境界線上の死神   作:オウル

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クリスマスに投稿です
我ながら虚しいなんて自嘲してますが、どの道することもなかったので朝から考えて投稿しました(泣)

特別編云々も考えましたが、本編も進んでないのに特別編は無いと思ったのでとりあえず本編です

※加筆修正しました。


十話 弐

天秤にかけるのを躊躇うのは

 

どっちに付くべきか迷っているのか

 

それとも自信がないだけか

 

配点(臨時生徒総会)

――――――――――――

 

白い寝室がある。

だがそれは私室ではなく治療室で、ベッドの上に重症の患者が横たわっていた。

 

「宗茂様・・・お願いです早く起きてください」

 

誾が泣きそうな顔で、宗茂の治療用の符を張り替えていた。

原因は一目瞭然で、「東国無双」の本多忠勝と真っ向勝負で打ち合って、無茶した挙句負けたのだ。

 

宗茂様はなんでそうやっていつも馬鹿正直なんですか・・・。

 

「こんなことばかりでは心配が絶えませんよ・・・」

「ならこれで少しは心配が晴れましたか?」

 

宗茂が、誾の顔を力ない笑みで見つめた。

恥ずかしい事を言わせておいて起きていた宗茂に、

 

「」

「あれ?誾さん?あの、右足を握ってる手の力が強いんですが!?痛い痛い!!」

「なら宗茂様?何か言うべきことがありますよねぇ?」

 

色々な心配をさせた挙句恥ずかしいことまで言わせた宗茂に、誾は怪我がひどい右足を握る手に力を強めた。

 

「ちょっ、誾さん?!シャレにならないレベルなんですが!?」

 

丁度その時、宗茂の見舞いに来た三征西班牙の生徒たちが来て、カーテンの影越しに宗茂と誾のやり取りの様子を見て、

 

「ほら宗茂様?何か仰ることがありますよね?」

「アッー!!」

「?!!」

 

急いで引き返した。

 

「何だよ、副団長の見舞いに来たのに目覚めてすぐお楽しみとか」

「宗茂様総受けとか不潔ね!」

 

宗茂は誾との関係において総受けだと判断されたことは、二人はまだ知らない。

 

「あの!?治療とか、ありがとうございます!」

「Tes.」

「えっと、色々心配とかかけて、すいませんでした!」

「Tes.」

 

それでもなお足への力を緩めない誾に対し、

 

「ただいま、誾さん」

「Tes.いつ言うのかと思って待ちかねていました」

 

宗茂は誾に抱き着いた。

それを受け、誾は宗茂の足を握っていた手の力を緩めた。

 

「忠勝様から蜻蛉切を預かっています。二代様にお返しになるのが良いかと」

「・・・二代という人は、私を恨むかな?」

「それは解りませんが、勝負は次の本多に受け継がれました。再戦の機会は十分あるかと」

「そうですか・・・」

 

宗茂は、あの時の戦いを思い出す。

こちらは術式符や身体能力を可能な限り駆使して勝てなかった相手だ。

その相手が再戦の機会を与えてくれたのは良い事とみるべきか、はたまたその逆か、

 

「そう言えば、忠勝様が蜻蛉切をこちらに渡した際、こんなことも言ってました」

「?」

「今年の武蔵にはヤバいのが一人いて、その者は次の本多との再戦とか関係なく襲いかかるかもしれないと・・・」

「・・・あの忠勝様がそこまでおっしゃるのならば、警戒した方が良いかもしれませんね」

 

あれほどの戦闘技術を持った方にヤバいと言わしめるほどの人物が、三河警護隊、もしくは武蔵に居るかもしれないということだろうか。

 

宗茂はまだ見ぬ敵に警戒心を抱いた。

 

******

 

正純はシャワーを浴びていた。

少し温度を低めに設定していたおかげで、頭に血が上ってもすぐに頭を冷ますことが出来た。

正純は状況を整理する。

 

昨日、私は多くの事を知った。

 

康景の事、葵の事、ホライゾンの事。

多くを知った上で、生じた大きな出来事・・・三河の消失。

 

今聖連ではホライゾンを元信公の嫡子として認め、三河消失の責任と彼女の中にある大罪武装の抽出のために彼女を「処刑」する準備が着々と進んでいる。

 

皆はどうするのだろうか・・・?

 

多分ホライゾンを救う気だろうなぁ・・・。

 

正純は確信はないが、そう思った。

だが聖連と敵対する選択をしたら全面戦争は免れない。それは、

 

・・・世界が敵に回るという事。

 

頭の中で自分が取るべき行動がわからず、考えが逡巡する。

そして昨夜見た友人の顔が脳裏から離れなかった。

 

康景・・・。

 

今まで見たことのないような表情、こちらを見た死人のような眼。

あの時正純は力なくその場から去る康景を、追いかけられなかった。

 

天野康景、義伊・アリアダスト、ホライゾンの弟・・・お前なら、どう選択する?お前なら・・・。

 

結局考えは定まらないまま、シャワーを浴び終えた。

制服に着替え、机の上に置いておいたメモ書きを見る。

 

・・・聖連に敵対した時の対処法・・・。

 

自分なりに考えた対処法だが、「聖連と敵対してやっていけるなど、子供の考え」と、父の言葉を思い出した。

 

そうだ・・・これは未熟者が考えた未熟な考えだ・・・。

 

ポケットに紙を突っ込んだ。

 

その時、不意にバインダーの携帯社務が鳴る。

 

「正純・・・私だ」

 

父親だった。彼はこちらの言を待たず続ける。

 

「今、通報によって教導院で生徒たちによる反抗が生じていることが判明した」

「反抗?武蔵は明確な武装持ち込みは禁止されているはずでは・・・?」

「臨時生徒総会だ、正純・・・お前の不信任決議だ」

 

それは・・・。

 

言おうとして、声が詰まる。

 

・・・皆は、ホライゾンを救う道を選んだ。

 

私は何をしてるんだろうか。

 

「正純?お前の役目は解っているな?交渉役だ、行って武蔵にいい結果が得られるように交渉してこい」

 

*******

 

正純は人気のない町を進んだ。

武蔵に帰化していない人々が武蔵に居られないと判断して、旅客船で武蔵を後にしている。

武蔵から人が居なくなる、その連鎖で動揺が広がり、自然と武蔵の委譲は必然のような空気が生まれる。

しかし、

 

「連中はそれを良しとしない、か」

 

今自分は彼らの説得に向かう、言い換えれば敵役だ。

足が重い、それでも進まなくてはならない。

考えながら歩いていると、後悔通りの前に来た。

 

だがそこで、左右の道路から二つの影が見える。

 

一つは義腕で煙管を咥えた、直政。

一つは長大な黒のケースを担いだ、ミトツダイラ。

 

「何ですの・・・武蔵騎士階級代表と、機関部代表、そして政治系代表が教導院の皆様に物言いですの?」

 

ミトツダイラと直政と合流した。

 

領主会は町の領地に関して、機関部は人員の引継ぎ等の問題があるんだろう・・・。

 

「あたしの方は機関部で「聖連と敵対してもやっていけるか試してこい」って話になってね・・・まぁあとは個人的な件で」

「大方私の方も似たようなものですわ、騎士階級と従士階級は武蔵の人々を守るために戦います、ですが」

「なるべく被害は出さないように・・・か」

「jud.そのための判断をしに行くのが私の役目です、まぁ私の方も個人的な件がありまして」

「・・・どっちも主体は基本、力技か・・・」

 

小さく、直政とミトツダイラが笑う。

その様子に正純はこの二人は皆の「覚悟」や方針を問いただしに行くだけで、どちらかと言えば彼ら寄りなんだろう、そう思った。

 

「アンタはどうなんだい?正純?」

「わ、私は・・・」

 

暫定議会派だ、判断も何もない。そう言おうとして言葉を飲んだ。

 

「私は・・・わからない・・・暫定議会側として行くが、できるなら・・・」

「?」

「あの馬鹿な友人たちが・・・康景が、どうしたいのかを聞きたい」

 

その言葉に対して二人は答えなかった。

正純は自分でもよくわかっていなかったので、その沈黙がありがたかった。

 

階段をのぼると、そこには皆の姿があった。

その集団の前に、シロジロと、その足元になにか見慣れたものがあることに気づいた。

 

それについて、出来れば言及したくなかったが、

 

「何だいそのマットにまかれたトーリみたいな塊は?」

 

直政が聞いた。

するとシロジロが足元の何かを見て、

 

「・・・気にするな、春巻きだ」

「ちっげーよ!今は巻き寿司だよ!マットはライスペーパー代わり!わかってねぇなぁお前」

 

馬鹿が蹴り飛ばされ、勢いよくこちらに転がってマットが広げられていった。

そしてマットが切れた先、馬鹿が出てきて、

 

「おう!皆、もう一回巻き寿司やるから、ちょっと手伝っt」

 

その馬鹿を正純はつま先で蹴り返した。

 

*******

 

「では改めて挨拶をしよう、武蔵アリアダスト教導院生徒会副会長、本多正純。そちらが臨時生徒総会を開くことを認めたうえで、全校生徒に提案しに来た」

「こちら元会計のシロジロ・ベルトーニだ、既に全校生徒から私たちの相対で武蔵の方向性を決めていいとの暫定代表権の同意は得ている」

「臨時生徒総会の議題は、私の不信任決議を通して教導院側の姿勢を決める・・・という事でいいんだな?」

「そうだ、故にこちらは武蔵側、そちらは聖連側になる」

 

視界の中、簀巻き状態の馬鹿が康景に髪の毛を掴まれて引き摺られていた。

 

「おいヤス!このままじゃネタがさっきと変わんねぇだろ!着替えさせろよ、脱ぎ芸やるから!」

「お前がウロチョロしてないでちゃんと構えてればこうする必要もないんだが」

「だったら放して着替えさせろよ!ちゃんとすっから!」

 

何やってんだ・・・。

 

視界に入ったものを無視する、と言うよりは康景を見れなかった、という方が正しいかもしれない。

気を取り直して続ける。

 

「では相対を始めようか、聖連側と武蔵側、代表三人ずつで二勝先取で勝利、相対の結果を武蔵の判断とし、こちらが勝てば武蔵は委譲してホライゾンの自害は認める。そちらが勝てば・・・」

「ホライゾンを救いに行く、それで構わない。相対の手段は戦闘、交渉なんでもありだ」

「jud.それで構わない。なら一番手は・・・」

「一番手はあたしがもらうよ」

 

誰にするか、そう問おうとした時、直政が手を挙げた。

直政は一歩前に出て、

 

「あたしは機関部の代表として今回この場に来たが、機関部の疑問としては一つさね・・・明確な武装を持たない武蔵が聖連と敵対した時どうやって対処するんだ?」

 

直政の前に『射出許可』と書かれた表示枠が出され、

 

「接続!」

 

言葉と共に直政が左の拳を振り落とし、表示枠を割り、直後、轟音と共に直政の背後に十メートル越えの重武神が落ちてきた

 

「重武神「地摺朱雀」、昔戦場になった実家付近で拾った武神の寄せ集め。ちゃんと十トンクラスで、あたしの右手で遠隔操作できる可愛い奴さ。装甲は薄いが、他国の重武神にも引けは取らない。武神を相手にサシでやり合える奴なんか限られてるが、今の武蔵にそれができる奴はいるかい?」

「「・・・( ゚д゚)」」

 

皆が黙った。

正純も、これを見て、フツーは無理だろ・・・なんて思ったが、皆が武神を見る中、一人、康景が直政を見て、

 

「お前、なんだかノリノリだなぁ」

 

呑気そうに言った。

 

*******

 

康景は直政を見た。

 

なんだアイツ、すごいやる気だな・・・。

 

まぁ武神相手に戦えるかを証明するのに、これくらいはやらないとダメか。

直政も、こちらの視線に気づき、

 

「どうせアンタだろ、相対の相手は?・・・早くしな」

 

というアイコンタクトを送ってきた。

 

お前、ホント俺の事嫌いだな・・・!

 

武神でこちらをボコボコにする構図が、康景の脳裏に浮かんだ。

 

確かに武神相手に単独で何かできる人間は少ない。

直政の誘いに応えようとしたが、先に口を開いたのはトーリだった。

直政の問いに答えたトーリは、

 

「おし・・・じゃあシロ、行けよ」

 

トーリはシロジロを指名した。

その指名に、一同が「え?」という反応を示し点蔵が、

 

「トーリ殿?!あのぶっちゃけノリだけで殺人すら気にしなくなってる感じの直政殿相手に商人であるシロジロ殿を相対させるとは、一体どのような思惑が?!」

「何だよ点蔵、解ってるだろ?私怨だよ」

「さ、最悪で御座るな!」

「だってアイツ毎回何かある度俺の事犯人扱いするんだぜ?酷いだろ?だから酷い目に遭って今までの俺への中傷を反省してくださぁい」

「なるほど、勝てば私は自分の発言を正当化できるわけか、安い買い物だ。機関部の信頼と武神相手に戦える証明が出るうえ、馬鹿を馬鹿扱いできるんだから、安くて良い買い物になる」

 

意外にシロジロがやる気だった。

点蔵が慌ててこちらに止めるように求めてくる。

 

「や、ヤス殿、ここは一回作戦会議で戦略を練るべきでは?」

「・・・?、シロがやる気なんだから別にいいじゃないか」

「?!」

「それに点蔵、何を止める必要があるんだ?確かにアイツは金にうるさい金の亡者で、金の化身みたいなやつだけど・・・」

 

やる気になって肩を回してウォームアップを始めるシロジロを見て康景は言った。

 

「頼っても大丈夫だろう?何せ武蔵の「会計」なんだから」

「「!!」」

 

康景はトーリの指名を支持する。

康景はこの時、久しぶりに仲間を頼った。

皆が見るシロジロの横顔は、少し笑って見えた。

 

「・・・!」

 

一同は康景が他人を頼ったのを見て少し驚いたが、そのやり取りを見ていた直政だけは顔色を変えて臨戦態勢に入る。

直政の雰囲気が少し変わったのを、近くにいたミトツダイラは気づいた。

 

「直政、こちらは術式の契約のためにハイディの仲介支援を用いるが、構わないな?」

「・・・jud.それがアンタの戦い方だろうから、別に構わないさね。でもシロジロ、アンタがやる気になるなんて珍しいな、会計で商人のアンタが武神相手にどんな戦い方するか、見せてほしいもんだ・・・ね!!」

 

直政が言うなり、いきなりシロジロに武神のスマッシュブローを叩き込んだ。

 

****

 

直政は地摺朱雀で速攻でケリを付けるつもりでスマッシュブローを商人に叩き込んだ。

それを見て八割方「あ、潰れたな」と感じていたが、しかし直政の攻撃は止められた。

シロジロは腕を交叉させて防御姿勢を取り、無傷だったのだ。

 

踏み込んで、腰も回してちゃんと殴ったつもりだったが・・・?

 

よく見れば、直政の攻撃は見えない壁のようなもので阻まれていた。

直政は相手の術式だと判断し、その効果がよくわからないうちは近づくのは危ない、そう思って地摺朱雀の肩に乗る。

 

「・・・いったいどんな術式さね?十トン級のパンチを防ぐなんて・・・」

「術・・・言えばそうなるか?実際はもっと簡単な金の力なんだが」

 

シロジロは説明する。

 

「私が契約している神サンクトは、稲荷系の商業の神だが、神々間のやり取りに金銭を用いることが出来る」

「それが?」

「まだわからないか?後ろを見てみろ」

 

直政はシロジロの背後、動かなくなっている警護隊の面々を見た。

 

「私は警護隊副隊長以下百五十名の警護隊としての力をレンタルしているんだ。一人あたり七十キロくらいで重量換算すると約十・五トンくらいか・・・対等に見えるか?」

「そうさね・・・だったら」

 

直政は武神に長レンチを二本装備させ、

 

「だったら勝負をしようじゃないか!」

 

直政が打撃を放った。

 

******

 

鉄がはじくような音が町に響いた。

音源は奥多摩の左舷市街地だ。

 

今、地摺朱雀が優勢に見える状況で、直政はよくわからない焦燥感に駆られていた。

 

・・・クソっ!なんだこの焦りは!?

 

武神を操り、シロジロに対して攻撃を仕掛けていく直政。

一方的に直政が仕掛けて、シロジロがその攻撃を躱し凌いでいく。

しかし、その攻撃には微かな「焦り」があった。

 

「直政・・・どうした?いったい何を焦っている?」

「・・・別に焦ってなんかないさね、アンタこそ戦闘中に無駄話するとは、随分余裕じゃあないか?」

「・・・直政、私はお前の焦りの原因を知っている」

「・・・黙れ」

 

直政がレンチをシロジロの頭上に振り落とす。

シロジロはそれを腕で防ぐ、例によって術式で直接的な衝撃は当たっていないが、人の倍以上ある武神が放つ一振りは相当な威力を持ち、流石のシロジロも一振りによる圧に苦しむ。

 

「ぐっ!」

「あたしの焦りの原因を知ってたらなんだっていうんだ、シロジロ!」

 

直政は険しい表情で眼下のシロジロを見下ろす。

シロジロはその重さに耐えながら、直政を見上げる。

 

「・・・直政、お前さっき、康景が仲間を頼るのを見てイラッと来ただろう」

「!!」

 

直政は事実を指摘され、怒るというより焦り、レンチを振り下ろした手の力を強める。

 

「・・・黙れ」

「私はさっき、康景に「頼っても大丈夫だろう」、そう言われた・・・そして、このやり取りを見ていたお前の顔が歪むのも見た」

「黙れっ!!!」

 

直政は武神にレンチを捨てさせシロジロに殴りかかった。

巨体から放たれるパンチは、相当な威力をもち、直前まで重い圧力に耐えていたシロジロを巻き込んで砂埃を立てる。

直政はシロジロに言われたことを考えていた。

 

・・・ああ、そりゃあイラッともしたさ!

 

あの馬鹿はあたしたちがどんなに助けようとしてもその手をはねのけてきた。

アイツの事をいくら心配しても、むしろアイツはこっちの事を心配する。

自分の事には踏み込ませない癖に、自分は他人の事に首を突っ込む。

そういうタイプの馬鹿さ、皆がどれだけアイツの心配をしようとアイツは自分から誰かに頼ろうなんてしなかった。

なのに、アイツはさっきシロジロを頼った。

 

こっちが康景の覚悟を問いただそうとした矢先だ。

 

これが悔しさじゃないならなんて思えば良いってんだ・・・!

 

アイツは昔から無機質な感じがあったが、昔はちゃんと笑っていた。

それがホライゾンや、アイツの師匠が死んでから笑わなくなっていった。

 

あたしはそれが悲しかった。

 

アイツが段々無機質な人形みたいになっていくのを、黙ってみるしかできなかった。

 

―――アイツを元気づけようとしたが、それでもアイツは頼ろうとはしなかった。

―――先生と無茶な特訓ばっかりして別次元の人みたいに遠くに行ってしまうのが嫌だった。

 

アイツに頼られたくて、アイツと一緒に居る時間を増やしたりもした。

 

―――なのにどんどん距離が開いていくのが悲しかった。

 

・・・アイツは一度だってあたしに頼ってなんてくれなかった。

 

自分が悔しさで暴走したことに、今さらになって気付く。

直政は武神の拳の先の、砂煙を見た。

 

もう勝負はついたさね・・・。

 

「・・・?」

 

しかし、そこには何の手応えもななかった。

砂埃が薄れていく。

そこには、シロジロは潰れること、負傷することもなく、その場に横たわっていた。

 

「・・・!」

 

シロジロの横たわっている地面の、約二畳分の広さ、深さにして一メートルほどくぼんでいた。

 

何故だ?

 

「何故だ?って顔をしているな・・・答えは簡単だ、私がこの土地を買い取ったからだ!」

「!?、正面を防御しろ!地摺朱雀!」

 

直政は正面防御で力任せに右腕で殴りつけるシロジロの攻撃を防御したが、反応が遅れたことでバランスを崩す。

地摺朱雀は後ろの家屋に倒れこむ。

背後には家屋があるが、家屋は労働力の介入に対して守りの加護がある。

 

だから破砕することは無い。

 

態勢を崩してもこちらが低い位置からカウンタースマッシュを叩き込めば、それでこの戦闘は終わる。

そう思い、直政はシロジロの動きを待った。

 

だが、次の瞬間あり得なことが起きた。

家屋が、地摺朱雀の重さによって破砕したのだ。

 

*******

 

地摺朱雀が倒れこみ、家屋の瓦礫に埋まる。

 

何でさね・・・!?

 

「なんで労働の加護で守られているはずなのに「労働」であるあたしたちを受け止めないでそのまま壊れた・・・?」

 

倒れた地摺朱雀から投げ出された直政は、頭を抱えながら半身を起こす。

その直政を前に、シロジロが立つ。

 

「簡単な答えだ・・・直政、この土地も家屋も、私が全部戦闘用に買い取ったからだ」

「馬鹿な!?ここは人口密集地だぞ?!そんなおいそれと買えるようなもんじゃあ・・・」

 

シロジロが黙って上空を指さす。

直政がその指につられて上空を見ると、武蔵から退避する人で行きかう旅客船が見えた。

 

「武蔵から退避した人間の住んでいた物件を買って、後はお前がこの土地に誘導されていることに気づかないようにした。少々汚い手も使ったが・・・これで武神相手にも戦えることは証明できただろう」

「そうか、さっきのは・・・」

 

さっきわざわざシロジロが自分に康景の事を話し始めたのはこちらの注意を逸らすためだったのか・・・。

 

「あたしもまだまださね」と直政は自嘲気味に笑う。

機関部の代表としてきたつもりが、己の問題にとらわれて目的を見失うとは。

 

直政は俯く。

しかしそれを見てシロジロが語り始めた。

 

「さっきの話だが直政、さっき頼られたのは私個人としてもすごく驚いている。アイツにどんな心境の変化があったのかは知らん・・・だがアイツが誰かを頼ろうとしたのは良い傾向だと、私は思う」

「・・・」

「でも・・・私たちがいくら心配してもアイツは人を頼らなかった。それがいきなりああなったんだから、私でも驚いた・・・私でも驚いたんだから、お前が怒るのも当然だろう」

「あ、あたしは・・・」

 

声に詰まる直政。

「あたしは別に」、と否定しようとして出来なかった。

 

「直政、もしお前にアイツに対して蟠りがあるんなら、今度アイツを殴ってやれ・・・散々心配させたんだから、それぐらいの権利はあるだろう」

「そうさね・・・原型を留めないくらいにはボコボコにしてやるさ」

 

直政は左手で目に浮かんだ涙を拭った。

その涙を、シロジロは見ないように遠くを見た。

 

武蔵と聖連の一番勝負は、武蔵側の勝利で終わった。

 

 




なんか最後シロジロが主役みたいになってた気が・・・

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