陰陽塾への転入早々俺たちを襲った事件から一週間後、俺たちの日常は平和に戻りつつあった。
「学園祭?」
昼休み、いつもの三人(俺、冬児、夏目)に京子と天馬を加えた五人は食堂で昼食を食べていた。
そんな昼食時の席で、疑問の声を上げたのは俺。
「そう。今月末に開催予定」
「陰陽塾にそんなのあんのかよ?しかも学園祭って、
「便宜上、『学園祭』ってくくりになってるだけよ。一応『
『五芒祭』か。一応、陰陽塾っぽい名前がついてるんだな。
「って、なんであんた知らないのよ?陰陽塾のパンフレットに書いてあったでしょ?」
「ま、まあ、兄貴と冬児君は転入するときに色々あったみたいだから知らなくてもしょうがないんじゃないかな?」
呆れたように言う京子に天馬が苦笑しながらフォローを入れる。
「俺は知ってたけどな」
「……『五芒祭』ってのは普通の学園祭みたいなことをするのか?」
冬児のチクリと来る言葉には取り合わず、話題を逸らそうと夏目たちに話を振る。
冬児は俺の内心を知ってか、ニヤリとしたいつもの笑みを浮かべている。
「基本は普通の学園祭と変わらないみたいだけど、許可をとれば出し物に陰陽術の使用が認められてるんだよ」
俺と冬児のそんなやり取りに呆れながらも夏目が答える。
「へえ、陰陽術の使用が許可されてるのか。それは中々面白そうだな」
冬児もそこまでは知らなかったのか感心したように言った。
「けど、一般客も来るんだろ?そんな中で塾生に陰陽術の使用なんて良く許されたな」
「まあ、その辺りに『五芒祭』のもう一つの目的があるからね」
俺の言葉に対し、夏目が気になる事を言った。
「もう一つの目的?」
「うん。『五芒祭』は陰陽術、それと陰陽師のPRとイメージアップも兼ねて今年から始まった行事なんだよ」
「PRとイメージアップ?なんでそんなものを、しかも今年からやるんだ?」
「
あの事件みたいに、と冬児が小声で俺だけに聞こえる様に付け加えた。
あの事件とはやっぱり、『十二神将』大連寺 鈴鹿の起こした事件の事だろう。
確かにあの事件後、ニュースで鈴鹿の事はもちろん俺たちの事、事件の詳しい内容なども流れることは無かったな。
そう考えると、イメージアップの必要性も頷ける。
「今年から始める理由としては、『五芒祭』は大友先生が塾長に提案した企画みたいなんですよ」
「そうみたいね。お祖母さまも面白がって、
天馬の言葉に陰陽塾の塾長、倉橋美代の孫娘である京子が言葉を重ねた。
だが、そんな二人の言葉を聞いて俺は一抹の不安に襲われる。
「…大友先生が提案した?」
「は、はい。…兄貴?どうかしたんですか?」
「…塾長が面白がって
「ええ。どうしたのよ春虎?言いたいことがあるなら言いなさいよ」
俺の不審な様子に天馬は心配しながら、京子は
「分からないのか?
俺の言葉を聞いた瞬間、全員の頭に同じ考えがよぎった。
『嫌な予感がする』
全員が苦い顔をする中、冬児だけは変わらずいつもの笑みを浮かべていた。
「今日は講義を中断して『五芒祭』の出し物について決めるで」
午後の講義が始まり、教室に入ってきた大友先生は教壇に着くなりそう言った。
「まだ決まって無かったのか?」
てっきりもう決まっているものだと思ってたが。
そんな俺の声が聞こえたのか大友先生は俺の方を見て、
「せやねん。みんなこの手の祭り事に縁が無かったせいか、意見があんまり出なくてなぁ」
やれやれと肩をすくめながら言った。
しかし、祭り事に縁が無かったとはな。
鈴鹿もそうだったけど、陰陽師ってのはみんなそうなのか?
だとしたら確実に人生を損してるぜ。
「一学年ごとに一つ出し物を決めなあかんねんけど、僕の学年だけまだ決まってへん状況ってわけや」
「そうだったんすか。でも、出し物って一学年ごとに一つで良いんですか?それじゃ、全部で三つしか出し物が無いんじゃ」
「その辺は心配あらへんよ。ちゃんと先生達の方で考とるからね。それより、春虎クンは何か出し物の意見あらへんかな?」
「え?俺の意見…ですか?」
「普通の高校に通ってた春虎クンか冬児クンの意見が、この状況やと貴重やねん」
そう言われ考えようとするが、普通の高校には夏休みまでしか通っていなかったから、当然学園祭は経験していないし、中学に至ってはまともな学園生活を送っていなかった。
元
そう思って隣の席にいる冬児を見ると、やはり同じことを考えたのか若干困った顔をしてこちらを見ていた。
まあ、学園祭と言えば漫画やアニメではお決まりのシチュエーションだし、その辺りを参考にでもすればいいか。
「大友先生。他の学年はもう出し物が決まってるんですよね?」
「そうやで」
「どんな出し物か聞いても大丈夫ですか?」
「問題あらへんよ。他の学年の出し物は、二年生が劇、三年生がお化け屋敷やな。因みに両方とも陰陽術の使用申請も出とるで」
劇にお化け屋敷か。まあ、定番と言ったら定番だな。
先生の話を聞いて、今まで静かだった他の生徒が少しざわつき始めた。
「やっぱり、陰陽術は使った方が良いんじゃないのか?」
「他の学年と出し物がかぶりたくはないな」
「護法式持ってる人を前面に出せばいいんじゃない?」
「土御門の二人か、阿刀君と春虎君の薄い本でも出せば」
「最後に喋った奴出て来いいいいいいいいい!!」
なんなんだ!?このクラスには腐った奴がいるのか!?
「はいはい、静かに。で、春虎クン。なんか意見はあらへんかな?」
「先生!それよりもさっき最後に発言した奴の特定を―――」
「意見はあらへんかな?」
「それよりも―――」
「あらへんかな?」
「……喫茶店とか飲食関係はどうでしょうか」
大友先生の笑顔の圧力に押され、さっきの問題をひとまず横に置いといて質問に答える。
「喫茶店か。中々ええんちゃう?みんなはどうや?」
大友先生が他の生徒に聞くが、特に反対の意見も出なかった。
「じゃあ、決まりやな!一学年の出し物は喫茶店に決まりや!」
大友先生の言葉と共にどこからともなく、拍手が起きた。
「それで、代表者やけど立案者の春虎クンにやってもらえへんかな?」
「…代表者ですか?」
「そないな嫌な顔せんといてや。別に会議やら何やらに出る必要はあらへんよ。言わば、現場監督みたいなものをやってほしいねん」
「…まあ、その位なら良いですよ」
俺がそう言うと大友先生は、おおきに!と、
「じゃあ、春虎クンは前に出てきて、喫茶店の詳細を決めてくれへん?」
「詳細?」
「せや。メニュー決めたり、役割分担決めたり、陰陽術を使用するかどうかも決めてもらわんと」
「…それも代表者の仕事ですか?」
「せやでぇ」
ニコニコと笑顔の大友先生にきっぱりと言い切られ、これ以上の反論は無理だと悟り、早くも代表者などと言う立場を引き受けた事を後悔しながら教壇の前に立った。
今回は完全オリジナル回の学園祭パートになります。
せっかくの学園ものなので、原作の方に学園祭ネタが無いのは残念に思っていたので自分で書いてしまった次第です。
しかし、原作と言う資料も無く完全なオリジナルの話を作るのは初めてなので、所々文に変な箇所があるかも知れませんが発見の際には、感想などでご一報ください。
夏休みが終わり、学業が再開したので次回の更新からは感覚が少し長くなると思います。すみません。
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