ひょんなことから転生しました   作:雷蛇1942

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月光の下で:4

 

 

「さて、こいつが言ってた音の正体がコイツだとしても失踪した奴らは食われたと考える他ないよな・・・」

 

「グルルル・・・」

 

「あー威嚇するな、一時的に体が動かなくなっただけだから・・・って言ってもわからんか」

 

先ほど頚髄圧迫により体を動けなくした狼は相変わらず響を含む全員を睨み、威嚇し続けている

レキはSVDを肩に下げ響たちと合流している

 

「カズ・・・どうする?こいつ・・・」

 

「どうするって言ってもな・・・保健所か?」

 

「・・・飼うという選択肢もあるが・・・」

 

「飼う?!狼を?やめとけやめとけ!」

 

「狼なら、飼えますよ・・・」

 

無線でカズと話しているとレキが口を開いた

確かにレキはコーカサスハクギンオオカミを武偵犬という扱いで飼ってはいる

 

「確か・・・ハイマキだったか?」

 

「そう、その子はシベリアオオカミという種類」

 

「シベリアオオカミか・・・」

 

『モー!』

 

「あーそういえば月光も捜索に出してたな。ん?まさか!」

 

「どうしたの?」

 

「失踪した奴らを見つけたのかもしれん、ジャンヌ、手伝ってくれ。もしかしたら負傷してるかもしれない」

 

「わかった」

 

「残りはここで待ってろ、そいつは連れて帰らないといけないからな・・・」

 

月光の残り3機の座標から失踪した奴らのところへ向かう

第一なぜ2、3人で山に入る必要があったのか

訳がわからん、どうせそこらへんで「うぇーい!」とか叫んでるような輩だろうが

 

「響、先ほどの狼だがどこから迷い込んだと思う?」

 

「あー、あいつか・・・外来生物だからな、誰かが飼っていたものが逃げて野生化したか、もしくは誰かがあえてこの山に放ったか・・・いずれにしてもそこに人間が関わっていることは確実だ」

 

「私は後者のほうがしっくりくる、理由を聞かれても何となくとしか言えないが」

 

「それでいいと思うぞ、誰がどう思おうとそれは自由だからな。・・・それを実行に移すかは別だが」

 

雑談しつつ月光を待機させている場所に到着すると

そこには

 

「ははは、でもそれおかしいだろー!」

 

「そうか?そうでもないと思うんだが・・・」

 

「そうでもないよー!」

 

件の奴らがいた

 

「おい、そこで何してる?」

 

木々をかき分け獣道から出て声をかける

 

「うわ!」

 

「びびったなぁ・・・」

 

「え?なに?武偵?」

 

「そっちのお嬢さんは理解が早くて助かる、武偵だ。お前らここで何してる、家出か?」

 

「「「・・・」」」

 

「だんまりね・・・別にいいが街じゃ失踪したことになってる、さっさ帰って親御さんを安心させてやれよ」

 

決まり文句を言い連れて帰ろうと一歩近寄ると

 

「お、お前に何がわかる!親の都合でやりたいことができずにやれって言われたこと以外できないで成績が悪くなれば殴られる苦しみが!」

 

これみよがしに3人のうち一人が大声で叫んだ、耳鳴りがするほど静かな山の中で突然の大声は効くねえ

 

「わからないな、親がどうした?お前の中の親は絶対なのか?親に殴られてそれまでか?違うだろ、理解されないなら自分をぶつけろ。それでダメなら殴りあえ。それでこそ親子じゃないのか?俺にはもう親がいないからできないが、殴り合ったあと腹を割って話し合えばいい」

 

「響・・・」

 

ジャンヌが俺の名前を呼ぶが手で制止し続ける

 

「・・・お前らがどう思い、どう行動しようが勝手だ。だがな、親や兄弟だけは大事にしろ。お前を産んで育てて、守って、色々な時間を共有して、お前らにとっても大切な家族のはずだ。親が自分の事だけを考えて世の中にいい顔しようとしてお前らに負担をかけるようなら反抗しろ、お前らはれっきとした人間だ。人形じゃない」

 

諭すように落ち着いて冷静に話そうと務める

感情に任せず、ただし相手の感情に訴えるように

こういう時は能力や武力なんてのは役に立たん

相手の心に語りかけるのが重要なのだ

 

「・・・でも・・・」

 

「言いたいことは分かる、帰ったときどう話しかければいいかわからない、だろ?」

 

「う、うん」

 

「そういう時はな、笑顔でただいまって言えばいいんだよ。心配かけたなって」

 

「わかった・・・」

 

「ジャンヌ、帰るぞ。全くこいつらは・・・昔の俺そっくりだ・・・」

 

「ああ、それより。ほら、涙拭いたら?」

 

「む?」

 

ジャンヌがポケットからハンカチを取り出し渡してくる、全く年を取ると涙腺がもろくなっていけねえ

 

「ありがとう・・・情けないところを見せたな・・・」

 

「いや、誰にだって弱い側面はある」

 

「・・・流石先輩か?」

 

「そういうわけじゃないんだが・・・」

 

「さて、帰るぞ!とっとと準備しろ!」

 

「「「はーい・・・」」」

 

「何故ダルそうなのか・・・?」

 

月光を待機状態にしスキマに回収する

先ほどの狼はどうなったか気になる

そろそろ歩けるようになっているはず

だがその前にやることがあるな

こいつらをさっきの二人組に引き渡してとっとと家に帰らせなくては

 

「あ、戻ってきた」

 

いつの間にやら戻ってきた神風に目配せしてから二人組に

 

「待たせたな、こいつらを連れて帰ってくれ」

 

「わかった、もしかしてこいつら・・・」

 

「家出だ、あまり強く言わないでやってくれ。このくらいの年頃ならよくあることだ」

 

「ああ、元よりそのつもりだ。こいつらくらいの時に俺もこの山に家出に来たことがあるしな」

 

「そうか、まあいい。後始末はこっちでしとく」

 

「すまん、色々と迷惑かけた・・・またな」

 

山を下りるのを見届けると先ほどの狼がどうやら立ち上がれるようになったようだ

空を見上げ時刻を確認すると先ほど体が動かないようにしてからまだ20分程しか立っていないようだった

時間が経つのが随分とゆっくりに感じる

 

「動けるようになったのか、歩けるなら大丈夫だな。どうする?俺と来るか、それとも俺以外の武偵に駆除されるか、好きなほうを選べ」

 

人間の言葉が通じるとは思えんがとりあえず話しかける

当たり前だが返答はない

だが反応はあった

俺の横に立ち足元で座った

 

「なんだ、来るのか?」

 

それからは反応はない

だが動物でも仲間ができるのは嬉しいものだ

 

「・・・(なんか、狼って案外可愛いな)」

 

「帰るわよ、早いとこ東京に帰ってバカキンジがほかの女に手を出してないか調べなきゃ」

 

「今日は流石に疲れたわ・・・」

 

「さっきの店は風呂場も貸してるらしい、今日は一応泊まれるから風呂に入れるぞ?」

 

「もぐもぐ」

 

みんな口々に好き勝手言いながら山を降りていく(レキはカロリーメイトを食っているが)

それを後ろからただ呆然と眺める

 

「全く、あいつら皆、自由だねぇ・・・」

 

独り言をつぶやきひと呼吸おいてから歩き出そうとすると無線にcallが入った

 

「響、とっとと帰って来い。こっちは暇なんだ、戻ってきて将棋でも付き合え」

 

「了解、これから帰るよ・・・そういえば綴達は?」

 

「神風が来たけど寝てた」

 

「嘘だろ?」

 

「いやマジ」

 

「・・・はぁ、もういいや。帰る」

 

一人無線に向かって吐いたため息と呆れて出てきた言葉が夜の山に虚しく消えていった

 


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