落ちこぼれ兵士は殺人鬼!?   作:ゆーぼーさん

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一年ぶりの投稿です。もう1話を投稿してから随分と時間が経ち、そろそろ終わってもいい頃なんですがまだ続きます。投稿ペースが戻らなくてごめんなさい。なるべく早く投稿していくので、引き続き応援していただけたら嬉しいです。


37話 責任

罠だった!全ては俺を秘密基地から引き離すよう、仕組まれていたんだ!

 

「戻らなければ…!」

俺は拘束した男を置いて、秘密基地へ戻ろうとした。だが、

「無駄だッ!エメルが少し強かろうと問題ない、それだけの戦力をあちらへ回した!それに見ろ!アジトからは離れている。貴様ほどの男が走っても間に合わない!」

男の顔は、青ざめていたが勝利を確信していた。俺は辺りを見渡した。そこには、貧民街で初めて見る光景が広がっていた。

───必死に追いかけっこしてたから、気づかなかったか。クソッ!

俺にはそれが悔しかった。

「例え間に合わなくても、行くしかないだろう!?」

俺の頭には血が上っていた。そんな俺を見て彼は、狂気に満ちた笑い声をあげた。

「滑稽だよ!アハハハハ!」

「黙れェッ!」

 

「それに、お前はここで死ぬのだから」

 

「ッ!?」

男が不敵な笑みを浮かべると同時に、建物の屋根に複数人の男達がよじ登ってきた。

「これは!?」

「お前もここに誘き出されたんだよ」

男が合図を出すと、彼らは一斉に俺に飛びかかってきた。

「貴様等!」

俺はそう叫ぶと同時に、ポーチから鉈を取り出した。鉈は俺の感情に呼応するように、どす黒いオーラを放ちながら不気味に光った。

 

 

 

 

 

 

「皆んな私の合図があるまで動くな!」

入り口付近の騒がしさを感じとった避難者達が、一斉に入り口付近へ集まる。そこには凶器を持った男達が、ぞろぞろといるからパニックだ。

ある者は悲鳴をあげた。そして、ある者は泣き出した。当然だ。誰も今このタイミングでセナル教が襲ってくるとは思わなかった。今日はクリスマスで、楽しい日になるはずだったから。

「皆んな落ち着け!私がなんとかする!」

私がそういうと、避難者達は徐々に落ち着きを取り戻した。私を信頼しているのだな。そいつに応えられるか──

複数人の男達と私が睨み合う。

──不幸だ…!私は武器を持っていない。今ここで一斉に斬りかかられたら対処できない。だが…!

私は男達の視線を覗いた。どこかキョロキョロしている。何かを探しているのか?さては相手方、何か警戒しているな?中々攻撃してこない。

あいにくだが、ここには警戒するに足る物はない。だがしかし、無い物を怖がってくれているとは好都合だ。

私はこの時点で、男達がいつか隙を晒すことを確信した。そして、それが起こるのは意外にも早かった。

「うわぁぁあ!!」

まだ小さい子供のジョージが、緊迫した空間に負けて突然大きな悲鳴をあげた。男達は一斉にそちらの方へ向いた。

「警戒し過ぎだ、全く!」

私はそのチャンスを逃さなかった。1人の男からナイフを抜き取り、それを男の両脚に刺した。刺された男が苦しげな声をあげて床に倒れると痛みで暴れまわった。

「しまっ…」

1人の男が咄嗟に口走る。彼が私の対応をするよりも早く、私は彼の胸にナイフを突き刺した。

ナイフを抜き取り、さっきのリーダーらしき男の方を睨みつける。男の目が左右に揺れたかと思ったそのとき、男と左右に構えていた者達が一気に私目掛けて飛びかかる。

私は後方へ避けて攻撃をかわすと、相手に隙を晒さぬよう素早く構えた。

──悔しいが、連携が達者だ。だが、敵はあと5人。……いけるか?いや、いくしかない!あいつらを逃すなら、少しでも私に気が向いた今がチャンスだ。

「お前たち、今だ!」

私が大声で叫ぶと、避難者達は一瞬躊躇したものの出口へ向かって走りだした。

リーダーの男はそれを見て、少し青ざめた表情をした。

「クッ…!殺せ!外へ出ようとする者全員殺してしまえ!」

凶器を持った男達が無防備な人間に凶器を向ける。

「それを待っていた!」

私は凶器を振り下ろそうとする者のアキレス腱を両足同時に斬ると、首を掴んで床に身体を叩きつけた。

「ッ!?」

リーダーの男が勢いよく振り向く。

──やはりか。こいつら、個々の動きに臨機応変さが足りない。仲間と同じ動きしかできないわけだ。

男達は避難者の対処が先か、私の対処が先かを迷った。私はそのチャンスを逃さなかった。1番近くの敵の横へ潜り込むようにして近づくと、そのまま脇腹へナイフを突き刺し、力の抜けた手のひらから剣を抜き取った。男はあぅっと苦しそうな声をあげて倒れた。

男達はようやく優先順位を絞れたようだ。だが遅い!

私は流れるように敵の懐に潜り込むと喉を切り裂いた。すると、何者かが背後へ回り込む足音がした。

次の瞬間、背後に回った男は私を斬りつけようとした。それを右側に体をひらりと移動させて躱し、相手の背後をとりかえすと、逆手に持ち直したナイフで敵の背中をズブリと突き刺した。

──あと1人…!

私は首を振り回すようにして最後の敵、リーダーの男を探した。血の海ができた周囲には、地下というのもあり鉄分の臭いが蔓延していて不快な気分にさせた。

荒れている呼吸がさらに激しくなり、眼はギョロギョロと動いた。それは、今起きている事態に焦りを感じたからだ。

──……いない?

あと1人いたはずだ。どこに消えた?逃げた奴らを追って、ここから出たのか?

いや、それはない。出口には常に気を張っていたから、出ようとしたのなら気付くはずである。必ずこの中にいるはずだ。それならば一体どこへ…。

落ち着けないこの状況に焦りと苛立ちを感じながら、私は立ち尽くしてしまった。

すると、

 

──痛ッ!

 

突然、私の右肩に強烈な痛みが走った。私はあまりの急な出来事に足のバランスを保てず、その場にうつ伏せの状態で倒れてしまった。

立ち直ろうと力の入らない右腕に体重をかけると、バランスを崩した。そのとき私は、既に右腕が機能しないことを知った。

やっとの思いで膝立ちの状態になると、顔についた血液を左手で拭った。

 

──なんだ!?何が起こった。

 

私は右肩の方を急いで見た。前はなんともないが…。後ろのほうにナイフが突き刺さってる。

嫌な予感がした。背筋が凍る感覚を、人生でここまで感じたことはなかった。今まで、命の危機を散々経験していたにも関わらずだ。

──まさか。

私はゆっくりと背後の方へ振り向いた。ゆっくりと、自らの推測が正しくないことを願いながら。

……だが、私はどうやら勘がいいらしい。思ってた通りのことが起こっていた。

私の探していたリーダーの男が、地下に閉じ込めていたセナル教の奴らを見つけ、解放してしまっていた。

敵の数はそれほどではない。負傷していなければ十分対処できたろう。しかし、今はそれができる自信がない。

私にだって死ぬことへの恐れはある。できることなら今すぐにでもこの場を逃げだしたい気持ちだ。

──だけど、だけど…!

私は立ち上がって、右肩に刺さるナイフを左手で抜き取ると、腰を落として戦闘態勢をとった。

「まだ戦うつもりのようだな」

男が勝利を確信したかのような口調で言った。

「その言葉、そのまま返すよ。もうトップは死んだってのに、なんでお前達は活動してる」

「あのお方が亡くなっても教えは死なない。ならば、それを守るのが私達の義務だ」

誇らしげだった。まるで曇りのないその表情は、妙に眩しかった。その眩しさは私を更にゾッとさせ、不気味に思わせた。

「だから邪魔をするな。抵抗しても、苦しみが長びくだけだ」

「…責任があるんだ」

私はボソッと呟くように言うと、男は首を傾た。

「責任?」

「力には責任がある。みんな平等に与えられる訳ではないから。だから、ちょっとだけ強い私には、ここで暮らす彼等を守る責任がある!」

「……そうか。可哀想に。その薄っぱちな責任のために、ここで命を落とすことになるとは」

男は右手を振り上げた。それと同時に、奴らは一斉に戦闘態勢をとった。私の頬に冷たい汗が流れおちる。

「やれ」

男は勢いよくその手を振り下ろした。

 

 

 

俺は屋根から滑り落ちるように降りると、そのまま最高速で走り出した。走っている途中に目の前を塞ぐ障害物は、鉈で真っ二つにして勢いを落とさず走り抜けた。

──殺す。絶対に。

今の俺には殺意しかなかった。鉈をぎゅっと握りなおすと、どう殺してやろうかをパニックで真っ白な頭で何度も考えた。首をねじ切ってやるのもいい。頭を鉈でかち割るのも。

そうして走り続けていると、徐々に見覚えのある景色が見えてきた。もうすぐだ。

速度は緩めなかった。そのまま目的地に向かって走り続けるつもりだった。

しかし、

 

「あれは…」

 

少し前方にこちらは向かって走る男の姿が見える。見た目は中年かそれ以上。走るのは久しぶりだろうか、少しぎこちない走りをしている。あれは、

「ブルベか」

その男がブルベであることを確認すると、俺はスピードを緩めて停止した。

ブルベは走るのに夢中なようで、前方にいるはずの俺に気づかなかった。俺のすぐ側につくと、膝をついて荒々しい呼吸を整えた。少ししたあとに後方を確認する。誰もいないことを確認すると安堵の息を漏らした。

「なあ」

俺はぶっきらぼうに彼に声をかけた。すると、それを聞いたブルベがビクッと震えあがった。どうやら、俺の声を覚えているらしい。彼は恐る恐るといった感じで前へ向きなおした。徐々に視線を上げていき、俺の顔を見た瞬間、彼は情けない悲鳴をあげた。

「お、おい」

声をかけるより早く、彼は俺の前から逃げ出そうとした。

俺は一瞬なぜ彼が悲鳴をあげたのか分からず困惑したが、すぐそれに気づいた。

──そうか、今の俺はハンターだったな。

自分の命を狙った殺人鬼が目の前にいると、そりゃあ怖いよな。逃げられてもしょうがない。それより、アジトへ向かわないと。

俺がもう一度加速しようとしたとき、

「ハンター…!」

下の方から声が聞こえた。俺が下を向くと、そこには俺の衣をぎゅっと掴んだブルベがいた。

「ブルベ?」

「こんなこと、頼める立場ではないとわかっている…!だけど、今はお前の他に誰も頼れる奴がいない!」

掴んだ衣に更に力を入れながら、必死の表情でそう言った。俺はある程度要件を察すると、衣から手を払いのけて言った。

「なんだ?」

「私の娘を…。私のエメルを助けてくれ!金ならいくらでもだす!だからどうか依頼を引き受けてくれ!」

彼は恐ろしく震えていた。今にも泣きだしそうなくらい。俺はブルベが俺への恐怖と闘いながら必死に懇願しているのを見て、自分のやるべきことを思い出した。

「……すまないが、それはできない」

「……!?」

俺が彼の依頼を断ると、彼は驚いたような表情をしたのち、大声をあげて泣きだした。俺はそんな彼の肩にポンっと手を置いた。

「先に依頼が入ってる。新しい依頼は受け付けていない。それでは」

彼の肩から手を離すと、また先程と同じように走りだした。俺は徐々にブルベの姿が小さくなっていくのを背中で感じながら、小さく呟いた。

「そうだ…。依頼を受けているんだ」

俺は目的地の方へ真っ直ぐ向いた。

「ジーマからの」

 

 

 

 

 

──もう立てない。

私は傷だらけになった脚を見て察した。

ぺたんと壁にもたれかかって座り込み、ジリジリと殺意を持って迫ってくる男たちを見つめた。もはや私には戦う体力も、気力もなかった。

──ああ、死ぬんだ、私。

こんなことなら、もっと父の言うことを聞いておけばよかった。理解しようとすればよかった。

ごめんね、みんな…。私……!

 

ぐさり

 

「ア、あぐ…!」

腹の辺りを浅く斬りつけられた。私はもう叫ぶことさえできなかった。

「無様だ。さっきまでの勢いはどうしたエメル?」

リーダーの男がそう言った。

「…………」

「……もはや応えることすらできんか。では」

男がナイフを振りかざす。狙いは、私の喉。

次の攻撃で私は死ぬ、そう思ったら急に恐怖の感情が込み上げてきた。諦めていたはずなのに。私はギュッと目を瞑って祈った。

──イヤ!まだ死にたくない!誰か助けて!

父さん!母さん!みんな!

 

ジーマ…!

 

「ぐぇっ」

熱い汁が私に降り注ぐ。私の血だ。

 

「…………」

…………。

「……え?」

──私の血?

 

刺されたはずの喉に痛みは感じない。私は恐る恐る目を開けた。すると、そこには首がはねられたリーダーの男がいた。

「え?なんで…」

私が困惑していると、目の前の首を失った身体が床に倒れた。

そこには、間違えようがない、トマホークを光らせたジーマの姿があった。

「エメルさん…!」

「ジーマ…!」

 


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