東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

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祝アニメ化!!

もっと東京レイヴンズファン増えろ!




第三十九幕 日常体験

三回戦を終え、喫茶店に京子と一緒に戻って来るとそこには大行列が出来ていた。

 

「うわ、凄い人ね…」

「ああ、なんでこんな急に盛況になってんだ?」

「そりゃ、あたし達のおかげでしょ」

「は?なんでだよ?」

 

あたし『達』って俺もか?

特に何かした覚えは無いんだが…。

 

「分かんないの?あたし達タッグトーナメントであんな派手な戦いをしたのよ?しかもあんたはその格好で」

 

そう言えば、俺ずっと執事服のまんまだな。

以外にも動きやすいから忘れてたわ。

 

「お客さんからしたら興味を引く材料が溢れすぎてるのよ。特に春虎はね」

「そ、そういう事か…」

 

京子から語られた盛況の理由に納得していると、俺たちに気づいた冬児が話しかけてきた。

 

 

「春虎!それに倉橋も!暇だったら店を手伝ってくれ!人手が足りなくて目が回りそうだ」

 

冬児はそれだけ言うと、また急いで厨房に入って行った。

 

「しょうがないか」

「ま、あたし達のせいでもあるからね」

「コン、お前も手伝ってくれるか?」

「はは、春虎様のご、ご命令と有らば!」

「じゃあコンちゃん、裏で衣装に着替えましょ!」

 

京子はコンを着替えさせるために更衣室にコンを伴って行き、俺は一度試合で付いた汚れなどを確認してからホールに直接出た。

 

ホールに出ると客も俺に気付き、教室内が少しざわつき始めた。

とりあえず状況を確認するため、教室内を歩き回ろうとした時、クラスメイトが盆に乗った料理を渡してきた。

 

「おい土御門、これ七番テーブルに頼む」

「あ、ああ。分かった」

 

そのクラスメイトはまだ忙しいようで、俺に盆を押し付けるとすぐさま厨房に戻って行った。

 

「お待たせしました。ご注文の―――って、富士野さん?」

 

七番テーブルに行くとそこに居たのは俺が住んでいる陰陽塾男子寮管理人の寮母『富士野(ふじの) 真子(まこ)』さんだった。

 

「あら、春虎君。ここでは『お嬢様』でしょ?」

「……失礼しました。お嬢様」

 

お嬢様って歳か?っと一瞬考えそうになったが、すぐにその考えを振り払う。

俺が考えることはなぜが他人にすぐばれるからな。

 

「あら~。富士野ほんとにカッコいい子ね」

「ど、どうも…」

「そうでしょ!それにお友達の夏目君も冬児君もとっても美少年なんだから!もう妄想がはかどってはかどって」

 

富士野さんは向かいに座るもう一人の女性となにやら盛り上がり始める。

俺が呆然としていると、富士野さんが向かいに座る女性を紹介してくれた。

 

「あ、紹介するわね春虎君。こちら女子寮の寮母をしてる―――」

木府(きふ) 亜子(あこ)です。君の噂は真子からかねがね、それはもうかねがね聞いてるわ!」

 

どんな噂だよ。とは聞けなかった。

聞いてしまったら心にトラウマレベルの傷を作ることは分りきっていたからだ。

身近な人に自分の事をネタにされるのって結構辛いんだぜ…。

 

「ねえ、春虎君。ツーショットの写真撮っても大丈夫かな?」

「すいません。そのようなサービスは行っておりませんので」

「ああ、違うのよ。私とじゃなくて夏目君と春虎君のツーショットよ」

「夏目とお――私のですか?」

「そう。できれば冬児君とのツーショットも取りたいんだけど…」

「アイツはそういうの苦手ですからね。無理だと思いますけど」

「そうよね~」

 

 

富士野さんは残念そうに言うが、直ぐに気を取り直し俺に詰め寄ってくる。

 

「だから何としても夏目君と春虎君の写真を撮りたいのよ!」

「な、なんでそこまで必死なんですか?」

「そりゃ、妄そ―――ごほん。記念だし、卒業アルバムとかにも使えるでしょ?」

「そうよ!こんな絶好のネタ―――ゴホン。青春の思い出を形に残しておかなきゃ!」

 

変な単語が端々に聞こえたんだが…。

 

「ね?良いでしょ?夏目君とのツーショット撮らせて!」

「うーん…」

「お願い!ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」

 

なんで変態親父みたいな感じになってるんだよ。

 

「春虎、何を騒いでるの?」

 

騒ぎ過ぎてしまったのか、夏目が奥から出てきた。

 

「いや、それが―――」

「夏目君!突然なんだけど写真撮らせてくれない?」

「富士野さん?って写真ですか?」

「そうよ!春虎君とのツーショットを取らせてほしいの!」

「つ、ツーショット写真!?」

 

夏目は俺の方をチラチラ見るとなぜか顔を赤くした。

 

 

「そ、そんな、急に言われても…。その、恥ずかしいですし…」

 

 

夏目がアタフタとしながらもやんわり断ろうとした時、富士野さんは神妙な雰囲気で話しかけた。

 

 

「…夏目君。これは主従としても重要な事なのよ」

「必要な事?」

「そうよ。今は同じ陰陽塾に通っているからいつも二人は会えるけど、卒業後は分からないわよね?」

「ま、まぁ、今よりかは会える時間が減ると思いますけど…」

「そうよね。そうなると会えない時に二人を繋ぐのが思い出なのよ」

「思い出…」

「けど、そんな時に思い出が形に残って無いと…」

「…無いと?」

「二人は離れていく一方よ!」

「そ、そんな!?」

「だからこその写真よ。手軽に作れて今の時代データ化しておけば携帯でいつでも見る事が出来る。思い出を作るのにこれ以上最適な物は無いわ!」

 

一見、筋は通ってるようにも聞こえるが冷静に考えると超理論だな。

しかし、夏目は気付いてないのか富士野さんの言葉に何やら感動していた。

 

「そ、そうか!よし、春虎写真撮ろう!ぼくは春虎と離れたくないんだ!」

「お、おう」

 

そう言う意味で言ったのではないだろうが、面と向かって言われると少し照れるな。

富士野さん達もなんかキャーキャー騒いでるし。

 

「春虎!」

「分かった、分かったよ」

「じゃあいま準備するわね!」

 

俺が了承すると寮母二人組はカバンからゴツイカメラを取り出した。

 

「な、なぁ、あれってプロのカメラマンが使うようなカメラじゃないのか?」

「う、うん。あんなのテレビでしか見た事ないよ…」

「じゃあちょっとそこに並んでくれる?」

 

目をぎらつかせた富士野さんに気圧されながら、指定通りに動く。

最初は普通の並んだ状態。

 

「良いわよー!」

「目線こっちね!」

 

次は夏目が椅子に座って俺がその後ろに控える構図。

 

「OK!OK!」

「雰囲気出てるわ!」

 

悪漢から夏目を庇うように俺が前に出ている構図。

 

「降りてきた!インスピレーションが()って来たわ!」

「次のコミックシティは決まりね!」

 

忠誠を誓う様に片膝をつき、夏目の手の甲へ唇を落とす構図(実際に唇は触れていない!ここ重要!)

 

「私のドツボにシュウウウウウウウウウ!」

「超!!エキサイティング!!!」

 

 

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

「いや~、ありがとうね。良いもの撮らせてもらったわ!」

「今度のイベントも盛り上がるわよ~!」

 

何故か妙にツヤツヤしている寮母二人組。

 

何のイベントだよ。とは俺も夏目もツッコミを入れることは出来なかった。

撮影中は妙に上がっていた富士野さんと木府さんのテンションに乗せられたのか気にならなかったが、撮影が終わり冷静になると、さっきまでの自分がどれだけ恥ずかしかったかが分かってしまい、俺と夏目は絶賛悶え中になっているからだ。

 

さらにほかの生徒たちも写真を撮っていたのか、すでにその時の写真が塾内に出回りそれを手に入れた冬児に散々からかわれたのは『五芒祭』が終わってからの事だった。

 

 

 

 

それからしばらく経ち、喫茶店の方も客の流れが落ち着いてきた頃。

 

「ふぅ。なんとか捌けたな」

「よう、お疲れ」

「お、冬児」

「朗報だ。もう店抜けても大丈夫だってよ」

「良いのか?」

「ああ、もうだいぶ落ち着いたしな」

「冬児は?」

「俺も抜けて大丈夫だとよ」

「じゃあ、どっか周らねぇか?」

「…お前と二人でか?」

「地味に距離とるんじゃねえよ!他の奴らも誘うに決まってんだろ!」

「ま、そうだよな。でもそうそう全員が都合よく集まるとは思えないが…」

 

 

 

 

 

~数分後~

 

 

 

 

 

「二年生の劇は何をやってるのかな?」

「三年のお化け屋敷も気になるわよね」

「兄貴、どこ行きます?」

「全員そろっちゃったよ」

「そろったな」

 

良いのか!?

一応、全員各班のリーダーだったはずだが。

 

「何でも、他のクラスメイト達が気をきかせてくれたみたいだよ?」

 

俺の疑問を察したのか、夏目が話しかけてきた。

 

「どういう事だ?」

「ほら、皆タッグトーナメントに出て忙しいでしょ?だから、少しでも遊べる時間を作ってくれたんだよ」

「そうか、なんか悪いな。…でも『皆』って夏目と冬児は出てないだろ?」

「そ、それは、その、えっと…」

「俺たちはいつも一緒に行動してんだ。その辺も気をきかせてくれたんだろ」

「そ、そうそう。冬児の言う通りだよ!」

「そうか?」

「そ、それより!劇は次の公演が始まるまで少し時間があるから、その間にお化け屋敷に行こうよ!」

 

夏目は何か慌てる様に言うと、さっさとお化け屋敷に向かい始めた。

 

「ほら、春虎置いてくよ!」

「ま、待てよ!?」

「ちょ、二人で先に行かないでよ!」

 

前を進む夏目を追う様に俺と京子も歩き始める。

 

「やれやれ」

「ねぇ。夏目君と冬児君も確か―――」

「おい冬児、天馬。置いて行かれるぜ!」

「ああ、今行く」

「あ、待ってよみんな!」

 

冬児と天馬を呼ぶために振り返った時、冬児の表情はいたずらを仕掛ける子供の様な表情だった。

 

 

 

 

 

「ここか」

「そうだな」

「でも、これは…」

「なんというか…」

「凄い本格的ね…」

 

三年の開いているお化け屋敷までたどり着いた俺たちは、その学園祭とは思えないレベルのお化け屋敷に呆然としていた。

武家屋敷の様な門構えを模した入口の傍らには、おそらく式神であろう二体の骸骨武者が控えていた。

 

「あら?貴方たちは」

「あ、先輩。こんちわ」

 

受付と書かれた札の置いてある机の向こう側には黒髪の美女、俺たちと三回戦て戦った三年の高ノ宮先輩が座っていた。

 

「お化け屋敷を遊びに来たのかしら?それとも私に会いに来てくれたの?」

「残念ながら今回はお化け屋敷が目的ですよ」

「あら残念。じゃあ、『今回は』と言う事は次回は期待していいのかしら?」

「そ、それは…」

「フフフ、あなたをからかうのは楽しいけれど後ろで怖い主様が睨みつけてるからこの辺にしましょうかね」

「は?」

 

 

俺が振り向くと、そこには明らかに不機嫌ですと言わんばかりの表情をした夏目が居た。

 

 

「ど、どうしたんだ夏目?」

「…デレデレしちゃって」

 

あれ?なんかデジャヴ。

 

「まぁまぁ、そんな事より早く入ろうぜ。劇の時間もあるんだしよ」

 

口論になれば長くなると判断した冬児が場を仲裁する。

 

「そうだな。じゃあ先輩五人、受付お願いします」

「はい、五名様ね。じゃあ、ルールを説明するわね」

「ルール?ただ歩いて回るだけじゃないんですか?」

「基本はそうだけど、少し仕掛けがあるのよ。まず五人だと少し多いから、三人と二人に分かれてくれる?」

「じゃあ、ジャンケンか何かで―――」

「天馬、俺と行こうぜ」

「冬児君?」

 

ペアを分けようとした時、冬児が天馬を誘った。

珍しいな。

 

誘われた天馬自身もビックリしたのか目を丸くしている。

 

「ぼ、僕?」

「ここに天馬はお前しかいないだろ。で、どうなんだ?」

「え?あ、良いよ。行こうか」

「ペア分けは終わったわね。じゃあ、ルールを説明するわよ。まずはこれを受け取って」

 

先輩はそう言うと、俺と冬児に一枚の呪符を手渡した。

 

「呪符?」

「視れば分かるけど、すでに呪力が入ってるわ。これを一番奥の(ほこら)に置いてきてね」

 

確かに視てみると、呪符はもう微かに呪力を帯びていた。

 

「あとは周りの物を壊さない、逆走しない。まあ、普通をお化け屋敷と変わらないと思ってくれていいわ」

「なるほど。じゃあ、俺たちから先に行かせてもらうか。行こうぜ天馬」

「うん。じゃあ、先に行ってきますね兄貴」

 

ルールの説明を聞くと冬児と天馬はさっさと入り口をくぐり入って行った。

二人が入ると、脇にいた二体の骸骨武者が持っていた槍を入口上で×字に掲げ、入口を封鎖した。

 

「前の二人が少し進んでからのスタートだから、少し待っててね」

「分かりました」

 

先輩の言葉に夏目が毅然と答える。

京子も何でもない様子で待っている。

 

普通女子ってもう少し怖がったりするもんじゃないのか?

そんな事を考えてると、二体の骸骨武者の槍が退けられた。

 

「もう大丈夫ね。入って良いわよ」

「あ、はい」

 

夏目と京子は迷いない足つきで入り口をくぐった。

まあ、二人とも元から見鬼なんだし、今更お化け屋敷ぐらい怖がるはずもないか。

 

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

 

「まあ、雰囲気は出てるね」

「そうね。でも所詮は作りものよ」

「普段から視えるぼくらには大したことないかな」

「子供だましがせいぜいね」

「お二人さん。そう言うなら俺の腕を離してくれませんかね?」

「「無理」」

「……そうですか」

 

見鬼だから怖くない。そう考えていた時期が俺にもありました。

 

前の会話のみを見ると怖がっている様子はないが、実際に声として聴くと二人の声は凄まじく震えており、誰もが怖がっていると丸わかりな声だった。

 

ちなみに最初、怖がった京子が夏目の腕を掴もうと腕に触れた時その感触に驚いた夏目が悲鳴を上げ、その悲鳴に驚いた京子が悲鳴を上げて二人ともパニックになったため今の状況になっている。

 

 

「てか、なんでそんなに怖がってるんだよ!?さっきまで全然そんな風じゃ無かったじゃん!」

「さ、さっきまでは、その、強がってただけで……主として春虎に変なとこ見せたくなかったし…」

「み、皆が何でもないようだったから、あたしだけ怖がってたら悔しいじゃない…」

 

なんで変なところでコイツらは意地を張るんだよ…。

 

「元から見鬼なんだからお化け関連なんて怖くないんじゃないのか?」

「ぎゃ、逆よ!小さいころから視えてるから怖いんじゃない!」

「そうだよ!視えなければ錯覚で済ませられるけど、視えちゃってるんだよ!?」

「分かったよ!分かったから耳元で怒鳴るのは止めてくれ!」

 

 

そしてその後、

 

「は、春虎!?今背中に何か当たった!」

「首筋に生暖かい風が!」

「い、今あそこに青白い顔をした女の人が!?」

「か、鏡にだけ知らない人が映ってる!?」

 

お化け屋敷の仕掛けすべてに絶叫を上げながらも着実に歩を進め、普通に回るより二倍以上の時間を費やしなんとか奥の祠にたどり着いた。

 

「よ、ようやく着いた…」

 

祠は紙垂(しで)が備えられた小さく簡素な物だった。

 

「ここに呪符を置けばいいのか」

「は、春虎、早く置いちゃって行こうよ」

「そ、そうよ。なんかここ気味悪いわ」

「はいはい」

 

二人に急かされるままに呪符を祠に置いた途端、祠全体が淡く光りだした。

 

「な、なんだ?」

「どうやら、特定の呪力を注ぐと反応する仕組みみたいね」

「さっき貰った呪符の中に注がれていた呪力に反応したんだろうね」

 

さっきまでとは打って変わり、感心した様に祠を眺める二人。

祠がしばらく発光を続けていると、祠の上にぼんやりと人型の影が現れる。

その影は次第にクッキリと輪郭を現し、その姿を見せた。

 

「これは、あの時の式神か」

「青面金剛ね」

 

姿を現したのは高ノ宮先輩の護法式だった。

青面金剛は俺たちの背後にある壁に向かって手を掲げると、その背後の壁は『ラグ』を伴って消えた。

消えた壁の奥には新たな道が見えている。

 

「なるほど、あっちに向かって進めばいいのか」

「そうと分かれば早く行くわよ」

「そうそう。こんなとこ早く出るよ」

「俺の腕をつかみながら言うセリフじゃないだろ…」

 

 

その後も様々な仕掛けに驚く夏目たちに振り回されながらも道を進み続けていると、奥に出口があるのか光が見えてきた。

 

「お、出口か?」

「出口!?」

「ようやく解放されるのね!」

 

それは俺のセリフだよ。

何はともあれ、ようやく出口だ。さっきよりも幾分歩を速めながら出口に向かっていると

 

 

ドサッ

 

 

背後で何か落ちる音が聞こえた。

 

「なん――っ!?」

「どうしたのさ春虎?」

「なにしてるのよ?」

 

背後の音の正体を確かめようと振り返ったら、可笑しなものを見た。

俺に釣られて背後を見た夏目と京子もソレを目に入れた瞬間、息を飲んだのが分かる。

 

 

「あ、あれって…」

「そんな、どうして!?」

「冬児っ!!」

 

音の正体は冬児だった。

正確には冬児が倒れた音だったのだろう。地に伏している冬児の周りには血と思しき液体が広がっており、冬児はピクリとも動かない。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

慌てて駆け寄ろうとした時、

 

 

ぴちゃ ひた

 

ぴちゃ ひた

 

ぴちゃ ひた

 

 

なにか水滴が落ちるような音と、何者かの足音が前から聞こえて足を止めた。

 

「……誰だ?」

 

音が聞こえるのは倒れている冬児のさらに奥。

薄暗い道の奥を凝視すると、ぼんやりとソイツは見えてきた。

 

 

「…天、馬?」

「………兄貴」

 

道の奥から現れたのは天馬だ。

だが、直ぐに様子がおかしいのが分かった。

 

ダラリと両手を下げ、瞳は虚ろ。そしてなにより、右手には鈍色のナイフが握られている。

そのナイフの先端部分は血液なのか、真っ赤に染まっていた。

 

「ま、まさかお前が…?」

「……………」

 

ナイフに警戒しながら天馬を問いただすが、天馬は何も答えない。

 

「て、天馬君?」

「そんな、嘘よね天馬?」

 

続いて夏目と京子が話しかけると、天馬はぼそりと呟いた。

 

「………兄貴が悪いんだよ」

 

天馬がそう呟くと、虚ろだった瞳にだんだんと感情が映り始める。

怒りの感情が。

 

「兄貴が悪いんだ!!」

「お、俺?」

「兄貴が僕を見てくれないから!」

「て、天馬落ち着きなさいよ」

「そうだよ、一度冷静になろう」

 

話しかける夏目たちの言葉も耳に入っていないようだ。

 

「…だから僕は考えたんだ」

 

天馬はそう言うと手に持っているナイフの切っ先をこちらに向けた。

 

「兄貴の周りにいる人を消せば、兄貴は僕を見てくれるって!!」

「いや、そのりくつはおかしい」

 

 

どうしてそうなるんだよ!

汚染された聖杯にでも願ったのか!?

 

だが、俺の事などお構いなしに天馬はナイフの切っ先をこちらに向けたまま走り出してくる。

 

「春虎様!」

 

緊急事態と察したのか、お化け屋敷内では出て来るなと厳命しておいたコンが実体化して刀を抜く。

俺は臨戦態勢のコンの襟をつかみ、呆然としている夏目たちに叫ぶ。

 

「お前ら退くぞ!」

「は、春虎様、なぜですか!?」

「あそこには冬児が倒れてる。けが人の側で暴れる訳にはいかねぇだろ。それに外には先輩もいる。全員でかかれば無傷で天馬を取り押さえられるはずだ」

 

説明に納得したのか、コンも臨戦態勢を一旦解き後ろから追ってくる天馬に注意を払いながら出口に向かう。

全員で出口に向かって全力で駆ける。

 

「良し!出口だ!」

「…ごめんなさいね」

「なっ!?」

 

出口を抜け先輩に呼びかけようとした瞬間、その先輩の護法『蒼刃』に俺たちは床に押さえつけられた。

 

「先輩!?」

「いったい何を考えてるんですか!?」

「………」

 

必死に『蒼刃』の拘束から抜け出そうとするがビクともしない。

他の奴らも同様みたいだ。

 

もがいている内にだんだんと天馬の足音が近づいているのが分かる。

 

クソ!どうすればいい!?

拘束は力ずくでは振りほどけない。

呪符ケースにも、銃のホルスターにも手が届かない。

コンも捕まってる。

 

駄目だ、打開策が浮かばない…っ!

 

そうこうしている内に足音は目の前まで迫ってきていた。

 

「兄貴いいぃぃぃぃ!!」

「くっ!」

 

天馬は倒れてる俺たちにその手に持っている獲物を向け、

 

「はい!チーズ!!」

 

パシャリ、と獲物(カメラ)のシャッター音が響いた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

「「「…………は?」」」

 

夏目、京子、コンも同じ感想なのか、まったく同じ言葉を口にしていた。

 

「…どういうことだ?」

「こういうことだ」

 

天馬の背後には、さっき血まみれで倒れていたはずの冬児がいつもの笑みを浮かべて立っていた。

ご丁寧に『ドッキリ大成功』と書かれた赤い看板を持って。

 

「お前たちの到着があまりにも遅かったんでな。暇を持て余していたら高ノ宮先輩に『脅かす側もやってみないか?』って誘われたんだよ」

「驚かしてゴメンね兄貴」

「フフ、皆の焦った顔も可愛かったわよ?」

 

先輩は冬児と同種の笑みを浮かべながら『蒼刃』を消す。

 

「か、勘弁してくれよぉ」

「しかし、意外だったな。お前は気付くかと思ったんだが」

「いや、最初は演技かと疑ったんだが天馬の行動が演技には見えなくてな」

「…確かに。俺はセリフしか聞こえなかったが、かなりリアルだったな」

「それだけじゃねぇ。あの眼は…ヤバかったぜ」

 

 

天馬をチラリとみると、夏目と京子にさっきの事で詰め寄られて困り顔をしていた。

こちらの視線に気づいたのか、助けを求める視線を送ってくる。

 

演技…だったんだよな?

今度からもう少し気にかけてやるか…。

 

「はい、春虎君」

「ん?なんすか、コレ?」

 

そんな事を考えていると高ノ宮先輩が一枚の紙を渡してきた。

受け取るとそれは先程天馬が撮った写真が現像されたものだった。

 

『蒼刃』の腕に押さえつけられながらも、呆然とした間抜け面を写した三人と一匹がその中にはいた。

 

「………」(無言で写真を破る)

「データはこっちにあるからまだまだあるわよ」

「あ、先輩。俺の携帯に送ってもらっていいっすか?」

「チクショオオオ!!」

 

破いた写真を床に叩きつける。

 

「大丈夫です兄貴!良く撮れてますよ!」

「撮った張本人はお前だもんな!」

 

そうしていると、高ノ宮先輩が俺に意味深な笑みを向けた。

 

 

「こんな写真のデータ、直ぐにでも消してほしいわよね?」

「……何が条件ですか?」

 

先輩は、理解が速いわね、とほほ笑むとそのまま条件を提示した。

 

「今度の日曜日に一日買い物に付き合ってもらおうかしら」

「…そ、そんなことで良いんすか?」

 

荷物持ちにこき使われる位なら、好条件だろう。

 

「ええ、一日『デート』に付き合ってくれれば良いのよ」

「「っ!?」」

「で、デート?」

「そうよ。一日一緒に街を歩くんだもの。デート以外の何と言うのよ?」

 

いやいや、写真データ消してもらう条件じゃん。むしろ脅迫の類なんですけど…。

 

「…分かりましたよ。先輩とデートすれば―――」

「「駄目!!」」

「は?」

 

先輩にOKを出そうとしたら夏目と京子がいきなり乱入してきた。

 

「駄目だよ春虎!日曜日はその、よ、用事があったじゃないか!」

「そ、そうよ!えっと……う、打ち上げ!『五芒祭』の打ち上げをやるって言ったじゃない!」

「は?俺何にも聞いてないんだが…」

「春虎がボーっとして聞いてなかっただけだよ!」

「いや、さすがにそれは無いだろ」

「ほら、その話は後にしてもう劇始まっちゃうわ。移動しましょ!」

「ちょ、待て、そんな引っ張るなよ!それに話も途中―――」

「「先輩、そういう事なので!」」

 

 

何故か息の合った連係で会話を打ち切られ、無理やり引きずられていく。

 

 

「ま、待ってくれ!せめて今ある写真の回収だけでもおおぉぉぉぉ!!」

 

 

しかし、俺の願いは聞きとられることは無くそのままお化け屋敷を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 




更新が遅れに遅れた事申し訳ございません。

今回は文化祭日常パートを書きました。
実際はもう一つ話をくっつける予定でしたが、アニメ化までに間に合いそうになかったので切り上げました。
なので次回の更新は今月中には行けると思います。

ネタ案・ダメだし・誤字脱字修正・常時募集中です。

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