にじファン時代の物に少しながら加筆修正を加えております。
もう何年も昔の話---
少年は分家の息子。
少女は宗家の一人娘だった。
少年の名は
少女の名は
二人はいつも一緒に遊んでいた。
やんちゃで行動的な春虎と大人しく人見知りの激しい夏目。
二人が遊ぶときはいつも春虎が先を行き、その後を必死に夏目が付いて行くと言うのが通例だった。
そんな二人の遊び場は本家の広大な庭だった。
広大な庭の中には、竹林や池、石灯籠、築山があり幼い二人には冒険と驚きに満ちていた。
しかし、夏目は二人で遊んでいると急に怯えた様子になり、春虎の後ろに隠れることがあった。
そして春虎にしがみつきながら目に涙をためて
『なにかいる』
と春虎に訴えかけるのだ。
しかし、春虎が夏目の言う方を向いても何も見えない。
春虎はそれを初め、怖がりな夏目の勘違いだと思っていた。
春虎がなにも居ないと言っても、夏目は怯え、春虎の後ろに隠れるのをやめない。
そんな事が何回も続いた。
そしてある日、同じように春虎の後ろに隠れる夏目に対して春虎は、
『そんなに怖いなら、大人たちと一緒に居なよ。ぼくはひとりで遊ぶから』
と少し突き放すような口調で言った。
すると夏目は、泣きそうだった表情を無理やり笑顔に変えて春虎と一緒に遊び続けた。
その翌日だった。
春虎は両親から、夏目は『視える人』だと言う事を教えられた。
今まで夏目が『なにかいる』と怖がっていたのは、春虎には視えない『なにか』を見ていたせいだった。
それを聞かされた春虎の胸には幼いながらにも罪悪感が生まれた。
そしてすぐに春虎は夏目に謝った。
『ゴメンね』
夏目が、もう良いよ、と言っても春虎は頭を下げ続けた。
そして、その後こう言った。
『ぼくには怖い物が視えない。視えないから怖くないんだ。だから、ぼくがなつめちゃんを怖い物から守ってあげるよ』
春虎のセリフを聞いた夏目は、顔を急に真っ赤にしてもじもじしながら
『わたしのシキガミになってくれるの?』
と言った。
『シキガミ?なにそれ?』
『わたしも知らない。でも、わたしの側にずっといてくれて、わたしをずっと守ってくれるっておばあちゃんが言ってた』
『そうなの?』
『うん。それに、はるとらくんのおうちは『しきたり』でわたしのおうちのシキガミになる事が決まってるんだって』
夏目の言った言葉に、再び春虎は首を傾げる。
『しきたり?』
『はるとらくんのおうちと、わたしのおうちで結んだ約束のことだって』
『え?でも、ぼく知らないよ?』
『でも、そうなんだもん。そういう『しきたり』なんだもん』
夏目は普段出さない大声を出して言った。
そして、
『やっぱり、わたしのシキガミになるのは嫌?』
と、瞳に大粒の涙を溜めて言った。
春虎は夏目が泣いてしまう、と焦ったが夏目は泣かずに、瞳に涙を溜めつつも、春虎の事を強いまなざしで見つめていた。
幼いながらにも、力強い意志を秘めたその瞳に春虎は魅かれた。
そして、その瞳に惹かれるままに春虎は答えた。
『いいよ。ぼくがなつめちゃんのシキガミになって、ずっと守ってあげる』
『ほんとうに?じゃあ、約束して?』
夏目はおずおずと自身の小指を突き出す。
春虎もそれに小指を絡める。
夏目は春虎の小指が絡まるのを見ると、唄を唄いだす。
二人が
お互いの指が離れた時、夏目の表情は目を奪われるほどの笑顔だった。
夏目の笑顔を見て、春虎も笑顔になる。
それからというもの、二人はそれまで通りに遊び始めた。
夏目が怯える素振りを見せると、春虎は両手を振り上げ勇ましい声と共に夏目が差す場所に向かった。
夏目を何者からも守るために。
―――これはもう何年も昔の話。
幼い春虎が「将来」と言う意味をまるで理解していなかった頃の話。
とりあえず、書き終わっている分までは週一辺りのペースでこれから投稿していきます。
なにとぞ、こちらでもよろしくお願いします。