申し訳ございません。
『さあ!遂にタッグバトルトーナメントも大詰め!残すは決勝戦のみとなりました!!』
実況の声に会場がワァっと湧きだつ。
『それでは!トーナメントを勝ち上がってきた、猛者たちに入場してもらいましょう!先ずは数多の上級生を打ち倒し、ここまで勝ち上がってきたダークホース!土御門・倉橋の一年生ペアだああ!!』
実況のセリフを受け、俺たちが呪連場に姿を現すと一際大きな歓声が上がる。
「おお、すごい人の数だな。準決勝の時より多いだろ」
「この決勝が終わったらそのまま『五芒祭』の閉祭式もあるみたいね。それのせいか、たぶん今陰陽塾に居る人は全員ここに集まってるんじゃないかしら?」
そりゃ、すごい人数になるわけだ。
『そして、その対戦相手はこちらもダークホース!天才と言う噂は本当だった!圧倒的実力で対戦相手を屠ってきたこちらも一年生の土御門・阿刀ペアだああ!!』
………ん?
『なんと、決勝戦はまさかの全員一年生!これから彼らはどんなバトルを見せてくれるのでしょうか!』
実況が何やら騒いでるが、俺の耳には全く入ってこない。
いまおれは目の前の状況を理解するだけで精一杯だ。
「な、なんで夏目君と冬児が出てくるのよ!?」
驚いた京子の声で俺の
「な、夏目!?なんでお前がしかも冬児とペアを組んで出場してるんだよ!?」
これじゃあ、何のために俺は出場したんだ。
俺の言葉に夏目はうつむいたままぼそりと何かを言った。
「…………じゃないか」
「え?」
「自分の
…………は?
「は、春虎。あたし今変なセリフが夏目君の方から夏目君の声で聞こえたんだけど…連戦で疲れてるのかしら?」
「……ハッ!?」
い、いかんまたもや
てか、どういうことだよ!夏目のやつ、なぜかは知らないが変な方向に暴走してやがる!
しかも矛先俺じゃねぇか!
「てか、夏目の相手なんて無理だろ!?竜を使われたらお終いじゃねえか!」
「安心してよ春虎。『北斗』は使わないから。先生たちにも禁止されたし……すぐに倒しちゃったら調教の意味がないもの」
「な、夏目君の目に光がないんだけど…それも気のせいよね?」
京子が若干引きながら言うが、気のせいではない。むしろ気のせいであってほしかった。
「お、おい冬児!なんでこんな事になってるんだよ!?」
「あ~、その、なんだ。……スマン、煽りすぎた」
「お前が原因か!?」
いったい何しやがったんだあいつ!
『おおっとぉ?何やら選手たちの様子がおかしい様ですが?』
『夏目クンと春虎クンは土御門家の本家と分家の間柄やからね。もしかしたら色々と僕らの知らへん確執があるのかもしれへんな』
大友先生は真面目な表情でそんなことを言った。
だが、俺には分かる。真面目な表情の裏では今にも腹を抱えそうなほど笑っていることを。
あの様子じゃ夏目が出てるの知ってて黙ってやがったな。
しかもなにが本家と分家の確執だ!変に煽るようなコメントしやがって!
『ではこの勝負、春虎さんたちが勝ったら分家による下剋上と言うわけですね』
塾長のその一言に観客がざわざわと騒がしくなった。
観客席では様々な憶測が飛び交っているのか『虐げられてきた分家の反逆』や『本家による圧制が生んだ悲劇』などのワードが聞こえてくる。
「おいちょっと待て!なんだその時代劇にでも使われそうな『さあ、それではそろそろ決勝戦を始めたいと思います!』
弁解の時間すら与えてもらえないのか!
『それではお待たせしました!タッグトーナメント決勝戦!!バトルスタート!!』
「こうなったらやってやる!行くぞ京子!」
「ああもう!分かったわよ!」
「「
試合が始まると同時に火行符を冬児めがけて投げつける。
「させません!水剋火、
だが、二人がかりで出した炎は夏目の水行符によって簡単に打ち消された。
「二人がかりの火行符を一人で!?」
「慌てんな!相手は夏目、これぐらい予想の範囲内だろ」
「そ、そうね」
「前に出る。フォロー頼むぜ!」
銃を構え、前に走る。
先ず狙うは夏目だ。
「喰らえ夏目!ハイ・メガ・キャノン!!」
「その攻撃は三回戦の時に見せてもらったよ!
夏目が前方に五芒星を描くとその五芒星が巨大化し、障壁へと変化した。
その障壁に俺の攻撃がぶつかるが、手ごたえでわかる。
ビクともしてねぇな…。
「三年生だって障壁三枚でぎりぎり止めた攻撃だぞ…」
「おいおい、お前らの相手は夏目だけじゃないぜ!」
「と、冬児っ!?」
油断していた隙にいつの間にか距離を詰めていた冬児が拳を振り上げていた。
「危ない春虎!」
拳が俺にぶつかる直前、間に割り込んだ『白桜』が刀の腹で冬児の攻撃を受け止める。
が、
「オラァ!」
「なに!?」
冬児はそのまま拳を振りぬき、防御した『白桜』ごと俺を吹き飛ばした。
「くっ」
「春虎!?」
「大丈夫だ、直撃はしてないからダメージは無い」
心配してくる京子に手を上げて無事なことを伝える。
「良かった。けど、なんなのあのパワー。あたしの『白桜』ごと吹き飛ばしたわよ?」
確かに。護法を吹き飛ばすなんて純粋な人間の膂力じゃ無理なはずだが…。
「は、春虎様」
「どうしたコン?」
「あ、あの手に着けている手甲、以前に春虎様がお使いになっていたものかと」
「んん?」
コンに言われ冬児の手をよく見ると、確かにオープンフィンガーグローブを着けている。
しかもその甲の部分には
「あれって前に夜光信者の呪捜官に襲われたときに春虎が使ってた呪具じゃ!?」
「な、なんであれを冬児が…っ!」
そこで気づき、バッと実況席の方を向くと大友先生がすごくいい笑顔と共にサムズアップしていた。
「あ、あのクソ教師があああああぁぁぁああ!!」
「ど、どうしたのよ春虎!?」
「どうしたもこうしたも、大友先生が冬児に武器を流してやがったんだよ!」
「そ、そんな悪徳武器商人みたいな言い方しないでも…」
利益じゃなくて面白半分でやってる分、むしろそれ以上に性質は悪いと思うがな。
絶対に後であのにやけ面に一発入れてやる。
「よそ見してんなよ!今度はこっちから行くぜ!」
そんな会話をしていると、冬児がファイティングポーズをとりながらこちらに駈け出してきた。
「馬鹿正直に真正面からきてやれると思ってんのか!」
走ってくる冬児に銃口を向け、引き金を引く。
「俺一人だったらな!」
「そういうことです!
後ろに控えてた夏目が小さな障壁を複数展開させる。
障壁は俺と冬児の間にまるで障害物のように乱立し、俺の放った弾はすべて冬児に当たることはなく、障壁に当たって霧散した。
そしてその障害物をうまく縫うようにして、冬児が俺たちに接近する。
「京子下がれ!俺が相手する!」
「わ、分かったわ」
接近を止められないと悟り、接近戦で対処すべく銃を逆手に持った構えをとる。
「拳銃で俺と接近戦するつもりか!」
「俺のガン=カタ見せてやるぜ!」
接近と同時に繰り出された冬児の右ストレートを左腕でいなし、がら空きの腹部へカウンターで右フックを繰り出す。
「セァッ!」
だが、冬児はその右フックを体を捻ることで回避し、その捻った回転の勢いで左の裏拳を繰り出してきた。
「クッ!」
俺はその裏拳を回避せずに受け止め、その腕をつかんで冬児の動きを封じる。
「今だ!」
「分かってるわよ!『白桜』『黒楓』!」
冬児の片腕と動きを封じた隙に、京子が『白桜』と『黒楓』で挟撃を仕掛けた。
「チィッ!」
冬児は『黒楓』の薙刀による攻撃を自由な右腕で弾くが、まだ反対側からくる『白桜』の刀が残っている。
「もらったわよ、冬児!」
「ぼくの事を忘れてもらっちゃ困るよ!縛れ!
冬児に向かって刀を振り下ろそうとしていた『白桜』に夏目の放った木行符が植物の蔓に変じ、『白桜』に絡みついて動きを封じた。
「夏目か!?――コン!」
「御任せ下さい!ハァッ!」
俺の呼びかけに素早くコンが姿を現し、『白桜』に絡みついている蔓を小刀で切り火球を出して燃やし尽くす。
コンの素早い対応で『白桜』の拘束は解けたが稼がれた時間は多く、その隙に冬児は俺の腕を払い、後ろに飛んで距離をとってしまった。
「チッ!夏目のやつ、意外と上手く冬児と連携しやがるな」
戦力の総合力としては、夏目が他より飛びぬけている分あっちが有利だ。
長期戦になったらその差はより顕著に出てくるだろうな。
「…勝ち筋があるとしたら短期決戦か」
だが、それもかなり厳しい。
まず、まともに正面衝突は駄目だ。
さっきみたいに俺の攻撃が夏目に防がれ、冬児が接近するのパターンになるはずだ。
それを繰り返してたら、術の引き出しが多い夏目にあっという間に対応されちまう。
二人を分断するか…。
いや、それもダメだな。
俺も京子も一対一じゃ夏目を抑えてられない。
何か他に良い作戦はないかと考え始めた時、
「あたしが夏目君とやるわ」
京子がそう切り出した。
「きょ、京子?」
「まともにぶつかりあったらあたし達の負けは確実よ。だったら分断して戦うしかないじゃない」
「それは俺も考えたが、夏目相手じゃ―――」
「絡め手に弱いあんたが夏目君と戦うよりか、まだあたしの方が勝ち目があるわ。それにとっておきの策もあるんだから」
「……任せていいんだな?」
「大船に乗ったつもりでいなさい!」
そういって胸を張る京子に後は任せ、俺は冬児と夏目を分断するための行動に移った。
「ハイ・メガ・キャノン!!」
「同じ攻撃をいくらしようと無駄だよ!
俺の銃撃に合わせ夏目が障壁を展開する。
「そんなことは分かってるよ!今回は狙いが違うぜ!」
そう。今回狙ったのは夏目と冬児ではなく、その手前の地面。
俺の攻撃は夏目たちの手前に着弾し、大きな音と共に土煙を巻き上げた。
「いくら目くらましをしても無意味だよ!春虎の攻撃は僕の障壁を突破できないんだからね!」
確かに夏目の言うとおり、このまま銃による攻撃をしても障壁は突破できない。
しかし、この土煙には目くらまし以外の目的もある。
俺の銃撃が地面に着弾した瞬間、確かに俺は見た。
衝撃で吹き飛んだ土塊が夏目の障壁をすり抜けて行ったのを。
つまり、あの障壁は呪力を使用していない物は防げないってことだ。
プロの呪捜官ならば相手が拳銃などを所持していた場合などを考えるが、今回は学生同士の試合だ。
さすがの夏目もそんな武器が持ち込まれるとは考えていなかったのだろう。
だが、さっきまでの戦いでそこら辺の地面には大量の
「喰らいやがれ!」
さすがにまわりには隠しているものの、女子に土塊を投げつけるのは良心が傷むので冬児が立っていたあたりに土塊を投げつけまくる。
「ぐぉっ!?」
「冬児!?どうしたの!?」
「あいつ、その辺に転がってる土塊投げてきやがった!」
「な、なんて原始的な…。だったら、それも防げるように新しい障壁を―――」
「させないわ!
夏目が俺の攻撃の正体を悟り、すぐさま新しい障壁に張り替えようとした瞬間、京子が夏目に向かって数枚の呪符を投じた。
「さすがの夏目君でも、このレベルの障壁を二つ同時展開は無理でしょ?」
「く、倉橋さんっ!」
夏目が京子にとどめられている間にも俺は冬児に向かって土塊を投げ続ける。
「クソッ!」
さすがに見えないところからの攻撃を嫌ったのか、冬児が土煙の範囲外まで走るのを煙の流れから察知しその後を追った。
「っ!春虎!!」
「行かせないわよ。夏目君」
土煙が晴れ、離れていく俺と冬児を追おうと動いた夏目の前に京子が立ちふさがる。
そっちは任せたぜ、京子。
「ふぅ。土塊を投げつけてくるなんて原始人みたいな攻撃してきやがってよ」
「…なんで夏目の方に逃げなかったんだ?」
煙の外まで走り抜け、こちらを向いた冬児に俺は疑問を投げかけた。
「夏目の方まで逃げれば、俺が土塊を投げつけられないってお前なら分ったろ?」
「まぁな。でも万が一の可能性もあったし、それに…」
「…それに?」
「お前が俺に
そう苦笑しながら冬児は拳を構える。
それに対し俺も銃を構えながら言った。
「知らねぇのか?『銃は
「拳じゃなくて剣な。それに武器の差はあっても、俺とお前の今までの戦績は俺の勝ち越しなんだぜ?」
何言ってんだこいつ。
やれやれといった具合に頭を振る冬児に、俺はそんな事しか思わなかった。
「寝ぼけてんなよ冬児。戦績で勝ち越してるのは俺だろうがよ」
「あぁ?寝ぼけてんのはお前だろ春虎。それとも自分の戦績すら覚えてられないほどバカだったのか?」
「………もうボケが来てるとはな。病院を探しといたほうがいいんじゃないのか。冬児」
「………ああ、お前がこれから俺にやられて入院することになる病院なら探しといてやるよ。春虎」
この試合が始まって一番の殺気を目の前の相手に叩きつけ合う。
「ぶっ飛ばす!」
「ぶちのめす!」
相手に対する決意を口にすると同時に俺たちは前に出た。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
~side京子~
『おおっと!?ここで土御門・倉橋ペアが相手を分断しての個人戦を仕掛けてきた!』
『ほぉ~。夏目クンの相手をするのは京子クンかいな』
『京子さんったら思い切った選択をしましたね』
『土御門 夏目選手は今までの試合で上級生すら圧倒するような戦いぶりを披露していましたが、倉橋選手に勝算はあるのでしょうか?』
『それは何とも言えへんな』
『陰陽師同士の戦いと言うものは、より多くの術が使え、より強い式神を持っているからと言って勝てるものではありませんからね』
『性能の違いが戦力の決定的差ではないってやつやね』
『な、なるほど』
さて、夏目君の前に立ちふさがったのはいいけど、どうしよう。
策はあるといったけど、それは最後の切り札だし…。
「…倉橋さん」
「な、何かしら夏目君」
「そこを退いてくれないかな?」
「…ごめんなさい。夏目君のいう事でもそれは聞けないわ」
「…そうかい。じゃあ、君を倒して進むとするよ」
「っ!?」
夏目君の言葉を聞いた瞬間、あたしは己の護法二体に攻撃の指示を出した。
今、あたしが夏目君に勝てる要素があるとしたら『白桜』と『黒楓』、この二体の護法を使える手数の多さと言う点のみだ。
ならばその一点を最大限利用する!
「『白桜』・『黒楓』!!」
二体の護法を時間差をつけ、左右から切りかからせた。
さらに、その攻撃に少し遅らせてあたし自身が呪符を投げつける。
時間差をつけた物理と呪術の波状攻撃。さすがの夏目君でもこれを捌こうとしたら多少の隙が―――
「『吽』」
「きゃあ!?」
一言だった。
夏目君が一言だけ真言を唱えた瞬間、夏目君を中心に呪力の暴風が巻き起こり、『白桜』と『黒楓』は吹き飛ばされ、投げた呪符も夏目君の呪力を受けて塵となった。
あたし自身もその余波で尻餅をつく。
ま、まさか術ですらない呪力を放出するだけの力技で攻撃を止められるなんて…。
「実力の違いは分かったよね?出来れば降参してもらいたいんだけど…」
「な、舐めないで夏目君。あたしは試合に勝つためにここに居るんだから!」
そう叫んで立ち上がり、再び呪符を構えようとホルダーに伸ばした手はなぜか空を切った。
「じゅ、呪符は!?」
焦って周りを見渡すと、さっき倒れていたところに呪符ホルダーが落ちていてその周りに呪符が散乱していた。
「どうやら、さっき倒れたときに落としたみたいだね」
「は、『白桜』!『黒楓』!」
護法式を夏目君に向かわせ、その間に呪符を拾おうとあたしは走り出した。
「させないよ!縛れ!
「なっ!?」
が、あと少しで呪符に手が届くというところで、夏目君の木行符から出た蔓があたしの手足に絡みつき動けなくなってしまった。
見れば『白桜』と『黒楓』も同じように蔓に絡め取られている。
「残念だったね。これでぼくの勝ちだよ」
動けないあたしを前にして、夏目君は呪符を一枚手に持ち近づいてきた。
おそらく、あの呪符で意識を混濁させる呪術をかけるつもりね。
「…春虎が言ってたわ」
「…なに?」
あたしの呟きにこちらに伸ばされていた呪符を持った夏目君の手が止まった。
「『相手が勝利を確信した時、そいつはすでに敗北している』ってね」
「この期に及んでいったい何を―――っ!?」
どうやら夏目君も足元に散らばっている呪符が
けど、もう遅いわ。
「ま、まさか、呪符を落としたのはわざとで、ぼくをここに誘導するために!?」
「そうよ。迫真の演技だったでしょ?」
「この距離で発動すれば倉橋さんだって!」
「承知の上よ!
術を発動させた瞬間、散らばっていた呪符からまばゆい光が迸り、それと同時に急速に意識が遠のいて行く。
気絶しそうになったあたしの視界に最後見えたものは、気を失って倒れ込む夏目君の姿だった。
決勝戦は長くなりそうだったのに加え、投稿期間が大分開いてしまったため少し短いながらも二話に分割して投稿することにしました。
次の更新は三月中に行いたいと思います。
此処まで読了感謝です。
誤字脱字・ネタ案・ダメだし常時募集してます。