境界線上の死神   作:オウル

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バレンタインデー?・・・リア充?
知ったことか・・・そんな事より投稿だ!


二話 前編

生きるため

 

守るため

 

どんな理由があっても

 

命を奪う行為は

 

 

配点(一難去ってまた・・・)

 

―――――――――――――

 

フアナは全身を嫌気の怠惰で拘束された"死神"が放った台詞を聞いた

・・・ハッタリですか?

眼下、どこを見渡しても康景の言う『馬鹿全裸』なるものは見当たらない

 

「こちらを惑わせるための狂言ですか?」

 

相手の発言を狂言とみなし、砲撃を指示しようと左手を振り落とそうとすると

 

「「わー!!」」

「・・・何です?味方まで?」

「フーさん!後ろ後ろ」

「後ろ?」

 

右手に持つ大罪武装の方に振り向く

だがそこには何もない

 

「何もないではないですか」

「逆!逆!」

 

左側だろうか

ああ、横にいる書記に大罪武装の効果が当たらないように気を付けろと、そう言う事ですね

 

「こちら側にいる以上、嫌気の怠惰を味方が食らう事はありませんが、書記?一応下がっておいてください」

 

左手を後ろに払おうとしたとき

何か柔らかい物を掴んだ

 

「おっと・・・残念だな、それは俺の"お稲荷さん"だ」

「 」

 

絶句する

どうやら左手は例の『馬鹿全裸』の股間を握ってしまったらしい

馬鹿の股間を掴んだまま硬直するフアナ

馬鹿は現状を気にせず

 

「あ!チーム・ベラスケスの社長だ!今度サインくれよ、ヤスに自慢するから」

「いやぁここまで有名になるとは俺も鼻が高いぜ、今度武蔵宛に送っといてやるよ」

「サンキューオッサン!・・・で、そっちの姉ちゃんはその大罪武装俺にくんない?」

 

その言葉に反応できずにいると馬鹿がつけあがり

 

「なんだよ、まだ握りたんねぇの?じゃあほれ」

 

腰を前に突き出す

フアナの手に股間の感触が強く伝わり

 

「きゃああああああああああ」

 

反射的に馬鹿を突き飛ばしていた

馬鹿が宙に押し出され、落ちていく

そして両の手を握り

 

「火事よー!」

 

半泣き状態で、康景を睨む

 

「何と卑劣な・・・!」

「ちょっと待て・・・(股間を握りしめたのは)アンタの落ち度だろ。なんでもかんでも俺のせいにすれば良いと思ってるのは間違いだと思う」

 

*******

 

点蔵が艦橋の下、開いているハッチから急いで出てきた

理由は混乱に乗じた敵の機密情報の奪取である

 

「フフフ、これでもう誰にも『アイツ忍者の癖に忍んでなくない?目立ちたがりじゃない?その割に何も戦果上げてなくない?』とか言わせないで御座るよ!」

 

巻物を広げる

三征西班牙の戦術機密だ

 

「ヤス殿達による陽動と輸送艦直撃の混乱に乗じて敵の機密情報の火事場泥棒とは、見事な作戦で御座る・・・そういえばトーリ殿は上手くやってるで御座ろうK」

「おっす点蔵、情報どうだった?」

「ああああああああ!」

 

馬鹿が上空から落ちてきて、巻物を開いて構えていた腕に収まった

馬鹿の衝撃で機密情報は破れて散った

すると康景が表示枠で

 

「点蔵、そっち情報は?」

「や、ヤス殿?!そ、空から全裸が!」

「ん?ああさっきトーリが敵に突き飛ばされて落下していったから、お前にそれの回収も頼もうと思ってたんだけど、タイミングバッチリだったな」

「まさか人生初の御姫様抱っこがヨゴレ系全裸男とは・・・!」

「はいはいざまあざまあ、まぁそんなのどうでもいいんだけど、情報は?」

「全裸のおかげで散ったで御座るよ!」

「チッ」

「し、舌打ちしたで御座るよこの御仁!しかも露骨に!」

 

先程まで拘束されていた武蔵側は、拘束を解かれていた

理由は簡単

フアナが全裸を突き飛ばす際に嫌気の怠惰から手を放したからだ

そして康景は若干不機嫌気味だ

 

拘束を解かれた武蔵側では動きが生じていた

ホライゾンだ

彼女は悲嘆の怠惰を壁に見立て

 

「あの泥棒猫ども・・・!――――どうですかこの疑似嫉妬表現」

「いいから撃てぇ!」

 

次の瞬間、ホライゾンは悲嘆の怠惰を撃ち込んだ

搔き毟りの前哨ともいえる黒の一線が走る

その線が爆発する前にとった敵の行動は

 

「垂直下降!」

 

こちらの輸送艦が敵指揮艦の上に乗り上げるように食い込んでいるため、下降してそれから逃れようとしている

だが艦首側に食いつき、後部だけが下がる形になる

そして機殻を纏った箒にまたがるナイトが点蔵とトーリを回収し指揮艦から飛び去る

 

「箒がっ!俺の股間をっ!下からっ!」

「馬鹿言ってないで行くよ!」

 

ナイトが馬鹿と忍者を回収した

 

******

 

指揮艦では、敵の行動に対していくつかの判断が生じていた

一つは隆包とベラスケスが聖譜顕装を再発動させたこと

一つは野球部が武蔵に対して砲撃を開始したこと

そして誾と房栄の道征き白虎が黒の一線を無視して間に飛び込んだ

 

野球部員たちの砲撃が武蔵の防護術式を破ろうとするが間に合わず、背後に立っていたホライゾン・アリアダストの砲撃が放たれる

搔き毟りの力が発生し、莫大な黒い光が艦橋を襲う

しかしその力は隆包とベラスケスの聖譜顕装によって威力が減衰される

そして誾の義腕による高速の薙ぎ払いと、道征き白虎の咆哮も加わり、搔き毟りを相殺しようとする

今ある三征西班牙の戦力を出来るだけ駆使した悲嘆の怠惰への対抗策

義腕を高速で動かす事によって生じた排熱が彼女の周囲を囲み、流体の衝突によって生じた黒と蒼白の光が花の様に散る

 

「どうですか・・・!?」

 

結果は

 

「通信用の教会塔が破壊されましたが、他被害なし!」

 

歓声が三征西班牙側から湧く

だが今の全力で誾の体力は大きく消耗された

吐く息も荒く、髪も乱れている

しかしその目は敵を見据えて逃していない

だが

 

「武蔵、重力航行に移行します!――――以上」

 

突然、輸送艦ごと武蔵が急発進する

発進される・・・!

房栄が武蔵の急進による衝撃と揺れに対し、揺れの少ない甲板中央に集めようとするが誾だけが前に出た

武蔵が遠ざかっていくのを見ながら左右の十字砲火を放つ

大気を切り裂くように進んでいく二発の砲弾は、一発は牽引帯に当たり、もう一発は敵群に当たるコースを飛んだ

しかし

 

「結べ!蜻蛉切!」

 

風を切り裂いて進む砲弾が割断され、破裂する

 

「本多二代・・・!」

 

だが、それだけではなかった

二代の背後から不意に白い影が現れる

 

「オラァ!!!!」

 

天野康景が何かをこちらに投擲してきた

先程康景が装備していた黒い鉄柱の様な剣だ

誾はそれに反応するのが少し遅れ

 

「!?」

 

自分の頬を掠めて背後の甲板を小さく抉る

 

「天野康景・・・」

 

誾が康景を睨みつける中、向こうもこちらを睨みつけていた

互いを憎悪する視線が交叉する

そして無情にも武蔵は前に進み、その姿も遠のいていく

誾の中で言いようのない感情が渦巻いた

 

********

 

正純はこちらが発進してるのにも関わらず、立花誾がこちらに攻撃を仕掛けてきたのを見た

無茶苦茶な・・・!

だいぶ距離は開いたが、砲弾は真っ直ぐこちらに向かってくる

一発は牽引帯に、そしてもう一発は味方に直撃コースだ

だがそれを防ぐように

 

「結べ!蜻蛉切!」

 

二代が敵砲弾を割断した

これで取り合えず敵の攻撃は凌ぎ切ったが

更にその背後から康景が走ってきて

 

「オラァ!!!!」

 

侮蔑に満ちた顔で敵に持っていた鉄柱の様な剣を投擲した

その剣は誾の頭部に当たるコースで進んだが

 

「!?」

 

それは当たることなく誾の頬を掠め、背後の甲板を抉る程度だった

三征西班牙の船が小さくなっていく中、康景は誾を睨んでいた

 

「チッ・・・やっぱり投擲用の武器じゃないと精度が悪い」

 

心底残念そうにつぶやく康景に正純は背中に氷を入れられたような怖気を感じた

先程も投げたが、アレは立花誾の剣を狙ったわけではない

・・・剣ではなく立花誾本人を狙ってたのか、容赦ないな

頼もしくもあり、恐ろしくもある友人の底が見えない事が、正純には少しだけ怖かった

 

******

 

激しい揺れの中、東は何とか自室に到着した

だがその中から聞こえてくる話し声は

 

「いやぁ!おそといくぅ!」

「ダメよ、今お外は危険なんだから」

「いやぁ!」

 

やはりずっと家の中にいるのは退屈なんだろう

だが今は戦時下だ

危険に変わりはない

ミリアムの声が大きくなってきたところで東はそれを仲裁すべく

 

「二人とも、早くセックスしないとだめでしょ!」

 

勢いよく戸を開けて自室に入る東

だがその言葉を聞いたミリアムは固まり

 

「あ、あの・・・東?聞き間違いかもしれないからもう一度言ってみて?」

「jud.もう一度言うけど、早くセックスしないとだめでしょ!」

 

ミリアムの顔がどんどん赤くなっていく

 

「旧派の女性に対して何言ってるの・・・?じゃなくていったいどこでそんな言葉覚えてきたの?」

「え?セックスの事はさっき知り合いの女の人に」

 

肩を震わせ、ますます顔を赤くするミリアム

あれ?余なんかへんな事言ったかな?

 

「jud.jud・・・皆が戦闘やって頑張ってる間にそんな事してたんだ・・・?」

「康景君とか、誰とでもセックスするから皆と信頼関係が築けているとか、そういう話も聞いたよ?」

「へ、へぇええええ、あのヘタレがねぇええええそれは意外ねぇえええ!」

「?」

 

さっきからミリアムの様子がおかしい

康景がセックスするのがおかしいのだろうか

もしかして余の解釈が間違ってたのかな?

いや違う、女の人に、というのがマズかったのだろう

 

「疑似家族的展開だったのにパパ他の女に取られる一家だなんて・・・これがホントのトラップ一家というか、何というか・・・何この屈辱感・・・!」

 

青筋を立てて震えているミリアムの様子から、自分は何かとてつもない間違いをしていることに気付く

とりあえず相手を宥めなければならない

 

「余、余が悪かったからとりあえず落ち着こう!?余とセックスして仲直りしよう!」

 

ミリアムの車椅子突進で部屋の外に吹き飛ばされた

 

****

 

空が見える甲板上、未だ学生たちの間では緊張があった

負傷した学生たちの応急治療や手当が行われている

救護班が輸送艦にいない中、戦闘慣れして傷の手当にも精通している康景が主導で行っていたのだが

 

「ち、違います!わざとじゃないんです!こういう時は心臓マッサージだと思って出来心で!」

「じゃあこうなったらロボトミー手術しかあるまい!」

 

初の戦闘で緊張した者たちが不慣れなミスを次々と頻発させた

それに対し康景は怒りながら

 

「馬鹿かお前、心臓動いてる奴に心臓マッサージしてどうすんだ・・・素人が下手に心臓マッサージなんてやるなよ」

「お前はまずロボトミー手術の意味を調べてから出直してこい」

 

等と応急処置に不慣れな者たちとそうでない者に選り分け、不慣れな者たちに負傷者を集めさせ、手慣れている者たちに手当をさせる

そして重傷者に限っては康景が自ら手当をする

康景の存在感がここに来て増していく

だがそこで不意に康景の表示枠に連絡が来て

 

「本当か!?無事なのか!?」

 

珍しく慌てる様子の康景

それを心配した正純が声を掛けた

 

「お、おい大丈夫か康景、何があった?」

 

康景は息を荒くし疲れ切った様子でこちらに振り返り、落ち着かせるようにいったん上を向いて深呼吸した

 

「後輩が・・・友人が、左腕を損傷する重傷を負ったとの連絡が入ってな・・・」

「だ、大丈夫なのか?」

「なんとか処置して命は助かったらしいんだが、左腕は・・・」

 

康景の声が沈む

顔を抑えて苛立ちも隠さず

 

「くそっ・・・」

「お、落ち着いてくれ康景、今ここに応急処置や戦闘に精通してる者がお前しかいないんだ」

「・・・ああ、すまない」

 

康景は明らかにイラついている

先程の嫌気の怠惰が原因なのだろうか

康景は他のものと一線を画す様にほぼ全身が嫌気によって拘束されていた

あれ以来どうも苛立ちを隠せていない康景

ホライゾンが、自身を足りない者として嫌気を感じる理由は解る

だが、康景は・・・

康景の嫌気の理由がどうしても解らなかった

"この世界の全て"が嫌でも、それと全身を嫌気で拘束される理由がわからない

世界の全て・・・康景そのものも世界の一部に含まれる・・・?

それとも三河で自分が殺してきた人を思って悲しんでるのだろうか?

そこまで考えて、正純は考えるのを止めた

康景が語ってくれない以上、何とも言い難かった

 

「正純、こっちはいい・・・ホライゾンの傍に居てやってくれ」

「あ、ああ」

 

康景は皆の手当に戻り、正純もホライゾンの方に戻ろうとする

だが直後、ホライゾンが力無くその場に倒れそうになり

 

「ホライゾン!」

 

倒れる瞬間に正純がその肩を支える

ホライゾンが倒れそうになったのを見て全裸の方の馬鹿が全速で駆け寄り

 

「ホライゾン!・・・ホライゾン!」

 

何度もただ名前を呼んだ

皆がただ心配で顔を曇らせた

 

「・・・トーリ様こちらへ・・・」

 

か細い声で薄く目を開けたホライゾンがトーリを自分の方に呼び寄せる

それに対しトーリは身体をくねらせながら近寄る

 

「なんだよホライゾン!何か俺に言う事でもあるのか・・?」

「服を着なさいと命令します―――お腹が冷えたら大変ではありませんか」

 

ホライゾンが放つグーパンが、トーリの股間を打撃する

膝から崩れ落ちるトーリに

 

「お腹が冷えてもこの輸送艦には恐らく下痢止めの予備はありませんよ?」

「殴った意味が解らねぇよ!」

「jud.注意の誤差範囲です」

 

言って気を失ったホライゾン

そこに一通り重傷者の手当を終えて正純たちの元に戻ってきた康景

 

「おいどうした!?何があった!?」

 

ホライゾンの状態に気付くのが遅れるほど憔悴しているのか、今になって気付いた康景

気を失っているホライゾンの様子について正純が

 

「・・・どう思う?」

「・・・俺は医者じゃないし、自動人形に詳しい訳でもないから断定はできないが・・・もしかしたら大罪武装関係じゃないか?」

「大罪武装?」

「ああ、大罪武装の所有確認とか、魂の起動とか何とか、色々表示されただろ?それで装填とか最適化をするために眠りに入ったとか?」

「・・・それだけならいいんだが」

 

康景でも判断が付かないとなると、下手に騒いで事を荒立てるのは却って混乱を招くか?

膝をついてるトーリが内股になって皆の同情を集める中

 

「シチュエーション的にボケ術式展開してなかったのが不運だったぜ・・・油断ならぬ女よ、ホライゾン・アリアダスト・・・!」

「何武将みたいみたいな事言ってるんだお前は―――あと服着ろ」

 

ホライゾンを康景に任せて甲板縁に繋がれていたロープをトーリの首につなぎ座らせる

 

「お前は艦が着くまで動くな、邪魔」

「お前ちょっとストレート過ぎね!?」

 

文句を言いつつ「俺ステイ」など言いながら犬座りしているトーリ

康景はその様子に呆れつつホライゾンを抱きかかえながら、搬送が必要な者をすぐにでも武蔵に運べるように準備させて

 

「英国が見えてきたな・・・」

 

英国の姿を確認できるくらいには武蔵は英国に近づいていた

 

********

 

"武蔵"は英国側に着艦するための諸所の手配を行っていた

英国

全長南北に三十一キロ、東西に三十キロ、上下に四キロ

重力分散や歪みの問題を解決するために無数の術式可動構造体で固めた四ブロックからなる浮上等国家

惰性航行で意識的に速度を落としてはいるが、速度百二十キロ超過で航行している

しかし問題は

速度が全く落ちていませんね・・・

これは周回軌道を二周ほど行って速度を落とすしかない

そう判断した時、不意に"武蔵"に共通通神帯を用いた音声通神が届く

 

「極東、武蔵アリアダスト教導院所属艦、武蔵に告ぐ、こちら英国オクスフォード教導院所属、護衛艦"グラニュエール"!艦長は同教導院所属グレイス・オマリ!―――妖精女王の盾符として警告する!」

 

低い女性の声が響く

 

「当艦は貴艦の即座停止を命令する!貴艦は既に英国領内に侵入しているが三征西班牙と聖連との関係が不明瞭であり、さらには英国・武蔵間で協調を得ていない!即座停止を行わないならば英国は貴艦の停止を実力行使する!!!」

 

次の瞬間、"武蔵"は"グラニュエール"から四つの影が飛ぶのが見えた

 

「敵襲!数は四!識別は・・・英国の"女王の盾符"です!」

 

******

 

「相対です!対応できる方々はお願いします!―――以上」

 

"武蔵"から届いた対応用意の言葉に、輸送艦上では唸りの声が上がった

ナイトが艦首側の方に英国艦が行ったのを見て

 

「艦首側の方、手空きだったよね」

「今向こうで動ける人員で対処するしかないな・・・」

 

元警護隊や副長としての二代、特務としての点蔵、ナイト、ネイト、直政、副会長として正純もいるし、何より総長兼生徒会長のトーリが輸送艦側に居る

向こうにはウルキアガやノリキがいるとはいえ、明らかに戦力の割き具合が不釣り合いだ

こういうことを考慮しきれなかった事に康景は頭を悩ませた

 

「今下に向かいますわ!」

「駄目だ」

 

ネイトが走り出そうとするのを康景が止める

 

「何故!?」

「武蔵が英国に着くまで大体あと三分と言ったところだ。俺たちにたった四人で相対を挑んでくるってことは向こうも相当な実力者を持ってきたんだろうし、三分で行ったところで援護にも間に合わない。それに武蔵に向かうのに輸送艦の緩衝制御も壊さないといけない。そうすると安全面に考慮しないといけなくなった武蔵の英国着艦が遅れる」

「だとしたら・・・」

「天野君の言う通りだよ」

 

突然、表示枠でネシンバラが介入してきて

 

「僕たちのやれることは今こちら側の人員で対処する。それだけだ」

 

表示枠の向こうで、ネシンバラが吐息する

それに対し康景が

 

「悪い、そっち行けなくて」

「いいよ、君は負傷者の手当を頼む」

 

ネシンバラが苦笑し

 

「三分間、こっちでやってみる」

「まさかお前・・・」

「ああ、僕も出る」

 

ネシンバラは表示枠の向こうで

 

「でも三分って、長いよなぁ」

 

愚痴った

 

*****

 

右舷一番艦、品川前部の倉庫区画に、四つの影が見える

まず一番最初に現場に到達したのはナルゼだった

ナルゼは有無を言わさず先手必勝で水の入った瓶を投げつける

水温メーターを描いて無理やり加熱させて爆発させる

いわば簡易水蒸気爆弾

 

「やった?」

 

向こうが蒸気で見えない

背後に牽制目的の弓隊を控えさせてはいるが

・・・いきなり撃てと言われても普通人は撃てないわよね

躊躇なく撃てる浅間が別格なのだ。それはしょうがない

でも本来なら巫女は人を撃てない

味方に撃ってるのは甘撃ちだ、何故なら本来の神司の仕事は禊だ

たまに康景に本気で撃ってる気もしないでもないが、康景が全部避けるのでノーカンなのだろう

ともあれ次の攻撃に備えて身構えるナルゼ

だが蒸気が晴れるよりも先に背後から

 

「ここは我らボディビル研究会"ごり☆あて"が!!!」

「何を言う!ここは私たち僧兵部隊"ミッキョート"が!」

 

マッチョの変態集団が手柄目当てに前に出てきた

・・・こんな連中もいたのね、ウチには・・・

 

「ああああああら、相手になりそうなのは一人だけなのかしらね」

 

不意に蒸気の方から声がした

・・・無傷?!

ナルゼは晴れていく蒸気の向こうの人影を見た

 

まず口を開いたのは足に巨大な鉄球をつけた瘦せ細りの女だ

その姿を見たナルゼは

 

「・・・〇ィ○・○ー○ンのアニメに出てきそうな女ね」

「やめなさい!それ以上はいけない・・・」

 

早々にツッコミを入れてきた女が派手な化粧のついた顔を歪める様にして笑みを作り

 

「"女王の盾符"10の一人、オクスフォード教導院、副長ロバート・ダッドリーよ」

 

ロバート・ダッドリー

史実では陸軍の要でエリザベスの愛人ともされていた男だったが

・・・混乱を避けるために女に襲名させたとの事らしいけど

 

「じゃあその後ろにいるのが」

「10のひとりー。ふくかいちょー。うぃりあむ・せしるー」

 

丸っ・・・!

卵の様に丸い女だった

だが続いて背後から出てきた男なら知っている

この時代の文化系なら知らない存在はいないくらいには有名な存在

黒い肌でタンクトップ姿の男は

 

「まさか英国文化系部活の盟主、アスリート詩人ベン・ジョンソンまで来ているとはね」

「you―――"女王の盾符"は私の発案でね、なるべく関わっていたいのさ・・・そして今回、私の秘蔵っ子も連れてきている」

 

耳の長い長寿族の女、無造作に結った髪も、白衣も下のスカートを付けてない制服も、適当に履いてきたと思われるサンダルも

・・・オタクにしか見えない!

 

「・・・今英国で最も人気のある作家、シェイクスピアには見えないわね」

 

相手を見る

情報が確かなら、ダッドリーとシェイクスピアはそれぞれ聖譜顕装と大罪武装の持ち主だ

だからナルゼがとった行動は

 

「下がりなさい」

 

皆をとりあえず前線から下げさせた

三征西班牙と同じで武蔵を踏み台に自国戦力のアピールって訳?

 

「噛ませ犬にはならない様にしないとね・・・」

「負けたらただの負け犬になるんじゃない?ねぇ?」

 

ダッドリーの背後、セシルが動き出し

 

「いくのー」

 

瞬間、品川が激震し前部側に居た者たちが床に叩き潰された

これは何の術式・・・!?

ナルゼはセシルを見た

よく見れば彼女は浮いている

・・・?

そしてこちらに圧がかかるにつれて彼女の体がさらに浮き上がっていく

 

「まさか・・・その女、自分の全重量を"分け与えて"いるのね!」

「まずしいものにほどこしをー」

「いらんわー!」

 

ウィリアム・セシル

女王の秘書官で、ストレスよる過食症により"英国における肥満の代名詞"となった存在

それをこのように利用するとは・・・

 

「そそそんな事言って、ま、貧しいのにね―――ほ、本来あるべきくらいに荷重を受けてもいいんじゃないの?それともその程度でダメ?」

「くっ・・・いいのよ別に」

 

フラフラな足で立ち上がろうとしながら声を上げた

 

「マルゴットの胸に顔を埋めるなら、こっちがない方が丁度いいのよ!」

 

******

 

「自分、そんな羨ましいイベント起きたことが無いので解らんので御座るが、実際の所どうなので御座ろうか・・・ヤス殿?」

「なんで俺に聞くのよさ・・・んー・・・嬉しいけど息苦しい感じが・・・」

「「!!!!」」

「そ、それは"そういう"経験があったという事で良いので御座るか!?」

「え?あ、ああ・・・冗談冗談、気にすんな」

「「(冗談に聞こえないんだよ!)」」

 

実際にやってそうで困る

 

「よかったで御座る・・・まさかそんな友人たちを差し置いて一人で大人の階段を駆け上がるような真似はされてないので御座るな」

「・・・うん、ダイジョウブダヨー・・・オレハナカマサシオイテ、ヒトリデサキニイッタリシナイヨー」

「なんで目を逸らすで御座るか!?そしてその喋り方、怪しすぎるで御座るよ!」

 

******

 

ナルゼは反射的に新たな水瓶を投げつける

しかしそれを

 

「"かかる困難を打ち払い"ってやつね」

 

ラケットの様なもので水瓶を打ち払い、自分の背後で爆発が生じる

 

「打ち払いの聖術・・・」

「Tes.そしてこれが英国の聖譜顕装、"巨きなる正義・旧代"」

 

左手に構える手甲をこちらにかざし

 

「たたた大罪武装程範囲は広くないけど、武器をえええ遠隔操作できる」

 

背後で無数の音を聞いた

重圧に潰れかけながらも弓を構えていた射撃手の手にあった弓と矢がこちらを向く音だ

 

「う動かないでね、動いたら撃つから」

 

「わかる?」

ダッドリーが告げる

 

「ああああ貴女、今、人質なのよ」

「・・・っ!」

 

屈辱を感じながらも相手への視線は外さない

しかし背後、女子生徒が涙を流しながら

 

「すいません先輩・・・もし先輩を殺めてしまったら、私たちもうどうしたらいいのか!だって先輩の描いてるヤス様と総長の"馬鹿二人"が打ち切りになるなんて!」

「敵の副長さん、そいつ撃っていいっすよ」

「ちょっ!?」

「何描いてんだよ、それ俺に許可取ったか?まさかR18作品じゃないよな?」

「・・・濃厚なR18です」

「よし、撃てぇー!」

「待って!今"馬鹿二人"は"浅間様が射てる"と同じレベルで売れ行きいいのよ!それを止めさせるなんてアンタ鬼!?」

「知らねーよ」

「ファンだっていっぱいいるのよ!?ミトツダイラとかも購読者よ!いわば共犯よ!」

「な、なんてことバラしてるんですのー!?」

「おいネイト、マジか?マジなのか?」

「・・・全部あの女のでっち上げです」

「仲間売ったわあの女!いいわ!アンタを主人公にして"康景と付き合ったけど最終的に喜美に寝取られて闇落ちする"エロ漫画描いてやる!」

「なんて酷い事するんですの!?」

 

ダッドリーは自分たちが無視されていることに憤りを感じつつも

 

「ここ降伏なさい、武蔵。この学院の指導者たちは仲間を見捨てるのかしら?」

 

それに答えたのは、総長でも副会長でもなく

 

「おいそこの〇ィム・〇〇ト〇作品に出てきそうな副長さんよ」

「そそそそそのネタはもうやったわ!」

 

康景だ。彼は表示枠で介入してきて

 

「そこのエロ漫画家先生には後で詰問してやるとして・・・」

「・・・orz」

 

ナルゼは項垂れた

それに構わず康景は言う

 

「俺たちが仲間見捨てるなんて事するわけないだろう」

 

 

 




世の中のリア充なんて皆チョコレートで虫歯になってしまえばいいんだ・・・(泣)

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