境界線上の死神   作:オウル

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勢いで進めました



十話 肆 後編

自分が困った時

 

自分が窮地に陥った時

 

支持したのは誰か?

 

配点(支持者)

―――――

 

「空論だなぁ・・・三河の姫は事件に無関係だから解放しろか、そんな何万回も使いまわされてきた嘆願など久しぶりに聞いたよ」

 

聖譜を信奏し、歴史再現を守る立場である旧派主張は言葉を続ける。

 

「歴史再現は聖譜記述によって進められるが、その再現には必ず齟齬が生じる。神代の時代と今の我々では知識も人手も足りていないからな・・・故に誤差の消去は必要になる」

「では無関係な姫、ホライゾン・アリアダストの自害は誤差の消去のためですか?」

「じゃあお前達は誤差を許すんだな?」

 

そこで武蔵の副会長は黙った。

その判断に、インノケンティウスは感心した。

誤差の存在を認めればこちらも聖譜記述の歴史再現を無視するものとして武蔵を聖連の敵として対処することも出来たが、武蔵の副会長はミスを避けたのだ。

 

・・・面倒な相手だなぁオイ。

 

故にインノケンティウスは表示枠に向き合った。

 

「世界がどうあるべきかの話をしよう・・・なぁオイ」

 

******

 

正純は周囲が静寂に包まれるのを悟った。

表示枠を前にして、わずかな緊張を感じる。

 

「歴史再現における誤差は利便性に関して起きやすい。誰だって便利な方が良い、その方法をやりたくなってしまう。だから歴史再現には解釈という考え方がつきものだ」

 

言葉を続ける教皇総長。

 

「解釈とは都合が良いことではない、国の君主が責任を取るために自害する。これはこの時代における極東のルールだな・・・歴史としてあるべきこと。歴史として正しい解釈をすることの何が悪なんだ?」

「ですが聖下、それでは無関係な民の命が一つ失われてしまいます」

「いい言葉を教えてやろう、それは「失われる」のではない。「殉教」だ。聖譜が望む未来のために先に行くのだ。人の理解の上にある歴史の流れがそれを欲するんだ・・・わかるか?」

 

正純は内心舌打ちした。

 

このくらいの討論は向こうにとっては長い年月の中で蓄えられていった応答パターンの一つに過ぎないという事か・・・。

 

「お前はさっき、三河を武蔵に併合して三河を存続するとか言っていたなぁ・・・じゃあ俺たちが宛にしていた三河の生産力と地脈炉による産業取引とかはどうするんだ?」

「それは・・・」

「お前はこう言いたいんだろう?三河は極東の国で歴史再現には関係ない聖連との付き合いは無視しても構わない、と・・・なぁそれはお前らにとって都合がよすぎないかぁオイ」

 

正純は相手が論点をずらしてきたことを悟った。

相手の戦術は明確だ。対論を並べた焦土戦だ。

 

向こうはこちらとは比べ物にならない論の蓄積がある、ならば対論を潰し合っていけば最後に勝つのは向こうだ。

 

表立った否定をしないのも、改派とやり合った際のトラブルを避けるため・・・。

 

防御にも抜かりがない話し合い。

ならば、

 

「居留地の金融凍結も誤差修正の範囲内だと?」

「姫の自害について互いの見解が見えてきたらおのずと答えは出よう。付随的な問題でしかない・・・話をそらさず行こうか」

 

向こうは問題を一つに集中することでこちらの論を絞り込んでくる。

どうする・・・?

考えが煮詰まってきたところで後ろの方で馬鹿が騒ぐ。

 

「なぁヤス!俺馬鹿だから、話の流れわかんねぇけど、これもうセージュン勝っちゃったりするわけ?」

「おい、静かにしろよトーリ。正純が集中できないだろ?」

「なんだよ!?静かな方が興奮するってか?!」

 

黙ってろよ馬鹿!

 

「まぁアレだトーリ、正純は最終的にはダブルどころかトリプルスコアで勝って、全世界を土下座させて「武蔵tueeee!」にしてくれるだろうさ」

 

お前は私に対する期待値がデカいよ!

・・・その期待はそりゃ嬉しいけど!嬉しいけどさ!

 

だが後ろで馬鹿二人が騒いで時間を稼いだおかげで正純は現状打開策が浮かんだ。

 

「三河消失後に略式相続確認を行って、その時に嫡子でないものを後から嫡子にして責任を取らせるのは強引では?」

「我々の姿勢からすれば、歴史のあるべき流れとして責任を取らせることだけだ。誤差修正はしなければならないことだからな・・・」

「では略式相続の確認を浅間神社で行わなかったのは何故です?」

「浅間神社で相続確認したところで、自害に変わりはないだろうが。どちらも変わらないのであればこちらがやりやすい手段を取っただけだ」

 

ここまでは予定通り。

 

「なるほど、見解が平行線のようですね」

 

教皇総長は何も答えない。

ここで下手に答えればあちらは意見を摺り寄せる努力を怠ったと思われるからだ。

 

予定通りだ・・・!

 

「では申し上げます。私たちは聖連側と相容れない価値観を持つことを認めます。そのことは聖下としても、その事は同意がいただけるかと」

「・・・いや、こちらとしては双方話し合えば互いに理解が得られると思っている。話せばいずれ理解は得られる・・・違うか?」

 

・・・かかった。

 

正純は続ける。

 

「つまり我々はいずれ共に歩むことが出来る道に至る・・・そう言う事ですね?」

「Tes.こちらは戦うことなど求めていない」

「良かったです・・・今後こちらが何をしても、話せば理解はできると信じていてくれるのですから」

 

正純は笑みで言った。

 

「こちらがすることに対し、平行線であろうと理解の努力をして手を出さない・・・素晴らしいご判断です。聖下」

 

*****

 

康景はその言葉を聞いた。

 

聖連の自滅を誘う方法を逆手に取ったのか・・・。

 

やっぱり正純は凄いと、康景は思った。

 

俺あのオッサン嫌いだし、ここまで来る前に多分三回プッツンしてるだろうから、話し合いも何もなかっただろうなぁ・・・。

というよりそもそも嫌いな相手と話し合う気とかないし、相手が目の前にいてくれれば殴るなり蹴るなり切断するなりして脅せるから楽だったんだけど・・・。

どの道俺がやってたら「即」開戦だったよなぁ・・・うん、やっぱり正純に任せて正解だった。

 

多分三河の茶屋で学長が仰っていたことはこういう事だったんだろう。

自分が意外と脳筋だったことに内心自嘲した。

 

「シロジロ、商人たちと連携をとって武蔵の金融を一括管理できる態勢を起こせ」

「もうやってる」

「浅間、浅間神社から安芸の厳島神社に抗議文と臨時相続確認の見直し請求を!武蔵生まれの彼女の相続を外部が行うのは権限を侵すものだとな」

「はい」

 

手際の良い命令を出し、

 

「武蔵アリアダスト教導院は次の三つの平行線を保つことで理解とします」

 

『一つ、聖連側が各居留地の金融を凍結した場合、それに対する融資で平行線を』

 

『一つ、聖連側がホライゾン・アリアダストを臨時相続確認で君主と据えるなら、それに対する正当な神社からの抗議と差し止めで平行線を』

 

『一つ、聖連側が無関係な民を引責自害させることを選ぶなら、武蔵は聖譜の悪用からホライゾン・アリアダストを保護するため彼女に入学の推薦状を送って武蔵の学生とし聖連から保護することで平行線とする』

 

正純は三つの平行線を告げた。

 

・・・行けるか?

 

「詭弁だなぁ」

「・・・聖下、貴方が自らの言論を正論とするのならば、貴方にとっての詭弁で、平行線とする・・・それだけの事です」

 

*******

 

どう出る・・・?

 

正純は相手の言葉を待った。

 

「平行線を守るだったな?」

「・・・!」

「残念な事だが、聖連は争う事を望んでいない。ならば争いを望まない事への平行線とは・・・なんだ?」

 

やはりそう来たか・・・。

 

向こうは全面戦争のカードを切ってきた。

平行線ルールをとるなら、こちらは武蔵側が戦争を望んでいることになる。

 

「こちらは平和を望んでいるが、平行線上の貴様らは違うみたいだなぁ」

 

向こうはこちらに問いている。戦争か降伏の二者択一を・・・。

 

人々は正純の言葉を待っている。

そこでインノケンティウスは畳みかける。

 

「もしすべての発言を撤回して降伏を認めるのならば敵対の意思を認めずにいてやろう」

 

更に、

 

「極東居留地の金融凍結も解除しても良い・・・あとはそうだな、武蔵の委譲もなしで良い」

 

こちらが降伏の決断をしやすいように逃げ場をつくった。

さらに人々の間にも降伏した方が得だと思わせることで、流れも完全にあちらの物になった。

 

くそ・・・どうする?

 

「面白かったぞ、こういう話で挑んでくるものがいて・・・何しろ俺の周りは沈黙屋が多くてな」

 

待て!話を勝手に終えるな・・・!

 

言葉を出そうとして、教皇総長が続ける。

 

「本多正純」

 

いきなり名前を呼ばれた。

待て、なんで今ここで私の名前を言う?

正純に嫌な予感が過ぎった。

 

「不思議だよなぁ、歴史再現の誤差を認めろというのはアレか?自分が襲名に失敗してそれを解釈で救われなかったからか?」

 

今はその話は関係ないだろ!!

正純は己の身体を抱いた。震えがくる。冷や汗が止らない・・・。

それに対しインノケンティウスは笑みすら含んだ声で言う。

 

「お前、襲名しようとして男性化するのに胸とか削ったりしたのに途中でそれが叶わなくなって・・・」

 

やめろ・・・

 

「体は不完全に女のままで、なのに襲名を引きずって男装。どうしてだ?襲名の失敗や己の事など何一つ明かさずにいるお前が、なんで人々の信頼を得るべき場に来た?お前はただ人々を騙しながら人々を動す事に酔い、ただ聖連の権威に逆らいたいだけじゃないのか?」

 

*****

 

正純は息を飲んだ

 

私に対する人々の見方を根本からやられた・・・!

 

自分が女であるという事は、一部の者は知っている。

康景には、初めて会った時には一目で気付かれたし、浅間などには武蔵に移住する際に書類が渡っているだろうから、知っているはずだ。

だが、今ここでこちらを注視している人々はそんなことも、女であることを隠してる理由も知らない。

自身の身体の事を他人から知らされた人間の反応を、正純は三河で経験している。

避けられたり、変に気遣われたりするのが殆どだった。

康景は私について深く詮索しようとはせず、私が困っているときにご飯を奢ったりしてくれて、アイツといるのは居心地は良かった。

女子たちも、身体測定などで私の体の事について知っても、それを言い広めたりはしなかった。

だがそれを、「隠し事を抱えながら人々を扇動する人間」だと、そういう事にされた。

人々の私に対する見方を変えたのだ。

その上で教皇総長は続けた。

 

「いやはや・・・お前はよくやった方だよ・・・もし今回の件をすべて白紙にするならお前の聖連での立ち位置を保証してやってもいい、お前の関係者も武蔵住民の処遇についても優遇を俺が保証しよう」

 

こちらの支持を下げたところで逃げ道を用意した。

 

「さぁどうする?武蔵代表本多正純、平和のための答えを聞こうじゃあないか」

 

私は・・・

 

*****

 

その時不意に後ろに気配がした。

 

「おいセージュン!マジに女なの?」

「「は?」」

 

正純とトーリの背後にいる康景はそろって声をあげた

 

「え、俺、一応トーリに生徒会選挙の時「今年の生徒会立候補者」の情報渡しただろ?もしかして読まなかったのか?お前が言ったんだよな?「情報よろ」って。準備させておいて読んでないのか?・・・」

「あー・・・うんゴメンね?」

 

康景に小突かれるトーリ。

 

お前は・・・

 

正純は呆れた。

 

「よし!じゃあヤス、ちょっと来い」

「・・・なんだよ」

「ハーイ確認ターイム!!!」

「「あ」」

 

その場にいた者が、全員そろって同じ声をだした。

トーリが康景の手を掴んで、正純の胸に当てさせたのだ。

正純は一瞬何が起こったかわからず、硬直するが、しかしゆっくり現状を理解する。

 

現状→・康景の手が、自分の胸を触っている

 

「~~~~~///」

 

声にならない悲鳴を上げる。

そこでつかさずトーリが、

 

「ハイ!チェックでーす!」

 

正純のズボンを下げた。

正純の履いていたパンツが衆目にさらされる。

 

「ハーイ女ぁー!」

 

い、今起こったことをあのまま話すぞ?

『康景に胸を触られたと思ったら馬鹿にズボンを下げられて履いてるパンツを晒されてしまった』

何を言っているかわからないと思うが、私自身何をされたのかわからなかった。

 

頭がどうにかなりそうだった・・・!

いつもの馬鹿の馬鹿な行為だとか、そんなものじゃあ断じてない。

もっと恐ろしい馬鹿な行為を味わった・・・!

 

混乱する中、元凶の馬鹿を張り倒し、とりあえずズボンを履きなおそうとする。

 

「お、おい・・・正純?大丈夫か?」

「えっ!あ」

 

ズボンを腰のハードポイントまで上げたところで、その声に驚いてバランスを崩した。

それを受け止めようと康景が正純の手を取るのだが、そこで正純が更に混乱して暴れたため、ついには双方がバランスを崩し、

 

「・・・///」

「・・・」

 

どうしてこうなった?!

 

気が付けば正純が履きなおしたズボンはまたずり落ち、今度は傍から見れば正純が康景に押し倒され「そういう行為」一歩手前みたいな構図になっていた。

 

※ちなみにこの時、一部生徒が「ちょっと正純、そこ代わって下さらない!?」と本気で騒いで巫女に止められていたが、これが誰なのかは本人の名誉のために伏せて置こう・・・

 

正純はちょっとドキドキしつつも我に返って康景を突き飛ばした。

丁度突き飛ばしたのが階段の方だったので、康景は階段を転げ落ちていく。

 

「アッー!」とか聞こえたが、アイツなら大丈夫だろう・・・うん

 

急いでズボンを履きなおす正純。

そこでトーリが、

 

「お前、そこまでして貧乳になりたかったのかよ?!」

「いや、お前アレだぞ?世の中にはそういうの気にしたりする人居るんだから・・・」

 

そう言って自分のクラスメイトの同胞を見る。

 

アデーレ、鈴、ナルゼ、ミトツダイラ・・・三要先生。

 

しかし彼女たちは視線を逸らした。

 

くっそ!私に味方はいないのか?!

それとも皆現状を認めたくないだけなのか?!

 

「大丈夫だってセージュン、多分ヤスは胸より尻派だからw、貧乳とか多分気にしないと思うぜ!」

「え、あ、そうなのか?ならよ・・・くないわ!お前なぁ・・・!」

「・・・大体子供ちゃんと産めんだろ?だったらちゃんと育てればちゃんとお前の事好きになるさ」

「何を根拠に・・・!」

 

正純は自分と父親との関係を思い出す。

アレは多分一般の家庭から見れば「仲が良い」とは言えないはずだ。

 

「だってようお前、自分の子供嫌いだったら仕事途中に馬車止めて話しかけたりしないって」

「・・・」

 

くそ・・・わかってるよそんな事・・・。

 

「だけど、お前・・・そもそもこんな体の私を欲しがるような相手なんているわけ・・・」

「だから言ってんだろ?!多分ヤスは尻さえよければお前でもイケるって!」

 

※その言葉に集団の中から「ちょっと総長!?貴方一体誰の味方ですの?!」と叫んでる生徒がいたが、これが誰なのかは本人の名誉のために(ry

 

*****

 

「茶番はそこまでにしろよ、武蔵総長兼生徒会長・・・」

 

教皇総長がこちらの馬鹿なやり取りを止めに入った。

 

「事態が不利になったらうやむやにして話を逸らすのか?」

「はぁ?何言ってんだばぁーかぁ!!」

 

教皇総長相手に・・・

 

馬鹿はそれでも続ける。

 

「さっきから話聞いてりゃあオメェの話は結果的にホライゾン殺すだ!!それ以外に答えをくれやしねぇ!ヤスなんかさっきからキレまくってて超怖かったんだぞ!俺のハートがチキン並みなら何枚パンツ替えに行ったか分からねぇレベルでな!横で立ってる俺がどんだけあいつを抑えるのに苦労したか・・・」

「(いやお前私が教皇総長と討論してる間飛び跳ねてただけじゃ・・・?)」

「だったらお前が武蔵を取り巻く状況を解決できるのか?」

「安心しろよオッサン!俺は馬鹿でヤスも頭良いみたいに振る舞ってるけど基本馬鹿だから答えられねぇ・・・でもこのセージュンがわかってる!俺は誰がなんと言おうともコイツの、俺たちの代表の答えを支持するッ!」

「そうだ・・・俺たちの代表は正純なんだ・・・正純なら俺たちに答えられない答えを言う事が出来るッ!他の誰もお前を信じなくても、俺はお前を支持するぞ」

「康景・・・」

 

先程階段に突き飛ばした康景が、こちらに戻ってきてトーリの支持を支持する。

 

え、お前階段から転げ落ちたんだぞ?・・・無事なの?

 

怪我を心配をした正純だったが、当の本人が、「大丈夫だ、問題ない」とか言ってたが・・・ほんとに大丈夫なんだろうか?

康景はこちらの心配を無視して話を続ける

 

「正純?」

「・・・なんだ?」

「俺たちがホライゾンを救って他国が利益を得る事、あるよな?」

「ああ・・・その問に答えよう。まず第一の利益に、すべての人がホライゾンを死なせずに済むということだ」

 

話を続ける。

馬鹿二人の支持を得た正純に、もはや迷いはなかった。

 

「そしてほかの利益と大義名分の前準備として、ホライゾンアリアダストを救い出すことで武蔵を極東の主権の中心とするために行動する」

「居留地を見捨てる気か?」

「いや・・・武蔵は宣言する。極東各居留地を独立自治都市とし、内部での伝統行為の一切を禁ずる中立の場所として各居留地の経済を自由市場にする・・・今後武蔵は各都市の中立の場を基本に自律行動に入る!」

「ならば我々にとっても利益になるという大義名分とはなんだ?!」

「大罪武装を収集する事によって末世を解決することだ」

 

正純は告げた。

 

「武蔵はホライゾン・アリアダストの元に大罪武装を回収して末世解決のために尽力し、その報酬を求めない事を誓う!」

「馬鹿げたことを!大罪武装の回収だと?!そんな権利がお前らにあると思っているのか!?」

 

その言葉に答えたのは正純ではなく康景だった。

 

「あるだろう?だって大罪武装はホライゾンの奪われた感情の一部に過ぎないんだ・・・どんなに強力でもな。だったら所有権はアイツにあるに決まってんだろ?・・・アイツの保持下に入った時点でアイツの感情表現の一部に過ぎなくなる事を忘れるんじゃねーよ「馬鹿」が」

「・・・?!」

 

こちらに何か言おうとした教皇総長の言葉を無視して、康景の言葉を引き継ぐように続ける正純。

 

「そうだ!だから各国には大罪武装の返却をお願いしたい!武蔵アリアダスト教導院代表、本多正純はここに宣言する!武蔵は各国との抗争は望まず、末世協力を求める!もしにするので世解決を拒んでホライゾンの感情を奪ったままにするのであれば、武蔵は学生間の相対で対処に臨む!」

 

*****

 

「そうか・・・ならば決裂するわけだな?いや、本当に残念だよ・・・・・・いけ、ガリレオ」

 

その言葉と共に、事態の急変をいち早く悟った康景は叫んだ。

 

「校庭側に注意しろ!」

 

一同が校庭を見る、そこには魔神族のガリレオが立っていた。

 

「やぁ、K.P.A.Italiaの副長、ガリレオだ」

 

その名乗りと共に、動き出した影があった。

 

「拙僧☆発進!」

 

ウルキアガが、前のめりの姿勢で跳躍した。

ウルキアガは旧派だ、だから旧派であるK.P.A.Italiaとは戦えない。だが、この時代に異端とされた科学を中心とするガリレオ相手なら相対することが出来る。

故に、その姿を視認したウルキアガは康景が言う前に跳んだ。

 

「この異端がぁ!!!!」

 

ウルキアガは、懐から審問用の巨大ペンチを取り出してガリレオに殴りかかった。

しかし高速で跳んで行ったウルキアガの攻撃はガリレオに当たることは無かった。

ペンチがガリレオの前で制止していたのだ。

 

その様子を見ていち早くその効果の正体に気付いた康景は、

 

「ウッキー!それは大罪武装だ!距離を取れ!」

「・・・ほうこれの正体にいち早く気づくとは・・・確かにこれは我らに与えられた大罪武装、淫蕩の御身だ。正式所有者でない私でも対人レベルで能力を発揮できるぞ」

 

言った瞬間、ウルキアガのペンチが分解された。

だがそれと同時に、一つの影が動いた。

 

ノリキだ。

ノリキは、ウルキアガの武器が破砕されたのと同時に、動いていた。

術式をガリレオの腹部に叩き込む。

 

しかし、ガリレオは平然とした様子で、

 

「君の拳は軽いのであるな・・・君の体格が細身なせいもあるだろうが、その拳は私には響いていないぞ」

「解っているなら・・・言わなくていい・・・!」

 

更にもう一発叩き込むノリキ。

 

「学習能力がないのかね・・・天動説!」

 

言葉と共に、ガリレオを中心に半円を描くように校庭を吹き飛び、たたきつけられた。

しかし、その様子を見ていた康景は、次の相手の行動を予測する。

 

なんでわざわざ俺たちと距離がある校庭に現れた?

 

・・・俺たちの油断を誘うためか!

 

そして、あの半円形に吹き飛ばす攻撃が、もし「自分自身」にも使えたなら?

 

・・・目標は一つだ!

 

皆が校庭に目を囚われている内に、こちらに移動して狙う者・・・それは

 

・・・正純!

 

*******

 

校庭に居るガリレオが、手を挙げるのと同時、一瞬にして正純の目の前に現れた。

 

移動術・・・?!

 

「先程の問答、実に面白かったぞ・・・だがこれで終いというとろかな」

 

このままでは・・・!

 

ガリレオは正純にその巨躯から放たれる腕の振り落としを行った。

逃げられないことを悟って目を反射的に閉じた。

その時、正純の耳に声が響いた。

 

「ヤス!!」

 

トーリの声だった。

そして次の瞬間、正純の目の前には複数の動きが生じた。

 

*****

 

攻撃されることを悟った正純は反射的に目を閉じた。

しかし、相手の攻撃が当たることは無く、自分が宙に浮いている状態なのに気づいた。

 

「あれ?」

 

正純は目の前にいたハズの魔人族とは距離を取り、何故か康景に抱きかかえられていた。

 

「・・・!?」

「ああ、大丈夫か正純?」

「・・・私は何ともないが、一体何が・・・?」

「心配するな・・・ちょっと行儀の悪いデカブツの腕を「切り落とした」だけだから」

 

先程まで自分が居た位置を見る。

そこにはガリレオと、昔の旧友である本多二代が居た。

 

二代!?なんでお前がここに?

 

しかし、その疑問より先に、正純が居た場所が血に塗れたものになっていたことに気付いた。

ガリレオの右腕が切り落とされて、腕から鮮血が飛び散っている。

ガリレオが腕を切り落とされた激痛で表情を歪める。

 

「酷い男だな君は・・・まだこちらは何もしてないというのに・・・!!」

「何言ってんだ?・・・交渉の結果が決裂するのを悟って先に俺たちの政治の要である正純を潰そうとしたのはお前らだろう?自業自得だ・・・死ねよ」

 

その言葉に正純の背筋に、氷でも入れられたかのような悪寒が走る。

そこで階段の方から声がした。

 

「教皇総長、出来るならガリレオ殿にお引き取り願いたい」

 

武蔵王ヨシナオだ。彼は自分の妻の手を引いてこちら側に来た。

 

「・・・ではどうするというのだ?武蔵王は学生ではない故に学生間抗争に介入は出来ないはずだ。しかもすでにそちらの生徒とこちらの副長の間で戦闘が行われた・・・これは既に開戦の狼煙は上がったと捉えるが?」

「教皇総長、貴方は何か思い違いをされているようだ」

「・・・何だと?」

「臨時生徒総会はまだ終わってないぞ教皇総長・・・!」

 

怒気を含みつつ教皇総長に睨みつける康景。

その言葉を肯定するようにヨシナオが続ける。

 

「・・・その通り、麻呂はそこの警護隊隊長、東国無双の本多忠勝が娘、本多二代を伴って学生たちの暴挙を諫めに来たのであります・・・しかし・・・」

「未だ学生間抗争が続いている最中にアンタがガリレオ副長を使って先手を取ろうとしたから、こっちは自衛のために動いただけだ」

「・・・麻呂たちは学生ではない故学生間の抗争には手を出せない。なので東国無双の指導を直に受けた者で現在神格武装「蜻蛉切」の所有者を伴い、最終相対の武蔵副会長と元総長及びその補佐の抗争を諫めに来たものであります。しかし未だ勝敗付かぬ間に、貴君がガリレオ殿を使って勝負を中断させたのでこの相対はまだ終わっていないと判断できます」

「武蔵王とそこの女武者が学生たちとグルでない証拠は?」

「おいオッサン!このコスプレと俺たちを同列にすんなよ!名誉棄損で訴えるぞ!」

 

お前がまず訴えられるぞ!

 

そうツッコむ前に、一応の見届け人であるオリオトライが前に乗り出し、

 

「正純とトーリの相対は互いに立つ所があったと判断するわ・・・今はまだ武蔵の問題が片付いていないのに他校の生徒が関与することは遠慮願います」

「解った・・・以後気を付けよう・・・ガリレオ、その落とした腕を拾ってこちらに戻れ、今ならまだ魔人族の回復力を持って腕はくっつくだろう?」

「・・・Tes.」

 

ガリレオは康景を睨んでその場を去った

 

*****

 

二代は、かつての旧友がピンチなのを悟って、正純の前に現れたK.P.A.Italiaの副長との間に立ち正純を守ろうとした。

しかし、こちらが防御のために出した石突には手応えが無かった。

その理由は相手が攻撃のために繰り出した腕が切り飛ばされて宙を舞っていたからだ。

 

こちら動くのより早く正純を救出して固い皮膚の魔人族の腕を切り落とす・・・一体何者で御座るか貴殿は?

 

二代はかつての旧友を抱きかかえる康景を見た。

 

「じゃあまさかの延長戦、第四回目ね」

 

オリオトライが第四回戦の存在を認め、二代を見た。二代は小さく会釈し、臨時生徒総会の武蔵側を見た。

 

「拙者を倒さねば敵に刃は届かぬぞ!もしそれが出来ないなら、この蜻蛉切で何もかも割断してくれようぞ!」

 

息を吸い、

 

「さあ!拙者の相手は誰で御座るか!?」

 

二代は、武蔵の一同に相対相手を所望した。しかし、二代の目には旧友を抱きかかえたままの康景の姿しか映っていなかった

 

 




これで「高嶺の花」に進めるッ!・・・

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