東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

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第七幕 騒動の中心はいつも自分を中心に

「――やっちゃえ」

 

その鈴鹿の号令と共に式神達が一斉に駆ける。

放射線状に広がるその様子は雪崩のようにも見えた。

 

「マジかよ!」

 

俺は慌てて屋台の鉄板の下に身を隠す。

頭上を式神が飛び越えて行くのが分かった。

周りを見ると式神に押し倒される屋台も見える。

 

 

呪捜官達は、後退しながらも応戦していた。

次々に襲いくる式神に対し、持っていた拳銃を発砲している。

発砲した弾丸は式神の眉間に命中した。

 

その瞬間、式神の体が電波妨害(ジャミング)を受けた映像のようにブレた。

『ラグ』と呼ばれる現象だ。

式神、特に人造式は物理的衝撃に弱い。

と昔冬児に聞いたような気がする。

 

だが、式神が動きを止めたのは、ほんの数秒だった。

呪捜官達はその隙に自分の式神を呼び出すが、自分の身を守るので精いっぱいのようだ。

中には呪符を投げ、何体か倒している者もいるが一体や二体倒しても埒が明かない。

 

「って、俺らなんで呪術戦に巻き込まれてんだよ!」

「お前の運の無さもここまで来るとすごいな」

 

…俺のせい?

割とマジで命の心配をし始めたころに鈴鹿が

 

「頑張ってくださいよ~。先輩方ァ。式神がダメなら呪符も試してみます~?」

 

聞くからにイラッとする口調で、鈴鹿は挑発しながらポシェットから呪符を取り出した。

 

「今日は暑いですし、涼んでいってくださいよ」

 

そう笑いながら呪符を投じる。投じたのは五行符の一つ水行符。

呪符が光ったと思ったら呪符から爆発的な勢いで水があふれ出た。

 

「今度は水かよ!」

 

俺達も水流に飲み込まれる。本物の水ではないはずなのに溺れた時のような感覚になる。

 

「い、歪な水気をせき止めよ。土剋水(どこくすい)喼急如律令(オーダー)!」

 

呪捜官の何人かが呪符を地面に打ち付けると、たちまち地面が隆起して水を飲みこむ。

全員が呪符を投じてようやく相殺出来た。

 

 

その間鈴鹿はずっとニヤニヤしていた。

肩で息をする呪捜官達と余裕の鈴鹿とその式神。

呪捜官達の劣勢は火を見るより明らかだった。

 

すげえ…これが十二神将の実力かよ。

俺は家柄から、呪術なら近くで何度も見てきたが、ここまで大規模なものは初めて見た。

…圧倒的じゃないか。

 

「大分マズイな…隙をみて逃げるぞ、春虎」

「その方が良さそうだな…」

 

冬児の提案には賛成だ。このまま居たらマズイことになりそうだ。

しかしここから離脱するのは、至難の業だな。冬児もわかっているのか厳しい顔で辺りを探っている。

だから、

 

「じゃあな!」

「―――な!」

 

唖然とする冬児を置いて一人で屋台を飛び出す。

鈴鹿が狙ってるのは俺なんだから、俺と一緒にいるより別行動していた方が冬児は安全だ。

 

チラリと後ろを見ると冬児が苦々しい顔でこちらを睨んでから反対方向に走り出す。

ここで俺を追うよりも救援を読んだ方が確実だと思ったのだろう。

 

「っと!」

 

後ろを向いている隙に横から闘牛のような式神が突進してきたのを角を掴んで側転の要領でかわす。

どうやら、この式神達は俺の事を敵とは認識してないようだが、別に傷つけないように等の配慮もない。

 

進路上にいたら構わず突っ込んでくる。

だが、これならかわせる!

 

身を屈めながら物陰の間を縫うように移動していると、倒れたテントの陰に小さな男の子と女の子が(うずくま)っているのを見つけた。

おそらくは兄妹だろう。

 

逃げ遅れたのか!?

 

「おい!お前ら!」

 

俺の声に兄妹は反応し、すでに緊張の限界だったのか隠れていたテントの陰から俺の方を目指し飛び出してきた。

 

「バカ野郎!動くんじゃ無い!」

 

俺の叫び声にビックリしたのか女の子が転んでしまった。

そして転んでしまった女の子の後ろに突進してくるイノシシ型の式神が見える。

 

このままじゃヤバい!

 

女の子を抱えて逃げるのは間に合わない。ならば…迎撃する!

俺は女の子を背に庇うように立ち突進してくるイノシシに

 

「二重の極み!オラァ!」

 

強烈な右ストレートを素早く二撃くり出す。

眉間に食らったイノシシは、一瞬ラグを起こしたかと思うと粉々に形代ごと砕けた。

 

「おお!マジでできた!」

 

る〇剣を熟読しててよかったー。

俺が二重の極みを出せた喜びに震えていると

 

「きゃぁああぁあ!」

 

悲鳴が聞こえたので慌てて振り返ると熊の姿をした式神が兄妹に向かって突進していた。

マズイ!今度は迎撃も間に合わない!

せめて自分の体を盾にしようと兄妹に覆いかぶさり、来るであろう衝撃に身を固めた…がいつまでたっても衝撃は、来なかった。

 

「…?」

 

不審に思い恐る恐る顔を上げると周りに式神が一体も居なくなっていた。

残っているのは、式神の元になった大量の紙片。

 

呪捜官の仕業かと思ったが呪捜官達も唖然としているから違うだろう。

どういう事だと思いつつ鈴鹿を見ると、

 

「……チッ」

 

鈴鹿がこちらを睨みつけ舌打ちをした。

まさか俺と兄妹を助けるために?

 

俺がまさかと、思っていると背後にいきなり現れた阿修羅に羽交い絞めにされた。

 

「うおっ!は、離せ!」

 

暴れてみるがビクともしない。

 

「あ~あ。なんかシラけちゃった。もういいや」

 

そう言って鈴鹿はまた呪符を投げた。今度は水流ではなく一メートル先も見えないような濃霧が発生した。

 

「・・八ヶ所・・」

「・・咽頭・脊柱・肺・肝臓・頸静脈に鎖骨下動脈・腎臓・心臓・・」

「・・さぁ、何処の急所が良い?・・ククク・・」

「…あんた何言ってんの?」

 

いつの間にか隣まで来ていた鈴鹿に呆れ顔で言われた。

コイツまさか、この年でナ〇トを知らないのか!?

 

 

「いいから移動するわよ」

 

そう言うと俺を羽交い絞めにしたまま阿修羅がものすごい跳躍をした。

 

「ぎゃあぁぁぁああぁ!!」

 

十秒くらい飛んだあとすごいスピードで落下していく。

そして、着地。

ものすごい衝撃が襲った。

しばらくはジェットコースターなんか乗っても、終始笑顔で入れる自信があるね。

 

俺達が着地したのは北斗と別れた境内の近くだった。

 

「ぼさっとしてないで、すぐ移動するわよ。あいつらどうせ、追ってくるんだから」

「ま、待て。」

「…何よ?言っとくけどアンタに拒否権なんて無いんだからね」

「そうじゃなくて、移動したのはさっきの兄妹を巻き込まないためにか?」

「そんなのアンタに関係ないでしょ」

 

鈴鹿がいかにも怒ってますと言わんばかりの口調で言うが、明らかに肯定していた。

しかも、怒っているのは多分照れ隠しだろう。

 

「つーか、アンタさっきあたしの式神を道具も呪力も使わずに倒したわよね?いったいどうやったの?」

「分からん。強いて言うなら気合とる〇剣を読むことだ」

「〇ろ剣ってなによ?」

「るろ〇を知らないのか!?」

「だから知らないって言ってんでしょ!」

 

まさか〇ルトに続き、る〇剣も知らないとは…

 

「まさかお前、世間知らず?」

「な、何言ってんのよ!そそ、そんな訳無いじゃない!」

「図星か…」

 

そういや、祭りや花火も初めて見たみたいだしな。

 

「だから、違うって言ってんでしょ!」

「じゃあ、今の人気芸人の一人でも言ってみろよ」

「…え、ええと…」

 

分かりやすくうろたえ始めたぞコイツ。

 

「…ダンディ〇野?」

「古すぎるだろ!やっぱお前世間知らずだな!」

 

古いにしても度が過ぎるだろ。せめて藤〇マーケットぐらいにしとけよ。

 

「し、仕方ないじゃない!いつも研究室に籠りっぱなしなんだから!」

「まあ、そんなことは置いといて…」

「あんたから聞いてきたんでしょ!」

 

そうだっけ?せっかく人が話を逸らしてやったのに…

 

「そんなことより、さっきお前、兄妹を助けるために式神消したのか?」

「……」

 

それは、無言の肯定だった。

 

「なあ、お前がなんで兄妹を助けたかなんて、野暮なこと聞かねえけどよ。お前の目的ぐらい教えてくれよ」

「はあ?だから言ったじゃん!あたしの目的は『泰山府(たいざんふ)君祭(くんさい)』を――」

「それは聞いてるよ。俺が聞きたいのは、その呪術ってのどんな効果を持ってんだよ?」

「…なんでそんなことあんたに言わなくちゃいけないのよ」

「目的も知らずにそんな危険そうな呪術に協力なんて、できるかよ」

 

そう言うと鈴鹿は躊躇いがちながらも、ボソボソとしゃべり始めた。

 

「…『泰山府君祭』という呪術は簡単に言うと『死者を蘇生させる』呪術よ」

「…やっぱりか」

 

なんとなく予想はしてたが…まさか当たるとわな…。

 

「…気づいてたの?まあ、土御門家の次期当主なら当然か…」

 

まあ、夜光が行った呪術が半端な物のはず無いし、十二神将のコイツが危険を犯してまでやろうとした術だ。それに『魂の呪術』と聞いて最初に思い当たるのが『死者の蘇生』だよな…

 

「それでお前は、誰を生き返らせたいんだよ?」

「……」

「言えないのなら、無理に聞き出しはしねーよ」

「…お兄ちゃんを生き返らせるのよ。あたしは何があってもお兄ちゃんを生き返らせてみせる」

 

その声は小さいながらもある種の覚悟がにじみ出ていた。

 

ここまでの覚悟をしてるなんてな…

こりゃ、ただの事故で兄貴が死んだとかではなさそうだな。何か裏もありそうだ…

 

「お前、兄貴を生き返らせるって――」

「春虎!」

 

俺の言葉を遮って俺の名前を叫ぶ少女の声が聞こえた。

 

 




今回は短めのお話となっています。

もう少し長くしても良いかなとは思っていたんですが、キリが良さそうなこの辺であげときました。

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