ガンダムアーキテクトレイヴンズ 自堕落な一個人   作:人類種の天敵

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ぶっつけ本番が1番嫌いです

 

 

「ぶふっ。いやいや、まさか“彼”でも寝不足で倒れることがあるなんてねぇ」

 

「“彼”の素体は普通の人間ですので、ある意味仕方がないかと」

 

「だよね。知ってた。ハハハハハハ!ところでこのお土産、キャロリーン・セレクション?生粋の日本人高校生に日本人形を渡すところがほんっとセンスないよねぇ!?ギャハハハハ」

 

平日の夕方、住宅の立ち並ぶ道路を2人の男女が歩いている。

片方は碌に手入れもしていないボサボサの黒髪に無精髭が目立つ、やたらとにやけた怪しい男。

もう1人の女性はきっちりとしたデコだし眼鏡に全身黒スーツ姿という出来る女の完全装備。

 

正に異様な2人であり、周りの住人達は胡乱げな表情で彼、彼女の行く先を伺っていた。

 

「ここです。主任」

 

「あ?ハハ、そーなんだ!?こんな犬小屋みたいなボロ家が彼の家とはねぇ!ギャハハハハ。「ピンポーン」もしもーし、誰か居ますかー。企業ですけどー?ギャハハハハ」

 

本当におふざけしかなさらない、と出来る女ーーーキャロル・ドーリーは男ーー主任に気付かれないように短く嘆息した。

既に主任の大声で周りの住人達は何事だとこちらを伺っている始末。

彼は企業というネーム力を本当に分かっているのかと常々思う………或いは、注目を集める、それこそが彼の本当の狙いかもしれないが。

 

ガチャ

 

「…………帰れ」

 

バタン ガチャガチャ、ガチン!

 

「………主任?」

 

「あらら、嫌われちゃったぁハハハー!「ピンポーンピンポーンピンポーン」」

 

ニヤニヤ顔の主任は懲りもせずベルを鳴らしまくる。

数秒後、また不機嫌な顔で帰れを連呼する彼と遭遇した主任とキャロルはそこでばったり、彼の家に居た女子高生を目撃する。

 

「キャロル」

 

「はい、主任」

 

急に真面目になった主任とタプレットで女子高生の情報を集め始めるキャロルに烏丸は溜息を吐き、ドアを閉めて鍵をした。

更に不審者が〜という電話を警察に連絡してツナギ姿のボサボサ男、きっちりデコだし眼鏡の女ーーーは慌てて企業本社に逃げ帰ることになった。

 

「ちっ、今後企業お断りの張り紙でも玄関に貼ろう」

 

烏丸はしばらく企業はがん無視を決め込むと決心しながら部屋に入る。

そして彼の部屋には先客が1人、紺色のアシンメトリーの髪型に色白の肌を包み込む有名私立校の制服。

少女の名前は真凛、烏丸の知り合いである。

 

「カラスマルぅ〜誰だった?」

 

「お前は関係ねえよ。それより、出来たか」

 

「ふっふっふ♪真凛ちゃんの手にかかればそんなものあったりまえでしょ〜!じゃじゃーん!完成でっす〜♪」

 

彼と少女の視線は作業ブースにポツンと立つガンプラに注がれる。

その色は黒、ただ表面に焼き焦げたようなエフェクトが全身を覆っている。

これはパーツビルドをスクラッチする役割だけの真凛がいつの間にか塗装をやっていたらしいのだが、真凛曰く「全てを焼き尽くす暴力を表現したのだよ♪」だとか。

 

いや、なんだよ暴力を表現しましたって、意味わかんねえよ…そしてなんで機体自体が暴力を喰らってんだよ思いっきり、自爆してんじゃねえか。

 

「そういえばお前の機体は?」

 

「あ、うんうん。烏丸が遠距離狙撃機を作ったからねぇ〜私の方は近接特化にしたよ。はい、これが不知火・紫電だよ。可愛いでしょ?ぶいぶい」

 

真凛が取り出したのは紫紺色の装甲に、腕や肩部、足先などの部位の表面が真っ白なアクセントをつけた綺麗なガンプラだ。

以前の不知火とあまり外観的な差は見られず、塗装を変えたぐらいしか分からない。

 

「えー?武装は結構変わったと思うよ〜?」

 

そう言われてやっと気付いたが、不知火・紫電は右背中に太刀を一振り、左腰に小太刀を一振りずつ差している。

遠距離武器の形は何処にもないが、本当に近距離特化にしたわけじゃないだろうな?と訝しげに真凛を睨む。

 

「ふっふっふー。そこは見てからのお楽しみだよねっ♪」

 

ドヤ顔の真凛を横目に俺は値踏むようち不知火・紫電を眺める。

そもそも、本番でお披露目っていうのは1番俺が嫌うものだ。

なにせ前世ではぶっつけ本番で仕事をした結果、よりによって欠陥品だったVOBが途中で爆散四散して絨毯爆撃を思わせるミサイル群をQBやOBを駆使して避け続けたり、最強との戦いではランク1(笑)の協調性の無さが裏目に出て即水没、まともな2対1もできずにタイマンを繰り広げたりと散々死ぬかと思ったぞこのクソババア!と相方にブチギレて喧嘩になるくらいぶっつけ本番に限って面倒なことになるのは間違いないのだ。

 

「ぶっつけはダメだ。今確かめる」

 

「えぇー。真凛ちゃんのサプライズが!」

 

「うるせっ。で、この二本の刀はなんだよ。流石にそれ言わねえとペア解消だ」

 

「ぶー。まあいいや、太刀と小太刀はこれ実は二本の極薄の刀がほんのちょっとくっつくかつっつかないかの距離空けててねー、それを超振動を起こして二本の間に挟んだプラフスキー粒子を摩擦させることによって拡散するプラズマ放電を飛ばすことができて太刀の方はそれの大型版で振る度に落雷を飛ばすのであーる」

 

「……んな、馬鹿な……」

 

プラフスキー万能すぎか?幾ら何でもこんな馬鹿げた設定がハマるわけないだろ?

 

「さらに小太刀の放電を応用して即席のビームシールドにしたりなんかも出来るし?まあまあ真凛が本気出すとこんなもんだよーふっふー」

えっへんと胸を張る真凛だけどさあ、それ、普通にビームライフル撃つ方が早いだろ。

それにいちいちプラフスキー粒子を摩擦させて撃つなんて燃費が悪すぎる。

 

「ふっふっふ。甘いね。甘い甘ーい!烏丸は甘々だね!きっと骨の髄まで砂糖の味がするよ!ひと舐めでいいから舐めさせてー」

 

「アホか!…とりあえず戦術としてはお前が前衛の俺後衛。お前が的の気を引きつつ俺がズドンとトドメをさすか俺が遠くから削りつつお前がズバッと斬るかのどっちかだな」

 

まあ、改造アリーヤヘッドは遠近両用だから近接戦闘になったとしても俺が勝つ。

結果論として真凛は人数合わせの為のペアでしかない。

本人がやる気出してるところ悪いが、結局は個と個の戦いだ、そして前世の俺は、たった独りの戦いを何度も続けてきた。

 

……まあ、たまには?GAとかいうダンボール超人大好き企業所属のスマイリーエンブレムが似合うフレンドリーな美女と軽口叩きながらタッグを組んだり、腹黒企業のミサイル弾幕大好きな貧乏娘を“養った”り、BFF社の陰険クソジジイの秘蔵っ子をナンパしてラブホに連れて行って落とした後で悔しがるジジイに対して「ねえねえ今どんな気持ち?クソ傭兵に女王様盗られてどんな気持ち?ぷぎゃーm9(^Д^)」なんて馬鹿にしたメールを送ってやったり、ほんとそれだけだ。

 

「そういえば、前世のこの時間帯は餌やりの時間だったか」

 

「?何か飼ってたの?」

 

「いや、昔の話だけど」

 

そう、昔。

前世の俺は独立傭兵のアジトの一室、つまり俺の部屋で唯一の癒しとしてペットを飼っていた。

元々が殺風景極まりない荒廃した世界に部屋の中身はベットと筋トレマシンとシュミレーションシステムしかない無機質な部屋だ。

相方にベットを飼いたいと言ったら即座に許可を出してくれた。

そんで相方の仲介を介して飼いはじめたのが エイ=プール 20歳 女。

 

相方が昔働いていた会社がこれ以上雇いきれんと匙を投げたところにスタッフ兼料理人兼雑用兼ペットとしてなら飼ってやろうと相方が交渉し、エイ本人の了承も得ないまま飼い始めたのがきっかけだったが、彼女自体はとても利口でとても可愛げのあるペットだった。

 

まあ、その後で兄貴と呼んでいた傭兵仲間のロイ・ザーランドに「おいおいお前…それはペットじゃねえだろ……大物かよ」と突っ込まれたのか賞賛されたのかよくわからん言葉で間違いを訂正されたのを覚えてる。

夕方の6時半、ここら辺で彼女がよく小腹が空くのでこの時間はおやつの餌やりをしていたものだ。

 

「まあ今そんなことどうでもいいや」

 

本題に戻ろう。

正直一緒に戦うと行っても俺はたった一機で敵を捻り潰す自身と実力がある。

なので必勝パターンを決めといて悪いが、俺の戦術行動は真凛との連携を生かしたものではなく、たった1人で敵2人を潰す独断専行になるだろう。

 

「じゃあまた明日〜カラスマルぅー」

 

「ああ」

 

真凛を帰ると部屋に戻りパソコンを立ち上げる。

大会が始まるまでの期間は3日を切った。

あと2日で調整を済ませるとして、今出来ることは対戦相手が使ってくるガンプラがどんなものか、対戦相手になりうる敵の実力がどれほどが確認するくらい。

なんでも、今回の九十九神社の大会は結構有名なものらしく、日本文化に興味関心のある物好きなガンプラファイターもこの日を狙って来日することがあるらしい。

面倒臭いのが嫌いな俺は速攻でカタをつけたい為に事前に敵の戦力をリサーチすることにする。

 

「始まる前から応募してるプレイヤー達の情報が閲覧できるのは嬉しいよな」

 

カタカタカタカタカタとキーボードを打つ音が俺1人しかいない部屋に響く。

瞳にまで垂れる鬱陶しい前髪はゴムで留め、最後の追い込みだと応募者とそいつらが今まで作ってきたガンプラの画像欄を流し目していき、大まかな実力把握をしていく。

それが終わり、大まかに 強者・中堅・ザコ・空気 の塩梅に割り振ったらザコと空気は無視して 強者・中堅 と銘打ったプレイヤー達の情報を集める。

 

やれブラジル育ちのファイターと奇怪なガンプラであったりとか、アメリカの御曹司が金にモノ言わせて作らせた特注のガンプラに、世界大会にも出場するようなファイターペアと、私立ガンプラ学園から腕試しで応募してきた奴。

 

「あ?こいつなんか見覚えあるな」

 

ザコと銘打ったファイターの顔写真にどこか見覚えのある顔を見つけた。

名前は阿部。

小物っぽい顔にたくさんのニキビを蓄えた小物っぽい雰囲気の小物。

ああ、とそれで思い出したが、こいつアレだ、いつも俺に突っかかってくる奴。

 

「まあ、俺とやる前に退場するだろうけどさ。お、こいつ結構強そう……逆脚に改造した赤いケルディムか……。なんで名前が警備部隊1番機なんだ?…ペアは11番機だし」

 

どういう設定なんだろうか?少しきになるが、この警備部隊1番機のファイター、ポール・オブライエンは思いの外強い。

狙撃の精度はもちろん判断力に富み、指揮能力もあるし逆脚を使った回避技能と空中での狙い撃ちも上手い。

戦う時は真っ先に潰した方が良さそうだ。

 

「他には……」

 

その日は12時まで応募者を調べた後就寝し、翌朝軽い朝食を取って学校に登校した。

学校に着くと1〜4時間目がガンプラファイトの時間だったので互いのガンプラの性能を調べる為に真凛と対戦をする筈なんだが。

 

「へへ、俺の新しいガンプラ!ヴァイオレットΖで勝負だ!」

 

……なぜ、昨日の夜にザコと評論付けた阿部とやらなくてはならなくなったのだろうか?まあ、準備運動がてらにやるけどさ?

 


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