東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

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第八幕 激動

 

 

「春虎!」

 

俺の名を叫ぶ少女の声が境内に響いた。

 

この声は…!

俺がバッと声のした方に振り返ると、案の定そこにいたのは北斗だった。

 

「バカっ。こっちに来るな!危険だ北斗!」

 

北斗がこちらに走り寄ってくるのが見えて慌てて静止の声をかける。

しかもアイツ俺の名前を言っちまいやがった。

これは鈴鹿にバレたか?

 

「…春虎、だぁ?」

 

鈴鹿が声を震わせながらギロリと睨んでくる。

やっぱりバレたか…。

 

「どういう事!あんたが土御門夏目(つちみかどなつめ)じゃ、無かったの!?」

「その件に関しましては後日、公式会見を開きまして、そこで―――」

「今、言いなさい!」

「オッス。オラ土御門春虎!分家の息子だぞ。オメー強いな、オラわくわくすっぞ!(声マネ付き)」

 

鈴鹿の剣幕に押され俺は自分の名前を教えた。決して鈴鹿の顔が怖かったからではない。

 

「ふざけた自己紹介しやがって!しかも分家の息子だぁ?あんた騙したのね!」

「勘違いしたのは、そっちだけどな」

「…ブチコロシ確定ね」

 

その言葉に反応して北斗が駆け寄ろうとするが

 

「来んなブス!コイツ殺すぞ!」

 

鈴鹿の怒声に北斗の足も止まる。

 

鈴鹿は本気で怒っていた。

物まねがつまんなかったかな?

しかしマズイな…さっきの式神と違って阿修羅には素手じゃ勝てそうにないし、逃げるにしても今俺は捕まっている。

 

どうやってこの状況を乗り切ろうかと考えを巡らせていると、鈴鹿が震える声で小さく言った。

 

「なるべく穏便に済ませようとしたけどやめたわ」

 

コイツの頭の中じゃ穏便=物騒の方程式が成り立っているんじゃないだろうか?

 

「本物の土御門夏目に警告しなさい。あんたを見つけて捕まえてやるって。…いい絶対に本人に直接会って言うのよ?」

「…逃がしてくれるのか?」

「あんたを今殺して何の得があたしにある訳?」

「……」

「そーゆーことよ。良い?絶対に今の警告を直接伝えるのよ」

「…わかった」

 

まだ聞きたいことは、いっぱいあったが下手に刺激してもマズイと判断して素直にうなずく。

 

「…ところでアイツ。あんたのカノジョ?」

「…ちげーよ」

「ウソ。あの様子、ただの友達って感じじゃないけど?」

「だからちげーよ。…言っておくが、アイツを巻き込む気なら本気で相手になるぞ」

「ふ、ふん!あんたに何ができるのよ」

「……」

 

俺は言葉を返さず無言で鈴鹿を睨みつけた。

 

「…別にアイツに手は出さないわよ。…アイツにはね」

鈴鹿は、そう言うと俺の胸ぐらをつかみ引き寄せて―――

 

「っーーーーー!?」

 

唇に柔らかい感触がした。

 

こ、コイツキキキ、キスしやがった!?

お、俺のファーストが…こんなガキかよ…

北斗が目を見開いてるのが視界の端に見える。

見せつけるようにキスした後、俺の胸ぐらから手を放し、阿修羅の拘束も解く。

 

「ちゃんと伝えてよ。ダーリン」

 

呆然とする俺を置いて鈴鹿は、式神に乗りどこかへ行ってしまった。

 

パンチの一発や二発は覚悟していた。

拘束が解かれたら北斗が、飛んできて問答無用に殴られる。

 

そう思っていたし、実は期待していた。(M的な意味じゃねーぞ!)

しかし実際はそんなことは無く北斗はうつむいて肩を震わせていた。

どうにも様子が、おかしいので不思議に思い声をかけた。

 

「お、おい、北斗。どうした?」

 

声に反応して北斗は、ゆっくりと顔を上げた。

そして突然、泣き出した。

 

「ほ、北斗!?」

 

あまりの驚きに声がひっくり返って変に高い声が出た。

しかし、北斗は止まらず終いには

「うええ……」

 

子供のように声を上げて泣き始めた。

 

「お、おい。ほ、北斗?どうしたんだ?と、とりあえず落ち着け。ええと、こういう時はどうすりゃ良いんだ…そうだ!俺の爆笑必死のモノマネ二十連発見るか?」

 

この時の俺は間違いなくパニックになっていた。

 

俺が15個目のモノマネ(戦争狂少佐の演説)が終わるとようやく北斗が、喋った。

 

「春虎のバカぁー!」

 

俺への罵倒だった。

 

「…なぜ俺がバカ呼ばわりされなければいかんのだ」

「酷いよ、春虎。僕が走り去った後も追いかけてきてくれないし…待ってろってメールは冬児からだし…

待ってても誰も来ないし…その内陰陽師が暴れてるって騒ぎになるし…春虎はその真っただ中にいるし…冬児にようやく会えたと思ったら春虎が連れ去られたって言うし…」

 

冬児の野郎…俺の状況を言ったら北斗がどういう行動に出るかなんてわかるだろうに。

 

「心配して、すごく心配して必死に追いかけて助けようとしたのにっ!なんで?なんで春虎はあんな子とキスしてるの?…そんなのあんまりだよぉ…」

 

北斗はまた声を大にして子供のように泣きじゃくった。

 

「わ、悪かったよ。心配させたのは謝るよ。すまん」

「何よ……ひっ…人の気も知らないで…ひっ…あ、あんな。キキ、キスまでしてぇ」

「お前も見てただろ。あれは、あいつの嫌がらせだったんだよ。しかもキスされたのは、お前じゃなくて俺だぞ?なんでお前が泣くんだよ?」

 

しかも…ファーストキス奪われたんだよな…。初めては美人の年上って決めてたのに…。

 

俺の最後の言葉を聞いた北斗が、泣いていた表情から一変して顔をゆがませた。

 

「バカ虎!!」

 

北斗の絶叫が、俺の耳を貫く。

 

「な、なんだよ」

「好きな人がほかの子とキスなんてしたら、そんなの嫌に決まってるでしょ!悲しくて、寂しくて、辛いに決まってるじゃないっ!」

 

……北斗は今何て言った?

好きな人がほかの子とキス…?

それってまさか…。

北斗の言葉を頭は理解したのに心が追い付かない。

 

北斗はまだ涙を流していた。不謹慎にもその姿を『綺麗』だと思った。

しかし北斗は、それ以上の涙をこらえるように「うー!」と唸ると、涙を浴衣の裾で拭った。

そして踵を返すと、ものすごい速さで走り去って行った。

 

「ほ、北斗!」

 

追いかけようと思ったが、足が止まった。

追いついたら、なんて声を駆ければいいんだ?

 

そう思うと、俺の脚は地面に縫い付けられたように動かなくなった。

北斗の後ろ姿が林の中に消えてゆく。

 

 

俺はそれを呆然と眺めることしかできなかった。

 




短くてすいません。

今回の話も短かったので、今日中に投稿する事が出来ました。

もしかしたら今日中にもう一話投稿できるかもしれません。

ダメだし・ネタ案・誤字脱字修正・常時募集中です。

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