~~SIDE?~~
薄暗い部屋の中心に一人の少女がいた。
「完成した。遂に!」
少女は部屋で一人笑みを浮かべていた。
よく見ると少女の周りは、古めかしい本や中には巻物などが、おびただしい量散乱している。
少女の周りの書物はどれも陰陽術に関する書物ばかりだ。しかし、その書物のどれか一冊でも専門家が見れば驚きで顔色を変えるだろう。
なぜなら、その書物の全てが禁呪指定されたA級の禁書だからだ。
その部屋の中に少女以外でもう一つ動くものがあった。
黒猫である。
ガラスケースに入っておりその中をせわしなく動いている。
ほんの一時間前まで、その心臓は止まっていたというのにもかかわらず。
「テストだけど、手応えは十分。あとは祭壇で
すると少女は電話を取り外線につなぎ、適当な理由をでっち上げ目標をおびき寄せる。
しかし、
「夏季休暇ぁ?…ちっ」
どうやら予想外の返答が返ってきたみたいだ。
少女は苛立たしげに椅子に腰をおろした。椅子から部屋の隅に視線を向ける。
そこにあるのは巨大な業務用冷蔵庫だった。ただし、何重にも呪術的処理のされたこれは、単なる冷蔵庫ではない。
そのとき、背後から小さな物音がした。振り返ってみると、ガラスケース内の黒猫が再び倒れていた。
失敗だった。
少女は奥歯を噛み締めながらも己の心を奮い立たせた。
「大丈夫。祭壇とヤツの霊力さえあれば…絶対に…」
そのとき、
バンッ!
勢いよくドアが蹴破られ、スーツ姿の男たちが雪崩れ込んできた。
「動くな!禁呪使用の現行犯だ!言い逃れはできんぞ!」
銃口を少女に向けながら先頭の男が身分証を提示した。
男たちは拳銃または呪符を構え少女を取り囲む。
万事休す、かと思いきや少女の口はニヤリと弧を描いていた。
「…雑魚どもが」
少女はかねてよりの計画を実行に移した。
~~SIDE春虎~~
「ひ、久しぶり…です…春虎君」
「ひ、久しぶりだな…夏目」
同じ苗字を持つ土御門夏目との再会だった。
「よ、よう。元気だったか?」
「え、ええ。まあ」
「「………」」
き、気まずすぎる!いくら日が落ちていてもでも夏の夕方にこんな冷たい空気を味わうとは思ってもいなかった。
そのくせ背中には、冷や汗が滝のように流れている。
「…なんでここにいるんだ?」
とりあえず黙っているのに耐えられなくなったので簡単な会話をしようと話を振った。
「…夏季休暇です。今日から」
「ああ、それで帰省したのか」
「…はい」
「こっちには、いつまで居るんだ?」
「…あと一週間程度の予定です」
「夏季休暇と言っても短いんだな。陰陽塾だからか?」
「…いえ、夏季休暇自体はもう少しありますが…」
「ならどうして?」
「
「そっか、大変なんだな」
「…いえ」
「「……」」
ダメだ!すぐに会話が終わっちまう!沈黙が心苦しすぎる!胃が痛ぇよ!
クソッ、せめて冬児がいてくれてたら…
とりあえず無難な会話で紛らわそう。
これ以上は胃が限界だ。
「ど、どうだ陰陽塾は楽しいか?」
「…よくわかりません」
「そ、そうか普通の高校とは違うもんな。大変だろ?」
「そうですね。でも陰陽塾がというより『しきたり』の方が…」
その言葉にドキリとした。『しきたり』という言葉をこいつの口から聞くのは随分久しぶりだった。
「え…?」
「い、いえ。何でもありません…」
またもや気まずい!な、なんか違う話題を探さなきゃ…
「と、友達とかできたか?」
「友達、ですか」
「ああ、…まさか?」
「…自分でもよく」
そういえば、コイツ人見知りが激しかったな。おまけにプライドが高いからな。陰陽塾なんてエリートの集まりの中じゃ、なかなか友達も出来ないだろ。
「まさかとは思うが、いじめられてるなんてないよな?」
「あそこは実力さえあれば、軽く見られたりしませんから大丈夫です」
うわ、コイツがクラス内で孤立してるのが簡単に想像できる。
昔から口調は妙に丁寧なくせして平然とキツイ事言うやつだからな。
「そんなんだと友達でき――――あ」
しまった!と思った時は遅かった。恐る恐る夏目の方を覗くと、明らかにムッとした顔の夏目がいた。
「…春虎君はどうなんですか?」
「な、なにが?」
「高校に入って、少しは有益な友人を作れたんですか?」
これは相当怒ってらっしゃる。コイツ根に持つと長いからな…
「い、いや。ダチってのは有益とか関係ないだろ」
「そうですか?」
夏目の挑発的な物言いにムッとなりながらも我慢して穏便に済ませようと笑いながら答えた。
「そうだよ。ダチってのはいつもつるんで、仲良くやってればそれだけでも十分だよ」
「友人とはお互いに競い
「そ、そうと決まったものでも無いだろ」
「いいえ。そうでないのは、春虎君がダラダラと毎日を無意味に過ごしているからです。ですから周りにもどうでもいいような人たちが集まってくるんです」
「……おい」
自分でもはっきりと分るほど声に怒気が混ざった。
一瞬、夏目の瞳に後悔の色が浮かんだが、すぐに気丈な瞳に戻り、
「私は、土御門家の次期当主です。春虎君も、土御門家の立場や現状を知っているでしょう。私には無意味な日々を送る暇も、無益な友人を持つ余裕も無いんです」
大人しかった印象から一転して抜身の日本刀のような静かなけれど威圧感に満ちた迫力があった。
しかし、
『あなたと違って』
そう言われた瞬間、夏目と俺が違うのなんて昔から解りきっていたことなのになぜか、心の底から黒い感情が這い出てきたのを自覚した。
「っ……」
「…春虎君?」
急に黙り込んだ俺を怪訝な眼差しで夏目が見ていた。
「ああ、悪い。……そうだな」
「…え?」
「俺とお前は違うってことだよ」
「っ!?…そ、そうです。あなたと私は違う」
俺が素直に認めたのが信じられないのか一瞬、夏目の瞳が驚愕に開いた。
「ただな、俺のことはどう思おうが勝手だが、俺のダチはどうでもいいような奴でも、無益な奴でもない。ましてや、会ったことも無いお前に、侮蔑されるいわれがある様な奴でも無い。」
「………すいませんでした」
「いや、分かってくれればいいんだ。俺こそすまなかったな。お前の事情は複雑なのに」
「い、いえ。大丈夫です」
「もう暗くなってきたな。家まで送るか?」
「大した距離があるわけではないんで大丈夫です」
「そういや、そうだったな。…あ、そうだ」
「なにか?」
「明日祭りがあるんだけどよ。ほらあの神社でやってたやつ。ガキの頃二人で行ったろ?それがあるんだけど一緒に行かないか?」
「……」
「無理にとは言わねぇよ。でも暇だったら来てくれよ。待ってるからな」
俺は振り向かず階段を下りてゆく。
「…さようなら」
後ろから小さく声が聞こえた。たぶん夏目の事だから頭まで丁寧に下げているんだろう。
俺は振り返らずに片手をあげて答えた。
暗い帰り道を一人で帰っている途中、俺の心の中はすごく荒れていた。
夏目の前では平静を装っていたが夏目に「あなたと違って」と言われた瞬間、俺の心を怒りという感情が支配した。
しかしその怒りは夏目に向けられたものではなく、俺自身に向けられた感情だった。
情けねぇな。
黒い感情を自覚したときなによりそう思った。
俺は夏目に嫉妬している。まだ陰陽師に未練がある。
そう教えられたようなものだったからだ。
情けない。情けない!
自分では諦め切れたと思っていた。一片の未練も残してないと思っていた。
けど、心のどこかでは陰陽師に対する未練を残していた。
俺はどんだけ女々しいんだ。
「はぁ、明日は祭りか」
暗い考えを改めようと明日の楽しい祭りのことを考えようとしたが、結局この日寝るまで俺の心は荒れたままだった。
第四幕目の投稿となります。
オリンピックを見ているせいで徹夜が多い。
そのおかげか時間つぶしのために、投稿するペースが速くなってる気が…
おそらく次回の投稿も三日以内にはできると思います。
ネタ案・ダメだし・誤字脱字修正・常時募集中です。