東京レイヴンズIF~大鴉の羽ばたき~   作:ag260

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第二十三幕 動き出す暗雲

 

~~side???~~

 

昼間にもかかわらずカーテンの閉め切られたマンションの一室に男性の話し声が聞こえる。

 

「昨日の事と良いやはりあの小僧は王に悪影響を及ぼしている」

「残念ながらそのようですね」

 

男は話しながら目の前にある段ボールに手を伸ばした。

その段ボールはガムテープではなく、呪符で封がされていた。

 

「やはり早急に対処しなくては」

「しかし、陰陽庁の動きも気になるところ」

「…あの男からの連絡はどうなっている?」

「今はまだ」

「そうか、ならば場合によっては…」

「…私はまだ自重していたいのですがね」

 

男は薄く笑いながら、段ボールの封を破り中から古そうな壺を取り出した。

 

 

 

 

 

~~side春虎~~

 

 

「ふあ~~~~」

 

今は陰陽塾の午後の講義。この講義の担当は大友先生だ。

俺は午後の講義特有の眠気から出る欠伸をかみ殺しきれずにいた。

 

昼休みに自分で持ってきた昼食以外に天馬が「兄貴!昼飯買っときました!」(周りから白い目で見られた)と持ってきたパンも食べ、満腹状態なので眠さに拍車をかけている。

 

「おいおい、春虎クン。欠伸ばっかせんとちゃんと講義聞いといてな」

「す、すいません」

「(は、春虎様。なな、なぜあんな男に謝罪など。ここ、このコンめに命をくだされば、あのような男すぐにでも討ちに――)」

「(そんなことはしなくて良い。だから静かにしてろ)」

 

 

俺の背後の何もない場所からコンの小さな声が聞こえた。

 

昨日の晩に現れてからコンは、「コンは護法ですので」と言って片時も俺から離れようとしない。

俺も健全な男子なのでいくら式神と言えど、少女の姿をしているコンとどこに行くも一緒と言うわけにはいかない。

 

 

交渉の末トイレと風呂の時はドアの前まで、授業など他の人の目につく時は隠形の術を使って静かにしている事を条件として取り付けた。

 

 

なのでコンは今、隠形の術を使って俺の後ろに控えている。

 

ここの生徒や講師は陰陽師なのでバレないか心配だったが今まで誰にも気づかれていないところを見ると案外コンは優秀なのかもしれない。

 

 

 

「しっかり講義は聞いといてや。キミは講師の間でも話を聞かんって有名なんやから」

「…すいません」

「でもまあ、転入してすぐに講義に着いて来いってのも無理な話かもしれへんな。陰陽塾(ウチ)のカリキュラムは基本、無駄があらへんし復習とかせぇへんからな」

「そうなんですか?」

 

結構シビアなんだな。

 

あの塾長がそんな方針を取るなんて意外だ。

 

「そやな~。転入生二人のためにも、ちょこっと前期のおさらいしよか」

「良いんですか?」

「ええて、ええて。みんなの前期の復習にもなるし」

 

それは助かる。今のままじゃ全然授業についていけないからな。

 

 

 

「ほなじゃあ、みんな教科書を少し戻して――」

「待ってください!!」

 

大友先生の話を遮って大きな声が教室に響いた。

声のした方に視線を向けると、その先には倉橋京子が立っていた。

 

 

「なんや?京子クン」

「たった二人のために、カリキュラムを曲げる気ですか!」

「いや、二人のためだけやあらへんよ?みんなの復習にも――」

「そんなものは、遅れていると自覚のある人が個人ですれば済む話です!遅れているという自覚すらない人のために、他の人が害を被るのはおかしいと思います!」

「俺一応、遅れている自覚はあるんだが…」

「じゃあ、あなたが個人的に復習すれば済む話でしょ!他を巻き込まないでと言ってるの!」

「…巻き込んだの俺じゃねーんだけど」

「同じことよ!あなたのせいで害を被るのだから!」

「そんなこと言われてもな…」

 

 

 

どうしたものかな、と思い大友先生に横目で聞いてみるが大友先生も肩を竦めてしまった。

ここまでヒートアップしてしまったら宥めるのは難しいらしい。

 

 

「土御門春虎。悪いけど私はあなたに、自主退塾を進めるわ」

「退塾?陰陽塾をやめろってか?」

「そうよ、昨日の講義から見ていたけどあなたがついて来れないのは一目瞭然。あなたみたいな才能の無い人が陰陽塾にいる事は――」

「そこまで!!」

 

ぴしゃりと鋭い声が教室に響いた。

声のした方向には大友先生が立っている。

 

い、今の声大友先生か?随分雰囲気が違うような…。

見れば、表情からもいつもの貼り付けたような笑みが消えている。

 

しかしそれも一瞬ですぐにいつもの表情に戻っていた。

 

 

「あかんで~、京子クン。同じ志の学友にそんなこと言っては」

「し、しかし!彼に才能が無いのは本当の…」

「いや、それも違うで。春虎クンも立派に陰陽師の才能をもっとるよ。春虎クンはな、陰陽塾の実技試験で夏目クンに迫る得点をたたき出したって聞いとるで」

 

 

そういえば、塾長もそんなこと言ってたような…。

大友先生の発言に教室中がざわめき始めた。

 

夏目も目を見開いて驚き、天馬からは尊敬のまなざしが飛んできている。

なぜコイツの好感度はすぐに上がってしまうんだ…。

 

「…し、信じられません!ならなぜ、講義の内容について来れないんですか!」

「信じられへんやろうけど、春虎クンは感覚で呪力を使ってるって事やな」

「そ、そんなことが…」

 

 

それってそんなにすごい事なのか?なんか自然とできてたんだが。

すると京子は俺の事をキッと睨みつけ、

 

「それでも信じられません!あんな男にそこまでの才能が――」

『そこまでだ。痴れ者』

 

 

 

教室に幼い少女の声が響いた。

 

「え?―――キャ!?」

 

声が聞こえた次の瞬間、京子が足払いを受けたように縦にひっくり返った。

……青のストライプか意外だな。

 

「厳命故に大人しくしておれば、わが主に対する暴言の数々。もはや看過できぬ!わが愛刀『搗割(かちわり)』の錆にしてくれる!」

 

ひっくり返って呆然としている京子の鼻先に小刀(搗割って凶悪な名前だなおい)を突き付けたコンが大見得を切っていた。

 

ってかあいつ普通にしゃべれるじゃねーか。

 

「おい、誰の式神だ?」「ってかあれ護法式じゃない」「いったいどこから」

 

コンの出現に教室が再びざわめき始めた。

誰の式神かは状況で分かりそうなものだが、みんな信じられないらしい。

 

まあ、俺も厄介なことに首を突っ込まず静観して「春虎様!この者、斬り捨てますか!」…無理だった。

俺の式神と言うことが分かって教室がさらにざわつく。

 

 

「…コン大人しくこっちに戻れ」

「なな、なぜですか!?この者は春虎様に対しあんな非礼を」

「良いから、戻るんだ」

「は、はい」

 

コンはしゅんとしながらも俺の命令通り、こちらに戻ってくる。

 

「こら驚いたな。護法式やないか。春虎クンのやろ?」

「は、はい。スイマセン。大人しくしとけって言ったんですが」

「ええて、ええて。健気な式神やないか」

 

良かった。どうやらお咎めは無いようだ。

 

「しかし、驚いたな。君が護法式持っとるとはな」

 

護法式?さっきからちょくちょく聞くけどなんなんだ?

そう言えばコンも最初に、俺の護法だとか言ってたような。

 

大友先生はコンをじろじろ見ながら何やら「術式が今の汎式とはずいぶんちゃうな」「これは…封?」「さすがは土御門ってとこか」など良く分からないことを呟いている。

 

まさか!大友先生は『ロ』で始まって『ン』で終わる変態か!?

 

 

 

しかし気づけば大友先生だけでなく周りの視線も違うものに変わっていた。

 

ん?なんだ、みんな驚いてる?

 

「『白桜(はくおう)』!『黒楓(こくふう)』!」

 

今まで呆然としていた京子が我に返り、なにやら名前を叫ぶと京子の背後に白と黒の騎士の甲冑の様な二体の式神が現れた。

 

二体の式神はそれぞれ、白い方は日本刀、黒い方は薙刀を持っている。

 

「良くもやってくれたわね」

「あ、いや、コンが暴走した件なら謝るよ。スマン」

「式神を御し切れないのは主人の責任よ!」

「分かった!とにかく謝るから――」

「春虎様!このような女に謝ることはありません!」

「だああああ!黙ってろコン!」

「言ってくれたわね!良いわよ。やってやろうじゃないの」

「お前も簡単に乗せられるなよ!」

 

コンと京子が臨戦態勢に入る。それを見て周りの生徒は巻き添えを食ったら堪らない、とばかりに俺たちから距離を空ける。

 

視界の端に夏目と冬児が慌ててこちらに駆け寄ろうとしているのが見えたが、このタイミングだと間に合わないだろう。

 

 

もうバトルは避けられないと思ったその時、

 

 

「よっしゃ!分かった!」

 

大友先生の快活な声が場の剣呑な空気を割った。

 

「やる気元気は大いに結構!皆も半信半疑な春虎クンの実力を確かめるいい機会やろ」

「ど、どういう事ですか?」

 

いまいち大友先生が何をしようとしてるのか分からない。

京子を止めてくれるんじゃないのか?

 

「今日の講義はこれで最後やしちょうどええな。二人とも呪練場に移動や」

「先生…まさか」

「そや、今から二人には式神勝負をしてもらおか」

 

どうやら俺の学園生活は、『平穏』の二文字からは無縁らしい。

 

厄介な事態にしてくれた大友先生。

 

やってやろうじゃない、と息を巻く京子。

 

面白そうな事態にニヤニヤしている冬児。

 

兄貴頑張って下さい、と応援してくる天馬。

 

どうしたら良いのか分らずおろおろする夏目。

 

それらの面子を見て俺はため息しか出なかった。

 

 

 


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