活動報告でも書きましたが、就活も終わりましたので更新ペースも上がると思います。
『お待たせしました!遂にタッグトーナメント準決勝のお時間です!解説には引き続き大友先生と倉橋塾長をお呼びしています!』
『はい、よろしゅう』
『よろしくお願いします』
『準決勝からは広い呪練場を丸ごと使った試合会場となります!ここで思う存分暴れてもらいましょう!では、選手入場です!』
入場と叫ぶ実況の声が聞こえ、俺と京子はゲートへと続く道を歩き始めた。
「呪練場丸ごとってのは随分広いな」
「これだけ広いとお互いの距離も大切になってくるわ。気を付けなさいよ?」
「ああ、ここまで来たんだ。優勝まであと二つ、やってやろうぜ」
「ええ、もちろん」
京子と拳を軽く叩き合わせ、ゲートを抜ける。
『さあ!まず出てきたのは、戦い方は破天荒!けれど実力は本物!土御門・倉橋の一年生ペアだああああ!』
呪練場に出ると実況の声と共に観客の大きな歓声が聞こえる。
「す、凄い歓声だな」
「まぁ、この『五芒祭』のメインイベントみたいなものだもの。ほとんどのお客さんが集まってるんでしょ」
「なるほどねぇ」
『続きまして入場するはその対戦相手!圧倒的実力で対戦相手を撃破してきた小倉・桜木の三年生ペアだあああ!』
実況の紹介と共に向かい側のゲートから、対戦相手である二人の男子生徒が現れる。
現れた二人はそれぞれ特徴があり、一人は背格好は平凡だがその身長を優に超える竹刀袋の様な物を持っており、もう一人はその手に何も持ってはいないが下駄に紋付羽織袴といった礼装を身に着けていた。
「すげぇ人の量だな!」
「…あまりはしゃぐな桜木。…みっともない」
「相変わらずお前は頭が固ぇな。祭りだろ?」
「…節度は保てと言ってるんだ」
どうやら、二人の会話から察するに長い袋を持っている方が桜木、礼装を着ているのが小倉という名前らしい。
「お前らが対戦相手の土御門と倉橋か。噂は色々聞いてるぜ」
「…あの高ノ宮を倒すとはな。…正直驚いたぞ」
「あ、ありがとうございます」
「先輩たちも倒させてもらいますよ」
「は、春虎!?」
俺の挑発めいた言葉に京子が声を上げる。
「ハハハハ!中々言うじゃねぇか」
「…活きのいい一年生だ」
「まあ、俺らも負ける気は無いがな」
そう言うと桜木先輩は俺に握手のため、手を差出した。
「望むところで――――」
「じゃ、良い勝負にしようや」
先輩に応えて握手をした時、ある違和感に気づいたが、それについて聞く暇もなく先輩たちは自陣に戻って行った。
「……今の手」
「手のひら見つめてなにボーっとしてるのよ?」
「さっき握手したとき、先輩の手にタコがあったんだよ」
「タコ?」
「ああ。しかも、何度もマメを潰してできた奴だ」
「…あの袋の中身に関係してる?」
「多分な。あの袋の大きさからして槍か棍だと思うんだが…」
それにしてはタコのでき方が可笑しかったような気がするんだよな…。
『さあ!両者位置に着いた所で始めたいと思います!』
俺の思考を遮るように実況の声が響く。
まぁ、俺も本格的に棒術とかやったこと無いしな。気のせいかもしれん。
『それでは!タッグトーナメント準決勝バトルスタート!!』
「行くわよ春虎!」
「お―――っ!?」
「な、なにやってんのよ春虎!」
「か、体が動かん…っ」
「はぁ!?」
応!と答えて勢いよく飛び出そうとしたが、なぜか一歩も体が固まったように動かなかった。
『おや?なにやら一年生の土御門選手が前に出ないぞ?いったいどうしたんだ!』
『あ~これは見事に引っかかったなぁ。春虎クン』
『引っかかった、と言いますと?』
『不動金縛りですね』
『では、今土御門選手が動かないのは…』
『塾長の言うとおり、術で身動きを封じられてるからやね』
『普通ならば返しの術や防護術で防ぐんですが、まだ陰陽師となって日の浅い春虎君にはきついかしらねぇ』
か、金縛り!?
何とか動く視線だけで相手側を見ると、確かに小倉先輩が手印を切っていた。
「まぁ、てなわけだ。俺も土御門とは戦って見たかったんだが、小倉の奴が作戦だって言うんでな。悪いが今のうちにとっとと決着つけさせてもらうぜ」
そう言うと桜木先輩は袋の中から己の身長を超す長い棍を取り出した。
やっぱり武器は棍か。
「行くぜ!」
「くっ『白桜』!『黒楓』!」
棍を構え桜木先輩は京子に攻撃を仕掛けた。
どうやら俺が動けない間に京子を仕留める気らしい。
対する京子も護法式を出して対抗しているが、自力に差があるのか徐々に押され始めている。
「くっ、コン!京子の援護に行け!」
『もも、申し訳ございません春虎様。春虎様が呪にかかっていると護法であるコンめも影響を受けまして…』
ま、マジかよ!?
不幸中の幸いとしてあっちの小倉先輩も俺に金縛りをかけてる間は他の行動が出来ねぇみたいだ。
こうなったら京子に賭けるしかねぇ。
…頼むぞ、京子。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
~side京子~
あのバカ!信じられないわよ!
あんな簡単に金縛りにかかるなんて!
心中で春虎へ罵倒を送りつつ、あたしは必死に護法を操作していた。
「中々やるな倉橋。だけど、時間の問題だぜ!」
「くっ!」
『白桜』と『黒楓』で必死に耐えてるけど、桜木先輩の言うとおりそれも時間の問題ね。
『白桜』と『黒楓』のどちらかが倒されたら一巻の終わりだわ。
…こうなったらやるしかない。
「女は度胸!行くわよ!」
「な!?」
『白桜』と『黒楓』の合間からあたしが飛び出すと、桜木先輩は驚いて一瞬攻撃の手が止まった。
あたしはその隙を突き、すかさず呪符を投げつけた。
「
投げた呪符は木行符。
放たれた呪符から幾重にも重なった植物の蔓が飛び出した。
「捨て身の攻撃か?けどこの程度じゃな!」
そう言うと先輩は素早く懐から呪符を取り出し、投げつけた。
「焼き払え!
投げられたのは火行符。
現れた炎はあたしの出した蔓を簡単に燃やし尽くしていく。
けど、これも計算の内よ!
「まだよ!火生土!
「相生!?最初からこれ狙いか!」
炎を吸収し、あたしの放った土行符は巨大な土壁を生み出す。
「だが、呪力の練りが甘いぜ!このぐらいの土壁じゃあ数秒の時間稼ぎにしかならねぇぞ!木克土!
先輩の投げた木行符から発生した木の根が土壁を締め上げる。
確かに桜木先輩の言うとおり数秒時間を稼いだだけじゃ、あたしの脚では春虎の元へたどり着けない。
でも、その数秒で十分!
「行くわよ!」
思い浮かべるのは前回の試合で春虎がやった行動。
まさか、あたしがこんな無茶するなんてね。
あたしは目の前のボロボロになっている土壁に向かって土行符を投げつける。
そして、そのまま投げつけた呪符の上に足をかけ、
「
土行符を発動させた。
途端、地面と水平にせり出す土壁によって、あたしの身体はすごいスピードで後ろの春虎の居る方向へ飛ばされた。
「しっかりと受け止めなさいよ!春虎!!」
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
~side春虎~
「しっかりと受け止めなさいよ!春虎!!」
そんなセリフと同時に京子がこっちに向かって飛んでくるのが見えた。
てか、受け止めろって言われても体動かないんですけど!?
いや、ちょっと?マジでぶつか――――
「きゃああああぁぁ!!」
「どわああああぁぁ!!」
体の動かない俺が飛び込んでくる京子を受け止めきれるはずもなく、俺と京子はその勢いのまま後ろに倒れ込んだ。
「いたたた…。春虎あんたしっかり受け止めなさいよ!」
「無茶言うなよ!と言うより、早くどいてくれ!」
「なによその言い方!せっかく人が危険を犯してまで助けに来たのに!」
「だからってこんな密着されてると色々当たるんだよ!」
胸のあたりに柔らかい二つの感触とかさ。
恥ずかしながらも俺がそう言うと、京子も気付いたのか顔を赤くさせバッと身を引き離したと同時に、
「こ、この!変態!!」
「ぶへぇ!?」
スパーン!と小気味良い音を伴ったビンタが俺の頬に炸裂した。
「なっ!何をするだァーッ!」
「あんたが悪いのよ!乙女の身体を気安く触るから!」
「お前から飛んできたし、俺は身動き取れなかったんだけど!?」
理不尽にも程があるだろ!
『春虎クーン。不純異性交遊はいかんでー』
『あらあら。京子さんったら』
『『『『ヒューヒュー!!』』』』
そんな事をしていると先生たちからの野次と、一部の観客席から囃し立てるような声が聞こえてきた。
てか、観客席の奴らは絶対にウチのクラスの奴らだろ。
「ああっもう!」
「ぶへっ」
顔を真っ赤にした京子が俺の顔面に呪符を張り付ける。
「な、なにすんだ?」
「黙って歯を食いしばりなさい」
「は?どういう意味―――」
「内に淀む邪気を祓え!
俺の質問も終わらぬうちに京子は呪符を発動させた。
すると体の内側からパキンと何かが割れるような音が聞こえ、俺の体中を今まで味わったことの無いような
痛みが駆け抜けた。
「痛あああああぁぁあッ!!?」
なんじゃこりゃあああああ!?
頭のてっぺんからつま先までのあらゆる部分に激痛があああああ!!
『お、大友先生、今のはいったい?なにやら土御門選手が転げまわってますが…』
『今のは京子クンが春虎クンにかかってた金縛りを解呪したんや』
『か、解呪ですか?ではなぜ土御門選手はあんな叫び声を?』
『それは京子さんが無理やり力づくで金縛りを解いたからですよ』
『無理やり…と言いますと?』
『解呪の方法は何通りかあるんやけど、京子君はてっとり早く自身の呪力を春虎君に流し込んだんや。要は水道管の詰まりを水圧で取るようなもんやね』
『なるほど』
『けど、あんまりお勧めはせえへんよ。確かに簡単で手っ取り早い方法やけど…』
「ぎゃああああああぁぁ!!!」
切られたような痛みと殴られたような痛みと焼かれたような痛みが合わさって新境地を開きかけてるううう!
『その副作用があれや』
『……なるほど』
「は、春虎?その…大丈夫?」
「だ、大丈夫なわけあるかぁ…」
多少は退いてきたが、まだ全身に激痛と言えるレベルで痛みが走ってるぞ…。
「なんてことしてくれたんだよ!」
「しょ、しょうがないじゃない!穏便な方法とる時間も無かったのよ!第一、春虎が金縛りにかかるのが悪いのよ!」
「うっ…」
そこを言われると何も言い返せん。
実際、助けてもらった立場だしな。助け方はともかくとして。
「さて、そろそろ良いか?」
俺と京子が言い合いをしていると、棍を肩に担いだ桜木先輩が声をかけてきた。
「…わざわざ待っててくれたんですか?」
卑怯と映るかもしれないが、今は戦ってる最中だ。隙を見せる方が悪いと言われてもしょうがないのに。
「さすがにあんだけ痛がってる後輩に追い打ちは出来ねぇよ」
「…凄まじい叫びだったぞ」
優しさに涙が出そうだ。
「それと、お前とは真正面からやり合ってみたいとも思ってたしな」
そう言うと先輩は好戦的な笑みを浮かべながら棍を構えた。
さっきはそんな余裕が無かったが、こうやって正面から対峙すると分かる。
桜木先輩は体術だけならかなり強い。
「京子。サポート頼む。コンも京子についとけ」
「御意!」
「分かったわ」
「小倉、今度は金縛りなんて無粋な真似すんなよ?」
「…安心しろ、もとより失敗した作戦を二度もやる気は無い」
ホルスターから銃を抜き、腰を落とす。
「「いくぞ!」」
俺と桜木先輩は同時に前に出た。
俺は前に走りながらも銃を構える。
狙いは足、まずは機動力を潰す。
「喰らえ!」
先輩の足元を狙い両手の銃を乱射する。
「はっ!そんな弾当たるかよ」
しかし、先輩はそれを左右へジグザグに走る事で回避してのけた。
いくらこの銃が発射する霊力弾が実弾より遅いと言っても、それをあんな方法で回避できるなんて。
なんでこの人、陰陽師なんてやってんだよ。
そんな事を考えていると、いつの間にか先輩が接近していた。
「セアッ!!」
鋭い掛け声とともに突き出される棍。
必殺の威力を持って俺の胸元に目がけて突き出されるそれを、俺は咄嗟に回し蹴りで横に弾いた。
そしてそのまま勢いを利用し、一回転してもう一度回し蹴りを繰り出す。
確実に意識を刈り取るため首を狙って全力で振り切る。
しかし、その攻撃は空を切った。
先輩は回し蹴りが首元へ到達する瞬間、身を屈めてかわしたのだ。
さらに先輩はそのまま、がら空きになっている俺の軸足へと棍を振るう。
「このっ!」
俺はそれを片足のみの無理やりなバク転で回避し、一旦大きく距離を取る。
先輩は俺を追撃することなく、その場に立っていた。
「…絶好の追撃チャンスだったんじゃないっすか?」
「バカ言うな。追ってたら今頃その銃の餌食になってただろ」
…狙ってたのに気付いてやがったのかよ。
まあ、さすがにそんな簡単な罠には乗ってこないか。
『両者ともに激しい攻防!実力は全くの互角と言うところか!』
『いや~、こりゃすごい。まったく陰陽師らしさのかけらもない戦いやけどね』
『そうですね。こんな試合中々お目にかかれませんよ。陰陽師らしさのかけらもない試合ですが』
嫌に陰陽師らしさの部分を強調して言ってくる解説の教師二人。
確かに先生側からすれば、陰陽師をアピールするはずの場で全く陰陽術を使わず肉弾戦のみの戦いはあまり歓迎できないのだろう。
「おい京子、なにポカーンとしてるんだよ。サポート頼むって言ったろ」
「あ、あんたねぇ!あんな速い接近戦中にどうやってサポートすればいいのよ!」
「おい小倉、援護はどうした?」
「…あんな高速戦闘中にどう援護しろと言うのだ」
どうやら、相手の方でも同じような会話をしてるみたいだな。
「…まあいい。…次は対応してやる」
「よっしゃあ!行くぜ!」
小倉先輩の言葉を聞いて桜木先輩は満足したように笑い、再び棍を構え前に出る。
「京子!」
「ああもう!やってやるわよ!」
京子の開き直った様な叫びを聞き、俺も前へ走り出す。
「…
俺が前に出ると同時に、小倉先輩が呪符を投じる。
呪文を唱えると呪符から弧を描くように光のムチの様な物が数本飛び出した。
光のムチは左右から絶妙な時間差で俺に襲い掛からんと飛んでくる。
「させないわよ!コンちゃん!」
「はい!」
左右から俺を襲う光のムチをコンの火球と『白桜』『黒楓』の武器が防ぐ。
「今度はこっちの番よ!
お返しとばかりに今度は京子が呪符を発動させる。
投げられた数枚の呪符は全て火の矢に変わり、桜木先輩に襲い掛かる。
「…甘い。…
それに対し、小倉先輩も素早く呪符を投じる。
投げられた呪符からは京子が出した火の矢と同じ数だけ水の矢が飛び出し、火の矢すべてを相殺した。
そうしている内に俺と桜木先輩の距離が再び、お互いに攻撃が届く距離になる。
「タアッ!」
桜木先輩の鋭い突きを今度は弾かず、体をねじる事で最小限の動きでかわす。
攻撃を回避した後、俺は反撃をするのではなくさらに深く懐へ飛び込んだ。
「な、なに!?」
これだけ近づかれたら、その長い棍じゃ対応できないはず!
先輩も俺の狙いに気づいたのか、短く舌打ちを漏らす。
「チッ、小倉!」
「…分かっているっ」
珍しく焦った様な返事を返す小倉先輩。
それもそのはずだ。
何故なら今小倉先輩は『白桜』と『黒楓』、それにコンと京子の波状攻撃を一人で受けているからだ。
護法式三体と京子の攻撃を護法を持っていない小倉先輩たった一人で防ぎきっているのには感嘆するが、さすがにその状態からサポートまでには手が回らないらしい。
そのことを桜木先輩も悟ったのか、苦い表情を表す。
「行くぜ!死神体術『罪』の構え」
「舐めるなよ一年坊!」
俺は二回戦の時同様、銃を逆手に持ったままの近接格闘術を仕掛けた。
「シッ!」
左右の拳をフック・アッパー・ストレートとコンビネーションを付けながら繰り出す。
桜木先輩は必死にそれを防ごうとするが銃を持っている俺の攻撃は普通に防御するだけでは十分ではない。その後撃たれる銃弾が避けれないからだ。
完全に防御するのならば、腕をはじくか、体ごと射線から逃げるしかない。
その結果、何度か攻撃を繰り出すうちに桜木先輩の身体には小さい傷がいくつも出来ていた。
「クソッ!」
「焦りすぎだぜ!」
押され気味の状態を嫌った先輩が状況を打破しようと渾身の力で棍を薙ぐが、焦った状況での大振りが当たるはずもない。
俺はそれを身を低くしてかわして、がら空きになっている足元へ蹴りを放った。
「うお!?」
その蹴りを回避できなかった桜木先輩は転倒する事こそ無かったが、大きく体勢を崩してしまう。
俺はその隙を逃さず、攻撃に移る。
「終わりだ!」
桜木先輩の
いくら先輩の技量が凄くても、体勢を崩され回避のできない状況で三発の弾、つまり棍と言う棒状の武器では絶対に防ぐことができない攻撃にはどうしようもないだろう。
勝った。
そう思った次の瞬間、キイィン キンッ キィン と三度甲高い、まるで俺の放った弾を三発すべて防いだかのような音に俺の意識は引き戻された。
「まさか一年生に使わされるとは、なぁ!」
「がはっ!?」
先輩の声と共に突然腹部に衝撃が襲い、俺は苦悶の声と共に吹き飛ばされた。
素早く体勢を立て直しながら桜木先輩の方を見ると、すでに先輩も体勢を立て直しておりその手には俺を吹き飛ばした武器が握られている。
だが、その武器は先程まで持っていた棍とは形状が違い、先程までの真っ直ぐな形状ではなく三つに折れていた。
「…
通りで握手したときにタコの位置が可笑しいと思ったぜ。
棍じゃなくて三節棍使いだったとはな。
しかも俺の撃った弾を正確に弾ける程の腕前。
見かけ倒しのギミックではなく、一流の使い手とみて良いだろう。
どう攻めるか…。
「呆けてるなよ!行くぜ!」
「くっ!」
思案に暮れていた俺に桜木先輩の攻撃が襲いかかる。
先程までの棍による突きや薙ぎ払いなどの攻撃に、三節棍のしなりを加えた鞭のような攻撃方法が加わったそれは俺の防御を巧みにすり抜けてダメージを与えていく。
「春虎!?」
「…行かせんぞ」
俺の方が不利となったのを見て京子が援護しようと動こうとしたが、それは小倉先輩によって妨害されてしまう。
そして、援護の無い今を勝機と見たのか桜木先輩は一層攻撃の手を強めた。
「ほらほら、どうした!」
「…調子に乗りやがってっ」
だが最初は三節棍の攻撃に対応できなかったとはいえ、何度も体で攻撃を受けていれば徐々に攻撃を見切ることは出来る。
いつまでも防戦一方でいるわけじゃないぜ。
「そこだ!」
「な!?」
だんだんと慣れてきた攻撃に合わせて棍をはじき、そのまま一気に距離を詰める。
「もう対応したってのかっ」
「あれだけ何度も受けたらいやでも覚えるぜ!」
愕然としている先輩の懐に飛び込み、攻撃に移る。
「やるな。…だが、
先輩の術を唱える声とともに、腹部にガツンと殴られたような衝撃が襲いかかった。
「ぐはっ!」
「は、春虎!?」
その衝撃で背後にいた京子の目の前まで吹き飛ばされる。
「大丈夫!?」
「あ、ああ。怪我は大したことないが…いったい何が起きた―――っ!」
やられた腹部を抑えながら立ち上がると、俺は目の前の光景に目を見張った。
『シャァーッ!』
桜木先輩が持っていた棍が三節どころではなく、十を超える数の節を持ちその先端部分は先ほどまでと異なり、蛇のような頭部が表れてこちらを威嚇するように大きくその口をあけている。
「な、なんだありゃ?」
「き、
俺のつぶやきに被せるように京子が声を上げた。
機甲式…確か陰陽塾の門に居る『アルファ』と『オメガ』も機甲式とかいうやつだったな。
確か、鉄や鋼でできた物質を直接形代にした式神のことだったか?
『おおぉっと!?桜木選手の持っていた武器が変形しました!』
『あら、機甲式ですかね?』
『ほほぉ、面白いこと考えるもんやな』
『会場に居る皆様は事前にお配りしたパンフレットに機甲式などの説明も載っていますので、ぜひご参照下さい』
なにそれ、俺も欲しい。
「…桜木、
「ああ。出し惜しみができる相手じゃないみたいだしな」
どうやら、機甲式は相手の方にとっても奥の手みたいだな。
「…機甲式を武器にするなんて、よっぽど自信があるのかしらね」
「どういうことだ?」
「普通に式神を使えば多対一で相手に挑めるのよ?それをせずに自分の武器として使うってことは、よっぽど自分の腕前に自信があるってことよ」
「武器と式神同時に使えばいいんじゃないのか?」
「そんな真似ができるのはバカみたいに霊力を持ってるあんたか、十二神将クラスの達人だけよ」
褒められてる…のか?
まあ、あれ以上戦力が増えないと分かったのは大きいな。
「さて、これを出した以上は勝たせてもらうぜ」
「はい、そうですかって勝ちを譲れるかよ!コン!」
「はっ!」
俺はコンに命じて狐火を大量に出させる。
「…いくら量が多くとも陽動もなく正面からの攻撃が通ると思っているのか?…水剋火、
しかし、その攻撃は前に出てきた小倉先輩の術によって簡単に防がれてしまう。
さらに、大量の狐火に水行符をぶつけたせいで呪練場には大量の水蒸気が立ち込めた。
「…くっ、視界が」
「かかったな!
蒸気の壁を目くらましに俺は土行符を放つ。
発動した土行符は地面を数本の棘状に変え、先輩たちに向かって伸びていく。…が、
「…だが、いくら蒸気で視界を潰そうとも見鬼はごまかせんぞ。…
しかし、その攻撃も小倉先輩が出した障壁によって全て阻まれてしまった。
「…あの先輩目立った所はないけど、全体的にハイレベルだな」
「そうね。さっきもコンちゃんと一緒に『白桜』『黒楓』も使って攻め立てたけど、決定打は与えられなかったわ」
「あの全体を冷静に見る性格も厄介だぜ。目くらましや奇襲に大して動揺しねぇ」
「せっかくの攻撃も無駄打ちだったな。次はこっちから行くぜ!」
蒸気が晴れたころを見計らって、桜木先輩が機甲式を構えたまま走り出す。
「京子、下がって援護だ!」
「分かったわ」
俺は京子に指示を出しながら銃を乱射し、弾幕を張って足止めをする。
さすがに機甲式を使う桜木先輩と接近戦で戦うのは辛いからな。
「先輩の攻撃が届かないこの距離でやらせてもらうぜ!」
「…桜木、下がれ」
「ああ、分かってるよ」
「…
小倉先輩が何やら複雑なステップを踏み下駄を鳴らしながら投げた呪符は赤色の障壁を発生させた。
その障壁はかなりの強度があるのか、連射力重視の攻撃では障壁はビクともしないようだ。
「
「ちっ、厄介だな」
「…まだだ。…潰れろ、
「なぁ!?」
小倉先輩が前方に張った障壁にもう一枚呪符を投げつけると、なんとその障壁が俺たちに向かって進みだした。
「させないわよ!
京子が投げた呪符が迫りくる障壁に張り付くと、バチバチと青白い火花のようなものが発生し、障壁の進行速度が落ちた。
「春虎、今のうちよ!」
「おう!」
京子の稼いだ時間で銃身に呪力を限界まで溜める。
「喰らえ!メガ粒子砲!!」
限界まで収束された呪力を前方に解き放つ。
放たれた攻撃は堅牢な障壁をものともせず破壊した。
ガラスの割れるような音が場に響きながら、障壁は崩れ落ちる。
だが障壁を破壊で来た安心感からか、その脇を駆け抜けてきた影に気づくのが一瞬遅れてしまった。
「障壁に気を取られ過ぎだぜ!」
「っ!?」
大技後の隙を狙われたかっ。
「オラァッ!」
「ぐぁっ!」
胸を狙った突きはなんとかガードできたが、踏ん張りきれずにそのまま数歩後ろに下がった。
「…ふぅ。なんとか防御が間に合ったぜ」
額に流れる汗をぬぐいながら、呼吸を落ち着かせる。
「大分疲れてるみたいだな」
「へっ、まだまだ余裕っすよ」
「…強がるな。…さっきまでいた護法式を今は出していないのも霊力不足が原因だろう?」
「………」
ほんと、よく見てやがるぜ。
「見たところその銃は燃費が悪いみたいだしな。一回戦から使ってればいくら体力自慢でもそろそろ弾切れだろ」
「お生憎様、この銃は百万発装弾のコスモガンだぜ」
軽口をたたきながらも息を整えて周りを観察する。
自分自身の霊力が枯渇仕掛けてるのは確かだ。
京子の方は比較的余裕があるかもしれないが身体能力は普通の女の子だ。疲労も結構たまっているだろう。
対して先輩たちの方だが、桜木先輩は呪術と言うより大半を自身の身体能力で戦っているからかまだまだ余裕がある感じだな。
小倉先輩の方は呪術を連発していたせいか、見てわかる程度には疲労している。
ここは定石通り、弱ってる方から片づけるか。
だが、俺も残りの体力を考えると無駄弾は撃つわけにはいかない。
となると狙うは避けれない近距離からの一撃。
だが問題は前に居る桜木先輩をどうやって退かすかだ。
真正面から無策に突っ込んでは、簡単に返り討ちに合うだろうしな。
「京子、耳を貸してくれ」
「何か作戦でもあるの?」
「おう、俺が合図したら――――――」
耳を寄せてきた京子に小声で作戦を伝える。
「…分かったわ」
「作戦会議は終わったか?」
「ああ、先輩たちを倒す作戦ができたぜ。
俺が術を発動させると、足の真下から高い土壁がせりあがってきた。
「壁を使った高速移動か。さすがに二度目はないぜ!」
「…いや、何か違うぞ桜木」
「違う?」
そう、壁を使っての高速移動は壁に足をかけておいて使う技だ。
今の俺は壁の上に立っている。
小倉先輩は違いに気づいたようだがもう遅い。
「京子!」
「
京子に合図をだし、作戦を決行する。
京子が術を発動させると、俺の立っている壁の根元にひびが入り、ゆっくりと先輩たちの方へ傾きだした。
「ま、まさかっ」
「さすがの先輩も倒れてくる壁は避けるしかないだろ?」
「くっ!」
ドォオオンと言う大きな音と共に土壁は倒れ、呪連場には大量の土煙が舞った。
「な、なんて無茶苦茶なことをしやがるっ」
倒れてくる壁を何とか避けた桜木先輩は、土煙を払いながら悪態をつく。
「小倉、無事か!?」
「…壁による被害ならばない。…が」
土煙が晴れた呪連場では、俺が小倉先輩に銃を突きつけていた。
「…俺の負けだ」
『ここで三年生の小倉君がリタイア!』
『さすがの桜木クンも質量のある押しつぶす攻撃は避けるしかないやろな』
『倒れた壁の高さだけ、上に乗っていた春虎さんは相手側に進めたというわけですね』
『これで一年生ペアは二対一と有利になりましたね』
『そうやね。数の上では有利やけど…』
『春虎さんの体力が持つのかが重要ですかね』
実況の先生たちが言っている通り、人数は有利になったがまだまだ油断できない。
試合序盤で一対一では桜木先輩に京子は敵わない事は分かっている。
ここでおれがやられたら一気に不利ってことだ。
「まさか、あんな方法で距離をつぶすなんてな。まんまとやられたぜ」
「このまま、一気に決めさせてもらいますよ」
今、俺と京子は先輩を挟んで立っている。
つまり挟み撃ちの形になっているってことだ。このチャンスは生かすしかない。
京子もそれをわかっているのか、俺に視線を投げてきた。
俺はその視線に一つ頷き、銃を構えながら前に出た。
見れば京子も同じタイミングで『白桜』と『黒楓』を前に出していた。
「やっぱりそう来るよな」
そういうと先輩は俺の方を向きながら半身になって腰を落とし、構えを取った。
「だけどな、簡単にはやられないぜ!」
前に出た俺に対し、先輩は棍を大きく振った。
「うおっ!?」
俺は勢いのついたそれを受け止めずに、身を低くして回避した。
しかし先輩の動きはそれだけで終わらず、その勢いのままに自分を軸に一回転して背後から迫っていた『白桜』と『黒楓』に攻撃を仕掛けた。
「オラァ!!」
回転による遠心力で威力の乗った一撃は、『白桜』のみならず『黒楓』をも巻き込み吹き飛ばした。
そのダメージは甚大なのか、『白桜』と『黒楓』はラグを起こしたまま立ち上がる気配はない。
「挟撃が崩れたな!」
先輩はそのままがら空きの京子に向かって走り出す。
「させるか!」
京子に迫る先輩の向かって走りながら、銃を乱射する。この状況では無駄弾などとためらっている場合ではない。
だが放った攻撃が着弾する直前、先輩は予想外の行動に出た。
いきなり地面に向かって棍を刺し、それを足場に三角とびの要領で俺の後ろに着地したのだ。
「わ、若島津かよっ!」
「遅い!」
すぐさま振り返って銃を構えようとしたが、その前に先輩に腕を叩かれ銃を落としてしまう。
そしてすぐさま眼前に棍を突きつけられた。
「最後に相方が足を引っ張ったな。せっかく二体いる護法を無策に時間差もなく真っ直ぐ突っ込ませるなんてよ」
そういう桜木先輩の顔には勝利を確信した笑みが浮かんでいた。
当然だろう。
このまま俺がリタイアして京子との一騎打ちとなれば、ただでさえ敵わなかったのに今はさらに『白桜』と『黒楓』がダメージを負っている。
さすがにそんな状況からの逆転は無理に等しい。
本来なら、俺はここで素直にリタイア申告して悔しさを表情に滲ませるのが普通だろう。
だが、俺の顔には先輩と同じく勝利を確信した笑みが浮かんでいた。
「…なんで笑ってやがる?」
「先輩は京子のことを舐めすぎですよ」
「なんだと――――――っ!?」
先輩が何かに気づき京子の方へ振り返るが、もう遅い。
すでに京子の術は完成していた。
「オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカ!」
「ぐぅ!?」
不動金縛り。試合序盤に俺が食らったのと同じ術だ。
先輩は全身の動きを縛られ、持っていた武器も落とす。
俺が縛られたとき、コンが動けなかったのと同じ理屈なのだろう。
先輩の手から離れた棍は何の動きも見せない。
「無策に二体の護法を突っ込ませる?当たり前だろ。京子自身が操ってなかったんだからな」
「ま、まさか、この手の、呪術も…使えるとはなっ」
俺は動けない先輩を尻目に落ちている銃を拾い、先輩に突き付けた。
「俺たちの勝ちだ」
「…降参だ」
『ここで試合終了!!試合を制して決勝への歩を進めたのは、まさかの土御門・倉橋の一年生ペアだああああ!』
『いやー、まさか一年生が三年生のペアに勝つとは思わんかったなぁ』
『そうですね。予想をひっくり返した良い試合でしたよ』
おい、担任と自分の孫娘だろ。
「やったわね春虎!」
「ああ、京子も最後の術は見事だったぜ」
俺と京子が勝利の余韻に浸っていると、先輩たちが近づいてきた。
「ほんと、まんまとやられたぜ」
「…しっかり周りを見ていないからだ」
さばさばした様にふるまっていてもやはり悔しいのだろう。その表情はあまり優れない。
「俺たちに勝ったんだ。次も勝てよ」
「…応援しているぞ」
そういうと先輩たちは手を差し出してきた。
「必ず優勝しますよ」
「ありがとうございました」
そう返し、それぞれ先輩たちと握手を交わす。
「頑張れよ」
「…お前たちなら大丈夫だ」
握手が終わるとそう言って先輩たちは踵を返し、自分たちの控室に返っていった。
「あたし達も戻りましょう。少しでも休むべきだわ」
「そうだな。さすがにくたくただぜ」
歩廊の残る体を引きずり、自分たちも控室に戻るべく踵を返した。
「まだ決勝までには時間があるよな?」
「ええ。第二準決勝もあるし、その後インターバルも挟むからそこそこ時間はあるわよ」
「じゃあ、ちょっとシャワーでも浴びてくるわ。結構汗もかいたしな」
ほんとはゆっくりと風呂に浸かりたい気分だが、用意もしてなければ時間もないからな。
「分かったわ。…あたしも浴びようかしら?」
「そうした方がいいと思うぜ。考えりゃ朝から喫茶店だ試合だで結構動き回ってたからな」
「そうね。そうするわ」
こうして俺らはそれぞれシャワールームへ向かった。
この時、疲れてドロドロの体を引きずってでも第二準決勝を見ておけば、心の準備が多少はできたのにと後悔するのは、もう少し後だった。
今回はトーナメントの準決勝となっています。
完全なオリジナルキャラなので色々と術や特技を考えるのがつらいですね。
前書きでも書きましたが、就活が終わったので次回以降の更新ペースは上がると思います。
次回は遂に決勝戦です。対戦相手はここまで読んでくれた方ならば予想はつくと思います。
此処まで読了感謝です。
誤字脱字・ネタ案・ダメだし常時募集してます。