―――――放課後―――――
俺と京子は『
「で、呪練場に来たはいいが、特訓って一体何をやるんだよ?」
「………」
京子は俺の問いに応えず、なぜか顔を真っ赤にして俯いている。
俺はその様子を不審に思い声をかけた。
「どうしたんだ?」
もしかすると体調でも悪いのだろうか?
俺がそんな心配をしていると、京子は俯きながらもぼそぼそと喋り始めた。
「……今気づいたんだけど」
「ん?」
「…これから『五芒祭』まで放課後ずっと二人っきりよね?」
「まあ、毎日特訓するならな」
「あ、あんたは気にならないの!?」
ぼそぼそ喋っていたかと思ったら、急に声を荒げ始めた京子に俺は思わずたじろいだ。
「な、なにをだよ?」
「だから、その、放課後あたしと二人っきりでいる事に対して、何か気にならないかって聞いてるのよ!」
京子は半ば自棄になったように叫ぶ。
「そ、そりゃ、嬉しいに決まってるだろ」
「へ?う、嬉しいって言った?……あ、あたしと一緒にいるのが嬉しいの?」
「学年で三本の指に入る様な成績上位者がマンツーマンで特訓してくれるんだぜ?そりゃ、嬉しいぜ」
「…………ああ、そう」
明らかに気落ちしたトーンでそう言い、京子はガックリと項垂れた。
「な、なんか俺変な事言ったか?」
「……何でもないわ。切り替えて特訓を始めましょ」
京子のキッパリとした言い方は、暗にこれ以上聞くなと物語っていた。
「まずは、お互いの式神の再確認から始めるわよ。知ってるだろうけどあたしの護法は『白桜』と『黒楓』。二体とも近接戦闘用よ」
そう言うと京子の背後に二体の護法が出現する。
「俺の護法はコンだけだ。一応、火の玉を出せるが基本はコンも近接戦闘だろうな」
今度は俺の背後にコンが現れる。
「あたし達の式神を見ると、やっぱり戦術は基本形になるんだけど…」
「基本形?」
「ええ、式神を前衛に立たせて後衛の術者が呪符で援護する。これが護法を使うときの基本形ね」
なるほど、確かに一番堅実な布陣だな。
「じゃあ、その布陣で行くのか?」
「普通ならそうするけど、はっきり言って春虎の戦闘能力は普通じゃないのよ」
これは…褒められてるんだよな?
「それにその戦法じゃあ、先輩たち相手だと一回戦すら勝てないわね」
「じゃあ、どうするんだ?」
「とりあえず一回模擬戦をしてみましょう。細かい布陣はその結果次第ね」
そう言うや否や京子は一枚の呪符を投げる。
投げられたそれは、少し先の床に落ちると青白い発光と共に、黒い人型のゴム人形のようなものに変化した。
「…これは?」
「模擬戦闘用の簡易式よ。簡単な攻撃パターンをいくつかプログラムしてあるわ」
「じゃあ、コイツに攻撃すればいいのか」
俺は早速その簡易式に向かって構えをとり、拳を突き出した。
「言っておくけど」
「ん?」
「そいつ結構強いわよ」
「は?……うおおおお!?」
俺が拳を繰り出した途端、簡易式はその拳にカウンターを合わせて放ってきた。
何とかその一撃は首を捻る事でかわす事が出来たが、頬を掠めて行った簡易式の拳は鋭く、俺はたまらず後ろに大きく下がった。
「お、おい!なんだよあれ!?拳の風圧が尋常じゃ無かったぞ!?」
「そりゃ、弱かったら特訓にならないでしょ」
「それはそうだが、限度ってもんがあるだろ!」
「文句言うのは後にしなさい。来るわよ」
一度こちらから攻撃したせいでスイッチが入ったのか、今度は簡易式から攻撃をしてくる。
「くっ!…この野郎っ!」
簡易式が繰り出す拳は力強く、ガードした腕が痺れる程だった。
その後も連続で繰り出される攻撃を何とかしのぐが、
「や、やりづらいっ」
簡易式は人型と言えど、黒い影の様な形をしていて攻撃時の目線や癖が無いため、非常に行動が読みづらい。
そのため、俺の行動は簡易式に対して一歩遅れた反応になってしまう。
「調子に乗るなよ!」
だが、相手の行動にも目が慣れてきたころ、俺は反撃に出た。
相手の行動が読みづらいなら、こちらから行動を誘発してやればいい。
俺は簡易式に向かって大振りの右ストレートを突き出した。
簡易式はその攻撃に反応し、俺の拳にかぶせる様にクロスカウンターを放つ。
俺はそのカウンターに対して突き出した右腕を曲げ、右ひじで強引に簡易式の攻撃を逸らすという荒技に及んだ。
最初の攻撃の際、防御や回避ではなくカウンターを選んできた簡易式ならば同じ行動をとると読んでの行動だった。
「シッ!」
その後、無防備になった簡易式に左足を一歩踏み込み、左フックを頭部らしき場所に叩き込む。
普通の人間ならばこの段階で意識を刈り取れるが、相手は式神。
俺は油断せず、左フックの勢いを利用して踏み出した左足を軸に追加の後ろ回し蹴りを簡易式に叩き込んだ。
簡易式は俺の蹴りで吹き飛ばされて呪練場の壁に激突し、激しく『ラグ』を引き起こしながら消滅した。
「どんなもんよ」
俺が勝利の余韻に浸りつつ振り返ると、京子はなぜか呆れたような表情でため息を吐いていた。
「……春虎って、もしかしなくても馬鹿でしょ?」
「はぁ?」
「良い?これは二人の連携を見るための模擬戦闘だったのよ?」
「お、おう」
京子は俺に詰め寄るように言う。
俺はその剣幕に後ずさりながらも頷いた。
「それなのに春虎一人で倒したら意味ないでしょ!?」
「……あ」
そう言えばそうだった。
意外と簡易式が強敵だったから、つい熱くなってしまった。
「はぁ、もういいわ。それなりに収穫もあったしね」
「収穫?」
「やっぱりあんたの戦闘力は異常って事よ。本来、あの簡易式は二人がかりで倒せるように設計したのに」
「それは褒めてるのか?」
「一応は、ね」
一応かよ。
「布陣も決めたわ。かなり変則的になるけど、春虎が前衛に立ってそれを護法のコンちゃんと『白桜』『黒楓』でサポート。さらにその後ろからあたしが全体をサポートするって形ね」
「三段構えか」
「ええ。でも、本来術者が最前線に出るのは非常にハイリスクなの。春虎がやられたら、コンちゃんも自動的に戦闘不能になっちゃうんだから、そのことを頭に入れといてね」
そう言えば護法式の様な霊的につながりを持った式神は、術者の体調や精神状況を著しく反映させるとか夏目が言ってたな。
「ああ、分かった。肝に銘じとくぜ」
「じゃあ、さっき言った布陣での練習に入りましょう。今度は連携重視で頼むわよ?」
「…肝に銘じとくよ」
半眼で睨みつけてくる京子に手を頬を掻きながら答えつつ、連携重視の訓練を開始した。
その後、俺と京子は呪練場の使用時間いっぱいまで特訓を続け、初日ながらも充実した訓練ができた。
「ふぅ。タッグ結成初日にしては、だいぶ良い所までいってるんじゃないか?」
「そうね。これなら優勝も狙えるわ」
「おう。狙うは優勝のみだ」
俺と京子はニッと笑いハイタッチを交わす。
俺はこの時、特訓が終わった故の疲れか、それとも呪練場と言う安全な場所にいたせいか、もしくはその両方のせいか、自分を見ていた視線に気づくことが出来なかった。
「やっぱり不埒な式神には躾が必要みたいですね」
「………はぁ」
その後も喫茶店の準備に精を出しつつ、放課後は京子と共に特訓と言う忙しい日々を過ごすと、あっという間に時間は過ぎて行った。
そして『五芒祭』当日を迎えた。
早朝、だんだんと寒くなってきた朝の空気に身を震わせながら、俺と冬児は陰陽塾の前に立っていた。
まだ、『五芒祭』が始まるには時間があるが、喫茶店の準備などで早めに登校してきたのだ。
他にも同じ境遇の生徒がちらほらと見受けられる。
「学園祭当日って言っても
「まあ、結界とかがあるから、おいそれと変える訳にはいかねえんだろ」
若干、イメージしていた普通の学園祭との差に気落ちしながら、塾舎のドアを潜りエントランスホールに入ると、
「お、早い登校やなぁ。感心感心」
ねじり鉢巻きに赤い
「……生徒よりはしゃいでるだろ」
「……確かに」
「なんやぁ?祭りは楽しんだもの勝ちやで?」
まあ、それはそうかもしれないが、学園祭で教師がここまで気合入れるか?
「まあ、僕の提案で始まった『五芒祭』やからね。成功させんと面目立たんのよ」
「そういう事っすか」
「ところで先生はここで何してるんです?」
見た所、ホールには『五芒祭』で使うような物は何も見当たらない。
「フッフッフ、見ときぃ。今からすっごい事やるで。なんせ僕が一週間かけて作ったんやからね」
そう言うと、大友先生は数枚の呪符を懐から取り出し、ホールの一角に向けてはなった。
「
呪文の発声と共に呪符は光り始めた。
光のまぶしさに目をつむると、先生の『見てみぃ』と言う誇らしげな声が聞こえた。
「………こ、これは!?」
「…屋台?」
俺と冬児が目を開けて前を見ると、そこには『やきそば』と書かれた看板を掲げる屋台が出来ていた。
「まだまだ行くで、
先生が先程と同じように呪符を投げ、呪文を唱えると次々に縁日に出てるような屋台が出現していく。
数分後、先生が呪符を投げつくした時には、エントランスホールは縁日の一角の様に変わっていた。
「どや?あとはこれに簡易式で作った店員を置けば完成や」
「…確かにすごいけど、こういうのって生徒が自分たちで作って思い出にするんじゃ?」
「そんな事言ったかて、
素直に褒めてもらえなかったせいか、先生は口を尖らせ、拗ねたように言う。
中年がやっても可愛くもなんともねぇぞ。
「まあ、内容は置いといても、陰陽術で丸々屋台一軒を作るなんて並大抵の事じゃないぞ」
「そうなのか?」
「冬児クンは分かってるなぁ。それに比べて春虎クンときたら…」
「まったく…」
先生と冬児は、やれやれと大げさに仕草で肩をすくめた。
何だこの息の合いようは?
「分かったよ、素直に褒めればいいんだろ。先生は凄いですよ」
「最初からそう言ったらええねん」
そんなに褒めてもらいたかったのかよ。
「じゃあ、俺たちはそろそろ行きますよ」
「あ、春虎クン。ちょっと待ってくれへん?」
「はい?」
「渡したい物があんねん」
「渡したい物?」
「これや!」
そう言って先生は、マフィアが取引で金を入れていそうなジュラルミンケースを渡してきた。
「なんですかこれ?」
「フッフッフ、開けてみ」
何故か誇らしげな先生の表情。
俺は言われたとおりにケースを開けた。
すると、
「こ、これはっ!?」
「今回のイベント様に作ってきた新作やで!」
ケースの中に納められていたものを前に、俺は驚愕していた。
「先生、これを俺に?」
「そやで、それを使って優勝を勝ち取ってくるんや!」
「任せてください!」
俺と先生は固い握手を交わす。
その隣では、いつもなら呆れ顔で見ているはずの冬児が何故か複雑な表情で俺たちの事を見ている。
俺はそんな冬児の表情の訳を数時間後に知ることになるのだが、この時はそんなことを微塵も知る由は無かった。
その後、大友先生からケースを受け取った俺と冬児は、いつもの教室ではなく喫茶店の会場である第二視聴覚室に向かった。
視聴覚室の前には『一年 式神喫茶店』と書かれた看板が立っていた。
「おーす」
「あ、兄貴!」
扉を開けて中に入ると天馬が声をかけながら、近づいてきた。
「よう、店の方はどうだ?」
「準備も終わって後は『五芒祭』の開催を待つだけです!」
教室内を見渡すと、古めかしくも清潔感のあるテーブルと椅子、照明も少し落としてあり教室内はとても落ち着きのある雰囲気になっていた。
「じゃあ、俺もそろそろ自分の班の様子見に行くわ」
と、冬児は自分の班のいる方へ足を向けた。
「ああ、しっかり頼むぜ」
「お前こそな」
ん?
俺は『五芒祭』当日はほとんど仕事は無いんだが、イベントの事か?
冬児の言葉に引っ掛かりを覚えたものの、
「よぉ夏目。お前も早いな」
教室の端に夏目が居るのを見つけ、声をかけた。
夏目とは『五芒祭』の準備に取り掛かった日から、特訓や準備で中々話せていなかったな。
「……ああ、春虎。おはよう」
返事をした夏目の声はテンションが低く、顔色も少し悪かった。
「どうした?調子悪いのか?」
「いや、ちょっと昨日眠れなくてね」
「眠れなかった?」
「うん、今日が楽しみでね。」
「ハハ、遠足前の子供かよ」
「そうだね。でも、本当に楽しみなんだよ。だから今日は絶対成功させたいんだ」
夏目の声に真剣みが混じる
確かに昔夏目は、祭りとかでは結構はしゃいでいたからな。
「そうだな。絶対に成功させようぜ」
「ああ、絶対に成功させよう。………お仕置きもね」
後半部が小声で上手く聞こえなかったが、夏目の瞳には何やら炎が灯っている。
それだけ気合十分って事か。
「じゃあ、本番の式神操作は頼んだぜ」
「うん。任せておいてよ」
夏目と別れると、
「春虎、ちょっと良い?」
今度は京子が話しかけてきた。
「なんだ?イベントの事か?」
「違うわよ。今日のウェイターをコンちゃんにやってもらうから、コンちゃんを少し借りたいのよ」
「ああ、そのことか。コン」
「はは、はい!」
俺の呼びかけでコンが実体化する。
「コンちゃん!例の物が出来てるわよ!」
「わ、分かりました。でで、では、春虎様、少しの間だけ御側を離れさせていただきます」
「ああ、行ってこい」
「じゃあ、あっちに行きましょ!」
京子はコンを引きずらんばかりの勢いでさらっていった。
しかし、さっき例の物って言ってたよな?いったいなんだ?
コンが連れていかれた後、他のクラスメイトと準備の事で話している内に『五芒祭』の開催時間が近づいてきた。
冬児と天馬に最終的な準備の指示を促し、夏目と京子にも言っておこうと二人の姿を探すと、
「春虎!ちょっと来て!」
京子が扉の前で手招きをしているのを見つけた。
「なんだ?」
「ほら、コンちゃん。恥ずかしがってないで」
「まま、まだ心の準備が!」
扉の前まで行くと、京子が何やらコンに促している。
「ほら、春虎に見せるんでしょ?」
俺が首を傾げていると、じれったくなったのか京子がコンを扉の影から引っ張り出した。
「う、ううう」
か細いうめき声を上げながら姿を現したコンは、いつもの服装と違った格好をしていた。
袖と首元、それに膝まであるスカートの裾の部分が白のふんわりとしたフリルであしらわれた黒に近い紺色のワンピースの上に、これまたフリルのふんだんにあしらわれた白のエプロン。
さらに白ソックスに黒の子供用ローファー、頭にはレース付きのカチューシャ。
いわゆる、メイド服の格好だった。
「・・・・・・・・・・・」
「ちょっと春虎!なに固まってるのよ」
は!?
いかん、少し呆けていた。
「や、やはり似合いませぬか?」
コンが少し不安げな表情で上目がちに尋ねてくる。
「そんなこと無い。凄い似合ってるぜ」
俺はコンを安心させるように、笑いながら頭を撫でた。
「そそそそ、そうですか!ああ、ありがとうございます!」
俺の言葉にコンは嬉しそうに、尻尾を左右にぶんぶんと千切れんばかりに振る。
さらにその顔はパァァァ、と言う効果音が聞こえてきそうなほどの満面の笑みだ。
何このかわいい子!!
そう思ったのは俺だけでは無かったのか、クラス中がほんわかとした空気になっていた。
「さっき言ってた例の物って
「そうよ。作るの苦労したわ」
「え?これ市販じゃないのか?」
「違うわよ。コンちゃん用に作ったオーダーメイドよ」
確かにコンのサイズに合ったメイド服などは売ってないだろうけど。
結構、良い素材使って無いか?
見る限り、上等そうな布なんだが。
「た、高かったんじゃないのか?その、素材とか」
「まあ、生地は取り寄せたから結構かかったけど、この姿のコンちゃんが見れるなら安い物よ!」
「ち、因みにおいくらぐらい…」
「大丈夫。三桁は行って無いから」
それは万で!?万で三桁行って無いって事なのか!?
てか、二桁は行ってんのかよ!?
「あ、あの服の代金は…」
「あれはあたしからコンちゃんへのプレゼントだから気にしなくて良いわよ」
「け、けどよ」
「それともあんたに払えるの?」
「……ありがたく頂戴いたします」
「最初からそういえば良いのよ」
そう言った後、京子はニッと快活な笑みを浮かべた。
「お、春虎。こんなとこにいたのか。探したぜ」
「冬児、どうした?」
その後、コンの姿を見た女子がコンの周りに集まって、人垣を形成しているのを少し離れた所で見ていると、冬児が手に紙袋を提げてこちらに歩いてきた。
「いや、お前が自分の仕事を忘れてるんじゃないかと思ってな」
「仕事?俺の仕事はもうとくにないが…」
俺の役割は準備の指揮で、当日になるとほとんど仕事は残っていない。
残る仕事と言えるようなものはイベントのタッグトーナメント位じゃないか?
「おいおい、俺たちがやる出し物はなんだよ?」
「はあ?式神喫茶だろ?」
「そうだ。そして、式神喫茶ってのは……式神がウェイターをする喫茶店だよなぁ?」
「さらば!」
「行かせるか!」
ぐっ!
一番近くの扉からダッシュで逃げようかと思ったが、行動を先読みした冬児が扉の前に立ちふさがる。
その冬児の顔には、最近見ていなかったいつものニヤニヤとした笑みが貼り付けられている。
「春虎。お前なら俺の言いたい事もう分かってるよな?」
「…俺にウェイターをやれってのかっ」
「そうだ。お前も『式神』だからな」
「式神喫茶を提案したのはこのためかっ」
何て壮大な嫌がらせだ!
学園祭を使ってまで嫌がらせを敢行して来るなんて!
「さあ、おとなしくこの衣装に着替えてきな」
冬児はそう言って提げていた紙袋を突き出してくる。
「絶対嫌だ!」
「もう諦めろ。逃げる場所は無いぜ?」
確かに二つある扉の内、一つはコンを囲んだ女子たちにふさがれ、もう一つは目の前の冬児にふさがれている。
窓から逃げようにも、ここはビルの四階。
飛び降りようにも窓の近くには木も生えておらず、飛び降りるのは不可能だ。
逃げるのは無理だ。だが、
「だったら正面突破してやるぜ」
「ああ?俺と
その一言により、俺は腰を落として臨戦態勢に入る。
冬児も紙袋を床に置き、眼光を一層鋭くさせる。
場にそぐわないピリピリとした緊張感の中、お互いの隙を探り合う。
「春虎?なにしてるんだい?」
「なに、喧嘩?」
その時、俺たちの不穏な空気に気づいた夏目と京子が話しかけてきた。
その瞬間を引き金に俺と冬児は同時に動いた。
冬児の右脇をすり抜けようとするフェイントを入れてから、逆方向の左脇をすり抜けようと狙う。
戦闘になると思い込んでいた冬児は俺のフェイントに引っかかったものの、その後持ち前の反射神経で俺の動きに追いつき、左手で胸ぐらを掴まれそうになる。
俺は掴まれまいと、反射的に冬児の左手を右手で掴んだ。
冬児は左手が掴まれたと判断するや、今度は右手を突き出してくる。
俺はそれを今度は左手で掴んだ。
結果、俺と冬児は手四つの体勢で力比べの状態になった。
「え!?春虎も冬児もなにやってるのさ!?」
「まさか本当に喧嘩なの!?」
いきなりの事態に事情を上手く呑み込めていない二人は驚きの声を上げる。
しかし、俺たちはそんな二人を置いてヒートアップしていた。
「冬児ぃ!怪我しないうちにそこをどきやがれ!」
「寝言は寝て言え!怪我するのはそっちだ!」
ギリギリとお互いが腕に力を込めるが、パワーは互角みたいで一向に勝負がつかない。
女子たちに囲まれているコンは、今俺の救出には来れない。
背後の京子たちもまだ混乱しているらしく、手を出してくるような雰囲気は無い。
ならば、
「天馬!」
「そう来ると思ったぜ。夏目!倉橋!」
血迷ったか冬児!
いまだ混乱しているあの二人に、この状況を変えることは出来ないはずだ!
「その紙袋の中を見ろ!今日は式神喫茶だ!それを春虎に着せる!」
「「っ!?」」
混乱しながらも、言われたとおりに紙袋を覗いた二人は中の物を見るや、体を強張らせた。
なんだ?あの中に何が入ってるんだ?
「お呼びですか兄貴!」
そんな事をしている内に俺の呼びかけに答え、天馬が現れた。
「
と、同時に夏目の投げた呪符により気を失った。
「な、なんだ、ぐぇっ!?」
夏目の突然の奇行に驚いた次の瞬間、俺は京子の護法『白桜』と『黒楓』に床に押さえつけられていた。
「俺の勝ちだな。春虎」
「い、一体なんでだ…?」
俺の疑問に答えるかのように、冬児は拾い上げた紙袋の中身を出した。
「なぜなら、この執事服をお前に着せようとしたからさ」
「そ、それでなんで夏目たちがお前の味方に…?」
「夏目たちもお前にこれを着せたかったんだろ」
冬児がそう言うと、夏目たちが顔を赤くしながら同調するように言った。
「そ、そうだよ!式神喫茶何だから春虎も着なきゃダメだよ!ぼくの式神なんだから!」
「そ、そうよ!それにお祭りだもの!こういうのも楽しみの一つでしょ!」
くそ!
お前たちの思ってる事なんか分かってるんだ!
そんなに俺に恥を掻かせたいなんて!
執事服なんて似合わないに決まってるだろ!
「くそ!離せ!離せえええええええええ!!」
その後無理やり『白桜』と『黒楓』に引きずられて連行され、この騒動は治まった。
夏目の呪術により気絶した天馬を残して。
今回は学園祭の開催直前までをお送りしました。
今回と言うかこの学園祭パートは百%自分の願望で作られています。
次回もネタもとい、願望をたくさん詰め込んでいきますのでよろしくお願いします。
次回は遂に学園祭が始まり、喫茶店にタッグトーナメントと色々な出来事がスタートしていき、
そして、タッグトーナメントではなんとあの二人と戦う事に!!
という事を予定しております。
次回の更新はただいま作成中ですがPCの調子が悪く、遅々として進んでいないため大幅に遅れるかもしれません。
出来るだけ早く書き上げるつもりですが、もしもの時はご了承ください。
では読了感謝です。
ネタ案・ダメだし・誤字脱字修正・常時募集中です。