境界線上の死神   作:オウル

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睡眠時間が足りてない気がする今日この頃、皆さま、如何お過ごしでしょうか



二話 後編

生きていくうえで重要な事

 

それは信頼関係

 

配点(英国突入?)

 

――――

 

「俺たちが仲間見捨てるなんて事するわけないだろう」

 

ダッドリーは"武蔵の死神"が言った言葉を聞いた

ででで出たわね、"死神"・・・!

三河での一件では、"西国無双"と互角以上に渡り合い、一人で大勢を相手にしてなお無傷

さらに聞くところによると頭の回転も速く、政治系にも明るいマルチな才能を持つという話だ

だが

 

「おいヤス!原作でいったらそこ俺の台詞だろ!出番取んなよ!」

「原作?出番?お前はいったい何の話をしている?」

「しらばっくれてんじゃねーぞ!」

「まぁまぁ落ち着けって、お前アニメと原作とでいっぱい活躍してたじゃん?」

「それとこれとは話が別なんだよ!ちゃんと台本通りやれよ!」

「お前も細かいよなぁ、今時アドリブ入れなきゃやってけないよ?」

 

何の話だ

勝手に介入してきて勝手に話を別の方向に持っていかれても付いていけない

 

・・・女王陛下もなんでこんな男に御執心なのかしら

 

こちらを無視している馬鹿二人のコントが終わり、"死神"の代わりに"全裸"が出てくる

 

「な、何故全裸?」

「ゴホンっゴホンっ・・・いいか?・・・えーっと・・・早く用件言えよ!」

 

ダッドリーは気が遠のいた

痩せすぎのせいで高血圧を患っている

ここで怒って相手のペースに乗せられてはいけない

 

「あ、アンタ達が仲間を見捨てるか、って話よ」

「え?ああそりゃ大丈夫だよ、いいか?よく聞けよ」

 

かっこつけてポーズを取りながら

 

「いいか?俺は決めてんだ―――絶対に誰も見捨てねぇってな!」

「御広敷でも?」

「お、おう」

「ネシンバラでも?」

「助ける助ける」

「点蔵でも?」

「・・・うん、助ける」

「トーリ殿!?なんで自分の所だけ間を空けるで御座るか!?」

「俺は?」

「お前まず捕虜になることがありえねぇじゃん。そもそも捕まったところで一人で切り抜けるだろ?」

「おいおい、何か俺ないがしろにされてない?お前ホントは俺がどうなったって良いって思ってるだろ」

「ホントにそんな事思ってたらこうやって漫才やってねぇよ」

「「へへへへへへへ」」

 

なんだこの茶番

 

「まぁそう言う事だ!いいか?そこにいるナルゼはもうちょっと根性ある女だぜ?」

 

途端、目の前の魔女が右手を振り上げた

・・・何をする気!

"巨きなる正義・旧代"に対し目の前の女を撃てと命令する

だが不意に魔女が笑った

 

******

 

「残念ね、ここで退場なんて」

 

魔女が笑う

しかしそれに構わずダッドリーは無数の矢を放たせる

だがそれと同時、背後の武蔵中央側から自分が放たせた矢より速い物が来た

・・・杭!?

先端が潰れている矢杭が、魔女を吹き飛ばした

その矢が来た方向、右舷二番艦の牽引帯上にいる女性徒の影を見た

 

「ううううう噂の狙撃巫女!?」

「誰が狙撃巫女ですか!」

 

*****

 

浅間は全身の整える中でナルゼをふっ飛ばしたことに手ごたえを感じていた

位置、風、相手のよくわからない聖術や聖譜顕装の効力を抜けて、ナルゼをその場から離脱させるためだ

先程、康景とトーリが馬鹿な茶番劇をやって敵から目を逸らしている間にナルゼから通信文で自分を吹き飛ばすように指示を受けていた

矢が激突の瞬間自ら砕け、光の圧となりナルゼを吹き飛ばす

荷重があるため、あまり浮くことは無く、けれども勢いを持って転がっていく

 

「(普段から康景君撃っておいて正解でしたね・・・!)」

 

本来の巫女の仕事は禊であるため人を撃つ事ではない

康景はリアルアマゾネスの教えを直に受けているターミネーターだ

あれは例外の範疇、問題ない

康景にいくら撃っても当たらないので最近では加護の他にちゃんと自分で風を読んだり気候や気温も考慮して撃つようになった

そのおかげで難なくナルゼに当てることが出来た

 

吹き飛ばされていくナルゼを追撃するようにダッドリーは聖譜顕装でナルゼを追撃するが

 

「・・・半竜!?」

「熱烈歓迎異端奏者ぁああああああ!!」

 

ウルキアガが荷重をもろともせずダッドリーへ突っ込んだ

 

*********

 

ダッドリーへの対抗のため、武器も持たずに突貫するウルキアガ

距離が一瞬で詰まり、ダッドリーが右手を振るおうとするが間に合わない

このまま一気に倒そうとしたが、不意に横から

 

「Mate、まだ危機ではないよな?このくらい」

 

白タイツの靴底が飛んできた

ジョンソンがクラウチングスタートの体勢から一気に距離を詰めてきたのだ

 

「謳え言葉よ!」

 

ウルキアガの肩に右足をかち当てながら

 

「佇む彼女の前を、風よ、人影として通り過ぎろ!」

 

足裏の活版印刷機が鉄印の文字を宙に書き込み、半竜を左側へ吹き飛ばす

だがそれと同時、半竜の背から飛び出てきた影があった

 

「you・・・ガリレオ教授を倒したノリキと言ったか!」

「解っているなら言わなくていい」

 

口を紡いで先程の半竜が吹き飛ばされた方を見る

ウルキアガがナルゼをより安全な位置にまで運んでいた

 

「成程・・・!今の攻撃を囮にして魔女の救助と戦士の運搬を担ったか!」

「戦士じゃない・・・労働者だ」

 

ノリキが告げる

ジョンソンは辺りを一度見渡し

 

「てっきり"死神"が出張ってくると思っていたが・・・ここに来ないという事は、彼、今あっちの輸送艦かい?」

「あの馬鹿に何か用か?」

 

ジョンソンはノリキの攻撃を避けながら

 

「いやなに・・・我らが女王がちょっと彼に話があるみたいでね・・・できれば一度直に会っておきたかったが」

 

そこまで言われ、ノリキは考えた

妖精女王があの馬鹿に何の用だ・・・?

 

******

 

転倒と衝撃で痛む身体を持て余しながらナルゼは戦場を見た

 

「よく来たもんねぇ」

「貴様が連中の術式を暴いたからな」

 

身を起こそうとして身体が痛み、翼にも力が入らず全身が怠い

くそっ・・・これじゃあまるで・・・

ナルゼは悔しそうに顔を歪ませる

ウルキアガは気遣うように無言で前に出る

身体も動かず、戦闘にも参加できないようでは、役に立てない

ナイト抜きでもやれることを証明したかったナルゼは悔しさで顔を歪ませる

何より康景の負担を少しでも減らしたかったのに、これでは自分は荷物以外の何ものでもない

ナルゼは目に溜まった涙を拭い、一人つぶやく

 

「くそ・・・」

 

戦闘はまだ続いている

 

******

 

戦場に康景の表示枠を通して正純の声が響く

 

「皆!あと二分耐えてくれ!周回軌道に入ってしまえばもう英国が武蔵を止めたところで完全な勝利には至らない!」

「you・・・戦場の意味付けだな?」

 

ジョンソンはノリキの攻撃を避けながら宙に文字を書きつつ

 

「舞い上がってしまう」

 

突如としてジョンソンが足を乗せた大型木箱が舞い上がり

 

「軽いわね」

 

ダッドリーが聖術でそれを払いのける

そして先程ダッドリーが聖譜顕装で放った矢を一本広い

 

「ここここれにだけ"分け与え"て頂戴!」

 

次の瞬間、品川が激震した

"品川"が艦内放送で警告する

 

「―――その攻撃は危険だと判断できます!―――以上!」

 

*****

 

"品川"の悲鳴にも聞こえる台詞に対し、武蔵側として二つの姿が前に出る

ジョンソンに対してはノリキが改めて相対し、浮き上がってるセシルにはウルキアガが向かう

ウルキアガの祖先は高荷重地域の探索などを行っていた種族だ

その能力はウルキアガにも引き継がれており、荷重の力を無視して進む

 

「皆大丈夫でしょうか?」

 

武蔵野と品川を結ぶ太縄通路の上で戦場を見ていた浅間は横にやってきた喜美に言った

喜美は自分の胸を左腕で支えながら

 

「半竜とかは元々神々の時代に高重力惑星や領域での生存目的のために種族的な改良をやってきた連中でしょ?こういう時には優秀な切り札じゃない」

 

それより、と浅間の肩をたたき

 

「こんなところに居てもアンタすることないんだから、別の場所に行ったら?」

「いや、でも・・・」

「この狙撃女め、アンタ色々撃ってヒャッハーしたいのは解るけど、状況的にもう撃ってるような場合じゃないのよ?とっととここから離れなさい」

 

茶化すように言う喜美に、否定したかったが

 

「・・・喜美は何もしないの?」

「だって私、一般生徒よ?」

 

喜美はしれっとした態度で続ける

 

「ま、ノリキも一般生徒だけどね、そもそも私、戦闘力無いし」

 

それに

 

「アンタだって巫女なんだし、基本戦闘には介入しないハズでしょ?無理に関わろうとしても後が辛くなるだけよ?」

 

喜美は遠くを見ながら

 

「まぁ戦闘力という意味では副長クラスの康景も、本来なら一般生徒だしね」

「そ、それはそうですけど・・・」

「皆解ってるのよ、康景の負担を少しでも減らさないといけないって」

 

言われ、浅間は思った

 

「さっきの嫌気の怠惰の件・・・心配ですか?」

「全くよ、流石の私でもアレは少しイラッと来たもの・・・本人はもっとイラついてるんじゃない?」

「三河の時もそうでしたけど、抱えてる物が人より多すぎますよね・・・康景君」

 

今回の戦闘は皆、康景の事を心配した上で、彼の負担を減らそうとする意味もあるのだろう

ナルゼの無茶も、それが本音じゃないにしろ少なくともそう思ってたはずだ

 

「そういう話、康景君としないんですか?」

「あの馬鹿、女の気持ちに気付かないで放置するような鈍感のダメ男だけど、人に心配かけさせないように自分一人で抱え込むような馬鹿よ?誰かに言うような奴じゃないわ」

 

深く溜息をつく喜美

 

「そっちの方が逆に心配するのにね・・・」

「・・・前々から聞きたかったんですが、喜美って今でも康景君の事好きなんですか?」

「当たり前じゃない、好きよ?あ、でもlikeじゃなくてloveよ?ここ重要」

 

康景君も大変ですね・・・

苦笑いする浅間

多分先生とトーリを除けば一番仲が良い喜美がそう言うのだから、康景は何も言っていないんだろう

だがそれにしても、康景と喜美が交際関係にあった事に今でも意外性を感じている浅間は聞いてみた

 

「・・・康景君とまた付き合ったりしたいですか?」

「何てこと聞いてるのこの淫乱巫女!当たり前じゃない、私にとって一度目の破局はあの馬鹿が馬鹿なりに気を遣って空回りした出来事なんだからノーカンよ!」

「もう一度告白とかしたりは?」

「三河での騒乱の後言ったけど、あの馬鹿、言った時に寝落ちしてたのよ?今度"ヤス飯"のフルコース作らせてやる」

 

(自分で作る時は)食にうるさい康景が本気で作る料理は文字通り筆舌に尽くしがたい

一週間前に皆で泊まった時に一度食べさせてもらった事があるが

ミトとか気絶してましたもんね(感動と美味さで)・・・

ただ(大食らいの)先生にも普段から料理を作ったりしてるので金が足りないとか言っていたのを覚えている

だが喜美の事だ、本当にフルコースを作らせかねない

あれ?でも今朝、康景君に朝食作るとか話をしてた気が・・・?

 

「まぁ今言いたいのは少しは皆を信じなさいって事よ、何せ愚弟と馬鹿が信じてる連中なんだから」

 

そこまで言って喜美がおもむろにこちらの胸帯の下を軽く押し

 

「あ」

 

胸帯が外れ、中央の合わせを張り裂く動きで胸の下に回り

 

「あ、え?・・・きゃあああああ!?」

 

胸の上部が開襟状態になった

慌てて胸を抱くように座り込む

 

「ククク、私に恥ずかしい事聞いたんだからお返しよ」

「羞恥の度合いが違うでしょうが!」

 

******

 

ジョンソンは半竜が一歩一歩着実にセシルの元に歩みを進めているのを見た

荷重によって自由に飛べはしないものの、木床にしっかり足跡を残して進む

そして

・・・この少年も厄介だな!

相対する相手、ノリキがこちらとの戦闘において、防御に徹している

良い判断だ。こういう短期決戦においては特務級の力はある

厄介だ

 

「you!―――矢は放てるか!?」

「いいいい行けるわ、セシル!」

 

セシルはじりじりと距離を詰める半竜を抑え込もうとして顔を真っ赤にしているが

 

「Tes.わけてるのー」

「Tes!素敵よセシル!」

 

ダッドリーの構えた矢が震え、荷重を受けて落ちる

駄目押しの一手だったが、それは品川を激震することは無く、代わりに聞こえてきたのは

 

「あいたぁー!」

 

人の声だった

 

*****

 

「ななな何あの丸いのは!」

 

ダッドリーの落とした矢の先にいたのは丸い機動殻と半裸のマッチョだった

アデーレとペルソナ君だ

アデーレは先程、一発目の矢が落とされる前に康景から連絡が来て

 

「機動殻を持ってペルソナと品川の地下格納区画に行ってくれ」

 

との要請を受けたアデーレがペルソナ君に担がれて急いでここまで来たのだ

一発目には間に合わなかったが、二発目には間に合った

だが

 

矢を落とされるなんて聞いてないですよ!

 

こちらが憤っていると相手が次を落した

またですか!?

だが機動殻のアデーレをぺルソン君が矢の落下地点に素早く設置する

 

「あいたぁー!」

 

分厚い装甲と足裏で衝撃を分散し下への衝撃をなくそうとする作戦なのだが

 

「連射開始」

「連射ですかぁ!?」

 

矢が続けて落ちてきた

 

*******

 

攻撃を続けざまに落としてくるダッドリーだったが、矢が通らない事に苛立ちを覚えて始めた

そしてついには

 

「三本!」

 

それを見て誰もが

 

「「あぁ、アデーレ逝ったな」」

「ちょっと!なんで皆さんそんな他人事何ですか!?」

 

だがダッドリーの三本の矢は落ちることは無かった

 

<風に巻かれて矢は地面に落ちた>

 

放たれた三本の矢は風揺られるようにして速度を失い、ただ落ちた

そして戦場には新しく来た影があった

 

「遅れたね・・・武蔵アリアダスト教導院、書記、トゥーサン・ネシンバラだ」

 

ただの文系であるが故に息を切らしているが

 

<彼の息はゆっくりと落ち着いていき、走りは着実と敵に近づいていく>

 

・・・セシルの加重術式が砕かれている?

 

ジョンソンはノリキの攻撃を捌きながら

 

「シェイクスピア!彼は作家だ!」

 

告げた

だがシェイクスピアは文庫本を読んで立ち上がろうとしない

・・・気分屋が

だがゆっくりとその重い腰を上げるシェイクスピアに対し

 

<立ち上がった敵はいきなり床へと叩きつけられた>

<彼が己にかかっていた荷重を、分解保管し、叩きつけたからだ>

 

文字が現実になるスガワラ系の術式

 

「僕の術式"幾重言葉"は、僕が奉納した文章を願掛けとして再現する」

<落ちた荷重は衝撃となって周囲に強力な爆発を生む>

 

ネシンバラの正面に爆発が生まれた

 

*******

 

ネシンバラは一息ついた

軍師が敵の一人を倒したとなると、市民のこの戦闘に持つイメージも変わるだろう

軍師が前線に出る危機的状況があり、それを払うだけの力があることを証明する

 

「何とかなったかな?」

 

まだノリキたちの戦闘は続いている

自分の"幾重言葉"は発動が遅いので援護に回ろう

そう思った時、先程生じた爆風の中に人影が見える

 

「え?」

 

彼女はただ何事も無かった様に佇み

 

「なかなか面白い術式だね・・・作家同士、添削と行こうか、まさかあれくらいで相手作家が焼け落ちるとは思ってないだろう?」

 

術式が無効化された!?

 

「英国協、聖術複合展開式"宮内大臣一座"、劇場術式だよ」

 

一冊の分厚い本を取り出し

 

「多種多様の聖術を文字列に分解して対象を表現するために僕の文章をベースにして再構築を掛ける」

「それだけの文字列を排出するのに、一体どうやって排気を確保している?」

 

シェイクスピアは答えない

代わりに

 

「開演するよ―――"第二悲劇・マクベス"」

 

劇の幕が上がる

 

<おお、あれはマクベス、高き峰に並ぶ野心、冷たき空に通じる心、気高き巌に等しい体躯を持ち、王を望むものなり>

 

文字列が中世の騎士の姿となり、襲い掛かる

ネシンバラは自分の術式で対抗するが

 

<汝、王を殺す簒奪者、そして友を殺して安堵するものなり>

 

何故それを僕に告げる!?

マクベスは術式によってここに存在している

だが不意にマクベスを構成していた文字列は分解され、こちらに紐のようになってまとわりついてくる

 

・・・呪いか!?

 

彼女自身が魔女役を担った様に、自分をマクベスに配役して言葉による影響を持って配役の運命にも影響を与える

直感的にマズいと感じたネシンバラは

 

<文字列に衝撃を与えて叩き潰す>

 

だが

 

<マクベスよ、汝は死なない>

 

いくら打ち払っても、シェイクスピアが言葉を続ける

 

<女の股から生まれた者には倒されることは無い>

 

野心家であるマクベスが王を殺し、それを知った友を殺し、されどその友の子によって復讐される悲劇

これをもし自分たちの生徒会に当てはめるとしたなら

・・・僕が葵君を滅ぼす運命をもたらす!

術式にどれだけの効果があるかはわからない

しかし、軍師という立場上、この術式がどう影響するかは未知だ

攻撃を打撃するが

 

<マクベスよ、汝は死なない>

 

切りがないな!

 

******

 

下に居るアデーレを避けて攻撃を品川に当てるインベー〇ーゲームっぽい事をしていたダッドリーは手鏡をアデーレに向け

 

「せせせせセシル!あの機動殻に直接"分け与えて"頂戴!」

「え、直接ですか!?」

 

次の瞬間、品川が上下に大激震する

 

「アデーレ様が地下三階まで貫通しました!―――以上!」

「うーごーけーまーせーんー!っていうか直接分け与えられるなんて聞いてませんよ!?」

 

康景が表示枠の向こうですまなそうな顔をして

 

「すまないアデーレ、連中に矢で何発もやられるよりはマシなんだ」

「うぅ、まさかまだこれやるんですか?」

「大丈夫だ、ウッキーがちゃんと前進してるから、相手も少くてあと一回くらいしか余裕はないだろう」

「い、一回あるんですか!?」

「ないかもよ?」

「あ、ちょっと他人事だと思って適当になってないですか!?康景さん!?」

 

頭上、ダッドリーがこちらを手鏡で探している

 

******

 

ノリキ対ジョンソンの戦いは、残り時間が少ないとみて勝負に出た

両腰のケースの蓋を外し一メートル強の硝子シリンダーと剣のようにも見える長大なピストンが出される

クラウチングスタートの姿勢でシリンダーが押され液体が身体に浸透していく

 

「ドーピングか!?」

 

ノリキが身構える向こう、ジョンソンの血管が浮き上がり、筋肉も膨れ上がる

 

「叙情が漲る・・・言語野溌剌!」

 

足裏に速度と疾走の意味を持つ単語を多重発生させ、数メートルの跳躍と共にノリキとの距離を縮める

ノリキは落ちてた木材で防御しようとするが

 

「you―――そっちはコース外だ」

 

パワーアップしたジョンソンの蹴りで、大きく吹き飛ばされるノリキ

そのままの動きでウルキアガの元に向かうジョンソンを見てネシンバラは

 

「ウルキアガ君!退避してくれ!」

 

ウルキアガが前進してるとはいえ、ノリキが吹き飛ばされた今、ジョンソンを防げる者がいない

だがそうなると自分がシェイクスピアとダッドリーをなんとかしなくてはならないが

・・・どうやって切り抜ける!?

 

絶え間なく続くシェイクスピアの攻撃に、設定描写を連続で入れて対処する

だが目の前に

 

「バーナムの軍勢が君を狙っているよ、マクベス」

 

三桁を超える数の木々が剣を持って迫ってきた

 

「マクベスだって?僕はまだ・・・」

 

そう、まだ呪われてはいないはずだ

 

「役が潰されたら、誰かが配役されるべきだよね?」

 

自分の足元に文字が渦巻くようにして広がっている

 

「これだけの排気をどうやって・・・!?」

「まだわからないかい?」

「まさか!?」

 

シェイクスピアが持っていた白い紙袋から取り出された物

腕甲にも見える盾は

 

「大罪武装か!」

「Tes."拒絶の強欲"、超過駆動としての効果は"自分が受けた痛みや傷みを持ち主に流体として還元する"というものでね」

 

頷きと共に

 

「僕は常に莫大な攻撃を受けていてね、君もぶつけたことがあるだろう?―――批評だよ」

 

作家でいる以上、作った作品に批評があるのは避けられない

シェイクスピアはそれを流体にできるという事は、"拒絶の強欲"との相性が良すぎる

 

「君の攻撃は僕に力を与えるだけだ・・・わかるかい?君の文章じゃ僕には届かないよ」

 

シェイクスピアの宣言と共に、劇が再開される

 

「くっ」

「あ、そうそう、聞きたいことがあったんだ」

「・・・何をだ」

「三征西班牙前総長兼生徒会長、カルロス一世が残していた初等部以前の子を育てる秘密協会施設」

 

ネシンバラはぞっとするような寒気を感じた

まさか・・・

ネシンバラの反応を見てシェイクスピアは口の端を上げる

 

「第十三無津御乞令教導院・・・知ってるよね?」

「・・・」

「トゥーサン・ネシンバラ、姓はネシンバラ、名前がトゥーサンで、名簿には極東所属を示す感じでこう書かれてるね・・・十三(トゥーサン)と」

 

ネシンバラの動きが完璧に止まった

 

「ようやく見つけたよ、№13」

 

ネシンバラはハッとして急いで回避行動をとろうとするが

右腕にマクベスが絡みこんでくる

 

ネシンバラは

 

<己の左半身へと、衝撃を放った>

 

自身に攻撃を当てることで戦線を離脱し

 

「"品川"!やってくれ!」

「再加速して左へと旋回します!―――以上!」

 

自身に衝撃を放った影響で左手の爪も何枚か剥がれ身体が軋む

しかしやらねばならない事はダッドリーの攻撃を遮る事とシェイクスピアからの攻撃から逃れる事だ

シェイクスピアの攻撃は食らってしまったが勝負の勝敗を無しにするための強引な手段としては最適だ

 

船が高速旋回に入る

 

「Mate!撤退だ!」

 

このまま武蔵に残っても武蔵と並走しているグレイスの艦が危険だと判断したジョンソンたちは撤退した

 

*******

 

英国側からもその周回軌道は確認できていた

第四層回目に居た"傷有り"と烏のミルトンも遠浅と空を水平に望める場所からそれを見ている

 

「"傷有り"様!何が飛んでくるかもわかりません!ここに居ては危ないですぞ!」

 

烏のミルトンが"傷有り"という字名を持つ長衣の影に告げる

しかし"傷有り"はその風の中に、武蔵と周辺以外に何か別の音を感じていた

 

「ミルトン、何か感じないか?武蔵以外の何か別の・・・」

 

そこまで言ってもう一度武蔵を見る

すると武蔵の向こう、白く直線軌道を描く砲弾が三つ見えた

その意味は

 

「ステルス航行できる敵艦が英国近海まで来ていたのか!?」

 

******

 

被弾と破砕が、一瞬として生じた

 

「重力障壁展開間に合いません!対内部衝撃緩衝に移行します―――以上!」

 

左舷を打撃し、激震が散る

だが、揺れに耐える武蔵の人々が見たのは

 

「おい!何だアレ!?」

 

英国中央部から、広大な光の剣が形成されていた

幅20メートル、厚み二メートルほどの剣

そして武蔵と英国からの距離は直線距離にして十キロ以上あるが

 

「英国側最上部第一回層から高出力流体反応!本土防衛用術式術式剣・王賜剣二型だと判断できます!皆様、耐衝撃態勢を!―――以上」

 

王賜剣二型の狙いはあくまで本土を狙った三征西班牙の砲弾の内の一発だ

その一瞬の光条の軌道上に武蔵があるため、振り払われた剣の風圧が武蔵を打撃する

武蔵は右舷側の艦群を前に出すことで凌ごうとするが

 

「!?」

 

輸送艦の牽引帯の一本が先程の誾の攻撃の影響で外れてしまったのだ

輸送艦が蛇行するように高尾に近づく

 

「全く余計なことしてくれるぜあの女・・・」

 

誾の攻撃を恨めしく思う

 

「康景殿、ここは牽引帯を割断して武蔵と切り離した方が!」

「ああ、やってくれ!おいトーリ!それで構わないな!?」

 

康景は馬鹿に問いかける

しかしトーリからの返事は無かった

 

「このくそ忙しい時にあの馬鹿全裸どこ行きやがった!」

「・・・アレは?」

 

右舷側の縁にロープで結び付けられているトーリが居るはずなのだが、ロープは外側へ落ち、その先端に馬鹿が揺られていた

 

「まさか・・・そんな事が」

「二代、あの全裸野郎は?」

「い、いや・・・それが・・・」

「くそっ、見つからないのか、しょうがない、正純!」

 

康景にロープの先端で揺れているのを伝えられず、康景は確認を正純にとる事にした

 

「葵が見つからないのか!?」

「ああ、すまないが副会長としてお前に確認を」

「解った、二代!副会長として依頼する!牽引帯を割断してくれ!」

 

二代は気まずそうに

 

「じゃ、jud!」

 

牽引帯を割断する

輸送艦はオーバースイングの形で英国の第四階層の海岸に投げ飛ばされた

 

********

 

"武蔵"は現状を確認しつつ輸送艦が落ちていく方向を確認する

英国の第四階層ですね・・・

あちらには武蔵の様に艦長が居ない

もはや乗員の皆に任せる他ない

 

「"武蔵"殿!今回のこの戦闘、責任者はいったいどこですか!?貿易云々で話し合わなければならない事が!」

 

商工団の代表であり、暫定議員の一人である小西が、商工団を引き連れて"武蔵"の元へやってきた

 

「今回の貿易の支障等、一体どうされるおつもりk」

「よー!コニタン!こんなとこでなにやってんだ?」

 

抗議するように両手を上げた瞬間、馬鹿全裸が上から落ちてきた

本日二度目のネタである

 

「む、"武蔵"殿!空、空から全裸が!?」

「そちらが最高責任者です。ご自由にどうぞ―――以上」

 

商工団に対する対応、そして落ちてきた馬鹿全裸の対応

両方に対応する手間と面倒を計算し

面倒だったので両者にそれぞれ丸投げした

 

*******

 

落ちていく艦上の空気は騒然としていた

理由は不時着していく先、落下地点に子供がいたからだ

空を見上げ動けない子供達を前に

 

「よ、幼女が!幼女が居ますよ!三人中二人が幼女!英国産幼女!」

「この非常時に何興奮してんだロリコン野郎、皆、やっちゃっていいぞ」

「「ロリコンだ!ロリコンが出たぞ!急げ!」」

「ちょっと!小生の扱い酷くないですか!?」

 

御広敷が皆にぼっこぼこにされる中、康景の視界に子供たちの姿が映るが、それとは別に長衣の影が右手に流体光を溜めて走っているのを見た

まさかこの船の軌道を逸らすつもりか・・・!

この船には緩衝制御が為されている以上、下手に術式を当てれば反発して惨事を引き起こしかねない

康景は瞬間的に判断した

 

「二代!ネイト!子供たちを!」

「「jud!」」

 

二人が艦橋側へ走り出す

そして

 

「点蔵!あの長衣のヤツが見えr」

「jud!」

 

点蔵はこちらが言い終わる前に状況を理解し、長衣の方へ走り出す

間に合ってくれればいいが・・・

 

「対ショック体勢!」

 

叫ぶ

 

******

 

"傷有り"は目標としている地点に到達した

そして正面二十メートル程先に居る子供たちに向かって

 

「伏せろ!」

 

右手に持つ鉄杭を振りかぶる

しかし不意に

 

「!?」

 

目の前に黒い衣服と帽子の男がタックルするようにこちらに向かってきたのだ

こちらの体勢が崩されたお陰で術式は放てず、輸送艦が落下する

 

「あ・・・あ・・・」

 

岩と岩とがぶつかり合うような轟音が響く

地殻部も所々崩壊している

子供たちの姿は何処にも無かった

 

********

 

点蔵は破砕の始まりから終わりまで視線を外さなかった

そして破砕の時、長衣を庇ったことで飛んできた輸送艦の木片が背中を掠った

こういう時のための要人や民間人の保護は自分の専科だ

 

「大丈夫で御座るか?」

「っ!」

 

長衣に手を差し伸べるも、頬をビンタされてしまう

 

「なんてことをしてくれた!・・・あそこにはまだ・・・」

 

自分の頬を叩いた手に刀傷があるのを見た

手だけではない、首元や鼻、頬にかけて無数に傷がある

・・・この土地を守護する者で御座ったか

 

相手は絶望するように諦めとも取れるような息をついた

だが点蔵はそれを見て

 

「・・・よく見るで御座るよ」

「?」

 

点蔵に指さされる向こう、長衣は輸送艦の方を見た

そこには一人の侍に担がれた少年と、銀の髪の女に抱えられた二人の少女だった

 

「救われたの・・・か?」

「良かったで御座るな」

 

******

 

"傷有り"はただ安心した

だがそれと同時、事情も分からないうちに勝手に怒って泣いて、叩いてしまった事への罪悪感も生じた

 

「あ、あの」

 

なんと言えばいいのか解らない

子供達を救った事に対する感謝か、地元住民を代表しての憤りか

そこまで考えて

今言うべきは・・・

様々な意味を含めた"申し訳ない"だ

 

「あの、その」

 

だが言おうとして、隣に居た筈の忍者は何処にもいなかった

!?

気が付けばすでに忍者は輸送艦への帰途についていた

 

「待ってくれ!」

 

しかしすでに声が届く範囲にはいなかった

そして先程まで忍者が居た場所の草むらが、血に濡れていることに気付く

 

「まさか・・・」

 

自分を庇って・・・?

遠く残された"傷有り"はただ輸送艦の方を見て佇んでいた

 




次回予告(本当にこの通りにやるとは言ってない)

ネイト「輸送艦が不時着したおかげで思わぬアバンチュールになってしまいましたわ」
康景「そうだな、まさかの生存訓練だよ」
ネイト「あ、でもよくよく考えれば現在喜美(お邪魔虫)がいないことで私が康景を独占状態に!?」
康景「落ち着け、何の話をしてるんだ?」
ネイト「次回、"馬鹿と銀狼のドキドキ・サマーキャンプ"です」
一同「ちげーよ!」


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