東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

40 / 48
だいぶ更新が遅れてしまって申し訳ございません。
一度書き上げては、納得いかず書き直し、また書き上げては違う案が思い浮かんだりで、こんなにも時間がかかってしまいました。
感想でも貰ったのですが、このまま完結させずに放置と言うことは無いので、これからもよろしくお願いします。


第三十七幕 匂わせる過去

「春虎!次はあっちよ!」

「はいはい」

 

 

 

 

 

「次はあれよ!」

「…はいはい」

 

 

 

 

 

「次はこっち!」

「…はいよ」

 

 

 

 

「つぎは―――」

「きょ、京子?」

「なに?」

「そ、そろそろ休憩しないか?時間も良い頃だし」

 

何より、両手の袋(今まで周った屋台での景品のおもちゃやお菓子、その他もろもろが入った物×6)が重すぎる。

 

「う~ん、…そうね。じゃあ、あそこのベンチで休憩にしましょっか」

「ああ」

 

俺たちは学園祭用に仮設されたベンチに腰かけた。

 

「春虎も食べるでしょ?」

「おう」

 

京子が袋の中からさっき買った焼きそばとラムネを取り出し、俺に手渡してくる。

腹が減っていた俺は遠慮なくそれを受け取り(とある理由で金は俺が出しているが)一気に頬張った。

 

 

 

 

 

 

「なんか今日、はしゃいでないか?」

「…へ?」

 

焼きそばとラムネを腹に収めた俺は、食後のリンゴ飴を食べている京子に気になっていたことを聞いた。

 

「いや、なんかさっきから妙にテンション高くないか?」

「お、お祭なんだから、テンションぐらい上がったって良いじゃない!」

 

まあ、そう言われればそうなんだが、それにしても妙に浮き足立ってると言うか…。

 

「もしかして、こういう祭り初めてか?」

「なっ!?」

「いや、なんとなくと言うか、勘なんだがそう思ったんだよ」

「……………よ」

「は?」

「そうよ!初めてのお祭りではしゃいでるわよ!悪かったわね子供みたいで!」

 

 

拗ねた子供の様に口を尖らす京子に、俺は耐え切れず噴き出してしまった。

 

 

「な、なによ!笑わなくたっていいじゃない!」

「わ、悪い、別に可笑しくて笑ったわけじゃないんだよ」

「じゃあ、なんで笑ったのよ?」

「いや、ちょっと懐かしくなってな」

「懐かしく?」

 

 

子供のようにはしゃぐ京子の姿を見て、急に懐かしさがこみ上げてきた。

あれからまだ半年も経ってないのにな…。

 

 

「春虎、それって―――」

「そろそろ次の屋台に行くか。つっても後周れそうなのは時間的に一つだろうけどな」

「そ、そうね」

 

これ以上深く聞かれないためにも、俺は少し無理やり話を逸らした。

京子も俺がこれ以上踏み込まれたくないのが分かったのか、それ以上深くは聞いてこなかった。

 

「どこを周るか」

「……あれなんてどう?」

 

京子の示す先には、色鮮やかな魚たちが水槽に入っていた。

 

「金魚すくいか」

「ええ、早く行きましょ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれっ」

「時間は待ってくれないのよ!」

 

 

 

先程までと同じように子供みたいにはしゃぐ京子の背中は、北斗と重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシャッ

 

「もう一回よ!!」

『あいよ』

 

バシャッ

 

 

『残念だったね。お嬢ちゃん』

「もう一回!」

『あいよ。一回百円ね』

 

バシャッ

 

 

「きょ、京子さん?」

「なによ?」

「そろそろ、俺の財布が危ういんですが…」

「もう?」

「もう?ってお前…。この一時間半近くで何個の屋台周ったと思ってんだよ。野口さんが四人以上消えてんだぞ?」

「?」

 

マジで分からないって顔してやがる…。

 

そう言えば京子って普段は匂わせないが、父親は陰陽庁長官、祖母が陰陽塾塾長というれっきとしたお嬢様だったっけ。

喫茶店のコンの服装もものすごい値段してたしな…。

 

金銭感覚(こんなところ)で京子のお嬢様ぶりを見ることになるなんて思いもしなかったぜ。

 

 

「しょうがないわね。じゃあ、次で最後にしてあげる。時間もそろそろだし」

「た、助かった…」

 

これ以上出費が重なったら、来月まで昼飯抜きになるところだったぜ。

 

「おじちゃん!最後の一回よ!」

『まいど!』

 

京子は気合を入れる様に大きな声を出しながら店主に百円を渡す。

 

どうでもいいが、この大友先生が作った簡易式の店主、見た目は黒い人型の影みたいなのに妙に渋い声と人情味があふれる喋り方をするな。

しかも声は大塚〇忠さんそっくりだし…。

 

「今度こそあの大物をすくってやるわ!」

「大物ってどいつを狙ってんだ?」

「あそこにいる尾びれの長い奴よ」

「尾びれの長い奴って…あの庄内金魚か」

 

京子の指す先には背に綺麗な一本緋のある、他の金魚よりも一回り以上大きい省内金魚が泳いでいた。

 

『お嬢ちゃん良いのに目を付けたね。そいつは良物だよ』

「確かに良い金魚だけど…でかすぎるだろ。とるのは難しいと思うぞ?」

「それでもあたしはあの子に決めたのよ!」

 

腕まくりをして気合を入れた京子は、店主からお椀とポイを受け取るとジッと水面を凝視する。

ゆっくりとポイを水面に近づけ、狙いの金魚が近づくのを待つ。

 

待つこと数十秒、狙っていた庄内金魚が水面近くに泳いできた。

京子はここを好機と判断して素早く動いた。

 

 

「ここだあああ!」

 

ポイを水面に入れ、一気に引き上げる。

京子は狙い通りにポイの中心に金魚を捕えた

 

のだが、

 

 

バシャッ

 

 

無情にも紙は破れ、金魚は再び水槽の中へ戻って行った。

 

「な、なんでよぉぉ」

「そんなに欲しかったのか?」

「…うん」

 

項垂れる京子に呆れつつも聞くと、京子は力なく頷いた。

 

「あたしこういうお祭りとか行ったこと無くて、だから何か形に残る物が欲しいって思ってたらこの綺麗な金魚が目に入ったから…」

「…しょうがねぇなぁ」

「春虎?」

「おじちゃん。一回分くれ」

『あいよ。百円ね』

 

 

目を丸くする京子を余所にポイとお椀を受け取った俺は集中を始める。

まずはポイを斜めの角度から入れ、紙全体をゆっくり濡らす。

 

決してこちらからは追わずに獲物が来るのを息を殺してじっと待つ。

そのまま三分ほど待つと、危険は無いと判断したのか狙っていた庄内金魚がポイに近づいてきた。

 

俺は金魚の体がポイの枠に当たらない、紙の端ぎりぎりで金魚を捕え、周りの水ごとすくう様にポイを翻した。

 

すると、

 

 

ポチャッ

 

 

金魚の体は一瞬宙を浮き、そのまま俺の持つお椀へと飛び込んだ。

 

 

「ふぅ。こんなもんか」

『やるねぇ兄ちゃん』

「す、すごいじゃない!」

「まぁな、地元じゃ『金魚すくいの鬼』とまで呼ばれた男だ」

 

 

やりすぎて金魚すくいの店に一時期出禁くらったけどな。

その後交渉(土下座と言う名の肉体言語)の末に、最大三匹までって言う条件付きで入らせてもらえるようにはなったが。

 

『ほいよ。おめでとう』

「ああ、ありがとう」

 

店主から袋に入れてもらった金魚を受け取る。

 

「ほらよ」

「く、くれるの?」

「そりゃ、お前のために取ったんだからな」

「あ、あたしのため!?」

「お前が欲しいって言ったんじゃねぇか」

 

ほら、と京子に金魚の入った袋を突き出せば、京子は壊れ物を扱う様にそっと袋を受け取った。

 

「…ありがと」

「どういたしまして。大事に育ててやれよ」

「そ、そう言えばあたしこういうの育てた経験ないんだけど!」

「そうなのか?」

「ど、どうしよう!?色々必要なのかな!?」

「落ち着けって。とりあえず水と水槽、後餌があれば一日は大丈夫だから」

「ほ、本当?」

『お兄ちゃんたち。大丈夫だよ、こっちで飼育道具一式も売ってあるからね』

 

おろおろしている京子を落ち着かせようとしている俺に、親指を立て、二カッと笑った(風に感じただけだが)店主がそう言った。

 

用意良過ぎねぇか?

 

「そうなのか?」

『ああ、水槽、カルキ抜き、砂、貝殻、循環式ポンプ、餌、さらにバクテリアまであるよ』

「そ、そこまでそろえてんのかよ…」

「い、いくらですか!?」

『二千円ちょうどだよ』

「か、買います!」

『まいど!』

 

京子は素早く財布から二千円を取り出すと店主に手渡す。

 

「良いのか?俺のおごりじゃ無くて?」

「別に良いわよこのくらいなら。それにこれ以上出したらあんたお金無くなっちゃうんでしょ?」

「ま、まぁな」

「この子を取ってくれただけで十分よ。気持ちだけもらっておくわ。ありがとね」

 

お礼の言葉と共に京子がふわっと微笑む。

その表情があまりに綺麗だったので、思わずドキッとしてしまった。

 

「あ、あぁ、と、とりあえず俺の部屋に金魚と荷物を置きに行くか。そろそろ次の試合も近づいてきたし」

「そうね。じゃあ早く行きましょ」

「おう」

 

 

顔が赤くなったのは気の迷いだと自分に言い聞かせ、荷物を自分の部屋に運ぶのを急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただいまより!!タッグトーナメント二回戦を始めます!!実況はわたくし沢木口、解説には再び大友先生と倉橋塾長をお迎えしてお送りいたします!!』

 

二回戦の始まりを実況の先輩が大きな声で宣言する。

てか、またあの二人が解説なのかよ。

 

…暇なのか?

 

『僕らも忙しいけど、わざわざ時間を作ったんやで』

『そうですよ。教え子の行動を見守るのも教育者としての務めですからね』

「そうよ春虎、失礼なこと考えるんじゃないわよ」

「す、スイマセンでした…」

 

なんで俺の心の声聞こえんだよ…。

 

 

『それでは!出場者は所定の位置についてください!』

 

実況者の声に促され、自分たちの試合場に足を運ぶと、そこにはもう次の対戦相手が居た。

 

 

「げぇっ!春虎!?」

「そんな三国志の武将に合った時みたいな悲鳴を上げるなんて失礼だな」

「うるさい!俺からしたら似たもんだ!」

 

対戦相手の男二人組のうち、一人の男がいきなり突っかかってきた。

てか、なんでそんなに敵意むき出しなんだよ…。

 

「春虎、あんた何かしたの?」

「いや、身に覚えがまったく無いんだが…」

「テメェ!あの仕打ちを忘れたのか!!」

 

対戦相手の男が敵意を露わに叫ぶ。

 

「仕打ち?」

「あんた本当に何したのよ?」

「だから身に覚えが無いんだって。てか、初対面だし」

 

『『「「「は?」」」』』

 

俺の言葉に俺を除く、全員がシンクロした。

 

 

『春虎くん~。それはさすがにあかんでぇ?』

「あんた本気で言ってんの?」

『嘆かわしいことですね』

「土御門…それは無いわ」

「な、何なんだよ?」

 

先生、塾長、京子、果ては敵の相方まで呆れた顔をしている。

肝心のその男はと言うと、

 

「俺は怒ったぞぉぉぉ!!」

 

サイヤ人みたいなキレ方をしていた。

 

 

「あんたねぇ、二回戦の対戦相手の土谷(つちたに)君と大門(だいもん)君はあたし達と同じ一年生ペア。つまり、クラスメイトよ」

「……ああ」

 

そう言えば良く見ると、見覚えのある様な…。

 

「もう許さねぇ!ボッコボコにしてやる!!」

 

 

さっきからキレてる方が大門、もう一人の方が土谷らしい。

 

「あんた本当に身に覚えが無いの?怒髪天を衝く勢いで大門君怒ってるじゃない?」

「記憶に何か引っかかってるんだが…なんだったかな?」

「はは、春虎様」

 

俺が必死に記憶を掘り起こしていると、背後からコンが声をかけてきた。

 

「どうした?」

「あ、あの者、春虎様が初めてコンめを使役した決闘の後に不埒にも文句をつけてきた輩かと」

 

決闘?あの式神勝負の事か。

その後って言うと…

 

 

 

 

「…………ああ!!」

 

 

思い出した!!

半人前の俺が護法式使ってるのが気に食わなくて文句付けてきた奴か!(第二十六幕参照)

 

「ようやく思い出したか!あの日以来、俺は階段を降りるとき必ず周囲を確認するようになっちまったんだぞ!」

「なんか犯罪の香りがするんだけど…」

「安心しろ」

 

疑うような眼差しで見てくる京子に、俺は胸を張って答えた。

 

「証拠と目撃者はないはずだ」

「……あんたねぇ」

 

額に手を当てて苦い顔をする京子。

証拠と目撃者は重要なのに…。

 

「お前がトーナメントに出場すると聞いて、俺が今日をどんなに心待ちに―――」

「そう言うこと聞いてんじゃないわよ!あんた自分のしたこと分かってんの!?」

「俺がやったんじゃないし」

「さっきは声を上げちまったが―――」

「教唆も実行犯も同じ罪よ!」

「そもそも俺がやったって言う証拠がないだろ?」

「さっき自白したじゃない!」

「俺の話を聞けえええええ!!」

 

俺たちが口論していると、いきなり大門(だっけ?)が大声を上げた。

 

「ふざけやがって!俺を無視してさっきからイチャイチャイチャイチャ、年齢=彼女いない歴の俺に対するあてつけか!!」

 

いや、知らねーし。

てか、イチャイチャって。どう見ても口げんかしてたろ。

 

「で、何だ?」

「ああ?」

「お前が俺に恨みを持ってんのは分かった。それでお前は何をしたいんだよ?」

 

俺がそう言うと、大門はにやりと笑いながら俺を指した。

 

「分かってんなら話が早い。俺と一対一で戦え!」

一対一(サシ)だぁ?」

「相方がそんなこと言ってるけど、土谷君はそれでもいいの?」

「俺は元々大門に付き合わされただけだからな。コイツがそれでいいなら良いさ」

 

どうやら、相手の方は一対一の勝負に文句は無いらしい。

 

「…どうする京子?」

「あんたはどうなのよ?」

「俺は別に良いぜ」

「じゃあ、任せたわ」

「お、おい、俺が言うのもなんだけど、そんなあっさり任せていいのか?」

「これでも春虎の事は結構信頼してるのよ」

「……京子」

「それじゃ、後は任せたわよ」

 

京子はそう言うと、試合場を区切っている白線の外に出て壁に寄り掛かった。

相手の方も京子のその行動を承諾と取ったのか、相方の土谷が試合場から出て行った。

 

 

………信頼、か。

 

 

「は、春虎様…」

「コンも今回は手出し無用だ。これは一対一の決闘、分かるな?」

「は、はい!御武運を祈っております」

 

 

『おっと?なにやら、土御門・倉橋ペアと大門・土谷ペアの間で特別ルールが設けられたようですが、良いんですか?』

『まぁ、お互いが合意の上やったらええと思うで』

『そうですね。あまりにも元の勝負から逸脱したのならば駄目ですが、一対一ぐらいでしたらいいと思いますよ』

 

 

上からの許可も下りて、俺たちは一対一で向かい合う。

 

 

 

『それでは、タッグトーナメント第二試合バトルスタート!!』

 

 

試合開始の合図とともに白線上から結界が発生する。

 

「良くぞっ!」

 

それと同時に大門が俺に接近してきた。

 

「良い的になってるぜ!」

 

真っ直ぐ突っ込んでくる大門に、懐から取り出した二丁拳銃を向け、引き金を引く。

パァンと言う破裂音と共に射出された弾は、大門の額に吸い込まれるように向かっていく。

 

終わった。

威力は押さえてあるが、額に当たれば気絶は確実だ。

だから俺は勝利を確信した。

 

 

 

しかし、

 

「気ぃ抜いてんじゃねぇぞ!」

 

大門は俺の撃った弾を腰を落とし、身を低くすることで回避して除けた。

弾を回避して俺の懐に潜り込んだ大門は左右の拳でラッシュを仕掛けてくる。

 

実際、気の抜けていた俺は大門の攻撃に対処できず、数発良いのが入った。

 

「ぐぅ…」

 

 

ダメージに顔を歪ませながらも、後ろに大きく跳ねて距離をとる。

そんな俺を大門は無理に追わず、悠々と構えた。

 

「へっ、油断してるからだぜ?」

 

そんな大門の様子に、内心で舌打ちをこぼす。

 

あの動き、確実に格闘技を習ってる奴のそれだ。

弾を回避した動き、拳の正確さとキレ。

俺の考えが正しければ…

 

 

「……ボクシングか」

「へぇ、気づいたか」

 

俺の呟きに大門がニヤリと嗤う。

 

「最初はストレス発散のために始めたんだが、今まで続けていてよかったぜ。お前をブッ飛ばせるんだからな!」

「抜かせ!」

 

再び身を低くして迫ってくる大門に対し、俺は弾を撃つ。が

 

「当たらねぇよ!」

 

さっきと同じように大門は身を屈め、弾を回避する。

 

「シッ!」

「何度も食らうかよ!」

 

懐に潜り込んできた大門の拳を、左に飛び込む様に転がってかわしながら引き金を引く。

 

「クイックフリッカー!」

 

かわしながら放った弾丸は的確に大門に向かったが、これもかわされ命中すること無く結界に当たり霧散した。

 

 

「チッ、さっきから執拗に潜り込んできやがって」

「接近戦になれば、お前の銃は機能しないからな。そうなりゃ、こっちのもんだ」

「ああ?」

「その銃は一回戦で見せてもらったぜ。そんな呪具相手にわざわざ遠距離に付き合うかよ」

 

さっきからしつこく接近戦に持ち込もうとしてたのは、銃を封じる目的もあったのか。

だが、一つ勘違いをしている。

 

 

「接近戦で銃が機能しない?」

「ああ、実際その通りじゃねぇか」

「今までは、な」

「なに?」

「見せてやるよ。銃での近接戦闘術をな」

 

 

そう言って俺は銃を逆手に持ち、体を斜に構えて顔の横で腕をクロスした独特の構えをとった。

 

 

「死神体術『罰』の構え」

「……なんだそのふざけた構えは」

「良いからかかって来いよ。それとも臆したか?」

「野郎っ!」

 

俺の挑発に乗って、激昂した大門が接近してくる。

 

「簡単に挑発に乗りやがって、そんなんだから――」

「シッ」

「攻撃が大振りになる!」

 

俺は相手の繰り出した拳を受け止めず、相手の拳の内側から腕を外側に押し当てる事で拳を受け流す。

大振りの上、拳を受け流された大門は体勢を崩し、前のめりになった。

 

 

「そらっ!」

「がはぅ!」

 

その隙を逃さず、がら空きの腹に左拳を叩き込む。

だが、それだけでは終わらない。

 

 

「おまけだ!」

「ぶほっ!!?」

 

さらにそのまま左手の銃の引き金を引き、ゼロ距離で大門に銃弾を叩き込む。

着弾の衝撃で一瞬体をビクリと浮かせ、そのままずるずると身体は傾いていく。

 

「ぐっ……はあぁ!!」

 

そのまま倒れるかと思ったが、大門は直前で踏ん張ると俺に反撃までしてきた。

しかし、直前のボディへの攻撃が効いているのか、突き出してくる拳に今までの様なキレと速さは無い。

 

同じように拳を受け流してからカウンターを入れようと身構えた時、大門は突き出してきた拳を止め、握っていた拳を開いた。

 

 

「じゅ、呪符…!?」

喼急如律令(オーダー)!」

 

大門が拳の中に隠していたのは木行符だったらしく、呪文と共に呪符は植物の蔓に変わり、鞭のように襲いかかってきた。

 

「くぅ……!」

 

不意を突かれた俺は突然の攻撃に対処できず、そのまま攻撃をくらい弾き飛ばされる。

さらに、弾き飛ばされた拍子に銃まで落としてしまった。

銃は大門の背後まで転がり、取りに行くのは実質不可能となってしまった。

 

 

幸いにもダメージの方は深くなく、先頭の続行に問題は無い。

 

「ちっ、タフな野郎だぜ」

「それはこっちのセリフだ」

 

ゼロ距離で銃をぶっ放したのになんで倒れないんだよ?

 

 

だが、全くの平気って訳でもなさそうだな。

呼吸が少し乱れてるし、足も動かないのだろう。

俺が武器を落としたこの状況で追ってこないのが良い証拠だ。

 

「もうギブアップしたらどうだ?」

「なんだと?」

「足、俺の攻撃が効いて動かないんだろ?そんな状況で勝てると思ってるのか?」

「言ってくれるじゃねぇか。けど、ギブアップするのはお前の方だぜ」

「俺がギブアップ?」

「状況分かってんのか?今お前の手には武器が無いんだぜ?そんな状態で闘ったら俺の方が断然有利だろ」

 

 

既に自らの勝利を確信したかのような笑みを浮かべる大門。

 

 

「武器が無い俺の方が不利、ねぇ?」

「当たり前だろ。確かに多少腕に自信があるようだが、それでも武器なしでは素人のお前は(ボクサー)には及ばん」

「…なら、試してみようぜ」

「試す?」

「そう。素手でのバトルだ」

 

そう言うと、俺は無造作に大門の方へ近づく。

 

「…俺の事、舐めてるのか?」

「俺は大真面目だぜ」

 

俺と大門の距離は約一歩半。

お互いに拳を思いっきり振り切れる距離にいる。

 

 

「じゃあ、お望み通りにしてやるよ!」

 

激昂した故の火事場の馬鹿力か、大門の繰り出した右ストレートは今まで見た中で一番速かった。

が、

 

「どんなに速くても来ると分かってりゃ、対処は簡単だ」

 

大門の右ストレートに左のカウンターを合わせる。

 

「づぅっ」

「ボクシングに頼りすぎだ。お前は自分から両手のみに攻撃の幅を狭めてたんだよ」

「黙れぇ!」

 

がむしゃらな、しかし一発一発が確かな威力を持った拳の嵐が迫る。

 

「ボクシングじゃ、こうやって避ける奴はいないだろ」

 

俺はそのラッシュを地面すれすれに身を屈める事でかわした。

 

「ほら、無防備だぜ!」

「な!?」

 

俺は身を屈めた体勢から股の間に両手を置き、その手を軸に回転しながら足払いを放った。

そのまま素早く立ち上がった俺は、体勢を崩している大門の胸ぐらを掴みあげる。

 

「は、離せぇ!」

「誰が離すか」

 

身長差があるためか、大門はつま先立ちになっている。

そのせいでのどが絞まって苦しいのか、必死に俺の腕を離そうともがく。

 

そんな様子の大門を気にせず、俺は逆方向に体を思いっきり反らしていく。

 

 

「最後に言っておくが、お前は一つ勘違いをしてる」

「な、なにをする気だ!?や、止め――」

「俺は素人じゃねぇ」

 

そう言うと同時に大門の額に反動を利用した己の額を叩きつける。

大門は頭突きを食らった瞬間、カエルが潰れた様なうめき声を上げ、俺が掴んでいた手を離すとそのまま床に倒れ込んだ。

 

白目をむいて動かないところを見ると、完全に気を失っているようだ。

 

『ここで一年生同士の一騎打ちが決着だぁああああ!!勝者は土御門 春虎!!』

 

大門の様子を察知したのか、実況席が俺の勝利を読み上げた。

すると、相手の相方がいまだに倒れ伏している大門に走り寄る。

 

 

「だ、大丈夫か!?」

「安心しろ。たぶん軽い脳震盪を起こしてるだけだ。少しすりゃ気が付く」

「あ、ああ」

 

身体はタフでも、中身はそうはいかないからな。

 

「そいつが目覚めたら、ナイスファイトって言っといてくれ」

「…分かった」

 

大門の相方(土谷だったか?)は大門の腕を肩に回し、引きずりながら試合場を後にした。

 

 

「お疲れ様」

「おう」

 

落とした銃を回収していると、京子が労いの言葉をかけてきた。

 

「危なげなく勝てたわね」

「そうでもないさ」

「そう?でも、意外だったわ」

「なにがだ?」

「あんたなら、自分に勝負を挑んできた相手は再起不能になるまでボコボコにするかと思ったんだけど…」

「お前は俺を何だと思ってるんだよ…。そりゃ、相手が闇討ちや卑怯な手を使ったら、生まれてきたことを後悔するまで痛めつけるが、正々堂々試合で向かってきた奴にはそれなりの礼儀は通すさ」

「さらりと怖いこと言ったわね」

 

 

え?普通じゃね?

 

 

「でも、本当に意外だったわよ?あの後、大門君にあんな伝言残すなんてね」

「聞いてたのかよ」

「聞こえちゃったのよ」

「まぁ、あれだ。前にも言ったろ、俺は紳士なんだよ」

「はいはい、試合は終わったんだからさっさと戻るわよ」

「おい、信じてないだろ」

「普段の行いを見直しなさい」

「マジで俺は紳士なんだって!」

 

俺の話を碌に聞かず、京子は控室の方へ歩いて行ってしまった。

俺はそれを追いながら、自分の紳士エピソードの『泣いてる少女(鈴鹿)に胸を貸してあげた』を大まかに話したら、なぜか京子の機嫌が悪くなった。

何故だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~side冬児~

 

 

 

 

 

「…あいつら、いや、あいつは勝ったか」

「そうですね。結局一回戦も合わせてほとんど無傷での勝利ですよ」

 

俺と夏目は観客席から、春虎の試合を見ていた。

 

「勝ち上がるとは予想していたが、無傷とはなぁ」

「……冬児」

「どうした?」

 

夏目は一瞬、迷ったような表情をしたが、すぐに表情を戻して俺に聞いた。

 

「どうして春虎はあんなに強いの?」

「……それは…」

「昔の春虎は確かに運動神経の良いやんちゃな男の子だったけど、普通の子供だった。ぼくと合わなくなった数年であそこまで強くなるなんて、普通有り得ないよ」

「………」

「冬児、何か知っているのなら教えて欲しいんだ」

「…アイツには?」

「『例の事件』の後に聞いたけど、真面目に答えてくれなくて」

 

春虎の奴、自分の主にさえ話してないのかよ。

 

「冬児は何か知ってるんでしょ?」

「ああ、いや…まぁな。だが、これは春虎のプライベートな事だから俺が勝手に言いふらしていいもんじゃ――」

「ぼくだってただの野次馬根性で聞いてるんじゃない」

 

 

夏目の瞳は本気だった。

こういう目をすると、夏目も春虎も本当に頑固になるからな。

似た物主従め…。

 

 

「…分かったよ。だが、俺だってほとんど詳しいことは知らないぞ?」

「あ、ありがとう冬児!」

「俺が聞いた話は『昔、事件に巻き込まれて、それから自分の身を守るために鍛えた』ってだけだ」

「…事件に巻き込まれた」

「どんな事件に巻き込まれたかは知らないがな。後、鍛えてる時に師事してた人が居たってのは聞いたな」

「…師事してた人」

「ああ、こっちもどんな人までかは知らんがな」

「いや、十分だよ。ありがとう」

「この事を春虎には?」

「ぼくから言うよ」

「そうか」

 

話が終わると夏目はサッと立ち上がった。

 

「そろそろ行こうか。次はぼく達の試合だからね」

「ああ、あいつらが勝ったのに俺らが負けてらんないからな」

 

この後にやった俺たちの試合は快勝だったことは言うまでもないだろう。




今回は第二回戦を書きました。
原作でも出た、男子学生に名前とボクシングと言う特徴を持たせて登場させました。
それと、春虎の過去に原作とは違うエピソードを持たせました。
どのタイミングでその過去を明かすかは未定ですが、そのうち書ければなと思っています。

次話では第三回戦を書きたいと思います。三回戦の相手とその内容は大まかですが考えてあるので、今回の様なことが無ければ一月以内には更新できると思います。

遅筆になりますが今後ともよろしくお願いします。

ネタ案・ダメだし・誤字脱字修正・常時募集中です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。