境界線上の死神   作:オウル

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今回、回想多めで過去形な文章が多いです
書いてて思ったのは先生が一番ヒロインやってるような気がしました(笑)

※修正・加筆しました


九話

逃げて 逃げて

 

逃げられなくなって

 

最後に選んだものは・・・

 

配点(終着点)

 

――――――――

 

明るみ始めた空の下、『故 塚原卜伝』と書かれた墓に寄りかかる少年がいた。

 

師匠・・・俺は・・・。

 

康景は自分以外誰もいない墓地の、自分のかつての師の墓の前にもたれかかり考えていた。

自分の事、トーリの事、ホライゾンの事、クラスの皆の事、担任の事、そして師の事。

 

十三年前、自分はホライゾンの母親に拾われた。

拾われてからは、自分にも家族と言えるものが出来た。

 

ホライゾンとその母親。

 

笑えば笑い返してくれる家族が居て、悲しめば悲しんでくれる家族が居る、そんな当たり前な事が嬉しくて嬉しくてしょうがなかったのを覚えている。

当時は名前が無かったので付けてもらったのだが、それが何故だかわからないが「義伊」だったので、「義伊・アリアダスト」なんて変な名前になった。

聞けばホライゾンの父親は松平元信という松平の君主で、その襲名先の息子である「結城秀康」の幼名から取ったらしい。

 

それでも元信公とは二、三度しか会ったことが無かったせいで、あまり元信を父親だと思ったことは無かったが・・・。

 

友達もその頃にできた。

 

葵・トーリという馬鹿と、その姉である馬鹿、巫女の馬鹿に忍者の馬鹿・・・馬鹿ばっかだな

 

馬鹿に囲まれた日常も、今にして思えば幸福だったのかもしれない。

 

それでも、何にでも終わりがあるように、終わりは等しく訪れる。

ホライゾンの母親が公主隠しで消え、その後ホライゾンも事故で亡くなった。

 

しかもその死の原因が友人であるトーリと喧嘩して、逃げた先で父親である元信公の馬車に轢かれたことが原因だと聞かされた時には頭がどうにかなりそうだった。

もちろんトーリを憎んだし、元信公も恨んだ。一度トーリを殴って殺しかけたこともあった。

それでも結局、誰かを憎んでも、恨んでも失ったものは帰ってこない、その現実を頭で理解した時俺はアイツを「赦し」た。

 

しかし、「赦し」たが、「許し」たわけではない。

 

トーリがもしその事を罪だと思っているなら、その罪が許されるのはアイツがその事実と向き合った時だ。

アイツがもし自分を許したのなら、その時は俺もアイツを許す。

 

そういう風に、あの時は約束したが、トーリはあの時の言葉を覚えているだろうか・・・?

 

トーリに悪意があったわけでも、元信公に悪意があったわけでもない。あれは偶然が重なった「結果」なのだ。

頭でそう自分に言い聞かした

 

それでも当時の俺は、トーリに言ったのにも関わらず自分で向き合えていなかった。

何とも滑稽な話である。

 

現実に向き合えず俺はただ毎日を虚しく過ごした。

 

「師匠、貴女に出会ったのもその頃でしたね・・・」

 

康景は自分の背後の墓に向かって呟いた。

 

*******

 

自分は今後何を思って生きていけばいいのかわからず下を向いて歩いているとき、ある酔っ払いが目の前でゲェゲェ吐いていたのを見た。

それが最初の師匠である塚原卜伝との出会いだった。今にして思えば最低な出会い方もあったものである。

 

とりあえず吐いているその人に、ちょうど買ったはいいが飲めずに持て余していた「カレーサイダー梅干し味」なるジュースを渡し、

 

「んぁ?ああ、ありがとう見知らぬ少年、助かるよ・・・オロロロロ」

 

手渡した飲み物を水だとでも思ったのか、その人物は「カレーサイダー梅干し味」を一気飲みして結局吐いた。

 

「くっそぅ・・・こんな少年に毒を盛られるとは・・・やりおるな少年」

「あ、いえ、こういう時は胃の中の物全部吐いた方が良いって、酒井さんが言ってたので・・・」

「しかも善意でやっただと・・・!?・・・あのジジィ余計な事を・・・」

 

正確には酒井学長ではなく、酔いつぶれた学長を介抱していた"武蔵"さんが言ったことだが、その時は説明が面倒だったのでそこは省いた。

 

「まぁ吐いたおかげで楽になったし、少年には何か「礼」をしないとねぇ」

「いや、別にいいですよ(酔っ払いの世話になりたくないし)、自分はこれで」

「いやぁ少年には何か「礼」をしないとねぇ!」

「(何故二度言った?)」

 

その後はその人物は俺を無理やり自分の家に連れ込んだ。

誘拐でもされたのか、「やめて!乱暴する気なんでしょう?エ(ry」みたいな展開にでもなるのかと思ったが、

その人物は何かをするわけでもなく、

 

「少年は何か得意な事とか趣味はあるかい?」

「はあ・・・特には・・・強いて言えば読書ですかね?」

「(読書だと?!・・・くっ!・・・それでは私の阿保さが露呈してしまうではないか・・・!)」

「?」

「た、確かに読書も悪くないけど、身体を動かすのも悪くないぞ少年!!」

 

何か誤魔化すようだったがただ自分に竹刀を渡してきた。

 

「さぁさぁカマーン」

「・・・」

 

何がしたいのかわからなかったが、とりあえずかかってこいみたいなノリだったのでとりあえず打ち込んだ。

 

しかし、こちらの攻撃をあろうことか目を閉じて全部避けオバ・・・お姉さん。

 

目を閉じてドヤァをやる顔に流石にイラッとしたので、ムキになったのを覚えている。

結局その日は一回も当てることが出来なかった。

 

「どうだい、少年よ。本を読んで頭動かすのもいいけど、頭空っぽにして身体を動かすのも悪くないだろう?」

「・・・」

 

その日はただ悔しい思いをして帰った。

その日から一週間、教導院にも行かないでその人の下に足を運んだ。

一週間、ただその人に一泡吹かせたくて、ただただ打ち込んだ。

「自分でもこんな気持ちになれるんだ」という不思議な感覚で、それでも相手には届かず、一週間後には、

 

「俺を弟子にしてください」

「?私はとっくに弟子にしてるつもりだったんだが・・・?」

 

開いた口が塞がらなかった。

 

土下座してまで頼んだというのに、これでは土下座が無駄になってしまったではないか・・・。

 

「そうそう少年、君の名を聞かせてくれないか?聞き忘れていたことを忘れていたよ、ハッハッハ」

「自分は義伊・・・義伊・アリアダストです」

「そうかいそうかい・・・私はね、塚原卜伝というしがない襲名者だよ」

 

こうして俺は塚原卜伝の弟子になった。

 

******

 

後から聞いた話だが、師匠と善鬼さんは知り合いだったらしい。

そして師匠は昔善鬼さんやホライゾンの母親に世話になったとかならなかったとかの話なので、ひょっとしたら俺に絡んできたのは善鬼さんの差し金だったのかもしれない。

 

ホント大人ってずるいよな・・・。

 

師匠の家で住み込みで剣術や体術を教えてもらってた時は本当に楽しい毎日だった。

辛くて辛くて、向き合うことが出来なかったホライゾンの事も、向き合えそうな気がその時はしていた。

 

ただまぁ師匠の悪い点を言わせてもらえば私生活がものすごいだらしなかったのがひどかった。

 

遠出から戻ってきたら脱いだ服をそのまんまにしたり、下着を出しっぱなしにしたり、風呂上がりに裸でうろついたりされるのは(性的な意味で)精神衛生上勘弁してほしかったが・・・。

 

四年目、初等部の終わりくらいの頃いつもの様に師匠の実戦形式の稽古をしているときの事だ。

師匠は何故かその日いつもの木刀での打ち合いではなく真剣で打ち合いをするという今までにしなかった事をやらせようとした。

師匠が無茶苦茶なのは日常茶飯事だったし、何より弟子に負けるような人間じゃないこともわかっていたのでその時は何の疑問もなく真剣を手に取った。

 

その日の稽古は、何か特別な感じがした。

 

こちらが切り込む様子を受け流し、華麗に捌くその顔は、とても嬉しそうだったのに、寂しくも感じた。

時間を忘れるくらいにはその時間を楽しんでいた。

 

しかしその楽しい時間もすぐに終わりが来る。

 

師匠が足払いでこちらのバランスを崩し、剣を頭上に振り落とす。

それを自分が身体を半回転させ剣を受け流し、態勢を立て直す。

つかさず踏み込んで師匠の首を狙って剣を振りぬいた。

師匠ならこれくらい何事も無かったように受け流す、それは毎度の事だったし、今回もそうだろう、そう思っていた、しかし、

 

「!?」

 

師匠は攻撃を避けるどころか、防ごうともせず、ただ剣を下した。

その予想外の事にすぐに対応できずそのまま師匠の首の動脈付近を切った。切ってしまった。

 

「なに、やってんですか!?」

「ごふっ、かはっ・・・」

 

その場に倒れこむ師匠に駆け寄った。

 

「師匠・・・!い、今すぐ手当てを・・・」

「い、いいんだ。義伊、私は・・・今私、は・・・攻撃を避ける気は、なかっ、た・・・だから、言うなれ、ば自殺だ」

「・・・は?何言ってるんですか?!」

「理由は、部、屋に手紙が置、いてある、それを読め・・・」

「(クソが!血が、血が止まらない・・・!)」

 

その時、俺は先生が何か言いたそうだったのにそれを無視して人を呼びに行った。

戻ってきたときにはもう手遅れで、既に息絶えていた。

 

その時は自分が選択した行為が間違いだと理解した。

 

師匠との最後の会話になんかしたくなかった、それだけだったのに・・・。

 

師匠の最後の台詞も聞かなかったことに後悔して、ただ師匠の屍を抱いて泣いた。

 

*******

 

後に師匠の遺品整理をした際、机に遺書が置いてあった。

中身は、

 

「背景 馬鹿な弟子へ、この手紙をお前が手にして読んでいるなら、私はお前の手によって殺されることになったと思うが、それは気に病むことではない。私は最初から死ぬ気で真剣での練習をお前に提案した。理由はまぁ、私の寿命の事が大きい。私はなんか知らんが不治の病とやらに侵されていたらしく、お前が私を殺さなくても、どの道死んでいたのだから、お前が気にすることではない。私はこれでも剣豪の襲名者、塚原卜伝は最後弟子の家で息を引き取るが、最後は愛した弟子の手で死にたい。それで襲名を完了する。わがままな願望だと思うが、どうか哀れな師の最初で最後の頼みだと思って聞いて、許してくれ。そしてお前を深く傷つけてしまう結果を選んでしまった事を、最後に深く詫びよう。お前との生活も、中々に悪くなかったぞ。馬鹿な師から愛する弟子へ」

 

勝手すぎるよ、師匠・・・。 

 

この手紙を読んで、また泣いた。

師匠が病だったことも知らなかったし、師匠がどんな気持ちでこれを書いたかなんて、今となっては知ることもできない。

あの日以来自分の後悔が一度たりとも晴れたことは無かった。

師匠を自らが殺めてしまった事もあるが、一番後悔してるのはやはり、

 

師匠の最後の台詞・・・師匠、あの時なんて言おうとしたんですか?

 

いくら考えても、その答えは出てこなかった。

空を見上げる康景は、初めてそこで朝になっていることに気付く。

 

もう朝か・・・

 

あれ以来、後悔したくないから、血反吐吐いてまでやってきた。

 

それなのに、結局ホライゾンを助けることが出来なかった。

ホライゾンを救う、その気であの時K.P.A.Italiaの連中は皆殺すつもりでいたのに、結局は止められなかった。

 

あの時俺はホライゾンを助ける事と、武蔵の皆に与える影響を天秤にかけてしまい、結局は皆の事を考えてしまった・・・。

 

後悔したくないのに、結局は後悔することを選んだ自分は、矛盾している。

そんな考えが頭の中を過ぎり、自分が何をしたかったなんて結局は出ないままだった。

もう朝だ、このまま順当にいけばホライゾンは殺されてしまう。

 

矛盾が頭の中をぐるぐるぐる回ってる間に、もう完璧に空は明るかった

 

******

 

「おうおう、家にいないと思ったらやっぱりここかぁ、探したわ」

「先生・・・」

 

康景が顔を上げた目の前に、担任で今の師匠のオリオトライがそこにいた。

オリオトライは康景の隣に座る。

 

「よっこらせ・・・っと、いやここって結構穴場ね、ここで飲んだら結構落ち着いて飲めそうよね」

「・・・先生がここで飲んだら死者も眼を覚ましそうですね(うるさくて)」

「なによその言い方、まるで先生が飲んだらここでお祈りの儀式でもして死者復活までやりかねないみたいな言い方じゃない」

「いや、別にそこまでは言って無いですけど、先生って結構酔ったら見境ないというか・・・(そう言ったんですよ)」

 

会話が途切れ、静寂があたりを包む。

何だか不思議と気まずい感は特になかった。

 

むしろ逆に、居心地は良かった。

 

「先生?」

「なぁに?」

「俺・・・どうすればよかったんですかね?」

「んー・・・それ聞いちゃうか・・・」

 

オリオトライは腰を上げ、康景の正面に立つ。

オリオトライは康景を見下ろし、答える。

 

「アンタはね・・・なんかそうやって色々悩んでるんだろうけど、アンタに剣教えてる私から見るとね、アンタは何も考えていないようにしか見えないよ」

「・・・・・・え?」

「私がアンタに色々無茶な条件課して、無茶な練習させてきた自覚はあるけれども」

「・・・(あるんかい)」

「アンタは結局全部与えた課題を乗り越えてやってきた・・・最初はそれが嬉しくもあったけど、でも段々思うようになったの」

 

オリオトライは悲し気な目をして、空を見上げて言った。

 

「アンタは強くなりたいとか、何か成し遂げたいとかじゃなくてただ考えたくない事から逃げてる・・・そうとしか思えないのよね」

「あ、え?・・・お・・・お、れ・・・・は」

 

康景は口を開こうとしても、肝心の否定の声を出すことが出来なかった。

 

・・・・違う、違う違う違う違う違う違う違うチガウチガウ・・・!!!!

 

康景は混乱した頭の中の肯定しそうになった自分を否定した。

全身から汗が噴き出る。

 

しかし頭の中の考えを否定しようとして、それでも否定しきれなくなった。

頭が真っ白になる。

 

・・・いや、ほんとは・・・俺にもわかっていたんだ。

 

元信公がホライゾンの正体を告げ、トーリがその場から走ったあの時、自分は躊躇った。

どうすべきか迷ったわけではない。

ホントはただ、ホライゾンを助けに行くのが怖かった。

また自分が失うことになるんじゃないかと思うと、足が前に出なかった。

冷静に考えれば己があの時本気で走っていればトーリに追いつくのは容易かったのに、

 

・・・結局それをしなかったのは、ただあの現場に行きたくなかっただけだ。

 

自分があの現場に即座に行けなかったのは、また失うのが怖かっただけだ・・・。

 

その事を理解して康景は空を見上げた。

 

「本当に、本当に・・・何やってたんでしょうね、この十年間・・・」

 

そうだ、自分が今まで死ぬような思いでやってこれたのは、結局は何もしたくなかったからだ・

死ぬ気で頭を空っぽにしてればホライゾンの事も、師匠の事も考えずに済んだ。

いつしか自分が考える事から逃げてることにすら逃げていた。

 

あぁ・・・なんだ、逃げてただけじゃないか・・・。

 

自分がやってきたことの無意味さと、愚かさを噛みしめる。

 

「・・・前さ、アンタ話してくれたじゃない、自分は前の師匠の最後の言葉がわからなくて後悔してるって」

「・・・」

「私は塚原卜伝じゃあないから、確かな事は言えないけど、私が同じ立場だったら・・・」

 

オリオトライはこちらに向き直り

 

「『生きろ』って言うと思うよ」

「・・・!」

 

康景の中で、なにかが変わった。

師匠が、自分の背中を押してくれている気がした。

 

・・・師匠、俺、前向いて生きていいんでしょうか?

 

「先生・・・まだ、間に合いますかね?」

「遅すぎるなんてことはないんじゃない?・・・皆待ってるわよ」

「先生」

「何?」

「ありがとう」

 

康景は何かを決意した表情でその場を後にする

その後姿を見送った担任は

 

「いやぁ、不肖の弟子を持つと苦労しますなぁ」

 

目の前の墓に向かってただ微笑んで言った

 

 




感想、評価を実際にもらうとなんか嬉しいですねぇ
ありがてぇ・・・ありがてぇ・・・(´;ω;`)

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