東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

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書き溜めもあったので早くに投稿することができました。

東京レイヴンズがパチンコになるってマジか…。
やってみたいような…でもギャンブル怖い…。


第四十三幕 決着!そして…

『あぁっとぉ!ここで夏目選手と倉橋選手の戦いがついに決着!結果はまさかのダブルノックアウトだああ!!』

 

夏目と京子の居た方向から強烈な光が迸ったと思ったら、そのすぐ後に大きな歓声と実況が聞こえた。

 

「…まさか相打ちとはな」

 

冬児がその結果に驚いたようにつぶやいた。

 

「へっ。夏目からの援護を期待してたみたいだが、残念だったな」

「てめぇこそ二対一だったからって言い訳ができなくなったんだぜ?」

「「…………っ!!」」

 

『こ、これは壮絶なメンチの切りあい!!お二人の顔が世間の皆様に見せられないようなものになっています!』

 

「…ほらよ」

 

俺は二挺ある銃の片方を冬児の方に投げ渡す。

 

「…どういうつもりだよ?」

 

銃を受け取った冬児は怪訝そうな表情のまま聞いてくる。

 

「やるよ。銃に拳じゃさすがに勝てないなんて言い訳されたら面倒だしな。ハンデとして威力の高い黒銃(ジャッカル)の方を貸してやる」

「…ほう?」

 

俺の言葉を聞いて冬児のこめかみに青筋が浮き、剣呑な雰囲気に変わる。

 

「…ほれ」

 

すると冬児は手にはめていた手甲の片方を俺に投げ渡してきた。

昔の決闘の申し込みかよ。

 

「貸してやるよ。銃を片方俺に貸したせいで手も足も出ませんでした、なんてバカみたいな言い訳できないようにな。ハンデとして利き腕である右手の方をやるよ」

「…せっかくの俺の好意を無駄にするとはなぁ、冬児」

「一対一の公平な勝負じゃ勝てそうにないからって言い訳する用意するとは男らしくねぇな、春虎」

「「……………」」

 

そこで俺たちの会話は途切れ、二人の間に静寂に包まれる。そして、

 

「ぶっ潰す!!」

「ぶっ飛ばす!!」

 

お互いの決意をのせた言葉と共に俺たちは同時に前に出た。

 

「喰らいやがれ!」

 

俺と同じように前に出てくる冬児めがけ、銃の引き金を二回引く。

 

「そんな見え見えの攻撃が当たるかよ!」

 

冬児はその弾丸を素早く身を捻ることで前進する速度を落とさずに回避した。

そしてそのまま俺に銃口を向け、引き金を引こうとするが

 

「――っ!?」

 

すぐに銃口をおろし、後ろへ跳んだ。

感のいい野郎だ。

 

『おや?阿刀選手が追いつめていたのに突然引いたようですが?』

『いやいや、あそこで後ろに跳ばんかったらこの試合はそこで終わってたで』

『ど、どういう事でしょうか?』

『冬児クンの跳んだ辺りの地面、よう見てみ?』

『んん~~?なにやら穴のようなものが二つほどありますが…?』

『それはおそらく先ほど春虎さんが撃った拳銃の弾痕でしょう。どうやらあの銃で出した弾は、春虎さんの意思である程度操れるみたいですね』

『まるで皇帝(エンペラー)みたいやね』

 

俺の攻撃が全部実況と解説に暴露されたんだが…。

 

「まさか銃弾を曲げれるとはなぁ。まあ、お前の呪力でできた弾丸だ。操れても驚きはしないぜ」

 

そういうと冬児は銃口を再び俺に向け、連続で引き金を引く。

ジャッカルの威力を考えたら、掠るのでもヤバそうだな。

 

「イヤァーッ!」

 

向かってくる弾丸に対し、流麗なブリッジ回避!

なんたる反射神経と柔軟性か。ワザマエ!

 

「お前いつからニンジャソウルに憑依されてたんだよ!」

「いや、そもそも俺死んでないし」

 

試合中にもかかわらず、律儀な冬児のツッコミにブリッジ姿勢のまま答える俺。

はたから見たらシュール過ぎるな。

 

「まあいい。けど、そのままいると危ないぜ?」

「なん―――っ!?」

 

俺は言葉を言い終わる前にブリッジの姿勢からバク転でその場を離れる。

直後、さっきまで俺の居た場所に数発の弾丸が上から着弾した。

 

「てめぇ、俺の技を…」

「お前にできて俺にできない道理はないだろ?」

 

弾丸を操るのを見ただけで模倣したって言うのかよ。

まるでコピー忍者かキセキの世代の1人かってんだ。

 

「この程度の技を真似た程度でいい気になるなよ!」

 

今度はこっちの番だとばかりに銃を連射するが、それらはすべて冬児の居る場所より少し前に着弾する。

 

「へっ、どこを狙ってやがるバカ虎!」

「予定通りだよ!弾けろ!」

 

俺の言葉と共にさっき俺の銃撃が着弾した場所が地面もろとも爆発した。

 

「なっ!?」

炸裂弾(メテオラ)だぜ!」

 

爆発とそれによって飛んできた土などに巻き込まれ、冬児は大きく後ろに吹き飛ばされる。

 

「そんなこともできたのかよ…」

「俺の技を真似できるかもしれねぇが、それだと必ず一手後れを取る。そんなんじゃ俺には勝てねぇよ」

 

吹き飛ばされる冬児を追うように距離を詰めて追撃をかける。

 

「だろうな!はなからお前と銃でケリ着けようなんざ思ってねぇよ!」

 

吹き飛んだ冬児もすぐに体勢を立て直し、前に出る。

てか、あのダメージの少なさを見るに炸裂弾(メテオラ)を察知して自分で後ろに跳んでダメージを軽減しやがったな。

化物じみた勘してやがる。

 

「てめえにだけは言われたくねぇ!」

「ナチュラルに心読むんじゃねぇよ!」

 

お互いに手の届く距離まで近づくと、まずは冬児が動いた。

 

「行くぜ!」

 

手甲を付けた左手でフック、アッパーなどのコンビネーションラッシュを繰り出す。

京子の『白桜』を殴り飛ばした威力を考えると、まともに喰らう訳にはいかねぇな。

 

「六式『紙絵』」

「このっ!陰陽術じゃねぇだろその技!」

 

冬児の攻撃をまるで紙のようにひらひらと潜り抜け、攻撃の終わり際にカウンターを仕掛ける。

 

「からの、ベルリンの赤い雨!」

「チッ!」

 

俺の上段からの手刀を冬児は腕をクロスさせ受け止める。

だが、この攻撃はガードさせること自体が目的だ。

 

「下ががら空きだぜ!」

 

本当の狙いは冬児の足。

体勢を崩したところを一気に決めさせてもらう。

 

「春虎ぁ!てめぇのパターンは読めてんだよ!」

「んなっ!?」

 

俺の行動を読んでいた冬児は俺が足払いのために出した足を踏みつけ、俺の動きを縫いとめる。

 

「喰らえ!」

「がはぁっ!」

 

足を踏まれたことによって体勢を崩していた俺は次の冬児の蹴りに反応できず、モロに側頭部に蹴りをくらい吹き飛ばされてしまった。

 

「く、クソがっ!」

 

ふらふらとする頭を押さえつつ立ち上がろうとするが、足に力が入らず膝をついてしまう。

 

「…頭痛がするっ。は…吐き気もだ…くっ…ぐう。な…なんてことだ…この春虎が……気分が悪いだと?この春虎があの冬児に頭を蹴られて…立つことが…立つことができないだと!?」

「ずいぶん余裕そうだなぁ。春虎」

 

にやけた表情を浮かべながらこちら歩いてくる冬児。

だが、その足取りに油断はない。

油断なく、俺の動きに注意しながらとどめを刺すべく近づいてくる。

 

「おばあちゃんが言っていた…」

「はぁ?」

 

ダメージで多少ふらつきながらも、右手の人差し指を上に向けながら立ち上がる。

 

「どんな手をつかおうが………最終的に…勝てばよかろうなのだァァァァッ!!」

「お前のばあちゃんは究極生命体か―――っ!?」

 

そう。冬児は確かに油断なく俺に近づいていた。

俺の動きに集中し、俺が何かしらのアクションを起こしても即座に対応できただろう。

 

だが、その集中が今は命取りだ。

俺だけに集中していては背後から隠形して近づいているコンの存在に気づけないのだから。

 

「しまった!コンか!?」

「その通り!ナイスタイミングだぜコン!」

「あ、あああ有り難きお言葉です!」

 

冬児の背後から隠形を解き、その背中に組み付くコン。

試合当初からコンを出していなかったおかげで、頭の中から完全に抜け落ちていたみたいだな。

 

 

背後から組み付くコンを冬児の力ならすぐにでも引き剥がせるだろうが、その間に生まれるわずかな隙は致命的だ。

 

「くっ!」

「もらった!」

 

冬児はなんとか俺に銃口を向けるが、冬児が引き金を引くよりも早くその腕を払いのけて距離を詰め、そのまま当時の胸ぐらを右手で掴みあげる。

 

「本家とは違うが喰らいな。紅蓮腕!」

 

右手の手甲に呪力を溜め、爆発させる。

 

「ぐぅっ!」

 

胸ぐらを掴まれていたせいでモロに爆発を食らった冬児は、そのまま後ろに倒れかけるがなんとか寸前で踏ん張り、体勢を立て直した。

 

てか、ノリで使ったけど俺の手も凄い熱いし痛いんだけど。

 

「…やって、くれるじゃねぇか」

「てめぇだって思いっきり蹴っ飛ばしてきたじゃねぇか。お相子だよお相子」

 

爆発で顔に付いた煤を拭いながら、冬児は立ち上がる。

 

「てか、思いっきり至近距離で爆発食らわした筈なんだがな。大して効いてないってどういうことだよ」

「俺のタフさはお前がよく知ってるだろ?それにお前だってさっきのダメージもう抜けてるじゃねぇか」

 

鍛えてますから。

 

「そろそろ本気出せよ春虎。久々にガチで闘り合おうぜ」

 

いつもみたいに人を食ったような笑みを浮かべながらも、冬児の目はギラギラと闘争心をむき出しにしていた。

 

はぁ…、冬児に火が着いちまったか。

久々に思いっきり暴れられるからか、その火の勢いは強く、簡単に鎮火できそうにない。

 

しかし、どうしたもんか…。

下らない喧嘩ならともかく、試合の場とは言えダチと人前で闘り合うのもなぁ。

 

しかも相手はあの冬児だし…。

 

陰陽塾に入る前、大体のトラブルの原因になっていた冬児。

俺を騙して(もう慣れきってしまったが)執事服なんか着せた冬児。

夏目を煽って暴走させた冬児。

 

 

……あれ?ぶっ殺しても問題ないな。

 

「良いぜ冬児。久々に思いっきり()ってやるよ」

「行くぜ春虎!」

 

俺の内心に気づいているのか、冬児は獰猛な笑みを浮かべ前に出ながら銃の引き金を引く。

弾丸をかわすために射線から身を外そうとしたが、その弾丸は俺に届く前に空中で大きな爆発を起こした。

 

「俺の炸裂弾(メテオラ)まで真似しやがったかっ」

 

爆発範囲内に俺がいなかったのでダメージはないが、爆音と煙で冬児の姿がかき消された。

姿を消すと同時に隠形で気配も消しているところを見ると、むしろ姿を消すのが狙いか。

 

「このまま隙をついて攻撃するのが目的だろうが、甘いぜ。コン、火だ!」

「は、はい!」

 

コンにいくつかの狐火を出させ、自分自身も持っていた火行符で火を起こす。

 

「巻き上がれぇ!フレアトーネード!」

 

自身を中心にコンの狐火とか行符を融合させた巨大な炎の竜巻を発生させ、煙を吹き飛ばすと同時に全方位に炎を飛ばす。

 

「下手な小細工なんか通じな―――っ!?」

「俺の居場所が分からなけりゃ、全方位に攻撃をばらまく。言ったろ、お前のパターンは読めてんだよ!」

「冬児っ!」

 

自身の前面に障壁を集中展開して炎の竜巻の中を突っ切ってきやがった。

煙を払い視界を確保するために選んだ全方位攻撃(フレアトーネード)だったが、その分一ヵ所へのダメージが薄いのを見抜かれたか。

 

「とった!」

「舐めるなぁ!」

 

飛び込んできた冬児の攻撃に大技を出した直後の俺は防御が間に合うはずもなく、その拳を頬に叩き込まれる。

だが冬児の拳が当たる瞬間、俺は拳の軌道に逆らわないように首をひねりパンチの威力を殺した。

 

当然冬児は俺が威力を殺したことにすぐ気付いたが、拳を振りぬいた後ではどうしようもない。

 

「お返しだ!」

「グゥッ!?」

 

そのまま無防備な状態の冬児に俺はボディブローを打ち込んだ。

ガードも回避もできなかった状態での攻撃は効いたのか、冬児の身体がくの字に折れ、たたらを踏んで後退する。

 

「ドンドン行かせてもらうぜ!」

 

後退した冬児に銃口を向け、そのまま数回引き金を引く。

何も細工をしていない普通の呪力で作った弾だが、体勢を崩している冬児にかわす事はできず、発射したすべての弾が冬児に命中した…はずだった。

 

「は?」

 

思わず、といった風に俺の口から声が漏れる。

なぜなら命中するはずだった弾がすべて、冬児に当たる直前にキンッと言う甲高い音と共に防がれたからだ。

 

「防がれた!?一体どうやって…」

 

俺が銃を撃ってから冬児が何かするようなそぶりや気配はなかった。

一体何が俺の攻撃を――――。

 

突然の事態に必死に考えを巡らせていたが、それは強制的に中断させられた。

あり得ない速度で俺の目の前に現れた冬児の存在によって。

 

「んなっ―――ガァッ!?」

 

いきなり現れた冬児にそのまま殴りかかられ、咄嗟に右腕でガードするもそのまま後ろに吹き飛ばされた。

 

し、しかもなんだこの威力っ。

今までの攻撃とは重さが段違いだぞ…。

 

攻撃を受け止めた左腕に激痛が走る。

さらに驚くべきことは今の攻撃が手甲を付けた左手での攻撃ではなく、何も付けてない素手の右腕による攻撃だったってことだ。

 

「…いったい何しやがった」

「とっておきの切り札ってやつだ」

 

そういう冬児の口ぶりこそいつも通りの軽い調子だが、息は荒く歯を食いしばり眉間にしわも寄っている。

おそらくは急激なパワーアップの代償か、その制御に苦しんでると言ったところか。

 

そして俺はその急激なパワーアップに心当たりがあった。

 

「…まさかお前」

 

よく見ればいつも冬児がしているヘアバンドに不自然に盛り上がっている箇所がある。

 

「御託はいいから早く続きをやろうぜ」

「…そうだな。全力のお前を叩き潰してやるぜ」

 

珍しく急かすような冬児の言葉。

おそらくあの状態は長い時間維持できないのだろう。

 

ならばこそ、その状態の冬児から勝利を奪ってぐうの音も出ないほどの敗北を与えてやる。

まあ、この俺の思考もあいつの予想通りな気がするけど…。

 

冬児も俺の意図を察したのか、ニヤリとした好戦的な笑みを浮かべる。

 

「行くぜ冬児!」

「上等だぜ春虎!」

 

勢いよく啖呵を切った俺は銃口を冬児に突きつけ数回引き金を引く。

 

「そんな攻撃!」

 

俺の銃撃に対して冬児は先ほど見せた防御力を生かし、弾丸を弾きながらに前進してくる。

そして、弾丸を弾くたびに冬児の周囲が歪み、弾丸から冬児を守っていたものの正体がぼんやりと見えてきた。

 

鎧だ。

半透明で分かりにくいが、呪力で出来た鎧のようなものを冬児が身に纏っている。

 

「そういうことなら、これでどうだ!」

 

構わず前進してくる冬児に俺はさらに銃撃を放つ。

今度の攻撃はまっすぐ放つのではなく、軌道を操って冬児の肘や膝の内側、首元などの実際の鎧だったら防御の薄い場所を狙った。

 

だが、

 

「甘ぇんだよ!」

 

俺の弾丸は狙い通りの場所に命中したが、冬児の前進速度は下がることなく、またダメージが入った様子もない。

チッ。あの鎧、思ったより良い性能してやがるぜ。

 

「オラァ!!」

「おお!?」

 

突進の勢いそのままに殴りかかってきた冬児の拳を、上体を反らすことで間一髪でかわす。

空振りの風切り音が恐ろしすぎるっての!

 

「普通にやって効かないなら、この距離ならどうだ!」

 

反らした上体を戻す勢いを利用し、銃を冬児のボディに叩き込む。

 

「銃身が焼け付くまで撃ち続けてやる!」

 

そのまま冬児の腹部に銃口を密着させたまま引き金を連続で引く。

 

「ぐぅ!?」

 

この距離で銃撃を浴びせられればさすがの防御力も完全には防げないのか、冬児の顔が苦痛に歪んだ。

 

「調子に、乗るなぁ!」

 

俺の攻撃を嫌った冬児は攻撃を食らいながらも、強引に腕を振り回して暴れ始める。

 

「おぉっと」

 

冬児のらしくない行動に面を食らいながらも攻撃を回避して距離をとった。

 

「今のは痛かったぜ春虎ぁ!」

 

俺の攻撃に対し、冬児は激昂しながら叫ぶ。

 

…やっぱりおかしい。

最初は久々の本気喧嘩で気持ちが昂ってるだけかと思っていたけど、どうやら違うみたいだな。

考えてみればいくらあの防御力があるとしても、普段の冬児なら真正面からただ突っ込むという選択はしないはず。

 

さっきの腕を振り回す行為もそうだ。

いくらテンションが上がっていたとしても、明らかに普段に比べて感情的すぎる。

 

考えられるとすれば、今の冬児の状態が原因か?

何はともあれ、勝機が見えたな。

 

いくら身体能力が格段に上がったところで、それを使う思考が熱くなってちゃ脅威も半減だ。

 

「ガアアアァァ!」

「そんなテレフォンパンチが当たるかよ!」

 

冬児の右の大振りをかわし、懐に潜り込む。

今の冬児に普通の攻撃は効果が薄い。

だったら…!

 

「ハァッ!」

 

地面を踏み砕く勢いで踏み込み、拳ではなく手のひらを押し付けるように突く。

 

「グ、ガフゥ!?」

 

ズンッという重い音の後、冬児は突かれた場所を抑えながら後ずさり苦しそうに咳き込んだ。

 

「鎧は堅くても、中身はそうじゃねぇよな?」

「は、春虎っ、テメェいったい何をしやがった!?」

「人呼んで、呪力発勁!」

 

中国拳法の『発勁』、古武術で言う『鎧通し』の要領で気の代わりに呪力を相手の体内に直接ぶつける荒業。

ぶっつけ本番だったが、上手くいったみたいだな。

 

「もういっちょ行くぜ!」

「っ!?させるか!」

 

さっきのダメージから警戒していたのか、俺の掛け声に過敏に反応した冬児が距離を詰めようとする俺に対し、すぐさま右腕を振るう。

 

力任せの行為だが、今の冬児の膂力で行えばかなりの威力と速度が出る攻撃だ。

だが、

 

「なんでだ!なんで当たらねぇ!?」

 

苛立った声とともに二発、三発と攻撃を繰り出すが、その攻撃は一度も俺にあたることはない。

水平に薙ぎ払われた右腕を屈んでかわし、その腕を掴んで一本背負いの要領で地面にたたきつける。

 

「がはっ!?」

「…今回はとりあえず俺の勝ちだな」

 

地面にたたきつけられ、無防備な冬児にとどめの一撃を振りかぶる。

 

「…クソッ」

「出力全開!」

 

先ほどと同様に発勁を冬児に叩き込む。

強力な一撃を食らった反動で冬児の手足が一瞬跳ねるが、完全に意識を失ったのかその後はパタリと地面に落ちた。

 

『ここで決着ううう!!一年生同士の戦いを制して見事優勝したのは土御門春虎・倉橋京子ペアだあああ!!』

 

実況の宣言と共に観客席から大きな歓声が沸く。

 

「やったわね!春虎」

「京子。もう大丈夫なのか?」

 

勝負の内容をしっかり見てたわけじゃないが、あの夏目と引き分けたと言うことは相当な無茶をしたと思ったんだが。

 

「自爆まがいに意識を飛ばす呪術を使っただけよ。あたしも夏目君もケガはないわ」

 

自爆まがいって…。

サラリとそう言う京子の後ろにはうつむいている夏目が立っている。

 

「な、夏目?」

「…うぅ」

 

まだ暴走状態なのかと恐る恐る声をかけてみるが、返ってきたのは覇気の無いうなり声だった。

 

「な、夏目君、大丈夫?もしかしてあたしの呪術に何か不具合が?」

「あ~。いや、多分そうじゃないから大丈夫だ」

 

うつむいたままの夏目の様子に自分の呪術が原因じゃないかとオロオロする京子。

だが、俺は今の夏目の様子に心当たりがあった。

心当たりというか、同じ状態の夏目を小さいころによく見たことがある。

 

それは家でゲームをして俺が連戦連勝してた時や、かけっこで俺がぶっちぎった時だったり。

つまり、今の夏目は負けたのが悔しくて拗ねている状態ってわけだ。

 

そんな夏目の様子に可笑しさと懐かしさがこみ上げて、クスリと笑いがこぼれる。

 

「…なんですか、人のことを見て笑うなんて」

「いや、ちょっと懐かしくてよ。夏目の拗ねてる様子を見たのはガキの頃以来だったからな」

「なっ!?拗ねてなんていません!」

 

俺の言葉をムキになって否定するが、その否定の仕方まで昔と同じなのだから余計に笑えてくる。

 

「拗ねる?あのクールな夏目君が?」

 

昔と変わらないものを見つけ懐かしさに浸っていると、多少困惑した面持ちで京子が呟いていた。

 

「…なにこの気持ち。あのクールな夏目君が急に可愛く見えてくるなんて。これが富士野さんと木府さんの言っていた『ギャップ萌え』って奴なのかしら!?」

 

箱入り娘(お嬢様)になんて知識を教えてんだよあの寮母コンビは!?

まさか、うちのクラスから聞こえるそういう類の発言はあの人らが原因か!?

 

「…人が気絶してる傍でよくもそこまではしゃげるもんだな」

 

俺が寮母コンビの所業に頭を悩ませていると、足元から不機嫌な低い声が聞こえてきた。

 

「もう起きたのか…。本気で打ち込んだのにどんな耐久力(タフネス)してるんだよ」

「本気ねぇ…」

 

そう言うと冬児は上体を起こし、視線を鋭いものにしながら口を開いた。

 

「春虎、お前全力じゃなかったろ?」

「…まぁな」

 

…気づいてたのか。

 

「…俺の力はお前に届かなかったか」

「ああ、まったくこれっぽっちも届いてないぜ」

 

割りと危なかった場面もあったが、それは黙っておこう。

なんかあの冬児相手にギリギリだったとかいったら負けた気がするし。

 

「第一、俺に全力を出させたいなら自分が本気を出せよ」

「…何言ってんだ。あれが俺の本気――」

「気づいてないのか?お前あの状態になってから一回も手甲を着けた左手で攻撃してないぞ」

「―――っ」

「そんな手を抜いた状態を本気とは呼べねぇだろ?」

 

俺の言葉を聞いてやっと気づいたのか、冬児は目を見開いた。

 

「まあ、無意識だったんだろうけどもな。そりゃ、あの膂力に呪具の力まで乗ったら人間なんかひとたまりも無いだろうが、自分の力にビビってる奴にこの俺が負けるわけ無いだろ」

「…ずいぶん好きかって言ってくれるな」

「それが勝者の特権だからな」

 

にやりとした笑みを浮かべ、座り込んだ体勢の冬児に手を差し出す。

 

「そんでもって、これで戦績は俺の勝ち越しだな」

「言ってろ。すぐにこの力をものにして追い抜いてやるよ」

 

俺の言葉に同じくにやりとした表情で返しながら俺の手を掴んだ冬児。

こりゃ、再戦がたのしみだな。

 

「そういえば、この後って表彰式とかあったりするのか?」

「どうかしら?結構な規模の試合だったし多分あるとは思うけど――――」

 

俺たちが予定のわからないこれからについて話し合っていた時だった。

急に呪連場全体の照明が落ち、辺りは暗闇に包まれた。

 

「きゃっ!?」

「な、なんだ!?」

「停電…?」

「いったい何が…」

 

突然の事態に俺たちだけではなく、会場中がざわざわと騒ぎ出す。

 

『まだや!まだ終わらんでえ!』

 

そんな時、拡声器を通した大声が会場に響くと同時にスポットライトがその声のもとを照らしだす。

 

「大友先生に藤原先生?」

 

スポットライトの先には、バアアァァァンと言うような効果音が似合う奇妙な冒険風のポーズを決めた大友先生と実技担当講師である藤原先生が少し恥ずかしそうに立っていた。

 

「…いったい何やろうってんですか?」

 

こんな演出の凝った登場をしてきた先生たちにいやな予感をヒシヒシと感じつつ、質問を口にする。

 

「ふっふっふ。それはやなぁ――――」

 

『観客の皆さま!これよりサプライズのエキシビションマッチを開始します!対戦カードは決勝に残った二組の合同チームと陰陽塾が誇る講師ペアによる四対二の変則マッチだあああ!』

 

先生たちの登場で混乱する会場にそんな実況の声が響く。

そして、その意味を理解すると呆然とする俺たちとは逆に会場には大きな歓声が沸き始めた。

 

「と言うことや。さあ、最後の試合の時間やで」

 

そういって大友先生はにっこりとした笑みを浮かべた。

 




外伝に引き続き、何とか早めに投稿することができました。
今回は決勝戦での春虎と冬児の戦いです。
冬児の力は発展途上ということで、ごちゃごちゃさせずにあっさり勝敗が付くようにしてみました。
それと、今回は以前使った武器を冬児に持たせましたが、以降は冬児にも色々とネタ武器などを持たせようとも考えています。

次回の更新は先日投降した外伝の続きか本編の続きかはわかりませんが、なるべく早くに更新できるように致します。

ここまで読了感謝です。
ネタ案・ダメだし・誤字脱字修正・常時募集中です。

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