東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

3 / 48
週1ペースで投稿しようと思ってましたが、時間が空いたので投稿します。


第二幕 日常

店の外に出ると焼くような日差しが降り注いでいた。

 

「…あっちーな」

「夏だからな」

 

着ている制服のYシャツが汗で背中に張り付いて気持ち悪い。

ちなみに俺と冬児は夏休みにもかかわらず高校の制服を着ている。

 

なぜかって?…俺はあんまり優良な生徒じゃ無いので補習を受けていたからだ。

冬児も同じ高校のクラスメイトで同じく補習を受けていた。

…まあ、冬児の場合は少し事情が違うが…。

 

その冬児は、隣で涼しい顔をして歩いていてほとんど汗なんか掻いてないように見える。

しかしそんなことより、

 

「舌がまだ痛てぇよ」

 

某麻婆豆腐並みに、舌を楊枝で千本刺しにされて塩ぶっかけられたぐらい痛い。

「七味のかけすぎだよ」

「ちげーよ。蓋が外れたんだって」

「ほんとに運が悪いなお前」

むう、否定できん…

 

「これって絶対先祖から続く祟りとかだと思うんだよ」

「お前の血筋(・・)だと、いかにもありそうだな」

はあ、不幸だぜ。俺には幻〇殺しなんてついてないのに。

 

「さて、これからどうする「ブーブーブー」おっ」

狙ったようなタイミングで俺の携帯が鳴った。

 

誰かと思いディスプレイに表示される名前を確認する。

 

・・・・・・・・パタン(俺が無言で携帯を閉じる音)

冬児が横目で短く聞いてきた

 

「…北斗か?」

「…北斗だ」

俺も短く返す。

 

 

それっきり冬児は何も聞いて来なかったし、俺も何も言わなかった。

 

俺は気を取り直して

「金無いけど暑いし、ゲーセンでも行って涼むか?」

「いや、残念だが無駄だ」

「は?なにがだよ」

「もう捕捉されてる」

 

 

なにに?聞こうとした時背後から

「この、バカ虎ぁ!」

という罵声が聞こえたと思い振り返った次の瞬間

「ぐぼぉあ!」

 

鳩尾(みぞおち)に強烈な一撃が入った。

野郎!人体の急所の一つを的確に突きやがった…!

 

俺が苦悶の表情でうずくまっていると俺の背後から

「見てたぞ!なんで電話でないのさ、バカ虎!」

 

非難の声と共に今度は、首に腕をからめて来て

「北斗…マジで…苦しい……」

本気で落としにかかりやがった。

力ずくでロックを外し俺を殺そうとした女を見る。

 

 

明るい色をしたボブカットの髪、くりっとした瞳、健康的な色の肌、いつも笑みを浮かべる唇、

うむ、こう見ればこいつも美少女と言ってもいいんだが、言動と態度がいかんせん男勝りだからな。

 

はぁ、残念なやつだ。

「バカ虎に残念とか言われたくないよ!」

「ぐはぁ!」

きれいに右拳が俺の頬に刺さった。

 

「だからなんでお前ら俺の心の声が聞こえんだよ!」

「冬児たちお昼なに食べた?」

「無視かよ!?」

「俺ざるうどん」

ブルータス!お前もかっ!

 

 

「二人は今日も補習帰り?さすが赤点キングとサボリマスター」

「うるせぇな。俺は勉強が苦手じゃなくて嫌いなんだよ。」

「それ、一緒の意味だと思うけど」

 

「土御門さん家の春虎君はやればできる子として有名なんですよ」

これは本当だ。ただ勉強にやる気が出ないだけでやればできる…と思う。

「そういうお前はこんな炎天下の中何やってたんだ?」

「ん~。散歩」

 

「この暑い中散歩だと?どうかしてるぜお前の頭」

「補習なんかよりはずっと有意義だね。知ってる?この世の中賢いほうが得をするんだよ?」

「この野郎、言わせておけば調子乗りやがって」

「野郎じゃないもん。美少女だもんバカ虎」

 

自分で自分のことを美少女なんて言うやつは消えればいいと思う。

 

ちなみにこの『バカ虎』とは北斗がつけたオリジナルの悪口でイメージは「()の日差しに骨抜きになって腹を見せたままだらしなく寝そべる()」らしい。

俺はこいつを殴っても良いんじゃないかと週に8回は考える。

 

 

「はいはい。犬も食わない喧嘩はやめろって」

「と、冬児!なな何言ってんのさ!」

冬児の軽口に北斗が顔を真っ赤にして言い返す。冬児の軽口なんて聞き流せばいいものを。

 

「大方さっきのテレビ中継を見たから来たんだろ?」

「正解!春虎にしては鋭いじゃん」

「ってことはまたいつものパターンか…」

はぁ。こいつも毎度毎度飽きないかね。

 

 

「その用件よりもまず先に僕の電話に出なかったペナルティを受けてもらいます!」

「はぁ!?なんでだよ」

「いいから行くの!」

 

俺の腕をとってずるずると引っ張てく北斗。その細腕のどこにそんな力があるのか分らんがすごい怪力だ。

 

五分後

「じゃあ、あそこの屋台のかき氷買ってきて!公園のベンチで待ってるから!あっ僕イチゴ味ね!」

 

一息にそう言うと北斗は風のように去っていた。

「なぜ俺が奢らねばならんのだ」

「なに、可愛い我儘じゃないか。そんぐらい男なら聞いてやれよ」

「じゃあお前が金を出してくれよ…」

「それは無理だな」

即答しやがった。

 

軽くなった財布を憂いながら公園のベンチを目指し歩いていくと

「ねー。良いじゃん遊ぼうよ」

「待たせる男なんてほっといてさ」

 

俺の目の錯覚で無ければ

「北斗が…ナンパされてる…だと」

「まあ顔は美少女だしな。ん?あいつら、うどん屋でお前にぶつかった二人組じゃないか?」

「ん~?あいつらだっけ?」

よく覚えてないな。

そんなことをしていると

「やっ、やめて」

ナンパ男の一人が北斗の腕を掴んでいた。結構力を入れているのか北斗の顔が痛みに歪む。

 

 

その顔を見た瞬間、

「冬児これ頼むわ」

両手に持っていたかき氷を冬児に預けナンパ男達に向かって走る。

 

「お、おい!俺が行ってくるからやめろ!」

後ろから冬児の止める声が聞こえるがもう止まれない。

北斗の腕を掴んでるナンパ男に目標をつけ

「ブリリアント・パンク!」

「ぶはぁ!!」

ものすごい勢いのタックルでナンパ男を吹き飛ばす。

 

 

「お、おい!テメェ何すんだよ!」

隣から喚くナンパ男2。

「か弱い(?)女の子のピンチにオレ参上!」

きっちりポーズも決めてやる。

 

「な、なに訳わかんねぇこと抜かしてんだよ!」

叫びながら拳を突き出してくるナンパ男2。その拳を掻い潜って顎に狙いをつけ

「烈破掌!」

「ぐほぉ!」

掌底を叩き付けでナンパ男2も吹っ飛ばす。

 

「ふん。雑魚が」

体についた埃を落としながら呆然としてる北斗に声をかける。

「おい。怪我してねえよな?」

 

北斗は、はっとしたように顔を上げたかと思えば今度は赤くなってモジモジしながら

「う、うん。ありがと…。そ、そのもしかして心配してくれた?」

「当たり前だろ。心配しないやつがいるかよ」

「えへへ。そうか心配してくれたんだ。」

モジモジしてたかと思うと今度は急に機嫌がよくなりやがった。女心はよくわからんな。

 

「あ~あ。また派手にやりやがって。大丈夫か北斗?」

遅れてきた冬児がかき氷を北斗に、渡しながら聞いた。

 

 

「うん。大丈夫ありがと冬児」

「俺は、なにもやってないけどな」

「おせーぞ、冬児」

 

俺もかき氷を受け取りつつ文句を言う。

 

「突っ走るなって言ったろ。春虎」

「先手必勝だよ」

「お前ん家はただでさえ厄介なのにこれ以上問題起こすなよ。親御さんが可哀そうだぜ」

「ば、バカ!家のことは「そうだよ春虎!」」

…はぁまたこのパターンか。

 

なぜか高校生になったあたりから北斗は俺に陰陽師を目指せとしつこく言ってくる。何度も陰陽師なんかにはならないと言っているのに週に2回は必ず行ってくる。

 

「春虎さっきのテレビ中継見てたでしょ」

「お、おう」

あまりの眼力で睨んでくるからつい頷いちまった。

 

「あれを見て自分もああなりたいとか思はないの?」

「…ならねーよ」シャリシャリ

冷めた口調で答えると北斗の口調は一気に熱くなった。

「どうして!だって春虎、安倍清明(あべのせいめい)の子孫なんでしょ?陰陽道宗家、土御門家の人間なんでしょ?」

 

 

今、北斗が口にしたことは事実だ。

平安時代に活躍した大陰陽師、安倍清明。彼の死後、彼の子孫たちは「土御門(・・・)」を名乗り明治時代までの長い歳月を陰陽道宗家として陰陽師達の頂点に君臨し続けた。

そして俺、土御門春虎はその名門一族の末裔なのだ。

 

「北斗。前にも言ったが、俺はあくまで『分家』で土御門と名乗ってはいるが偉いのは『宗家』で俺とはほとんど関係ないんだよ」シャリシャリ

「それでも、春虎が土御門の人間には変わりないでしょ。名門に生まれたからには、それなりの義務が有るでしょ?」

「いつの時代の人間だよお前は」シャリシャリ

 

「もう!シャリシャリうるさいよ!なにのんきにかき氷食べてるのさ!」

いや、食べなきゃ溶けるじゃん。

 

「いつもいつも春虎には自覚が足りないって言ってるでしょ!」

北斗に強い口調で言われ、俺は困ったように頬を掻きながら

 

「自覚って言われてもなぁ。俺はたまたま『土御門』っていう家に生まれちまったただの一般人だぜ? …そりゃ、親父はプロの陰陽師だけど単なる片田舎にの陰陽医だぜ?」

 

なぁ、と冬児に同意を求めるように話を振ると今まで黙っていた冬児は苦笑しつつ

「知ってるよ。なにせ俺の命の恩人だしな」

 

そう、冬児は以前住んでいた東京で霊災に巻き込まれている。その時瀕死の冬児を助けたのがたまたま上京していた陰陽医―――陰陽術で怪我や病気の治療を行う専門医―――つまり俺の親父だ。

 

しかし今でもその後遺症は残っており、親父にかかりつけになっている。今日の補習にしても成績が悪い訳ではなく、治療の関係で出席が足りてないだけだ。

他にも一般人なのに陰陽術に詳しいのは自身の事情から独学で学んだからだそうだ。

 

「親父さんは立派な陰陽師だよ。不出来な息子と違ってな」

「うるせぇな。俺はどうせ陰陽師の才能なんてこれっぽっちも無いよ。霊気も視えねえしな」

 

 

陰陽師は当然特殊な職業でそこには才能や素質の有無が存在する。

その一つにして最も大切な才能が霊気を見る才能、『見鬼(けんき)』というのが必要不可欠と言っても過言ではない。

 

 

しかしその才能が残念ながら俺には無かった。それは俺が陰陽師に一歩目から向いてないということでもある。

 

「それだって、お父さんに言って視えるようにしてもらえばいいじゃん!陰陽術の中にはそういう術もあるんだよねぇ、冬児?」

「確かに腕のいい陰陽師なら一回の施術で年単位で効果を持続できるらしいからな」

ほら見ろ、と言わんばかりの顔を俺に向けてくる。

 

「だからそこまでして、なりたい訳じゃ無いんだよ。第一、土御門家が偉かったのは大昔でいわば没落した貴族みたいなもんなんだよ。分家の俺じゃ一般人と変わらねぇよ」

「だったら春虎が家を復興させればいいじゃない!」

 

「俺にゃそんな大それたことできねぇし、その役割は本家にいる同い年の奴が適任だよ」

そういやアイツにも中学に入るころからほとんど会って無いな。確か最後に会ったのは十か月くらい前だったかそれも数年ぶりだったからな…どうしてるかなぁ。

 

その言葉に北斗がピクリと反応し、

「それって前に言ってた親戚の女の子のこと?」

「そうだよ。陰陽塾とかいう陰陽師育成学校に通っててさ天才だって噂もこっちに届いてるんだぜ。それに、もう土御門家の次期当主になることも決まってるんだ。アイツに任せとけば名門の家柄も安泰だよ」

 

 

それを聞いた北斗はイライラした様子で

「なにそれ?悔しくないの?」

「悔しいも何も格が違いすぎんだよ。少年野球の子がプロ野球選手に嫉妬するか?」

「…情けない」

 

「でもそんな天才が本家にいるおかげで俺には誰も変な期待持ってないんだよ。そういう意味じゃ気楽なもんだぜ」

これは俺の本音でもある。変に期待されるよりほっとかれるほうが気楽だ。

「……ほんとに?」

 

「…え?」

「ほんとに誰も春虎に期待してないと思ってるの?」

「だから、誰も…してないと…思ってる、けど…」

不意に頭の中に半年前の冬の光景が蘇る。

 

 

俺が一般の高校を目指すと決めたころのことだ。

俺を真っ直ぐに見つめる澄んだ瞳

その瞳に浮かぶ透き通った涙

―――『うそつき』―――

一瞬の白昼夢

 

「ねえ!春虎大丈夫?」

ハッと目を覚ますと北斗が俺の顔を心配そうな顔で覗き込んでた。

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

「無理すんなよ。熱中症かもしれんぞ?」

「いや、マジで大丈夫だって」

「…まあ、本人がそう言うなら良いが。なんにしても今日の進路相談はここまでだな。なに、分家の嫡男(ちゃくなん)さまはまだ高一だ将来はこれからだよ」

 

ここでようやくこの話題が終わりそうになった。

 

「プロを目指してる子は中学出たらすぐその道に入るっていうのに」

「プロ目指してる奴らと比べんなよ。それに俺は『見鬼』でもないんだぜ」

「でも…」

 

良し。もうひと押しといった所だな。

 

「それに春虎の今の成績じゃな…」

「…ああ」

「それで納得すんなよ!余計なお世話だ!」

 

いつも通り怒鳴る俺と大笑いする北斗、呆れた苦笑を浮かべる冬児。

俺はこの日常がいつまでも続くと思っていた。

しかし俺の日常はこの日を境に大きく変わっていくことになるのを俺はまだ知らなかった。

 




第二幕の投稿になります。

最近ぽっかりと予定に穴が開いてしまったので、次の投稿も近いうちに出来ると思います。

ネタ案・ダメだし・誤字脱字修正・常時募集中です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。