祭りの後は誰も彼もが虚しく思う
今回の祭りで残ったものは何か
配点(静寂)
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次世代と旧世代、若い影と老いた影が剣戟を響かせる音を、皆が通神を通して聞いた。
「きっとこの戦いが始まりになるんだろう・・・行け本多忠勝、人々に末世という問題をどうにかせざるを得ない状況にするために、お前の忠義心が全国レベルでどの程度の偏差値か見せてみろ!!」
「応よ・・・!!」
宗茂は元信の台詞に答えるのを聞いた。
旧派式の聖術で加速し、背後を取ろうとするが回り込むようにして一撃を放ってくる。
「速ぇなぁ!もっと速度上がるか?」
「上がりますとも!」
聖術には制限はないが、宗茂は術の反動を考慮して設定してはいない。
術式のレベルによっては反動が内臓や筋肉、骨にまで影響する。
だから重ね掛けで使ったりすることは結構危険だったりするのだが、
この相手にそんなことを気にしている余裕はない・・・!
速く動く宗茂に対し、忠勝の動きは緩やかだった。
悲嘆の怠惰の超過駆動には時間がかかる。
その時間を稼ぐためには相手をどうにかしなければならない。
だから、
「結べ!悲嘆の怠惰!」
放ったのは悲嘆の怠惰の通常駆動
悲嘆の怠惰は蜻蛉切同様、刃に対象を映しこむことで攻撃する
放たれた以上、宗茂のような高速移動ができなければ避けようがないのだが
「!?」
悲嘆の怠惰の通常駆動は起こらなかった
理由は簡単である
悲嘆の怠惰の刃を、蜻蛉切の刃で映したのだ
悲嘆の怠惰は映しこんだものをそぎ落とす。だが蜻蛉切の刃を鏡にすることによって悲嘆の怠惰は自分も攻撃対象になると判断し、攻撃を停止する
理由は簡単だが、相手の攻撃に合わせて槍の穂先に刃を映しこむなんてことを少なくとも宗茂は出来ない
相手の高等技術に、技術の差を感じる
この相手には速さは通じない
故に宗茂がとったのは、忠勝のバックハンドでの薙ぎ払いに対し槍の穂先に乗る事だった
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良い判断だ・・・
忠勝は宗茂の選択に感心した
槍の上に立つ宗茂は羽の様に軽かった
そのままこちらの背後に回るつもりだろう
驚異のバランス能力だ。だが
「そんなよくある手が今の世に通じると思うか?」
忠勝は槍の横払いを力づくで下に落とした
急な動きに宗茂の身体が一瞬宙に浮く
その一瞬を逃さず、宙に居る宗茂を割断する
「結べ!蜻蛉切!」
だが、宗茂は割断されなかった
宗茂が空中を足場にしてこちらの頭上を大きく通り過ぎた
背後に回られ、宗茂がこちらに接近する
石突で対処するが、感触は小さい
だから忠勝は
「結び割れ、蜻蛉切」
前方、忠勝にとっての北側を割断した
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宗茂は奇妙な結果を見てた
こちらは空中を足場にし忠勝の背後へ回り、背中から悲嘆の怠惰を突いた
しかし、当たらなかった
それどころか、忠勝は十五メートルほど先に居た
今のは?
「我にとっての北側を割断した。出力喰うからやりたくなかったんだがな」
つまり相手は、自分にとっての方角という事象を割断してその割断した分前方に移動した
なんて無茶苦茶な・・・!
「結べ!」
忠勝はこちらをすでに蜻蛉切の穂先に映していた
それから逃れるべく、宗茂はまた加速し背後を取ろうとした
「っ!」
高速で動く宗茂が忠勝から視線を動かさずに移動したとき
前方に壁がありそれにぶつかった
前進に衝撃が走り、落下する
「囲みます!」
自動人形だ
重力制御でこちらの動きを封じたのだ
更に追い打ちをかけるように、自分の周りに囲うように壁が形成され
「結べ!」
刃が壁を貫通してこちらを刃に映した
周囲に壁が形成されてしまった以上、どこにも逃げられない
宗茂がとった行動は
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忠勝はドーム状になった壁に槍を刺し割断した
しかし感触に違和感を感じる
「すいません、差し出がましい真似を・・・」
「鎧の自衛機能だろ、気にすんな」
「やはり劣ったモノは苦労しますね」
鹿角が皮肉っぽく言った時、悲嘆の怠惰の超過駆動の砲塔が形成された
砲塔は既に地脈炉の方を向いていた
「やはり忠勝様しくじりましたか」
「おい!やはりってなんだやはりって」
壁面が崩れる中で、宗茂に蜻蛉切の刃が刺さっていることに気付いた
宗茂がとった行動は刃を自分に突き刺すことで刃に映る自分を隠したのだ
血の気を失い気絶している宗茂
右胸をほぼ貫通するが、心臓は無事だろう
「忠勝様、超過駆動が射出されました・・・まだ収束していないようですが、先程の様に方角を割断されてみては?」
「いや、もう上位駆動は撃てねぇ」
「ちっ」
「今舌打ちしやがったな!?」
彼女はわざとらしく溜息をつき
「あとは解っていますね」とだけ言い、忠勝に舌を出した
その舌には青い珠が埋め込まれており
忠勝は鹿角の身体を寄せてその珠を歯で引き抜いた
「女房の指輪を魂にしたら、口うるさいのがそのまんま移っちまってよ・・・口が悪いのなんのって」
皮肉そうに、寂しそうにつぶやいた
「現在、当自動人形は余力状態で動作中です。御用があれば急ぎお願いします」
「・・・じゃあ鹿角が残した命令通り頼むわ」
「・・・来ます!」
自動人形が一度経験した砲塔の気配を察知し警告し
それに対し忠勝は自動人形を宙に放った
自動人形は悲嘆の怠惰の超過駆動をその身で受け自分に一度飲ませた
「忠勝様・・・」
「・・・結べ!蜻蛉切!」
自動人形は小さく笑い、割断された
忠勝は、自動人形に搔き毟りを飲ませた後、それごと割断した
そして超過駆動を放った悲嘆の怠惰の搔き毟りは狙いである地脈炉から大きく外れて四方に霧散した
******
正純は青雷亭に向かっていた・・・ホライゾンの手を引いて
三河から発せられていた光は消え、地鳴りのような音も止んでいた
「正純様?寒くはないのですか?」
「いいから・・・!」
ホライゾンに自分の上着を掛け、周囲から目立たないようにし
自らも急ぎ足で青雷亭に向かった
正純は今日一日で多くの事を知り、いや知りすぎて今後どうすべきなのか迷っていた
後悔通り、大罪武装、葵の事、康景の事・・・そしてP01-sはホライゾンだという事
ホライゾン・・・元信公の嫡子で康景の姉・・・・そして葵に殺されたと父たちはそう言っていたが・・・
正直そのことに関してはまだ正確な事は解らない
だからこのことを含め女店主に相談しようと考えた
早歩きの中、ホライゾンは足を止めた
「P01-sは・・・P01-sではないのですね」
「それは・・・」
「P01-sはホライゾンだとして、ホライゾンはこれから、どうすべきなんでしょうか」
その問に正純は答える事が出来なかった
正純にとって、彼女は軽食屋のバイトをしている自動人形の友人だ
だが実際はホライゾン・アリアダストという三河頭首松平元信の娘で、自動人形にされた少女である
どう言おうか迷っていると、不意に辺りが暗くなった
あれは・・・
三河警護隊の先行艦が武蔵直上に差し掛かった
武蔵の艦外放送の呼びかけがあってもこちらに接近する先行艦
「当艦はこれより当地聖連代表の要請によって大罪武装の確保に向かいます。武蔵側の協力もお願いします」
この放送と共に、艦から無数の影が下りてきた
第一陣、二陣、三陣と、次々に降りてくるその影は、正純がざっと数えてだけでも百人は下らない
これはまずい・・・
そう感じた正純はホライゾンの手を引いて逃げようとした
そう思ったのか、何故そう考えたのか正純この時解らなかった
だが、手を引いたはずのホライゾンは動かず
「正純様も、私が誰なのか、どうすべきなのか答えられませんか」
******
P01-sは、ホライゾンは思った
もっと自分がわかりやすいものであればよかった、と
軽食屋で働く自動人形など、自分の知識が浅くてもわかりやすいもので理解できた
だが現実は三河君主の娘で、大量破壊兵器で・・・
そんな存在はいったいどうすればいいのか
感情があれば肯定も否定できたかもしれないが
だがそれすらもない自分は
「P01-sは・・・ホライゾンは・・・自分をどうしようもできないのでありますね」
自分の現状をそう評価した
********
そんな事を言っている場合じゃない!
そう言おうと正純は彼女の手を引いたが
「政治家としての判断を過つな、正純」
父の声だった
「正純・・・見事な協力だ」
その言葉と共に、正純とホライゾンを確保しようとした確保部隊が慌てて
「ご協力ありがとうございました」
そして彼女の手をつかんでいた正純の手が離される
「あ」
彼女が連れていかれる
そんな時だった
「ホライゾン!」
「葵!?」
「待ってくれ!」
彼が倒れこむように走ってきた
その背後にはウルキアガ、ネシンバラ、ノリキの姿もあった
葵はP01-sがホライゾンだという確信があったのか?
昔から知っているような感じでトーリはホライゾンの名を呼んだ
「待て!近寄るな」
「武蔵の生徒会長兼総長が三河の眷属に挨拶しに来ただけだ」
「そこを通すがいい!!」
ネシンバラが言い、巨躯のウルキアガが道を開けようとする
しかし、トーリ達の動きは空から来た複数の影によって制圧された
その影はK.P.A.Italiaの隊員たちだ
巨躯であるウルキアガですら、複数人に関節を抑えられ、全員が動けなくなった
だがその中唯一拘束が軽かったノリキが拘束を払い隊長格に高速の打撃を叩き込むが
「軽い打撃だな!!」
その一言と共に乗り気に一撃を叩き込んだ
上から殴りこむようにしたノリキの腹部、鳩尾をカウンターを叩き込んだことでノリキは倒れた
「来てよかった、聖連の指示によりこの場の権限を委譲してもらいたい」
「ホライゾンを連れて行く気か!?」
トーリがもがこうとする動きに、それを女隊員はトーリを押さえつけていた肩を抜く気で力を強めた
そんな中ホライゾンは
「無意味な事だと判断できます」そう言った
その言葉に全員が動きを止めた
「ホライゾンが確保されれば今回の件は無かったと判断できます。故に早急にホライゾンを確保するのが、この場に居る全員のためだと思われます」
「・・・Tes.」
ホライゾンが冷静に言ったセリフに隊長格が肯定の意を示したその時
「トーリ!!ホライゾン!!!」
自分たちの背後、青雷亭の屋根の上で剣を抜刀した康景が叫んだ
屋根から飛び降りてきた彼の顔は、鬼のような形相で降り立った
これは・・・誰だ?私の知る康景は・・・こんな顔をしていたか?
一瞬、これが今まで見てきた友人には見えず、正純はそこに立つ男に恐怖した
「と、止まれ!きさm」
隊員たちも、その異様な雰囲気を出す人間に驚き静止させようとするが
その呼びかけを言い終わる前に康景は動いた
トーリを拘束していた女隊員を蹴り飛ばし、倒れこむ女隊員に刃を突き付けた
トーリは自分が解放されたことでホライゾンに近寄ろうとする
「聞けよ!ホライゾン!俺は・・・」
その様子を見ていた父がささやいたのを聞いた
「知ってるか?ホライゾン・アリアダストが元信公の馬車に轢かれた原因はな、一人の少年と喧嘩別れして逃げていたからだ・・・この少年が誰だかわかるか?」
このささやきに、正純は今日聞いたすべての出来事がつながった
駄目だ、今このやり方では誰も救われない・・・
今の葵がそれを言ってしまえば国一つの命運が変わりかねない、とにかく今そのやり方では駄目だ
そう思った正純はトーリを殴った。
トーリは転倒し、隊員一人を殺そうとする康景に、
「康景!!駄目だ!!」
自分の呼びかけに応じるとは思わなかったが、康景は隊員の首元に刃を突き立てる寸前で動きを止めた。
ゆっくりと振り返る康景の目は、すべてを憎み拒絶し絶望して死んでいったような死人、そんな目をしていた。
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「大罪武装の超過駆動を防ぐとは・・・いったいどれほどの技量を?」
「別に、鹿角に飲ませて割っただけだ」
そう話すのは、宗茂と忠勝が戦った場所で、話しているのは義腕の少女立花誾と忠勝だった
「忠勝様は避難は?」
「この様だ、嬢ちゃんはそれと我の二人を運べるのか?」
忠勝の足元にはおびただしい血の量があった。見れば忠勝の足も抉れている箇所があった
超過駆動の搔き毟りを、躱したとはいえ至近距離だったのだ。無事で終わるはずがない
「申し訳ございません・・・」
「気にすんな・・・我が仕事を果たした結果だ」
軽い感じで答える忠勝だったが
「もし・・・もしアンタが殿の「世界に対する末世という課題について」ズルしたいんっだったら、相手になるぜ」
「御冗談を、戦闘は宗茂様ので十分です」
そう言って頭を下げる誾に、忠勝は蜻蛉切を渡した
「これは?」
「もし我の勝ち逃げに納得いかねぇならこれを二代に渡しな、それでようやくそっちのボウズと対等にやれるだろう」
「・・・Tes.」
「あと一つ、今年の武蔵にはヤベェのが一人いる。そいつは多分無いとは思うが、ひょっとしたら再戦とか、そういうの関係なしに殺しにかかってくるかもしれねぇ」
「・・・?、Tes?」
その時誾はその警告が何を意味するのかよくわかっていなかったが、宗茂を担ぎその場を後にした
残された忠勝は背後新名古屋城に身体を向ける
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元信は自分の下に血を滴らせながら歩いてくる忠勝を見た
「おーい先生、我とコイツも中に居れてくれよ」
忠勝が左手に青珠を持ってこちらに寄ってきた
「今夜は月見酒にはいい夜だな」
「これが課外授業じゃなくて国語の授業だったら一句読ませてたぞ・・・あ、そういえば忠勝国語の成績悪かったな・・・悪い」
「先生、わざとだろ・・・」
空にある二つの月を見上げ
「なぁ、創世を叶えるの、一体誰になると思う?」
「知るかよ、我頭悪いんだから・・・先生はどう思ってるんだよ」
「先生?先生はそうだなぁ・・・」
言って元信は二人の子供を思い浮かべた
ホライゾンと義伊・・・今は康景か・・・
末世の性質上、その詳しい内容は話せないため今回のような事態になってしまったが
「先生は、教材を配っただけだ。それを使うか使わないかも皆次第だ・・・でもまぁ」
「?」
「できる事なら、
父としてそれを思う
世界を救う創世を、あの二人に叶えてほしい
だが、それだけではない
天野康景、義伊・アリアダスト
あの男を自分の息子としたのにはそれなりの理由がある。
彼の実力は未知数だ。
彼なら、創世計画ではない解決法を導き出せるかもしれない。
そんな僅かな期待が己の内にあった。
彼と会ったことは少ない、たかだか数回程度だ。
それでも、初めて彼と会った時に確信したことは
・・・彼ならホライゾンを救い出せる。
そんな何の保証もない期待を胸に、元信は新名古屋城の中心に向かった。
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先生って自分の子供にはなんか不器用だよなぁ・・・。
わざわざ康景の事を息子だと公言しないのを見る限り、それは元信なりの気遣いなのかもしれない。
元信の台詞に忠勝は苦笑したが、言うと元信が怒るので内心に留めて置いた。
「これより、授業を始めまぁーすぅ!!!!」
元信の授業開始宣言と共に、新名古屋城が爆発した。
爆発の光を正面に、忠勝は薄れゆく意識の中、ただ笑った。
それが何に対する笑いだったのかは、忠勝にはもう判断できなかったが、
「酒、結局貰ってないぞ・・・先生」
そしてふと、自分の傍らに気配を感じた
酒の入った猪口を差し出す彼女に
「お前・・・まだ出るの早いだろ」
差し出された酒に二つの月が映る
忠勝は昔友人たちと酒を酌み交わしたのを思いだし、猪口を口に近づける。
酒は血の味がした。
「!」
意識がハッキリし、我に返るとそこには三河の何もない町が広がるだけだ
猪口を持っていた左手には、猪口ではなく青の珠があった
忠勝はそれを月に掲げ
「昔こう言ったら笑ったよな、お前。「見ろよ、月はもう二つに割断されてんだぜ」って」
言う
「そしたらお前言ったな、「それは一緒になりたいっていうプロポーズですか」って」
笑い、自分の連れだった女の顔を思い浮かべ
「もう分かたれることはねぇよ・・・なぁ」
忠勝は光に包まれた
********
三河は、新名古屋城を中心に消滅し、その爆発の光は、奥州から九州まで確認された
大爆発による大気運動によって局地的な雨が降ったことで、爆発の粉塵は狭い範囲に押しとどめられた
汚れを含んだ雨の中、康景はただ佇んでいる
「お、おい・・・康景?」
正純は康景に駆け寄り、肩を掴もうとするがその手は康景の手によって払われる
「触るな―――・・・一人にしてくれ」
よろよろと歩き出す康景は、力なくその場に座り込むトーリに声を掛けることもなくどこかへ去った
正純はその後姿を、追う事が出来なかった
祭りの後に残った静寂が、正純にはものすごく痛く感じられた
そしてホライゾンは正式に三河君主松平元信の嫡子と認められ、三河消失の責任を取るため、そして大罪武装の抽出のために引責自害が決定した
予定時間は明日夕方六時だ
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康景は力のない足取りで歩いた
「俺は・・・俺・・・は・・・」
自分では誰も救えない
そんな絶望感が、己の中を駆け巡る
ホライゾンや、師匠を失った時の事を思い出し、泣き出しそうな気分にもなった
そして大爆発によって生じた局地的な雨の中、康景は無意識の内にかつての師の墓の前に立っていた
「師匠・・・俺、どうすればいいんですかね」
塚原卜伝
自分が殺めてしまった師の墓の前に、康景は座り込んだ
一巻上がこれにて終わりです
八話でここって話数的に中途半端感が・・・(汗)