境界線上の死神   作:オウル

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今回最後の方グロ?があります
そして短いです

※加筆修正しました


十一話

スタートラインの笛が鳴る

 

その笛は、世界が変わるための音

 

配点(開戦)

――――――――――――

 

光の部屋の中、ホライゾンは本を読んでいた。

草紙で、タイトルは麻雀中華戦国ものの『三国志無双演義』。

この本を読んで疑問に思う事は、

 

・・・どうしてこの武将たちは負ける度に服を一枚ずつ脱いでいくのでしょうか?

 

男たちが脱いでいく様子で得をするのは一体誰なんだろうか。

そう思ったとき外が騒がしくなってきたことに気付く。

 

「武神?」

 

武神が空を裂くような鋭い音を出して去っていった

気になって本から顔を上げると、表示枠から声がした

 

「・・・外が気になりなすか?」

「率直に申しまして、外に出る気はありませんのでご安心ください」

「・・・すいません」

「謝られる意味が解りません・・・どちらにしても出られないのですね?」

「・・・・・・すいません」

 

またしても謝られた

別に貴女が決定した訳でもないでしょうに・・・

ホライゾンはまた黙って本を再び読み始めた

・・・あ、顔良将軍が振り込んで逆転負けですね、また脱ぐようです

 

******

 

午後五時十分、武蔵側が西側広場に通じる関所にまで到達

そして関所の前で、一同は三征西班牙の武神が空を一本の白い雲を出しながら北に高速で移動したのを見た

恐らく哨戒を兼ねて航空を牽制しているのだろう

ネシンバラが武蔵野の艦首の最上部デッキから表示枠で状況を確認する

 

「ナイト君、そちら状況はどう?」

「はいはーい、こちら上空のナイちゃんだよー・・・うわーこりゃ酷い」

「酷いと漠然と言われると不安になるで御座るよ・・・」

「いやいやこれは・・・」

 

カメラアングルがナイトの乳しか映していないため、状況が把握できない

一部男どもが「うおぉぉお!」と興奮しているが、それは無視

 

「そのカメラアングル誰の?状況がわからないんだけど」

「悪かったわね、こっちは大事の前に英気を養ってるのよ?邪魔立てするならBL同人のネタにしてやるわ」

 

ナルゼがナイトの背後、木箒の後ろで状況を確認しながら言う

 

「いい?今皆が居る西側広間前の関所だけど、そこざっと数えて1000人強・・・そこだけで1500人はいるわよ」

「「は?」」

「いやだから、1500人」

「「無理に決まってんだろwww」」

 

こちらの人数は警護隊を含めて200人をやっと超えるくらい

しかし相手はその七・五倍近い数はいるという

自分たちの中の数人はその無理ゲー状態に近い状況に絶望を通り越して笑いが出る者もいた

 

「そこから先の回廊は道が狭まってるから、そこからは武神は進めないわね・・・」

 

武蔵の唯一の武神である地摺朱雀は、先程のデリックからの射出を向こうに見られたため航空艦や飛行型の武神に落とされる可能性がある

だから制空権を抑えるまで武神は使えない

そして百倍に近い数を前に、士気が低い一同を見て、ネシンバラは声を掛けた

 

「皆戦争が好きな人なんていないと思う、精一杯生きることに価値を見出したなら、行き切らねば死んでしまう戦場は価値だらけの場所でもあると、僕は思う」

 

書記の台詞を皆は聞いた

 

「今回の皆の参加が自由か強制によるものかは僕には解らない、でも自分の意思で参加したなら前向きにいこう・・・どうだい皆?危険な時に助けてくれる友はいる?絶望した時に叫ぶ名前はちゃんとあるかい?そして何より、帰るべき場所はちゃんとあるかい、登場人物たち?」

 

皆は頷く

 

「そう、ならプロットを示そう、道は一直線だよ。聖譜のつまらない歴史書なんかより僕のネタ帳を充実させてくれ。そして主人公、そろそろなんか言ったらどうだい?」

 

主人公ねぇ・・・

 

一同は呟いた。

そして一人やたら分厚く重たそうな鎧を着こんだアデーレが、

 

「あの陣形、どう考えてもこちらが正面突破考えてるの読んでますよね・・・」

「康景もいるが、直政かミトツダイラが居ればなおよかったな・・・」

「武神は制空権が確保されるまで使えんで御座るからな・・・ミトツダイラ殿も武装の準備もあるで御座るし」

 

そこで、荷物を背負った康景が、

 

「・・・おい、その主人公どこ行った?」

 

康景に言われ、周囲を見渡す一同。

そして関所の前で扉に手を扉にかけているトーリを見つけた。

 

「おい何やってんだよお前ぇら、遅ぇって、向こうが待ってんぞ?」

「「何で先に行ってんだ!」」

「御開帳ー!」

 

トーリが関所の門を開ける。

その様子を遠くから見ていた連合軍の各隊長は顔を見合わせ、

 

「う、撃てぇー!!」

 

ラッパの合図とともに、銃を斉射した。

開戦したのだ。

 

******

 

K.P.A.Italiaと三征西班牙の連合軍は、馬鹿が関所の門を開けるのを見た。

だから銃撃を斉射した。

総長兼生徒会長を失えば向こうは士気を下げこちらは予定通り姫の処刑を行う。

しかし、連合軍も極東側も含めて一同はありえないモノをみた。

 

馬鹿とこちらの間に入ってきた白いコートの男が銃弾をすべて『弾き落し』たのだ。

 

「「・・・は?」」

 

隊長格は自分たちが見たものを疑った。

それは何かの間違いだと、そう思って再び銃撃を命じた。

 

「撃てぇー!」

 

隊員たちが一斉に銃を撃つが、

 

「芸のない・・・」

 

白いコートの男は、何事も無かったように両の手に持った剣で、銃弾一つ一つをすべて『弾き切っ』た。

弾いた銃弾が、まるでトーリを避けるように地面や関所の門に当たる。

 

・・・嘘だろ?いったい何人が撃ったと思ってやがる?!

 

連合軍の間、特に若い連中の間に動揺が走る。

そして白コートが動揺を見透かしたように、

 

「K.P.A.Italia及び三征西班牙に告ぐ!」

 

その男は大声で告げる。

 

「これより我らの道を塞ぐものは例外なく殺す!男も女も、全員だ!・・・死にたくないならそこを退け!」

 

その言葉に、隊長格はキレた。

 

・・・たった一人に何ができる!

 

「あれを持ってこい!」

 

そう言って隊員たちに持ってこさせたものは大砲だった。

 

・・・コイツを食らってもそんな事が言えるか!?

 

「うt」

「あれ?皆さんどうしたんですか?」

 

そこで標的の白コートの背後から巨大な鎧が出てくるのを、連合軍は見た。

 

・・・重装甲従士?!いつの時代の代物だ!!?

 

「てぇー!」

 

隊長格は発射を指示した。

しかし大砲の銃口は白コートではなく、いきなりでてきた機動殻に向いたために砲弾はそちらに向かった。

 

「あいたぁー!」

 

鎧が砲弾を弾いて甲高い音を立て、その中にいる人物が砲弾が当たったとは思えない悲鳴を上げた。

 

*****

 

アデーレは防御面に経験値を全て割り振った感じの機動殻の重さ故に、機動力が無い。

そのためトーリが単身突っ込んだのについていけず、門の所で何が起こってるのかもわからずに近づいた。

そして向こうが何か出してきたのをアデーレは見た。

 

大砲ですか?!

 

この機動殻が耐えられるかは解らないが、生身の人間が当たればただでは済まない。

だから全員に警告しようとしたところ、

 

「あれ?皆さんどうしたんですか?」

 

康景を除くすべての極東勢がこちらの後ろに回って伏せていた。

そして敵の隊長格が、

 

「てぇー!」

 

え?まさか・・・?

 

案の定、砲弾はアデーレにヒットした。

 

「あいたぁー!」

 

砲弾がアデーレの機動殻に当たった。

しかし機動殻にはなんの損傷もなく、中にいたアデーレも、

 

「何するんですかぁ!危ないじゃないですか!全くもう!」

 

などとぷりぷり怒っていた。

その様子を見たトーリが、

 

「なんかアデーレが某横スクロールアクションゲーで無敵になるアイテム拾ったおっさんのごとく無敵臭いんだけど?」

「あれじゃないか?昔って砲弾をどこから受けても大丈夫なように設計したとか聞いたことあるから・・・」

「なるほど!それでバルフェット君の機動殻は機動力がない代わりに耐久値が高いんだね!」

「戦闘の高速化が主流になりつつある今の時代で機動力がないから周囲に遅れがちだけど」

「「壁にはなるなぁw」」

「ちょっ!壁って何ですか壁って!?」

 

皆が笑いながら話すのを抗議しようとして二発目が飛んできた。

 

「あいたぁー!」

 

二発目もまた、甲高い音を上げたが、アデーレにも機動殻にも損傷はなかった

 

「馬鹿なッ!出力用の符を三枚足したんだぞ!?」

「が、我慢です!」

「よーし、我慢宣言が出たぞ!ペルソナ、やってくれ」

 

アデーレが無敵状態だった。

向こうが驚きつつ再装填している中、ペルソナ君がアデーレの背後に立った

 

「・・・?どうしたんですかペルソナ君?」

 

アデーレを持ち上げた。

そしてトーリが、

 

「大丈夫だアデーレ!機動力はぺーやんが稼ぐから、鈍重とか、貧乳とかあんまり気に病むなよ?俺たちはお前の存在を支持してるぜ!」

「貧乳は今関係ないじゃないですか!?なんでそんな死亡フラグみたいなことを!」

 

そしてゆっくり少しずつ歩き出すペルソナ君。

 

「え、ちょっと!」

「砲撃用意!」

「うぅううぅぅぅぅうううぅぅたぁああぁぁぁあなぁああぁぁいぃぃいいぃでぇええええ!?」

「撃てぇー!」

「あいたぁー!」

 

三発目も見事に耐えきったアデーレだったが、その叫びは航空艦の砲撃音でかき消された。

 

*****

 

康景は、敵の航空艦の砲撃を聞いた。

 

・・・砲撃で武蔵からなにも飛ばせないように押さえつける気か。

 

「おいヤス、向こうの方ヤバくね?」

「いや、意外と予定通りだ」

「マジで?」

「マジです―――以上」

 

通神から"武蔵"の声が響いた。

 

「砲撃の方は私と皆さま・・・そして浅間様の『ズドン砲』があるのでこちらは安泰です―――以上」

「そっか、浅間の『ズドン砲』があったな、じゃあいっか」

「そう、俺たちには最終兵器にして武蔵の主砲『ズドン砲』があるからな、並の航空艦じゃ相手にならないさ」

「ちょっとそこ!人を兵器扱いしない!」

「「今さらw」」

「そうだぞ智、何をそんな否定することがある?お前は俺たちの最終兵・・・あぶな!」

 

最終兵器と言おうとして、康景めがけて矢が飛んできた。

危ないと言いつつも浅間が放った矢を右に半歩下がって躱す康景。

矢は門に刺さるどころか、門を貫通して破壊した。

 

「・・・チッ」

「お前巫女だろうが、人に当てんなよ・・・というより今舌打ちしたな?」

「気のせいです」

「いや確かに聞いt」

 

浅間は表示枠を消した。

 

*******

 

三征西班牙の警護艦が放つ砲弾を"武蔵"は重力障壁を操作して防ぐ。

砲弾と重力障壁がぶつかり、火花を散らす。

学生と相対できるのは学生のみ、だから町に来る砲弾は「流れ弾」として処理し、基本的な対空迎撃は射撃系の能力を持つ生徒がやる。

"武蔵"としては結果として彼らが守っているのが武蔵自身であるので、彼らのフォローをすることに異議はない。

しかし、

 

「"武蔵"様!流体の高出力反応です!」

 

"浅草"が報告する。

 

「三征西班牙の流体砲、二十五センチ三十八口径、術式操作来ます!―――以上」

 

"武蔵"は重力障壁を何重にも重ねて、その高出力流体砲を弾いた。

弾いた力は奥の山にぶつかる。

 

今のは向こうの標準が甘かっただけ・・・なら次は一度外した以上次は・・・。

 

"武蔵"は品川艦首側の先端マストに立つ浅間を見た

 

「浅間様、『ズドン砲』よろしくお願いします―――以上」

「はぁ・・・わかりました」

 

******

 

浅間は"武蔵"がこちらに任せると言ったのを聞いた。

ここまで『ズドン砲』という言い方が広まってると、なんだかもう『ズドン砲』でいいや、という諦めが入ってしまう。

最初に言い出したのは誰だったか。

 

確かトーリ君か康景君だった筈ですが・・・。

 

そういえばトーリの変態行為を止めようといて弓を撃ち始めたのがきっかけだ。

そしていつしかエスカレートしていく変態行為に比例するようにこちらの弓の技術も向上していった。

そしてより確実に仕留めるために康景を練習台にしてたらいつの間にかここまで至った

 

「矢じゃなくて大きな杭とか、その辺で撃った方が威力増すんじゃないか?」

 

一回康景に相談したところ、そのような返答が帰ってきたので名案だと思い、そのまま採択した。

 

・・・そうですよ、私がこんな主砲扱いされ始めたの、もとはと言えばあの二人のせいじゃないですかヤダー!

 

そうです私は悪くありません!私は悪くない!

 

心の中で言い訳をして、現実に戻る。

 

「浅間神社は、武蔵とその人々を守るためにその力を使います」

 

赤袴であるバインダースカートを展開して空間に固定、靴に付いたピックが床に勢いよく刺さる。

肩上、走狗のハナミが軽く踊りながら、

 

「位置関係禊ぎ完了」

「ありがとう」

 

走狗に感謝し、弓を構える。

 

「白砂代座『梅椿』―接続!」

 

そして背中から大きな『杭』を番えて、弓を引く。

 

「――合いました!」

 

浅間が『杭』を放つ。

 

そしてその杭は真っ直ぐ、三征西班牙の主砲の砲門に直撃。

丁度流体砲を放つ瞬間だったので、杭によって本来放たれる筈だった流体は行き場を失い、爆発した。

 

そして艦内で爆発した三征西班牙の警護艦が沈んでいく。

 

******

 

ナイトとナルゼは、三征西班牙の警護艦が沈んでいくのを見た。

 

「いやぁ今さらだけど浅間の『ズドン砲』怖いわぁ!」

「そうだねガっちゃん、ナイちゃん身震いしちゃったよぉ!」

 

そう言って箒の上で器用に抱き合う二人。

その時不意に表示枠から声がした。

 

「ナイト様、ナルゼ様、武神の射出音を検知、K.P.A.Italia″機械仕掛けの明星"ブランドです・・・予定通り迎撃をお願いします―――以上」

 

「「jud.」」

 

二人は短く返事をし、武神を視認する。

 

「ここまではネシンバラと康景の『見立て』通りね」

「そうだね、この武神に勝って制空権を確保する・・・やっすんの方、下でやりすぎてないといいけど」

「ふふっ・・・そうね、人に『気を付けろ』とか『無理はするなよ』とか言うくせに自分が一番無理する奴だものね」

 

ナルゼには、康景に感謝してもしきれないある事情がある。

ナイトとナルゼは、中等部以前は大変仲が悪かった。その上で部屋も同室だったのでその時は最悪の至りだった。

そこでその様子を見かねた康景が、教室でわざとらしく大声で「ああそう言えば今日マルゴットの誕生日だったなぁ」と一人喋り「なにか送ってやったら喜ぶかなぁ」とこちらをちらちら見ながら呟いていた。

同室で仲が悪いという、居心地の悪さに耐えられなかったナルゼが藁にも縋る思いで部屋に誕生日プレゼントを置いてみた。

そしたら思いのほか、というより予想の斜め上を行く感じで上手くいき、今では毎晩肌を重ねる関係になった(重要)。

あの顔で「恋のキューピット」なんて笑えるが、ナイトとの関係を改善するきっかけを作ってくれた康景は、ナルゼにとってそう見えるレベルの恩人なのだ。

そして最近になって「康景×トーリ」を題材にして「馬鹿二人」という作品でBL同人を描き始めたところ、それが思ったより売れ筋が良く、今では「浅間様が射てる」に匹敵するほどの売り上げを上げた(本人未確認)。

だからナルゼには康景に「やってくれるか?」と問われれば、二つ返事でOKする覚悟と恩があった。

そして「人の頼み事は聞く」癖に「自分から人には頼まない」馬鹿がこちらに頭を下げてきたとあっては、聞かないわけにはいかない。

 

・・・「喜美と付き合ってた」っていうのを内緒にされてたのがなんかムカつくけど

 

それでもやらないわけにはいくまい。

私はミトツダイラみたいに「チョロイン」枠じゃないけど、恩知らずって訳じゃないわ!

 

「行くわよマルゴット!」

「行くよガっちゃん!」

「聖譜が恐れて、滅ぼすことを優先したが故に人々の間に入って隠れた術式、魔術・・・武蔵は良い保護場所だったわね」

 

二人は上下に散開し、ナイトは箒を、ナルゼはペンを握り、

 

「ならば魔女の身分を晒して武蔵を守るために戦う意義はある!」

 

ナイトが白翼を開いて、

 

「黒嬢!」

 

ナルゼが黒翼を開いて、

 

「白嬢!」

 

二人がそれぞれ身体を締め付けるようなインナースーツを纏い、各部にハードポイントパーツを付け、武装が完了。

そして二人は顔を見合わせ、ナイトは黒魔術師の武装、細い木船のような気箒にまたがり、ナルゼは白魔術師の武装、長い槍の様なペンにまたがる。

二人はもう一度互いの顔を見合わせ、飛来する武神に追われる軌道で空を疾走した。

 

*****

 

西側広間では、トーリ達が、康景を先頭に、アデーレの機動殻を先頭の盾に、そして三河警護隊の盾持ちを側面において突撃が敢行されていた。

極東側は隊を二列にして順調に歩みを続けていたが、不意に側面から銃弾が飛んできた。

 

・・・航空艦から下ろしてやがったか

 

康景は銃弾を弾きつつ、三征西班牙の援軍が西の山から来たのを見た。

そして側面から攻撃されてきた事で突撃は勢いを失い、正面と側面から徐々に追い込まれる形になった。

 

・・・やるしかないのか

 

出来ればやりたくはなかったが、あちらに気を遣っていては自分たちがホライゾンを失う。

 

もう失うのは、ごめんだ。

もう家族を失うのは、うんざりだ。

もう大事な人が居なくなる寂しさを感じるのは、無しにしたい。

 

でも、これは・・・。

 

今から自分が行うことは、自身の中で正当化された防衛だ。

それでも、それでもだ。

 

ホライゾンを、皆を・・・!

 

康景の中でスイッチが切り替わった。

康景はいったん楯の後ろに下がり、元信公からの荷物を一旦置いた。

 

「トーリ」

「なんだよヤス!この一大事に!」

「俺これから無茶するけど、見逃してくれよ」

「・・・お前ぇが死んだら多分俺姉ちゃんに半殺しにされるから、死ぬなよ?」

「・・・死なないよ馬鹿」

 

康景は盾の前に出た。

そして銃弾を弾きながら、隊列の薄い、隙の多い箇所を探した。

そして三征西班牙の援軍は今来たばかりで足並みがまだ揃っていない。

そう判断した康景は行動に出た。

 

*****

 

三征西班牙の学生達は、目の前に出てきた白いコートの男を見た。

彼は何事も無いように、冷静に銃弾の弾幕を弾いていく。

 

こんな人間離れした人間がいるのか?!

 

そして自分たちの隊長格が、

 

「怯むな!撃て!」

 

そう部隊を鼓舞した。

自分たちには西国無双の「立花宗茂」やその嫁で彼に劣らないレベルの「立花誾」、そして八大竜王の一人「インノケンティウス」がいる。

何も恐れることは無い・・・そう思っていた。

 

しかし、

 

「!?」

 

目の前から白いコートが消えた。

 

・・・どこに行った?!

 

一同はその男の姿を見失った。

だが不意に、隊長格の後ろに白い影が現れるのを隊員は見た。

 

「戦場で相手から目を離すなよ、死ぬぞ?」

 

そう言ってその男は隊長格の首を『斬り落とし』た。

男は切り落とした隊長の首から噴き出る返り血を浴びて、その白いコートを真っ赤に染めていく。

そして飛び跳ねた首が自分の前に転がってきた。

 

「・・・ひっ!」

 

銃弾で煩かった戦場がいったん静まり返る。

そしてその男は、ゆっくりこちらをみて、

 

「さっき忠告しただろう?お前らは「選択」したと俺は判断した・・・だからこれから先、死んでも文句言うなよ」

 

そして相手の姿を見失ったと思った次の瞬間、

 

「ぇ?」

 

自分の「首」がない身体を見た。

 

******

 

その日、K.P.A.Italiaと三征西班牙の学生は不公平を見た。

 

たった一人の男が、数の暴力を覆していく不公平。

 

返り血を浴びながら、その白いコートを更に真っ赤に染め上げていく。

そして斃した学生たちの骸の上に立つその男を見て、K.P.A.Italiaか三征西班牙の生徒の誰かが呟いた。

 

「死神・・・」

 

 


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