コードギアス 黒百合の姫   作:電源式

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 本作に関して特筆すべき注意点は下記の通りです。

 ・これは逆行憑依系ルルーシュですか?
  いいえ、毒舌蹂躙系オリーシュです。
 ・キャラ崩壊や魔改造が発生します。
 ・独自設定、独自解釈、TS要素、百合要素が含まれます。
 ・アニメ以外、特に小説版の設定が流用されています。
 ・ゼロレクイエムに否定的です。
 ・読む人によっては不快感を覚える程度のアンチ・ヘイト表現が含まれます。

 長々となりましたが、以上の点を踏まえた上でご覧いただければ幸いです。
 至らぬ点が多々あるとは思いますが、何卒よろしくお願い致します。



第1部 あの夏の日に聞いた蝉の声を僕達は忘れない
第1話


 

 トクン……トクン……トクン……。

 

 一定の間隔で刻まれる鼓動。

 静寂の中、嫌でも聞こえてくる自らの心音。

 それがこの世界に存在する唯一の音源だった。

 

 ここには何もない。

 いや、少し語弊があるか。少なくとも、こうして思考する自我を確立している自分と、そしてそれ以外にもう一つだけ存在を許されているモノがある。

 

 闇。

 

 気付いた時、俺は深い闇の底に居た。

 見渡す限りの全てが、どこまでも果てしなく、ただただ黒く染まっている。

 そう、一片の光もない。

 天と地の区別もなく、重力といった物理法則や時間の概念も、ここには存在していないように思えた。

 果たして自分が今、立っているのか座っているのか、それとも横になっているか、はたまた浮かんでいるのかすら定かではない。

 そんな世界で俺は只一人、膝を抱えて眠りに就く。

 

 あの瞬間から一体どれだけの時が経過したのだろうか?

 

 残念ながら分からない。

 そもそもこの世界はどこで、俺はいつから、どうしてここに存在しているのだろう。

 闇に溶け込みすぎたとでも言うのか、思考が正常に機能していない。

 辛うじて疑問を抱くことは可能だったが、考えを上手く纏めることが出来ず、推論さえ構築できないのが現状だった。

 抗えば得体の知れない何かに阻害され、侵食されるような感覚を味わい、ひどく気分が悪くなる。もちろん最初は受け入れることができず、幾度となく抵抗を試みた。だけど結果的にそれが無意味だと悟り、諦め、答えのでない無意味な自問だけを繰り返した。

 

 ふと彼女の言葉を思い出す。

 王の力はお前を孤独にする、か。

 これが力を手に入れ、行使した代償であり、また罪に対する罰だというのなら異存はない。

 望まれるがままに、この孤独な闇の中で贖罪に身を委ねよう。

 否定したはずの変化なき世界、停滞した時が檻というのも皮肉が効いている。

 

 ただ、かつて求めた安息がここには存在する。

 如何なる害意にも脅える必要はない。

 つまり周囲を警戒して神経をすり減らす必要がない。

 何かを否定する必要も、抗う必要も、戦う必要もない。

 誰かを喜ばすことは出来ないが、誰かを悲しませることもない。

 誰かを傷付けることも、自分が傷付くこともない。

 痛みを感じることなく、怠惰に惰眠をむさぼり続けるだけの日々。

 ある意味で平穏。

 自分だけに優しい世界。

 つまらないと感じる一方で、喜び受け入れている自分が居るのも確か。

 思考さえも束縛する闇は、堅牢な檻であると同時に、安らぎを与えてくれる揺りかごなのかも知れない。

 さて、この辺で取り留めのない思考は止めよう。

 最早回数を憶えていないほど、同じ思考を繰り返したはずだ。

 まあその記憶すら曖昧なのだが……。

 

 半瞬、思考に一層靄が掛かり、感覚が失われ、意識が遠退いていく。

 いつもと変わらない突然の睡魔の誘い。

 まるで亡者が手招く奈落へと落ちていくような錯覚を覚えた。

 そろそろ慣れてもいいと思うが、一向に慣れる気配はない。

 それどころか回を重ねる毎に不快感は増しているように思える。

 ともすれば、この嫌がらせじみた誘いも罰の一環なのだろう。

 そう考えると思わず苦笑が浮かぶ。

 その瞬間、俺の意識は完全に途切れた。

 

 

 

 前回の覚醒から、どれだけの時が経過したのだろうか?

 

 眠りが突然なら、当然覚醒もまた俺の意思とは関係なく不意にやって来る。

 意識を取り戻すとほぼ同時、反射的に無意味な疑問を抱く。

 当然答えが出るはずもなく、出たところで何かが変わるわけでもない。二重の意味で無意味な事だと理解していても、一度身についた習慣はなかなか変えられそうもなかった。

 瞼を開く。と言っても目の前に広がるのは変わる事のない闇だけであり、開けているのか閉じているのか判断に困るのだが……。

 ただ今回の目覚めは、いつもと違っていた。

 この闇の世界に訪れた初めての変化。

 

『…………っ……』

 

 覚醒する直前、誰かの声が聞こえた気がした。

 それが誰の声なのかは分からない。

 遂に精神が壊れて幻聴が聞こえ始めただけ、という可能性が無いわけではないが、どういう訳か俺はその声に懐かしさや親しみを感じた。

 そう感じるのだから、少なくとも知人の声に似ていたのだろう。

 

 一体誰の声なのだろうか?

 

 声の主に興味を抱き、機能しない思考を無理矢理働かせる。

 刹那、ノイズが走り、激しい不快感が襲ってきた。

 触れてはいけない何かに触れてしまったのかも知れない。

 気味の悪い、形容し難い何かが、意思を持って絡み付いてくる。

 這い上がってくる。

 呑み込まれていく。

 慌てて思考を停止させ、凍結を試みるが時既に遅かった。

 

 侵食、同化、それとも消滅か。

 自分の身に何が起こっているのか理解は出来ない。

 だが本能は叫んでいた。

 

 怖い、と恐怖し。

 気持ち悪い、と嫌悪し。

 嫌だ、と拒絶し。

 助けてくれ、と懇願する。

 

 久しく忘れていた感情。

 死してなお、生を求める弱い心。

 

 決して救いの手が差し伸べられる事はないだろう。

 この世界に存在するのは己が只一人。

 それでも藻掻き、虚空へと手を伸ばす。

 無我夢中で手を伸ばす。

 

 何かが掴めると期待していた訳じゃない。

 明確に何かを求めていた訳じゃない。

 それこそ、そんな余裕は微塵もなかった。

 しかし結果的に伸ばした指先が何かに触れた。

 この世界で目覚めて、初めて自分以外の存在に触れた。

 

 驚きを抱き、やがて安堵へと変わる。

 それが何かは分からない。

 藁にも縋るとはこういう事を言うのかも知れない。

 

 儚い希望か。

 永久の絶望か。

 

 嗚呼、どちらでも構わない。

 俺は躊躇うことなく、それを掴み取る。

 

 半瞬、紅き凶鳥が闇の世界に羽ばたいた。

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

「そう、やはりキミは眠りから目覚めるんだね。

 かつて『ゼロ』を名乗りながら、無が齎す安寧を拒み、抗い続ける道を選ぶ。

 

 だけど気付いているのかな?

 どれだけ遠く羽ばたいたとしても、その呪われた運命……『王』の呪縛からは逃れられないという事実に。

 

 切に願うよ。

 キミがこれ以上、壊れてしまわないように」

 

 


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