから」

「なんで拙者で御座るか?!拙者でやるときはせめて金髪『巨乳』相手でお願いするで御座るよ!」

「心配すんな点蔵、二週目はウルキアガの名前で『妹』キャラ、三週目はヤスの名前で『後輩』キャラ攻略するから」

「貴様ぁ!拙僧の場合は『姉』キャラ攻略に決まっておろうが!馬鹿め!」

「さらっと俺を入れるなよ・・・あとなんで後輩キャラ?俺の場合『教師』キャラだろ・・・」

 

と騒ぎ始めたためにオリオトライが若干イライラし始め、着々とフラグを立てていく、

 

「あのねぇ、トーリ・・・今朝から死亡フラグ立てまくってるけどさあ、死にたいの?馬鹿なの?死ぬの?」

「ひっでーな!先生、俺ぁ告白するまで死ねないって言ってんだろ!それとも何か?!ヤンデレなのか?!俺はまだヤンデレの領域まで行ってねーぞ!」

「ははは、せんせー今ヤンデレとか抜きにしてとりあえず殺したいわ」

 

トーリは手を打ち、担任を無視し皆を見渡して言った。

 

「よしじゃあ皆!今日は俺の告白前夜祭ってことで集まって騒ぎます。場所はここでゴーストバスターでもすっか!」

「必要経費で落ちるな・・・ならばよし」

 

良いのかよ・・・みんなが言ったがシロジロはまた株価チェックに勤しんだ。

トーリの台詞に顔をしかめたのは浅間だった。

 

「トーリ君、今時分はちょっとシャレにならないかもしれません」

「ほえ?」

「ここ最近怪異発生率が上がっていますし、もしかしたら本当に寄ってくるかもしれませんよ」

 

心配そうに言う浅間の忠告に対し、反応したのは康景だった。

 

「だったら整調祓いしたらいいじゃないか、というより智がいれば大抵の怪異は『ズドン』で祓えるし、生徒会活動の一環という名目なら夜の学校に集まる許可が下りやすいんじゃないか?」

「んー、実は先生もそろそろかなぁと思って宿直入れといたんだけど・・・」

「そうなんですか?」

「決まりじゃねぇか、よし、俺たちで幽霊探しだな!浅間の『ズドン』もあるし何も怖いもんはないぜぇ!」

「ちょっとトーリ君?さっき康景君もさらっと言ってましたけど、私を最終兵器みたいに言うの、止めてもらえませんか」

 

トーリ→( ゚Д゚) 

康景→( ゚Д゚)

 

その言葉にトーリと康景は顔を見合わせ、言った。

 

「「え?違うの?」」

「違います!」

 

今夜は幽霊退治を理由にした告白前夜祭で決まり、皆がそういう空気になった。

 

「じゃあ、代わりに各教室の護符の入れ替えとかよろしくねぇ~、先生宿直室で神酒処理してるから」

「「アンタ最低の先生だ!!」」

「まぁそれはそれとして、トーリ、厳罰ね」

 

皆の視線が集まる中、オリオトライは頭を掻きつつ、

 

「さっきの鈴の説明、北朝の独裁開始は1413年なの、ちょっとしたミスねぇ」

 

ちょっとしたミス、その言葉にビクッと肩を震わす鈴。

対するオリオトライは「大丈夫大丈夫問題ない」と軽く手を振った。

 

「まぁその後の説明でカバーできてるし、そもそも御高説に関しては厳罰は無しだし、鈴はおk。でもさぁ」

 

ゆっくりとトーリの方に振り向くオリオトライ。

 

「殴られるなら任せとけみたいなこと言い出した馬鹿がいたわよねぇ・・・」

 

ついにフラグを回収したトーリだった。

 

「トーリの今月の申告厳罰は・・・とりあえず脱ぐ」

「気のせいかな、トーリ、前もこんな感じの厳罰内容じゃなかったか?芸人の割に意外とネタがないn「こまけぇこたぁいいんだよ!」

 

文句を言いつつ、ノリノリで脱ぎ始めた。

 

・・・教壇の上で

 

******

 

そして今。

 

隣の教室で授業をしている三要は、壁が砕け散る破砕音とともに自分たちの教室に飛び込んできた馬鹿を見た。

混乱する教室内、一人の女生徒が叫ぶ。

 

「せ、先生!早く何とかしてください!」

「ふぇぇ、なんとかって・・・」

 

三要はテンパった。

教員志望者の専門授業でも、変態の取り扱いなんて教わらなかった。

 

どうすればいいんですか?!

 

周囲の期待と変態への処理に、ものすごい量の汗が噴き出る。

とりあえず目の前に転がる変態に近寄り、腰を落とす。

 

「あの・・・大丈夫d「うおおおマジびっくりした!生徒蹴るなんて先生のやる事かよ!」

 

トーリが急に飛び上がったので腰を落としていた三要の顔の前にトーリの腰にぶら下がっているモノがおかれた。

 

「あ・・・あぁ・・・」

「ん?あ三要先生じゃん、どうしたんだよ、そんな怖い物でも見たような顔して?」

 

三要は気絶した。

 

*******

 

その後の康景は色々走った。

三要のクラスにいる馬鹿を回収しに走り、康景は三要のクラスに謝罪。

馬鹿を連れ帰ったあと、担任に「この後東来ますよね?」と言ったら、穴を塞ぐための何かを持ってこい、と言われたので窓から飛びだして町で木材を確保。

その後穴を塞ごうとしてたら東と共に教頭が来た。

 

「・・・( ゚д゚)」

 

扉を開けた教頭がこんな顔で突っ立っていた。

それに対し先生が「あっ、やっべ」と言って開けられた戸を閉じ、巨体のペルソナ君とロリコンの御広敷に穴を見せないように立たせ教頭に穴を見せないようにした。

東を招き入れたとき、教頭は、

 

「何だね、あの二人は、まさか穴を隠すためのカモフラージュじゃあ・・・」

「何言ってるんですか王様?穴なんて開いてませんよ?大丈夫ですか?あの二人は・・・そう、これから物理の時間で体積の大きい者が殴り合ったらどうなるかという実験を・・・」

 

教頭は絶対巨体二人の後ろの穴に気づいたが、先生は良い訳にすらなっていない適当発言で教頭を追い出した

 

先生ぇ・・・殴り合う実験って、どんな実験なんですか・・・。

 

心の中で呟く康景だったが、別に言わなくても良いことなので諦めて席に座った。

慌ただしく過ぎていく教室の中、窓の外を見て思った。

 

そろそろ三河かぁ・・・

 

******

 

白の空の下、正純は奥多摩艦首にある墓所に来ていた。

 

こんな時間にここに来るのは初めてだな・・・。

 

正純は奥多摩艦尾部にある教導院の方を見た。

 

「そろそろ四限目も終わりか」

 

皆どうしているだろうか、一年くらいの付き合いでしかないが皆の人柄的なものは何となく把握した(ハズだ)が、なんとなく付き合い方に距離が出来てしまったためいまいち現状の武蔵について理解しきれていない。

 

後悔通りや、ホライゾン・Aという名前、それらが皆にどう関係していくのか。

これからわかっていかなければならないことが多すぎる。

 

これからの事、今までの事を考え、母の墓に花を供え、墓参りを終え、顔を上げると、

 

「P01-s・・・」

 

そこには見知った顔が立っていた

 

 




やっと東京喰種:re全巻揃え終わりました(現実逃避)

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