境界線上の死神   作:オウル

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今回、康景の荷物に関してご都合主義展開が起こります
人によっては不快に思う事もあるかもしれません
・・・え?毎度の事?・・・是非もないよネ(汗)

※加筆修正しました


十二話

武蔵の不可能は

 

馬鹿が担う

 

だから残るのは可能だけ

 

配点(不可能男)

 

――――――

上空では、ナイトとナルゼが武神相手に苦戦していた。

回復を主とする、プラス指向の白魔術と相手を減退させるマイナス指向の黒魔術。

白魔術はペン先から加速力を空に描き出すことで飛翔し、黒魔術は気箒のブラシ部にマイナス化させた重力を発生させることでその反発力で加速する。

そして攻撃手段は、それぞれ魔法陣に銀貨、銅貨を乗せて、術式を当てて弾丸にする。

高速の弾丸と化した貨幣は武神の装甲を削るが、砕くまでには至らなかった。

 

・・・イラつくわね!

 

技術訓練などで元武神乗りの講義や技術講習、康景とたまにやる実践形式の模擬戦等、今までやってきた事がここに来て実を結んだ。

自分たちよりも技術水準が高い相手と訓練していなければ即座に負けていただろう。

ただ康景に技術的な事を聞くと、

 

「敵の攻撃?相手の攻撃の音とか、相手の骨格の動きとかを聞いたり見たりして、その上で予測したりすると避けやすいぞ?」

「ハハハ、ごめん無理」

「真喜子せn・・・オリオトライ先生の動きとか目で追えるようになれば戦闘も楽になるぞ?なんなら頼んでみようか?」

「ハハハ、死ぬからやめて」

 

聞く相手が悪かった。

実際そんなことをできる奴はいるにはいると思うが、数は少ないだろう。

 

・・・でもそれを実際にやるのが康景なのよね。

 

天才との技術の差を痛感した一瞬だった。

しかし今思えば、あの無茶苦茶な戦闘力も、今のナイトとナルゼに活かされている。

 

そして今、自分たちは武蔵の命運をかけた戦争をしている。

今自分たちの相手をしているのは、たった数機で武蔵を監視しようとしているエリートだ。でも、

 

・・・こっちだって武蔵の代表なのよ!

 

ナルゼは加速する。

 

相手の動きを攪乱するように武神の周りを飛び、ナイトが高速で移動しながら顔面の視覚素子や翼部の付け根などの隙間を狙う。

しかし武神には当たったが小さな火花を生んだだけだった。

 

武神が長銃でナイトに標準を合わせる。

 

だが、武神が銃を撃とうとするとき、下からナルゼが飛翔してきた。

 

*****

 

武神は下からの攻撃を何発か喰らったが、すぐに態勢を立て直し、銃口をナルゼに向けた。

だが、武神が本当に狙ったのは、ナルゼではなく、ナイトだった。

 

武神は横倒しに限界まで身体をたたみ、ナイトに高速で突っ込んだ。

 

ナイトは急な相手の動きに反応はできたが、避けきれずに武神の翼に直撃した。

落下していく様子を見てナルゼが救援に向かおうとしたが、

 

「!?」

 

武神が身を旋回行動をしながら銃をナルゼに撃った。

銃弾は正確に狙いを付けたわけではなかったためナルゼには当たらなかった。

 

しかし、ナルゼの白の杖に当たり、ナルゼもまた落下する。

 

******

 

上空での戦闘に、連合軍は歓喜した。

 

「我ら聖譜の導きに従う者に正義あr」

「黙ってろ」

 

しかしその叫びを言わせまいと、康景が相手の息の根を止めて黙らせる。

 

・・・ここで相手に勢いづかせるのは不味い。

 

1500人を超えていた敵も、1000人近くまでは減らした。

康景は500人以上の敵を殺したが、しかし相手の数は依然極東側より多く、未だ極東の進行は止まったままだ。

 

・・・勝てよ白黒コンビ、制空権はお前らにかかってんだぞ。

 

空を見上げる康景。

その背後から不意打ちをしようと近づいてきた敵を、康景は振り向きもせず頭に刃を突き刺して止める。

連合軍はこちらを警戒しつつも、トーリ達本隊を狙っている。

 

「お前らに制空権がかかってるんだ。そこで終わられるとこちらも予定が狂うんだが?」

 

敵の攻撃をいなしつつ、冷めた目で表示枠の向こう、落下していく二人に問いかけた

 

******

 

「そこで終わられるとこちらも予定が狂うんだが?」

 

表示枠の向こう、血に塗れた康景が問いかけるのを、ナイトは聞いた。

 

・・・煽ってくれるねぇやっすん!

 

ナイトは、ナルゼとの関係で世話になった康景に言われ、身体を奮い起こす。

そして配達業組合の面々の顔を思い出し、

 

制空権は確保する・・・!

 

ナイトは脳震盪でまだ眩暈がする中、武神の首に、先程ナルゼが仕掛けた攻撃による一直線に描かれた線を見た。

白魔術が作る、加速の線、

 

・・・ガっちゃん速筆だから避けきれなかったみたいだね。

 

プラスの線で描かれた線にマイナスの弾丸を乗せたらどうなるか、

答えは簡単、マイナスの魔術が、プラスの力を喰って暴走するのだ。

 

「・・・十円銅貨千円分の棒金十本!いっけえええ!」

 

ナイトは減衰の力を与えた棒金砲弾十本を放った。

大きい音と共に発射された棒金は、ナルゼが描いた線めがけて跳んで行く。

落としたと思った相手が攻撃してきた事に対応が遅れ、その砲弾を腕でガードする武神だったが、その砲弾のうち、三本が腕を弾き、ガードが空いたところで放たれたうちの一本が武神の喉元に描かれた線に当たる。

高出力で放たれたマイナスの力が、プラスの力を喰って暴走、高出力のマイナスが暴走して、

 

「命中!」

 

武神の頭部が爆散した。

 

******

 

武神は搭乗者をコックピットの内部から一体化させて命を得、動くことが出来る。

一体化しているため、武神が損傷すると搭乗者も損傷する。

当たった瞬間に搭乗者の命に関わる損傷だと判断した武神は神経系を遮断して搭乗者を守った。

 

そして搭乗者の制御を失った武神は力なく落下していく。

 

今度は、その様子を見ていた極東側が歓喜した。

歓喜の中、空には二つの影がある。夕日をバックに抱き合ったナイトとナルゼだ。

ナルゼは通神用の魔術枠で、

 

「勝ったわよネシンバラ、後は任せた」

「ああ、ご苦労さま二人とも」

 

そして表示枠を消して、ナルゼは深くナイトを抱きしめた。

 

「ガっちゃん、白嬢壊したら・・・」

「・・・黙って」

「震えてる?」

「マルゴットこそ・・・」

「今だけ・・・」

 

二人は互いの震えを消すように互いに唇を重ねた。

そして南西の方角、西側広場の方を見る。

 

「さっきのやっすん・・・」

「ええ、相当無茶苦茶やってるみたいね」

 

先程表示枠で康景がこちらに連絡してきた様子から察して、先程追加で西側広間に送られた増援に苦労しているようだ。

それでも康景は皆を守るため、一人茨の道を選んだ。

 

「・・・結局康景には無理させちゃったみたいね」

「・・・うん」

 

二人は康景の事を思って寂しげな表情をする。

そしてデリックのある浅草の貨物船の方をみて、

 

「急いで・・・!」

 

祈るように呟いた。

 

*****

 

西側広場では、依然として連合軍が極東勢を押していた。

 

―――――たった一人の男を除いて。

 

「数で押せ!その男とは距離を取れ、弾幕を途切れさせるな!撃ち続けろ!」

「・・・」

 

その叫びを全く意に介さないように銃弾を双の剣で弾き、一人一人の腕や足、頭を切り落とて着実に屠っていく康景。

その異様な光景に、隊員たちは恐れと焦りを感じ始めた。

 

「くそが!なんで弾が当たらない!?」

「考えるな、撃ち続けろ!」

 

連合軍は、極東勢を抑えるように撃ち続ける隊と、一人の男の殺戮を止めるための隊に分かれた。

極東勢の堅い守りを攻めきれないまま、一人の男の猛攻に連合軍は徐々に数を減らしていく。

 

数の優劣が、覆りつつある。

 

そんな物理的に不可能な事が、目の前で起こっている。

 

・・・なんなんだこの化け物は!?

 

部隊長は神の不公平を嘆いた。

 

混乱する中、部隊長は、空を鳴らす音を聞いた。

 

「なんだ!?」

 

その音は、武蔵の浅草から響いた。

 

「武神の射出音を感知!」

「武神だと?馬鹿な!いくら武神射出をしたところで、山を挟んだこの広場には届くまい!」

「届いちゃうんだよなぁそれが!」

「まさか・・・!」

 

先程の臨時生徒総会で、武神がデリックから放たれたのを部隊長は思い出した。

木に登っていたトーリが、空に朱色の影があるのを見た。

 

「デリック最強伝説!」

 

******

 

浅草艦上、朱の重武神の肩上に立つ直政は叫ぶ。

 

「行くよ!ミト!」

 

反対側の肩に立つミトツダイラは、

 

「今参ります!康景!」

 

思い人の事を考え、叫んだ。

そして投石機の用量で、貨物に懸架して移動させるデリックにつないだ地摺朱雀が発射される。

高速で射出された地摺朱雀はその高速さ故に、周囲から航空戦力が消えた事で陸港から攻撃するしかない敵の航空艦の砲撃を受けることは無かった。

落下予測地点を見ると、そこには対武神用の術式防盾を百数人の学生で固めて集中防御を行って待機している。

 

「正面防御は完璧ってか!?」

 

だが同時に、康景が一人で相手連合軍を血祭りにしているのも眼に入った。

 

「・・・あの馬鹿!」

「ホント、馬鹿ですわよね・・・」

 

ミトツダイラは自分の中で悲しい気持ちになるのを抑えられなかった。

 

・・・またそうやって一人で背負い込むのですね。

 

他人には頼られることは良しとするくせに、康景自身は誰にも頼ろうとせず、今までを生きてきた。

もう一人では戦わせない、そうミトツダイラは自分に誓ったのに康景は今一人茨の道を進んでいる。

 

・・・他人の恨みを一人で背負う気ですの?

 

戦争をやっている以上、死者は出る。それは避けられない事だ。

しかし、今康景がやっていることは、相手の憎しみを自分に向くようにしているのと変わらない。

そうやって一人で敵国の憎しみの感情を自分に向かせることで武蔵を自分なりに守ろうとしている。

 

「人の生き方はそう簡単には変えられない」

 

いつの日のことだったか、ミトツダイラは康景が呟いていたことを思い出し、表情に悔しさを滲ませた。

 

「・・・行くよミト」

「・・・ええ」

 

直政は、武神の手の平に飛び乗ったミトツダイラを前方の防御態勢を取る連合軍にぶん投げた。

ミトツダイラは空中で双のケースを開ける。

 

「給鎖開始!行きますわよ、銀鎖!」

 

人の手の平より太い鎖が両の手に沿うように射出されていき、ついには数名メートルになった。

そして鎖の先端に付いた取って付きの宝石が、デリック射出に耐えられるように地摺朱雀の腕に付けられた数トンの補強パーツを掴む。

ミトツダイラは力任せに鎖が掴んだ補強パーツを前面の敵防御陣に叩き込んだ。

 

*****

 

数トンの重さが、半人狼であるミトツダイラの力任せな打撃によって振り落とされる。

その打撃は戦士団が吹き飛んだ。

 

正面の術式防盾が吹き飛んだ事で、無事に武神が西側広場に着地する。

砂煙の中、ミトツダイラは康景に近づいた。

武神の風圧とミトツダイラの打撃で周囲から敵がいなくなったことで残りは本体を狙う800人ほどだ。

周囲から敵がいなくなったことを確認して康景はネイトの名を呼んだ。

 

「・・・ネイト」

「っ!」

 

ミトツダイラは思わず、敵の血に塗れた康景の顔を平手打ちした。

 

「私は悲しいですわ・・・そうやってまた一人で背負い込むのですね・・・」

「・・・すまない。俺が出来る事なんて、これくらいしかないからな」

 

康景は俯きがちにネイトに謝った。

そしてネイトにもう一度、今度は正式に、面と向かって康景は助けを請う。

 

「・・・俺たちを、助けてくれるかネイト?」

「・・・jud!」

 

言われたネイトは銀鎖を使って周囲の敵を薙ぎ払った。

 

******

 

ネイトと直政という、武蔵でもトップクラスの戦力の追加で徐々に逆転しつつあった戦況が一気に逆転、西側広場の形勢は極東側に傾く。

ネイトと直政が康景を相手していた部隊に向かった事で、トーリ達本隊を相手をしていた部隊もそちらに注意を裂かれた。

その生まれた隙を康景は見逃さなかった。

 

剣を部隊長の頭に投げ、殺害する。

 

そして周りにいる学生を殺して、部隊を攪乱した。

 

「今だ!行け!」

「「jud!!!!」」

 

トーリ達は、康景が叫んだの聞いて、西側広場を駆けていく。

その後を追おうとした連合軍の前に冷たく、そしてゴミを見るような目で見る康景が立ちはだかる。

 

「俺がいるだろう?忘れてるんじゃあねぇよ」

 

追いかけてきた連合軍の生徒の首を撥ね飛ばす康景。

西側広場の連合軍は完全にトーリ達本隊と分断された。

 

康景は、ネイト、直政と共に西側広場に残り、追撃を出さないように殿を務めた。

 

ここまでは予定通りだ・・・。

 

そして、制空権の確保、西側広場を突破した後の懸念は、二代が相対する予定の宗茂とそれが持つ大罪武装の回収と、陸港に居る教皇総長とガリレオだ。

先程ガリレオの腕を切り落としたため、例え腕がくっついても、切り落とした方の腕は使えないはず。

 

だとすれば本隊が警戒すべきは教皇だけか・・・。

 

康景は総指揮のネシンバラに確認した。

 

「ネシンバラ、二代の状況は?」

「先程開戦したのを広報委員を通して確認した・・・でも押されてるみたいだ」

 

康景は内心舌打ちした

 

そう都合よく自分が描くように事は運んではくれないか・・・!

 

康景は頭の中で今後の展開を想定した。

本隊にはまだノリキと点蔵がいる。

そう思った康景は天秤にかけた結果、

 

「ネイト、直政!ここ任せてもいいか!?」

「「jud!」」

 

康景の要請を二人は快諾した。

 

・・・ウチの女性陣は頼もしいな。

 

内心苦笑いして康景は先程置いた元信公からの荷物を再び背負い、二代と立花宗茂が相対している東側の山岳回廊の関所の方へ向かった。

 

******

 

康景が東側の山岳回廊の関所に向かう少し前、まだネイトと直政が攻撃に参加する前の事だ、関所の前では二人の影が相対していた。

 

「先程ぶりで御座るな」

「そうですね」

 

本多二代と立花宗茂が関所前で相対していた。

 

「どうしてこちらに?貴女が持つ蜻蛉切なら、教皇総長の持つ大罪武装を無効化できるはず・・・なのに何故私の方に?」

「向こうには康景殿がおるで御座るからな、あの御仁が本隊に付いているのなら、何も問題はないで御座ろうよ」

「信頼しているのですね、その康景という人物を・・・」

 

信頼している、そう言われて二代は不思議に思った。

 

・・・そう言われればなんで拙者こんなに康景殿を信頼しているので御座ろう?

 

胸を揉まれて、実力の方もまた、拙者と同等かそれ以上なのをあの短い相対で悟った。

東国無双である父も、「武蔵で一番強い」という噂を聞きつけるほどだ。

しかし、それだけで見知らぬ男を信じるに値するだろうか?

二代は己が康景に対して高評価な理由が、いまいちよくわかっていなかった。

 

「拙者は拙者にできることを為すまで」

「私に勝てるとでも?」

「先程の蜻蛉切の返還の際は、拙者あの時は本気ではあり申さん」

「私もあの時は本気ではありませんでした」

 

沈黙が生まれた。

そして不毛な「本気出してねぇから」合戦が生まれた。

 

「五割に御座った」

「30%でしたね」

「二割五分!」

「15%で!」

 

不毛な合戦の後、二人は少しの沈黙し、武器を構え、

 

「「ならば!」」

 

赤と青の速度が激突した。

 

******

 

二代が押されているとの情報を得て、康景は東の関所に至るまでの道を駆けた。

本多二代という、本多忠勝というビッグネームの息女で、その男の訓練を受けてきた少女。

その少女が副長になる以上、西国無双の立花宗茂というビッグネームとやり合うのもまた必然。

彼女が勝てば武蔵側に勢いが増し、彼女の副長としての立場にも箔が付く。

 

しかし逆に言えば、彼女が押されていることは同時に向こうが勢いづくことを示す。

 

出来ればこちらが優勢なままこの戦乱を終えたい。

 

そう思った康景は、森を駆けた。

 

だが森を駆けている途中、康景は側面から砲弾が放たれる音を聞いた。

不意打ちだったが、康景はその砲撃を『切り落とし』た。

 

今のは・・・。

 

康景は森から放たれた砲弾に向かって警戒した。

 

「今のを防ぐとは、やりますね」

「・・・立花誾か」

「Tes.」

 

三征西班牙の第三特務で、立花宗茂の嫁・・・。

 

康景は両腕が義腕の少女、立花誾を見た。

 

「宗茂様の元には行かせません」

「旦那の再戦の邪魔はするなってか?旦那思いだなアンタ」

「先程の貴方の戦闘、中継から拝見いたしました。貴方はいずれ宗茂様に害を為す存在だと判断しました。なので貴方はここでこの立花誾が抑えます」

 

誾は『十字砲火』と二振りの剣を両腕に構え、

 

「・・・宗茂様は東国無双の本多忠勝様に勝負を中途半端に終えられたまま勝ち逃げ去れました・・・なのでここで宗茂様には勝っていただいて、西国無双の名を絶対のものにしていただきます」

「・・・」

 

康景はそれに答える事はなかった。

 

愛する者のために命を張る、そういう奴は面倒だ・・・。

 

内心、向こうが厄介な相手だということを直感で悟った。

 

そして二本の剣を構えて康景は言う。

 

「そうか、アンタも大事なモノのために命を張る、そういう奴なんだな?」

 

康景は両腕義腕の少女を見据える。

誾が武器を構え直したのをみて康景は踏み込んだ。

 

「!」

「邪魔するなら、ここで殺すだけだ・・・!」

 

康景は誾に切りかかった。

 

*****

 

トーリ達は走った。

康景と、救援に来たミトツダイラと直政を殿に残して。

 

「トーリ殿!あそこで御座る!」

 

点蔵が指さした方向、一同は、一般用陸港にある三征西班牙の審問艦を見た。

そこには『刑場』と呼ばれる設備があり、そこにはホライゾンが居る。

トーリは叫んだ。

 

「急ぐぞ!」

 

忍者を先頭に、一同は『刑場』まで走った。

しかしその途中でK.P.A.Italiaの、ガリレオを筆頭とした槍隊が立ちはだかり、疾走してきた極東勢とぶつかり合う。

 

そしてその様子を栄光丸から見下ろした教皇総長が、

 

「無駄だ!何しろ年季が違うんだよ!」

「オッサン!」

「教皇と呼べよ小僧!」

 

インノケンティウスは右手に持った"淫蕩の御身"を構えた。

 

「コレは攻撃力を持たない武装だが、正式な所有者の俺が構えれば・・・」

 

インノケンティウスがハンマーにも鎌にも似た武装を振り落とした。

そして極東勢の武装が、接着部さえ剝がれ落ちて分解される。

分解された刃を慌てて拾おうとした手でさえ、傷一つ付かなかった。

 

「"淫蕩の御身"は超過駆動の際、半径三㎞の敵武装を『骨抜き』にする」

 

そして教皇総長が叫ぶ。

 

「こちらの勝利だ!」

 

******

 

武器を失った極東側は、防具だけを残して徐々に押され始めた。

そして警護隊である副隊長が、

 

「クソっ!どうにもならないのか!」

 

叫ぶ。

 

トーリは一同の背後で、味方が苦戦するのを見た。

内燃排気も、武器もなく敵に押されるがままの味方を。

 

「・・・・・・どうにかしたいと、そう思ってくれてんのか?」

「当たり前だ!どんな理由であれ、目の前で理不尽な死に抱かれた者がいるならば、救いたいと思うのが極東の人間だ!」

 

前から押してくる相手の攻撃に耐えつつ、副隊長は叫んだ。

 

「理不尽な死を抱かれた者に対して「死ねばいい」なんて育てられた覚えは・・・ない!!!!」

 

その言葉に、トーリは頬を緩め、

 

「皆、そう思ってくれてるんだな?」

 

トーリは皆の頑張りに感謝した。

 

ありがてぇ・・・!

 

トーリは笑みのまま俯いて、

 

「悪ぃ浅間、やっぱ頼むわ」

 

トーリは浅間に言った。

 

******

 

「・・・・・・・・本気ですか?」

 

浅間は問の主に問いかけた。

だがその返答は真っ直ぐなもので、

 

「ああ、頼むわ」

「・・・わかりました」

 

その返答を聞いて、浅間は吐息した。

 

・・・康景君といい喜美といいそしてトーリ君といい、なんで私の周りはこうも自分勝手な人が多いんですか!

 

「あれ?機嫌悪い?」

「当たり前じゃないですか!・・・それでもこっちが話を聞くのは貴方が頑固だっていうのを理解しているからです」

「・・・すまねぇ」

「いいですか?もし何かあった場合浅間神社は最大限のバックアップをすることを忘れないでください」

 

浅間は泣きそうになる気持ちを抑えてトーリの契約を承認した。

 

「浅間神社被契約者、葵トーリ担当浅間智、葵トーリ本人からの上位契約の申請を認可、神社に上奏します」

 

契約内容を確認する。

 

「契約によって要請された加護は、芸能神ウズメ系ミツバの感情伝播の加護を転用した契約者の全能力の伝播と分配、発動条件は芸能の奉納として嬉の感情を持ち続ける事・・・もし悲しみの感情を得た場合、奉納は失敗したものとされ加護の反発で全能力を禊ぎ、消失します」

 

そして告げる。

 

「今後悲しみの感情を得たら、貴方は・・・死にます」

 

だが逆に言うならば、

 

「嬉の感情を得続けるなら、貴方は貴方のすべてを伝播し、分け与えることが出来ます!」

 

*****

 

「・・・″不可能男"のすべてを伝播したところで、結局は『不可能』しか得られないだろうが!」

 

『刑場』にいるK.P.A.Italiaの戦士団が、極東を潰しにかかる。

 

「潰れろよ!極東!」

「構えろよ!俺たち!」

 

トーリの明るく、笑いを持った声が力なく立つ味方を奮い立たせる。

 

激震が響く。

K.P.A.Italiaの戦士たちと極東が衝突した。

 

******

 

内燃排気も切れて術式も使えず、武器もない極東側は、本来なら潰される筈だった。

 

だが結果は違った。

 

術式を使えないはずの極東側が防御術式を展開したことで、その術式に反発するようにK.P.A.Italiaが吹っ飛んだのだ。

何が起こったかわからず呆然とする一同。

だがその様子をいち早く理解したのは武蔵野から戦場を表示枠を通して確認していたヨシナオだった。

 

「王になりたいと、そう言った理由はこれか!」

「貴方?それはどういう・・・」

「今のあの馬鹿は全能力を伝播できる。そして今の馬鹿は副王、つまり全体の四分の一の権限者だ!」

 

つまり、

 

「葵トーリは命を賭すことで、武蔵の保持する流体燃料の四分の一を地脈経由で分け与えることが出来る!」

 

・・・彼と共に戦う者はエンドレスに術式を使う事が可能になる!

 

その代償が悲しくなれば死ぬなどと、いったいどれほどの覚悟があったのか。

 

そして戦場で馬鹿が叫んだ。

 

「安心しろよ、俺、葵トーリが不可能の力と共にここにいる!・・・俺がお前らの『不可能』を受け止めてやる!だからお前らは『可能』の力だけ持っていけ!」

 

*****

 

康景は、トーリが術式を使ってしまったのを悔しく思った。

 

・・・馬鹿が、悲しみの感情を得たら死ぬんだぞ?

 

出来る事ならトーリが術式を使わないようにしたかったが、トーリは王として皆を支える道を選んだ。

康景は親友にそんな道を選ばせてしまった自分の無力と不甲斐なさを呪った。

 

「・・・貴方たちの総長は随分な無茶をしますね」

「・・・ああ、自慢の総長で、王で、親友だ・・・馬鹿だがな」

 

康景は誾との戦闘でボロボロになった双の剣を捨て、元信公からの荷物を取り出す。

包みを開け、ケースを開けるとそこには、

 

・・・なんで、元信公がこれを?

 

それは見覚えのあるもの、塚原卜伝が使っていた長剣だった。

 

師匠がいつからか使わなくなっていたから、てっきり捨てたものだと思っていたが・・・。

 

どうして元信公が師匠の剣を送ってきたのか、それはすぐには解らなかった。

だが今はそれをありがたく使わせてもらう事にした。

 

「立花誾・・・悪いけどそこは通してもらう。これを手にしてしまった以上、俺は負けないからな」

 

康景は長剣を構えた。

親友の術式と恩師の武器、その二つが揃ってしまった以上、康景は負ける気がしなかった。

 

 




今さら思ったんですがトーリの術式ってちょっとしたチートですよね
あんまりその凄さが今までよく解っていなかったんですが、最近ふと思いました
FFで言うならMP無限とかでしょうかね?

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