境界線上の死神   作:オウル

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やっててなんか「主人公やりすぎちゃった感」が滲み出てるのを感じて反省してます

※加筆修正しました


十三話

憎まれても 嫌われても

 

それが選んだ道ならば

 

後悔はない

 

配点(狂気の覚悟)

 

―――――

 

『刑場』のある陸港では、防御術式を展開した三河警護隊がK.P.A.Italiaの猛攻を防いでいる。

 

「「行け!」」

「お前ら、防ぐことは出来ても無茶は・・・」

「しょうがないだろ!俺たちにはこれくらいしかできないんだから!」

 

今トーリが教皇総長相手に相対を挑めば、教皇総長は大罪武装を解除してトーリにしか使えなくなる。

しかしトーリには教皇総長の相手よりもやらねばならぬ事がある。

 

その時、西側広場の出口の方から叫ぶ声があった。

 

「教皇総長!武蔵アリアダスト教導院生徒会副会長、本多正純が相対による一騎打ちを望む!」

 

正純が教皇総長相手に一騎打ちを挑んだ。

 

「聖連代表なら、この勝負逃げはしないだろうな!?」

 

インノケンティウスはこちらに勝負を挑んでくる男装少女を見た。

 

・・・勝算があるからこその一騎打ちか?

 

先程こちらの戦士団を血祭りにあげていた男も、半人狼も、武神の姿もない。

こちらにある武装は″淫蕩の御身″と使い捨て用の聖術符。

武蔵副会長の姿を見ても武装を所持しているようには見えない、どう考えてもこちらが有利だが油断は禁物だ。

 

・・・どの道聖連の代表である俺は"相対"というシステムから逃れられんしな。

 

「わかった、その勝負受けよう」

 

インノケンティウスは武装を解除した。

それによって武蔵側が少し勢いを取り戻す。

 

・・・急がねばならないか。

 

いくらまだこちらに戦況が傾いているとしてもだ。

 

急ぐこちらだが相手は、西側広場の方を指さし、

 

「聖下、ここは足場が悪い。できれば対等に戦いたいので向こうの広場まで移動したいのですが」

「ならばその場所を踏み越えてこちらにくればいいだけだろう」

「・・・わかりました。では少々お待ちを」

 

正純はわざとらしく手を上げ足を上げ、身体を大きく使って歩く動作をした。

そしてニヤッと笑い、足を下ろしたその距離は、

 

――――――わずか三ミリ程度。

 

「貴様ぁあああああ!」

 

インノケンティウスは理解した。

 

・・・牛歩戦術か!

 

こちらが相対を受けてしまった以上、武蔵副会長がこちらに来るまで戦闘が出来ない。

戦闘が長引けば長引くほど、向こうに勢いを与える事になる。

 

「要は俺がそっちまで行けば対等の戦場だ!待つことも来ることも不要!!ガリレオ!連中を止めろ!」

 

聖術符を展開して足場を作り、宙を進んだ。

 

*******

 

「火が付きやすくていかんな・・・」

 

ガリレオはインノケンティウスが走っていくのを見た。

 

あの年で血気盛んな性格は、時として周りが見えなくなる。それが元教え子の欠点だと、ガリレオは思った。

そして敵を見る。

武蔵側はこちらを止めるための集団と、『刑場』に向かう集団の二つに分かれた。

そして痩せすぎの少年がこちらを見る。

彼は先程、天動説で倒した少年だ。

彼の打撃は軽く、こちらには届くものではない。

 

しかし彼の足元に倒れているのは、

 

・・・昨日武蔵総長たちを取り抑えた隊長!

 

何をした?

ガリレオは打撃力がないハズの少年が隊長格を倒したことが信じられなかった。

 

「働かないと教皇が怒るぞ?」

 

痩せすぎの少年がこちらに拳を構えた

 

*****

 

森では、誾が康景と戦闘を行っていた。

誾が康景に切りかかるも、康景はその斬撃を防ぎ、斬撃の隙をついて重い一撃を放ってくる。

斬撃に、更に″十字砲火″による砲撃も追加する誾だったが、康景はその砲撃は無視して身体を捻って避け、斬撃の処理に集中する。

 

腹が立ちますねこの敵・・・!?

 

誾は相手が堅実なやり方でこちらの攻撃を躱して防ぎきる技術に腹を立てた。

しかし冷静さは失ってはいない。

誾は相手の行動を注視し、隙を探し、ついに攻略の糸口を見つけた。

 

「(・・・連続攻撃を処理する時、この男の防御は左側に偏る!)」

 

この相手の技量は極めて高い、だが連続する攻撃を凌ぐ際、この男は左側に防御が偏る。

誾は相手の防御のタイムロスを狙った。

 

誾は連続攻撃で相手の注意を″十字砲火″から逸らさせる。

そして攻撃を防御するために左に剣を立てた一瞬を見計らい、逆側、死角になっている右斜め後ろから″十字砲火″を打ち込んだ。

 

だが、攻撃は当たらなかった。

 

相手は斬撃を長剣で防ぎつつ、足で先程捨てた剣を拾い上げて″十字砲火″の砲口に無理矢理突っ込んで暴発させたのだ。

そうなった理由は簡単だった、

 

・・・読まれてっ?!

 

相手は誾の攻撃を読んでいたのだ。

そうでなければあの攻撃に気付くわけがない。

 

・・・いや、誘導したのですね!?

 

誾は相手がわざとそう攻撃するように仕向けたという事実に気付いた。

そして動揺の間にもう一機あった"十字砲火"も両断される。

 

相手の力量を計り損ね、攻撃手段を一つ失った誾は急いで敵と距離を取った。

だが相手もここぞとばかりに攻め立ててくる。

こちらの方が手数は多いが、向こうの一撃が重すぎるため、防いでいる間に攻撃モーションに遅れが生じる。

そして相手の下から振り上げる長剣の斬撃を防ごうとして、

 

「!」

 

剣が弾かれ、後ろに大きく剣が飛ぶ。

剣を失った左の義腕を切り落とされてガードががら空きになる。

 

相手にとって絶好の瞬間、敵がこちらに放ったのは斬撃ではなく、

 

「かはっ」

 

蹴りだった。

ただの蹴りのはずなのに、その威力は今まで受けてきた攻撃の中でもやたら重かった。

 

後方に大きく吹き飛ばされた誾は、一本の木にぶち当たる。

衝撃で意識が飛びそうになったのを耐えた。

 

「ごふっ」

 

吐血する。

腹部が痛む

 

内臓の一つでもやられましたかね・・・?

 

それぐらいの衝撃だった。

止めをさされる。

そう思った誾は死を覚悟した。

しかし相手は誾に止めを刺すことは無く、

 

「・・・すまないが、アンタに止めを刺す時間が惜しい」

 

その言葉に、自分との戦闘さえ、この男の描く戦況の一環だったのではないかとすら感じてしまった。

敵は東の関所に走り去る。

 

待ちなさい!

 

そう言おうとして声が出なかった。

意識が朦朧とする。

誾は無くなった左の義腕を走り去った康景の方に向け、

 

・・・宗茂、様。

 

気を失った。

 

******

 

少し前。

関所では立花宗茂と本多二代の戦闘が行われていた。

 

高速を売りとする二人の猛者の戦闘は、もはや常人では捉えることが難しいレベルに達している。

宗茂は相手の技量の高さを見た。

武器をぶつけ合う事はなるべくなら避けたかった。

金属同士がぶつかり合えば、ヒビが入ってそこから折れたり、刃が曲がったりするからだ。

自己修復を持つ大罪武装だからといって、むやみにぶつけていいものではない。

そう思うも、宗茂は"悲嘆の怠惰"で蜻蛉切の攻撃を防いだ。

 

・・・この相手にそんな気遣いをしてる余裕はない!

 

上と下、右と左、それらの混成や連動攻撃が、絶え間なくこちらを狙ってくる。

そして槍をバトンの様に回して穂先による斬撃と石突きによる打撃を行う事で攻撃と防御を同時に行う。

 

・・・これが東国無双の技術を一番間近で見続けた者の技術ですか!

 

攻撃を払っていったん距離を置こうとするも、また詰められる。

全てが連動して、止まることは無かった。

 

・・・なら!

 

宗茂も、聖術符を連続使用して速度を上げた。

 

******

 

来たで御座るな・・・!

 

二代は相手が速度を上げるの見た。

段々的に速くなる自分の術式に対し、敵は術式符を積めば瞬間的な速さはすぐに出せる。

こちらは長期戦用の術式だが、向こうは短期決戦用だ。

 

・・・向こうのは疲労を考えなければ瞬間最高速度が拙者のものより速くなるで御座るからな

 

二代は相手の厄介さを感じた。

だが、二代も負けるわけにはいかなかった。

父との修練や、自分を武蔵の副長に推してくれた康景の事を思い出す。

 

拙者は勝つ!

 

勝ってホライゾンを救い、武蔵を救う。

そう考えた二代も、更に速度を上げた。

 

******

 

「更に速度を上げてきますか!?」

 

移動速度でこちらに負けた経験もあり、スピードにだけ頼らず、接近戦で押してこちらを自由にさせない気だ。

連動攻撃の精度も上がっている。

しかし、

 

丁寧で確実な戦法だが、起伏がない。

 

大きく重い一撃がない攻撃は予測しやすい。

だから宗茂は、足の裏に力を入れて加速し、そして相手が蜻蛉切を回す瞬間に悲嘆の怠惰をぶつけた。

そして大きく相手が仰け反っているところに、さらに悲嘆の怠惰を当てようとした。

 

「!」

 

だがその瞬間、悲嘆の怠惰による突きを、二代は身体を回転させて避ける。

その隙にバックハンドによる横払いを放たれる。

 

・・・この程度の攻撃は想定の範囲でしたか!

 

このままでは蜻蛉切が当たってしまう。

一瞬の判断のうち、宗茂はある行動をとった。

蜻蛉切の上に乗ったのだ。

 

******

 

二代は相手が槍の穂先の上に乗ったのを見た。

 

貰った!

 

二代は蜻蛉切の伸縮機能で相手との距離を取る。

 

距離にして約六メートル

 

十分に距離が空いたところで相手を割断するために、

 

「結べ!蜻蛉切!」

 

だが、割断はされなかった。

 

・・・何故で御座るか!?

 

相手が穂先に何も映さないように足を乗せて自分の姿を隠していたからだ。

 

「前回の反省点を活かした無効化です」

「!?」

 

そして宗茂が二代めがけて走った。

 

******

 

宗茂は壁を昇る勢いで二代に迫る。

左側にいる相手に対し、宗茂は右手側に悲嘆の怠惰を持っている。

なので宗茂は時計回りに回転するように右肘姿勢からバックハンドで悲嘆の怠惰を叩き込む。

 

骨が砕けるような音がして、二代の身体は十数メートル吹き飛んだ。

 

そして手放さなかった蜻蛉切と共に地面を転がり、止まった。

 

終わりましたね・・・。

 

宗茂は、二代を倒したことで勝利を確信する。

そして悲嘆の怠惰の構えて見せて、武蔵に超過駆動による砲撃で退避を促そうとした。

 

だが、その退避勧告を言う事は出来なかった。

 

「こんにちは」

「!?」

 

急に目の前に現れた影に、とっさに防御態勢を取る。

そして大きな衝撃と共に後ろに飛ばされる宗茂。

そして空中で一回転し、態勢を立て直す。

 

本多忠勝と相対した時のような威圧感と、今まで感じたことのないような殺気を感じた。

 

周囲の空気が変わるのが、手に取るようにわかる。

急に現れた来訪者を視認する。

白いコートの半分以上を真っ赤に染めて、こちらを睨む姿があった。

 

その姿に見覚えがあった。

先程の西側広場で三征西班牙を含め、多くの者を殺めた男。

 

「天野・・・康景・・・!」

「・・・」

 

宗茂は強敵を倒したばかりだというのに、また新たな強敵と対峙した。

 

******

 

三河陸港では、ノリキとガリレオが相対していた。

ガリレオは先程康景に切り落とされた左腕がまだ完治しておらず、片腕で戦う事になる。

だが先程相対した手応えで言うなら、この少年の打撃は軽い。

 

そう確信した。

 

だが、何の勝算もなしに一度負けた相手に突っかかってくるだろうか?

ガリレオは熟考する。

先程の武蔵総長の術式による伝播は、確かに脅威だ。

この少年も術式を使用して戦うタイプなのか?

 

K.P.A.Italiaや他国は中央集権的だが、今相手をしている武蔵はその逆だ。

主流とは逆の流れを持って相対している。

 

・・・面白い!

 

そして今、その主流ではない流れを持ってこちらと相対しようとする少年がいる。

ガリレオはこちらに拳を構える少年に向き合った。

 

「もう熟考は良いのか?」

「うむ、熟考は果たされた!」

 

ガリレオは己が手のひらに力を込めた。

 

今から使う術式はこの少年に一度使用したものだが・・・どう出るか?

 

ガリレオは殴りかかってくるノリキに対して術式を放った。

 

結果は次の様に生じた。

天動説がノリキに放たれ、ノリキは弧を描くように地面を引きずり回される。

 

ん?

 

ガリレオはこの少年の行動が理解できなかった。

これも主流ではないが故の動きなのだろうか。

だが少年はよろよろになりながらも立ち上がった。

 

「時間稼ぎのつもりかね?」

「・・・これからお前を倒す」

 

言われた事が理解できなかった。

 

・・・私を倒す?今私の術式によって飛ばされた君がであるか?

 

ガリレオはもう一発術式を放った。

 

ノリキはまた弧を得描くように飛ばされ、地面に軽くめり込んでいる。

 

「君は私の術式が何なのか理解しているのかね?」

「お前の術式はさっき校庭で使った時点で康景が見切っている・・・天体運動の再現術だろう?」

 

ノリキは腕に術式を展開させて言った。

 

「俺がやられたのも、お前の移動も、全部は公転運動だ」

 

ガリレオはノリキが術式を展開させるのを見た。

 

・・・確かに少年の言う通り、私の術式は公転運動の再現だ。

 

だがそれを知った上で術式を展開するという事は、

 

・・・なにかあるのだな?

 

そして再び殴りかかってくるノリキに天動説を放った。

しかしその天動説が成立することは無かった。

 

「・・・!?」

 

ノリキが拳を放った瞬間、光が弾けて術式が遮断されたのだ。

 

「天動説が・・・」

「今俺は天動説を『砕い』た。少なくとももう、この相対では使えないぞ」

 

ノリキは拳を合わせて、

 

「創作術式、睦月完了」

「!」

 

ガリレオの中ですべてが合致した。

 

先程自分たちの戦士団の隊長が倒されて伸びているのも、この術式だという事を理解する。

そして先程校庭で、ノリキの腕に諏訪神社系列の鳥居に「創作術式、弥生月」という表示がされたのを思い出す。

 

「弥生月、そしておそらくは如月を経て睦月、三度の打撃を奉納して術式強化した拳を叩き込むのか?!」

「解っているなら、言わなくていい」

 

そしてノリキがガリレオに向かって走り出す。

身の危険を感じ、ガリレオは地動説を使って背後を取ろうとするが、

 

「!」

「校庭で既に二発分打ってある」

 

地動説も砕かれた。

そしてノリキの拳がガリレオの腹部に打撃力なしで当たる。

 

「お前への打撃は二発目だな」

 

そしていったんノリキが距離を取り、

 

「警告する、二度の打撃を奉納した認知できる限り、俺に砕けないものはない・・・三発殴ってガリレオを倒す」

 

ガリレオは後ずさった。

 

これは・・・。

 

だが驚いた以上に面白さも感じた。

世界にはまだ自分が知らないものがたくさんあると。

 

・・・面白い!

 

だがそんなガリレオをよそにノリキは言う。

 

「倒した後じゃ解らなくなるだろうから、今のうちに教えといてやる」

「?」

「アンタの敗因は、アンタが思う天体が平面上だったことだ・・・天体望遠鏡っていうのは上を見られないのか?」

 

言われている意味が、すぐには理解できなかった。

 

・・・なんの話であるか?

 

ノリキが空を指さしたのにつられて、ガリレオも上を見た。

 

「異端ガリレオ!討ち取ったり!!」

「!」

 

ガリレオは瞬時に理解した。

 

・・・この少年がわざとらしく突っ込んできたのはこれから目を逸らすため・・・!?

 

デリックから射出された半竜が勢いよく突っ込んできた。

地動説も天動説も砕かれたガリレオには術がなく、半竜がガリレオの角に直撃した。

 

*****

 

そして膝をついて気絶しているガリレオに対してノリキが、

 

「三発でお前を倒すという約束は守った」

 

ガリレオを小突く。

そしてガリレオが倒れたのと同時、一つの相対が終わった。

極東勢に歓声が湧く中、

 

「まさか昨日の康景の魔人族の倒し方の実演がここで役立つとはな」

「うちの打撃系女教師は実戦に関しては正確なことを言う」

 

ノリキとウルキアガが小さく笑った。

その様子を遠くから見ていた正純は、

 

・・・派手だなぁ。

 

素直にそう思った。

だがこれで障害が一つ減った

正純は順調に進む戦場に安堵する。

 

とは言っても・・・。

 

正純は先程の康景を思い出し、身震いした。

自分の友人が、人を両断したりして血祭りにあげていく姿を正純は忘れられなかった。

あの「一騎当千の恐怖の化身」みたいな男が、普段自分が困ってるときに助けてくれる友人と同一人物だというのが、未だに信じ切れず、半信半疑になる。

 

・・・でも、あの一面も含めて康景なんだよな。

 

正純は、康景に対して複雑な感情を抱いた。

 

そして正純は何か忘れていることに気付く。

 

そういえば私何か忘れてるような・・・?

 

「・・・を・・・な・・・」

「?」

 

不意にどこからか声がした。

 

「そ・・・を・・・うご・・・な」

「んー?」

 

前方、砂煙を上げてこちらに走ってくる姿を、正純は確認した。

 

「そこを、うごくなぁあああああ!!!!!」

「あ」

 

正純は自分が時間稼ぎのために教皇総長に相対を申し込んだのを忘れていた。

 

・・・しかもあの勢いだとこちらに直撃じゃないか!?

 

正純はこちらにものすごい勢いで突進してくる教皇総長に対し、

 

「わ、私の負けでいいです!あ、ええと!わた、私の負けを認めます!」

 

正純は非戦闘要員だ。康景の様に一騎当千出来たり、二代の様に素早く動けるわけでもない。

正純は情けないと思いつつも降伏した。

 

ものすごい勢いで突進してきたため、教皇総長の急ブレーキは砂煙を上げた。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

「・・・あの・・・大丈夫、です・・・か?」

 

正純の問いかけに、教皇総長は答えなかった。

教皇総長は懐から水を取り出してそれを飲み干して息を整えてから、

 

「お前の負けだあああああ!」

「は、はい!」

「この度の相対と、さっき交渉でこっちの二勝無敗だいいなオイ!!」

「はい!」

 

あれ?さっきの交渉って引き分けじゃなかったっけ?

 

なんでこう男って勝ち負けにこだわるんだろうか。

 

「それとお前」

「はい?何でしょう・・・か?」

「女だったら女らしい恰好をしろおおおお!」

 

せ、説教来たあああ!?

 

「大体なんだオイ、非戦闘員が戦場に来るとは!俺が教皇じゃなかったらお前轢かれてたかもしれないんだぞ!少しは自重しろ!」

 

はい、はいとただ頭を下げるしかできなかった。

そして教皇は戦場に向き直り、

 

「聞け!くだらない陽動を用いた武蔵側副会長は俺の説教に超懺悔した!!正しき方法は常に勝つ!そして俺がいる限りその方法は失われん!」

 

頭はさげたけど懺悔はしてないんだよなぁ・・・。

 

しかしここで反論すると文句を言われまた状況が悪化しそうなので黙っておく。

彼は走り出しながら、叫ぶ。

 

「聖譜ある世界において、結果はすべて正義に満ちている!」

「Tes!!!」

 

教皇が叫ぶのを聞いて、K.P.A.Italiaの戦士団が叫ぶ。

勝鬨にも似たその歓声は向こうの士気が持ち直しているのを表す。

 

走っていく教皇総長を見て、

 

・・・私もあれくらい走れた方が良いのかな?

 

自分の体力の無さを自覚している正純は、体力をつけた方が良いのか悩んだ。

 

そして我に返り、戦場に康景と二代の姿がないことに気付く。

 

予定通りなら、二人は既に来ているはずだが・・・?

 

ネシンバラに状況を確認した。

 

「ネシンバラ!状況はどうなってる?」

「・・・天野君が西国無双、立花宗茂と接敵、交戦中だよ」

 

******

 

宗茂は、新たに来た敵と相対した。

康景の不意打ちを防いだ宗茂の手は、いまだにビリビリと痺れている。

 

「不意打ちとは、感心しませんね」

「・・・」

 

相手は答えない。

ただ血に塗れた顔がこちらをただ見据えて構えている。

 

「本多二代の仇討ちですか?」

「・・・仇討ち?彼女はまだ負けてないぞ?俺は彼女が『休憩』から復帰するまで、アンタを足止めするだけだ」

「・・・」

 

宗茂は思った。

この相手はあくまで自分を臨時副長である本多二代に討たせて彼女のお膳立てをする気だと。

 

そこまで彼女を信頼しますか・・・。

 

相手が何を思って行動しているのか、宗茂は図り損ねた。

だが、

 

「アンタは最終的に本多二代に倒される・・・それが俺の描いたシナリオだ。アンタに勝てば彼女の武蔵副長としての名が広まる」

 

ああ、この男は・・・。

 

狂ってる。

 

宗茂のここまでの印象はそれに尽きた。

宗茂は天野康景という人物を良く知らない。

彼が武蔵でどういう立ち位置に居るのかも、どう評価されているのかも知らない。

ただこの男は、他人のためだけにあそこまで大立ち回りをやって、自分に非難の目を向くようにした。

武蔵の汚れ仕事を自分一人で背負うつもりなのだ。

他人の価値を上げるために、自分の価値を落とす。

 

そして私を倒す事も、本多二代が武蔵の副長として世間にアピールするための礎にしますか・・・!

 

一つの命を救いに行くためだけに、多くの命を奪う。命を大事に思いながら、命を奪う。

この男はきっと、武蔵にとっての『必要悪』を自分一人で担うのだろう。

矛盾しているようにも感じられる相手の異常な「覚悟」に、宗茂は軽く嫌悪感すら抱いた。

 

そして敵が告げる。

 

「先程、俺は立花誾と相対してきた。時間がもったいないから止めは刺さなかったが・・・もしアンタがこの場から去るというなら、俺は彼女を殺しに行くぞ」

「!」

 

宗茂は反射的に相手に切りかかった。

宗茂の高速移動から突き出される攻撃を、長剣で凌ぐ。

 

「どうやら貴方とは戦わなければならないようですね・・・!」

「・・・」

 

これは相手の挑発だ。

宗茂はその事を理解した。

 

だがその上で思う。

 

・・・この男は斃さなければならない!

 

宗茂は術式をフル展開した。

筋肉が悲鳴を上げる。

 

だがやらねばならない。

 

「うおおおお!」

 

宗茂は相手の背後に回りこむ。

その背後に、宗茂は悲嘆の怠惰のブレードを薙ぎ払いの形で叩き込む。

 

だがその宗茂の攻撃を康景は身を曲げて躱した。

そして振りぬいた宗茂の隙を狙って斬撃を入れる。

 

高速の剣戟が、火花を散らす。

 

******

 

康景は視界に二代の姿を見た。

彼女の肩が小さく動いているのを見て、彼女ならまだやれる、そう感じた。

 

そして宗茂が術式の疲労もお構いなしに、こちらに猛攻をかけてくるのを凌いだ。

 

康景は、この戦場で己がやったことに対して、それでいい、そう思う。

自分はホライゾンの命を助けに行くために、その多くの障害となる敵を屠った。

 

殺してきた相手の一人一人に家族が居て、友人がいて、恋人がいる。

 

自分はその人達から幸福を奪った。

きっと武蔵は、これからも多くの国と戦争をするだろう。

それはホライゾンを救って世界を救うという建前を宣言した以上、避けられない事だ。

多くの命がこの長い戦争で奪われる。

 

自分たちが選んだことは、そういう事だ。

 

・・・トーリはさっき、自分から皆の不可能を受け止めた。

 

自らの死の可能性を顧みず、皆を支えるために選択したのだ。

そして先程の臨時生徒会で正純に言った事を思い出す。

 

「皆それぞれ得意な事しかできない」

 

正純には政治技術が、シロジロには貿易技術が、ネシンバラには作戦指揮がある。

皆それぞれ得意な事がある。だけど、

 

・・・俺は空っぽだから。

 

康景には周囲に誇れることが無かった。

何かに一つに熱中して極めることが、剣術以外になかったのだ。

戦争において、武器は相手の命を奪う。

 

だから自分が出来る事なんて、こうやって戦う事だけだ。

 

これから武蔵は多くの国と相対する。

 

ならばせめて、敵からの憎しみは俺が背負おう・・・。

 

それが皆から与えてもらいっぱなしだった自分が出来る精一杯の「覚悟」だ。

康景の「覚悟」は、きっと他人には理解されないし、憎悪されるだろう。

この「覚悟」は間違っているだろうし、正しいとも思わない。

だが、その上で康景は茨の道を選んだ。

 

それしかできないから・・・。

 

康景は自分で思い、自分の異常性を恨んだ。

 

・・・武蔵に降りかかる火の粉は俺が払う。

 

だから、

 

皆は後ろを気にしないで前に進んでくれ。

 

康景は心の中で呟いた。

 

 




ここまで主人公がちょっと無双してますが
個人的に作中最強クラスがネイトママンとオリオトライ先生、あと最上義光だと思ってるので
設定上オリオトライの弟子にしている本作主人公は最強ではないです

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