東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

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予定より少し遅くなってしまい申し訳ございません。



第三十八幕 最上級生

『ただいまより!!タッグトーナメント三回戦を始めます!!実況は毎度おなじみ、このお二方です!』

『よろしゅう』

『よろしくお願いします』

 

二回戦(さっき)と同じように実況の大きな声が会場に響く。

もう、大友先生と塾長が毎回いるのにツッコむのは止めよう。

 

「連続で対戦はキツイな」

「何言ってんのよ。だらしないわね」

「お前は二回戦の時に何にもしてないだろ…」

 

俺たちのチームは二回戦が終わった後すぐ、三回戦に挑むことになっていた。

 

「シャキッとしなさい!次の対戦相手は厄介よ」

「厄介?」

「ほら」

 

俺が首を傾げると、京子が指を指し示す。

その先には、

 

「兄貴ぃいいいいいいい!」

「お、おう」

 

天馬が立っていた。

 

「てか、お前も出てたんだな」

「先輩に誘われまして」

「先輩?」

「はい!紹介します。三年生の――」

高ノ宮(たかのみや) 礼子(れいこ)よ。よろしくね」

 

天馬の紹介に言葉をつづけたのは、黒髪の美女。

黒髪は長く艶やかで、二つ上とは思えないスタイルと雰囲気を纏っていた。

 

「よ、よろしくお願いします…」

「…何デレデレしてんのよ」

「で、デレデレなんかしてねーよ」

 

確かに美人だとは思ったけど。

 

「ふぅん」

「本当だよ!」

「フフフ」

 

俺が否定をしても、京子は不満そうな顔をした。

そんな俺たちのやり取りを見て、先輩がクスクスと笑う。

 

「見ていて飽きないわね。あなたたちは」

「そうでしょう!自慢の兄貴ですから!」

 

いや、今のは褒められた訳じゃ無いと思うんだが…。

 

「天馬君から聞いてるけど、春虎君あなた結構強いんだってね?」

 

天馬から聞いたのか。

ものすごい誇張されてそうなんですけど。

 

「どんなふうに聞いてるかは知りませんが、強いって言っても一年ですよ俺は」

「謙遜しなくてもいいのよ。並みの実力じゃ、三回戦まで来れないわよ」

 

遠回しに自分たちの実力も誇示してんのかよ。

 

「そういう訳で悪いけど、一年生だからって手加減は出来ないわよ」

「俺も女性だからって手加減できませんよ」

「言うじゃない。そういうの、好きよ」

 

俺の返答に満足したのか、高ノ宮先輩は微笑んだ後、持ち場に戻る。

 

「兄貴!全力でぶつからせていただきます!」

「応、こっちも負ける気は無いからな」

「はい!」

 

天馬もこちらに一礼した後、走って戻って行った。

 

「ふぅ」

「…デレデレしちゃって」

 

いまだに不機嫌な様子の京子。

 

「まだ言うか」

「…だってああいうのがタイプなんでしょ?」

「は?」

「前に『年上の綺麗系』がタイプだって言ってたじゃない」

「え、……ああ。そう言えばそんなことも言ったな」

 

確かにそうなんだが、どっちかって言うと妖艶な感じより、清楚な方がタイプなんだよな。

 

「試合の最中に手加減なんかしないでしょうね?相手は最上級生なんだから」

「そこは大丈夫だ。手加減して勝てるとも思えないしな」

「…それもそうね。で、作戦はどうするの?」

「そうだな…。こう言うとあれだが、天馬個人の戦闘力はそこまで高くないだろ?」

「まあ…そうかもね」

 

京子も友人を乏しめるような発言はしにくいのか、曖昧に頷く。

 

「そこでだ。先に俺とコンで先輩を抑えておく。京子はその間に天馬を倒してほしい。天馬を倒し終わったら俺と京子で先輩を挟撃する」

「三年生相手に春虎は大丈夫なの?」

「時間を稼ぐだけなら一人でも平気さ。俺の実力は知ってるだろ?」

「…なるべく早く合流できるように努力するわ」

「頼りにしてるぜ」

 

そう言って京子と拳を合わせる。

 

 

 

 

 

 

『さあ、この試合に勝ったチームが準決勝へ歩を進めるぞ!タッグトーナメント第三試合バトルスタート!!』

 

「打ち合わせ通り行くぞ!」

「ええ!」

 

事前の作戦通りに、まず二人を分断させるように攻撃を仕掛ける。

 

「「喼急如律令(オーダー)!」」

 

京子と同時に二人の間を狙い火行符を投げる。

発動した二つの火行符は一つに合わさり、その炎を大きくする。

 

「天馬君!」

「はい!炎を鎮めよ!水克火!喼急如律令(オーダー)!」

 

俺たちが呪符を投げるとほぼ同時に天馬たちも動いた。

高ノ宮先輩の掛け声と同時に天馬が水行符を投じると、炎を消そうと水流が溢れる。

 

しかし、合わさった二人分の火行符の炎を消すには足りず、炎の威力を弱めるにすぎなかった。

 

「ナイスよ、天馬君。火生土!喼急如律令(オーダー)!」

 

が、相手は俺たちの術を消す事ではなく、弱めることが目的だったらしい。

 

投げられた土行符が発動すると、床から土の壁が波状に隆起し始める。

隆起した土は火を吸収すると、その勢いを一層強め俺たちに襲い掛かってきた。

 

「ぐっ」

「きゃ…!?」

 

土に弾かれた俺たちは、そのまま左右に飛ばされる。

そして、隆起した土はそのまま俺と京子の間で高い壁となり、俺たち二人を分断した。

 

「マズイっ!」

 

直ぐに京子の元へ向かおうとした時

 

「兄貴!」

 

呪符を持った天馬が俺の背後から現れた。

このまま京子の元へ行こうと背を向けた瞬間、手に持った呪符が俺を襲うだろう。

 

「天馬…やってくれるじゃねーか」

 

京子の元へ行くのを諦め、天馬と向かい合う。

俺たちがしようとしていた『分断させ、実力の低い方から倒す』と言う作戦を破られ、まんまと同じことを相手にやられてしまったようだ。

 

おそらく今京子の元にはあの高ノ宮先輩が行っているだろう。

 

「作戦を読ませていただきました!僕が兄貴を抑えてる間に先輩が倉橋さんを倒したら、ニ対一でやらせていただきますよ!」

「おいおい、俺の事舐めてんのか?」

「まさか!兄貴の強さは良く知ってます!…でも、それと勝敗は別ですよ」

 

 

どうやら策、もしくはそれに準ずるものを用意しているらしい。

 

「面白れぇ。やれるもんならやってみろ!」

 

だが、ここで俺がとる行動は一つだ。

小細工なしの正面突破で天馬を倒し、直ぐに京子の方へ駆けつける。

 

此処で天馬の策を警戒し、時間を無駄に浪費するのは最悪の手だ。

京子の方も三年生相手では厳しいだろう。

 

ならばリスクはあるが、最速で天馬を倒し、京子と二人で先輩を倒す。

これが最良の手だ。

 

「行くぞ!」

「はい!」

 

俺は身を低くして、真っ直ぐ突っ込む。

 

喼急如律令(オーダー)!」

 

それに対し、天馬は持っていた呪符を床に叩きつけた。

そのまま発動した土行符は天馬の目の前に高い土壁を作る。

 

「確か土には……これだ!木克土!喼急如律令(オーダー)!」

 

俺は速度を緩めず、目の前の土壁に木行符を投げつける。

すると木行符は土壁を床にして木を成長させ、見る見るうちに土壁にひびを入れ、崩していく。

 

「そんでもって、北斗剛掌波!」

 

そして、土壁に向かって勢いをそのままに掌底打を繰り出す。

ひびが入り脆くなっていた土壁は俺の一撃を受け、弾け崩れた。

 

「うわっ!?」

 

土壁の裏側に居たのか、天馬は弾けた土塊にぶつかり、後ろに倒れる。

 

「なんだ、その程度か天馬?」

 

土壁を崩したことにより生じた土煙が一面を覆い尽くす。

俺はそれを手で払いながら天馬に近づいた。

 

「……なら……よ」

「ん?」

「兄貴なら正面から突破すると思ったよ!喼急如律令(オーダー)!」

 

 

天馬がそう言うと同時に四方から俺に向かって呪力の衝撃砲が放たれた。

 

「ちっ!」

 

土壁を出したのはこれを隠すためか!

俺は飛んでくる衝撃砲をかわすため、真上にジャンプした。

 

 

「回避されることも想定内だよ!喼急如律令(オーダー)!」

 

 

天馬がさらに叫ぶと、崩れた土壁の破片の下に隠れていた木行符が発動した。

 

「なっ!?」

 

急に伸びてきたつるをジャンプしている最中の俺はかわす事が出来ず、手足を拘束される。

 

「二段構えとはやるな!だが、縛るんじゃなく、攻撃にするんだったな!この程度の拘束ならすぐに―――」

「すぐに破られちゃうでしょうね。でも、それも織り込み済みですよ!行け!!」

「うぉ!?」

 

天馬が叫ぶと再び、土壁の破片の下から何かが飛び出した。

 

「つ、ツバメ?」

 

あれは鈴鹿の事件の時に呪捜官が使っていた、確か――。

 

「スワローウィップ…捕縛式とか言うやつか!?」

「その通りです!やれ!」

 

天馬が指示を出すと俺の上空に居たツバメはその風切羽を鞭のように伸ばし、俺の体へと巻きつけていく。

捕縛式の名に恥じぬそれは、俺の体の自由を奪い締め上げた。

 

空中で木行符とスワローウィップに二重に拘束された俺は、為す術もなく床に落ちた。

 

「ぐぅっ」

「今だ!」

 

天馬は俺が動けない今を勝機と見たのか、真っ直ぐこちらに迫ってくる。

 

「僕の勝ちです!」

「三段構えだったのか。…良い作戦だ」

 

身動きを封じられた俺は迫ってくる天馬を見てぼそりと呟く。

 

「……だが、俺に勝つには一手足りなかったな!喼急如律令(オーダー)!」

「っ!?」

 

天馬との距離が詰まった時、俺は仕掛けておいた呪符を発動させた。

俺が術を発動させると、あちこちから火柱が上がる。

 

火柱は俺の真横からも上がり、俺を縛っていたスワローウィップを焼き切った。

 

「次にお前は『いつの間に呪符を仕掛けたんだ』と言う」

「いつの間に呪符を仕掛け――――はっ!?」

「いったい俺が何のためにあんな派手に土壁を砕いたと思っているんだ?」

「土煙に乗じて呪符を…っ!」

「そうさ、なにも土壁で相手が見えなくなるのはお前だけじゃ無いんだぜ?」

「くっ」

「惜しかったな。だが、勝負は俺の勝ちだ!」

 

俺は下から立ち上る火柱に囲まれて動けない天馬に向かって渾身の拳打を繰り出す。

 

「喰らえ!山吹き色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!!」

「うわああぁっ!!」

 

俺の一撃を食らった天馬はそのまま弾かれ、地面に倒れた。

それと同時に、立ち上っていた火柱も鎮火していく。

 

「ぐっ……やっぱり兄貴は強いな…」

 

天馬は顔を痛みで歪めながらも上体を起こす。

 

「お前も中々だったぜ」

「でも、ぼくの役割は果たしたました。今頃、倉橋さんは先輩が―――」

「それはどうかな?」

「…え?」

「気づいてないのか?お前と戦ってる最中コンと銃を一度も出していないことに」

「……敵わないなぁ」

 

自身の敗北と失策を自覚したのか、天馬はそう呟きながら再び倒れ込んだ。

俺はそのまま土壁に近寄り、背中を見せんばかりに大きく拳を振りかぶる。

 

「体重×スピード×握力=破壊力!!」

 

反動を利用し、強烈な右ストレートを壁に叩き込んだ。

土壁はまるで、発泡スチロールで出来ていたかのように弾け飛ぶ。

 

「待たせたな」

 

 

 

 

 

~試合開始直前~

 

「そこでだ。先に俺とコンで先輩を抑えておく。京子はその間に天馬を倒してほしい。天馬を倒し終わったら俺と京子で先輩を挟撃する」

「三年生相手に春虎は大丈夫なの?」

「時間を稼ぐだけなら一人でも平気さ」

「…なるべく早く合流できるように努力するわ」

「頼りにしてるぜ」

 

そう言って京子と拳を合わせる。

 

 

 

 

「と相手は思っているだろう」

「は?」

 

いきなりしゃべりだした俺に、拳を合わせたままの京子は目を丸くした。

 

「今言った作戦は相手の方も想定済みって事だ。まあ、最も堅実な作戦だし当然だわな」

「じゃ、じゃあ」

「ああ。今言った作戦は成功しないだろうな」

「どうすんのよ?」

「相手の行動を考えるとおそらく、相手は裏をかいて同じように俺たちを分断するだろう。その時、多分三年生の先輩に狙われるのは、京子。お前だ」

「……悔しいけどそうでしょうね」

「でだ、俺たちはあえて相手の策に乗る。そんで、俺が天馬を倒してその後二人がかりで三年を倒す。これがリスクは高いが勝つ確率が最も高い作戦だ」

 

分断するには土行符かなにかで相手の間に壁を作る必要がある。

それは相手も同じで、そうなると三年生相手に呪術合戦となる。

そうなると、自力も知識も上回っている三年相手に勝つのは厳しいだろう。ならば無理に勝負せず、相手の裏をかく。

 

「あ、あたしに三年生の相手をしろって言うの!?」

「俺だって、そこまで無茶は言わねーよ」

 

俺はそう言うとベルトに差していた二丁銃を京子に差し出す。

 

「これと、後コンも京子に付ける」

「は、春虎はどうするのよ?」

 

コン自身も同じ気持ちなのか、実体化はしないものの霊気の振動で抗議していることが分かる。

 

「俺なら大丈夫だ。天馬はおそらく、俺の足止めだろう。それだったら遠距離でけん制し合うより近距離で一気に決めた方が良い。その場合、銃より(こいつ)の方が向いてる」

 

そう言いつつ、拳を握って見せる。

 

「それにこの策の場合、京子が三年相手にしばらく耐える必要がある。だったら、戦力も武器もあるに越したことはないだろ?」

「……アタシの実力じゃ三年相手だと七、八分が限界よ」

 

京子は腹をくくったのか、銃を受け取りつつそう言う。

 

「充分。五分で駆けつけてやるぜ」

「…頼りにしてるわよ」

 

 

そう言って俺と京子は再び拳を合わせた。

 

 

 

~side京子~

 

「まさか本当に春虎の言うとおりになるなんてね」

 

自分たちの攻撃を利用され、分断させられたあたしは今、高ノ宮先輩と向き合っていた。

あたしの前には『白桜』『黒楓』、それにコンちゃんがいて、両手には春虎から借りた銃が握られている。

 

あたしたちを分断した後、攻撃を仕掛けに来た先輩を銃とコンちゃんたちで一旦退けた後だった。

 

「…まさかあなたが春虎君の護法と武器を持ってたなんてね。驚いたわ」

「全然そうには見えませんけどね」

「そんなことは無いわよ?」

 

そう言って先輩はクスリと笑った。

 

「でも、こうなるとあなたを全力で倒しにかかった方が良いわね。春虎君が援軍に来ると厄介だわ」

 

先輩は目を細め、呪力を練り上げる。

 

「まさか三回戦(こんなところ)で私の護法を見せることになるとわ思わなかったわ」

「護法っ!?」

「見せてあげるわ。『蒼刃(そうじん)』!」

 

先輩の叫びと共にその眼前に一体の鎧武者が現れる。

 

その大きさは『白桜』『黒楓』よりも一回り以上大きく、腕は四本二対あり、二本で薙刀を構えもう二本にはそれぞれ日本刀を携えている。

そして、その身体は全身青い甲冑を纏っている。

 

「しょ、青面金剛(しょうめんこんごう)…!」

 

大分カスタマイズされてるけど、確か陰陽庁製の護法式『モデルS4・青面金剛』だったはず。

三年生でしかも護法持ちだったなんて…。

 

「そう。これが私の護法式『蒼刃』よ。行きなさい!」

 

先輩が指示を飛ばすと、その護法『蒼刃』があたし目がけて走り出した。

 

「『白桜』『黒楓』!コンちゃんもお願い!」

 

自らも銃を構えつつ、護法たちに指示を飛ばす。

 

「セェア!」

「たぁあ!」

「その程度!」

 

迎撃のためコンちゃんが出した火球と銃弾は、『蒼刃』が薙刀を風車のように回転させるとかき消されてしまった。

 

と、と言うかこの銃、一回引き金を引くだけでも結構な量の呪力を消費する…!

春虎はこんな武器をあんなに乱射してたって言うの!?

 

「くっ…まだよ!」

 

銃とコンちゃんで気を逸らしていた隙に接近させていた『白桜』と『黒楓』で左右から切りつける。

 

「良い攻撃ね。…でも、まだまだよ!」

 

『白桜』と『黒楓』の攻撃は『蒼刃』の残っている日本刀を持った腕に防がれる。

そのまま『蒼刃』は体を独楽のように回転させながら薙刀を振るった。

 

日本刀と鍔迫り合っていた『白桜』と『黒楓』はその薙刀を避ける事が出来ず、『ラグ』を引き起こしながら壁まで弾かれる。

 

「な、なんて膂力なの…」

「『蒼刃』ばかりに気をとられてちゃ駄目よ?」

 

そこ声にハッとすると、先輩が呪符を手に距離を詰めていた。

 

護法持ちの術者が自分で攻撃を仕掛けに来るなんて…!

 

喼急如律令(オーダー)!」

 

先輩が呪符を投げる。

呪符は木行符で植物の蔓に変わり、あたしの眼前に迫る。

 

「させん!」

 

来るであろう衝撃に備えて身を固くした時、あたしの前にコンちゃんが躍り出る。

コンちゃんは迫る蔓に火を放った後、小刀を振るって蔓を散らす。

 

「大丈夫ですか、京子殿!」

「た、助かったわコンちゃん、ありがとう!」

 

先輩との距離を空けるために、一度大きく後ろに下がる。

 

「あの護法、一体どう攻略すれば…」

 

『蒼刃』を睨みながらコンちゃんが忌々しそうにつぶやく。

 

「コンちゃん、無理にアイツを倒そうとしなくても春虎が来るまで―――」

 

そこまで口に出してハッとする。

あたしは今、何と言おうとしたの?

 

『春虎が来るまで耐えれば、あいつが何とかしてくれる』

 

そんなセリフを吐こうとしてしまったのか?

 

 

自分が情けなくて笑えてくる。

こんな、おんぶにだっこの状態じゃ、ただのお荷物じゃない。

 

 

 

「っ!」

 

その瞬間、先輩とコンちゃんが目を見張った。

理由は簡単。あたしが自分の頬を自分で叩いたからだ。

 

「きょ、京子殿?」

「大丈夫よコンちゃん」

 

何事かと、恐る恐る訪ねてくるコンちゃんに笑顔で答える。

もう、あたしの中から情けない考えは消えていた。

 

頼るだけのお荷物じゃいけない。むしろ、陰陽師の先輩として春虎に頼られるくらいじゃ無きゃ駄目よ。

あたしはあいつのパートナーなんだから。

 

「あの先輩をあたし達だけで倒して、春虎を驚かしてやりましょう!」

「も、もちろんです!」

 

気持ちを新たに先輩を睨む。

 

「あら?良い表情になったじゃない」

「ええ。本気で勝ちにいかせてもらいますよ」

「そう。でも、そう簡単に勝ちを譲るわけにはいかないのよ。先輩の矜持(プライド)としてね!」

 

『蒼刃』が薙刀を振りかぶり突進してくる。

その正面は空いている二本の腕できっちりとガードされている。

 

「『白桜』!」

 

此処であたしはまだ見せていない自分の手札を切った。

あたしの言葉と共に『白桜』が爆発的加速を見せて『蒼刃』に切迫する。

 

「っな!?」

 

春虎との戦い以降見せていないあたしの切り札。

溜めた呪力を爆発させ、瞬時加速させる技。

 

この攻撃には先輩も虚を突かれたらしく、対応できなかった。

 

肉迫した『白桜』は手にしている日本刀を鋭く振り上げる。

その一撃でガードの腕を跳ね上げた。

 

だが、ガードのための腕はもう一本残っており、その腕による攻撃で『白桜』は弾き飛ばされてしまった。

 

「『黒楓』!」

 

崩れたガードを戻させないよう、間髪入れずに『黒楓』にも瞬時加速を使う。

が、

 

「一度見せた技が何度も通用すると思ってはダメよ!」

 

さすがに二度目はきっちりと対応してくる。

肉迫した『黒楓』を振り上げていた薙刀で叩き落とす。

 

 

けど、これですべてのガードは崩れた!

 

「『白桜』と『黒楓』ばかりに気を取られちゃ駄目じゃないですか」

「さ、さっきの私と同じことを…!?」

 

『白桜』と『黒楓』は囮。そこに気を向けさせ、あたしは『蒼刃』の懐に潜り込んでいた。

 

「叩き割れ!喼急如律令(オーダー)!」

 

そのまま『蒼刃』の胸部装甲目がけ金行符を投げつける。

呪符は鋭い呪力の刃を生み、『蒼刃』の胸に大きな傷を作った。

 

『蒼刃』は『ラグ』を起こすが、まだ決定的な一打とはなっていない。

 

「もういっちょ!」

 

すかさず、呪符を投じようと構えたが、

 

「それ以上はさせないわよ!喼急如律令(オーダー)!」

 

先輩が投じた呪符によって攻撃は中断せざる得なくなった。

 

「きゃ…!?」

 

先輩が投じた火行符はあたしと『蒼刃』との間で小さな爆発を起こす。

とっさに呪符を攻撃から防御に切り替え、障壁を張ったが爆発の衝撃までは防げず、後ろに吹き飛ばされる。

 

しかし、『蒼刃』は違った。

身体が大きく、重い『蒼刃』は爆発をもろに食らいながらも、吹き飛ばされることは無く、すでに体制を整えてこちらに接近していた。

 

「これで終わりよ!」

 

先輩の掛け声とともに『蒼刃』が薙刀を振り上げる。

その薙刀が振り下ろされれば終わるが、あたしの目に諦めは無かった。

 

「コンちゃん!」

「はい!」

 

目の前の何もない空間からコンちゃんが姿を現す。

その手には抜身の小刀が握られていた。

 

「隠形で隠れていたの!?」

 

コンちゃんの隠形の術は自分の気配を完全に消すのではなく、周囲の霊気に溶け込ませるタイプのものらしく、名前通り獣並みに鋭い勘の持ち主である春虎ですら欺ける程の代物。

 

先輩とは言え、初見で見破ることは難しかった。

 

「ハァア!!」

 

先輩が『蒼刃』に向かって止まるように命令を下すが、もう遅い。

コンちゃんは咆哮とともに、あたしが付けた『蒼刃』の胸の傷にその刃を突き立てた。

 

刀が刺さった『蒼刃』は背を大きくのけ反らせ、大きな『ラグ』を起こす。

もし、『蒼刃』が言葉を発せたのなら、大きな悲鳴を上げていただろう。

 

『蒼刃』はそのまま二歩、三歩と後ろによろめき、大きな音を立てて膝をついた。

 

「…や、やったの?」

 

正直に言って、あたしはもう限界寸前だわ。

人間とはけた違いの膂力を誇る式神。

そんな相手に生身での接近戦は、一息つく間ですら精神と体力を多く消耗する。

気を抜いたら、今にも膝が崩れそうだわ。

 

春虎はこんな世界に身を置いていたのね…。

 

 

「……正直、予想外よ」

「え?」

「あの倉橋のお嬢様とは聞いていたけど、一年生でここまでの実力を持っているなんて思っても居なかったわ」

 

褒めるようでも悔やむようでも無く、ただ事実確認の様に淡々という先輩。

 

「今からは一年生でもは無く、対等の敵として行かせてもらうわ。『蒼刃』!」

「ま、まさか、まだ動けるって言うの!?」

 

先輩の呼び声がかかると、胸にはいまだにコンちゃんの小刀が刺さっているにもかかわらず、『蒼刃』はゆっくりと立ち上がった。

そしてそのまま、こちらに向かって前進してくる。

 

「くっ…」

 

あたしは懐から取り出した銃と呪符をそれぞれ手に持って構えるが、それは精一杯の虚勢だ。

 

『白桜』と『黒楓』、それとコンちゃんがあたしの前に出るが『白桜』と『黒楓』はさっきの攻防で傷つき、コンちゃんは武器が無い状態。

 

そんな状態では『蒼刃』の前進を止めることは出来ず、『蒼刃』は簡単にあたし達との距離を詰めた。

 

「今度こそ終わりよ!」

 

『蒼刃』が四本の腕を振り上げる。

あの腕が振り下ろされれば、あたしの負けが決まる。

 

その時だった。

 

 

爆発音のような大きな音を響かせ、あたしの背後にあった土壁が弾けた。

弾けた土壁の欠片があたしの頭上を通り過ぎ、今まさに腕を振り下ろさんとしている『蒼刃』に散弾銃の様に襲い掛かる。

 

「な、なに!?」

 

先輩の驚いた声が聞こえるが、それに対してあたしは大して驚いてなかった。

こんな無茶をやってのける男を一人知っているから。

 

「待たせたな」

 

その男の声が背後から聞こえた。

 

 

 

 

 

~side春虎~

 

「待たせたな」

 

壊した土壁を踏み越え、京子に声をかける。

 

「遅かったじゃない」

 

振り返った京子がからかう様に言う。

 

「バカ言え。五分ピッタリだろ」

「紳士なら約束の五分前に来るのは当然でしょ?」

「五分前って、それ試合開始直後じゃねーか…」

 

そんなもんどうしろって言うんだよ。

 

「でも助かったわ。どうやってあたしと相手の位置が分かったの?」

「…ん?」

 

何のことだ?

京子の言葉の意味が分からず、適当に辺りを見渡す。

 

そこにあったのは辺りに飛び散った、俺が砕いた土壁の破片。

幸いにも京子には当たっていなかったようだが、その奥にいる先輩のと思われる式神には当たったのか、体に土の破片を着け、あおむけに倒れていた。

 

「……………………まあ、俺ぐらいになると分かっちゃうもんなんだよ」

「なに今の間?」

 

誤魔化しきれなかったのか京子が不審そうな目で見てくる。

 

「……まさか、吹っ飛ばした後の壁の破片がどうなるか、考えてなかった。なんてことは無いわよね?」

「ま、まっさかー!そんな訳無いじゃないですか京子さん!」

「あんたねぇ!いつもなんでそう考えなしなのよ!」

 

激昂した京子が試合中にもかかわらず、俺の胸ぐらを締め上げる。

 

「く、苦じぃ…っ」

「偶然にも当たらなかったから良い物の、もし当たってたらどうするのよ!」

「そ、その時は全力で責任は取るから!」

「え?」

 

俺が叫んだ途端、京子の拘束が緩くなり俺は京子の手から逃れられた。

 

「ゴホッ…カッ…はぁ…はぁ」

 

胸ぐらを解放され、一気に咳き込む。

 

「せ、責任って何言ってるのよ!?そ、そりゃ、…あんたが責任を取りたいって言うならやぶさかじゃないけど……で、でも、あたしは夏目君も……」

 

俺の胸ぐらから手を離したかと思うと、今度は顔を真っ赤にして何やら呟き始めた。

そんなに俺の責任の取り方(平身低頭覇(どげざ)&怪我が治るまでの看病)が気に食わなかったのか?

 

「もう良いかしら?」

 

俺と京子がごたごたしている内に、先輩の式神も体勢を整えたのか、すでに立ち上がっている。

 

「あ、ああ。すんませんね」

「別に大丈夫よ。見てる分には面白いから。…けど、びっくりしちゃったわ。武器も護法も無しに天馬君をこんな短時間っで倒しちゃうなんて」

 

先輩は口調は褒めているが、その眼差しは冷静に俺の戦力を分析しようと隙なく俺を見ていた。

 

「次は先輩も倒させてもらいますよ」

 

京子を庇うように前へ出る。

 

「あら?そう簡単にあたしと護法の『蒼刃』を倒せるかしら?」

 

あのでかいのは護法式か。

 

「春虎、気を付けて。あの護法、すごいパワーよ」

「ああ、あとは俺に任せろ。お前は下がって―――」

「何言ってんのよ。あたしはまだやれるわ」

「はぁ?お前が何言ってんだ?ボロボロじゃねーか」

 

『白桜』と『黒楓』は今も若干『ラグ』を起こしており、決して軽くないダメージを負っている。

京子も身体的な面で派手な怪我は無いが、体力、精神力の方は限界が近いはずだ。

 

現に今も京子の膝は震え、崩れそうになっている。

しかし、体とは真逆にその眼差しはギラギラとした光を放っていた。

 

「……分かった。足はひっぱんなよ?」

「誰に言ってんのよ」

 

京子から銃を受け取り、先輩に向き直る。

 

「俺が前に出る。援護、追撃任せたぜ」

 

そう京子に言い、前へ走りだす。

 

「コン!」

「はいっ!」

 

俺の呼ぶ声と共にコンが現れ、火の玉を打ち出す。

 

「『蒼刃』!」

 

が、先輩の護法『蒼刃』の一振りですべてかき消される。

だが、火の玉はあくまで目くらまし。

 

「先輩!最初からクライマックスで行かせてもらうぜ!」

 

二丁拳銃を構え、全力で呪力を注ぎ込み、引き金を引く。

 

「ハイ・メガ・キャノン!!」

 

打ち出した呪力は一筋のビームの様に突き進む。

フルアーマーはロマンだと思うわ。

 

 

「主を守護する堅強なる結界!三重障壁!喼急如律令(オーダー)!」

 

 

俺が引き金を引くと同時に、先輩も行動を始めていた。

手に持った三枚の呪符を投げると、空中で三枚が列を為し、静止する。

そして、その三枚の呪符からそれぞれ強力な結界が発生した。

 

俺の出したビームは一枚目の結界を破り、二枚目の結界も何とか破ったが、威力を削ぎ落とされ、三枚目の結界にひびを入れるにとどまった。

 

「…三枚目にひびを入れるなんて。凄まじい攻撃ね」

「そっちこそ、全力の攻撃を止められるとは思わなかったぜ」

「フフ、伊達に最上級生じゃないわよ。…次はこっちから行かせてもらうわ!」

 

先輩の指示と共に『蒼刃』が突撃を始める。

 

「あなたには私の攻撃を防ぐ術は無いでしょう?」

「………」

 

確かに先輩の言うとおり、俺には『蒼刃』の攻撃を防ぐ術は無い。

かわすことは可能だろうが、それもいつまで持つか分からない。

 

あの巨体から繰り出されるパワーの攻撃を一撃でも貰えば、その時点で終わりだ。

だが、

 

「忘れてないか?俺には心強い相棒が居るんだぜ?」

喼急如律令(オーダー)!」

 

京子の投げた呪符が俺の脇を通り、俺と『蒼刃』の間で発動する。

発動した呪符は呪力の障壁を作る。

 

「そんな防御じゃ『蒼刃』は止められないわよ!」

 

京子の出した障壁を『蒼刃』は日本刀で切り裂く。

 

「だろうな。…だけど、一瞬の隙で十分だぜ!」

 

『蒼刃』が障壁を破壊するためにできた一瞬の隙を突き、『蒼刃』との直線状を外れ、先輩本人に銃口を合わせる。

 

「乱れ打つぜぇ!」

「そ、『蒼刃』!」

 

本人に向けて撃った銃撃の弾幕を『蒼刃』が割って入り、身体で受け止める。

 

「チッ、堅てぇな」

 

威力を分散させ連射に切り替えた銃撃を受けても、『蒼刃』に大したダメージは入ってないようで、その身を銃撃に晒しながらも少しずつ前進し始めた。

 

「春虎下がって!コンちゃん行くわよ、喼急如律令(オーダー)!」

「承知!」

 

声を聴いて俺が下がると、京子とコンが変わるように前へ出る。

京子の放った火行符とコンの火球が合わさり、強力な炎の槍が『蒼刃』へと突き進む。

 

「溢れ出す水気!荒ぶる火気を鎮めよ!水克火!喼急如律令(オーダー)!」

 

しかし、その炎は先輩の繰り出した水行符によって打ち消されてしまった。

 

「二人がかりで出した炎を簡単に消すのかよ…」

「先輩をあまり舐めちゃ駄目よ?」

 

京子たちの攻撃を防ぎきると同時に、今度は先輩が攻勢に出ようと動く。

 

 

 

その瞬間だった。

 

相手との距離は十分に取れていた。

相手の機動力から見ても、どんな攻撃が来ても対応できるほどの距離は確実にあった。

だが、何の根拠もない俺の直感としか言いようが無いものが、頭の中でうるさい位に警報を打ち鳴らす。

 

「コン実体化を解けっ!!」

「きゃぁっ!?」

 

俺はその直感に身を任せ、コンに指示を出しながら京子を抱きかかえ、横に転がるように跳んだ。

 

その直後、さっきまで京子が居た付近に猛スピードで『蒼刃』が接近し、その拳が振り下ろされていた。

 

「あら?良くかわしたわね」

「あ、あたしの、技!?まさか、数度見ただけで覚えたって言うの!?」

 

俺の腕の中で京子が愕然とする。

 

 

「京子、下がってろ。コン、お前は京子の護衛に着け」

 

パワー型の『蒼刃』に直線だけとは言え、機動力が加わってしまった。

そんな状況では『蒼刃』の攻撃を防御・回避できない京子を前に立たせておくことは危険すぎる。

 

いまだに呆然としてる京子を後ろに下がらせ、先輩と一対一で向き合う形になるように前へ出る。

 

 

「そのパワーで機動力もあるとか反則だろ…」

「あなたにそう言われるなんてあの技を披露した甲斐があったわ」

「チッ…」

 

とにかくあのスピードは厄介だ。

まずはそれを封じ込めるしかないか。

 

「敵を縛れ!喼急如律令(オーダー)!」

 

木行符へ力任せに呪力を注ぎ込み、『蒼刃』の脚を狙い放つ。

呪力を注ぎ込まれた木行符は、俺の呪文と共に一本一本が大樹の根ほどある蔓を無数に伸ばし始める。

 

しかし、『蒼刃』はそれらを上へ大きく跳躍することで回避した。

 

「確かに力は強いけど、当たらなくちゃ意味は無いわ」

「だろうな。…けど」

 

俺は上へ跳んだ『蒼刃』に銃口を向ける。

 

「空中じゃ回避できないだろ!」

「させないわ――――っ!?」

 

先輩が援護の呪符を構えた所で顔色を変える。

なぜなら、俺が放った木行符がそのまま先輩目がけ伸び、眼前に迫ってきていたからだ。

 

「オ、喼急如律令(オーダー)!」

 

先輩はとっさに障壁を張り、木行符を防ぐ。

だが、これで先輩は動けなくなった。

 

「喰らえっ!」

 

空中で無防備になっている『蒼刃』に最初の一撃と同じビームを放つ。

『蒼刃』の高速移動法も脚先から呪力を放出するため、ジャンプした直後では体勢的に回避は厳しいだろう。

 

回避方法も無く、主からの援護も無い。

 

もらった!

そう俺が心の中で思うと、『蒼刃』が手に持っていた二本の日本刀を放り捨てた。

その行動に眉をひそめた次の瞬間、『蒼刃』の巨躯が消えた。

 

「な…っ!?」

 

実際には消えたわけでは無く、高速で横に回避したため一瞬俺の目から消えたように見えただけなのだが、それでも俺を驚かすのには十分だった。

 

「い、いったいどうやって!?足場になる様な物は――――!?」

 

その時、俺は視た。

『蒼刃』の手の周辺に漂う呪力の残滓を。

 

「まさか…手のひらに溜めた呪力を弾けさせて、その推進力を利用して移動したって言うのか!?」

「さすがね。一度見せただけで気づかれるとは思っても無かったわ」

 

俺の驚きに先輩が肯定を意味する言葉を返す。

 

「でも、技の正体に気づいたとしても防げるかしら?」

 

その言葉と共に『蒼刃』が二本の腕を背後に広げる。

そして、さっきと同じように手のひらの呪力を弾けさせ、加速をつけてこちらに突撃を仕掛けてきた。

 

「オオオオオオオオ!!」

 

俺はそれに対し、銃を乱射する。

が、『蒼刃』は手足から呪力を弾けさせることにより起動を曲げ、バレルロールの様な動きで、弾を回避してのけた。

 

「ヤバっ――」

 

攻撃を回避され、接近を許した俺は咄嗟に頭上で腕を十字にして防御の体勢をとった。

来るであろう衝撃を覚悟した時、

 

喼急如律令(オーダー)!」

「春虎様っ!!」

 

突如、目の前に壁がせりあがると同時に、横からコンが突撃してきた。

コンと俺はもみくちゃになりながら横へ転がり、その直後に壁を壊した『蒼刃』がさっきまで俺のいた場所へ薙刀を振り下ろした。

 

「ごご、ご無事ですか春虎様!?」

「あ、ああ。サンキュー、コン」

「春虎、大丈夫!?」

「何とかな。京子も助かった。壁が無かったらやられてたぜ」

 

コンの助けだけでは『蒼刃』の攻撃を避けれたかは微妙なタイミングだったからな。

 

「ゴメン。少しの間呆けてたわ」

「京子、大丈夫なのか?」

「舐めないで。あの程度どうってことないわよ」

 

 

自分が必死になって考えた技を簡単に模倣された挙句、応用までされたと言うのに京子の瞳に悲観的な色は無い。

 

さすが俺の相棒(パートナー)だぜ。

 

 

「何にしても助かった。それに、これで勝筋が見えた」

「なにか作戦でもあるの?」

「ああ。ちょっと危ない橋渡るけどな」

「…いつもの事じゃない」

「地味に傷つくぞ、それ」

「良いからさっさと説明しなさいよ」

「ったく。耳貸せ」

「ん」

 

耳を寄せてくる京子に小声で作戦を伝える。

 

 

「……正気?」

「ああ、大真面目だぜ」

「失敗した時のリスクがでかすぎるわ」

「言ったろ。危ない橋渡るって」

「「………」」

 

お互いに無言で視線がぶつかる。

 

「…………失敗するんじゃないわよ」

 

折れたのは京子だった。

 

「安心しろって。最悪道連れにしてやるから」

「…あんたの心配をしてんのよ。バカ」

「ん?なんか言ったか?」

「何でもないわよ!さっさと準備しなさい!」

 

理由のわからない叱責を受け、混乱しつつも前へ出る。

 

「まさか試合中に立ち直るとは思わなかったわ」

「俺の相棒はそんなに軟じゃないぜ」

「そうみたいね。でも、二人になったからってどうと言うことは無いわ。あなたたちには『蒼刃』を倒す術がないのだからね」

「それはどうかな」

「強がっても無駄。あなたの攻撃は強力だけど、機動力が足りないのよ。それじゃ、『蒼刃』に攻撃は届かないわ。唯一、機動力で追いつけたあの子の護法もあのダメージじゃ動けないでしょ?」

 

そう言って先輩は余裕の笑みを浮かべる。

確かに赤い彗星も当たらなければどうと言うことは無いって言ってたな。

 

 

「確かに俺には、情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ、そして何よりも速さが足りない」

「そこまでは言って無いのだけど…」

「けど俺には頼もしい相棒がいるんだぜ。京子!」

喼急如律令(オーダー)!」

 

俺の合図とともに、背後にいた京子が土行符で俺との間に壁を作る。

 

「…その頼もしい相棒と自分を切り離した挙句、退路まで絶つなんて何を考えてるの?」

「さあな?背水の陣ならぬ背壁の陣かもしれないぜ?」

「……まあ、良いわ。小賢しい策なんて『蒼刃』で打ち砕いてあげる!」

 

そう言うと先輩は『蒼刃』を高速移動の体勢に移らせる。

それと同時に俺は銃を捨て、背後の壁に足をかけた。

 

「今だ!やれ京子!」

「どうなっても知らないわよ!喼急如律令(オーダー)!」

 

京子が呪文を唱えると、壁の俺が足をかけている付近が勢いよく飛び出し、俺を前へ突き出した。

身体に急にかかるGに顔を歪めながらも、さらに足を蹴り、加速する。

 

『蒼刃』が飛ぶ方向ならわかる。

手を向けた対角線上、そこに『蒼刃』は飛ぶ。

 

「まさか、そんな方法で機動力を…っ。『蒼刃』!」

 

俺が足を蹴るとほぼ同時に目の前に現れた『蒼刃』は、主の命に従い薙刀を突き出しつつ、残った腕で方向転換をかけようとしているが、もう遅い。

 

突き出された薙刀を身をよじり、かわす。

頬に真横を通る薙刀の風圧を感じながら、よじった反動で拳を繰り出す。

 

狙うは、胸の傷に突き立ったままのコンの小刀。

 

「レストォ!!」

 

ありったけの呪力を小刀を通し『蒼刃』の体内に流し込む。

その瞬間、まばゆい光と強烈な衝撃波が起こり、俺と『蒼刃』を吹き飛ばす。

 

「だ、大丈夫!?」

「春虎様!」

 

吹き飛ばされ、背中から倒れた俺に京子とコンが走り寄ってきた。

 

「お、俺は平気だ。『蒼刃』(あっち)はどうなった?」

 

俺は体を起こし、周りに視線を巡らせる。

 

『蒼刃』は俺と反対側に吹き飛ばされていたようで、ちょうど俺の対角線上にあおむけで倒れていた。

その全身には、胸から広がった(ひび)が走っており、激しい『ラグ』も起こしていた。

 

「…まだやるか?」

 

俺は、険しい表情で立ち尽くしている先輩に話しかける。

 

「……いいえ。ここまで『蒼刃』をやられてしまったら、わたしの負けよ。降参するわ」

 

先輩が両手を上げ、降参の意を示すと『蒼刃』も霊体化したのか、姿が掻き消え胸に刺さったままだった小刀が音を立てて床に落ちた。

 

 

『ここで試合終了!!準決勝へ歩を進めたのは、ダークホース!一年生ペアの土御門・倉橋ペアだああああ!!』

『いやぁ。一回戦と二回戦からは想像も出来んほどの呪術戦やったね』

『そうですね。とても陰陽師らしい試合だったと思いますよ』

『天馬クンも京子クンも春虎クンも一年生とは思えんほどやったで』

『先生方から見て、この試合の評価するポイントとは?』

『そうですねぇ。―――――――』

 

実況者たちによる俺たちの試合への評価が行われてる中、俺たちは試合後の握手を交わしていた。

 

 

「負けたわ。まさか『蒼刃』を倒せる一年生が居るなんてねぇ」

「まぁ、僕の兄貴ですからね!」

 

なぜそこでお前がドヤ顔なんだよ天馬。

 

「あなたたちなら優勝できると思うわ。頑張ってね。応援してるわよ」

「兄貴!絶対優勝してくださいね!」

「ありがとうございます」

「応」

 

最後にもう一度握手を交わし、それぞれの控室に戻る。

試合で負った傷を治癒符で治療し、制服(もう慣れてしまっているが俺は執事服のまんまだが)を整えて控室を後にした。

 

 

「準決勝まで時間があるな。どうする京子?」

「一度、喫茶店の方に戻りましょ。あんまり長く開けてると心配だわ」

「分かった」

 

京子の言葉に従い、自分たちの教室に向かい歩き始める。

 

反対側の試合場の方からは、大きな歓声と戦闘音らしきものが絶え間なく聞こえ、まだまだ祭りのにぎやかさは終わる様子を見せていなかった。




ご感想にネタが分からないとご指摘があったので、作中で使ったネタを下に書いておきます。

北斗剛掌波 ……北斗の拳
次にお前は~~と言う ……ジョジョ
山吹き色の波紋疾走 ……ジョジョ
体重×スピード×握力=破壊力 ……刃牙
平身低頭覇 ……アクエリオンEVOL
最初からクライマックス ……電王
ハイ・メガ・キャノン ……ガンダムZZ
乱れ打つぜぇ ……ガンダム00
情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ、そして何よりも速さが足りない ……スクライド
レストォ!! ……FATE/staynight


今回の話はタッグトーナメント第三回戦を書きました。
最初はモブキャラ同士のペアと戦わせようと考えていたのですが、(出番の少ない)天馬にスポットを少し当ててみました。

次回は準決勝と学園祭の方をかきます。
学園祭と言っていながら、あまりそっちの方の描写を入れられていないので、そっちに重心を置いて書く予定です。

原作も凄い展開を迎え、アニメ化も決定した東京レイヴンズ。
これからもっと熱くなるであろう勢いに負けないよう、書いていくので応援の程よろしくお願いします。

ネタ案・ダメだし・誤字脱字修正・常時募集中です 。

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