境界線上の死神   作:オウル

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今回あんまり話は進みません

※加筆修正しました


十四話

勝利すること

 

それは戦況を有利に進める上で

 

欠かせないこと

 

配点(副長)

 

――――――

 

宗茂は己の中に焦燥感と怒りがあるのを悟った。

この男と誾が相対したのなら、きっと重症の筈だ。

だから早くこの男を斃して一刻も早く誾の元に向かいたかった。

 

だが同時に、この男が容易く相手が出来る存在ではないことも理解した。

 

二代とは打って変わって堅実に相手の攻撃を捌いて反撃の隙を狙うタイプだ。

こういう相手は厄介だと、直感で感じる。

宗茂は高速で移動しつつ、悲嘆の怠惰を叩き込む。

 

相手の意表を突くように、背後を取って突き攻撃を出すがそれも躱される。

 

・・・今のも躱しますか!?

 

一体どんな訓練をすればそこまでの技量が身に付くのか、宗茂には想像がつかなかった。

だが自分とて西国無双『立花宗茂』の襲名者だ。

誾の事や三征西班牙の事を思い、奮起した。

 

・・・負けるわけにはいかない!

 

宗茂は自分の足に更なる負荷をかけた。

 

一万七千倍加速!

 

宗茂の速度は、常人のそれを軽く超えた。

 

宗茂は加速により威力を増した"悲嘆の怠惰"の横払いをした。

激しい金属音がする。

悲嘆の怠惰は相手の長剣を弾いたのだ。

 

・・・今です!

 

宗茂は仰け反っている相手の後ろに回り込み攻撃を行った。

 

終わりです!!

 

再び高速の横払いを行った。

 

しかし宗茂の視界に、あり得ないことが起きた。

康景が身を折り曲げてその攻撃を躱したのだ。

 

背後からの攻撃を・・・?!

 

同時に異変に気付く。

 

「!?」

 

自分の腹部に激痛が走った。

敵は避けたのと同時にこちらに斬撃を放ったのだ。

 

******

 

康景は、致命傷を与えるつもりで斬撃を放った。

 

胸部から腹部にかけて両断し、真っ二つにするつもりで。

 

だが、結果は長剣が相手のわき腹を浅く切っただけだった。

宗茂は自分の攻撃が避けられたのとほぼ同時、おそらく無意識的に回避を行ったのだろう。

 

・・・やるな。

 

康景は嫌味でも皮肉でもなく、素直に相手の能力に感心した。

 

視界の向こう、宗茂はこちらから距離をとって出血するわき腹を押さえている。

しかし、相手の視線はこちらを見据えている。

 

康景はそこで気になったことを聞いてみた。

 

「一つ聞きたい」

「・・・何ですか」

 

宗茂の目はまだ相手を倒すことを諦めていない目だ。

 

「アンタは、その大罪武装について、どう思ってるんだ?」

「・・・それは」

 

宗茂は返答に詰まる様子を見て、康景は思う。

康景はこの相手の事を良く知らない。

たかが数分斬り合っただけだ。

 

だが今この相手の感じたことは『立花』の名に誇りを持っているという事だ。

 

その上で人の犠牲の上に成り立つ大罪武装を所持していることをどう思ってるのか問いかけた所、この相手は返答に詰まったのだ。

 

・・・『西国無双』が他人から奪われた感情から作られた武装を持つことについて、疑問に思ってくれているのか。

 

大罪武装に関して、少なくとも懐疑的な見方をしてくれている。

その事を理解しながらこの男は、自分の国や嫁のためにその武器を振るっているのは、

 

色々思う事があるんだろうな・・・。

 

「アンタ・・・いい奴だな」

「!!」

 

康景は剣を下した。

 

*****

 

宗茂は相手が剣を下したのを見た。

 

・・・馬鹿にしているんですか!?

 

まだ勝敗はついていない。

なのに剣を下す。

 

その行為を、宗茂は侮辱と捉えた。

 

「何の真似ですか・・・!」

「アンタさ、その武器を使っていいのか、疑問に思ってるんだろう?」

「・・・」

 

確かに、立花の名を戴くものが、他人の犠牲から成り立つ武装を使う事について疑問に思う。

だが自分は同時に襲名者で、今回の三征西班牙の代表なのだ。

自分の我侭で国益を損なうなんてことは出来ない。

 

・・・誾さんにも迷惑が掛かりますからね。

 

相手は言う。

 

「アンタにはその武器、似合わないよ」

「・・・!」

 

・・・私がこの武器を使う事は似合わないですか。

 

この男は自分の中にある疑問を見透かした上で、そう言った。

 

「アンタみたいな良い奴は人の犠牲の上で生きてちゃいけない・・・少なくとも俺は、そう思う」

 

宗茂は思った。

短い時間の中で、この男について解ったことが一つだけある。

 

この男は確かに多くの者を屠ってきた紛うことのない『敵』だ。

 

だが同時に、失われることを誰よりも厭う者なのだという事を改めて理解した。

血の通わない冷徹な殺人鬼ではなく、誰よりも現状を悲しんでいる一人の人間なのだ。

その上でそれを承知で憎しみを一身に背負って、それを良しとする。

 

・・・一番辛いのは自分でしょうに。

 

宗茂の中に先程まであった康景に対する怒りは、不思議と消えていた。

代わりに芽生えたのは、そんな選び方しかできない相手への悲壮感だった。

 

「剣を下したことについて、侮辱を感じさせてしまったのなら、謝ろう」

 

康景は続け、

 

「俺が剣を下したのは、別にアンタを侮辱した訳じゃない」

 

ならば何故。

そう思うより先に、

 

「二代が『休憩』を終えたみたいだから、俺は引っ込んだ方が良いと思って」

「!」

 

ふらふらになって立ち上がる本多二代を指さした。

 

*****

 

二代は朦朧とする意識の中、身体を起こした。

 

拙者は負けたので御座るか・・・?

 

状況を確認しようと周囲を見渡す。

そこには康景と宗茂が対峙している姿があった。

 

・・・康景殿。

 

そこには本隊の方にいるはずの康景が居た。

 

・・・どうしてここに?どうして立花宗茂と相対を?

 

色んな疑問が浮かぶ中、二代は悟った。

 

・・・拙者は貴殿の期待に応えられなかったので御座るな・・・。

 

二代は己の未熟さと弱さに泣きそうになる。

だが、康景から言われた言葉は、意外なモノだった。

 

「まだやれるよな?・・・長い『休憩』もそろそろ終わってくれると有難いんだがな」

 

え・・・?『休憩』?何の話で御座るか?拙者は・・・。

 

意識がはっきりしてきて、戦況を理解した。

康景が無傷で、立花宗茂が負傷している。

 

まさか貴殿は・・・。

 

二代が起きるまで、立花宗茂が武蔵に大罪武装を使わないように足止めをしていたのだ。

それは二代が絶対に立花宗茂を倒すという前提から来る行為だ。

 

拙者が勝つと信じて・・・?

 

ならばその期待には、応えなければならない。

康景の役割は、最初の眼鏡(武蔵の書記だが名前忘れた)からの作戦を聞いた段階でかなりあったような気がするが、それをこなしてからここに来たのなら彼の働きっぷりには素直に感服するしかない。

 

・・・貴殿は働きすぎで御座るよ。

 

二代は胸が熱くなるのを感じて蜻蛉切を握りなおした。

 

「康景殿、迷惑をかけたで御座るな・・・」

「気にするな、誰もが通る道だし」

 

康景殿が言うとなんだか重みがあるで御座るな・・・。

 

康景は二代に後の事を任せ、下がる。

そして呟いた。

 

「極東の侍であるのなら・・・その務めを果たせ」

「・・・」

 

二代には、その呟きが自分に向けたものなのかそうでないのか、解らなかった。

でもその呟きで、二代の中にあった疑問が一つ氷解する。

 

・・・父は、自分の侍としての務めを果たしたので御座るな。

 

三河消失が三河君主の望みなら、父は見事にその務めを全うした。

ならば今自分がすべきことは、立花宗茂を倒して、君主であるホライゾンを救う。

 

ならば、

 

二代は宗茂に対して槍を構える。

 

*****

 

宗茂は先程吹き飛ばした相手が、立ち上がるのを見た。

 

あの傷で立ちますか・・・!?

 

二代の精神力に宗茂は驚く。

そして背後に下がる康景を見て、

 

・・・これも貴方の望み通りの展開ですか?

 

康景に対して攻撃を与えられなかったことを悔しく思い、康景の思惑通りに動く事態を悔しく思った。

 

本多二代はの先程こちらの攻撃で負傷しているが、こちらも今の戦闘で負傷してしまった。

 

「(条件は同じという訳ですか・・・)」

 

宗茂は二代に対して武器を構えた。

そして向こうが、

 

「二代・・・」

「なんで御座るか?」

「勝ってくれ、『武蔵副長』」

「・・・jud!」

 

その応答と共に、敵がこちらに突っ込んで来た。

 

第二ラウンドの始まりである。

 

*****

 

再び宗茂は二代と激突した。

相手の速度は遅くなっている。

負傷もあるからそれも当然だが、同時に、

 

・・・戦い方変わりましたね。

 

先程までの、起伏の無い連続攻撃ではない。

連続攻撃ではないが故に、所々で攻撃が途切れる。

 

しかし、攻撃に傾かない動きは、体感としては速く感じてしまう。

 

しかも先程の康景との戦闘で足の筋肉も動かなくなってきている。

 

まさかこちらの疲労まで計算のうちとは・・・!?

 

あのわかりやすい挑発も含めて、こうなることを予測していたと思うと康景に対してぞっとした。

だが今の相手は本多二代だ。

 

宗茂は目の前の相手に集中した。

 

*****

 

二代は意識を途切れさせないように努めた。

だが動きはほぼ意識しないで行っている。

十年もの間、父親と訓練を行って培った動きだ。

 

どうすればいい、そんなことを考えている余裕はなかった。

 

二代はギリギリまで術式には頼らず、鍛錬で鍛えた速度で己の攻撃が当たる速度を見つけに行く。

 

父は自分に対して術式の訓練をしていたわけではない。

術式を含めた戦闘の訓練をしていたのだ。

その事をここ最近失念してしまっていた。

 

ああそうだ、精度を上げろ、無駄をなくせ、迷いは捨てろ。

 

二代の動きは、先程までの連動した攻撃ではなく自分の攻撃に関して余分なものを削ぎ落とし、鋭い動きとなった。

 

*****

 

・・・速い!

 

宗茂は相手の動きが、自分と同等かそれ以上であることを感じた。

二代の攻撃を凌いで、攻撃を繰り出す宗茂だったが、その攻撃を二代が防ぐことは無かった。

こちらを見ていない。

 

防御すら余分なものとして禊ぎましたか!

 

もはや二代が見ているのは自分の速度の到達点だった。

バックステップで距離を取りバックハンドで攻撃する。

しかしその攻撃も防がず、回避される。

 

宗茂は負傷もあり、足の疲労もあった。

しかし、この相手に手加減をしたら負けてしまう。

故に宗茂は足に術式をかけて跳んだ。

二代の背後に回り込む。

今彼女はこちらを向いていない。

 

行ける!

 

そう思った。

だが、

 

「!?」

 

不意に下からバックスナップによる蜻蛉切の刃が跳ね上がるように来た。

その動きを咄嗟の反応で避けたことでバランスが崩れる。

この攻撃の動きを、宗茂は昨日体験したばかりだ。

 

本多忠勝の背面を見ないでする石突。

 

そのバランスの崩した瞬間を、二代は攻めた。

振り向きざまに宗茂に連続攻撃を行う。

数十発を超える斬撃と攻撃が来る。

宗茂はとっさの判断で防御用の術式を使ったが足りず、悲嘆の怠惰を持っていた右腕の骨を砕かれ、全身に裂傷を負う。

悲嘆の怠惰が右手から離された事で宙を舞い、宗茂の身体は吹き飛ぶ。

そして地面を転がり仰向けになった。

 

私はここで死ぬ・・・。

 

そう思った。

だが止めとなる攻撃は来なかった。

 

「止めを刺さないのですか?」

 

宗茂は問いかけた。

 

「拙者を倒した後止めを刺さなかったで御座るな?それを返そう」

 

あの時宗茂は止めを刺さなかったのは、そうする気が無かったというのもあるが、

 

・・・闖入者もありましたからね。

 

天野康景という厄介な存在が闖入してきたことも大きい。

そして宗茂は二代に賛辞を送った。

 

「・・・貴女の勝ちです」

「いや、貴殿は恐らく父に神速の名を持つガルシア公の名を割断されたのではなかろうか?もし拙者の勝ちに見えるのなら、それは恐らく父が勝敗を決していたからで御座ろう」

「私の敗北を、先人に捧げてくださるのですか?」

「拙者まだまだ未熟者故に、康景殿の手助けなしでは、ここまで至れなかったで御座る・・・貴殿はそんな未熟な拙者に負ける御仁ではなかろう」

 

言われ、宗茂は苦笑いした。

天野康景に、本多二代、確かに武蔵は強い。

 

・・・次の機会があるのなら、その時は―――。

 

宗茂は己の中で再戦を誓う。

 

そして誾を思いながら、気を失った。

 

******

 

「敵将立花宗茂、討ち取ったり!」

 

二代は吠えた。

今回の一件で、二代は多くの事を学んだ。

それらの事を全ていっぺんに理解はしきれなかったが、とりあえず敵を倒した後はどうすればいいのか解らず、空を見上げ、勝鬨を上げた。

表示枠の向こうで歓喜の声が湧く。

 

そして落ちている悲嘆の怠惰を拾い上げ、康景に近寄る。

 

「勝ったで御座る」

「お疲れ様」

 

二代が見る康景の顔は無表情なのに安堵感を感じた。

だが二代の疲労も相当ひどく、足がもつれて転びかける。

その二代を、康景は支えた。

 

「おっと・・・大丈夫か?」

「だ、大丈夫で御座る///」

 

二代は何故か知らないが心臓の鼓動が速くなるのを感じた。

 

・・・なんでで御座ろうか?

 

妙に汗ばむ感覚の正体が、二代は解らなかった。

二代は態勢を立て直そうとして真っ直ぐに立てず、槍を杖にして何とか立つ。

 

「すまぬが康景殿、拙者すぐには動けそうには・・・」

「ダメそうか?」

 

二代は足にガタが来たのを感じ、すぐには戦線に復帰できない旨を伝えた。

だが康景は、

 

「戦況は最終局面を迎えようとしている・・・多分教皇総長の大罪武装が邪魔になるだろうから、戦闘に参加はしなくても割断をやってくれればいい。それに教皇総長が相対をトーリに仕掛けた場合、副長のお前が居ればそれも防げるし」

「だが今から行って間に合うで御座ろうか?」

 

この足で間に合うのか?

 

そう疑問に思った。

その時、

 

「間に合わせるさ」

「!?!?」

 

二代は抱きかかえられた。

世に言う『お姫様抱っこ』だ。

人生初の御姫様抱っこに軽く興奮しつつ、事態を変に恥ずかしく感じる。

 

「ちょっ!」

「まぁ俺みたいな奴にこんな事されるの嫌だろうけど、足になるから、我慢してくれ」

 

康景は二代をお姫様抱っこし、悲嘆の怠惰を担いで『刑場』まで走った。

だがその道中、二代は康景の手が自分の尻と胸に当たってる事に困惑していた。

 

あ、当たってるで御座る!当たってるで御座るよ!?

 

尻と胸を触られているというのに、不思議と居心地の良さを感じた二代。

二代の恥ずかしさとか、その他色々な感情を含んだ視線に気づくことなく康景は疾走した。

 

*******

 

康景と二代が関所を去った後、そこには新たな影が現れた。

 

誾だ。

 

誾は康景に蹴り飛ばされた時の腹部の痛みに耐えながら、関所にまで来たのだ。

 

「宗茂・・・様!」

 

誾は宗茂の姿を探した。

静かな状況から、戦闘は行われていないことを察した。

その静寂は、宗茂が勝ったから生じた静けさだと、誾は信じた。

 

―――だが実際は違った。

 

「・・・!」

 

誾の視界に宗茂の姿が入った。

彼は腹部からの出血で血の気を失って倒れていたのだ。

 

宗茂様!?

 

誾は痛みで全力で駆け寄ることが出来ず、足を引きずるように宗茂に近寄った。

宗茂の口に耳を近づける。

呼吸をしている。

 

・・・生きてる!

 

誾は安堵しつつ、予備で持っていた緊急治療用の符で宗茂の応急措置に当たった。

 

「待っててください宗茂様!今・・・」

 

誾は治療しながら涙がこみ上げてくるのを止められなかった。

自分が天野康景を止めていれば、こんな事態には陥らなかったはずだ。

誾は己の無力さを噛みしめながら、

 

「~~~~!!!!」

 

声にならない絶叫を上げた。

乾いた絶叫が、他に誰もいない関所に木霊した。

 

********

 

陸港の入り口ともいえる西側広場の前で正純は状況を確認した。

 

「ネシンバラ、状況はどうなってる?」

「さっき天野君から連絡があったよ、臨時副長が立花宗茂を倒して大罪武装を回収したそうだよ」

「了解、解った」

 

正純は旧友と恩人が無事勝利した情報を聞いて安堵した。

見れば先程まで三征西班牙の航空艦群がK.P.A.Italiaとは別に戦場から引き始めていた。

 

・・・こっちも撤収の準備だな。

 

ホライゾンの救出が上手くいったとして、戦場からすぐに離脱できる準備はしておかなければならない。

立花宗茂という武蔵浮上の抑止力が敗北した以上、もはや武蔵は何時でも出航できる。

残された問題は、

 

ホライゾンだけか・・・。

 

そこで背後から重武神に乗った直政と、ミトツダイラが現れた。

 

「直政、ミトツダイラ・・・」

「こっちは何とか・・・っていうかほぼ康景がやらかしたおかげで相手の士気はダダ下がり状態だったな・・・」

「ええ・・・相手の士気が低かったおかげで、教皇総長の大罪武装を受けても何とか押し切れましたわね・・・意外にあっさり引いていきましたわ」

 

「その場に居ずして最後まで他人の面倒見るなんてお節介焼きにもほどがありますわね・・・」

ミトツダイラがそう呟いた。

その顔を見て正純は、

 

康景が一人で厄介事を背負う事が、悔しくて許せないんだろうな。

 

その時不意に表示枠から康景の声がする。

 

「正純、撤退の用意は?」

「あ、ああ、そっちは滞りなくやっておく」

「今、俺と二代は『刑場』まで向かってる。二代の蜻蛉切があれば教皇総長の大罪武装にも対処できるだろう」

 

色々考えてるんだなコイツ・・・。

 

政治的な背景や軍事的な影響、戦況をどう進めるか等、作戦指揮のネシンバラや政治を担う正純とは別で、多分自分たちの中で一番走って戦って考えている康景の事を心配した。

だがそこで康景の表示枠から二代の声がした。

 

「あの・・・康景殿?こうやって運んでもらえるのはありがたいので御座るが、手が・・・」

「どうした?」

「手が、その、む」

「む?」

「胸に・・・」

「ん?なんだって?」

「い、いや・・・なんでもないで御座る///」

「?」

 

正純は憤った。

 

イチャイチャしやがって・・・!今戦争中だぞ!

 

その憤りが羨ましいのか何なのかは解らなかったが、背後で自分以上に憤ってる・・・というか怒ってる人がいた。

 

「へ、へぇえええ、胸に?手が?・・・いい御身分ですわね」

「人に心配させておいて、自分は女侍とイチャつくとは・・・見上げた奴さね」

「な、直政?ミトツダイラ?目が怖い、目が怖い!」

 

直政とミトツダイラの目が、怖かった。

別に自分にその視線が向けられているわけではなかったのに、怖かった。

なんか獲物を狙ってる獣みたいな目で、正純は怖かった。

 

「そういえば、正純?貴女も先程『お姫様抱っこ』されてましたわよねぇ・・・」

「ああそうだ、衝撃の事実が明かされたり、一連の出来事が急転直下過ぎて忘れてたな」

「い、いや、二人とも?そんな事より今私たちは撤退の方の準備も進めなくちゃだな・・・!」

「「そんな事ぉ?」」

 

お前ら必死すぎるよ!

 

矛先が急にこちらに向かってきたが、正純は必死にこの場を切り抜ける方法を探した。

 

まさかこんなタイミングで窮地に陥るとは・・・!

 

味方が最大の敵かもしれない。

そんなことを思った(小並感)

 

だがその時、戦場が動いた。

というよりは止まった。

トーリが、審問艦にたどり着いた事で膠着状態になったのだ。

 

「ほ、ほら二人とも?葵が審問艦まで到着したぞ!」

 

******

 

審問艦の周囲は、様々な音が生まれていた。

トーリのホライゾン救出を守ろうとする極東の音と、それを防ごうとするK.P.A.Italiaの音だ。

教皇総長の大罪武装によって武器は使えないが、トーリの術式によって防護術式の展開は可能なため、状態は動かなかった。

 

トーリは周囲を無視して光の壁を見る。

 

「おーい!ホライゾーン!」

 

だが反応は無かった。

何度か叫ぶも、その声に応じる反応は無かった。

代わりに反応があったのは仲間たちからの表示枠で、

 

「おい茶番はいい、さっさと行けチキン」

「金と時間の無駄だチキン」

「チキンカレーですネ!」

「お前らほんとは俺の事嫌いなんだな?!そうなんだな!?」

 

光の壁の前でいつもの流れをやっていると、光の幕のような壁を隔ててホライゾンの影が見えた。

影は次第にホライゾンの姿をハッキリ映す。

 

「一体ホライゾンになんの御用でしょうか?」

 

その姿にトーリは慌てて、

 

「あ、ああ、救けに来たぜホライゾン!!!」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「あれ?」

 

痛い沈黙が、周囲を包んだ。

そして数秒の沈黙の後、ホライゾンが口を開く。

 

「率直に申しまして、迷惑なのでお帰り下さい・・・そもそも誰ですか貴方は?」

 

周囲の空気が凍った。

 

 




多分もう二、三話かなぁと思ってます
もうちょっと、もうちょっとで・・・!

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