ガンダムアーキテクトレイヴンズ 自堕落な一個人 作:人類種の天敵
如何にも豪勢な和風屋敷……の門の前、一見美少年にも美少女にも窺える人物、九十九 瑞穂が自宅の扉を開けて中に入ると、そこには屋敷に仕える大勢の使用人が帰りを出迎えていた。
「ただいま」
「お帰りなさいませ。お疲れでしょう坊ちゃん」
「本日の夕ご飯は坊ちゃんの好きな物ですよ」
「……そうかい。ありがとう」
坊ちゃん、坊ちゃんと呼ばれる度に彼女の顔は険しくなっていく。
そのまま使用人達から逃げるように離れ、自分の部屋に駆け込む。
ベージュの絨毯に一面真っ白の壁紙。
その中にポツンと置かれた机や作業台に寝心地の良さそうなベット。
面白みの無い部屋をフン、と鼻で笑い、ベットに埋まる。
「………」
静寂な部屋に、コンコンと扉を叩く音。
「入っていいよ」
「……瑞穂、今日は遅かったね。いつもの模型店……?」
出てきたのは自分の姉、九十九 御琴。
彼女は瑞稀に笑いかけて部屋に入る。
「そういえば今日、近くの魚屋さんが瑞稀のことを坊主って言ってたから、ちゃんと教えてあげたよ。瑞穂は女の子だって。……ふふ、可笑しいね、瑞稀みたいな女の子を男の子と…」
「姉さん……、ボクは……、ボクはね。周りから見れば男でなくちゃならないんだ」
それは、名家に課せられた忌々しい伝統。
姉の言葉を遮り、そう告げた瑞穂は罪悪感と自嘲に苛まれ、また深くベットに顔を埋める。
(ああ、そういえば。模型店に商品を置いてきたな……別にもう、どうでもいいことか)
いっそこのまま眠ってしまいたい。
比喩でも、一時の欲求心からでもなく、本心から、この世界から永遠に。
「……誰か、知らない人……。来た?」
「……?」
そう言う姉は、巫女服の余り袖をひらひらと漂わせて部屋を出た。
(一体誰が……?)
面倒だと思いつつも、九十九家の“長男”である自分が出向かわない道理は無いに等しく、瑞穂はヨロヨロとベットから立ち上がり、玄関へと向かった。
「よー、ボクっ娘弟、親切な俺の優しいデリバリーサービスだ」
「……な、なっ、なっ……!何で……うちに!?」
眠気や倦怠感が一気に吹っ飛んだ。
姉が一足先に出迎えていた人物が、予想外の人だったからに違い無い。
「ああ?……お前、店に商品を置き忘れてただろう。ほら」
ビニール袋に入れられたHGストライクのケースを見て、そういえば……と目の前の人物を見据えた。
「外にいた警護は?」
「突然襲い掛かってきたあいつらか?全員伸びてるよ。……言っとくがこっちはちゃんと断り入れて入ったんだからな。それを突然突っ込んできやがって……正当防衛だぞ、正当防衛」
ぶつくさという彼の傍には涙目で彼の服を掴むセーラー服とワンピーズ掛け合わせたような服を着る少女が。
………警護のロリコン共め、彼女にホイホイ釣られた所を倒されたのか。
「……これはありがたく貰うから、さっさと帰ってくれないか」
「………お前愛想悪いな。いや、俺が言えたことじゃないんだけどさ。仮にもお前……女だろ?」
ブチっと、自分の中の何かが弾け飛んだ。
伸びた両腕が目の前の男の胸倉を掴み、彼の顔に自分の顔を近づけ、怒鳴る。
「何も知らない奴がッ!知ったような口を聞くなッ!」
ゴトッと、ガンプラを入れたケースが床に落ちた。
やってしまった、と頭は理解するが、心はそうもいかない。
悔しい、目の前の男に自分の正体を見破られたことが。
「………はぁぁ、悪かったよ」
ポンポンと手を叩かれた、彼はそのまま屋敷から出ようとするが、それを姉は手で制した。
「貴方……誰」
……最もな質問だ。
「奇遇だな、俺もお前のことが知りたかった。お前、誰だ」
何を言っているんだ、この2人は?
「奇遇……そう、貴方もなのね」
「悪いが、俺はお前のような奴は初めてだ。真凛のような違和感はあっても、既視感はない」
話が噛み合っているようで、噛み合っていない。
いや、そもそも、この2人は話を合わせずとも分かり合えている?
「「だから(なら)」」
男はカバンの中から一つのガンプラを、姉は袖の中から赤いガンダムダブルオー……又の名を、サムライ・Oを取り出した。
「ガンプラバトルで」
「知るしかない」
ああ、本当に……………、
「今日は模型屋になんか行くんじゃなかった……」
今更後悔しても遅いけど。
フィールドガンプラ城
立派な拵えの城の本丸を囲むように外堀や門が多数存在するフィールド、ガンプラ城。
そこから少し離れた何もない、真っさらな大地に、およそガンダムの印象とはかけ離れた黒い鳥はいた。
「奴は以前見た赤いダブルオーを使うはずだ。………さて、トランザム対策はどうしてくれようか……」
その黒い鳥……又の名をラファールを操縦する男はダブルオーの超機動に対する対策方法に考えを巡らせていた。
すると突然アラームが鳴る、ラファールが敵機にロックオンされたのだ。
「来たか」
城の中から一直線にこちらへ向かう紅く染められた腕部だけが武者頑駄無のダブルオー……サムライ・Oは、右手に持った太刀を片手にこちらへ突っ込んで来る。
その機体へ両手に持った銃火器を連続して射撃していく。
「全弾避けられた。やっぱり運動性能が高い」
しかし、紅いサムライ・Oはそれらの弾丸を一息に飛び避け、紅い光を煌めかせながら此方へと猛追する、白兵戦になるのは至極当たり前だろう。
「なら、受けて立つ」
ダランと両腕をブラブラさせてサムライ・Oを待つ。
独特な形状の複眼がギラリとサムライ・Oを睨み付け、間も無く両者はぶつかり合う。
ガギィィィィ……!!
鈍く光る刀身と紫色の閃刀がぶつかった。
そして鍔迫り合いへ……という事にはならず、直ぐにレーザーブレードの出力をキャンセルしてサムライ・Oから離れると、紅い機体は両手で構えた太刀を上段に振り上げる。
ガギィィィィ……ッ!
真上から振り下ろされるはずの上段はその軌道を変えて突き技をとなり、済んだのところでまた弾く。
今度はこちらから攻める為にレーザーブレードを横に薙いで2撃、3撃と攻撃の隙を与えない。
「喰ら……えぇ!!」
レーザーブレード……は出さずにシールド部分で奴の太刀を弾く、そして右腕に持ったランス型の突撃銃の先端を奴のコックピット目掛けて穿つ。
「ッ!避けたか」
紅いサムライ・Oはくるりと回転しながら後ろへ下る。
その目立つ機体色へ向けてバインダー内臓のビームキャノンを連撃すると、避けきれなかった奴の脚部にビームキャノンの一射が直撃した。
グラついた機体、畳み掛けるようにサムライ・Oの懐へ飛び込み、レーザーブレードを煌めかせる。
『……トランザム』
紫色の刀身は虚空を彷徨う。
紅く発光したサムライ・Oは残像を残しながらラファールの周りを右回りにグルグルと回遊する。
なので俺は、突撃銃を左回りに撃ちまくることにした。
「ちっ、全て避けた……まあ、当然だよな!」
結果は全て外れ、コックピットに紅く発光する刀身が迫る。
それらをムーバフル・シールド・バインダーで防ぎつつ、クリックブーストを用いて距離を離す。
ドヒャアッッッドヒャアッッッ
2回機動させて距離を離す………いや、奴は軽々と追従してきた、太刀を避ける。
「ぐっ、脚部をやられた」
ラファールの右脚へと太刀が深々と突き刺さり、そのまま地面に縫い付けられる。
サムライ・Oは両脚に備えられたソードを二本抜いた。
「…………来い。俺を殺せるなら……死ぬ覚悟で来いよ」
ビクッと、サムライ・Oは動きを止めた。
「この瞬間から俺とお前がやるのはただのガンプラバトルじゃねえ……。正真正銘の殺し合いだ」
フルドドIIに懸架されている折り畳み式のレーザーライフルを組み立ててチャージングを開始する。
しかし、奴は一向に動き出さない。
恐怖に怖気付いたか?
『………そう、やはり貴方は………』
サムライ・Oは二本のソードを腰部に戻した、……、終局か。
『もう、戦う必要はない、私は貴方を、理解したから』
俺はお前を理解してねーんだよ、電波女。
「そうかよ」
ガンプラバトルが第三者の操作で終了となり、勝者も敗者もいない戦場が、静かに崩壊していった。
「烏丸、ガンプラバトルは楽しかったかい?」
「んだよ急に……」
「いやぁ、烏丸の試合中の顔、とっても楽しそうにしてたなってさ♪」
ガンプラバトルの後、渡すもんも渡した俺は真凛を引き連れて九十九家の屋敷を退出した。
その時に巫女服の少女から「私たちはまた出逢う」などと不思議めいた宣言をされたのだが、その言葉が今も離れない。
「…………実は今、ホワイト・グリントが忙しくて会う暇なんてないんだよね」
向こうには悪いが、会う頻度なんて皆無に等しいだろう。
それよりも今はホワイト・グリントだ。
先ずは俺の背中におぶさる真凛を家に帰して、今日はもう、休むことにしようか。
ガンダムOO、理解する、不思議ちゃん(こっちの言葉が通じない)
諸々でわかった人はスゲェー。因みにOOの主要キャラとかではないが、結構なポイントというかなんというか。