境界線上の死神   作:オウル

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個人的な感想はここが一番書いてて長く感じました(笑)

※加筆修正しました


十五話

対立しているように見えて

 

その実わかり合う事を望んでいる

 

配点(境界線)

―――――――

 

武蔵野の指揮所ではそれぞれの戦闘を終えた者たちと、待機していた者たちが一斉に声を上げた。

 

「「はあああ!?」」

 

告白しに行ったのに、そもそも顔を覚えられていないとはどういう事なんだろうか。

何の勝算もなしに行ったトーリの馬鹿さ加減を改めて一同は理解した。

そして全員の叫びに押されるように、鈴が後ろに倒れかける。

 

それを背後に居た喜美が支えるように抱きしめた。

 

「フフフ、大丈夫よ鈴、ショックだったら後ろに倒れてもいいのよ。この賢姉のエロいクッションがあるから」

「あ、ありが、とう。でも、なん、だか、今回のは、邪悪、な感、じが」

「ああ、エロクッションは浅間の担当よね!そう!私はエロじゃなくて悪女クッションよ!」

「喜美!さりげなく私をエロクッションにしないでください!」

 

******

 

審問艦周りでも、味方も敵も関係なく同様な反応を示した。

三河警護隊の面々も、その様子を見て、

 

「おいすげーよあの馬鹿、何の勝算もなく賭けに出た結果がアレだぜ?」

「これがホントの博打か!」

「まさか告白しに行くのに好感度上げもせずに行くとは・・・勇者か?」

 

皆トーリのある意味凄い精神力に感服した。

ホライゾンの一言に、トーリは冷や汗をかきながら、

 

「あぶねぇ!ヤスとの日々のやり取りで耐性上げてなかったら死んでたぞ俺!?皆俺を死なせないために俺をよいしょして!テンションアップカモーン!」

 

即死しなかった馬鹿を見て一同は安堵しつつ、

 

「すげーなあの馬鹿、即死技に耐性持ってるぞ」

「お前ら俺の味方なんだよな?!」

「「wwwwwww」」

「なんで笑った!?なぁなんでそこで笑った?!」

 

馬鹿なやり取りをやってる一同の背後で、ホライゾンがもう一度首を傾げて、

 

「もう一度言いますが、皆さんのご迷惑になります。ホライゾンには自害の予定がありますので、これで」

「ちょっと待って!ちょっとでいいから!」

「ハイ待ちました、それでは」

「速いって!すぐ済むからさぁ!」

 

その様子を指揮所から見ていた一同は、

 

「ナイちゃん思うに、これ相性悪すぎだよねw」

「だ、駄目よマルゴット・・・そんなに笑ったらトーリが・・・トーリが・・・www」

「お前ぇも笑ってんじゃねーか!」

「僕が思うにさぁ、もうちょっと変化球狙っていくべきだったよねw」

「ちっくしょう!見てろよお前ら!これから逆転すっから!」

「「馬鹿、後ろ後ろ!」」

 

馬鹿が馬鹿がやってる間に、ホライゾンが下がろうとする。

 

「ああホライゾン!帰らないで!話の続き続き!」

「しつこい方だと判断できます」

「ここまで勝目のない戦いも、小生エロゲでも見たことないですね」

「拙僧思うに、あの馬鹿何かやらかしたのではないか?」

「ハイそこー!なんで俺が何かやったこと前提何だよ!?それにホライゾン、俺お前が居た店の常連客だぞ!挨拶の一つくらいしてくれても!」

「はて?青雷亭の常連は天野様と正純様だけだったような?」

「え?マジで覚えてないの?」

「・・・・・ああ、あのいつも釣銭を渡すときいつもこちらの手を握ってくる客でしたか・・・確か店主とつけた字名は"湿った手の男"」

「うわぁナイちゃん黒魔術引きしちゃった」

「大丈夫よマルゴット、私も白魔術引きだから」

「「なんでそんな身分で告ろうと思ったのかwwww」」

「うるせぇ!惚れた女に触れようとして何が悪い!こんな感じで・・」

 

そう言って壁の向こう、ホライゾンの胸に手を触れようとして、

 

「言い忘れておりましたが、この壁、触れると即死するみたいですよ?ん?どうしたんですか?触れないんですか?」

「あっぶね!何エキサイティングな仕掛け作ってんだよ三征西班牙!そんなの初等部的な発想だぞ!」

 

そこでトーリに康景が表示枠で、

 

「トーリ、俺がそっちに行くまでに話が進まなかったら、手と足の爪、一枚一枚剥がすぞ?」

「・・・」

 

トーリは汗をだらだら流して焦った。

 

「やべぇって!このままだと妖怪"爪剥がし"が来ちまう!・・・だから待てってホライゾン!ここにヤスが回収したエロ小説あるから、それでも読んで機嫌直して!」

「うわああああ!何やってるんですかあの人!っていうかどこで回収したんですか!?!?」

「落ちてたから、後で返した方が良いと思って持ってたんだ。でも忙しくなると思ってトーリに渡しておいた」

「なんでそういう要らない気は回るんですか貴方は!」

「いやでもお前アレすごいって、お前多分エロゲのシナリオライターになれるよ、うん。あんな素晴らしい物捨てるの勿体ない・・・えーと確か出だしは『トーリはおぱー・・・」

「それ以上言ったら撃ちますよ?撃ちますからね!?」

 

一同はこの馬鹿なやり取りを見て、懐かしいものを見るような感じだった。

喜美が笑い声を殺しながら、

 

「このやり取り、懐かしいわね・・・思い出さない?」

 

******

 

「ホライゾンが愚弟に厳しくて、康景が真面目に馬鹿やったり煽ったりして」

 

その喜美の呟きに反応したのはミトツダイラだった。

 

「そうでしたわね、総長がギャグをやってもホライゾンが『今のやり取りの何が笑いどころだったんですか?説明を』ってマジ聞きして、康景が『理由もつまらなかったらグーパンな』って言って厳しかったですわね・・・」

「それ軽いいじめじゃないだろうか」

 

正純はそのやり取りを詳しくは知らない。

だがギャグに説明を求めたうえでつまらなかったら殴る宣言は酷だろう、そう思った。

 

「おとなしい子だったわ。大体物陰で本読んだりして・・・でも二人とも愚弟のギャグとかには厳しかったわね」

「今のやり取りで昔の彼女を思い出すのでしたら、ただ単に当時のホライゾンが自動人形のような少女だったと、そう言う事かもしれませんわよ?」

 

浅間がそれに答える。

 

「だったら、その自動人形は間違いなくホライゾンでいいのかもしれませんね」

 

********

 

「だよなぁ」

「何が『だよなぁ』なのかよくわかりませんが・・・」

「いいから待ってろ、すぐ救けてやっから」

 

だがホライゾンは、

 

「ホライゾンが死んだ方が世の中にためになるという事が解らないのですか?ホライゾンは世界に迷惑をかけないことを望んでおります」

「はぁ?世界がどうとか、知ったこっちゃあないね。俺が迷惑なんだよ、お前ぇが死ぬとよ」

「疑問しますが、世界と貴方、どちらが上なのですか?」

「どっちだと思う?」

「率直に申しまして、世界です」

 

トーリは言った。

 

「じゃあ俺が世界を従える王になりゃいい!・・・そういうこったな?」

 

*****

 

その通神を見ている者は、その馬鹿の宣言を聞いた。

 

「お前ぇの大罪武装があれば末世救って世界の王になることも夢じゃねぇ!そして大罪武装はお前の奪われた感情なんだから、集めれば自分を取りもどせる!一石二鳥じゃねぇか!」

 

だから、

 

「俺はこれからホライゾン、お前と一緒に世界を征服しに行く。末世解決しながら、イチャイチャしながら俺のせいで奪われた全てを俺が取り戻してやんよ」

 

告げる。

 

「だから頼むわ、全世界!末世解決の為でいいから、俺に大罪武装くんね?嫌なら戦争だ。戦争って言い方が気に喰わないなら戦い、相対、ぶつかり合いとかでもなんでもいい、とりあえず俺にホライゾンの感情取り返す言い訳くれるなら何でもいいや」

 

トーリは一度息を吸って、続ける。

 

「神道、仏道、旧派、改派、英国協、唯協、露西亜聖協、輪廻道、七分一仙道、魔術、剣術、格闘術、銃術、騎馬、機動殻、武神、機獣、機凰、機竜、人間、異族、市民、騎士、従士、侍、忍者、戦士、王様、貴族、貴族、君主、帝王、皇帝ああもうめんどくせぇ!!それらとその他諸々の力を使って相対できる武蔵と俺たちとお前たちの感情と理性と意思とで、誰が一番強ぇのかやってみようぜ!」

 

世界への宣戦布告だ。

 

******

 

無茶苦茶だ・・・!

 

正純は息を飲んだ。

 

この状況で戦争を煽ってどうすんだ?!

 

「あっれー?なんで俺告白じゃなくて世界征服宣言してんだ?」

「考えて喋ろよ馬鹿!」

 

正純はツッコみを入れるが、トーリと対面しているホライゾンが一度頷き、

 

「なるほど、明確でわかりやすいものだと判断できます」

「おお!?ホントか?」

「ですが公平に判断してそれは貴方の理論であり、ホライゾンの理論ではありません。互いに平行線で、結局のところホライゾンには迷惑です」

 

ホライゾンは首を横に振った。

 

「お帰り下さい・・・ホライゾンが居ることで極東が損なわれるのは嫌です」

「俺がお前を失うのが嫌だからって、そう言ってもか?」

「どうして嫌なのですか?」

「えっ?あ、そりゃあ・・・そのう///」

 

もじもじしてクネクネする馬鹿の横から康景が表示枠で、

 

「クネクネしてんなキモイ、さっさと言えよ。皆頑張ってんだから」

「おうおう将来の義理の弟が急かしに来ましたよ」

「お前が義理の兄とか嫌だな」

「ストレート過ぎんだろ!もっと茶を濁せよ!そして今のうちから"お兄ちゃん"呼びの練習しといた方が良いぞ?」

「オロロロ」

「吐く真似すんな!」

 

そしてトーリはホライゾンに向き直り、

 

「なんでってそりゃあお前、アレだよ・・・お前ぇの事が好きだからだよ」

 

女性陣から黄色い声が上がった。

ホライゾンは一、二度頷いてから、

 

「jud.まことに残念ですが、ホライゾンには感情がありませんので、言動が理解できません。お帰り下さい」

 

そして皆が一斉に、

 

「「フラれやがった!!」」

 

******

 

指揮所では鈴がショックのあまりまた倒れる。

それを今度は喜美ではなく浅間が支えた。

 

「ほら鈴さん、今度は邪悪じゃない方のクッションですよ?」

「え、エッ、チ、なクッ、ション」

「「向井鈴公認のエロ!!」」

「ちょっ!!」

 

******

 

「そもそも、自動人形に告白するなど聞いたことがありません」

「大丈夫だって、昨日ネイトが乳を自分から揉ませてくれたからな!例え固くても行けるって解ったから!問題ねぇよ!」

「さ、最悪!最悪ですわ!!そもそも私が本来揉んで欲しいのはやすk」

 

二人はミトツダイラの割り込みを無視した。

 

******

 

「現状、ホライゾンと貴方は平行線です。だからお帰り下さい」

 

ホライゾンは現状を、平行線と判断した。

トーリはこの状態を理解していた。

 

・・・対論の潰し合いだよな、これ。

 

先程正純が教皇総長とのやり合いを見てどうすればいいのか大体わかっていた。

 

「だったら俺も平行線だ!俺はお前を連れて帰る」

 

トーリが光の壁ギリギリにまで立つ。

それに呼応するようにホライゾンも立った。

 

「平行線ですね。だからホライゾンは言います、互いの納得などどこにも無いと」

「平行線だ。だから俺も言う、俺は互いに納得できる位置を知っていると」

「平行線ですね。だからホライゾンは言います貴方には何もできないのではないか、と」

「平行線だ。だから俺も言う、俺はお前に何かできるんじゃないか、と」

「平行線ですね。だからホライゾンも言います、ホライゾンは死を望む、と」

「平行線だ。だから俺も言う、俺はお前に生きてほしい」

「平行線ですね。だからホライゾンは言います、ホライゾンには人の命がありません」

「平行線だ。だから俺も言う、俺はお前に人の魂があることを知っている」

「平行線ですね。だからホライゾンも言います、全て無駄です」

「平行線だ。だから俺も言う、俺はお前の何も無駄だとは思わない」

「平行線ですね。だからホライゾンも言います、自動人形の判断は完璧だと」

「平行線だ。だから俺も言う、お前の判断を完璧だと思わない」

「平行線ですね。ホライゾンは言います・・・・・・ホライゾンは貴方の応答を聞きたくありません」

 

拒絶した。

 

******

 

「葵!彼女を離すなよ!」

「わーってるよ、皆と、ヤスが命懸けで繋いでくれたチャンスだ・・・離すわけねぇ」

 

トーリは諦めなかった。

ゆっくりと息を吸い、続ける。

 

「俺の答えは聞きたくも無いってか・・・でも結局は俺とお前の平行線だ・・・俺はお前の応答を聞きたい」

 

ホライゾンは俯き、しばらくしてから、

 

「jud.」

 

応答を了承した。

 

「すべては・・・平行線だ。だから俺は言う、お前の判断は完璧なんだと」

 

彼女の返答は、

 

「平行線ですね・・・だからホライゾンは言います・・・・・・ホライゾンはきっと、間違っている、と」

 

自動人形が、己の間違いを認めたのだ。

 

******

 

康景は、ホライゾンが己の間違いを認めたのを表示枠を通して聞いた。

 

・・・最善の判断を下す自動人形の最善が、本人にとっての最善とは限らない。

 

ホライゾンは、ひょっとすると待っていたのかもしれない。

自分にはどうしようもできない最善を諦めさせてくれる人間を。

 

トーリはその事に気付いたのだ。

 

ホライゾンの選択が死にたくないと願っているのが本心なのか、それとも自己の損失は避けたい自動人形としての本質からきているものなのかは、康景にはわからない。

どう思ってそう判断したのかは、本人しかわからない。

でも、その言葉を聞いて康景は安心した。

 

・・・ホライゾンの奥底は、死を選んではいない。

 

康景は自分が小さく笑った事に気付かなかった。

だが不意に、自分が今抱いて走っている二代がこちらの顔を見ていることには気づいた。

彼女は頬を赤くして、ぼーっとこちらを見ている。

 

「どうした?俺の顔に何か?」

「い、いや・・・なんでもないで御座る///」

「?」

 

・・・変な奴だな、俺の顔なんて特に面白くもないだろうに。

 

康景はこの時、二代の中で起こってるある変化に気付いていなかった。

だが同時に二代自身もその変化に気付いていなかった為、その原因がわからず互いに気まずい空気が流れた。

 

妙な沈黙の中、康景は森を抜ける。

 

ホライゾンの所まではあともう少し。

 

*****

 

トーリは先程の応答を繰り返すように続ける。

 

「平行線だ、お前は自分のすべてを無駄だと、そう思ってるんだろ?」

「平行線です、自分の何もかもが、無駄だとは思いたくありません」

「平行線だ、お前は感情を持ってないじゃないか、と」

「平行線です、感情を持てると、信じています」

「平行線だ、お前は人の命を持っていないじゃないか、と」

「平行線です、ホライゾンには人の魂がある、と」

 

トーリは一瞬だけ詰まって、

 

「・・・平行線だ、お前は死を望むんだろう?」

「平行線です・・・ホライゾンは生きていたいです」

 

立場がさっきと逆転した。

 

「平行線だ・・・だから俺は言う、お前は俺が何もできないと、そう思ってるよな?」

「平行線ですね・・・だからホライゾンは言います、貴方にはできることがあると」

「平行線だ・・・俺とお前の納得は、どこにも無いだろう?」

 

数秒空いて、

 

「平行線ですね、ホライゾンは言います・・・ホライゾンは互いの納得できる位置を知っています」

「それは何処だい?ホライゾン?」

 

それは、

 

「平行線が一致する場所、異なる考え方が一致する場所」

 

ホライゾンは答える。

 

「境界線上です」

 

********

 

極東側で小さく歓声が湧いた。

 

「ホライゾンはその境界線上に行きたくないよな?」

「いえ、行きたいです」

「連れて行って欲しくない?」

「いいえ、連れて行って欲しいです」

「あとでオッパイ揉ませてくれる?」

「は?」

「素で返答来たよ!境界線でも平行線でもねぇ!本気の素で来たよ!」

 

最後の最後で台無しにしたトーリにブーイングが来る。

 

「死ね」

「右に同じ」

「右に同じで御座る」

「右に同じです」

「うるせぇ!・・・ってホライゾン?怒ってる?」

「なんで勝手に決めるんですか?ホライゾンは怒っていませんとも・・・ええ、怒ってませんとも」

「やっぱ怒ってる!」

 

ホライゾンは天幕の向こうで佇み、

 

「貴方はホライゾンを否定してくださるのですね」

「ホライゾンは俺を否定して叩いたりツッコミ入れてくれても良いぜ?」

 

ホライゾンは自分自身の最善と望みを言う。

 

「ホライゾンは君主であることが最善です・・・しかしホライゾンは軽食屋の店員でありたかったと、そう思います」

「そんなの、両方やりゃあいいじゃん」

 

馬鹿は言う。

 

「俺なんて生徒会長で総長で、馬鹿やってんだもん。ホライゾンも、君主やって軽食屋の店員やりゃいいじゃん」

 

笑って言った。

その応えに、ホライゾンは、

 

「jud!・・・ホライゾンも、それを最善としたいです・・・!」

「俺もだよホライゾン!!!」

 

答えは決した。

 

トーリは即座に眼前の邪魔な壁を見た。

 

「なぁこの壁どうやったら壊れんの?すんげーホライゾンとイチャイチャしたいんだけど?」

「最悪ですね」

「最高の間違いだろ」

 

トーリは己の拳を握る。

その時、『刑場』の奥から声がした。

拡声器を通してその声は、

 

「その壁は触れれば過去の罪が再現され、その罪に応じてその者を殺します。壁自体に硬度はありません、触れて過去の罪が否定できれば、流体で出来た壁も消失すると・・・」

 

しかし背後から教皇総長が、

 

「無駄な事はやめろ!おとなしく裁きを受けるがいい!過去一度たりともそれを否定できた者はおらん!!」

 

吠えた。

しかしトーリは教皇を見もせず、

 

「おい皆、そのオッサン止めろ。ホライゾンとイチャつくのに邪魔だ」

「貴様ぁああ!」

 

インノケンティウスは極東勢の倍はいる人数で一気に潰そうとした。

だが、K.P.A.Italiaの進行は止まる。

 

何故ならばその間に赤く染め上げたコートを着た者が現れた。

 

「邪魔だ・・・失せろ」

 

康景が、『刑場』に到着したのだ。

 

*****

 

康景は何とか最後の場面に間にあった。

戦局はもうクライマックスだ。

後はホライゾンを救出するだけ。

 

「トーリ、こっちは任せろ」

「頼むわ」

 

互いに背を向けたまま、答える。

その背中は、互いを信頼していることを物語っていた。

 

康景は、先程派手に暴れまわったおかげで、敵がこちらを警戒していることを悟った。

だがそれでも進攻しようとするものはいる。

 

康景はそれを殺して止めた。

 

「我らが王の元へ向かいたいというのなら、この俺を超えていけ・・・その覚悟があるのならな」

 

K.P.A.Italiaの戦士を睨みつけた。

敵戦士団はそれにたじろぐ。

 

その様子を見て、康景は、

 

「戦う気が無いなら・・・」

 

叱りつける様に、憎むように、

 

「最初から戦場に立つんじゃねぇよ!!!」

 

怒鳴った。

 

ただ冷静に敵を殺してきた男が見せる怒り。

その異様さに恐れを持った敵の何人かは武器を下した。

教皇総長は、己の軍の士気が下がるの防ごうとする。

 

「まだだ!怯むな!」

 

淫蕩の御身で康景の武装を解除しようとするが、

 

「結べ、蜻蛉切!」

 

教皇総長の発動した淫蕩の御身の超過駆動は蜻蛉切によって割断された。

二代が康景の背後から超過駆動に対する割断を行ったのだ。

 

「貴様がここに遅れてきたのはその女侍を着実に『刑場』まで連れてくるためか!?」

「気付けよ教皇サマ」

「ならば!ならば武蔵総長との相対を!」

「決着をつけるなら、まず副長である拙者を倒してからにしてもらおう」

 

武蔵総長にたどり着くまでの障害の多さに奥歯を噛みしめた。

 

「ちょっと待ってろよオッサン、大体こっちが先約なんだからその後でも・・・」

「「あ」」

「?」

 

その場に居た全員が声を上げた。

敵も味方も全員が、だ。

 

「何だよ皆?こっち見て?」

「お前さぁ・・・そういう不注意やめろよ、主人公か何かか?」

「元ネタでは主人公だよ!」

「「メタな話だな!!」」

 

康景に言われ、ゆっくり状況を確認した。

敵に、味方に、目の前にはホライゾンが居る。

だがそのホライゾンの胸には先程にはなかった変化があった。

 

自分の指先が、ホライゾンの乳首あたりを押していた。

 

「エロ不注意だ!」

「「不注意すぎるわ!」」

 

敵味方を含んだ全員からツッコミを食らい、トーリとホライゾンは罪を再現するために壁が作る空間に引き込まれた。

 

*******

 

トーリは自分が『刑場』ではなく、別な場所にいることに気付いた。

 

・・・ここは?

 

石畳にも見える木造タイルの上に居る群衆。

そして人々の視線はパレードに向いている。

トーリはこれが、後悔通りで、今がホライゾンが死んだときの事だという事を理解した。

 

ホライゾンがいなくなったとき・・・。

 

「ホライゾンが死んでしまった時の事か・・・」

「ホライゾンの死ですか?」

 

ハッとして顔を上げると群衆の向こうにホライゾンの姿があった。

亡くなった時ではない、今のホライゾンの姿だ。

 

「どうしてここに?」

「正直に申しまして、どこかの誰かが壁を触った時こちらのオパーイに触れてきたため、人身事故のような形で巻き込まれたと判断できます」

「そういうもんなの?」

「そういうものなんでしょう」

 

沈黙が生まれた。

だがトーリの後ろで、急ぎ走っていく少年に気付く。

 

今のは・・・。

 

トーリは足早にその後を追う。

ホライゾンもそのトーリについていく。

 

「どうなさいましたか?」

「あ、いや、この先でホライゾンが・・・」

「ホライゾンが?」

「・・・・元信公の馬車に轢かれて、死ぬんだ」

「それはどうしてですか?」

「原因というか、発端は・・・朝飯なんだ」

 

は?

 

とホライゾンが疑問視する。

 

まぁ・・・いきなり朝飯なんて言われてもわかんねぇよな。

 

トーリは重々しい口を開いた。

 

「母親が居なくなったホライゾンと義伊・・・康景な?二人は親無しで二人暮らししてたんだよ」

「・・・なんで子供が親無しで生活できたのかその辺が疑問ですが、そもそもなんで天野様と二人で?」

「アイツ、お前の母親に拾われて、お前の弟として一緒に住んでたから」

「・・・」

「ホライゾン?」

「そのような重大な事を今さら知らされたのは少々問題な気もしますが、その辺はあの方を殴ることで解決としましょう」

 

トーリは苦笑いした。

 

・・・アイツそう言う事も含めて重要な事喋んないからな。

 

「(しょうがないからおとなしく殴られとけ、ヤス・・・)」

 

心の中で呟いた。

 

「まぁそれでパレードの日に、姉ちゃんがパレード見に行って、朝飯作る担当が居なくてな・・・そこで偶然俺をパレードに誘いに来たホライゾンがその事知って、寝坊した俺のために朝飯作ってくれたんよ」

 

いったんホライゾンから目を逸らし、

 

「俺、その時のホライゾンの朝飯、不味いって言っちまったんだ」

「それは・・・仕方のない事では?」

「でもホライゾンは、泣いて飛び出していったよ」

 

ホライゾンの母親がいなくなってから、料理に関しては康景が担っていたから、ホライゾンが多少下手なのはしょうがない事だったのかもしれない。

 

でも・・・。

 

「ホライゾンが俺を気遣って作ってくれた料理を不味いって否定したことで、俺、嫌われちまったんじゃないかって、心配になってさ・・・跡追っかけたんだ」

 

だけどホライゾンは・・・。

 

「ホライゾンは追う俺から逃げたよ」

 

かつての自分ん軌跡を辿るうち、通りの中央、空いたスペースに出た。

道路上、そこには馬車があった。

四輪引きの大きな馬車。

そこに飛び出したホライゾンに、手を伸ばす、かつての自分。

 

「俺思っちまうんだけどさ、俺がお前を追っかけなければ、お前は死ななかったんじゃないかって」

 

でも、

 

「俺にあの時力があれば、お前を救えた・・・でもそれすらできなかった俺は、ホント馬鹿だよなあ」

 

トーリは事故に遭う瞬間が再現されたかつての自分たちを見る。

 

・・・これどう見ても距離とか足りないよな。

 

自分が馬鹿だ馬鹿だという自覚はあったが、ここまでとは思ってみなかった。

そしてしゃがみ込む。

 

「かつてのホライゾンのスカートを覗き込もうとするのはお止めください」

「・・・何色が好き?」

「黒ですが?」

「ヤスと正反対・・・やっぱ同一人物だ」

 

半目で睨むが、正反対という単語を受けてホライゾンが質問する。

 

「どうして天野様・・・康景様と正反対でホライゾンがかつてのホライゾンと同一人物だと?」

「お前とヤス、本の趣味以外は大体正反対でさ・・・食べ物とか、飲み物とか、聞く音楽とか」

「・・・」

「でも読む本に関しては話が合ったらしくてな?俺がヤスの人生狂わせなきゃ、多分ヤスもあんなターミネーターじゃなくて読書好きの文学少年になってたと思う・・・ホライゾン?」

 

話の途中でホライゾンが何か考える仕草をしていたが、それが何なのかはトーリには分らなかった。

ホライゾンはこちらに向き直り、

 

「申し訳ありません、ホライゾンの中で疑問が一つ解けたので、納得していただけです・・・それにしてもこれ、どうやって否定なさるおつもりで?」

「だよなぁ?」

 

自分の手で頭を掻こうとしてその手が無いことに気付く。

 

あ、やべ・・・!

 

だが自分の腕が崩れていくのに気付くが、目の前に立つホライゾンもまた、身体が消え始めていた。

 

「ホライゾン!」

 

分解の時間が来たのだ。

 

「分解の時間が来てしまったようですね・・・ホライゾンと貴方が消えることが、互いの境界線上の在り方なのですか?」

 

問われ、トーリはホライゾンを見た。

親友が、仲間たちが開いてくれた活路。

康景に至ってはかなり無茶苦茶やってくれた。

 

・・・無茶すんなって言ったのによ・・・。

 

トーリは仲間たちの事を思った。

 

だが、目の前のかつての自分の罪は消えない、認めて消えるしかないのだろうか。

 

・・・どうなんだ?

 

迷った。

だがホライゾンは消えていく身体でトーリに問う。

 

「率直に疑問があります・・・貴方はどうして今のホライゾンを好きになったのですか?」

「初めは・・・雰囲気とか仕草とか気になって、それから朝飯作る練習してるとか聞かされてドキッとしてさ」

「ホライゾンには記憶がありませんので今回の事例と重ねても」

「ああいや、そうなんだけどさ・・・でもこの娘は誰かに朝飯とか、そういうの頑張って作ってあげたいとか、そういう風に思える人なんだなって」

 

だから、

 

「何もできない俺だけど、それでも何かを望むのと同じように、誰かのために何かを為したいと頑張る誰かと・・・そうしたいと思ってるお前の傍で、それの一番でありたいよ、ホライゾン」

「そうですか」

 

では、

 

「どうしてかつてのホライゾンを好きになったのですか?」

「それは・・・」

 

言葉に詰まる。

 

「かつての貴方がかつてのホライゾンを欲した理由が、今のホライゾンを欲している理由と同等であるのなら、かつてのホライゾンにとっても貴方はホライゾンを平行線から否定しうる強固なパートナーだった筈です」

 

だが、

 

「かつてのホライゾンは俺から・・・逃げたよ?」

「ホライゾンは理解できませんが、人間とは、泣いている姿を他人に見られたくないモノではないかと、恥ずかしければ隠れたりもしたくなるものでは?」

「・・・」

「確かにかつてのホライゾンは、貴方の否定に戸惑い、逃げたのかもしれません・・・しかし貴方から見つかった先は、隠れたかったんだと判断できます」

 

それは、

 

「泣き止んで、笑顔で会いたかったんだと思います」

「何故?」

「簡単な事です」

 

ホライゾンは言った。

 

「泣いてしまった事で負い目を貴方に感じさせてしまうと考えたのでしょう、だから対等なパートナーである貴方と笑って再会したかったがために」

 

ホライゾンがかつての自分を挟んでトーリに告げる。

 

「ホライゾンは平行線故に、来ないで、そう言います・・・共に境界線上に至るためには、ホライゾンにどのような言葉が必要ですか?」

「俺は・・・」

 

トーリは思う。

 

俺ってば本当に何もできない馬鹿だよな・・・。

 

でも今は、そうじゃない。

ここに来るまでに多くの助けを貰って来たように、

 

「俺一人じゃ救えないかもしんねぇ、でもそこは危ねぇよホライゾン、救いに行くけど、お前もこっちにこいよ」

「jud!!」

 

ホライゾンはトーリの手を取った。

そしてトーリはかつてのホライゾンを見た。

かつてのホライゾンはかつてのトーリに手を伸ばしている。

 

嫌われてたわけじゃあ、なかったんだな・・・。

 

トーリはそう信じて、ホライゾンを抱きしめた。

 

次の瞬間、光の壁が砕け散る。

 

「!!??」

 

トーリは、元の場所に戻ってきたのだ。

 

つまり、トーリの過去の罪は否定された。

 

トーリと康景の約束は、果たされたのだ。

 

 

 




「嘘予告」
ト??「招かれた七人のサーヴァント」
??リ「セイバー(先生)、ランサー(二代)、アーチャー(???)、ライダー(直政)、キャスター(喜美)、アサシン(正純)、バーサーカー(ネイト)」
?ー?「七人がたった一つの(康景の)正妻の座を求めて殺し合う(笑)」
??リ「・・・さぁ正妻戦争を始めよう」

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